ります。もっとも、ただちに債務不履行に基づく労働契約の解消を行うのではなく、労働者を一定期間休ませることにより心身の不調の回復の機会を設けるということです。そのため、通常、休職期間は永久に続くものではなく、就業規則上、在籍期間や疾病の種類に応じて一定の期間に限定されています。そして、就業規則においては、休職期間満了時に復職できない場合には自然退職となる旨の規定が置かれていることが一般的です。そのため、メンタルヘルス不調による休職の場合、休職期間満了時までにメンタルヘルスの不調が回復しない場合には、自然退職として処理することが検討されることになります。復職判断の基準について3休職期間の満了が近づいたり、従業員から復職の申出があれば、会社は復職の可否を判断することとなります。復職の可否は会社が判断する事項であるところ、各会社の規定や運用にもよりますが、一般的には、主治医との面談、産業医の診察結果、試し出勤の結果などを考慮して判断することになります。復職の可否は、疾病が「治癒」しているか否かによって判断されることになります。治癒とは、従前の職務を通常程度に行える健康状態に復したことをいうのが原則ですが、それに至っていない場合でも、相当期間内に傷病が治癒することが見込まれ、かつ、当人に適切でより軽易な作業が現に存在する場合には、使用者は傷病が治癒するまでの間、労働者をその業務に配置するべき信義側上の義務を負い、このような配慮をせずに労働者を解雇または退職とした場合には、解雇または退職が無効と判断される可能性があります。そのため、会社としては、従業員が従前の職務を通常行える程度の健康状態に回復していない場合であっても、従業員に治癒の可能性がある場合には、従事させることが可能な軽易な業務がないかといった点に関して、慎重に検討する必要があります。従業員における会社の復職判断への協力義務4上述の通り、会社としては、①従前の職務を通常程度に行える健康状態に復したかといった点だけでなく、②復していないとして、相当期間内に傷病が治癒する見込みがあるか、③見込みがあるとして当人に適切な軽易な業務がないかといった点までも判断する必要があります。そのためには、会社は、従業員の状態を正確に把握することが必要です。それでは、従業員には協力義務はあるのでしょうか。日本硝子産業事件(静岡地裁令和6年10月31日判決)は、「復職の要件である治癒とは、原則として、従前の職務を通常の程度に行える健康状態に回復したときを意味し、それに達しない場合には、ほぼ平癒したとしても治癒には該当しない。もっとも、当初、軽作業に就かせれば、ほどなく通常業務に復帰できる場合には、使用者に、そのような配慮を行うことが義務付けられる場合もあるというべきである」としたうえで、「治癒の認定手続きが就業規則に定められていなくても、治癒の主張をする労働者には、会社による治癒の認定ができるように協力する義務があると解すべきである」として、労働者における会社の復職の可否の判断についての協力義務があることを判示しています。また、同裁判例は、従業員が試し勤務を拒否したことについて、「長期間にわたって休職したことが認められ、試し勤務を命じる必要性や合理性はあったものと認められる。被告の(試し勤務の給料を…最低賃金…とする)提案は、暫定的なものであったことなどからすると、会社の提案を理由に、甲による試し勤務の拒否を正当化することはできない。甲は、正当な理由なく、会社による治癒の認定ができるように協力する義務を怠ったものであるから、休職から復職させなかったことについて、被告の債務不履行又は不法行為が成立するとはいえない」と判示しています。したがって、試し勤務を命じる必要性・合理性があり、従業員において試し勤務を拒否すべき合理的な理由がない場合には、従業員は試し勤務命令を拒否できないと考えるべきでしょう。エルダー53知っておきたい労働法A&Q
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