エルダー2025年9月号
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エルダー63「面倒くさがって簡単にやってしまうと、そのまま仕事を覚えられなくなってしまいます」若い世代に感じるのは、技術面よりも仕事に興味を持ってもらうことのむずかしさだという。「この仕事のやりがいは、うまくできたときの喜びです。若い人たちにも、その喜びを感じてもらいたい。そうすれば、仕事にもっと興味を持てるようになるはずです」成果物への関心が薄い若い世代との感覚の違いを感じながらも、ものづくりの本質的な喜びを伝えようと努めている。「人生は仕事と切り離せません。体が動くかぎり、好きな仕事を続けたいと思っています」70代になっても現場で働き続け、次世代への継承に取り組む姿勢は、日本のものづくりを支えてきた職人の心意気そのものである。株式会社クライム・ワークスTEL:03(3742)0691https://www.climbworks.co.jp(撮影・羽渕みどり/取材・増田忠英)手作業で金型をつくっていた。技能は先輩の作業を見つつ、自分でやりながら覚えていった。「いまとは違い、徹夜もあたり前でしたが、ものができあがると、ほんとうにうれしかったですね」いくつかの会社に勤め、株式会社クライム・ワークスに入社したのは67歳のとき。長年にわたる経験でつちかった技能が高く評価された。ものづくりの喜びを若い世代に伝えたい同社における後進の育成、技能の継承も及川さんの大切な役割だ。「私が覚えたことは惜しみなく教えます。昔は『盗んで覚えろ』といわれましたが、それはいまの若者には合わないでしょうから」マンツーマンで指導しながらくり返し伝えているのは、手を抜かないことの大切さだ。熟練の技能を持つ及川さんにとって、後進の育成も役割の一つ。現物を見ながら、マンツーマンでていねいに教える金型を製造するために金属を切断、加工する機械が並ぶ。ここで加工したものを磨き、0.01〜0.02ミリ単位で調整するのが及川さんの仕事だ金属の周囲に樹脂を流し込んで一体化させるインサート成形は、さまざまな部品製作に用いられている(写真提供:株式会社クライム・ワークス)及川さんが得意とするインサート成形用の金型は、EV(電気自動車)、FCV(燃料電池自動車)などのパワートレインやモーター関連の部品開発にも不可欠な技能だ(写真提供:株式会社クライム・ワークス)同じ職場で働く若手技能者のみなさんと。ベテランでありながら謙虚な及川さんは、後輩たちからとても慕われている金型をミクロン単位で調整するために使用するヤスリや竹べらなどの道具。竹べらはサンドペーパーで細部を削りやすいように手づくりしたもの(写真提供:株式会社クライム・ワークス) vol.355

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