エルダー2025年12月号
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⑴ 労働者たる地位の存続解雇が無効である以上、会社と従業員との間の労働契約は、未だ解消されていないことになるため、従業員の有する会社の労働者たる地位は存続することになります。⑵ 賃金請求権の継続的発生労働契約が存続する以上、従業員は会社に対して労務提供義務を負い、会社は従業員に対して賃金支払義務を負うこととなります。そして、賃金支払義務は、労務提供が行われたことにより、具体的に発生することとなります(ノーワーク・ノーペイの原則)。そうすると、解雇された従業員は、解雇後は会社に対する労務提供を行っていないのだから、労務提供義務の履行がない以上、賃金支払義務(賃金請求権)も発生しないとも思えます。しかしながら、これについては、労務提供義務の履行を行えないのは、会社の違法な解雇によるものであるため、反対債権である賃金支払請求権は存続すると考えられています(民法第536条2項)。つまり、従業員が働いていないとしても、それは会社のせいであるため、従業員が働いているかどうかにかかわらず、賃金支払義務は発生し続けるということです。そのため、違法無効な解雇を行った会社は、解雇日以降も、従業員に対する賃金支払義務を負い続けるということになります。就労の意思3労働者が解雇後に就労の意思を喪失した場合には、解雇の承認により労働契約が終了する、解雇の意思表示と相まって労働契約が終了する、解雇と並行してなされた使用者の合意解約の申し込みに対する労働者の承諾の意思表示がなされたことにより終了するなど、法的構成はいくつかあるものの、労働契約は終了し、労働者は労働契約上の地位を喪失すると考えられてます。また、バックペイの発生根拠は、労働者の労務提供義務の履行が会社の帰責事由により不能となっていることにあるところ、労働者において就労の意思がない場合には、会社の帰責事由による労務提供義務の履行不能とは評価できず、バックペイの発生が否定される可能性があります。ただし、解雇された労働者が生計を維持するために他社に再就職をするということは、通常なされるものであるため、単に解雇後に再就職をしているというだけでは、就労意思の喪失はただちには認められないと考えられています。フィリップス・ジャパン事件(東京地裁令和6年9月26日判決)4就労意思の喪失が問題となった最近の事例として、フィリップス・ジャパン事件があります。この事件は、能力不足を理由に解雇された労働者が、会社に対して、賃金などを請求した事件です。従業員は、解雇がなされた後に、他社に解雇前と同水準以上の労働条件で就職していたため、会社側としては、労働者の就労意思の喪失を主張しました。この点につき、裁判所は、「一般に解雇された労働者が、解雇後に生活の維持のため、解雇後直ちに他の就労先で就労すること自体は復職の意思と矛盾するとはいえず、不当解雇を主張して解雇の有効性を争っている労働者が解雇前と同水準以上の労働条件で他の就労先で就労を開始した事実をもって、解雇された就労先における就労の意思を喪失したと直ちに認めることはできない」とした高裁判決(新日本建設運輸事件、東京高裁令和2年1月30日)を引用し、労働者の就労意思の喪失を否定しています。エルダー45知っておきたい労働法A&Q

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