【P6】 特集 女性視点で見る高齢者雇用 1986(昭和61)年に「男女雇用機会均等法」が施行され38年。このころに大学を卒業して就職した人たちが60歳の節目を迎えています。かつては結婚・出産を機に、勤めている会社を退職する女性は少なくありませんでしたが、女性の社会進出や労働力人口の減少、育児・介護休業法をはじめとする各種法制度の整備により、いまではキャリアを途切れさせることなく、働き続けられる環境が整ってきています。今後は、正社員として定年を迎える女性が増加していくことが予想されます。 そこで今回は、「女性視点で見る高齢者雇用」と題し、働く女性が定年後を見すえてキャリアを継続していくうえで、事業者に求められる対応などについて解説します。 【P7-10】 総論 70歳就業時代の女性高齢者雇用の課題と展望 株式会社ニッセイ基礎研究所生活研究部 ジェロントロジー推進室兼任 准主任研究員 坊(ぼう)美生子(みおこ) 1 はじめに 結婚・出産後も働き続ける女性が徐々に増加してきたことや、未婚率が上昇したことなどにより、中高年の女性社員数はかつてないボリュームになっています。2022(令和4)年時点で、正社員として働く45歳から59歳までの中高年女性は初めて400万人を超えました(図表1)。 これにともなって、定年に到達する女性や、70歳前後まで定年後も働き続ける女性は、今後、増加していくと考えられます。これまでは「高齢者雇用」というと、無意識のうちにシニア男性を想定した議論が多かったのではないかと思いますが、これからは、シニア女性の雇用課題についても考えていく必要があるでしょう。 2 中高年女性の定年への意識 まず、中高年女性の定年への意識からみていきましょう。2023年10月、一般社団法人定年後研究所と株式会社ニッセイ基礎研究所が大企業で働く45歳以上の女性正社員を対象に行ったインターネット調査「中高年女性会社員の管理職志向とキャリア意識等に関する調査~『一般職』に焦点をあてて~」によると、中高年女性社員の約7割は、定年まで、もしくは、定年を超えて長く働きたいという意識を持っていることがわかりました(図表2)。 現在50代の女性が働き始めたころは、男女雇用機会均等法施行から間もなく、採用や昇進での男女均等な取扱いは努力義務だったため、実際には、配置や賃金に男女格差が残っていた企業も多かったでしょう。そのような状況でも職場に適応し、中高年まで働き続けてきた女性は、高齢期も働くことへの意欲が強いといえるでしょう。 3 中高年女性が高齢期まで働き続けるための希望は 女性個人が、高齢期まで働き続けたいと思っていたとしても、仕事や職場に対する満足度が低ければ、転職したり、退職して家族のケアを優先したりするかもしれません。そこで、上述した共同研究では、職場にどのような取組みや制度があれば、高齢になるまで働き続けたいかを複数回答でたずねました。 その結果、最も目立ったのは、「待遇改善」や「適切な評価」、「昇進、昇給」といった評価・待遇に関する項目で、いずれも3割弱から4割弱となりました(図表3)。また、「職場の人間関係が良いこと」も3割を超えました。 ほかに多かった項目を見ると、「勤務時間に融通が利く(フレックスタイムなど)」や「短時間勤務(1日6時間や4時間など)ができる」、「勤務場所に融通が利く(テレワークなど)」など、働き方に関する希望が2割を超えました。 このような結果から、女性が高齢まで働き続けるための希望を総括すると、「働きがい」と「働きやすさ」という二つのキーワードに集約されるでしょう。仕事ぶりが適切に評価され、給料に反映され、高齢になっても昇進・昇給のチャンスが提供されるなら、「働きがい」を感じられます。また、働く時間や場所が柔軟で、フルタイムではない働き方も選択でき、職場の雰囲気もよければ、「働きやすさ」を感じられます。 もちろん、これらは労働者側の希望ですから、実際の職場で何をどのように取り入れていくかは、労使で話し合う事柄になるでしょう。ただ、高齢期であっても、女性は単に「働きやすければよい」と考えている訳ではなく、「働きがい」を求めているという点は重要な示唆だといえます。体力低下など、加齢にあわせた雇用管理に重心を置くよりも、あくまで戦力として役割を付与し、成果を期待し、評価対象とすることが重要となってくるのではないでしょうか。 4 中高年女性のキャリアの特徴 中高年女性社員を高齢期まで雇い続け、能力発揮してもらうためには、何が必要になるのでしょう。それを考えるために、いったん、中高年女性社員のこれまでのキャリアの特徴について、上述の共同研究からみてみます。 そうすると、例えば人事・配置面では、「転勤を伴う異動」を経験したことがある女性は2割弱、「転勤を伴わない異動」は4割強でした(図表4)。図表にはありませんが、転勤の有無にかかわらず異動経験がなく、入社以来、ずっと同じ部署で働いているという女性が約4割にものぼりました。また、「チームリーダーの仕事」を経験した女性は3割強など、全体的に、職務経験が浅い傾向があることがわかりました。 次に教育面についてみると、「実務スキル研修」を除くいずれの研修でも、受講経験がある女性は1~3割にとどまりました。つまり、教育機会も十分ではなかったといえます。しかし回答をよく見ると、いずれの研修も「経験はないが、希望している」が1割~2割弱います。つまり、本人は教育によるスキルアップを望んでいるのに、その機会が提供されてこなかった女性たちがいるということになります。 5 中高年女性社員のリスキリング・学び直しへの意 企業による育成が乏しく、キャリアが浅い中高年女性社員にこそ、今後、本人の能力を発揮して、企業に貢献してもらうために、リスキリングが必要だといえるでしょう。 じつは、女性側の意欲も強いことが、先の共同研究からわかりました(図表5)。じつに、「学び直しに経験・関心がある」と回答した女性は、全体の6割弱にものぼったのです。キャリアが浅いうえ、勤め先では研修のチャンスすら乏しいことから、自ら学んでスキルアップしようとしている、という姿が浮かび上がってきました。 したがって、企業が女性を高齢期まで雇い続けるうえで必要なのは、社内研修を提供するなどしてリスキリングに取り組んでもらい、性や年齢で排除するのではなく、個人の意欲や能力に応じて、基幹的な職務にも配置するなど、中高年からでも育成に取り組むことではないでしょうか。なかには、高齢期でも管理職候補となる女性が出てくるでしょう。 6 中高年女性の老後のためにも 最後に、女性の老後の観点からも、長く働き続けたり、働けるうちにスキルアップ・キャリアアップしたりしておくことは、たいへん重要だとつけ加えておきます。紙幅の関係で、本稿では詳しく説明できませんが、女性は、老後に受け取れる年金水準が男性に比べて低いからです。厚生労働省の推計※によると、例えば2024年度に50歳になる女性だと、6割弱の方が、65歳から受け取る国民年金と厚生年金の合計は、月10万円未満だと見込まれているのです(過去30年並みの経済状況が続く場合)。近年は未婚や離婚などのシングルが増え、夫の収入に頼れない方が増えているので、女性の低年金は深刻な問題です。 企業は、中高年女性社員たちに対して、マネープランを取り入れたキャリア研修を提供するなどして、本人の老後の暮らしまで見通したキャリアデザインを描いてもらい、仕事へのモチベーションを上げることが求められるのではないでしょうか。 7 おわりに 現在、どの業界でも人手不足が深刻になっていますが、出生数の推移からいえば、今後、若年層の採用難は、加速度的に進行していくでしょう。 企業にとっても今後は、増加しつつある中高年女性を、いかに活用していくかが課題になる見込みです。女性たちに長く活躍してもらうことが、女性たちの老後のためにも、メリットにもなるといえるでしょう。 ※ 厚生労働省 第16回社会保障審議会年金部会「令和6(2024)年財政検証関連資料②-年金額の分布推計-」 図表1 正社員として働く中高年女性(45~59歳)の人数推移 (万人) 1987年 246 1992年 294 1997年 336 2002年 293 2007年 305 2012年 290 2017年 338 2022年 416 出典:総務省「就業構造基本調査」より筆者作成 図表2 中高年女性社員は現在の会社でいつまで働きたいと思っているか n=1,326 今すぐ退職したい 8.4% 定年より前に早期退職したい 13.9% 定年まで働きたい 27.7% 定年を経て、継続雇用の上限まで働きたい 17.9% 働けるうちはいつまでも働きたい 20.0% その他 0.3% 分からない 11.9% 出典:定年後研究所、ニッセイ基礎研究所「中高年女性会社員の管理職志向とキャリア意識等に関する調査~『一般職』に焦点をあてて~」(2023) 図表3 中高年女性社員が高齢になっても同じ会社で働き続けるために会社に望む制度や取組み(複数回答) 大項目 小項目 割合 評価・待遇 待遇改善 36.0% 適切な評価 35.7% 昇進、昇給 28.9% 職場 職場の人間関係が良いこと 33.3% 人事・配置 経験のある業務や職場で働き続けられること 27.8% 中高年の女性社員に役割や居場所があること 20.6% 中高年の女性社員がキャリアアップできる制度と風土があること 13.6% 職種転換 6.9% 働き方 勤務時間に融通が利くこと(フレックスタイムなど) 29.9% 短時間勤務(1日6時間や4時間など)ができること 25.4% 勤務場所に融通がきくこと(テレワークなど) 24.1% 短日勤務(週3日勤務など)ができること 23.5% 有給休暇を申請しやすい職場の協力体制や雰囲気があること 21.9% 時間単位で有給休暇を取れること 15.8% 副業できること 11.7% 健康管理 健康管理が充実していること 17.1% 組織運営 上司に仕事やプライベート(健康面や家庭の事情等)について相談しやすいこと 9.2% 同僚とのコミュニケーションが多いこと 9.0% 同僚とのコミュニケーションが少ないこと 1.2% その他 0.3% 分からない・該当しない 7.4% 高齢になるまで同じ会社で働き続けたくない 4.5% 出典:定年後研究所、ニッセイ基礎研究所「中高年女性会社員の管理職志向とキャリア意識等に関する調査~『一般職』に焦点をあてて~」(2023) 図表4 中高年女性社員の職場での経験 人事・配置 転勤を伴う異動 経験がある16.5% 経験はないが、希望している2.3% 経験がなく、希望もしていない68.7% 分からない・該当しない12.4% 転勤を伴わない異動 経験がある44.1% 経験はないが、希望している5.5% 経験がなく、希望もしていない39.0% 分からない・該当しない11.4% チームリーダーの仕事 経験がある34.3% 経験はないが、希望している4.4% 経験がなく、希望もしていない49.1% 分からない・該当しない12.2% 教育 実務スキル研修の受講 経験がある46.3% 経験はないが、希望している10.5% 経験がなく、希望もしていない30.9% 分からない・該当しない12.3% ビジネススキル研修(プレゼン、IT等)の受講 経験がある32.5% 経験はないが、希望している11.2% 経験がなく、希望もしていない41.8% 分からない・該当しない14.6% キャリアデザイン研修の受講 経験がある21.9% 経験はないが、希望している10.6% 経験がなく、希望もしていない48.0% 分からない・該当しない19.5% 管理職登用研修の受講 経験がある10.4% 経験はないが、希望している8.6% 経験がなく、希望もしていない59.0% 分からない・該当しない22.0% 専門知識、スキル習得のための研修受講 経験がある28.4% 経験はないが、希望している16.4% 経験がなく、希望もしていない38.5% 分からない・該当しない16.7% 語学研修の受講 経験がある11.1% 経験はないが、希望している15.1% 経験がなく、希望もしていない53.1% 分からない・該当しない20.7% その他の研修の受講 経験がある19.5% 経験はないが、希望している10.6% 経験がなく、希望もしていない42.5% 分からない・該当しない27.4% 出典:定年後研究所、ニッセイ基礎研究所「中高年女性会社員の管理職志向とキャリア意識等に関する調査~『一般職』に焦点をあてて~」(2023) 図表5 中高年女性社員の「学び直し」の経験や関心 学び直しの経験がある(学び直し中も含む)12.8% 学び直しの経験はないが、関心がある26.4% 学び直しの経験はなく、関心はあるが、実際に行う時間がない17.1% 学び直しに関心はない27.6% 分からない・該当しない16.1% 出典:定年後研究所、ニッセイ基礎研究所「中高年女性会社員の管理職志向とキャリア意識等に関する調査~『一般職』に焦点をあてて~」(2023)より著者作成 【P11-14】 解説1 定年前後の中高年女性社員のホンネとは 株式会社Next Story代表取締役 西村(にしむら)美奈子(みなこ) 1 はじめに NHKの朝ドラ『虎に翼』が好評でした。 昭和のはじめに女性初の裁判官としてさまざまな偏見や慣習と戦いながら道を切り拓き、自分の夢をかなえていく逞たくましい女性の物語です。主演の伊藤(いとう)沙莉(さいり)さんの演技がとても魅力的だったのですが、それだけでなく、伊藤さんが演じる寅子(ともこ)が「はて?」といいながら目の前にある(当時の)社会の慣習に疑問を持ち、その理不尽さに立ち向かって正義を追求する姿が、女性だけでなく幅広い層に支持されていたようです。 寅子ほどではないにしろ、女性が社会に進出していくのはそれなりに苦労があり、そういった苦労を重ねた各世代の先輩たちが、後に続く女性たちに道をつけてきたのは間違いありません。「女性の幸せは結婚して子どもを持ち、幸せな家庭を築くこと」といわれた時代から、女性も自分の能力を活かして社会に貢献していく時代となり、経済的にも男性に100%依存しなくてもよいようになりました。 いまや、子どもを持つ女性が働きに出ることも特別なことではなくなりましたが、38年前の昭和の終わりはいまと比較して、まだまだ女性が男性と対等に働くことが厳しい時代でした。38年前、ちょうど男女雇用機会均等法が施行された1986(昭和61)年前後に就職した人たちが、いまの60歳です。彼女たちが就職した当時、同法により男女の雇用の平等は、表向きは確保されたものの、実際の職場にはさまざまな偏見や男女差別が存在しました。「共働きで女を働かせているその旦那も甲斐性がない」と職場の男性から直接いわれた人もいました。「寿退社」という言葉が存在したように、結婚、あるいは出産を機に仕事を辞める人がまだまだ多かった時代は、女性が働き続けるための支援制度も整備されていませんでした。戦前と違い、男女平等の教育を受けてきた彼女たちにとって、社会に出て初めて男女差別を実感したという人たちも少なくありません。さらに、長年働いていても、男性との処遇の差、賃金や昇進の格差は、令和のいまでも存在している企業もあります。 そういうなかで定年まで勤め続けた女性たちは、一人ひとりそれぞれがさまざまな葛藤のなかで、工夫しながら働き続けてきました。総務省統計局「労働力調査」によると、2023(令和5)年の45歳から54歳の正規の職員・従業員(役員含む)の女性は310万人、55歳から64歳では169万人で、さらに65歳以上でも41万人、彼女たちが働き続ければ、今後20年間で約520万人の女性たちが定年を迎える可能性があるということができます。 2 約7割の女性が「定年後も働きたい」と思っている かつて定年は男性のものでしたが、女性も定年を考える時代です。では、定年を前にして女性たちは何を思っているのでしょうか? もちろん生活のために仕方なく働いてきた人もかなりいるでしょう。一方で、苦労しながら定年まで働き続けた多くの女性が、働くことの喜びを知っているのも事実です。特に男性同等に責任ある立場で働いてきた女性の多くが、「働くことが生きがいだった」と語っています。ある女性は、「就職したころは定年といわれる年まで働くとは全然思っていなかったけれど、だんだん仕事にのめりこんでいって、気がついたら定年まで働き続けてきた。辞めないことをモットーにしていたわけではないけれど、やっぱりおもしろいから続けてきたのかな」とふり返っています。きっと、仕事に喜びを少しも見いだせない人たちは、どこかの時点で仕事を辞めてしまったかもしれません。 女性の平均寿命が87.14歳となり※1、現代の60代はまだまだ若く、定年後、孫の世話だけではあきたらないというのが実態です。 2024年9月の敬老の日の総務省統計局の発表※2によると、総人口が減少するなかで65歳以上の人口が総人口に占める割合は29.3%と過去最高になり、さらに働く高齢者も20年連続で増加して、就業者のおよそ7人に1人を65歳以上の就業者が占めています。高齢者が人口の3分の1に迫ろうとしている日本で、シニアになっても働きたい人は多く、これは男性にかぎったことではありません。 2020年発表の電通シニアラボの調査によれば、正規雇用で働く55~59歳の女性で「定年まで働きたい・働く予定」と回答した人は69.0%。そのうち「定年後も働く・働きたい」と回答した人は67.4%、「定年後は働かない」と答えた人はわずか8.0%(全体の5.5%)です(図表1)。そして、その理由として、経済的なことだけでなく、「社会と関わっていたい」、「働くこと/仕事が好き」などの回答をしている人も少なくありません。 ただし、60代、70代になっても働き続けたいという女性たちも、現役並みの働き方はさすがにたいへんだと思っています。肉体的に若いころのようにはもう働けないし、そういう働き方は卒業したいのが本音です。それに、自分の自由な時間も確保したいという声も多く聞かれます。特に子どもを持った女性たちは自分の自由な時間がなかなか確保できなかった分、自由な時間も欲しい。でも、何もせずにただぼんやりと一日を過ごすのは嫌という声です。つまり、彼女たちは、「働き続けたい一方で精神的に豊かな生活も送りたい」といっているのです。 3 女性が考える「キャリアの成熟」とは 立命館大学社会学部の前田(まえだ)信彦(のぶひこ)教授が、管理職経験者のうち女性は男性と比べて「キャリアの成熟度」が高いという興味深い論文を発表しています※3。ここでいう「キャリアの成熟」とは、若年期のような「上昇」や「成功」といった経済的達成を機軸とするのではなく、「経済的、体力的『下降』、『衰退』のなかに、生活の質の向上や精神的な豊かさを含むキャリアの概念」とのことで、女性管理職経験者は、男性管理職経験者に比べて、定年後に仕事以外の領域で活動を選好する傾向がみられ、必ずしも(有償労働=仕事における)「生涯現役」を志向しているとはかぎらないとのことです。 これは、女性たちが企業で働き続けることを否定しているというのではなく、前田氏がいうところの、「男性管理職が会社一辺倒の人生観に偏る」のに対して、女性管理職経験者は、「(『会社だけ』ではない)地域生活に根づいた『生活者』として、人間的に成熟した人生を送るというキャリア像」であり、「男性とは異なり、女性は管理職を経験しても生活とのバランスを考慮しながらキャリアを構築している点で、柔軟なキャリア形成を志向している」(前田氏)ということです。 これまで働き続けた女性たちは、キャリア構築の過程において、「組織メンバー」、「母親」、「地域住民」など、さまざまな役割をになってきました。もちろん男性にもさまざまな役割がありますが、つねに「組織メンバー」としての役割が優先される傾向が強いのに対して、女性たちの場合、そうしたさまざまな役割(役割認知としてのサブアイデンティティ)がときとしてお互いにコンフリクトな関係性を生み、つねに揺らぎながら優先度を変化させてきました。そして、総体としてアイデンティティを形成して環境や社会の変化に適応する力(アダプタビリティ)に働きかけ、仕事を続けてきました(図表2)。 前田氏は、「男性管理職」と「女性管理職」とでのジェンダーの違いを指摘していますが、これは、「女性管理職」のいわゆる「雄化」の議論に対して、ジェンダー差を論じたものです。女性は男性以上に多様で、「女性」と一括りにして語るのはむずかしいのですが、定年を迎えるまで働き続けた女性たちは、管理職経験の有無にかかわらず、仕事に対しては前向きに取り組んできた人が多いと推測され、仕事を通じて、先に述べた「働くことの喜び」や、「達成感」、「自己の成長」、「社会活動への参加意識」を得た経験を持っていると思います。 4 キャリア後期は〝働く意味〟と〝プライベートの充実〟を重視する 彼女たちに共通するのは、まず第一に、働くということをポジティブにとらえていることです。「60代も働く時代」を「働かなければいけない」というのではなく、積極的に「働く」ことを選択している。そしてそれは必ずしも高い給料を目ざしているとはかぎらないということです。もちろん、給料は高いに越したことはありません。でも、それだけではない。給料の多寡を最優先とするのではなく、場合によっては無償(ボランティア)もあり得るということです。つまり、前述の前田氏の「定年後に仕事以外の領域で活動を選好する傾向がみられ、必ずしも(有償労働=仕事における)『生涯現役』を志向しているとは限らない」ということです。実際にボランティアで「子ども食堂をやりたい」、「地域に貢献したい」という女性たちもいます。とはいえ、可能ならいまの会社で継続就業したいという女性たちも多いのは事実です。 彼女たちが「安い給料で都合よく働いてくれる存在」だと誤解されると困るのですが、彼女たちにとって、(特にキャリアの後期は)仕事の意味合いが重要となってきます。女性は男性と比べて働くことの内的動機が高いといわれます。要は男性よりも「やりがい重視」ということですが、これはキャリア後期になってその傾向がさらに高まると思われます。働く女性の多くが、「仕事を通じて社会の役に立ちたい」という想いを持ち、それはキャリア後期になってあらためて自分の人生と向き合ったとき、より強くなってくるのではないでしょうか。また、「キャリアを重ねて成長したい」という想いも、若い人だけでなく中高年になっても持ち続ける人が多いようです。いま流行りの「リスキリング」も会社の都合だけで「新しいことを学べ」といってもモチベーションが上がらない。その必要性がその先の「やりがい」に結びついたとき、彼女たちは積極的に学ぶ姿勢を見せるのだと思います。 第二に、多くの定年を前にした女性たちから聞こえてくるのは、「これまでは一生懸命仕事をしてきましたが、これから楽しく生きるようにモードチェンジしたい」と、これからは「働きながらも人生も楽しみたい」という声です。 定年前に大手企業を辞めて転職したある女性は、現役時代は責任ある立場についていましたが、ストレスの多い職場で、コロナ禍で在宅勤務となったことで公私の区別がつかなくなり、かえって勤務時間が増えてこれ以上は無理だと退職をされました。いまは、老舗の小さな会社に勤める一方で自身でもやりたいことを追求し、「収入は3分の1に減ったけれど、自由な時間(可処分時間)は5倍に増えて幸せだ」と語っています。 また、定年後の活躍の場として地域活動に興味を持つ女性も少なくありません。長年働いてきた女性たちの多くはこれまで地域コミュニティとは縁が薄く、ほとんど興味はなかったという人もいます。これまで地域コミュニティの主役は専業主婦の女性たちでしたが、働く女性たちのなかからも、「定年後はもっと地域にかかわっていきたい」と考える人たちがでてきています。一方で「どうしたらよいのかわからない」という声も聞こえます。地域デビューも現役時代に少しずつ入っていくのがよいようです。 5 おわりに 女性向けの雑誌に登場する「ていねいな生活」、「シンプルな生活」という表現が、これまで仕事中心に日々忙しく生きてきた女性たちに憧れを感じさせ、時間ができたらそういう暮らしをしたいと思う人も多く、仕事でのやりがいや充実感とともに求められているものでもあります。 経済的に許されるなら、副業や地域活動に参加できる時間を確保できるような、「成熟度」をあげられるような、よりフレキシブルな働き方をしていきたいというのが本音なのだと思います。そして、そういう女性たちが企業に求めているのは、やりがいを感じながら働き続けられる環境、フルタイム勤務だけでなく、週に数回あるいは、一日の勤務時間を短くというような柔軟な働き方ができる環境です。例えば複数人で現役一人分の仕事をこなすワークシェアなどがもっと普及してもよいと思います。なによりも、画一的ではなく、女性たち一人ひとりが選択できるようにしていくことが大事なのだと思います。 ※1 厚生労働省「令和5年簡易生命表」(2024年) ※2 総務省統計局「統計からみた我が国の高齢者-敬老の日にちなんで-」(2024年) ※3 前田信彦「女性の職業キャリアにおける管理職経験と定年後のライフスタイル」、立命館大学産業社会学部『立命館産業社会論集』第59巻第2号(2023年) 図表1 定年前後の働く意欲 定年まで働きたい・働く予定69.0% わからない・まだ決めていない23.0% 早期退職する予定4.0% 早期退職を検討中4.0% 「定年後も働く・働きたい」計67.4% 定年後も働くことが決まっている18.1% 決まってはいないが、定年後も働きたい49.3% 定年後は働かない(リタイアする)8.0% わからない・まだ決めていない24.6% 出所:電通シニアラボ「定年女子調査」(2020)を基に筆者作成 図表2 アイデンティティとアダプタビリティ アイデンティティ A B C A B C A B C 形を変え、優先度を変えながら相互にコンフリクトの関係にあるサブ・アイデンティティ Push アダプタビリティ 出典:田中研之輔、西村美奈子『プロティアンシフト:定年を迎える女性管理職のセカンドキャリア選択』(千倉書房)より(筆者作成) 【P15-18】 解説2 生涯現役で働く女性の健康管理 福島県立医科大学 ふくしま子ども・女性医療支援センター 特任教授 小川(おがわ)真里子(まりこ) 1 はじめに 総務省「労働力調査」によると、日本国内の就業者における女性の割合は、2002(平成14)年には41.0%であったものが毎年徐々に上昇し、2021(令和3)年では44.7%にまで増加したと報告されています。そのようななか、女性特有の疾患が仕事のパフォーマンスに影響していることが明らかとなってきました。 更年期の症状はほとんどの女性が経験することであるにもかかわらず、それについての知識を得る機会が少ないために、当事者の女性にとっても、そして周囲の人々にとっても、対応に苦慮する場面がみられているようです。さらに、女性は閉経を迎え、エストロゲンの分泌が低下すると、脂質異常症や骨粗(こつそ)しょう症(しょう)などのリスクが急増します。 そこで本稿では、更年期と更年期障害、その後の健康リスクについて概説するとともに、企業における女性の健康への支援について、考えてみたいと思います。 2 更年期障害によるパフォーマンス低下が社会経済に与える影響 2018年の経済産業省の報告によると、女性従業員の18%が更年期障害のために勤務先で困った経験をしたと回答していました※1。また、2021年のNHKの調査によると、更年期症状のために仕事を辞めた、雇用形態が変わった、労働時間や業務量が減った、降格した、昇進を辞退したという女性は15.3%を占めていたといいます※2。さらに2024年の経済産業省からの報告で、更年期障害による離職や欠勤、パフォーマンス低下が日本経済に与える影響が1.9兆円にものぼるとされ※3、企業における対応が急務となっています。 3 女性の更年期と更年期障害 (1)更年期障害とは では、更年期、そして更年期障害とは、何をさすのでしょうか。日本における更年期の定義は、「閉経前の5年間と閉経後の5年間をあわせた10年間」とされています。そして、「閉経前後にあらわれるさまざまな症状で、ほかの疾患によるものではなく、またその症状のために何らかの支障をきたしている状態」が更年期障害です。なお、日本人女性の閉経年齢の中央値は50.54歳と報告されています※4。 更年期に入ると、卵巣から分泌される女性ホルモンであるエストロゲンが、大きく揺らぎながら減少し、閉経するとその分泌はほとんどなくなります(図表1)。このエストロゲンの変動が、更年期症状のおもな原因になります。 (2)更年期にみられる症状 更年期にみられる症状は非常に多彩です。しかもその多くは更年期にだけみられるわけでなく、ほかの疾患でもみられるものです。さらに、さまざまな症状がかわるがわる出現することも多く、不定愁訴(ふていしゅうそ)とも呼ばれます。 更年期症状を大きく分けると、ほてり、発汗、動悸などの血管運動神経症状、うつ、不安、イライラ、情緒不安定、意欲の低下、不眠などの精神的症状、尿もれ、頻尿、性交痛などの泌尿生殖器症状、肩こり、めまいなどのその他に大別されます。とはいえ、経験する症状の種類や出現の仕方、QOL(生活の質)に与える影響などには個人差があります。 (3)更年期障害のセルフケア 更年期障害に対し、何か自分でできる対策を、と考えられた場合、まず行っていただきたいのは、生活習慣の見直しです(図表2)。なかでも、喫煙していれば禁煙、食生活の改善、運動、睡眠、そしてストレスケアとしてのリラクゼーションがすすめられます。更年期症状の緩和だけでなく、その後の健康を考えたうえでも、生活習慣の見直しは重要です。 食生活改善としては、骨に必要な栄養素を積極的に摂取することや、脂質異常症予防のために食物繊維や青魚を摂り、動物性脂肪やアルコールの摂取を減らすことが推奨されます。健康的とされる和食や地中海式の食事がよいでしょう。運動としては、有酸素運動とレジスタンス運動を組み合わせて行うのがよいでしょう。国際閉経学会の指針によると、有酸素運動を週150分以上、レジスタンス運動を週2回以上行うことが推奨されています。とはいえ、最も重要なのは、この時期までに運動習慣を身につけることといえます。 そのほかのセルフケアとしては、大豆イソフラボンのサプリメントなど、更年期障害への効果が確認されているものもあり、よく用いられます。ただし、症状のために仕事のパフォーマンスに影響するようなら、医療機関に相談することも考えてください。がまんを重ねるよりも、早い段階で産婦人科に相談することをおすすめします。 (4)更年期障害の治療 更年期障害に対し、医療機関で行う治療は、おもに薬物療法です。ホルモン補充療法(hormone replacement therapy; HRT)、漢方療法のいずれかがよく用いられます。うつや不安が強い場合は、抗うつ薬が処方されることもあります。薬物療法以外には、カウンセリングや心理療法も行われます。 ①ホルモン補充療法(HRT) 更年期症状が、女性ホルモン分泌の減少に関連して起きていると考えると、これを補うという点で理にかなった治療法です。更年期症状全般に有効なだけでなく、閉経後の女性の健康問題として重要な、骨粗しょう症や脂質異常症への予防効果もあります。ただし、乳がんや血栓症の既往のある方などは、使用できません。 ②漢方療法 日本でおもに使われている漢方薬は、複数の生薬の合剤であり、さまざまな症状を同時に示す更年期障害の治療として、こちらも理にかなった方法だといえます。なかでも、当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)、加味逍遥散(かみしょうようさん)、桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)は、三大漢方婦人薬と呼ばれ、更年期障害に対してもよく使用されます。漢方療法は、HRTが行えない患者さんに対しても有用です。 4 女性の更年期以降の健康リスク (1)平均寿命と健康寿命 日本人が長寿であることは、だれもが知るところです。しかし、みんながその寿命のすべてを元気に生活できているかというと、必ずしもそうとはいえません。「健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間」、すなわち介護などを必要とせず自分で自分のことが問題なくできる期間を健康寿命といいます。厚生労働省の報告では、2019年の日本人女性の平均寿命は87.45歳であるのに対し、健康寿命は75.38歳と、12.06年の乖離があることがわかります(図表3)※5。すなわち、女性は人生の約14%を、日常生活に制限のある状態で生きていることになります。この期間は当事者にとって苦痛なうえ、それにかかる医療費を考慮すると、昨今の超高齢社会では社会保障制度の持続にもかかわる問題として重要視されています。 65歳以上の女性において、介護が必要となった原因として、最も多いものは認知症ですが、次いで、脳血管疾患(脳卒中)、骨折および転倒があげられます。脳血管疾患は動脈硬化症、そして骨折は骨粗しょう症が原因となります。それらは女性においては、閉経後に急速に増悪することが知られています。 (2)女性の動脈硬化症 女性ホルモンであるエストロゲンは、動脈硬化を抑える方向に働いています。悪玉コレステロールであるLDLコレステロールは、50歳未満では女性は男性よりも低値ですが、50歳を過ぎると上昇し、男性よりも高値になります。中性脂肪も同様に、50歳以降に上昇します。 動脈硬化の予防、すなわちコレステロールや中性脂肪が高くならないようにするためには、適切な食事や運動などの、生活習慣改善が主体となります。さらに、血液検査の結果によっては、薬物療法の開始も検討する必要があります。 (3)骨粗しょう症 骨の強度が弱くなり、骨折をしやすくなる疾患を、骨粗しょう症といいます。骨の強度は、おもに骨密度で決まります。骨密度は女性ホルモンであるエストロゲンと関係しており、閉経してエストロゲンが分泌されなくなると、急激に低下します。そのため、骨粗しょう症は圧倒的に女性に多い疾患です。80歳以上の女性の6割以上が骨粗しょう症であるという報告もあります。 骨粗しょう症は、それ自体はなんの自覚症状もありませんが、高齢になってから転倒した際に骨折をすると、そのまま寝たきりとなる原因になります。骨粗しょう症になっているかどうかを知るには、骨密度を計測するしかありません。骨粗しょう症検診は、40~70歳の女性に5歳刻みで実施している自治体が多いです。しかしその受診率は非常に低く、2022年の調査では5.5%であったといいます※6。まずは、更年期に入ったら骨密度を測定しましょう。 骨粗しょう症と診断されたら、早めに治療を開始することも重要です。現在さまざまな骨粗しょう症治療薬が使用されており、医師と相談して適切な治療法を選択してください。先に説明したHRTは、骨量増加や骨折リスク減少の効果もありますので、更年期の女性の場合は選択肢になります。 5 更年期以降の女性の健康課題への企業における対応 現時点では日本国内において、企業で更年期障害やそれ以降の女性の健康課題に、どう対応すべきかについての明確な指針はありません。しかし、更年期障害やそれ以降の女性の健康課題、そして仕事に与える影響について、当事者だけでなく、上司や同僚など周囲の人々の双方が知識を得る機会を持つことが、最初の一歩となるでしょう。そして相談しやすい環境をつくったうえで、適切な治療を受ける機会を与えることが重要であるといえます。 不調に悩む当事者が、テレワークなどを適宜取り混ぜられるようにすることも効果的であると感じています。また、更年期障害を含むさまざまな疾患に対し、治療が必要になった際には、通院しやすいよう、お互いにサポートし合える環境があるとよいでしょう。フレキシブルな勤務体制を、女性だけでなくみんなが享受できるように、検討することも望まれます。 6 おわりに 女性の人生は、初経を迎えたときから閉経後まで、女性ホルモンの変動に翻弄されています。また女性ホルモンに守られていた臓器は、閉経後にはトラブルを起こしやすくなります。 更年期障害や更年期以降の健康トラブルに対し、まずその存在を知り、適切な健診とセルフケアを行ったうえ、必要に応じて治療を行うことが、仕事のパフォーマンスを向上させ、日々を健やかに過ごすことにもつながると考えます。 ※1 経済産業省「健康経営のさらなる発展に向けて」(2018) https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/healthcare/downloadfiles/award_panel1_meti.pdf ※2 NHK、JILPT、一般社団法人女性の健康とメノポーズ協会、特定非営利活動法人POSSE による共同企画「更年期と仕事に関する調査」(2021) ※3 経済産業省「女性特有の健康課題による経済損失の試算と健康経営の必要性について」(2024) https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/healthcare/downloadfiles/jyosei_keizaisonshitsu.pdf ※4 日本産科婦人科学会教育・用語委員会報告「本邦女性の閉経年齢について」に関する委員会提案理由.日産婦誌47:449-451,1995 ※5 厚生労働省「令和4年版厚生労働白書」(2022) ※6 公益財団法人骨粗鬆症財団「検診者数及び各都道府県の骨粗鬆症検診率」(2022) 図表1 女性のライフサイクルと女性ホルモンの変動 エストロゲン プロゲステロン 小児期 思春期 性成熟期 閉経 更年期 ※筆者作成 図表2 更年期とそれ以降の女性に推奨されるセルフケア ●(喫煙していれば)禁煙 ●食生活の見直し 骨粗しょう症予防 カルシウム、ビタミンD、ビタミンK、マグネシウム、ビタミンC、ビタミンBなど 脂質異常症予防 食物繊維や青魚を摂取、動物性脂肪やアルコールの摂取を減らす ●運動 有酸素運動とレジスタンス運動(筋力トレーニング)の組み合わせ ●睡眠 ●ストレスケアとしてのリラクゼーションヨガ、マインドフルネスなど ※筆者作成 図表3 平均寿命と健康寿命の差(2019年) 男性 平均寿命 健康寿命 8.73年 女性 平均寿命 健康寿命 12.06年 女性において健康寿命を短縮させる原因 1.認知症 2.脳卒中 3.骨折・転倒 ※厚生労働省「令和4年版厚生労働白書」(2022)を基に筆者作成 【P19-22】 事例1 セカンドキャリア形成も醸成する女性活躍支援と、高齢期向け健康診断 株式会社ファンケル(神奈川県横浜市) 65歳からは「アクティブシニア社員」年齢上限なしの雇用制度を導入 株式会社ファンケルは1980(昭和55)年に個人創業し、1981年に設立された化粧品および健康食品の研究開発・製造・販売会社。化粧品による肌トラブルが社会問題になっていた時代に無添加化粧品の普及・開発に取り組むとともに、栄養補助食品を「サプリメント」の呼称で世間に定着させ、青汁・発芽米など健康志向のニーズに応えた商品を提供。「世の中の不安や不便などの『不』を解消したい」と掲げた企業理念のもと、進取の気概を持って成長してきた企業である。 研究、製造、企画から販売までを自社で行う「製販一貫体制」が強みのファンケルには、幅広い職域があり、また、創業時から工場や配送部門において多くの女性が活躍してきた。 管理本部人事部人事企画グループ課長の和田(わだ)聡美(さとみ)さんは、「当社で長く働いている社員に、いままでつちかったスキルや経験を引き続き発揮してもらいたいという期待から、2017(平成29)年にアクティブシニア社員制度を導入しました」と話す。 「アクティブシニア社員制度」は、65歳以上の人材を対象とした1年契約の時給制で、雇用の年齢上限を設けず、本人の希望と会社の要望があれば何歳まででも働くことができる。週4日勤務や1日5時間勤務など、勤務日数や時間については希望に沿った柔軟な働き方が可能だ。2024(令和6)年10月末時点で27人のアクティブシニア社員が在籍しており、女性が20人、男性が7人となっている。64歳まで所属していた部署で引き続き勤務するケースが大半で、バックオフィスであるお客さまの返品交換対応の伝票処理、品質保証部門などのほか、役職経験者も活躍している。最高年齢者は77歳だ。 また、アクティブシニア社員制度を導入した3年後の2020年には、正社員の定年を60歳から65歳に延長した。設立から40数年の比較的若い会社であるため、これまでごく少数しか定年到達者は出ていなかったが、人員構成から次第に定年到達者が増えることを見すえて、かねてより定年制度の見直しを検討していたという。それまでは60歳定年後の5年間は再雇用の嘱託社員、65歳からアクティブシニア社員に雇用形態を変更していたが、現在は65歳の定年を迎えた後はアクティブシニア社員に切り替わる。 「現在、60~65歳の社員は50人程度です。今後はこの層がさらに増えていきますし、同時にアクティブシニア社員も増えていきます。いまはまだ人数が少ないなかで運用しているので、人数が増えたときにどういう課題が出てくるのかは引き続き注視していきます」(和田さん) 手厚い両立支援策により復帰率100%出産・育児休暇をブランクにしない風土 同社は女性社員の比率が高く、全体の約3分の2を占めており、女性管理職の比率は49%と、日本有数の女性活躍企業である。その要因の一つが、仕事と育児の両立を支援する制度の充実だ。例えば、育児時短勤務は子どもの小学校卒業まで適用可能なうえ、18歳になるまで月額1万円の手当が支給され、看護休暇も法定より多く取得できる仕組みがある。 「創業当時から女性社員が多い状況は変わっていません。当初は個人創業だったので、近くに住んでいる女性たちを頼りに事業を行っており、女性の活躍なしには会社の成長はなかったという歴史があるので、女性活躍推進に向けて、早い段階からさまざまな制度を導入してきました」(和田さん) 女性が出産・育児をきっかけに退職するケースは一般的に珍しくないが、ファンケルでは手厚い仕事と育児の両立支援制度の活用が浸透しており、「退職することはほぼない」と和田さんは明言する。 「出産・育児休業の取得はもちろん、復帰した後も時短勤務があたり前という文化ができています。そのため、社員の定着率も非常に高くなっています。また、仕事と育児を両立しながら活躍する女性管理職の比率も高くなっています」(和田さん) 休職者が所属するグループの運営は、業務内容にもよるが、派遣社員を活用して補充したり、組織内での人員配置を見直して対応している。 「それで100%すべてが対応できるかといえば必ずしもそうではないので、対応できない場合は人員が欠けた状態でグループを運営していくことになります。この場合、欠員をカバーして全員で目標を達成したら、加点として評価し賞与に紐づける仕組みをつくっています」(和田さん) このように、報酬に絡めて欠員の不平等感を払拭し、精神的な負担を軽減する工夫に取り組んでいる。 女性活躍をテーマに研修を実施し多様な考えに触れ自身の不安を払拭 多くの女性が活躍し、その活躍を支援するための仕組みを数多く導入している同社だが、特に女性活躍推進研修などによるアプローチをしてきたわけではないという。創業当時から女性が多く、女性管理職も意識して増やしてきたのではなく、結果として高い比率となっていたそうだ。しかし、2年前、「女性の役職者向けに女性活躍について考える場を設けてはどうか」と研修を実施することになった。研修の目的は、女性のなかにもさまざまな価値観があることを知り、「自分らしい」リーダー像を描けるようになることだ。 研修には31~59歳までの87人が参加し意見交換を実施。忌憚のない意見が飛び交い、「グループにおいて自分ががんばって耐えるという気持ちがある」と自己犠牲を払っていると感じている人や、「自分のあり方はこうでなくてはいけない」と「あるべき姿」に固執する辛さを吐露する人、「子どもが小さく手がかかる間は子育てを優先したい」と考えるなど、それぞれの立場から、さまざまな意見があがった。 これにより、さまざまなバックグラウンドと考え方を持った女性管理職がいることが明らかとなり、参加者した女性役職者たちはこの結果を受け、お互いの環境の違いを認め合い、交流と結束を深める場になったという。また、管理職だからといって男性と同じ働き方をする必要はなく、もちろんほかの女性管理職と同じでなくてもよく、一人ひとりが自分の考えを持って自己実現を達成するという目標を共有できる機会になった。 女性活躍をテーマにした研修は、個々の不安を吐露するなかで参加者同士が気づきを得て、自分の考えを肯定するに至り、キャリア形成に対する不安の軽減・解消につながる機会となっている。 研修にてアクティブシニア社員が女性視点のセカンドキャリアを語る キャリア研修については女性に限定せず、年代別に研修を実施している。そのうち50歳以降を対象にした研修では、60歳以降のキャリア、あるいは正社員を退職した後も含めた長期視点でのキャリアを考えるプログラムを実施した。その際、アクティブシニア社員が登壇し、自身の正社員時代のキャリアの積み重ね方をはじめ、何を達成したか、アクティブシニア社員に切り替わってからの変化、雇用形態が変わってから留意した点、周囲との関係性の変化について語ってもらっている。 「受講者である50代社員のなかには、定年後も引き続き働きたいと考える社員が多くいました。アクティブシニア社員は時給制ですので、フルタイムでも短時間勤務でも個人の希望が柔軟に反映されるため、正社員のときよりも、仕事と仕事以外とのバランスが柔軟にとれるような設計になっています」(和田さん) 高齢女性特有の健康管理に対し健康診断の項目を追加しフォロー 60歳以降も活躍してもらうために、女性の健康課題対策にも力を入れている同社では、社内に「健康支援室」という組織を設け、6人の保健師がファンケルの社員として常駐しており、そのうち5人が女性である。幅広い医療の専門知識を活かし、グループ会社含めて約3000人の社員の健康管理、心身の健康における保持増進の役割をになっている。 女性特有の心身の悩みについても、間に人や情報を介さず直接保健師に相談できるシステムを導入しており、デリケートな内容を他者に知られず、安心して健康相談ができると好評だ。 さらに、2024年からは、40~70歳までの女性社員を対象に骨密度検査の項目を健康診断に追加した。骨密度の低下により骨折を引き起こす骨粗しょう症は、閉経後、女性ホルモン分泌の低下にともない骨量が急激に減少するため、男性より発症しやすい。そのほか、女性のためのがん検診などもすでに実施している。 美容と健康の分野を扱うだけに社員個々の健康意識も高いが、会社として女性に長く元気に働いてもらうための健康サポートは手厚く、フォローアップ体制をつねに整備している。 物流一筋のプロ人材。役職を経験後アクティブシニア社員として活躍 アクティブシニア社員の多くは、所属する部署の業務に長年たずさわってきた人たちなので、そこで蓄積した知見や経験は会社にとって非常に大きな財産と認識されている。そのなかの一人、管理本部物流部関東物流センターに所属する松丸(まつまる)よし江(え)さん(66歳)は、36歳で入社したときから物流部門一筋。発送にかかわる仕事全般を経験し、勤務先の物流センターが立ち上がったときから事業にたずさわってきた。おもに通信販売の出荷管理を担当し、本社の営業部門から届く出荷指示や問合せに対応。提携する配送会社ならびに出荷現場との調整を行っている。 「出荷現場では指示通りに動くのではなく、気づきを持って声をあげてほしいと常々口にしてきました。届いた声をもとに、設定の修正や指示の変更を行うことで、お客さまにきちんとした荷物を届けることができます。出荷繁忙期に、お客さまから『商品の到着が迅速だった』、『梱包の状態がきれいだった』という声を聞くとうれしいです」(松丸さん) 入社した際はちょうど子育ての真っ只中だったが、家族の協力を得て仕事との両立を図ってきた。現在は週5日、フルタイムで勤務している。 「朝から晩まで働きたい思いがあります。もう子どもも成人しているので手間がかかりません。上司に恵まれ、自分がやりたいと思うことをやらせてもらえたことがキャリアのうえでは大きかったです。挑戦してそれが身になって、成功したときの喜びがありました」(松丸さん) 56歳のときに課長に昇進し、定年までセンター長を務めた。「マネジメント業務にも全力で取り組んできただけに、定年で役割が変わった際は寂しさを感じました」と話す松丸さん。その後も勝手を知る物流部門で知見を活かして発送の現場を支えている。ふり返れば「あっという間の30年間」だったという。 「最近は年齢的なこともあって、若いころや管理職時代に比べると、体力などが落ちてきていることを感じることはあります。自分の子どもと同じくらいの年代の同僚に、自分の経験をうまく伝えられたらよいなと思って仕事をしています。体が元気なうちはがんばって働き続けたいです」(松丸さん) いずれは時短勤務を活用することを考えており、「本当にこの会社が好き」といってはばからないファンケルで働き続ける意向を示した。 和田さんは最後に、「人事部に異動してから、外部の企業を知る機会があり、当社と比較してみると、当社ではあたり前となっている文化や制度が、外部ではあたり前ではないことにあらためて気づきました。当社の理念は『不の解消』で、全社的に理念は浸透しており、社員は『“不”に対してもっと何かできるはず』という軸でさまざまなことを考えています。美と健康を事業の軸にしている会社ですので、社員である自分自身がいつまでも美しく健やかであることを体現していくために、社員の高齢期の働き方、健康対策も含めて、今後も取り組んでいきます」と力強く話してくれた。 出産や育児において休みやすく復帰しやすい仕組みに加えて、高齢期の健康管理支援が、女性のキャリア形成と会社への愛着を生み、定年後も長く活躍する人材の育成につながっているファンケル。 社会課題である女性活躍推進を難なく実現し、女性の高齢期における雇用についてロールモデルを育成しつつある同社の取組みから、ますます目が離せない。 写真のキャプション 管理本部人事部人事企画グループ課長の和田聡美さん アクティブシニア社員の松丸よし江さん 【P23-25】 事例2 働き方の選択肢を広げ生涯現役で活躍できる職場づくりを推進 株式会社東横(とうよこ)イン(東京都大田区) 女性管理職比率の高さNo.1 ホテル支配人は90%以上が女性 株式会社東横インは、1986(昭和61)年に東京都大田区蒲田(かまた)に「東横INN」1号店をオープン。以来、「清潔・安心・値ごろ感」をコンセプトにビジネスホテルのスタンダードを構築し、多くの利用者に親しまれ、日本最大級の客室数を有するホテルチェーンに成長した。2024(令和6)年9月現在、国内外で計355店のホテルを運営しており、総客室数は、7万8000室超にのぼる。企業使命に「あらゆる人の移動を応援する基地となる」を掲げ、全国同一レベルのサービスの維持・向上に努めており、2024年6月には、国内333店の「東横INN」において、経済産業省が創設した、サービス品質を見える化するための規格認証制度「おもてなし規格認証『紺』認証」を取得している。 2024年9月時点の社員数は、正社員3805人、パート社員1万2543人。創業当初から女性が多く、正社員の約75%、パート社員の約81%が女性である。さらに、黒田(くろだ)麻衣子(まいこ)社長をはじめ、リーダーシップを発揮して活躍する女性が多いことも同社の特徴だ。厚生労働省が公表している「女性管理職比率の高い企業ランキング※」によると、同社の「女性管理職比率(課長級以上)」は96.8%で、従業員5001人以上の企業のなかで第1位である(2024年11月1日時点)。 年齢構成に目を向けると、正社員における60歳以上の社員は2.4%(98人)だが、現場のパート社員では、32.5%(4401人)が60歳以上となっている。 同社では2024年4月に就業規則を改定し、正社員・パート社員の定年を60歳から65歳に延長した。定年後は1年ごとに更新の継続雇用で、正社員・パート社員いずれも年齢上限なく働くことができる。ただし正社員の場合、定年以降は嘱託社員となり、賃金は月給制。パート社員の場合は時間給となる。 執行役員・管理本部総務部長の平賀(ひらが)幸浩(ゆきひろ)さんは、65歳への定年延長と年齢上限のない継続雇用制度について、「当社では、60歳定年以降もほとんどの社員が継続して働いているほか、ホテルでは80歳を超えても元気に働いている人も多いという当社の実態に合わせたものです」と説明する。 支配人、フロント、客室清掃などあらゆる場面で女性が活躍 同社では、支配人、フロント、メイク(客室清掃)などさまざまな業務で、女性が活躍している。 きっかけは、1986年開業の1号店の支配人に、たまたま女性を起用したことだったという。ホテルの仕事は未経験という50代の女性だったが、見事に期待に応えてくれたそうだ。このことが、現在のホテル運営の起点となった。管理本部総務部担当部長の植松(うえまつ)青哉(せいや)さんは、「きめ細かい応対や施設をきれいに保つこと、温かい雰囲気づくり、作業の効率化などにおいて、そういったことが得意な人の力が活かせる仕事だと考えています」と女性の積極的な登用に取り組む意図を語る。 1年間の研修制度に加え、悩みごとを相談できる機会もつくる 同社の黒田社長は、「日本一女性が働きがいのある職場をつくること」を目標に掲げており、仕事と子育ての両立を図るための制度を手厚くするなどして、2022年には「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律(女性活躍推進法)」に基づく優良企業として、「えるぼし」認定で3つ星を取得している。 また、採用と育成について、例えば支配人は、性別や年齢だけでなく、ホテルで働いた経験の有無を問わず、さまざまな経験を重視して中途採用を行っており、特に30~50代前半くらいまでの女性を採用することが多いという。 展開するホテルでは、それぞれが一つのチームという考え方のもと、支配人はそのリーダーとして、スタッフの採用・教育・指導・勤怠管理、信頼関係の構築など、チームで協力し合う職場環境づくりが求められる。さらに、ホテル施設の管理、収支管理、数値分析、地元へのPR活動など、運営に関するすべてを任せられている。 そのため、ホテル支配人の育成は、支配人候補として入社後、次の流れで行われる。 ①本社において「スタートアップ研修」(2カ月間、基礎研修と店舗研修を行い、ホテルの仕事すべてを経験する)の受講 ②その後、支配人として着任し、6カ月間は新人支配人のサポートのための「ひよこクラブ」の一員として、毎月1回本社に集合し、悩みや問題点の解決を図る ③その後も「ベーシック研修」(6カ月間)を毎月1回受講し、支配人業務についてより理解を深める。この間、資格取得など自らスキルアップに励み、特に簿記3級は支配人の必須資格で、取得のための費用は会社が負担する このように、研修中は東京の本社に毎月通うというハードな日々となるが、研修講師は支配人が務めており、先輩として、新支配人の悩みごとなどの相談にものる。 また、支配人は全国12エリアと韓国に分かれ、月一回「エリア会議」を行っており、支配人同士で情報交換や好事例の共有、課題解決などの話合いを通して、悩みも相談できる場となっている。また、「委員会」という仕組みがあり、各委員会にエリアを代表する支配人が参加しており、委員会活動を通じて、予算や清掃、人事管理の仕組みなどの新しい知識を身につけたり、会社全体に影響を及ぼしたりする活動も行っている。 研修制度やこうした支配人同士でのコミュニケーションにより、切磋琢磨する環境があることも、働き続けるうえで大きな支えになっている。 支配人は65歳で退任、その後は研修講師など多様な場所で活躍 支配人は重責であり、24時間365日稼働するホテルのリーダーとして、心身にかかる負担の大きさなどを考慮して、だれもが65歳で退任することとしている。 退任後は、支配人の経験を活かして、フロント研修センター講師をはじめ、リクルーターなど、本社やグループ会社を含めて多様な仕事に就いて活躍し続けている。 「配属先は、本人の希望と特性、勤務場所などをふまえて決めています。65歳を迎える支配人は今後増えていきますので、グループ会社での活躍も含めて、より多様な配属先を考えていきます」と平賀総務部長は今後を見すえて語る。 短時間勤務の「RMS」を導入 両立支援にも有効 一方、パート社員はほとんどの場合、65歳以降もそれまでと同じ業務を続ける。メイクやパントリー(朝食準備)は採用時から年齢の高い社員が多く、女性の最高齢者は、朝食づくりを担当している89歳のパート社員。男性の最高齢者は90歳で、駐車場管理に就いている。 ベッドメイクや、客室・浴室の清掃では、腰をかがめたり、熱湯を使用したりする作業を短時間で効率よく行う必要があり、熟練者はかけがえのない存在だという。しかし、高齢になり体力の低下を感じる社員もいることから、本人の希望で担当客室数を減らす「プラチナコース」という働き方が選べる制度を導入しているほか、担当客室を持つ社員をサポートする役割の「ルームメイクサポーター職(RMS)」も設け、負担を減らしながら働き続けることができる環境を整えている。 また、パート社員は、働く時間帯や勤務時間を柔軟に選ぶことが可能で、1日の勤務は最短3時間から選ぶことができる。「入社後は3時間の勤務から始めて、慣れてきたら時間を増やすことも可能です。体力的に負担を軽減したい人、家庭と仕事の両立を図りたい人などが利用しやすいよう、柔軟性を持たせています。現場はシフトを組むのがたいへんになりますが、長く働き続けられる制度として、よりよいものにしていきたいです」と植松担当部長は話す。 健康と安全の確保に向けて現場の声を聞き、よりよい職場へ 女性がリーダーとして活躍し、定年後も継続して働くことを希望する社員が多い職場風土は、どのようにして築かれてきたのだろうか。顧客満足推進本部ブランド戦略部の菊地(きくち)真鈴(まりん)さんは、「就職活動をしていたとき、社長が女性であることから、『女性がリーダーシップを発揮できる会社なのだ』と思いました。実際に入社すると女性管理職が多く、その活躍する姿を見てきたので、女性が管理職になることをごく自然なことと受けとめています。産休・育休、育児のための時短勤務はあたり前で、“お互いさま”の気持ちでサポートできる組織になっていることも大きなポイントだと思います」と語ってくれた。 平賀総務部長は、「性別や年齢で制限をせず未経験でも歓迎してきたこと、リーダーシップややる気を重視して採用に取り組んできたこともよかったのだと思います」と採用活動における姿勢をあげる。 今後は、高齢になる社員も増えていくことから、健康と安全の確保がより重要になるという。清掃作業などについては、将来的にロボットの導入も視野に入れて研究を重ねているが、お客さま対応をはじめ、朝食準備など、社員が行う作業を大切にしていることから、現場の声の把握に努めながら、今後も社員にとって働きがいのある働き方や職場環境を追求していく構えだ。 ※ https://positive-ryouritsu.mhlw.go.jp/positivedb/ranking 写真のキャプション 平賀幸浩総務部長(後列左から3人目)、植松青哉総務部担当部長(後列右)、菊地真鈴さん(前列右から3番目)と管理本部総務部のみなさん。本社でも多くの女性社員が活躍している 【P26-28】 資料 内閣府『令和6年版 男女共同参画白書』より 内閣府では、男女共同参画基本法に基づき年次報告書である『男女共同参画白書』を毎年発行しています。本稿では、2024(令和6)年6月に公開された『令和6年版男女共同参画白書』特集「仕事と健康の両立~全ての人が希望に応じて活躍できる社会の実現に向けて~」より、中高年女性の就業に関係する項目を抜粋し紹介します(編集部)。 ※前略 (1)我が国の人口構造の変化 現在の社会保障制度・日本型雇用慣行が形作られた昭和時代と現在とでは、社会の人口構造が大きく変化している。我が国の総人口は、平成20(2008)年をピークに減少が始まっているが、生産年齢人口(15~64歳の人口)は平成7(1995)年をピークに減少しており、今後は更に大きく減少していくことが予測されている。就業者の構成も大きく変化し、就業者数における男女差は小さくなっている。また、昭和55(1980)年時点では女性は20代前半、男性は30代前半にあった就業者数のピークが、令和2(2020)年時点では、男女ともに40代後半となるなど、就業者の年齢構成も変化している(図表1)。 (2)就業状況の変化 (労働力人口比率と正規雇用比率) かつて、我が国の女性の年齢階級別労働力人口比率は、結婚・出産期に当たる25~29歳及び30~34歳を底とするM字カーブを描いていたが、令和5(2023)年時点では、M字はほぼ解消し、20代から50代まで台形に近い形を描いている。 一方、正規雇用比率をみると、女性は男性と比べて正規雇用比率が低く、男性は20代後半から50代まで7~8割で台形を描いている一方、女性は25~29歳の59.4%をピークとし、年代が上がるとともに低下する、L字カーブを描いている(図表2)。 女性の正規雇用比率の推移を年齢階級別にみると、平成の前半までは、正規雇用比率のピークが20~24歳にあり、平成4(1992)年時点で59.3%となっていた。その後、就職氷河期にピークが低下するとともに、大学進学率の上昇などを背景に25~29歳に移動した。25~29歳の正規雇用比率は平成14(2002)年時点では41.8%となっており、その後、しばらく40%台で推移していたが、平成24(2012)年以降、20代から40代を中心に正規雇用比率が上昇し、令和4(2022)年時点では61.1%となっている。 一方、男性は、就職氷河期に正規雇用比率のピークが若干低下したものの、その後大きな変化はなく78~79%台で推移し、年齢階級別にみても、台形を描いている(図表3)。 一方、出生コーホート別に、世代による変化をみると、近年は出産・育児によるとみられる女性の正規雇用比率の低下幅は小さくなっており、ほぼ全ての年代で、以前に比べ、高水準で推移している。この状況が続けば、今後も女性の正規雇用比率の高まりが期待される。 ※中略 (3)育児・介護の担い手の変化 ※中略 (家族の介護) 家族の介護をしている者は、令和4(2022)年時点で629万人で、10年前の平成24(2012)年時点(557万人)と比べ、71万人増加している。 就業状況別にみると、家族の介護をしている無業者が10年間で2万人減少している一方、有業者は74万人(女性48万人、男性26万人)増加しており、男女ともに介護をしながら働く者が増加している。 年代別にみると、男女ともに50代以上が多いが、特に50代以上の女性が家族の介護をしている者の半数を占めている。 団塊の世代が75歳以上の後期高齢者に差し掛かりつつあることから、夫や妻、親の介護をする者が増えてきているものと推測される。 ※中略 (出産・育児、介護による離職) 過去1年間(令和3(2021)年10月~令和4(2022)年9月)に前職を辞めた者について、離職理由別にみると、「出産・育児のため」とする者は、女性14.1万人(女性離職者のうち4.6%)、男性0.7万人(男性離職者のうち0.3%)、「介護・看護のため」とする者は、女性で8万人(女性離職者のうち2.6%)、男性で2.6万人(男性離職者のうち1.1%)となっている。 離職理由別の過去1年間の離職者の推移をみると、「出産・育児のため」とする離職者は減少している一方、「介護・看護のため」とする離職者は横ばいから増加傾向にある。 働きながら介護をするというワーキングケアラーの時代が到来している。今後の更なる高齢化や生産年齢人口の急減予測を踏まえると、介護離職は大きな問題である。また、介護離職は企業にとっても大きな損失であるため、仕事と介護が両立できるように取り組んでいく必要がある。そのためには、介護をしながらも、介護だけにとらわれず、自らの希望する生き方を実現できる環境や支援体制の整備が極めて重要である。ここでも柔軟な働き方への支援が求められる。 一方、「出産・育児のため」、「介護・看護のため」を理由とする離職者は、いずれも女性の割合が高く、今後、高齢化が進展していく中で、就業継続のために更なるサポートが望まれる。 前述のとおり、我が国の現状は、いわゆる「M字カーブ」の問題は解消に向かっているものの、「L字カーブ」の存在に象徴されるように、様々なライフイベントに際し、キャリア形成との二者択一を迫られるのは、依然として多くが女性であり、その背景には、長時間労働を前提とした雇用慣行や女性への家事・育児等の無償労働時間の偏り、それらの根底にある固定的な性別役割分担意識などの構造的な課題が存在している。 図表1 人口構造の変化(男女、年齢階級、就業状況別・15歳以上) 昭和55(1980)年 (万人) 85歳以上 80~84歳 75~79歳 70~74歳 65~69歳 60~64歳 55~59歳 50~54歳 45~49歳 40~44歳 35~39歳 30~34歳 25~29歳 20~24歳 15~19歳 令和2(2020)年 (万人) 男性/就業者 男性/非就業者 女性/就業者 女性/非就業者 (備考)1.総務省「国勢調査」より作成。 2.令和2(2020)年は、「令和2年国勢調査に関する不詳補完結果」を用いている。 3.非就業者=当該年齢階級別人口-就業者。なお、昭和55(1980)年の「非就業者」には、労働力状態「不詳」が含まれている。 図表2 就業状況別人口割合(男女、年齢階級別・令和5(2023)年) (%) 女性 15歳以上人口:5,696万人 労働力人口:3,124万人 15~19歳 20~24歳 25~29歳 30~34歳 35~39歳 40~44歳 45~49歳 50~54歳 55~59歳 60~64歳 65歳以上 役員 正規の職員・従業員 非正規の職員・従業員 自営業主 家族従業者 従業上の地位不詳 完全失業者 労働力人口比率 正規雇用比率 3.0 40.6 59.4 49.5 41.5 38.2 37.1 34.0 30.2 17.5 18.7 3.5 22.8 76.6 88.2 82.6 80.1 82.1 83.2 80.7 76.4 65.3 男性 (%) 15歳以上人口:5,321万人 労働力人口:3,801万人 15~19歳 20~24歳 25~29歳 30~34歳 35~39歳 40~44歳 45~49歳 50~54歳 55~59歳 60~64歳 65歳以上 役員 正規の職員・従業員 非正規の職員・従業員 自営業主 家族従業者 従業上の地位不詳 完全失業者 労働力人口比率 正規雇用比率 4.2 40.8 72.8 76.5 78.6 79.2 79.1 76.9 73.7 45.0 10.2 19.1 74.5 94.0 95.4 96.1 95.9 95.7 94.8 93.9 86.8 34.8 (備考)1.総務省「労働力調査(基本集計)」より作成。 2.労働力人口比率は、当該年齢階級人口に占める労働力人口(就業者+完全失業者)の割合。 3.正規雇用比率は、当該年齢階級人口に占める「役員」及び「正規の職員・従業員」の割合。 図表3 正規雇用比率の推移(男女、年齢階級別) 女性 15~19歳 20~24歳 25~29歳 30~34歳 35~39歳 40~44歳 45~49歳 50~54歳 55~59歳 60~64歳 65歳以上 昭和57(1982)年 昭和62(1987)年 平成4(1992)年 平成9(1997)年 平成14(2002)年 平成19(2007)年 平成24(2012)年 平成29(2017)年 平成4(1992)年 59.3 令和4(2022)年 61.1 平成14(2002)年 41.8 男性 15~19歳 20~24歳 25~29歳 30~34歳 35~39歳 40~44歳 45~49歳 50~54歳 55~59歳 60~64歳 65歳以上 昭和57(1982)年 昭和62(1987)年 平成4(1992)年 平成9(1997)年 平成14(2002)年 平成19(2007)年 平成24(2012)年 平成29(2017)年 平成4(1992)年 85.6 平成14(2002)年 80.8 令和4(2022)年 79.0 (備考)1.総務省「就業構造基本調査」より作成。 2.正規雇用比率は、当該年齢階級人口に占める「役員」及び「正規の職員・従業員」の割合。