2025.962機械加工でできあがった金型の駒を調整する。顕微鏡をのぞきながら、サンドペーパーを当てて竹べらでこすりながら削り、ミクロン単位の調整を行うための凹凸のある「駒」と呼ばれる金型部品を調整して組み込むのが及川さんの役割だ。及川さんが特に評価されているのは、電気自動車の部品に用いるバスバー※電極端子生産用のインサート成形の金型の製造技能。インサート成形とは、金属部品と樹脂を一体成形する方法のことだ。金型の駒は、NC(数値)制御の工作機械で形をつくったあと、及川さんが手作業で細かい調整を行い、数十種類の駒を金型に組み込む。その際に求められるのが、ミクロン単位での調整だ。「最新の機械を駆使してつくっても、最後は手作業で調整しないと、金型として組み込めません」例えば、インサート用バスバーを製作する工程で金属を曲げると、その部分にわずかな膨らみが生じる。その膨らみが原因で成形のときにそのまま金型をセットすることはできないため、顕微鏡越しにヤスリなどで金型を削って調整する。この精度が、できあがる部品の品質を左右する。「これくらいでいけたかな、と思ったところで測ってみると、だいたい合っています。機械で調整すると、手作業よりも時間がかかってしまいます。ですから、機械化が進んだ現在でも、最終的には人の手をかけないといけないのではないかと思っています」手作業で身につけた匠たくみの技と感覚及川さんは中学校を卒業後、職業訓練校の機械科で学んだ後、大手企業に就職。しかし体調を崩し、入院先で知り合った人の紹介で金属加工の会社に入社した。そこで、樹脂金型の仕事に出合う。「溶かした樹脂を流し込んで形ができる射出成形におもしろさを感じました」当時の町工場には高価なNC制御の機械はなかったため、一から「成果物がうまくできたときの喜びを、若い世代にも知ってもらいたい。その感覚が身につけば、仕事への関心が深まり、技能も上達できます」※ バスバー……大容量の電流を流すための導体
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