れが同一労働同一賃金に反するものではないか(合理的な裁量の範囲内であるか)などが争われました。労働者からは、定年前の賃金と継続雇用後の賃金の差額の支払いを求め、理由としては、継続雇用の契約を締結したものの、その賃金について定年前と同額で合意したと主張しており、使用者は、勤務形態を変形労働時間制から時間単位の勤務とし、賃金の計算方法を時給に変更(変更後は定年前の30%から40%が目安)したうえで提示しており、当該条件にしたがうべきと反論していました。使用者からは、書面を用いて継続雇用後の労働条件を説明したものの、労働者はこれに応じるとは回答せず、再雇用契約書には署名押印をしていませんでしたが、定年退職後も使用者から指定される時間に勤務する状況が続いていました。原告は、変更の合意がないかぎりは従前の労働契約が継続しているという趣旨の主張をしていましたが、裁判所は、「原告と被告との間の再雇用契約は、それまでの雇用関係を消滅させ、退職の手続をとった上で、新たな雇用契約を締結するという性質のものである以上、その契約内容は双方の合意によって定められるもの」として、定年退職前の労働契約は終了していることを前提とした判断をしています。また、提示した労働条件が同一労働同一賃金について定めた規定(当時の労働契約法20条)に違反するものではないかという点については、業務の内容や責任の程度に関連して、「定年前は専任講師であったのに対し、定年後の再雇用においては時間講師であり…勤務内容についてみても、再雇用契約に基づく時間講師としての勤務は、原則として授業のみを担当するものであり、例外的に上司の指示がある場合に父母面談や入試応援などを含む生徒・保護者への対応を行い、担当した授業のコマ数ないし実施した内容により、事務給(時給換算)が支給されるもので…再雇用契約締結後は、時間講師として、被告が採用する変形労働時間制の適用はなく、原則は、被告から割り当てられた授業のみを担当するもの」と判断し、業務の内容および責任の程度に差があることを認め、「定年退職後の再雇用契約と定年退職前の契約の相違は、労働者の職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して不合理であるとはいえず、労働契約法20条に違反するとは認められない」と結論づけました。変形労働時間制の適用を受けなくなることが考慮されていることは、特徴の一つであり、労働時間制度の変更が業務内容や責任の程度の差異として評価されることは参考になります。九州惣菜事件(福岡高裁平成29年9月7日判決)においても、継続雇用時の労働条件の提示が合理的な裁量の範囲内であるかが争点とされました。この事案では、「有期労働契約者の保護を目的とする労働契約法20条の趣旨に照らしても、再雇用を機に有期労働契約に転換した場合に、有期労働契約に転換したことも事実上影響して再雇用後の労働条件と定年退職前の労働条件との間に不合理な相違が生じることは許されない」ことを前提として、「フルタイムを希望したのも、長時間労働することが目的ではなく主に一定額以上の賃金を確保するためであると解される。…本件提案の条件による場合の月額賃金は8万6400円(1カ月の就労日数を16日とした場合)となり、定年前の賃金の約25パーセントに過ぎない。この点で、本件提案の労働条件は、定年退職前の労働条件との継続性・連続性を一定程度確保するものとは到底いえない。したがって、本件提案が継続雇用制度の趣旨に沿うものであるといえるためには、そのような大幅な賃金の減少を正当化する合理的な理由が必要である」としており、労働者の意に沿わない条件の提示に対して厳しい判断がなされています。正当化する合理的な理由を判断するにあたって、「担当業務の量が本件提案において大幅に減ったとまではそもそもいえないこと…定年退職を機にその担当業務を本件提案の内容に限定するのが必然であったとまではいえないこと」を考慮して、「本件提案によった場合の労働時間の減少…が真にやむを得ないものであったと認めることはできない。そエルダー51知っておきたい労働法A&Q
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