エルダー2025年10月号
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2025.1062造形用のモルタルを平らに塗り、その上に木目を描く「擬木」。コテを使って手際よく仕上げていく(63ページ左上の写真が完成した姿)壁面には、落下防止のための安全対策として、モルタルをピンでコンクリートに定着させ、ネットで補強する「ピンネット工法」が用いられたが、その上に漆喰を塗るのは初めての経験で、現場での作業の段取りも大変だったという。「全国左官技能競技大会」での優勝経験も1957(昭和32)年創業の吉村興業は、一般的な左官工事から石せっ膏こう装飾や擬木・擬岩などの造形まで幅広く手がけ、「全国左官技能競技大会」の優勝者を多数輩出している。代表取締役の吉よし村むら誠まことさんは須森さんについて、「当社で一番のベテランであり、長年にわたり技術面のトップとして、若手職人の技術指導もになっています」と話す。須森さんは山梨県出身。中学校を卒業後、親のすすめで吉村興業に入社した。「先代の親方(吉村弘ひろしさん)が同じ山梨県出身で、同郷の先輩たちも働いていたので、楽しそうだなと思い、就職を決めました」最初の仕事は、現場でモルタルなどの材料を練ること。初めのうちは重くて1人では持てなかったという。体力仕事に苦労しながらも、左官の奥深さに少しずつ魅力を感じるようになっていった。「左官は壁塗りだけかなと思っていたんですが、親方は石をつくったり、木もく目めを描くなど、いろいろな仕事をしていたので、『セメントと砂を練ったものがこんな形になるんだ』と、仕事が次第におもしろくなっていきました」後に「現代の名工」や黄おう綬じゅ褒ほう章しょうを受賞する吉村弘さんに付いて、さまざまな現場を経験し、その仕事ぶりをまねしながら、技術を身につけていった。須森さんが親方から仕事を任されるようになったのは30歳のころ。そのころ、親方にすすめられ「住宅や商業施設から文化財まで、さまざまな現場で、モルタルから漆喰、石膏まで多様な材料を使いこなせるのが、左官の仕事の魅力です」

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