高齢者に聞くエルダー43(平成19)年11月に満60歳で定年退職しました。田辺製薬に在職中は、私に外資系製薬企業での基礎研究のバックグラウンドがあることに加えて、英語が話せ、ビジネスの経験もあるので、海外企業との共同研究などの仕事を任されたこともありますが、私には若い研究者の教育をしてみたいという思いがつねにありました。こうした自分の思いを貫きたいと考えていたときに声をかけてくださったのが、アイエム翻訳サービス株式会社の創業者・新いま比ひ惠え智さと子こ社長です。新比惠社長は、田辺製薬の翻訳・学術情報支援部門に勤めておられ、私の経歴を知って、アイエム翻訳サービスに採用してくださいました。社内で行うセミナーの講師や大学の非常勤講師、製薬会社向けの英文ライティングの研修などを担当し、アカデミックな環境での充実した日々が始まりました。アイエム翻訳サービスの設立は2016年3月。新比惠社長は創業に際し、高齢従業員が専門性を発揮して長く働けるように、高齢者雇用制度を充実させた。その取組みが評価され、2016年度「高年齢者雇用開発コンテスト※」で(独)高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長表彰優秀賞を受賞した。自己管理の徹底でより良い仕事を当社は定年後再雇用の上限年齢を撤廃しています。スタッフは全員国内外の大手製薬会社や大学で研究や教育にたずさわってきた人たちばかりです。現在、翻訳や投稿論文の英文校正が私のおもな仕事ですが、医学・薬学に特化した翻訳ですから、仕事のクオリティを下げないようにするために毎日の勉強が欠かせません。翻訳というのは個人の仕事のように思われがちですが、じつは一人ではできない仕事です。例えば日本語を英訳するとき、まず一次翻訳をしてから、2人目がバイリンガルチェックを行います。最終的に3人目によるクオリティ・コントロールをもって完結します。一つのプロジェクトを3人で仕上げるというのは国際規格に基づいたやり方です。また、英文校正の場合は、専門分野に詳しいネイティブが担当するのですが、日本人が書いた英語の論文原稿の場合、ネイティブには理解できないことがあります。そうしたときには私がチェックをするのですが、原稿の英文を書いたクライアントは何がいいたいのかと想像する力が必要です。このように、翻訳は共同作業です。体調管理を徹底しないと周りに迷惑をかけます。このため、コロナ禍以降はテレワーク中心で、オフィスへの出勤は月に1、2回程度。75歳からは週所定労働日数を3日にしてもらいました。最近は、年齢による衰え、フレイルを感じる場面が増えてきました。とりわけ視力の衰えは顕著で、パソコンは32インチのディスプレイを使っています。高齢者が長く働き続けるためにはフレイルを客観的に見て、早めに対策を打つことが大切だと思います。自らのアップデートのために科学の世界は日進月歩です。翻訳でも、専門用語が無数に出てきます。私たちはプロですから、最先端の医学・薬学の知識や用語を知っている必要があります。できるだけ医学の専門誌を読んでいますが、なかなか追いつくことができず、それが悩みです。同時に医学分野のテクノロジーの進歩や、AIの台頭など懸念事項は山積しています。ただ、物事をあまりシリアスにとらえすぎないというスタンスが、私が長く働いてこられた原動力ですから、すべてを前向きに受けとめています。心がけているのは、クライアントの立場に立ったきめ細かいサービスの提供です。当社が創業して10年が経とうとしています。自然科学という自分の好きなものに関連した世界を歩いてこられたことはとても幸せです。学生時代から、ずっと私を支えてきてくれた家族には感謝しかありません。人生100年時代といわれますから、私の年齢はその緒についたばかりです。無数の「知らないこと」に出会い、それを「知ることの喜び」に変えていくために、明日も新しい世界の扉を開き続けたいと思います。※ 現在の名称は「高年齢者活躍企業コンテスト」。次のページからは同コンテスト関連の連載記事ですので、ぜひご覧ください!
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