エルダー2025年10月号
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2025.104ですが、大企業の下請け業務が外国に流れ、いまは減少しつつあります。取引先にいわれたことをまじめにやっているだけでは、仕事がなくなるという事態になりかねません。そういう意味では、従業員一人ひとりが、自律的に考えて動き活躍できる環境をつくっていくことが大切です。そのために、会社としてすべきことを経営陣が議論し、明確化することが一番の肝になります。明確になれば取り組むためのテクノロジーはたくさんありますし、そのなかから最適なものを選んで活用していけばよいと思います。 私が具体的な取組みとして推したいのは、公平な人事評価の仕組みの導入と従業員エンゲージメントの測定です。公平な人事評価の仕組みとは、業績評価と成長評価を軸に従業員の評価の納得性を高めるとともに、本人の成長をサポートするもので、人事評価のクラウドアプリに人材の成長をうながす機能や、業績評価とコンピテンシー評価のテンプレートなどが活用できるサービスもあります。エンゲージメントの測定は、ツールごとに測る項目が異なります。従業員が会社や組織に対してどう思っているのか、周囲の人間関係、あるいは会社の福利厚生など人事諸制度についてどう思っているかを測定し、何がボトルネックになっているかを明らかにすることができます。―人手不足のなかで、多くの企業がシニア世代を戦力として活用していくことが求められています。HRテクノロジーをどのように活用すればよいでしょうか。岩本 一つはHRテクノロジーを使ってシニア世代の持つスキルや経験を見える化することです。シニア社員が社会人としていままでつちかってきたものを棚卸しする機会を設定し、個々の経験をデータ化し、見える化すれば「この人はこんなことができるんだ」ということがわかります。「令和の時代に昭和のやり方は通用しない」という人もいるかもしれませんが、シニアの経験のなかには、令和のいまでも活かせる重要なヒントやアイデアがあるはずです。言語化するのがむずかしい職人的なスキルも、いまはVRなどの動画にすることで学習することができます。 もう一つは、シニア自身に、リスキリングによりHRテクノロジーを修得してもらうことをおすすめします。テクノロジーの進化とは、ユーザーがそのテクノロジーを使いやすくなることであり、修得のハードルが下がるということでもあります。いまや「ノーコード」で、プログラミングスキルがなくてもアプリがつくれる時代です。中小企業でも社内で数百のアプリを開発し、業務の効率化を図っている会社がありますが、シニア世代ほど会社や業務の中身に精通しているので、会社の課題をふまえたアプリ開発ができるそうです。AIなどのテクノロジーは若者の技術と思われがちですが、若い人はデジタル技術は扱えても、会社の業務に関してはシニアのほうが豊富な知識と経験を持っていますし、シニア自身がテクノロジーを修得し活用する意義は大きいと思います。(インタビュー・文/溝上憲文 撮影/中岡泰博)会社の業務に精通したシニア人材がHRテクノロジーを修得する意義慶應義塾大学大学院経営管理研究科 講師、山形大学 客員教授、KIパートナーズ株式会社 代表取締役社長岩本 隆さん

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