2025.1162ちぎってサイズを変えた玉綿を、幾いく重えにも重ねて座布団の形に仕立てる。ちぎるサイズや厚さは、長年の経験でつちかわれた感覚で判断している立てに従事と忙しい日々を過ごしている。同社の特徴は、自然素材を使い、顧客の体格や要望に合わせたオーダーメイドの布団づくりを行っていることだ。「布団は、製綿して繊維の向きを整えたシート状の玉たま綿わたを重ねて仕立てます。敷き布団なら20枚前後です。玉綿1枚でもかなりの違いがあります。例えば、ふだんの寝方が仰あお向むけか横向きかによって厚みを変えたり、腰の悪い人なら腰の部分に綿を2枚多く入れたりするなど、お客さまの声をふまえて仕立てます」現在、同社では8種類ほどの綿を用意し、顧客の要望に合わせて使い分けている。熱方さんのもとには、ほかの布団店の職人からも「おたくじゃなければダメだ」と綿の注文が入る。熱方さんがつくる綿の均一な厚さが、職人仲間にとっても仕立てやすいと好評なのだそうだ。技能士会に入会し仕立てを学び直す熱方さんがこの道に入ったのは18〜19歳のころ。当時交際していた女性(後に妻となる)の父にあたる同社の先代社長に気に入られて働き始めた。「もともと父が兼任で職人の仕事もしていたので、職人になることに抵抗はありませんでした」当初は先輩に学びながら仕立ての仕事を始めたが、入社半年後に先代社長が体調を崩し、製綿工場を担当することになった。受注が多かった時代なので、新しい機械を導入して工程を改良することで、生産効率を大幅に向上させ、先代社長の期待に応えた。工場を担当するようになってからも、夜は仕立ての仕事を続けた。そして工場の稼働が減ってきた10年ほど前、東京都寝具技能士会に入会し、顧客の体調や寝姿勢に合「若いころは勢いだけでした。経験を重ね精神的に余裕ができたので、この仕事をもっと深めて、いろいろなことに挑戦したいと思います」
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