クラフティングの核心を突いた説明をしていますので、紹介します。「いまの仕事には、きっともうひとつの方法がある」という発想は、まさにジョブ・クラフティングそのものです。与えられた仕事をそのまま受け取るのではなく、自分なりの工夫を加えることで、同じ仕事がまったく異なる意味や魅力を帯びることがあります。ここで重要なのは、どのような仕事にも「A面」と「B面」があるという点です。A面とは自分が本当にやりたいこと、B面とはできれば避けたいと思うことです(一田、2015)。多くの人はB面の存在に目を奪われがちですが、ジョブ・クラフティングを通じて、B面の仕事をA面に近づける工夫を行うことが可能です。例えば、単調に思える事務作業でも、顧客にとっての利便性を意識したり、同僚との連携の場として活用したりすることで、新たな意味づけが可能になります。さらに、「『いい仕事』の定義を自分で決めてよい」(一田、2015)という視点は大きな転換点になります。従来は「上司や会社が評価する基準」が仕事の良し悪しを規定していました。しかし、自分自身が「このやり方は自分らしい」、「この工夫は価値がある」と実感できれば、それがその人にとっての「いい仕事」となります。この主体的な解釈が、働きがいの源泉第3に、経営・人事課題への解決策としての期待です。日本企業の従業員のエンゲイジメントは、国際比較調査においてもつねに最低レベルに位置しています。エンゲイジメントは「仕事に対するポジティブで充実した心理状態」を意味しています。日本企業の従業員は海外と比べ、仕事にポジティブな心理状態にはなく熱意が不足していることを多くの調査は示唆しています。そのため、多くの企業でエンゲイジメントの向上が経営・人事課題として取り上げられています。近年、その解決策として、ジョブ・クラフティングの実践を試みる企業が増えてきました。あるいは、健康経営といった課題にもジョブ・クラフティングは有効なアプローチとして期待されています。なぜならば、ジョブ・クラフティングの実践により仕事と自分のミスフィット感を軽減できたり、仕事に意義を見つけることができるようになり、それがメンタルヘルスの維持・向上につながるからです。ジョブ・クラフティングはジョブ・クラフティングは巷にあふれている巷にあふれている6ジョブ・クラフティングの考え方は、じつは私たちの日常の働き方や意識のなかにすでに広く浸透しています。一いち田だ(2015)★4がジョブ・クラフティングという言葉を使わずに、ジョブ・となり、長期的なモチベーションを支えるのです。また、「やりたいのにブレーキを踏んでいるのは自分自身」(一田、2015)という言葉は、ジョブ・クラフティングに取り組むうえでの心理的障壁を端的に表しています。自分にしかできない工夫や、自分らしい働き方を形にすることは、往々にして周囲との摩擦や評価への不安をともないます。しかし、勇気を持って一歩踏み出すことで、仕事は「他ひ人と事ごと」から「我が事」へと転換し、働く意味が大きく変わっていきます。シニア社員とシニア社員とジョブ・クラフティングジョブ・クラフティング7筆者が特に関心を持つのは、シニア社員におけるジョブ・クラフティングの重要性です。シニア社員は豊富な経験や知識を持ちながらも、加齢にともなう身体的制約や組織内での役割縮小に直面することがあります。こうした状況において、ジョブ・クラフティングはキャリアを持続的に発展させる有効な手段となります。例えば、シニア社員が自身の専門知識を若手に伝授することは、単なる業務遂行を超えた「教育者」としての役割を見出すことにつながります。また、社外のネットワークを活用して新たな活動を始めることで、セカンド・キャリアを2025.1048
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