エルダー2025年11月号
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また、あるシニア社員が他部署の仲間との昼食会を企画し、部署横断的なつながりを広げた事例もあります。若手からは「横のつながりができて相談しやすくなった」と好評で、本人にとっても「人の輪をつなぐことが自分の仕事」と再定義するきっかけとなりました。仕事のとらえ方を変える仕事のとらえ方を変える【認知的クラフティング】【認知的クラフティング】5シニア期に入ると、仕事の意味づけを見直すことが必要となります。ある病院の清掃員は、自分の仕事を「単なる清掃」ではなく「医療行為を支える大切な役割」ととらえ直しました。その瞬間から仕事に誇りを持ち、笑顔で取り組めるようになったといいます。同じように、再雇用社員が「自分は会社に再び所属している」、「次世代へ知識を継承している」と考えることで、日々の業務に意味を見いだすことができます。逆に、仕事に比重を置きすぎず「仕事は生活の一部」と考えることも、心のゆとりを保つ工夫の一つです。また、別の会社で清掃業務を担当する再雇用社員は、単なる掃除ではなく「職場を快適に保つことで働く人を支える仕事」と考えるようにしました。視点を変えることで、日常の業務に誇りを感じられるようになり、「単調な作業が自分の役割を表す大切な仕事」へと変わりました。の事例です。若宮正子さんは60代からパソコンを独学で学び、80代でシニア向けスマートフォンアプリ「hinadan」を開発しました。ITを通じた社会参加の新しい形を体現し、高齢になってからでも学び直しや挑戦は可能であることを世に示しました。人との関係の工夫人との関係の工夫【関係性クラフティング】【関係性クラフティング】4人間関係の工夫も重要です。例えば、会議で若手の発言を尊重し、自分はサポート役に回るシニア社員の姿勢は、職場によい空気を生みます。一方で、自分の知識や経験を積極的に若手に伝えることも大切です。ある企業では「メンター制度」を通じてシニアが若手を育て、逆に若手からデジタル技術を学ぶ「リバース・メンタリング」も実施されています。こうした関係性の工夫によって、世代を超えた学び合いが生まれ、シニアの存在感も高まります。別の職場では、シニア社員が毎朝「おはよう」、「昨日はどうだった?」と声をかけるようにしました。小さなきっかけでしたが、若手からは「気にかけてもらえて安心する」という声が出るようになり、チームの一体感が強まりました。シニア社員は大きなプロジェクトを任されなくても、日常の人間関係を調整する役割として存在感を発揮しています。な「安全点検のチェックリストづくり」に取り組みました。現場の知恵を活かした工夫は若手にも重宝され、「自分だから気づける仕事がある」としてやりがいを感じるようになりました。また、体力が落ちてきたと感じたシニア社員が、自分の仕事量を調整し、重点的に得意分野を担当させてもらうよう上司に相談した例もあります。これは縮小的クラフティングと呼ばれ、無理をせず長く働き続ける工夫です。次に、長年営業として活躍してきたシニア社員が、再雇用後は顧客訪問よりも資料作成や後輩の提案書添削に役割をシフトした事例もあります。シニア社員にとっては外回りの体力的な負担が減り、一方後輩社員はベテランのノウハウを吸収できるという、双方にメリットのある一挙両得のジョブ・クラフティングとなりました。ITに苦手意識を持つシニア社員が、あえてオンライン研修に参加し、会議用のデジタルツールの操作方法を学びました。その結果、若手に頼らず自分で資料共有ができるようになり、「時代についていける」という自信が回復しました。本人は「もう年だから」とあきらめずに挑戦したことが、周囲にもよい刺激を与えました。こうした姿勢を象徴するのが、世界最高齢のプログラマーとして注目を集めた若わか宮みや正まさ子こさんエルダー49ジョブ・クラフティング入門

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