エルダー2025年12月号
45/68

・法定健診の対象外であっても希望する者に対して勤務時間変更や休暇取得など柔軟に対応することや健康診断を実施するよう努めること・健康診断の結果について産業医や保健師等に相談できる環境を整備すること・健康診断の結果を通知するにあたり産業保健スタッフからていねいに説明すること・日常的なかかわりのなかで、高齢者の健康状況に気を配ることこのように使用者には、高齢者の健康状況について把握するよう努めることが求められています。持病が悪化した影響が大きい疾病に対する使用者の責任2大阪高裁平成15年5月29日判決では、心房細動の素因、高脂血症および飲酒といった生活習慣があった労働者が、業務中に脳梗塞を発症したという事案につき、使用者の責任が問われました。労働者の遺族は、中高年齢者であるのに、業務が過重にならずほかの労働者との負担割合が公平になるように配慮しなかったこと、多数回の夜間作業や昼夜連続作業に就かせたこと、著しい連続勤務に就かせたこと、溶接時間が急増したこと、作業中に鉄粉が目に刺さるけがを負った後にもその体調を把握し安静にさせるなどをしなかったことなどを指摘し、使用者としての安全配慮義務違反に基づく損害賠償を請求しました。裁判所は、労働者の遺族の主張内容をふまえつつも、脳梗塞発症時の健康状態についても考慮しながら、次のような判断をしました。「健康状態及び業務実態によれば、本件脳梗塞は、…(中略)…業務によって蓄積した疲労のみを原因とするものではなく、B(筆者注:労働者)の心房細動(の素因)、高脂血症及び飲酒といった身体的な素因や生活習慣もその原因となっており、とりわけ、Bの脳梗塞は心原性のものでありその発症に心房細動が大きく関与したものと考えられる。そして、…使用者として安全配慮義務を負っており、労働者であるBの健康状態を把握した上で、同人が業務遂行によって健康を害さないよう配慮すべき第一次的責任を負っているから、Bの身体的な素因等それ自体を過失相殺等の減額事由とすることは許されない。」この判断は、労働者が身体的な素因(例えば、持病など)を有していたことをもって、使用者の責任が軽減されるわけではないことを示しています。したがって、高齢者であるからといって、使用者の安全配慮義務が軽減されるわけではなく、むしろ年齢を重ねるごとにリスクが顕在化しやすくなるとすれば、より繊細な安全配慮義務を負担することが求められているともいえます。身体的な素因を単純に考慮することはできませんが、持病を治療することなく放置したり、使用者が健康状態を把握することに非協力的な態度をとっていた場合には、使用者の責任が軽減されることがあり、同裁判例でも次のように判断しています。「しかしながら、健康の保持自体は、業務を離れた労働者個人の私的生活領域においても実現されるべきものであるから、使用者が負う前記の第一次的責任とは別個に、労働者自身も日々の生活において可能な限り健康保持に努めるべきであることは当然である。本件において、Bは、…心房細動等により治療を必要とするとの所見を医師から示されており、それ以前から、心房細動同様に胸内苦悶や不整脈といった心由来の疾病に罹患した経験を有していた…それにもかかわらず、Bは、本件脳梗塞が発症するまで心房細動等についての治療等を受けなかった」として、治療を受けていなかったことを指摘し、さらに、「使用者が上記義務を十分に履行するためには、その前提として、労働者が使用者に対して、発生した事故の内容や自己の症状に関する報告をし、使用者側でこれを十分に認識する必要がある」として、自己の症状等について適切な報告をすべきと指摘しました。最終的な判断としては、労使間の非対等性を考慮してもなお、損害の公平な分担という法の趣旨に鑑みて、使用者の安全配慮義務違エルダー43知っておきたい労働法A&Q

元のページ  ../index.html#45

このブックを見る