エルダー2025年10月号
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2025.102慶應義塾大学大学院経営管理研究科 講師、山形大学 客員教授、KIパートナーズ株式会社 代表取締役社長岩本 隆さん技術を駆使し、研究を担当した学生が最終的に修士論文にまとめたのですが、これに大きな反響がありました。その後、自社の人事データを分析してほしいという依頼が殺到したのですが、私も手が回らないので民間企業による「HRテクノロジーコンソーシアム」を立ち上げました。そして2015年4月に慶應義塾大学の日ひ吉よしキャンパスで開催したHRテクノロジーシンポジウムを契機に、HRテクノロジーという言葉が日本で広く知られるようになったのです。さらに2016年10月には、私が審査委員長を務めた「HRテクノロジー大賞」の授賞式をきっかけにメディアでも注目され、経済産業省の「働き方改革2・0」と呼ぶ生産性革命の一つにHRテクノロジーが産業政策としても取り上げられることになりました。―HRテクノロジーの具体的な活用例ではどのようなものがありますか。岩本 例えば、勤怠管理のためのタイムカー―人事管理や人事業務の効率化のための「HRテクノロジー」が注目を集めています。そもそもHRテクノロジーとはどのようなものなのでしょうか。岩本 HRテクノロジーとは、人事の業務にテクノロジーを活用する手法であり、人事データを使った情報通信システムのことです。アメリカでは2000(平成12)年前後に「HR TECHNOLOGY」、「HR TECH」が、商標登録されています。初期のころは、勤怠管理や給与計算業務などのシステムが多かったように思います。2010年代になると、AIの進化により人事のさまざまなデータが分析できるようになり、飛躍的に発展していきますが、それでも日本ではあまり知られていませんでした。 私が慶應義塾大学のビジネススクールで経営学の研究をしていた2012年に、民間企業から資金提供を受けて、人材マネジメントの研究に着手しました。スポンサー企業から人事データを提供してもらい、統計学やAIドをオンラインで管理したり、最近ではパソコンのオン・オフで出退勤を管理する会社もあります。また、個々の社員が持つスキルや経験、人事評価などの人事情報をデータベース化し、育成・異動・配置に活かすタレントマネジメントシステムも普及しています。 いま、世界的に流行しているHRテクノロジーの一つが、従業員エンゲージメントの測定です。「エンゲージメント」とは、職場や会社で働くことに価値を感じ、自ら貢献する意思を持って働いている状態をあらわすものですが、クラウドアプリ上で定期的にエンゲージメントを測定し、AIを使って分析するサービスがあり、エンゲージメントを高めるのに有効です。また、コロナ禍で増えた1on1ミーティングツールなども伸びています。上司が部下に対して一方的に話をするのではなく、部下がどんなことを話したいかをチェックし、ミーティング終了後に良かった点、悪かった点などのデータを集積し、改善につなげるものです。リモートワーク中のメンバーの業務の進捗状況などを把握するタスクマネジメントのツールなどもあります。大企業の人事部のなかには、従業員からのさまざまな問合せに対し、生成AIの機能を使い自動で回答するチャット勤怠管理からエンゲージメントの測定まで進化するHRテクノロジー

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