2025.114社内公募制度の活性化など、自分で仕事を選択できる仕組みを増やすことも大切です。また、よかれと思って行うことが差別となる好意的差別(例えば、子育て中の女性の仕事を勝手に軽くする)に注意することも重要です。―共働き世帯が増えるなかで、転居をともなう転勤を嫌がる人も増えています。転勤を廃止することは現実的に可能でしょうか。大槻 ここ数年、転勤に関する調査を実施していますが、国内で転居をともなう転勤の可能性がある総合職を対象とした調査では、一度も転勤していない男性は4割強、女性は5・5割もいます。その一方で転勤のない地域限定総合職の人は給与が2割減になったり、課長までしか昇進できないという制約もあります。転居をともなう転勤の対象者であっても、一度も転勤していない男女が半分もいるのに、そうした人事制度があることが、はたして公正なのかという問題もあります。また、調査対象の総合職の3分の2が「転勤したくない」と回答し、そのうち85%が家族の負担が大きいことを理由にあげています。転勤は仕事の能力を向上させるという意見もありますが、転勤経験者で「職業能力が上がった」という人は半分しかいませんでした。 そうであれば従来の全国転勤ありの総合職と転勤のない一般職の雇用管理区分を廃止すること、そして会社指示による転勤ではなく、本人の意志で転勤するかどうかを考えられる仕組みにしたほうがよいのではないでしょうか。同時に、転勤することと昇進・昇格を紐ひもづけている制度や慣行も廃止するべきだと思います。実際にある金融系の企業では、総合職と一般職という雇用管理区分を撤廃し、社員自ら全国型かエリア型かを選択しますが、評価と給与・昇進などの処遇は同一とする制度に変えました。やはり企業自身も変わらざるを得なくなってきています。―働く女性自身がミドル・シニア期のキャリアを形成していくうえでの視点、必要な取組みとは何でしょうか。大槻 まず、自分の志向そのものが、仕事のあり方に影響を受けていることを自覚することがとても大切です。そして、いまの常識を問い直すこと。例えば、「10年やって一人前」といわれる仕事がありますが、本当に10年やらなければ知識やスキルが身につかないのかを自ら検証する姿勢を持つことが大事です。また、自分が「こうしたい」と思っていることについて立ちはだかる壁とは何か、持てる資源とは何かを考えて、自分の進みたい道を自ら切り拓く力を養うこと。具体的には自分の持つ知識・技能の組合せを考えること。例えば、英語力と経理など、二つ以上の得意分野をつくり、組合せによって業界でのキャリアを築いていくことが重要です。 最後に、やりがいはもちろん大切ですが、それ以上に知識・技能が得られる仕事を見つけることが、キャリアを切り拓くことにつながります。そして社内外の人的ネットワークを広げることも、キャリア形成にとってはきわめて重要です。(インタビュー・文/溝上憲文 撮影/中岡泰博)キャリアオーナーシップを発揮できる各種制度の整備が求められる聖心女子大学 現代教養学部人間関係学科 教授大槻奈巳さん
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