エルダー63にしてほしいと思っています」また、小学校の家庭科の授業でも座布団づくりを教えている。「綿に実際に触ってもらい、こんな世界があることを子どもたちに知ってもらうだけでも価値があると思っています」仕事への探究心も衰えていない。現在は衛生面で効果があるとされる柿かき渋しぶ染めの布団カバーづくりに挑戦している。「年を重ねるほど、この仕事をもっと深く追究したいと思います」大事にしているのは、綿や布団の仕上がりについてお客さまの声を聞くこと。特に、職人仲間に褒めてもらえるとうれしいと話す。顧客の声に耳を傾け、1枚1枚ていねいに仕上げる姿勢は変わらない。50年以上をかけて磨き上げた技術と探究心で、今日も心地よい布団をつくり続けている。寝具工房いづみや 株式会社和泉屋製綿所TEL:03(3489)1711https://wata-izumiya.com(撮影・羽渕みどり/取材・増田忠英)わせた綿の入れ方を学び直した。「例えば、逆流性食道炎の人には背中の部分を高くするといった、お客さまに合わせたさまざまな寝具の工夫の勉強を続けています」後継者を無償で育成し仲間を増やす布団業界でも職人の高齢化が進んでいる。熱方さんは後継者の育成に熱心で、技能士会からの依頼で希望者を受け入れ、仕立ての技術をボランティアで指導する。「お金を取らないのは、彼らを仲間だと思っているからです。慕ってきてくれるだけでうれしいですし、教えることは自分の勉強にもなりますから。彼らにつねにいっているのは『このレベルで終わってはダメだよ』ということです。ある程度のレベルに達すると、そこで満足して成長が止まってしまいがちです。布団づくりは奥が深い。その先を目ざすことを大事右ページの写真からあっという間に座布団の形に仕立てられた。座ったときにひざなどが乗る位置も意識してつくられている「座布団に始まり座布団に終わる」といわれるほどむずかしいとされる座布団の製作。最もむずかしいのが、四つの角への綿入れ。しわが寄らないように綿を配分する柿渋で染めた生地を天てん日ぴで干す。ひび割れを防ぐため、薄い重ね塗りをくり返す。「自然相手に楽しみながらやっています」熱方さんがこだわるのが綿の品質。インドのアッサム地方の最高級品で、繊維が短く太いのが特徴原料の綿花の繊維の方向を整えて製綿するカード機。熱方さんが入社する前から何十年も現役で活躍し続けている製綿されてできあがった、薄いシート状の玉綿。この玉綿を複数枚重ねて布団を仕立てていく。熱方さんのつくる玉綿は厚さが均一で、職人仲間からも好評だ vol.357
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