ながら実践することで、ジョブ・クラフティングはより健全で持続的な効果をもたらすのです。おわりにおわりに8これからの時代、シニア社員のジョブ・クラフティングはますます重要になります。AIやICTの普及によって新しい学びが求められる一方、地域活動や副業を通じて社会とのつながりを広げる機会も増えていきます。「年を取ったから役割が減る」のではなく、「年を重ねたからこそできる工夫がある」と考えることが大切です。組織にとっても、シニアの工夫を支援することは、人材不足を補い、職場全体を元気にする力となるでしょう。本稿で紹介した事例に共通するのは、大きな変革ではなく、小さな工夫や心がけが仕事の意味ややりがいを大きく変えるという点です。シニア社員にとってジョブ・クラフティングは、加齢による制約を受け入れつつ、経験や人間性を活かして新しい役割を生み出す実践知なのです。シニア社員のジョブ・クラフティングは、シニア世代が「自分らしく働き続ける」ための大切な方法です。小さな工夫や発想の転換が、働きがいや健康を守り、次世代への貢献につながります。そして企業にとっても、シニア社員の期待できます。第3に、社会への効果として、シニアのジョブ・クラフティングの流る布ふにより、高齢者雇用の持続可能性を高め、生涯現役社会の実現に資することになります。このようにジョブ・クラフティングは、多くの場面で働きがいや健康の向上に寄与しますが、薬に副作用があるように、ジョブ・クラフティングにも副作用があります。例えば、自分なりの工夫が「やりすぎ」になると、周囲の業務との調和を乱してしまうことがあります。森永(2023)は「3つの『すぎ』にご用心」として、①やりすぎ、②こだわりすぎ、③抱え込みすぎ、の3点を指摘しています★2。実際、製造ラインで従業員が独自に工程を省略した結果、全体の生産効率を下げてしまった例や、サービス業で自分なりの接客を強調しすぎてマニュアルとの齟齬が生じた例も報告されています。また、個人の工夫が強くなりすぎると、「周囲の理解を得られない」、「勝手な行動だと思われる」といった摩擦を生む可能性もあります。したがって、ジョブ・クラフティングは「自分のため」だけでなく、「職場全体のため」に行う視点が欠かせません。小さな工夫を積み重ねつつ、必要に応じて上司や同僚と共有し、調整することが大切です。副作用に気をつけ【参考文献】★1 岸田泰則(2022).『シニアと職場をつなぐ―ジョブ・クラフティングの実践』学文社★2 森永雄太(2023).「第5章ジョブ・クラフティングを続けるための周囲の支援:副作用に注目して」高尾義明・森永雄太『ジョブ・クラフティング―仕事の自律的再創造に向けた理論的・実践的アプローチ』白桃書房ジョブ・クラフティングを支援することは、組織の知恵と力を最大限に引き出すための大切な取組みです。「いまの自分だからこそできる工夫は何か?」、この問いかけこそが、シニア社員のキャリアを考える第一歩となるのです。エルダー51ジョブ・クラフティング入門
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