エルダー2025年10月号
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うすると、月収ベースの賃金の約75パーセント減少につながるような短時間労働者への転換を正当化する合理的な理由があるとは認められない」と結論づけました。賃金など労働条件の引下げについては、同一労働同一賃金による規制もふまえて、業務の内容や責任の程度の変更を意識しつつ、定年前と比較した労働条件の不利益な変更に見合うだけの合理的な理由が求められることに注意が必要です。や身の回りの整頓のみを行わせるなどして、会社の業務に従事させないようにした場合には、賃金請求権は発生しないとされています。他方で、試し勤務中に会社の業務を命じて遂行させた場合には、仮に休職期間中は無給とする旨を就業規則で定めていた場合でも、賃金請求権は発生すると考えられています。指揮命令下における業務遂行の有無によって判断が分かれることになります。そもそも休職とは2休職とは、労働者を就労させることが不適切な場合に労働契約関係を存続させつつ就労を免除または禁止することをいうとされています。このうち、労働者が就労不能となってもただちに解雇せずに一定期間の欠勤を認めるものを傷病休職といいます。メンタルヘルス不調での休職もこれにあたります。休職の趣旨は、解雇の猶予にあるといわれることもあります。労働契約は、労働者が使用者に対して労務を提供する義務を負い、他方で使用者が労働者に対して賃金を支払う義務を負う、いわゆる双務契約と呼ばれる契約類型になります。そのため、労働者が心身の不調をきたしてしまった結果、労務提供をできない状態というのは、法的には、労働者に債務不履行(契約違反)がある状態となり、契約の解消事由(解雇事由)を構成することにな従業員は、復職の可否の判断に際して会社に協力する義務を負います。そのため、試し勤務を命じる必要性・合理性があり、従業員において試し勤務を拒否すべき合理的な理由がない場合には、従業員は試し勤務命令を拒否できないと考えられます。A休職していた従業員が、復職に向けた試し勤務を拒否しています精神疾患で長期休職していた従業員が復職を希望しています。会社としては就業規則の規定にしたがって従業員に試し勤務を指示したところ、従業員が試し勤務を拒否しています。拒否は許されるのでしょうか。Q2試し勤務について1近年、メンタルヘルスの不調によって休職する労働者が増加しているとされています。実際、厚生労働省の「労働安全衛生調査」によれば、過去1年間でメンタルヘルスの不調で休職した労働者がいる事業所の割合は、2022(令和4)年の10・6%から、2023年は13・5%へと上昇しています。メンタルヘルスの不調による休職は、ほかの疾病に比して、復職の可否の判断、すなわちメンタルヘルス不調が回復しているかどうかの判断がむずかしいとされています。そこで、会社においては、試し勤務(「試し出勤」、「リハビリ勤務」、「トライアル勤務」などと呼ばれることもあります)の制度が用いられることがあります。試し勤務中の賃金請求権の有無については、試し勤務の実態に応じて判断されることになります。すなわち、試し勤務中は、読書2025.1052

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