Leaders Talk No.115 生涯現役で働ける環境を整え地域の高齢者の雇用の受け皿に 株式会社サラダコスモ 取締役 人事部長 中田澄美香さん なかだ・すみか 2009(平成21)年に株式会社サラダコスモに入社し、同社が運営する「ちこり村」の副支配人に就任。2018年より人事部長を務める。ちこり村の現場で高齢社員と一緒に業務を行ってきた経験を活かし、“高齢者の気持ちのわかる人事部”を実践している。  2024(令和6)年に第14回「日本でいちばん大切にしたい会社大賞」で地方創生大臣賞を受賞した株式会社サラダコスモ。同社が岐阜県中津川(なかつがわ)市で運営する「ちこり村」は、地域の高齢者の雇用の受け皿となっており、多くの高齢者が活き活きと働いています。今回は同社取締役人事部長の中田澄美香さんにご登場いただき、高齢者雇用に積極的に取り組む背景や、高齢スタッフの活躍状況などについてお話をうかがいました。 経験豊富な高齢者とともに「ちこり村」で地域の課題解決に取り組む ―株式会社サラダコスモは、2024(令和6)年の第14回「日本でいちばん大切にしたい会社大賞」で地方創生大臣賞を受賞されました。受賞理由には、多くの高齢者が働き地域の雇用を支えていることなどがあげられています。多くの高齢者が活躍している経緯についてお聞かせください。 中田 当社は、1980(昭和55)年に無添加・無漂白のもやしの栽培を本格的にスタートさせました。それ以前はラムネの製造・販売がメインで、副業としてもやしの生産を行っていたのですが、現社長(中田(なかだ)智洋(ともひろ)氏)がラムネ事業からの撤退を決断し、もやし生産を本業にしたのです。  その後、もやし以外に無化学肥料のかいわれ大根、ブロッコリーなどのスプラウト(発芽野菜)の生産を開始し、近年ではカット野菜の生産・販売も行っています。現在、当社の商品を取り扱う店舗は、北海道から九州まで約2万店におよび、多くのお客さまにご好評をいただいています。  そして2006(平成18)年に、西洋野菜の“ちこり”をテーマにした農業・商業・観光・文化・教育活動の一体型施設である「ちこり村」をオープンしました。きっかけは、中田が「もやしやかいわれ大根以外にもう一つの別の柱になる野菜はないか」と探しているとき、ヨーロッパを視察し「ちこり」という野菜に出会ったことです。水耕栽培でつくる野菜ですが、当社の水耕栽培の技術を使えば、もっと安全・安心なちこりがつくれるのではないかと考えました。ちょうど同じころ、地域の人たちから「休耕地を活用してもらえないか」という話をいただいており、普通の野菜では地元の農家と競合することから、「輸入野菜の国産化」という新しいテーマでちこりの栽培に挑戦しました。そして、「どうせやるなら休耕地対策だけではなく、地域で働くことを希望する高齢者とともに、地域活性化の課題解決に取り組んでいこう」という思いから、「ちこり村」を開設しました。 ―ちこり村では、レストラン、パン工房、地域特産物の販売、ちこりの根を原料とした焼酎の製造・販売など、幅広い事業を運営していますね。 中田 ちこり村を開設する以前は、新規事業は若い社員が中心となり取り組んでいたのですが、地域のとある会社が土・日曜日を中心に高齢者を雇用し、その方々が活躍されていることを知り、当社でもちこりという新しい野菜栽培に挑戦するためには、経験豊富な高齢者の存在が不可欠と考えたのです。そこで人生の第二の挑戦として、生きがいややりがいを持って働きたいという高齢者の募集を開始しました。  当時はいまと違い、高齢者の職がない時代でした。新聞の折込みチラシで、「週何日、1日何時間でもOK」という条件で、レストランおよび売場のスタッフを募集したところ、120人以上の応募があり、最初は20人を採用しました。その後、売上げの拡大にともない、高齢者の採用も増やしていきました。  現在、ちこり村の従業員は99人ですが、60歳以上が59人、65歳以上は51人働いています。最高年齢者は85歳です。 個々の事情に合わせた柔軟な働き方を実現一人ひとりとの面談を通して意欲を鼓舞 ―ちこり村の高齢スタッフは当初から柔軟な働き方をされており、雇用の上限年齢もないということですが、具体的にはどのような働き方をされているのでしょうか。 中田 ちこり村で働く正社員は15人で、残りが非正規のスタッフになります。営業時間は8時半から17時までですが、朝7時半に出勤して3時間勤務で帰る人もいれば、フルタイム勤務の人もいます。また、週1日勤務の人もいれば5日勤務の人もおり、各部門のリーダーがメンバーの都合を聞いてシフトを組んでいます。週1日勤務の人でも、希望があれば随時変更できますし、「忙しいから来てほしい」とお願いすると、週2・3日でも来てくれます。ときには、「家族が入院した」、「家族の介護のためしばらく休みたい」という人もいますので、それぞれの事情に合わせて柔軟に対応しています。 ―働く高齢者の処遇などに違いはあるのでしょうか。 中田 事業はパン、焼酎、レストラン、売店、通販、農産部などの部門に分かれます。ちこり村の支配人が各部門のリーダーを何人か決めており、気が利く人、コミュニケーションがうまい人を選んでいます。時給は仕事の内容や専門性の高さなど役割に応じて決めています。例えば忙しい時期はレジがたいへんなので、高めに設定したり、また、秋には繁忙期手当なども支給しています。  支配人が一人ひとりと面談し、「いまの仕事だけではなく、こんな仕事もできるようになってほしい」、「時給も上げますよ」など、意欲を鼓舞するようにしています。 ―売場を拝見しましたが、みなさんが活き活きと働いているのが印象的でした。活躍をうながすために工夫していることは何でしょうか。 中田 オープン当初から支配人が心がけているのは、必ず毎日少しでも変化し、自分が成長していくことを実感してもらうようにすることです。高齢者だから決まったことしかやらないのではなく、新しいことを覚え、覚えたらまた別のことに挑戦していく。例えば、「モンブランを何個売る」といった数値目標を持つなど、今日の仕事で何か一つ目標を持ってやることで変化を感じ取ってもらうことが、施設や会社の成長につながると思っています。  実際に売場の商品は頻繁に変わりますし、覚えることがたくさんあります。3日休むと売場のレイアウトも変わるので、みなさん一生懸命に対応しています。多分ここで働く高齢者のみなさんは、一般的な65歳以上のイメージではなく、40〜50代の現役並みの働きぶりだと思います。忙しい時期は施設内だけで普通に1万5000歩も歩きます。それぐらい体力、気力も必要な仕事ですが、だれも休んだり、辞めたりしないのです。勤続年数も長く、オープン当初から働いている人もいますし、10年以上勤務している人がほとんどです。また、休みの日は家族連れでやってきて、孫に職場を見せたり、食事や買い物をして帰るという人も多いです。  ちこり村では、高齢者を採用するため、継続的に募集を出しています。人手が足りないときに募集するのではなく、基本的には「高齢者であってもこの先10年、20年一緒に働きたいと思える人を採用したい」という思いがあるからです。人手は足りていますが、だからこそ、新しい仕事をつくり出さないといけませんし、実際にこれまでそうやって事業を拡大してきました。これにより、多くの高齢者が新しいことにチャレンジし、活躍につながっています。 お互いに声をかけ合える関係・環境が働く高齢者の安心・安全につながる ―高齢者を雇用していくうえでは、健康や安全面への配慮も欠かせません。どういった点に留意していますか。 中田 採用面接の際に、ざっくばらんに「身体にどこか悪いところはないですか」、「飲んでいる薬はありますか」などを聞いています。そのうえで、公表できる人には職場で共有してもよいかを確認し、職場にも伝えています。支配人が全員に目が行き届くわけではありません。ある程度健康状態を仲間内で共有することで、忙しいときは「薬を飲む時間ではないですか」とお互いに声をかけ合うようにしています。あるいは体調が悪そうであれば、「今日はもう帰ったほうがよいのではないか」と、お互いにいい合える職場の雰囲気があります。 ―健康で元気に働いてもらうためにもコミュニケーションが大切ですね。読者にとっても貴重なアドバイスです。 中田 これまで健康や安全面において何も問題が起きなかったのは、スタッフ同士のコミュニケーションが取れているからだと思います。取れていないと、健康状態に何か不安があってもいい出せません。お互いに情報を共有しているからこそ、「あの人はちょっと心配だから気をつけてあげたほうがいいね」という情報が、速やかに支配人にも上がってきます。管理する側とのコミュニケーションだけではなく、職場内のコミュニケーションがうまくいっているからこそ、健康状態の把握もしやすくなります。  職場には20代や30代のスタッフもいますが、60代、70代の高齢スタッフと一緒に働くことで、お互いにそれぞれの仕事を尊重し、気を遣う関係が生まれています。仲もよく、一緒に食事に出かけたり、世代を超えたコミュニケーションも活発です。このような関係性が、仕事のやりがい、ひいては生きがいにつながっているのではないでしょうか。 (インタビュー/溝上憲文 撮影/上木鉄也)