2026.162光沢のある糸を使い分け、ていねいな刺しゅうで、繊細で美しい作品をつくりあげる。背後のタペストリーのフクロウや木の枝も、立体刺しゅうで表現したものに認められ、2024(令和6)年度の卓越した技能者「現代の名工」に選出。さらに2025年には黄綬褒章を受章した。「黄綬蝶」はそれを記念してつくられた。試行錯誤を重ねほかにない刺しゅうを実現北井さんは趣味で刺しゅうを始め楽しんでいた。 転機となったのは1991(平成3)年の毎日新聞社主催の「全国刺繍コンクール」。出品作は窓辺に止まる小鳥やパンジーの鉢植え、室内の家具類などを立体で表現した意欲作で、最優秀賞を受賞した。「だれにも習ったことがないので、つくりたいと思うものをどうすれば形にできるかを考えて、試行錯誤しながら形にしてきました」 そんな北井さんには、以前から気になっていることがあった。「普通の刺しゅうは、表はきれいでも裏はきれいではありません。それを自分のなかでどうにかしたいとずっと思っていました」それから何年も研究を重ねて両面立体刺しゅうの技法を確立した。一般的な刺しゅうでは、「二本取り」、「三本取り」といわれる、数本の糸を一度に刺していくやり方が主流だが、北井さんは一度に一本しか通さない「一本取り」で刺しゅうする。その分、時間はかかるが繊細さを表現できる。「針を布に対してまっすぐ刺し、裏側を指でしっかり押さえて、まっすぐ引き上げ、糸がとまったらそれ以上引かないという刺し方を基本とし、この動きをひと針ずつくり返しながら、表を刺すのと同時に裏側も表と同じように刺していく独自の『両面刺しゅう』を行い、両面を同じようにきれいに仕上げることができます」この技法は糸にも生地にも負担をかけないため、毛け羽ば立だちにくくゆがみもなく、洗濯してもほつれないほど丈夫だという。「一針の集中がとても大事です。時間をかけて“120%”を目ざすことで、見たことのない作品を生み出すことが可能になります」
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