【表紙2】 助成金のごあんない 65歳超雇用推進助成金 65歳超雇用推進助成金に係る説明動画はこちら 65歳超継続雇用促進コース  65歳以上への定年の引上げ、定年の定めの廃止、希望者全員を対象とする66歳以上の継続雇用制度の導入、他社による継続雇用制度の導入のいずれかの措置を実施した事業主の皆様を助成します。 主な支給要件 ●労働協約または就業規則で定めている定年年齢等を、過去最高を上回る年齢に引上げること ●定年の引上げ等の実施に対して、専門家へ委託費等の経費の支出があること。また、改正前後の就業規則を労働基準監督署へ届け出ること ●1年以上継続して雇用されている60歳以上の雇用保険被保険者が1人以上いること ●高年齢者雇用等推進者の選任及び高年齢者雇用管理に関する措置(※1)の実施 支給額 ●定年の引上げ等の措置の内容、60歳以上の対象被保険者数、定年等の引上げ年数に応じて10万円から160万円 受付期間 定年の引上げ等の措置の実施日が属する月の翌月から起算して4カ月以内の各月月初から5開庁日までに、必要な書類を添えて、申請窓口へ申請してください。 高年齢者評価制度等雇用管理改善コース  高年齢者の雇用管理制度を整備するための措置(高年齢者雇用管理整備措置)を実施した事業主の皆様を助成します。 措置(注1)の内容 高年齢者の能力開発、能力評価、賃金体系、労働時間等の雇用管理制度の見直しもしくは導入、法定の健康診断以外の健康管理制度(人間ドックまたは生活習慣病予防検診)の導入 (注1)措置は、55歳以上の高年齢者を対象として労働協約または就業規則に規定し、1人以上の支給対象被保険者に実施・適用することが必要。 支給額 支給対象経費(注2)の60%、ただし中小企業事業主以外は45% (注2)措置の実施に必要な専門家への委託費、コンサルタントとの相談経費、措置の実施に伴い必要となる機器、システム及びソフトウェア等の導入に要した経費(経費の額に関わらず、初回の申請に限り50万円の費用を要したものとみなします。) 高年齢者無期雇用転換コース  50歳以上かつ定年年齢未満の有期契約労働者を無期雇用労働者に転換した事業主の皆様を助成します。 主な支給要件 @高年齢者雇用等推進者の選任及び高年齢者雇用管理に関する措置(※1)を実施し、無期雇用転換制度を就業規則等に規定していること A無期雇用転換計画に基づき、無期雇用労働者に転換していること B無期雇用に転換した労働者に転換後6カ月分の賃金を支給していること C雇用保険被保険者を事業主都合で離職させていないこと 支給額 ●対象労働者1人につき48万円(中小企業事業主以外は38万円) 高年齢者雇用管理に関する措置(※1)とは(a)職業能力の開発及び向上のための教育訓練の実施等、(b)作業施設・方法の改善、(c) 健康管理、安全衛生の配慮、(d)職域の拡大、(e)知識、経験等を活用できる配置、処遇の推進、(f)賃金体系の見直し、(g)勤務時間制度の弾力化のいずれか 障害者雇用助成金 障害者雇用助成金に係る説明動画はこちら 障害者作業施設設置等助成金  障害特性による就労上の課題を克服し、作業を容易にするために配慮された施設等の設置・整備を行う場合に、その費用の一部を助成します。 支給対象となる措置 @障害者用トイレを設置すること A拡大読書器を購入すること B就業場所に手すりを設置すること 等 支給額 支給対象費用の2/3 障害者福祉施設設置等助成金  障害者の福祉の増進を図るため、障害特性による課題に対する配慮をした福祉施設の設置・整備を行う場合に、その費用の一部を助成します。 支給対象となる措置 @休憩室・食堂等の施設を設置または整備すること A@の施設に附帯するトイレ・玄関等を設置または整備すること B@、Aの付属設備を設置または整備すること 等 支給額 支給対象費用の1/3 障害者介助等助成金  障害の特性に応じた適切な雇用管理に必要な介助者の配置等の措置を行う場合に、その費用の一部を助成します。 支給対象となる措置 @職場介助者を配置または委嘱すること A職場介助者の配置または委嘱を継続すること B手話通訳・要約筆記等担当者を委嘱すること C障害者相談窓口担当者を配置すること D職場支援員を配置または委嘱すること E職場復帰支援を行うこと F障害者が行う業務の介助を重度訪問介護等サービス事業者に委託すること 支給額 @B支給対象費用の3/4 A支給対象費用の2/3 C1人につき月額1万円 外 D配置:月額3万円、委嘱:1回1万円 E1人につき月額4万5千円 外 F1人につき月額13万3千円 外 職場適応援助者助成金  職場適応に課題を抱える障害者に対して、職場適応援助者による支援を行う場合に、その費用の一部を助成します。 支給対象となる措置 @訪問型職場適応援助者による支援を行うこと A企業在籍型職場適応援助者による支援を行うこと 支給額 @1日1万6千円 外 A月12万円 外 重度障害者等通勤対策助成金  障害の特性に応じた通勤を容易にするための措置を行う場合に、その費用の一部を助成します。 支給対象となる措置 @住宅を賃借すること A指導員を配置すること B住宅手当を支払うこと C通勤用バスを購入すること D通勤用バス運転従事者を委嘱すること E通勤援助者を委嘱すること F駐車場を賃借すること G通勤用自動車を購入すること H障害者の通勤の援助を重度訪問介護等サービス事業者に委託すること 支給額 @〜G支給対象費用の3/4 H1人につき月額7万4千円 外 重度障害者多数雇用事業所 施設設置等助成金  重度障害者を多数継続して雇用するために必要となる事業施設等の設置または整備を行う事業主について、障害者を雇用する事業所としてのモデル性が認められる場合に、その費用の一部を助成します。 ※事前相談が必要です。 支給対象となる措置 重度障害者等の雇用に適当な事業施設等(作業施設、管理施設、福祉施設、設備)を設置・整備すること支給額支給対象費用の2/3(特例3/4) ※お問合せや申請は、当機構(JEED)の都道府県支部高齢・障害者業務課(65ページ参照 東京、大阪支部は高齢・障害者窓口サービス課)までお願いします 【P1-4】 Leaders Talk リーダーズトーク No.102 行動科学マネジメントを使ったリスキリング 行動を設計し習慣化する仕組みのメソッド 株式会社ウィルPMインターナショナル代表取締役社長 社団法人行動科学マネジメント研究所所長 石田淳さん いしだ・じゅん 株式会社ウィルPMインターナショナル代表取締役社長。社団法人行動科学マネジメント研究所所長。社団法人組織行動セーフティマネジメント協会代表理事。米国行動分析学会(ABAI)会員。日本行動分析学会会員。日本ペンクラブ会員。日経BP主催『課長塾』講師。  リスキリング(学び直し)が注目を集めていますが、その重要性は理解しつつも、いざリスキリングをしようと思っても、なかなか続かない、あるいは最初の一歩がふみ出せない、という人も多いのではないでしょうか。そこで今回は、行動を習慣化する≠スめのメソッド、「行動科学マネジメント」の手法を用いたリスキリングのポイントについて、株式会社ウィルPMインターナショナルの石田淳さんにお話をうかがいました。 「いつ」、「だれが」、「だれに対して」、「どこで」行っても高い再現性が認められるのが「行動科学マネジメント」 ―石田さんは、「行動科学マネジメント」という手法を使い、多くの企業で社員の行動変容をうながす指導をされています。行動科学マネジメントとはどういうものでしょうか。 石田 行動科学マネジメントとは、行動分析学をベースとしたマネジメント手法です。行動分析学は人間の行動を科学的に研究する学問ですが、人間の行動に焦点をあて、「行動をどのように変えていくか」を考えるのが行動科学マネジメントであり、セルフマネジメントや部下のマネジメント、子どもの教育などに応用されています。大きな特徴は、行動から人の心の状態を読み取ろうとするのではなく、シンプルに行動を見ること。持って生まれた能力や、やる気や根性といった曖昧な要素を徹底して排除し「状況に応じてどんな行動をすべきか」という再現性を重視しています。  つまり、一部の突出したハイパフォーマーに頼るようなマネジメントではなく、8割の普通の人たちに結果を出してもらうことを目ざし、「いつ」、「だれが」、「だれに対して」、「どこで」行っても、同じような効果が出る、高い再現性が認められる科学的手法が、行動科学マネジメントです。最近では、いわゆる「Z世代」など、仕事観・価値観が異なる若手を含めて、だれがやっても結果を出せるような仕組みをつくりたいという企業が増えてきています。 ―石田さんは、行動科学マネジメントのセミナーなどを通して、中高年世代と接する機会が多いと思いますが、中高年世代を取りまく環境の変化をどう見ていますか。 石田 私が講師を務めるあるセミナーの参加者は40代がメイン層ですが、10年前とは明らかに環境が変わってきています。大きな変化の一つは、お金の問題。社会保険料率や消費税率の引上げ、コロナ禍以降の物価の高騰などもあり、生活の負担は増加傾向にあります。また、団塊世代が後期高齢者となることで生じる「2025年問題」により、さらなる負担の増加も懸念されています。いま以上に負担が増えることになれば、会社の収入だけでは生活できなくなる可能性もあり、これからの働き方に悩んでいる中高年世代は増えています。  二つ目の変化としてあげられるのは、「メンバーシップ型」から「ジョブ型」への変化が注目されているように、年齢や過去の経験に関係なく、いまのビジネスに貢献する人材≠ェ優遇される時代になりつつあることです。これまでは、年功で給与が保障され、解雇されることもなく会社が守ってくれましたが、いまは出世が困難となり、「将来のキャリアは自分で決めよう」といわれます。20代ならそういわれても何の疑問も抱きませんが、40歳を過ぎて突然「自分で決めよう」といわれても、現実的にはむずかしいでしょう。自らキャリアを切り拓いていくためにも「リスキリング(学び直し)」が注目を集めていますが、仕事をしながら勉強をする、学校に通うというのはなかなかたいへんなことです。 ―リスキリングが注目される背景には、デジタル化の進展によりビジネスモデルが変化し、それまでの経験や知識が陳腐化し、通用しなくなっているという現実もありますね。 石田 その通りです。例えばある業界では、取引先との人間関係構築力に優れた年配の営業マンが優秀な成績を上げていましたが、コロナ禍で状況が大きく変わりました。会食などの直接的なコミュニケーションの機会が減り、オンラインでの営業が中心となったことで、インターネット環境に詳しく、取引先のニーズに的確かつ即座に情報を提供できるパソコン操作に長けた若手社員が成績を上げ始めたのです。なかには、新しい営業スタイルになじめない社員を別部署に異動させた、という話も聞きます。すべての職種がそうだとはいいませんが、現在の知識やスキルが10年後も通じるかといえばむずかしいでしょう。 目的=ゴールを設定した後に必要な「ベイビーステップ」と「スモールゴール」 ―職業人生が長く続くことを考えると、リスキリングが重要になりますね。一方で、リスキリングの重要性は理解しつつも、最初の一歩がなかなかふみ出せないという人も少なくありません。 石田 「何を学ぶか」を決める前にまずやるべきことは、自分の「経験の棚卸し」です。これまでやってきた仕事をふり返り、いまの自分にはどんなスキルが身についており、どのくらい評価されているのか。周囲の声などを参考に整理してみましょう。そのうえで、5年後、10年後にいまの自分のスキルが活かせるのか、足りないものは何かを考えて整理し、そこから逆算して、学ぶ「目的=ゴール」を設定します。  ゴールに向かって継続的に学び続けるためには、行動を習慣化する仕組みをつくることが重要になります。そこで必要なのが「スモールゴール」です。最初の一歩は「ベイビーステップ」、つまり赤ちゃんでも超えられるような低いハードルから始め、少しずつ目標を上げていくのです。  じつは私は45歳からマラソンを始めたのですが、それまで20年以上運動をしたことがありませんでした。一念発起して「フルマラソンを走る」というゴールを設定し、最初は「週に2回、20分歩く」というところから始めました。しかも朝10分、夜10分でもいいのです。これができたら、次は「20分のうち5分間だけゆっくり走る」ようにし、徐々にハードルを上げていきます。  ここで大切なのは、自分自身に「できた」という達成感を与えること。この達成感が、行動の継続につながるのです。その結果、運動を始めてから半年後にフルマラソンを完走、その半年後にトライアスロン、さらに半年後に100キロマラソンを完走、練習をスタートしてから2年後には、サハラ砂漠で250キロを走りました。 ―自信が湧いてくるお話です。ゴールを設定したら、小さな成功の積み重ねから始めて、行動を習慣化する仕組みをつくるということですね。 石田 計画を立てても失敗する人に共通する点は、急にがんばりすぎることです。例えば、「1年後に英語を話せるようになる」という目標を立て、そのために英会話学校に通い、毎日勉強しようとすると、ほとんどの人が挫折します。なぜなら人間は急激な行動の変化を持続できないからです。最初から全速力で飛ばし、しかも途中のステップや習慣化のための環境づくりができていないことが失敗の大きな原因です。  行動を習慣化するためには、目標に向かって一緒に行動をする「サポーター」をつくること、もしくは進捗状況をだれかにチェックしてもらうことが有効です。一人でやると挫折しやすいですし、人と一緒にやるのが面倒ならSNSを使って「半年後に資格を取ります」と宣言して、後に引けない¥況をつくるのもよいでしょう。  また、まじめな人ほどストイックに勉強に取り組みがちなのですが、何かを継続するうえで「やる気」に頼るのはよくありません。「人の意志は弱い」という前提に立って行動を設計し、「一つのステップを達成したら自分にご褒美≠あげる」ことを習慣化するのもよいでしょう。おいしいものを食べる、好きな映画を観に行くなど、何でもよいのです。スモールゴールを多く設定すればご褒美≠熨スくなり、勉強も楽しくなります。 多様な人材をマネジメントしていくためには部下の「仕事の動機づけ条件」を知ることが重要 ―リスキリングは本人による自発的な行動の習慣化とは別に、企業が支援していくことも重要です。その一端をになうのは現場の管理職ですが、Z世代から年上部下まで、価値観の異なる多様な人材に対し、いままでのマネジメント手法が通用しない時代になっています。 石田 社員それぞれの「仕事の動機づけ条件」を把握することが大切です。その人が「何のために仕事をしているのか」という動機づけをつかむのです。昔はお金と出世がその中心でしたが、いまの若い人は「出世したい」という人は少ないですし、「残業してまでお金は欲しくない」という人もいます。仕事に対する価値観が大きく変化しており、しかも一人ひとり異なります。人手不足のなかで長く勤めてもらいたいと思えば、その人の価値観に合わせて動機づけ条件を考えていくことが必要でしょう。仕事も学びも一緒で、人を動かすには本人が欲しているものを与えてあげることが肝要です。  一方、年上部下の動機づけ条件はむずかしくはありません。例えば、役職定年になり、給料も下がり、やる気を失っている部下がいるとすれば、時間をつくり、じっくりと話を聞いてあげましょう。そのうえで「助けてください」とお願いをする。本人は「自分のことを頼ってくれている、しょうがないな、助けてやるか」と思うはずです。年上部下は意外とシンプルなコミュニケーションを求めていますし、これも動機づけ条件なのです。 (インタビュー/溝上憲文 撮影/中岡泰博) 【もくじ】 エルダー(elder)は、英語のoldの比較級で、” 年長の人、目上の人、尊敬される人”などの意味がある。1979(昭和54)年、本誌発刊に際し、(財)高年齢者雇用開発協会初代会長・花村仁八郎氏により命名された。 ●表紙のイラスト 古瀬 稔(ふるせ・みのる) 2023 November No.528 特集 6 生涯現役で働ける仕組みや環境を整え高齢社員が活き活き働く職場づくりを推進 令和5年度高年齢者活躍企業コンテスト 〜独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 理事長表彰優秀賞受賞企業事例から〜 7 「令和5年度 高年齢者活躍企業フォーラム」を開催 8 優秀賞 株式会社 マエカワケアサービス(神奈川県横須賀市) 社会福祉法人 白女林(福井県坂井市) 社会福祉法人 みまき福祉会(長野県東御市) 株式会社 YKA(岐阜県岐阜市) 株式会社 石吉組(三重県志摩市) 社会福祉法人 天神会(岡山県笠岡市 1 リーダーズトーク No.102 株式会社ウィルPMインターナショナル 代表取締役社長 社団法人行動科学マネジメント研究所 所長 石田 淳さん 行動科学マネジメントを使ったリスキリング 行動を設計し習慣化する仕組みのメソッド 32 江戸から東京へ 第132回 テストされる町奉行(一) 大岡忠相 作家 童門冬二 34 高齢者の職場探訪 北から、南から 第137回 熊本県 摂津工業株式会社 38 高齢者に聞く 生涯現役で働くとは 第87回 一般社団法人インクルD スタッフ 斉藤信明さん(75歳) 40 新連載 多様な人材を活かす 心理的安全性の高い職場づくり 【第1回】 心理的安全性をつくる「4つの因子」 原田将嗣 石井遼介 44 知っておきたい労働法Q&A《第66回》 契約更新回数の上限の意味、継続雇用希望の意思表示方法 家永 勲 48 スタートアップ×シニア人材奮闘記 【最終回】 キーレス社会実現のため、シニア人材の活躍の場はさらに拡大 熊谷悠哉 50 いまさら聞けない人事用語辞典 第40回 「HRDX」 吉岡利之 52 日本史にみる長寿食 vol.360 きな粉のパワーで人生の山登り 永山久夫 53 心に残る“あの作品”の高齢者 【第6回】 映画『ハウルの動く城』(2004年) 立教大学大学院ビジネスデザイン研究科 特任教授 日本人材マネジメント協会理事長 山ア京子 54 令和6年度 高年齢者活躍企業コンテストのご案内 56 BOOKS 58 ニュース ファイル 60 次号予告・編集後記 61 技を支える vol.333 シミ抜きや仕上げの技術で大切な服を元通りに クリーニング師 田中幸男さん 64 イキイキ働くための脳力アップトレーニング! [第77回] 記憶迷路 篠原菊紀 【P6】 特集 生涯現役で働ける仕組みや環境を整え高齢社員が活き活き働く職場づくりを推進 令和5年度 高年齢者 活躍企業コンテスト 〜独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長表彰優秀賞受賞企業事例から〜 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)では、厚生労働省との共催で、「高年齢者活躍企業コンテスト」を毎年開催しています。 本コンテストは年齢にかかわりなく生涯現役で活き活き働くために、人事制度の改定や職場環境の改善などに、創意工夫をして取り組む企業を表彰するものです。 厚生労働大臣表彰受賞企業を紹介した前号に続き、今号ではコンテスト表彰式の模様とともに、当機構理事長表彰優秀賞を受賞した6社の取組みをご紹介します。 【P7】 令和5年度 「高年齢者活躍企業フォーラム」を開催 高齢者雇用先進企業26社を表彰  独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)は10月6日(金)、厚生労働省との共催で、「令和5年度高年齢者活躍企業フォーラム」を開催した。  同フォーラムは、「年齢にかかわらずいきいきと働ける社会」を築いていくために、企業や個人がどのように取り組んでいけばよいのかを一緒に考える機会として開催。  同フォーラムでは、高齢者が働きやすい就業環境にするために企業等が行った創意工夫の事例を募集した「高年齢者活躍企業コンテスト」の表彰式と、東京大学名誉教授の佐藤(さとう)博樹(ひろき)氏による基調講演、コンテスト入賞企業によるトークセッションを実施した。  はじめに、武見(たけみ)敬三(けいぞう)厚生労働大臣とJEEDの輪島(わじま)忍(しのぶ)理事長による主催者挨拶があり、その後に行われた表彰式では、厚生労働大臣表彰として、最優秀賞の有限会社小川(おがわ)商店をはじめ、優秀賞の社会福祉法人フェニックス、井上(いのうえ)機工(きこう)株式会社、特別賞の弥生(やよい)交通(こうつう)株式会社、株式会社尾賀亀(おがかめ)の5社に、厚生労働省の山田(やまだ)雅彦(まさひこ)職業安定局長より賞状が授与された。最優秀賞を受賞した有限会社小川商店の小川(おがわ)知興(ともおき)代表取締役は、「2013年度より始めた高齢者雇用の取組みが、10年の歳月を経てこのような評価と栄えある賞をいただきましたことを、たいへんうれしく思っております。ありがとうございます」と満面の笑みで受賞の喜びを述べた。  次に、当機構理事長表彰として、優秀賞の株式会社マエカワケアサービスをはじめとする6社に輪島理事長より賞状が授与された。また、特別賞の15社が紹介された。  表彰式後の基調講演で佐藤氏は、「多様な人材が活躍できるダイバーシティ・マネジメント:管理職の役割が鍵」と題し、労働市場の構造変化により、働く人が多様化しているいま、多様な人材を受け入れ、それぞれが能力を発揮する仕組みをつくることがダイバーシティ経営の鍵であり、また、高齢者も活躍できる職場づくりであるとして、多様な部下を持つ管理職に求められるスキルなどについて解説した。  休憩後は、入賞企業から有限会社小川商店(小川知興代表取締役)、社会福祉法人フェニックス(吉田(よしだ)理(おさむ)地域共生社会推進室長)、井上機工株式会社(塩原(しおばら)勇一(ゆういち)代表取締役、鈴木(すずき)穂高(ほだか)総務課長)の3社と、コーディネーターとして東京学芸大学教育学部教授の内田(うちだ)賢(まさる)氏が登壇。3社による自社の取組み内容の発表と、「70歳就業時代のシニア社員戦力化〜入賞企業に聞く」をテーマにトークセッションが行われた。トークセッションでは、コーディネーターである内田氏から、60歳以降の処遇を決める際の考え方や、高齢者雇用がもたらした想定外の効果や課題、高齢者の労働災害防止で特に気をつけていることなどの質問が投じられ、各代表者が取組みの姿勢や考え方、状況などを実際の行動と実感に基づいて語った。  なお、基調講演とトークセッションの詳細は、本誌2024年1月号で掲載する予定。 写真のキャプション 挨拶を行うJEEDの輪島忍理事長 【P8-11】 令和5年度 高年齢者活躍企業コンテスト 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長表彰 優秀賞 働く場の少ない人の雇用を創出するため年齢の上限なく活躍できる職場環境を実現 株式会社 マエカワケアサービス(神奈川県横須賀市) 企業プロフィール 株式会社 マエカワケアサービス (神奈川県横須賀市) 創業 2002(平成14)年 業種 介護事業(介護サービス業) 社員数 202人(2023年9月5日現在) 60歳以上 82人 (内訳)60〜64歳 14人(6.9%) 65〜69歳 26人(12.9%) 70歳以上 42人(20.8%) 定年・継続雇用制度 定年60歳。希望者全員70歳まで再雇用。その後、運用により一定条件のもと、年齢の上限なく継続雇用。現在の最高年齢者は80歳 T 本事例のポイント  株式会社マエカワケアサービスは、理学療法士と鍼灸(しんきゅう)あん摩マッサージ指圧師である代表取締役社長の前川(まえかわ)有一朗(ゆういちろう)氏が鍼灸マッサージの治療院として2002(平成14)年に横須賀市で創業し、第一号店とした。その後、神奈川県南部で介護保険受給者をおもな対象としたデイサービスを中心に事業を拡大し、今年22期目を迎えている。  同社では、「社員がその仕事を通じて人として成長し、幸せに生きるため」、「高齢者、障がい者の方達がその人らしくいきいきと生きることを支援し明るい地域社会を創造する」を自社の「存在意義」と定義し、これを実現するために、「働きたくても働く場の少ない方たちの雇用」を同社の使命と位置づけて、高齢者や障害者の新規採用と継続雇用の取組みを積極的に行っている。 POIN T @2009年3月に定年制と継続雇用制度を改定。60歳の定年後も希望者全員70歳まで嘱託社員として再雇用し、70歳以降も本人の希望や体調に留意しながら、年齢の上限なく勤務することができるようにした。 A定年後は嘱託社員となるが、嘱託社員以外にも体力や体調面などで不安がある場合には仕事内容の変更や、勤務時間を見直して短時間正社員やパート社員、短時間嘱託社員などへ転換することができるなど、多様な勤務形態制度を用意し、本人のやる気や経験を活かして、できるかぎり勤務し続けられる制度を整備している。 B新規採用については、同社の企業理念に共感できるかどうかを最大の選考基準とし、本人の意欲やいままでの経験・技能を高く評価し、60歳以上の採用を積極的に行っている。 C送迎業務では特に高齢社員の比率が高く、各事業所でルートの確認と安全に関する情報を共有する「ドライバーミーティング」を毎月全員参加で実施。また、同乗して運転指導を行う「ドライバーチェック」も定期的に行っている。 D業務の効率化と事務負担の軽減を図るため、全社的にICT化を推進している。なかでも、これまで紙に記入し保管していたさまざまな記録を、タブレットに入力するだけで管理・保管できる「介護記録システム」は着実に現場に浸透し、生産性の向上に寄与している。 U 企業の沿革・事業内容  2002年3月に理学療法士であった代表取締役社長の前川有一朗氏が、鍼灸マッサージを主体とした「治療院 悠(ゆう)」を創業。その翌年には「リハビリデイセンター悠」を開設し、短時間制によるリハビリ専門の高齢者通所介護施設であるデイサービスを展開。その後も認知症対応や口腔リハビリに特化した通所施設、訪問介護事業所などを開設し、現在は神奈川県南部を中心に介護保険事業17事業所と栄養管理、訪問リハビリ、保育施設の3部門を運営するなど事業を確実に拡大してきた。  全社員数に対する60歳以上の社員の割合が40.6%、障害者雇用率は16.2%(令和5年8月時点)など、高齢者や障害者の雇用に積極的に取り組んだ結果、「令和4年度障害者雇用優良事業所表彰(独)高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長努力賞」を受賞するなど、高い評価を得ている。 V 高齢化の状況、職場改善等の背景と進め方  社員数202人のうち60歳以上は82人(40.6%)、70歳以上は42人(20.8%)と、高齢社員の割合が高く、最高年齢者は80歳である。定年は60歳で、定年後は希望者全員を70歳まで再雇用する制度としている。その後は運用により一定条件のもと、年齢の上限なく継続雇用している。同社には、「私たちの仕事は利用者様の生活に希望、喜び、勇気を与えること」という理念と「高齢者や障がい者の方たちの生活を支える」という会社の存在意義があり、採用の際は、これに共鳴して働いてくれるかどうかを大きな判断基準としている。そのため、理念に共鳴してともに働いてきたスタッフが高齢化し定年を迎えても、「まだ働けるならば、継続して雇用できる制度にしていきたい」という思いで工夫を積み重ね、職場改善につなげてきた。  新規採用に関しても、60歳を過ぎた応募者からは年齢に対する引け目からか「こんな年齢ですけど大丈夫でしょうか」といった反応があるというが、実際に面接してみると人柄がよく、いままでの経験や技能が魅力となっている人が多く、積極的な採用につながっている。60歳以上の新規採用は、2019(令和元)年12人、2020年6人、2021年14人、2022年11人と毎年安定しており、地元の高齢者の雇用創出にも貢献している。 W 改善内容 (1)制度に関する改善 ▼定年制と継続雇用制度の改正  2009年3月に「定年制」と「継続雇用制度」を改定し、60歳の定年後も希望者全員を70歳まで嘱託社員として再雇用し、70歳以降も本人の希望や体調に留意しながら年齢の上限なく勤務できるようにした。  これにより、「元気とやる気があるうちは働き続けられる」という安心感をもたらし、仕事へのさらなる意欲につながっている。評価に関しても、仕事内容に大きな変化がない場合は定年後も正社員時と変わらず給与と賞与を支給することで、モチベーションの維持につなげている。 ▼多様な勤務形態  社員を大切にし、長く一緒に働けることを第一に考え、高齢社員だけでなく、子育てや介護などさまざまな事情のある社員に対しても多様な勤務形態を用意している。フルタイム勤務がむずかしくなった場合でもパート社員や短時間正社員、短時間嘱託社員といった多彩な勤務形態への転換制度を設け、柔軟に働き続けていけるよう対応している。 (2)高齢社員を戦力化するための工夫 ▼ドライバーミーティングの実施  送迎業務を安心して行うため、利用者の体調変化や送迎時の注意点、ヒヤリハットなどの共有を行い事故撲滅につなげるための「ドライバーミーティング」を月2回開催し、全ドライバーが必ず参加できるよう日程を調整している。  若手社員が高齢社員に、業務で使用するICT機器の操作説明などを行う一方、土地勘のある高齢社員からは送迎コースの見直しの提案のほか、車の整備や運転の指導など、それぞれの知見を活かした活発な意見交換を行っている。また、安全に運転が行えているかを確認するために管理者などが同乗する「ドライバーチェック」も定期的に実施している。 ▼「サンキューカード」  社員同士が高め合える環境づくりのために、感謝の気持ちを「サンキューカード」に書いて贈り合うようにしている。単に相手に贈るだけではなく、自分の手元にもだれにどんな内容のカードを贈ったのかを残すようにすることで、より心をこめたやり取りができるようになった。  高齢社員からは「言葉だけでもうれしいが、形として残るものだからさらにうれしい」という声が寄せられるなど、良好な人間関係をつくり高齢社員のやる気を引き出すきっかけとなっている。この取組みは社員だけでなく利用者を含め同社にかかわるすべての人を対象としており、全社的な職場環境の充実につながっている。 (3)雇用継続のための作業環境の改善、健康管理、安全衛生、福利厚生の取組み ▼IT活用の取組み  現場の業務効率化を図ることと、事務作業の負担軽減を目的として、2015年から全社でICT化を積極的に推進している。なかでも「介護記録システム」は、これまで紙に記入して保管していた介護に関するさまざまな記録を、タブレットに入力するだけで管理・保管できる重要なシステムとなっている。  2022年からは、全社員が安全に送迎業務を行えるようにドライブレコーダーを全車に導入し、その映像を使ったドライバーミーティングや運転の評価などを各事業所で実施している。  また、一部事業所では「送迎支援システム」を試験的に導入し、住所を入力すると自動的にマップ上でルートを組んだり、利用者へボタン一つで到着したことを自動音声案内できる機能を利用するなどし、送迎業務の負担軽減にも取り組んでいる。  一方で、経験の長い高齢社員からの「この道よりも、こう行ったほうが効率がよい」といった提案を取り入れてルートの見直しを行うなど、ベテランならではのノウハウも活かしている。 (4)その他の取組み ▼経営方針の周知  同社の理念を浸透させる重要なツールとして毎年全社員に配付される「経営指針書」がある。パート社員も含めた全社員に配られるもので、毎年度のはじめに経営指針書を説明するための「指針会」において内容を説明している。この経営指針書には、企業理念や行動指針はもちろん、雇用に関する取り決めや制度なども網羅されており、全社員がつねに会社の指針を確認することができる。こうして会社の思いを伝えることで、よりよい職場環境を構築し、定着にもつながっている。 (5)高齢社員の声  現在、保育全般と部門の給与集計などの事務をになっている大須賀(おおすか)津喜子(つきこ)さん(64歳)は、「高齢社員にも責任ある仕事を任せてくださることと、利用者だけでなく社員同士、優しさや温かさなど『人を思いやる心』で接していけるところに働きやすさを感じています。また、子どもたちと接することで子どもからパワーをもらい、自分はいつも20代だと思いがんばっています」と元気の秘訣を語る。  利用者の運動指導を行っている吉田(よしだ)稔(みのる)さん(76歳)は、入社して20年のベテラン。団塊世代の先輩でもある施設利用者を見ると、自身の健康について考えさせられるという。「仕事をしていると、健康に留意しながら利用者と一緒になって運動ができる楽しさ、そして自分への戒めとしても自然とやる気が出てきます」と意欲の源を語る。今後も楽しみを持って仕事への挑戦を続けていくという。  長らく施設長を務め、「孫の面倒を見たい」などの理由で一度同社を退職した今尾(いまお)美佐江(みさえ)さん(68歳)は、一段落した2021年に同社に復帰。現在は利用者をサポートする業務に就いている。再入社して2年近くが経ち、「日々の仕事が利用者の『ありがとう』という言葉や笑顔になって返ってくるときにやりがいと魅力を感じます」と仕事の喜びを語る。また、「『身体の元気と心の元気でつねに明るい職場』をモットーに、コミュニケーションを大切にしていくことが元気に働く秘訣」だという。 (6)今後の課題  高齢者はもちろん、障害者の雇用も積極的に行っている同社。急な体調不良で休みの人が出たときでも支え合い、助け合えるよう、それぞれがお互いの得意なことを見きわめ、適材適所で生涯現役を実現できる仕組みや環境を整えていくことを目ざしている。そのためにも、今後ますます多様化していく雇用形態や働き方のなかで、複雑化する一方の基幹業務のシステム化を喫緊の課題として取り組んでいる。  また現在まで、退職者も含めた一人ひとりの貢献によって事業が成り立っているとして、その縁や思いを重要視している。そのため「人を敬い感謝する心」、「つねに自分を成長させようとする心」という二つの心を大切にし、社員の声をていねいにくみ上げることで、「ここで働いていてよかった」と感じられる働き方の実現を目ざし、心の通った職場改善を加速させていくとしている。 写真のキャプション 株式会社マエカワケアサービス事業所外観(写真提供:株式会社マエカワケアサービス) サンキューカード。2019年には「年間5,000枚贈り合う」ことを全社の目標としたが、大幅に上回る年間1万7,531枚を達成している(写真提供:株式会社マエカワケアサービス) 運動指導を担当している吉田稔さん(76歳)(写真提供:株式会社マエカワケアサービス) 保育業務などを担当している大須賀津喜子さん(64歳)(写真提供:株式会社マエカワケアサービス) 「家族参観日」にお孫さんに感謝状を渡す今尾美佐江さん(68歳)(写真提供:株式会社マエカワケアサービス) 【P12-15】 令和5年度 高年齢者活躍企業コンテスト 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長表彰 優秀賞 家庭や健康に変化があっても正規職員として継続して勤務できる環境を整備し、生涯現役の実現を目ざす 社会福祉法人 白女林(しろんばやし)(福井県坂井(さかい)市) 企業プロフィール 社会福祉法人 白女林 (福井県坂井市) 創業 1970(昭和45)年 業種 介護福祉業(介護各種サービスの提供) 職員数 130人(2023年9月1日時点) 60歳以上 41人 (内訳)60〜64歳 10人(7.7%) 65〜69歳 15人(11.5%) 70歳以上 16人(12.3%) 定年・継続雇用制度 定年65歳。希望者全員70歳まで再雇用。70歳以降も、運用により本人の希望・体力などを判断し年齢の上限なく継続雇用。現在の最高年齢者は76歳 T 本事例のポイント  社会福祉法人白女林は、1970(昭和45)年に現在の福井県坂井市三国町(みくにちょう)で創業し、翌年に特別養護老人ホーム白楽荘(はくらくそう)を開設した。理念は「社会福祉法人白女林では ご利用者の方々に 安らぎと潤いのある生活を送れるように また ご家族に安心していただけるように いきいきとした生活を支え 心をあわせて愛情をそそいだ心身のケアにつとめます」。これは職員間で協議して作成したもので、毎朝唱和して業務の行動指針としている。地域が求める福祉サービスを拡充するため各種施設を開設し、適切かつ複合的にサービスを提供してきた。高齢化が進む同地域において半世紀以上にわたり地域福祉の責任を積極的ににない、利用者の尊厳と価値観を尊重した地域に密着した法人運営を行っている。 POINT @2022(令和4)年に、定年年齢を60歳から65歳に延長。同時に希望者全員70歳までの継続雇用制度を導入した。以降も運用により年齢上限なく雇用する継続雇用制度を導入している。 A職員の高齢化にともない、家庭の事情や健康不安で退職する者が増加したことから、正規職員の就労形態を三つのコースから選ぶ選択制度を創設した。 B正規職員の各コースに、基本給(職務給)および、資格手当、賞与の支給区分の目安を設け、職員の納得性を高めた。 C高齢職員の健康維持・向上を目的に、隣接する病院および産業医と連携し、勤務中の医療サービスの受診を可能とする環境を構築した。 U 企業の沿革・事業内容  社会福祉法人白女林は、法人のある三国町出身の作家・神谷(かみや)五平(ごへい)氏と医師・安田(やすだ)博文(ひろふみ)氏が発起人となり1970年に設立された。翌年に特別養護老人ホーム白楽荘を白楽荘診療所とともに開設して以降、地道で誠実な運営とケアで自治体や地域の信頼を得て、サービスを拡充していった。1991(平成3)年にデイサービスセンターあじさい園、2003年にグループホーム白楽荘みくにの里、2014年に地域密着型介護老人福祉施設である特別養護老人ホーム白楽荘みくに湊(みなと)を開設。  また、2011年には職員向け事業所内保育施設キッズの森を開所しているほか、2019年に白楽荘の定員を77人に増員するなど、事業を拡大し、高齢者が住み慣れた地域で安心して暮らせるよう、長年の経験と実績を活かして地域に根ざした高齢者福祉サービスを提供している。 V 高齢化の状況、職場改善等の背景と進め方  近年、職員の高齢化が進み高齢者比率が高くなるとともに、加齢とともにさまざまな事情(介護、孫の世話、本人の体力低下など)により正規職員として勤務を継続することが困難となり、退職する者や契約職員に変更する者が増加していた。  一方、さまざまな症状のある利用者を対象とする介護サービスは、経験がものをいう仕事であり、現場には豊富な経験を有した職員が必要不可欠である。特に高齢職員は事故を防止する安全な介助が身についており、これらの経験とノウハウを若手職員へ伝授してもらうためにも、高齢職員が長く勤務し続けることができる仕組みづくりが課題となっていた。また、高齢職員は健康面においても自己管理に余念がなく、60歳以上でも元気に働ける職員がほとんどであった。  こうした背景から、60歳定年後も働き続ける高齢職員の実態に合わせて、定年制および継続雇用制度の見直しを行った。 W 改善内容 (1)制度に関する改善 ▼定年制と継続雇用制度の見直し  2022年4月より定年を60歳から65歳に引き上げた。同時に継続雇用制度の見直しを行い、希望者全員70歳まで働ける制度とした。すでに60歳定年の適用を受けている者については、正規職員への移行の意思を確認し、5人中4人の職員が正規職員として復帰した。  なお、70歳以降については、健康状態・希望・適性などについて、本人と面談したうえで年齢の上限なく継続雇用している実態がある。現在、継続雇用で働く職員は16人で、最高年齢者は76歳である。身体の負担など高齢職員の変化に合わせて職種変更を行っており、それぞれ自分の体力などの状況に応じた職務を担当している。 ▼正規職員に就労形態の選択制を導入  以前の60歳定年制では、60歳定年前を正規職員、定年後の継続雇用者を有期雇用契約職員とし、後者はフルタイムとパートタイムの2区分に分けていた。2022年の65歳定年制導入後は次の三つの区分を設け、正規職員として定年の65歳まで無理なく働ける制度を構築している。 ・総合職A(シフトと休日、業務に限定なし) ・総合職B(シフトと休日に一部限定あり、業務に限定なし) ・専門職(シフトと休日、業務に一部限定あり)  また、65歳以降は、勤務形態を常勤か短時間勤務から選択することができ、どちらもシフトと休日を限定して働けるうえ、常勤を選択した場合でも重度介護の業務は担当しないこととしている。  福井県は全国的にみて三世代同居の世帯が多く、祖父母が子育てに参画する家庭が多い。そのため孫の世話を理由に、退職や業務負担を軽くするケースが少なくない。新制度では区分の変更が可能なため、孫の成長に合わせて再度仕事に専念するコースに戻ることなどもできる。  60歳定年時に継続雇用に移行していた職員は、新制度導入後、ほぼ全員が正規職員に戻ったことから、正規職員の立場で働き続けたいという潜在的な職員のニーズに応えることができたといえる。働き方の区分を変えても正規職員の立場を継続するため、退職金に影響がない点も安心感につながっている。  新規採用職員に説明する際も、定年延長、就労形態の選択制には好意的な反応があるという。 ▼賃金体系の整備  基本給(職務給)表を総合職A・総合職B・専門職に分けてそれぞれ作成。基本給については、総合職Bは総合職Aの90%、専門職は総合職Aの80%に定めた。資格手当については、総合職AとBが全額支給であるのに対し、専門職は3分の2の支給とし、賞与については総合職AとBを100%、専門職は80%とした。  コースごとに職務における責任・役割に応じた処遇内容をそれぞれ明示することにより、職員の納得性を高めることにつながっている。 (2)高齢職員を戦力化するための工夫 ▼就業意識向上研修を実施  60歳前後に、同法人独自の就業意識向上研修を実施している。「生涯現役」と「ライフプラン」を考えるこの研修では、公的年金制度などの正しい知識を身につけてもらうとともに、生涯にわたりライフスタイルに合致する就労の必要性を説明している。白女林は長年にわたり業務関連の研修を積極的に開催し、受講を促進してきたが、ライフプランにかかわる研修は初めて。受講者からは「業務に必要な研修は受講しているが、自分の人生にかかわる研修は初めてであり、その重要性を認識した」、「今後の生涯現役のために、いまから資格取得を考える」などの積極的な意見が多く寄せられた。 ▼IT機器の導入により日々の業務負担を軽減  業務の効率化を図るための介護ソフトを導入した際、IT委員会を立ち上げて旗振り役とし、パソコンを使った業務の進め方について研修を行った。元来、教育体制が整っていることから、高齢職員も問題なく使い方を習得することができた。今後は介護記録をタブレットで行うなど、IT機器を積極的に取り入れて迅速で無駄のない情報連携を目ざし、高齢職員の負担軽減と業務の効率化を図っていく。 (3)雇用継続のための作業環境の改善、健康管理、安全衛生、福利厚生の取組み ▼産業医、系列クリニックと連携し高齢職員の健康を維持・促進  産業医が施設を巡視してチェックを行い、職員の健康維持のために必要な措置について助言や指導を行っている。また、構内に所在する系列のクリニックとも密に連携している。職員は業務中であっても受診可能としており、受診料は全額を法人負担としているほか、インフルエンザ予防接種を半額負担で受けることができる。職員とその家族のかかりつけ医として気軽に医療サービスが受けられ、また病院に出向く移動時間、待ち時間をなくすことで、健康診断の再検査や心身の不調の際に受診しやすい環境を整えることができた。「働く環境のなかで健康管理ができる」と高齢職員に安心感を与えている。 ▼腰痛防止に法人全体で取り組み「腰痛」を撲滅  腰痛防止ベルトを全職員に配付し、介護職の職業病といわれる「腰痛」の撲滅に組織をあげて取り組んでいる。業務用・プロ仕様の機能性が高いベルトを採用し、数種類を用意しており、重度介護を担当する職員はしっかり腰を固定できる幅が太いベルト、軽度介護を担当する職員は動きやすい細いベルトを選ぶという。ベルトが劣化し機能性が落ちた場合には3分の2を法人負担、3分の1を自己負担で再配付する。腰痛防止ベルトの効果は高く、身体的なサポートはもちろん、身体に装着することで腰痛に対する意識が向上し、意識の面から腰痛の防止が図られている。  さらに利用者のために設置しているリハビリ器具を、使用しない時間帯にかぎり職員が自由に使用できるものとし、腰痛防止および体力維持・向上に役立てている。 ▼介護機器を積極的に導入して介助負担を軽減  介護浴槽のシャワードームを導入した。座った姿勢のまま身体のすみずみまで洗浄できる入浴介助機器で、洗浄スピードが速い点も特長だ。これにより、介助に費やしていた時間が半分に短縮されるなど、高齢職員の労力を大幅に軽減することができた。そのほか、ベッドからの起き上がりや離床など、人の移動を検知して受信機に知らせるセンサー内蔵の見守りシートを採用し、夜勤職員の見守り業務の負担を軽減した。最新の介護用品・機器は高齢職員の負担を格段に軽減するため、引き続き導入を検討していく。 ▼年金・税金に関する相談体制の構築  顧問の税理士・社会保険労務士の協力により、年金・税金に関する無料相談を実施するなど、高齢職員が気軽に相談できる体制を構築した。相談を利用した職員からは「よくわからなかった年金について知ることができて、心配ごとが解消できた」と好評である。 (4)高齢職員の声  デイサービスセンターあじさい園で介護士として働く伊藤(いとう)逸水(いつみ)さん(65歳)は、以前は建築関係の仕事をしていたが、自身の病気と手術をきっかけに心機一転、51歳で同法人の介護職に就いた。入職時はグループホーム勤務、現在はデイサービスに異動して活躍している。「介護は人によって対応が異なります。利用者の声をよく聞いて、話しかけ、チームでその人に合った対応を導き出していきます。若いリーダーが教えてくれる新しい知見が客観的でとても新鮮です」と話す。若い介護士が「伊藤さんはいてくれるだけでありがたい」と話すほど、現場に安心感を与える存在である。健康のためにと片道30分かけて自転車で通勤することもあり、休憩時間や帰宅前には、リハビリ用の健康器具、電動マッサージを使ったケアを行い、健康・体力維持に努めている。「私たちにとって、働く環境はとても大切で、会社は職場改善に努めてくれています。これからもここで働いていきたい」と語ってくれた。 (5)今後の課題  生涯現役で働ける職場を目ざし、定年制の撤廃も見すえている。高齢職員の意思はもちろん、身体能力、知的能力について、産業医や現場の声など各方面から客観的に評価する仕組みを構築し、その評価をふまえ本人との面談を通して納得性を得て、生涯現役で働ける体制づくりを目ざしていくという。 写真のキャプション 社会福祉法人白女林が運営する特別養護老人ホーム白楽荘(写真提供:社会福祉法人白女林) プロ仕様の腰痛防止ベルト 入浴介助機器のシャワードーム デイサービスにて利用者と一緒に体操をする伊藤逸水さん(65歳) 【P16-19】 令和5年度 高年齢者活躍企業コンテスト 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長表彰 優秀賞 共生型社会の実現を目ざし高齢職員が活躍できる職場づくりを推進 社会福祉法人 みまき福祉会(長野県東御(とうみ)市) 企業プロフィール 社会福祉法人 みまき福祉会 (長野県東御市) 創業 1993(平成5)年 業種 社会福祉・介護事業 職員数 168人(2023年4月1日現在) 60歳以上 52人 (内訳)60〜64歳 17人(10.1%) 65〜69歳 21人(12.5%) 70歳以上 14人(8.3%) 定年・継続雇用制度 定年65歳。定年後、希望者全員70歳まで再雇用。70歳以降も運用により臨時職員として年齢の上限なく継続雇用。現在の最高年齢者は81歳 T 本事例のポイント  社会福祉法人みまき福祉会は1993(平成5)年2月に設立された。1995年4月に特別養護老人ホーム「ケアポートみまき」を開所以来、施設介護、在宅介護、健康増進、保健医療など多職種で連携した活動を通して地域に貢献してきた。少子高齢化や人口の減少が顕著に進み、時代が大きく変化するなかで、「『いつまでも健やかに生き生きと 安心して暮らし続けたい』その願いをかなえる核となります。」を理念に掲げ、高齢職員がやりがいをもって安心して働ける職場づくりに取り組んできた。 POINT @2022(令和4)年4月に高齢者雇用制度の改定を実施し、定年65歳、希望者全員70歳までの再雇用制度を導入。同時に臨時職員の定年年齢を65歳から70歳へ引き上げた。 A職員の希望に応じて勤務時間を柔軟に決めることができる制度を導入。業務内容についても本人の希望を優先し、介護の補助的業務や食事の準備・提供、利用者の送迎など弾力的な運用で、高齢職員が長く働き続けることができる職場環境づくりを進めている。 B継続雇用の契約更新時に、高齢職員と事務局長が個別面談を実施。事前に本人が提出した「臨時職員継続雇用に関する調査書」と「評価チェックシート」などをもとに、仕事や健康状態について確認し、それぞれの役割や働き方を調整している。 C障害者の就労支援にも取り組んでおり、障害者と高齢職員が一緒に働く機会を増やすなど、新たに拡大した職域で幅広く高齢職員が活躍している。 U 企業の沿革・事業内容  長野県東御市に位置する同法人は、日本船舶振興会(現・公益財団法人日本財団)の地域福祉総合プロジェクトのケアポート事業モデル第3号として、1993年2月に設立された。特別養護老人ホーム「ケアポートみまき」を中核として、デイサービス、訪問介護、訪問看護などの介護事業と障害者就労支援事業を展開してきた。  同法人の敷地内には「保健・医療・福祉」の総合施設として温泉アクティブセンターやトレーニングセンター、市の温泉診療所を併設しており、福祉サービスの提供を通じて地域貢献に努めている。 V 高齢化の状況、職場改善等の背景と進め方  60歳以上の職員52人のうち女性職員が約8割を占めており、最高年齢者は81歳の女性職員である。介護業界における人材の確保は近年むずかしくなる一方で、職員の高齢化が進んでいたことから、70歳までの就業確保はもちろん、70歳を超えても働きたいという職員の希望に応えるべく、70歳超の雇用を実現。職員からも歓迎されており、70歳を超えても働きたいと希望する人は増え続けている。  同法人には、介護業務を担当する介護職、給食を担当する栄養職、事務員、看護職など多くの職種があるが、高齢職員の多くは介護職に従事している。本人の事情や希望に応じた勤務時間で、体力に合った仕事を担当してもらうことで、生涯現役で働ける職場環境を整備してきた。  介護業界が人員確保の問題を抱えるなか、同法人は共通の理念のもと、介護と障害者支援の現場において高齢職員がやりがいをもって安心して働ける職場づくりに取り組んでいる。 W 改善内容 (1)制度に関する改善 ▼定年制の改定  同法人は2022年4月、定年年齢(60歳)と希望者全員の継続雇用の上限年齢(65歳)をそれぞれ5歳引き上げ、あわせて臨時職員の定年年齢も現行の65歳から70歳へと引き上げた。同法人も介護業界における人員確保の問題を抱えており、特に新卒採用は困難な状況であることから、介護を支える経験豊かな高齢職員が長く働けるよう定年制を改定した。 ▼柔軟な勤務制度の導入  臨時職員については、正職員と同じフルタイム勤務のほかに短時間勤務制度も設けており、個人の希望に配慮して柔軟に決めることができる制度を導入している。継続雇用になった高齢職員の雇用形態は臨時職員となり、勤務時間を選択できることから、通院や孫の世話など自分のプライベートな時間に合わせて働き方を選べる。この柔軟な勤務制度は、高齢職員から歓迎されている。 (2)意欲・能力の維持・向上のための取組み ▼個人面談の実施  高齢職員の1年ごとの契約更新時に、事務局長との個別面談を実施している。これは、本人が事前に提出した「臨時職員継続雇用に関する調査書」と「評価チェックシート」などをもとに、直接、仕事や健康の状況について確認し、新契約における高齢職員の役割や働き方などを調整するものである。なお、事務局長との面談は高齢職員だけではなく全職員に対して実施しており、職員の適材適所の配置に活用している。 ▼臨時職員を対象とした評価制度の実施  これまで、人事評価制度は正職員のみを対象としており、高齢職員は含まれておらず、処遇においても正確に反映されていなかった。現在は高齢職員を含む臨時職員に対しても人事評価を行っており、事前に「評価チェックシート」に本人が3段階の自己評価を記入してから、面談を行っている。評価結果は本人にフィードバックし、賃金の処遇や人事異動に反映することで、本人の長所を引き出し、適材適所で活躍できるようにしている。  「臨時職員継続雇用に関する調査書」と「評価チェックシート」を活用することにより、本人の働きぶりが評価されることで、処遇の改善のみならず、モチベーションの向上につながるほか、今後の希望する働き方を管理者も確認できるようになっている。また、法人の経営方針などを相互で共有することで職場全体の風通しのよさにつながっている。 ▼資格取得支援  介護などの職務に必要な資格を有していない職員に対し、日ごろから資格取得を推奨し、資格取得費用の補助を行っている。高齢になってからも資格は業務に役立つことが多く、自分自身が資格を有していることで担当する職務の取組みにも自信をもって対応できることから、資格取得にチャレンジする高齢職員が増えている。 (3)雇用継続のための作業環境の改善、健康管理、安全衛生、福利厚生の取組み ▼ノーリフティングケアによる腰痛予防対策  身体に過度な負担がかかる動作「持ち上げる・抱え上げる」などを行わない介護をさす「ノーリフティングケア」による腰痛予防対策や腰痛予防体操を実施している。これは、高齢職員の増加にともない、ノーリフティングポリシーの考え方を積極的に取り入れたものである。具体的には、入浴の介助やベッドからの移動の際に、持ち上げ・抱え上げ・引きずりなどのケアを廃止し、リフトなどの福祉用具を積極的に使用するようにした。これにより、職員の腰への負担が軽減され、効果的な腰痛予防対策となっている。  職員の腰痛予防対策の取組みは、介護の質の向上にも大きな役割を果たしている。質の高い介護によって心身ともに安心が得られることから、利用者の精神的な落ち着きにつながっている。さらに筋緊張が和らぐことで筋肉や関節への負担まで減り、姿勢がよくなるといった相乗効果もあらわれている。 ▼高齢職員の職域開発  介護業務は身体的負荷がともなうため、高齢職員にとっては体力面での負担が大きいことから、高齢職員が70歳を越えても働き続けることができるよう、業務の洗い出しを行った。  これにより、食事の準備と提供、食器洗い、部屋掃除、保育施設における保育業務、介護施設における介護補助業務、利用者の送迎など、身体的負荷が少ない業務への変更が可能となった。役割を明確にしたことが、生涯現役で働くことのできる業務を生み出すことにつながっている。  また、障害者が利用者となる就労継続支援A型事業所※1と就労継続支援B型事業所※2の事業拡充を行い、2022年には高齢職員と障害者が一緒に働ける「カフェみまき苑」を開設。高齢職員が障害者のサポート役として積極的に働いている。  これは高齢職員の職域拡大だけではなく、障害者の就労支援に力を入れてもらいたいという地域の要望に応えたものである。 ▼福利厚生の充実化  健康増進のため、高齢職員を含む全職員が「ケアポートみまき」施設内のプールとトレーニングセンターを無料で利用できるようにした。これまで一部有料であったものを無料化したことで、健康管理と体力の維持のために積極的な利用が促進され、職員から好評を得ている。  また、インフルエンザの予防に関しては、高齢職員の意識も高く、ほとんどの職員が予防接種を受けている現状を鑑み、全額法人負担とした。 (4)その他の取組み  地域や市内の病院などに、安価で弁当を配達する新事業を開始した。これは安価な食事を必要とする人たちを支援するためであると同時に、高齢職員の新たな職務創出につながっている。  また、81歳の高齢職員が働き続けていることを鑑み、生涯現役で働き続けられる職場環境づくりを法人の方針として全職員に明確にしたことで、若手職員の働く意欲に好影響を与えている。  そのほか、子育て世代の職員のために保育施設を完備していることから、職員を大切にする姿勢を評価する高齢職員も多く、「働き続けたい」と願う意欲にもつながっている。  高齢職員がつちかった技術は、OJTによって若手職員に伝承しており、高齢職員は技能の伝承者として大きな役割を果たしている。 (5)高齢職員の声  居室の清掃や食器洗いなどの介護補助を担当する井出(いで)静子(しずこ)さん(81歳)は、以前よりシルバー人材センターを通して同法人の業務を行っていたが、2022年に職員として採用された。「週3〜4日、1日3時間の勤務なので働きやすいですね。職員や利用者の方と話をすることが活力につながっています」と話す。  施設内にあるプールの管理や、さまざまな世代の利用者を対象とした水泳指導を担当している吉岡(よしおか)進吾(しんご)さん(66歳)は、2003年に入職。定年まで勤め上げ、現在は再雇用で働いている。「子どもから70歳を超えている方までの水泳指導を行っています。目標を達成したときに、ともに喜びを分かちあえることが、やりがいにつながっています」と話す。 (6)今後の課題  「『いつまでも健やかに生き生きと 安心して暮らし続けたい』その願いをかなえる核となります。」という法人理念のもと、今後も支える側と支えられる側がともに幸せになれる、やりがいをもって安心して働ける職場づくりに取り組んでいく。  そして、81歳で元気に活躍している最高齢職員のように、生涯現役で懸命に仕事に取り組む高齢職員がやりがいを持ち、安心して働けるよう、制度改善を行っていく。将来的には、高齢者の介護支援だけでなく障害者支援にも力を注ぎ、障害の有無にかかわらず地域のなかでともに生きていくことがあたり前となるような「共生型社会」を地域の方々とともに実現していきたいという。もちろん、障害者を支援する現場を支えるのは経験豊かな高齢職員である。  だれもが幸せを感じる「共生」のまちづくりの推進という大きな夢に支えられ、同法人の努力は続いていく。 ※1 就労継続支援A型事業所……一般企業に雇用されることが困難であるが、雇用契約に基づく就労は可能である者に対して、雇用契約の締結などによる就労の機会の提供および生産活動の機会の提供を行う事業所 ※2 就労継続支援B型事業所……通常の事業所での雇用契約に基づく就労が困難である障害者に対して、就労や生産活動の機会の提供を行う事業所 写真のキャプション 特別養護老人ホーム「ケアポートみまき」(写真提供:社会福祉法人みまき福祉会) 車いす利用者を介助する電動福祉用具利用者の腰と足に巻きつけて、起立や着席を補助する(写真提供:社会福祉法人みまき福祉会) 介護補助を担当する井出静子さん(81歳)(写真提供:社会福祉法人みまき福祉会) プール管理・水泳指導を担当する吉岡進吾さん(66歳)(写真提供:社会福祉法人みまき福祉会) 【P20-23】 令和5年度 高年齢者活躍企業コンテスト 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長表彰 優秀賞 多様な人材が柔軟に働ける環境を整え意欲があれば何歳まででも役割がある職場 株式会社 YKA(岐阜県岐阜市) 企業プロフィール 株式会社 YKA (岐阜県岐阜市) 創業 2009(平成21)年 業種 介護事業 職員数 74人(2023年8月1日現在) 60歳以上 22人 (内訳)60〜64歳 4人(5.4%) 65〜69歳 8人(10.8%) 70歳以上 10人(13.5%) 定年・継続雇用制度 定年なし。現在の最高年齢者は76歳 T 本事例のポイント  2009(平成21)年に創業した株式会社YKAは、通所介護施設を開設して業務を開始。2013年には、有料老人ホームと新たな通所介護施設を開設して、業務を拡大した。以来、介護事業を通して地域に貢献している。  人材不足解消のため、多様な人材を採用し、それぞれのライフステージに沿った働き方ができるように、柔軟な勤務形態の実践に努めてきた。毎月作成する勤務シフトの穴を何とかカバーしていくなかで、職場に「お互いさまの精神」が芽生えはじめ、人材が充足するとともに、組織としてのパフォーマンスが向上している。  高齢職員に対しては、能力を最大限活用できるような働き方や業務を創出して提案。試行錯誤の先に組織全体の成長があった。 POINT @以前は65歳定年、70歳までの継続雇用制度を導入していたが、2023(令和5)年1月に定年制を廃止した。 A人材不足解消のため、高齢者、学生、特定技能外国人、子育て世代など、世代や価値観、ライフスタイルが異なる人材を積極的に雇用。同時に、多様な勤務形態が可能な体制づくりを進め、希望に沿った働き方ができる職場を実現した。 B年2回の定期面談に加え随時面談の機会を設け、すべての職員のライフステージに沿うようなシフトを組むことに努めている。この継続により、「相互理解」、「支え合いの精神」が社内に醸成されてきた。 C介護職に「ケアアシスト職」という役割を創出し、「専門職」と役割や責任を明確に分けた。これにより、仕事の効率化とそれぞれの役割における働きやすさが向上した。 D高齢職員に対してオリエンテーション(組織のルール、求めている役割などを説明)や、職場のIT化のフォローを実施している。 E作業負担軽減のため、作業のマニュアル化に取り組んでいる。 U 企業の沿革・事業内容  2009年4月にクリニックを母体として創業し、同年11月に「ふじさわデイサービス」を開設して業務がスタート。2013年には、入居施設の需要の高まりに応えて「有料老人ホーム湧水館(ゆうすいかん)」を開設するとともに、「湧水館デイサービスセンター」、「ふじさわ訪問介護事業所」もスタートさせた。有料老人ホームは、医療機関と連携するなど手厚いケアを可能としている。  2019年には、厚生労働省の「第3回働きやすく生産性の高い企業・職場表彰」において「キラリと光る取り組み賞職業安定局長賞」を受賞。2022年には、「はたらく母子家庭・父子家庭応援企業表彰」の表彰を受けるなど、働きやすい環境が全国的にも評価されている。 V 高齢化の状況、職場改善等の背景と進め方  以前は離職者が続くなど、人材不足の状況が続いていた。これを解消するため、高齢者をはじめ、学生や特定技能外国人、ひとり親など多様な人材を採用し、それぞれのライフスタイルの違いをうまく活かし、業務時間の穴をカバーすることとした。  60歳以上の職員は現在、全体の29.7%を占めており、最高年齢者は76歳だが、過去には80歳の介護職員が在籍していたこともあった。65歳定年時は、実態として何歳までも働ける環境であったが、制度として整備されておらず、60歳未満の職員から「65歳以降も働けるのかどうか」と将来を心配する声も聞かれていた。 W 改善内容 (1)制度に関する改善 ▼定年制の廃止  2023年1月、就業規則を改め、正規・非正規職員ともに定年制を廃止。意欲があれば、基本的に何歳までも働ける職場になった。職員からは、「安心して働ける」という意見がほとんどであり廃止を実現。定年制の廃止以降は、採用活動において多くの応募がくるようにもなった。 ▼多様な勤務形態、短時間勤務制度を導入  勤務時間は、職員の希望を聞き毎月シフトを組んでいる。こまめに面談を行い、ライフステージに合った働き方ができるように努めてきた。それを可能にしているのは、多様なライフスタイルの人材である。  シフト表の作成を担当する渡邉(わたなべ)優子(ゆうこ)統括介護主任は、作成・調整の苦労を語りつつ、「職員のみなさんがシフト調整のたいへんさを理解しているので、困ったときは『私が出勤します』と協力をしてくれて、助けられています。互いの状況がだんだんわかってくるなかで、『お互いさま』の気持ちが職場内に芽生えたように思います」と職場の変化を話す。この変化には、職員同士で感謝を伝える「サンクスカード」の取組みの効果もあるという。 (2)高齢職員を戦力化するための工夫 ▼役割等の明確化  2015年、介護職に「ケアアシスト職(介護補助)」という職種をつくり、「専門職」との役割・責任の違いを明確にした。これは高齢を理由にケアアシスト職になるということではなく、専門職として働き続けることも可能だ。  ケアアシスト職の業務により責任の負担が軽減され、専門職は専門業務に専念しやすい環境になった。 ▼オリエンテーションの実施  かつて年下の上司に対してうまくコミュニケーションを取れない高齢職員がいたことから、高齢職員を対象としたオリエンテーションを行い、組織やルール、求めている役割などについて伝えている。 ▼職場IT化のフォロー  IT化の推進にともない、社内の申し送りや給与明細の見方(スマートフォンの操作方法)の指導会を開催。これにより、社内全体のITリテラシーが上がると同時に、高齢職員が理解しやすいようにほかの世代の職員が申し送りの仕方を工夫するようになるとともに、高齢職員が困っていることなどにも気づくようになった。  また、視力が悪くスマートフォンでの確認がむずかしい高齢職員には、文字を大きく印刷した紙の資料を渡すなど、柔軟に対応している。 (3)雇用継続のための作業環境の改善、健康管理、安全衛生、福利厚生の取組み ▼作業環境改善  一度に大量のシーツ交換を行うのは身体的な負担が大きいことから、2人体制で行うこととしたほか、広い施設内の移動が負担となる職員のために、座ってできる業務をつくり、1日の移動距離を減らすようにしている。また、写真やイラストを用いた、わかりやすい業務マニュアルの作成に努めている。  かつては、高齢期の身体的・精神的な変化を若手職員たちが理解できず、「効率が悪くなる」など批判的な意見が相次いだ時期もあった。そこで、人材不足の環境のなか、「できることをやってもらうことで、全体の仕事が楽になる」ことをくり返し伝えることで、多くの世代がともに働く職場風土が醸成された。 ▼健康管理  上司との面談で心身の健康状態についてヒアリングを行い、企業としてのリスクヘッジとともに高齢職員の働きやすい環境づくりに努めている。面談は半年ごとに行っているが、その間に状況変化もあるため、随時行える体制を整備している。 (4)その他の取組み  人材の採用にあたって、体験入社の機会を設けている。職場の雰囲気や自分にできそうな仕事かどうか、体験してから判断をしてもらう。 (5)高齢社員の声  佐藤(さとう)三代(みよ)さん(73歳)は、看護師として長年勤めた病院を定年退職後、61歳のときに入社。看護師の資格と経験を活かし、湧水館デイサービスセンターで利用者の健康管理をになって12年になる。病院勤務時代は夜勤もあったが、ここでは日勤のみ。1年ほど前からは勤務時間を短くし、午前あるいは午後のみの時間帯で週3〜4回勤務している。「体力的にちょうどよい勤務時間と日数です。車いすを押していると、若いスタッフが『一緒に行きます』と声をかけて手伝ってくれたり、職場全体の雰囲気がよく相談がしやすかったり、働きやすい職場です。ここで働き、ご利用者さまのお役に立てることが日々の原動力になっています。職場に迷惑ではないうちは、勤められるだけ勤め続けたいというのが私の希望です」と笑顔で話す。  有料老人ホーム湧水館でケアアシスト職として働く黒澤(くろさわ)信子(のぶこ)さん(75歳)は、早番の7時から13時までを担当し、月20日間勤務している。69歳のときに未経験で入社した。介護職に就くことを意識したのは、母親の介護をもっと自分で行いたいと思ったことがきっかけで、当時、たまたま同社の求人を知り応募したという。「69歳の未経験者ではダメだろうと半ばあきらめて受けたのですが、採用していただけました。社内講習で介助の仕方を教わり、徐々に覚えていくことができましたし、このホームで母を世話することもでき、たいへんありがたかったです」と話す。黒澤さんの仕事は、入所者のバイタルチェック、お茶出し、朝食準備、食事介助、交替で入所者の部屋の掃除、トイレ介助、見守り、入浴準備、昼食準備など多岐にわたる。「『ありがとう』という言葉をかけていただくと、ますます意欲がわいてきます。ここは働きやすい職場で、辞めたいと思ったことは一度もありません。家族からも、『活き活きしているね』といわれています」と黒澤さんは明るく話す。 (6)今後の課題  高齢職員に長く働いてもらうために、身体と認知機能のテストを定期的に実施することを検討している。企業としての管理体制の強化や、職員の持つ能力を最大化できる仕事の提供(職種変更)に反映していきたい考えだ。  また、定年制の廃止により、職員に「いつまでも働ける」という安心感を与えることができた一方で、自分で退職時期を設定し、そこに向かってパフォーマンスを維持していくことが求められる職場となった。統括マネージャーを務める河合(かわあい)晃司(こうじ)さんは、「現在雇用している高齢職員の多くは、山登りをしたり、健康に気を遣ったり、学び続けている人が多いのですが、将来を考えた場合、若手職員が自分でいまから何をしていくのがよいかを計画的に考え、自分のキャリアビジョンをイメージできるキャリアコンサルティングの実施も検討しています」と話す。河合統括マネージャーは、自らキャリアコンサルタントの資格を取得して、その準備を始めているそうだ。  高齢職員は、同社にとって欠かせない存在となっている。渡邉統括介護主任は、「それぞれの人生経験や、仕事をする後ろ姿から、学ぶことがたくさんあるといつも感じています。教科書では学べないことが多くあるので、若手職員にも学んでもらうとともに、高齢職員にもそういう存在であることをこれからも伝え続けていきたい」と話す。河合統括マネージャーも高齢職員に対し、「責任感や仕事に対する考え方を若い職員に伝えていってほしいと願っています。そして、いつまでも元気で、地域社会の一員として働いていてほしい」と期待している。  職員有志で取り組む職場周辺のゴミ拾いや休日の山登りが、世代間交流の機会にもなっている。活動機会を増やし、そうした触れ合いもさらに大切にしていきたいと考えている。 写真のキャプション 株式会社YKA が運営する「湧水館」 看護職の佐藤三代さん(73歳) ケアアシスト職の黒澤信子さん(75歳) 統括マネージャーの河合晃司さん 【P24-27】 令和5年度 高年齢者活躍企業コンテスト 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長表彰 優秀賞 高齢社員が安全に活き活きと働ける職場環境と制度を整備三重県で一番社員にやさしい会社を目ざす 株式会社 石吉組(いしきちぐみ)(三重県志摩(しま)市) 企業プロフィール 株式会社 石吉組 (三重県志摩市) 創立 1926(大正15)年 業種 建設業(土木・建築一式工事)、不動産業、福祉事業 社員数 115人(2023年4月1日現在) 60歳以上 24人 (内訳)60〜64歳 12人(10.4%) 65〜69歳 8人(7.0%) 70歳以上 4人(3.5%) 定年・継続雇用制度 定年60歳、希望者全員65歳まで再雇用。その後、基準を設けて70歳まで継続雇用。以降も運用により一定条件のもと年齢の上限なく継続雇用。現在の最高年齢者は76歳 T 本事例のポイント  株式会社石吉組は、1926(大正15)年に三重県志摩郡(現在の志摩市)で創立。以来、土木工事を中心に営み、海洋土木・建築工事、不動産へと事業を拡大している。  2012(平成24)年には、鳥羽(とば)市に介護付き有料老人ホーム「虹の夢とば」を開設し、異分野である福祉事業にも進出。SDGsへの取組みや、地域に根ざしたCSR活動を積極的に行っており、100年企業としての社会的責任を果たすことを目標としている。 POINT @福祉事業を開始したことが、結果的に社内の各種制度の見直し・改善の大きな契機となり、年齢上限のない、生涯現役で働ける職場の実現につながった。 A全社員を対象とした面談の実施、福祉事業部の給与設定の工夫、人事評価でのメリハリのある賞与により、賃金の納得感を高め、離職率の低下を実現した。 B業務・職場環境改善のための「声のポスト」を設置し社員の声を汲み上げるとともに、社員のアイデアや日々の悩みなどどんなことでも、いつでも総務が話を聞く、というスタンスが社員に示され、社内の風通しをよくすることに寄与している。 C休職や育児休業などの社員に対して、人事担当者がこまめに連絡し、必要に応じて家庭訪問を行い状況を把握している。復職を検討してもらう、無理のない範囲で仕事をしてもらうなど、社員の実情に寄り添ったスタンスで、常日頃から気を配っている。 U 企業の沿革・事業内容  同社は、1926年に創立。1962(昭和37)年に有限会社石吉組、1968年に株式会社石吉組へと組織変更を行うなかで、官公庁、商業、医療・福祉などさまざまな施設の土木建築工事をはじめ、海洋土木、不動産へと事業を拡大してきた。2012年には福祉事業部を設立し、鳥羽市に介護付き有料老人ホーム「虹の夢とば」を開設し、異分野である福祉事業にも進出している。  CSR活動においては、地域社会との良質なコミュニケーションを大切にし、地球環境や地域の自然環境保全のための環境負荷の低減と汚染防止に努めるとともに、同社事業にたずさわるすべての社員への人権の尊重と労働環境改善、地域社会の一員として社会貢献に取り組んでいる。 V 高齢化の状況、職場改善等の背景と進め方  事業別の社員構成は、建設事業部が3割、福祉事業部が7割となっている。近年徐々に進んできた社員の高齢化にともない、70歳超の社員も在職。建設事業では離職者が少ない一方で、建設と介護では、社員の意識、仕事に対する考え方がまったく異なり、福祉事業での離職率の高さに悩まされるようになった。また、給与面においても、建設業より介護職は低いという現状があり、介護職の採用を進めていくにあたっても、工夫しなければならないという課題が生じていた。 W 改善内容 (1)制度に関する改善 ▼継続雇用制度の見直し  「65歳以降もまだまだ元気に働ける方に、若い社員へ経験や知識またノウハウなどを残していただきたい、そして活き活きと活躍していただく『場』を提供したい」との思いで継続雇用制度を拡大。2022(令和4)年に就業規則を改定し、上限年齢を70歳まで延ばし、65歳以降の継続雇用に基準を設けた。ただし、実態としては、70歳以降も本人の意向を確認しながら雇用を継続しており、年齢上限のない雇用を実現している。 ▼賃金制度の改定  年一回の賃金見直し時には、全社員を対象に上司や担当役員が面談・評価を行っているが、評価者が一人だけにならないよう複数で行うようにしているほか、ボランティア活動などの社会貢献活動も評価項目の一つに加えている。  また、福祉事業部での処遇は、定年後も基本給、手当に変更がなく、特に介護職においては、定期的に地元のハローワークが作成する職業別賃金と比較し、その水準よりも必ず高めに設定するようにしている。そして人事評価により賞与においてメリハリをつけることで、介護職の賃金の納得感を高めている。これらの取組みが功を奏し、福祉事業部における離職率は、2015年の22%から、2022年は11%、2023年7月現在は6%と大きく改善している。 ▼多様な勤務形態・短時間勤務制度の導入  福祉事業部の一般社員には早番・日勤・遅番・準深夜勤の4勤務形態、再雇用の高齢社員やパート社員には30種類以上の勤務形態を整備し、個人の事情に合わせた働き方が可能となっている。なお、65歳以上の高齢社員には、上司と総務部で1年間に2回の面談を実施し、心身の状況や心配ごとなど問題がないかを確認している。 (2)意欲・能力の維持・向上のための取組み ▼高齢社員のモチベーション向上に向けた取組みや役割などの明確化  定年後の昇給・昇格に関しては、建設・福祉両事業部とも正規社員と同様の評価で行っている。研修や資格取得に関しても同様で、高齢社員のモチベーション向上にもつながっている。 ▼高齢社員による技術・技能継承の仕組み  建設現場における施工管理・安全管理・品質管理・環境管理にまつわる技術・技能継承のために、作業船の操船技術やクレーン作業時の安全確認の方法、汚染防止対策といった高齢社員がこれまでつちかってきた技術や心構えなどを、新入社員に指導している。 ▼高齢社員が活躍できるような支援の仕組み  建設現場で働く高齢社員には、比較的危険の少ない指示業務をはじめ、クレーンのオペレーターや操船などの習熟を要する業務に就いてもらうとともに、現場でのコミュニケーションや連携の指導にあたっている。  また、福祉事業部では、初めて介護サービスに従事する高齢社員が多くいるため、若手社員が高齢社員を指導することも多く、高齢社員の技術の習得状況や対応状況を見ながら進めている。 ▼中高年社員を対象とした教育訓練、キャリア形成支援の実施  作業負荷軽減を目的に業務の電子化に取り組んでいる。それにともなうIT研修は、ほかの研修以上に手厚く指導をしている。教育担当者は、高齢社員にわかるまでていねいに指導しており、「こうやったらできるやん、ほらできた」、「やればできるやん」、「でも明日になったら忘れたるし」、「そしたらまた教えるわ」という会話が聞こえてくるなど、職場風土や職場コミュニケーションにもよい影響を与えている。 (3)雇用継続のための作業環境の改善、健康管理、安全衛生、福利厚生の取組み ▼作業環境の改善  福祉事業部では、過去に健康管理器具によるつまづきや転倒が発生したことを機に、動線や設置場所の見直しを実施。それにより事故防止対策の効果が出てきている。  また、「声のポスト」を設置し、社員の提案や意見をもとに業務や職場環境の改善に取り組んでいる。記名での意見には総務部や幹部社員、上司などが面談を行い、一つひとつ問題や悩みを解決している。いまでは「声のポスト」を通さなくても直接話しやすい環境になってきており、職場内のコミュニケーションが改善してきていることを実感している。 ▼社員の高齢化にともなう健康管理、メンタルヘルス対策の強化  社員のなかには、けがや病気、加齢による体力低下の現実を受けとめられず、心を病んでしまう人もいる。そのようなときはまずゆっくり休養をとってもらい、復帰に向けての話合いを行っている。本人の同意のもと、総務部が家庭訪問を実施し、部署の異動・短時間勤務・日数制限を提案し、本人の希望とすりあわせて勤務形態を決めるといった、柔軟な対応をしている。 ▼安全衛生の取組み  経営トップより「年間最低10日以上の有給休暇取得」という指導を行い、取得率は、2020年から2021年にかけて16%増、また、業務改善により時間外労働は2018年から2021年にかけて、43%減少している。  社員の健康増進活動では、毎朝のラジオ体操や健康アプリの導入により運動量に応じたポイントを付与し、体力向上を図っている。  こうした健康増進活動やさまざまな取組みが評価され、「三重労働局 令和4年度ベストプラクティス企業」に選定されている。  また、両事業部それぞれで安全衛生委員会の活動を行っており、建設事業部は、月1回の安全衛生パトロールと委員会、福祉事業部は、月2回の委員会を開催している。そのほか「厚生労働省委託事業 令和2年度働く高齢者のための安全衛生管理セミナー」を受講するなど、積極的に安全衛生と事故防止に取り組み、「2023健康経営優良法人」や「三重とこわか健康経営カンパニー2023」の認定を取得している。 ▼福利厚生の充実  毎年春には、レクリエーションやバーベキュー大会を実施し、建設・福祉の両事業部の交流を図っている。そのほか、福利厚生施設として、会社でリゾートマンションを3室所有しており、多数の社員が利用している。 (4)その他の取組み  社長の「地域へ貢献する」という考え方からさまざまな地域貢献活動を行っており、事業所周辺の水路の土砂上げや側溝の清掃、草刈りや樹木の伐採などを、同社の高齢社員が中心となり行っている。また、近隣の宇治山田商業高校の職場実習の受入れを継続的に行っている。直接の雇用にはつながっていないものの、建設業と福祉事業という高校生にあまりなじみのない業種の職場実習は、地域の高校生の視野を広げることに役立っている。 (5)高齢社員の声  品質安全管理部の日(ひだか)和夫(かずお)さん(68歳)は、「建設会社において品質と安全はもっとも重要な要素です。その重要な業務を任されているという責任感もありますが、やりがいは非常に大きいです」と話す。  介護職員の田中(たなか)洋司(ようじ)さん(71歳)は、「この会社は、福祉厚生がしっかりしていて、社員の話をじっくり聞いてくれるのでとても安心感があります」と話す。 (6)今後の課題  同社にとって、全社員が大切な仲間であり、宝である。仲間を大切にしていくことが会社の発展につながり、地域社会への貢献と考えている。これからも全社員が活き活きと働いていける会社にしていくため、健康管理や職場環境をさらに改善し「三重県で一番社員にやさしい会社」を目ざしていく。 写真のキャプション 株式会社石吉組 介護付き有料老人ホーム「虹の夢とば」 「声のポスト」にはさまざまな意見が寄せられている(写真提供:株式会社石吉組) 品質安全管理部の日和夫さん(68歳)(写真提供:株式会社石吉組) 介護職員の田中洋司さん(71歳)(写真提供:株式会社石吉組) 【P28-31】 令和5年度 高年齢者活躍企業コンテスト 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長表彰 優秀賞 高齢職員の安全と健康確保を目ざしエイジフレンドリーの取組みを推進 社会福祉法人 天神会(てんじんかい)(岡山県笠岡(かさおか)市) 企業プロフィール 社会福祉法人 天神会 (岡山県笠岡市) 創業 1980(昭和55)年 業種 第1種・第2種社会福祉事業 職員数 415人(2023年4月1日現在) 60歳以上 79人 (内訳)60〜64歳 41人(9.9%) 65〜69歳 20人(4.8%) 70歳以上 18人(4.3%) 定年・継続雇用制度 定年65歳。希望者全員を70歳まで再雇用、以降も運用により一定の条件のもと年齢の上限なく継続雇用。現在の最高年齢者は88歳 T 本事例のポイント  社会福祉法人天神会は「愛と献身」を基本理念として1980(昭和55)年、岡山県笠かさ岡おか市に設立された。翌年には特別養護老人ホーム天神荘(てんじんそう)を開設、以来、時代の要請に応えて、社会福祉関係の施設・事業所を整備し、業容を拡大してきた。  現在は18の事業所を運営し、福祉サービスの提供を通じて地域貢献を目ざしている。高齢者施設のほか、就労継続支援B型事業所を運営し、地域の高齢者と障害者のために不可欠な存在となっているだけでなく、高齢職員が障害者の指導員として活躍し、働きがいを得るなど、障害者も高齢職員もそれぞれが活き活きと働ける環境を実現させている。 POINT @定年年齢を65歳とし、希望する職員は70歳まで再雇用、さらに業務上の必要性に応じて年齢上限なく継続雇用している。 A定年後の職員にも人事評価を行うとともに、職員全員が同一労働同一賃金を考慮した公平な評価を受けることができる仕組みを整備。評価に応じて賞与も支給している。 BQC活動※により優秀な提案には表彰を行うなど、職員全員のモチベーションの維持向上に取り組んでいる。 C職員の健康管理を経営的な視点で取り組んでおり、特に60歳以上の職員を対象としたKYT(危険予知トレーニング)や栄養指導など、高齢職員が長く安全かつ健康に働くことができるための環境づくりに配慮している。 U 企業の沿革・事業内容  同法人は1980年に設立、翌年には特別養護老人ホーム天神荘を開設し運営を開始した。その後、1987年に天神荘デイサービスセンター、1990(平成2)年に天神介護老人保健施設、1991年に天神荘在宅介護支援センターを相次いで開設するなど事業を拡大。福祉サービスの拠点として社会貢献を続けてきた。  法人設立から半世紀近くが経過し、特別養護老人ホーム、介護老人保健施設、障害者支援施設、就労継続支援B型事業所など、18のさまざまな事業所を運営している。経営のあらゆる場面で、ダイバーシティの理念に基づき、すべての職員が働きやすい職場づくりを目ざしている。 V 高齢化の状況、職場改善等の背景と進め方  60歳以上の職員は79 人で、全体の約2割を占める。職員の平均年齢が年々上がっており、特に介護職員においては65歳を超えて勤務している人も多い。高齢者福祉と障害者福祉に従事する人員比は約8対2で、業務上、経験と知識が必要な専門職であることから、50代がボリュームゾーンとなっており、人手不足を補うためにも高齢職員に長く働いてもらえる職場環境づくりが必要となっていた。 W 改善内容 (1)制度に関する改善 ▼定年制  2016年に定年を65歳に引き上げ、さらに2022(令和4)年には就業規則により希望者全員を70歳まで再雇用することとした。70歳以降については、就業規則上の定めはないものの、面談により、本人が働くことを希望すれば、健康、家庭の状況などをふまえて、勤務日数・時間を個別に設定して柔軟に働くことができる。また、例えば特別養護老人ホームや介護老人保健施設の業務から、肉体的に負担の少ない通所サービスに職務を変更することも可能となっている。今後は、70歳以降の雇用に関する制度の整備を視野に入れている。 ▼人事評価  定年後の賃金については、業務内容に変更がなければ、65歳定年時の賃金を適用し、昇給・賞与も、それ以前と同様に人事評価を行い、上司の1次評価、所属長の2次評価による評価内容に応じてポイントを加算し、賞与に反映させている。職員全員が、人事評価制度により公平な評価を受けることができる。  また、QC活動を導入し、任意の3人以上でグループをつくってさまざまな提案を行う体制が整備され、優秀な提案には理事長が表彰を行うなど、職員全員の意欲向上につながっている。 (2)高齢職員の意欲・能力向上のための取組み ▼活躍できる業務・職場の提供  高齢職員が就労継続支援B型事業所の支援員として、農作業マニュアルを作成。そのマニュアルにより、作業に興味を持ち楽しく取り組む利用者が増え、高齢職員のモチベーション向上につながった。  そのほか、介護について学びたいと希望する高齢職員に対して、法人負担で介護職員初任者研修に参加できるよう、スキルアップやリスキリングの支援を行っている。 ▼「てんじん心得帳」の活用  「てんじん心得帳」という携帯マニュアルを用いて、定期的な研修を行っている。日常業務で不安なことがあれば、すぐに確認できるようにしている。 ▼EPA介護福祉士候補者や外国人技能実習生、障害者等への支援・指導役  介護現場を支える戦力としてEPA介護福祉士候補者と外国人技能実習生を受け入れており、職員全体の13%を占めている。約50人のインドネシア人が働いており、宗教や文化の違いはあるものの運営に特に問題は生じていない。経験豊富な高齢職員が、外国人技能実習生の育成にも力を注いでいる。 (3)雇用継続のための作業環境の改善、健康管理、安全衛生、福利厚生の取組み  職員の健康管理に取り組んでおり、2020年、2021年は「健康経営ホワイト500」に、また、2022年、2023年は「健康経営優良法人」に認定された。その背景には以下のような多彩な取組みがある。 ▼業務支援による負担の軽減  介護施設では手書きによる記録、報告、伝達業務が多くを占め、たいへんな作業負担となっているが、それを軽減するため業務のIT化を行った。パソコン入力作業が苦手な職員はスマートフォンに音声入力することで負担が軽減された。IT化により、自分のタイミングで記録業務や入居者の見守りが可能になった。 ▼ダイバーシティ部会によるエイジフレンドリーの取組み  60歳以上の職員をおもな対象として、外部講師によるエイジフレンドリー研修を実施している。研修には60 歳以上の職員だけでなく、管理者や部会メンバーも参加し、エイジフレンドリーについて理解を深めている。 ▼健康管理、安全衛生の取組み  年2回、各現場の60歳以上の全職員を対象にKYT(危険予知トレーニング)の参加が必須となっている。日常業務や生活において事故が起きないように行動する意識づけを行う内容となっている。  また、誕生月には体力測定を実施している。内容はリハビリ担当職員が中心となって作成し、実施の際には看護師も立ち合い、体力テストの結果から本人に合わせた体操や生活改善アドバイスも行っている。  栄養面では、管理栄養士が企画し、健康維持につなげる勉強会を開催。楽しみながら取り組めるイベントは全職員から好評である。  体力面では、肉体的負担軽減のために、腰痛ベルトやノーリフトケアのための機器を導入しているが、腰痛予防はどの事業においても大きな課題となっている。  職員の健康管理を推進していく取組みとして、健康ポイントを貯めた職員を表彰する「健康ポイントカード制度」や、外部講師による「健康被害研修」を実施し、禁煙成功者には理事長が表彰状を授与するなど、健康増進への意欲の向上を図っている。 ▼サークル活動を通じた心と体の健康づくり  社内サークル(ヨガ・フィッシング・山登り・ソフトボール)には高齢職員も所属しており、さまざまな年代の職員とコミュニケーションをとりながらリフレッシュすることができ、仕事のモチベーション向上につながっている。 (4)その他の取組み  同法人は「おかやま子育て応援宣言企業」でもあり、施設内には保育園が設置され、子育て世代が安心して働ける環境を整備している。また、高齢職員が保育園児と一緒に野菜をつくり、土に触れる楽しさや収穫の喜びを共有している。  また、就労継続支援B型事業所「Apple」では、ビニールハウスや畑での野菜づくりをしており、高齢職員が指導員として障害者とともに働いている。敷地内にはカフェも開設しており、収穫物を提供している。 (5)高齢職員の声  Aさん(80歳・女性)は、障害者施設で介助員として清掃などを担当、1日8時間勤務を週5日こなしている。「以前は活魚の卸をしていたのですが、コロナ禍で3年前に閉業しました。ここで働かせてもらうようになり、利用者の方から『いつもきれいにしてくれてありがとう』という言葉をいただくことが何よりうれしいです。これからも健康に気をつけてがんばろうと思っています。」と明るい声が返ってきた。  Bさん(64歳・男性)は、就労継続支援B型事業所で指導員として勤務している。「2年前までは漁業にたずさわっていました。いまは農園で、障害者の指導員として野菜づくりを担当していますが、障害者がジャガイモ掘りをしたときの表情がとても活き活きとしていて忘れられず、この仕事はやめられないと思いました」とのこと。  Cさん(60歳・男性)は、老健施設の介助員の仕事に従事している。「1年3カ月前に新聞販売店を閉業して転職しました。初めての仕事で、当初は戸惑うこともたくさんありましたが、自分もいずれこのように年をとっていくかもしれないと思うと、日々勉強になります」と語る。 (6)今後の課題  今後の取組みとしては、すべての高齢職員に対し、定期的な運転技能チェックを行っていきたいと考えている。また、定年を迎える職員が再雇用後の働き方に不安を持ち、退職を選択するケースがあることから、柔軟な働き方について相談ができるようキャリア相談室の設置に向けた検討を進めている。相談室には専任担当者を置き、年金についてのアドバイスなども行う予定だ。さらに、体力の低下などを補うためのサポート体制の充実を図り、高齢職員がより充実した日々を送れるように支援していく。  職員の高齢化と人材不足により、専門職をはじめとする高齢職員の戦力はますます重要になってきている。今後はさらに法人全体で力を合わせ「愛と献身」を合言葉に、だれもが活き活き働ける職場づくりを目ざしていく。 ※ QC活動……QC手法(合理的に品質管理を行っていくための手法)を学び活用することで業務効率の改善につなげる 写真のキャプション 特別養護老人ホーム「天神荘」 KYT(危険予知トレーニング)の様子(写真提供:社会福祉法人天神会) 障害者施設介助員のAさん(80歳) 就労継続支援B型事業所「Apple」指導員のBさん(64歳) 老健施設介助員のCさん(60歳) 【P32-33】 江戸から東京へ [第132回] テストされる町奉行(一) 大岡(おおおか)忠相(ただすけ) 作家 童門冬二 水に落ちた犬は石で打て  徳川将軍のなかではじめて、「江戸の市民の存在」に注目したのは、八代目の吉宗(よしむね)だ。  かれは、  (この連中を政治・行政の対象にすべきだ)  と考え、江戸町奉行をその任にあてることにした。  選んだのは当時「伊勢山田奉行」だった大岡忠相だ。吉宗の前身は紀伊(きい)(和歌山県)藩主で伊勢松阪は紀伊藩の領地だったので、大岡のことはよく知っていた。吉宗は大岡を公正で誠実な人物≠ニみていた。将軍になったので、  (大岡を市民相手の町奉行にしよう)  と心を決めた。  ただ、慎重な吉宗は、すぐ大岡を町奉行にしなかった。任命前にテストをした。吉宗は、  (市民には得体(えたい)の知れない者もいる。ただ公正で誠実なだけではダメだ。ときには非情≠ウも必要だ)  と考えていた。だからテストは、「吉宗の求める非情さ≠ェ大岡にあるかどうか」ということだった。テストの対象に選ばれたのは新井(あらい)白石(はくせき)だ。学者だが将軍つきのご意見役として実務にも手を出し、権勢を振った。その態度がかなり強引なので、幕府役人は江戸城の鬼≠ニいうアダ名で呼んでいた。  が、仕える将軍が死んだため、白石も仕事を失った。権勢もすべて消えた。そうなると人の心はガラリと変わる。昨日まで腹にないことをいって接近していた役人も近寄らず、逆に悪口をいいはじめた。  直参(じきさん)のなかには自分の娘と婚約している者もいたが、ある日、人を通して断ってきた。  破談の理由は、 「先生ご自身がよくご存知のはずです」  とだけ告げた。要は、「権勢を失った人物などシュウトにしたくない」ということなのだ。  白石は完全な孤独な老人≠ノなっていた。この辺は自伝『折りたく柴の記』に詳しい。  さて、その白石を相手に吉宗は大岡に何をさせようとしたのか?  一言でいえば、  権勢を失った哀れな白石に追い打ちをかけろ≠ニいうことで、俗にいう水に落ちた犬には石をぶつけろ≠ニいうことだ。何をするのかといえば幕府が貸与している物をすべて取り戻してこい≠ニいう指示だ。そういう非情さが大岡にあるのかどうか≠ェ、吉宗のねらいだった。  もし、ないならばせっかく伊勢から呼んだ人物だが、吉宗は、  (使えない)  と思っていた。その点、吉宗は非情なトップだった。 無力になった江戸城の鬼  さて話を大岡に移そう。  かれは、新井白石の家を訪ねた。ちょっと距離をおいて家を一望した。家が気オーラ≠放っているのがわかった。清潔な気だ。  (気持ちがいい)  大岡は気≠そう受けとめた。第一印象は合格だ。入りやすい。ということは白石が接しやすいということだ。  玄関を避けて庭に向かった。なかで白石は落葉を掃(は)き集めていた。すぐ気配で大岡に気づいた。 「どなたかな?」  多少声が固い。硬(こわ)ばりが感じられた。当たり前だろう。 「このたび上様(吉宗(よしむね))からお招きをいただいて、新しく町奉行を拝命した大岡忠相と申します。お見知りおきを願います」 「伊勢山田奉行でしたな? 濁った沼に清い流れを注いでおられる、というお噂はよく耳にして心強く感じております」 「ご過褒(かほう)です。が、ありがとうございます」  訪問の第一歩は成功だ。 「で、ご用は?」  大岡はちょっと身を固くした。本題に入る。 「あまりよい用ではございません。嫌なお願いにあがりました」 「水に落ちた犬ですよ。礫(つぶて)が一つ二つ増えても気にしません。遠慮なくおっしゃってください」  大岡はホッとした。微笑んだ。 「先生のご理解あるお言葉、お願いしやすくなりました」 「評判通りのご誠実なお方だ。さあ、何でもおっしゃってください」 「お言葉に甘えます。端的に申せば、幕府がご用立てしている物を、すべてお返しいただきたいということでございます」 「・・・!」  白石は呆れて大岡をみた。やがていった。 「それがご用ですか?」 「はい」 「そんなことは当たり前のことで、職を去った者の守るべき手続きです。私も守ります。で、まず?」 「土地と上物(うわもの)、家屋でございます。もちろん代替(だいたい)の物件は用意してございますので、そちらにお移りいただきます」 「行き届いた温かいお心配り、ありがとうございます。明日からでもさっそく引っ越しの準備にかかります」 「ありがとうございます。お引っ越しは急ぎません。どうぞごゆっくりなさってください」 「江戸の民はよいお奉行を得て幸運だ…」  ひとりごとのようにつぶやいた。しかし実感が溢れていた。 「つぎに?」  先をうながした。 「調度品がございます。書き抜いてまいりましたので、ご一覧ください。ご不審の点はどうぞご遠慮なく」  白石はあの世だの、霊魂(れいこん)だのを信じない学者として有名だ。ドライな思考力の持主だ。それだけに、心の一部に同質のものを持つ大岡との話の進行は楽だった。  (上様はどういうおつもりで私にこんな仕事を命じたのだろう?)  そんな疑問が湧くほど話は支障なく進んでいた。 (つづく) 【P34-37】 高齢者の職場探訪 北から、南から 第137回 熊本県 このコーナーでは、都道府県ごとに、当機構(JEED)の70歳雇用推進プランナー(以下、「プランナー」)の協力を得て、高齢者雇用に理解のある経営者や人事・労務担当者、そして活き活きと働く高齢者本人の声を紹介します。 事業発展のため能力ある高齢者を採用働きやすい環境を整備し品質も向上 企業プロフィール 摂津(せっつ)工業株式会社(熊本県水俣(みなまた)市) 創業 1945(昭和20)年 業種 各種プラント設備・配管製作、第一種・第二種圧力容器製作、機械加工、ポンプ・モーター類のメンテナンス事業 社員数 56人(うち正規社員数55人) (60歳以上男女内訳)男性(8人)、女性(0人) (年齢内訳)60〜64歳 2人(3.6%) 65〜69歳 4人(7.1%) 70歳以上 2人(3.6%) 定年・継続雇用制度 定年65歳。基準該当者を準社員または嘱託社員として70歳まで再雇用。最高年齢者は機械加工の72歳。平均年齢は43.7歳  熊本県は九州の中央部に位置し、西は有明(ありあけ)海に面して天草(あまくさ)諸島を臨み、北は世界有数のカルデラを持つ阿蘇(あそ)山を擁します。1000カ所以上の湧水に恵まれるなど水資源が豊富なことから「火の国・水の国」といわれ、白川(しらかわ)水源、池山(いけやま)水源、菊池(きくち)水源、轟とどろき水源の4カ所は、環境庁の「名水百選」に選ばれています。  JEED熊本支部高齢・障害者業務課の宍戸(ししど)尚幸(なおゆき)課長は、「熊本県は農業が盛んで、農業産出額は全国第5位※1。国内でトップクラスの生産量を誇る品目も多く、トマトとスイカは全国1位、メロンが2位、イチゴが3位となっています※2。最近では、台湾の世界的半導体メーカーであるTSMC社の進出が注目を集めています。九州北部は『シリコンアイランド』と呼ばれた歴史があり、今回の進出は熊本県の豊富な水源が理由ともいわれています。それにあわせ、地場の半導体関連会社やIT関連会社およびその周辺事業では、将来的な人材不足を視野に、高齢者雇用制度の改定に積極的な状況がうかがえます」と話します。  宍戸課長によれば、熊本県は「高齢者の戦力化」が進んでいる県とのこと。  「2022(令和4)年度の就業者総数に占める高齢就業者の割合は17.6%(全国平均13.5%)。さらに、社員21人以上の事業所3303社(2022年度)における70歳以上まで働ける制度のある企業は1347社(40.8%、全国平均39.1%)となっています※3。訪問企業の人事担当者は代表者(決定権者)が多いことから、高齢者雇用の重要性や戦略化を助言し、制度化の有効性を説明しています」  同支部で活躍するプランナーの一人である竹馬(ちくま)昭雄(あきお)さんは、81歳を超えても精力的にプランナー活動に取り組み、生涯現役を自ら実践している大ベテランです。「平均寿命を超えましたから、あとはプラスがあるのみ」と笑顔で話すその腕にはスマートウォッチが。IT機器の操作もお手のもので、リモート会議などの取りまとめ役をになうこともあるそうです。会社員を経て、1969(昭和44)年に社会保険労務士の資格を取得し、54歳のときに社会保険労務士として開業。活動するうちにJEEDの高年齢者雇用アドバイザーの仕事を知り「ぜひこの仕事がしたい」と強い熱意を持って受嘱。アドバイザーおよびプランナー歴は今年で25年を数えます。これほど長く活躍できる秘訣は自己研鑽にもあるとのことで、「64歳のとき、30代前後の若手経営者が集まる大きなセミナーに参加し、8カ月間みっちり課題をこなし彼らと語りあったことが、いま貴重な財産になっています」と力強く話します。  今回は、竹馬プランナーの案内で「摂津工業株式会社」を訪れました。 人材確保の課題解決に向け高齢者雇用と人事施策に注力  摂津工業株式会社は、1945(昭和20)年水俣市江南町(えなんちょう)にて創業。以来、機械加工・仕上げ、製缶と業域を拡大しながら、技術力・ノウハウをつちかってきました。現在は、全国の化学プラントをはじめ、医薬品、食品などの大手メーカーやプラントエンジニアリング企業と取引きを行っています。岩本(いわもと)博光(ひろみつ)代表取締役社長は、「顧客満足度より社員満足度を優先したいと考えています。社員の勤務満足度が高くないと、お客さまが満足する納期・品質を達成することができないからです」と経営方針を説明します。鉄工業界は、いわゆる3K職場≠ニいわれ、若い世代に敬遠されるうえ、そもそも地元の工業高校の生徒数が減少していることなどもあり、地元業界は高齢化が著しく進んでいます。競合他社の人員構成を見渡しても50代の社員が中心です。  「当社は比較的若い世代が在籍していますが、高齢社員を含め、いかに長く勤務してもらい人材を確保できるかが会社の成長に大きく影響すると考えています」(岩本社長)  そこで同社では、65歳の定年時に再雇用後の働き方として、パートタイム勤務とフルタイム勤務から選択できる制度を2020年に導入しました。パートタイムは希望する勤務日数と時間で働くことができ、定年前と同様の働き方を望む人はフルタイムで働くことができます。どちらも給与水準は定年前とほぼ変わらず、昇給、賞与もあります。また、健康支援の取組みとして、インフルエンザ予防接種、人間ドックの補助金を支給しているほか、横になれるよう休憩室を畳敷きの和室に改装しました。  こうした高齢社員のモチベーションを維持するための仕組みづくりが先進的な高齢者雇用の取組みとして評価され、九州・山口生涯現役社会推進協議会が主催する「2022年生涯現役社会推進協議会推進大会」において、「九州・山口生涯現役社会推進協議会会長表彰」を受けました。  同社の取組みは、中高年人材の確保にも好影響を与えているとのこと。  「設計業務において、この数年の間に50代半ばの未経験者2人を採用しました。未経験ではありますが、職歴をふまえて設計業務の能力が習得できると判断したものです。採用から数年が経ち、現在は最先端の技術を習得して業務にあたっており、本人のやる気とつちかってきた能力の大きさを実感しています。また、他業界出身の65歳を採用した実績もあります」(岩本社長)  竹馬プランナーは、2021年4月に同社を訪問した際、働き方改革に対応する嘱託社員制度の改善策などについて提案を行いました。  今回は、各方面から同社の事業を下支えする高齢社員お2人にお話を聞きました。 経験値をフルに活かし一人二役で会社に貢献  勤続53年の坂本(さかもと)龍夫(たつお)さん(72歳)は、65歳の定年後、嘱託社員として再雇用されて7年目。週4日、8時から17時まで勤務しています。定年前は、製造部門にて製缶課・機械課で管理職を務め、工事部門および管理部門で部長を務めました。  現在は、設計部門に人員が足りない状況から、 圧力容器などの設計やCADを使用して図面作成 を行っています。  「設計は受注したところからがスタート。間違いがないように、部門のメンバーと関連する情報についてコミュニケーションをとりながら進めています。若い世代は自分で考えながら仕事をするので、見ていると楽しいですね。これからも若手といっしょに会社の発展に尽力したいです」(坂本さん)  坂本さんが工事部門の部長時に部下だった岩間(いわま)正和(まさかず)さんは、坂本さんの人柄や仕事ぶりについて「豊富な経験と知識に基づいたアドバイスがもらえて、とても頼りになります。現在は部署が違いますが、仕事の情報交換は頻繁に行っており、仕事がしやすいようにさりげなく調整をしてくれるなど、とても助かっています。坂本さんは設計部門の業務以外にも、新入社員の教育係や、管理部門のフォローをするなど、会社のためにさまざまな部門を支えてくれています」と話します。また、同社の定年制と継続雇用制度については、「働きたい気持ちがあれば働き続けられる環境が整っているのは、ありがたい」と感想を述べました。  入社5年目の田中(たなか)親男(ちかお)さん(70歳)は、品質保証課に所属。週5日、フルタイム勤務をしており、日々の業務に加えて労働安全衛生管理者も務めています。同社に入社する前は、化学・電気機器・半導体などのメーカーに勤めており、ISO9001内部監査員、環境計量士、衛生工学衛生管理者などの資格を保有しています。資格を活かし、専門学校で講師をしていたこともあるそうです。現在は、社内の若手を中心に、資格取得を推進する役割をになっています。岩本社長は「鉄工所関連の仕事は未経験でしたが、品質管理の資格と講師の経験が当社の力になると思い、採用しました。田中さんに品質管理をになってもらってから、製造トラブルとクレームが大幅に減少し、大きな成果が出ています」と、田中さんの仕事ぶりを高く評価します。  「品質保証部門の役割は、搬出する製品の品質を確保すること。ものづくりがしっかりとできているかをチェックする役割です。この仕事の遂行には、材料から形にする製缶部門の協力が何より大切です。私の視点で見ると、製缶部門の業務に協力できることが何よりうれしいですね」(田中さん)と話すなど、部門間の相互協力がよりよい製品づくりにつながっていることが伝わってきました。  労働安全衛生管理者としては、勤務する社員および外注者や派遣社員の衛生面での不具合を未然に防ぐための活動を行っています。  「仕事はクレームゼロの維持が目標です。労働安全衛生管理者の後継者も決まったので、安全衛生の重要性をしっかり伝えていきたいですね」と意気込みを語りました。  取材を終え、竹馬プランナーは次のように語りました。  「摂津工業では、高齢社員の力をうまく引き出し、若手の教育を実施しています。製品の品質がよくなっているのも、採用した高齢社員の能力を活かしてのこと。高齢社員の力により会社がパワーアップしています。同社の取組みからは、根本にある人材を重要視する強い思いが伝わってきます」  水俣市には、プラントに関する高い技術を持った中小企業群が集結しています。製缶、電気工事、保温工事、配管メーカーなどの各企業が、「チームみなまた」としてそれぞれの独自技術を活用し、品質管理体制を整え、全国に高品質なプラント機器を提供しているのです。摂津工業は、そのコア企業として企業群をリード。高品質のプラントは高い評価を得ており、会社の収益と地域を盛り上げていく事業として期待されています。その近い未来に、変わらず事業を支える高齢社員の姿があるに違いありません。(取材・西村玲) ※1 出典:農林水産省「令和3年 農業産出額及び生産農業所得(都道府県別)」 ※2 出典:熊本県「くまもとの農林水産業2022」 ※3 出典:熊本労働局 令和4年「高年齢者雇用状況等報告」、厚生労働省 令和4年「高年齢者雇用状況等報告」 竹馬昭雄 プランナー アドバイザー・プランナー歴:25年 [竹馬プランナーから] 「これまでの人生、すべて人に恵まれてきたと思って感謝しています。その恩返しの気持ちで、訪問企業の経営のお手伝いをしたいと考え、高齢者雇用の相談・助言活動を行っています」 高齢者雇用の相談・助言活動を行っています ◆熊本支部高齢・障害者業務課の宍戸課長は竹馬プランナーについて、「初回訪問における事前準備の徹底と、『雇用力評価ツール』を積極的に活用した『高齢者戦力化のためのご提案』を実施し、事業所支援を行っています。また、裁判例などをもとに、高齢者雇用に関する独自資料を作成し事業者のかかえる課題のヒントを提示しています。自己研鑽にも積極的で、さまざまなセミナーを継続的に受講するとともに、『九州人事研究会』では勉強会の幹事を21年間担当しています」と話します。 ◆熊本支部高齢・障害者業務課は、熊本市の中心部から合志(こうし)市を結ぶ熊本電気鉄道「黒石駅」下車、徒歩3分のところにあります。熊本県は、漫画『ONE PIECE』と連携した「ONE PIECE熊本復興プロジェクト」により、県内10市町村に「麦わらの一味」の像が設置されています。当支部近隣には、1960年代の作品から最新のものまで、約2万冊の漫画が自由に読める「合志マンガミュージアム」もあります。 ◆同県では8人の70歳雇用推進プランナー、1人の高年齢者雇用アドバイザーが活動。2022年度は413件の相談・助言を実施し、提案事業所は111件でした。 ◆相談・助言を無料で実施しています。お気軽にお問い合わせください。 ●熊本支部高齢・障害者業務課 住所:熊本県合志市須屋(すや)2505-3熊本職業能力開発促進センター内 電話:096-249-1888 写真のキャプション 熊本県水俣市 摂津工業株式会社 岩本博光代表取締役社長 設計部門と若手の教育で活躍する坂本龍夫さん(右)と元部下の岩間正和さん(左) 品質保証課に所属し、労働安全衛生管理者を兼務する田中親男さん 【P38-39】 第87回 高齢者に聞く 生涯現役で働くとは  自動車関連の会社で長く技術畑を歩いてきた、斉藤信明さん(75 歳)。会社勤めを終えてから新しい仕事探しに難航したが、シニアを応援してくれる行政窓口に出会って道が開けたという。そしていま、充実の日々を送る斉藤さんが生涯現役で働ける喜びを笑顔で語る。 一般社団法人インクルD スタッフ 斉藤(さいとう)信明(のぶあき)さん 労働組合で学んだ福祉の心  私は東京都町田(まちだ)市で生まれました。地元の工業高校を卒業後は、自動車部品を扱っている会社に就職、すぐにプレス機械の現場に配属されました。大型機械のラインに就いているのは新卒の若手が多く、職場には活気がありました。高度成長期真っ只中の時代で休日出勤もたびたびありましたが、若さでのり越えました。新卒はまず現場で1年ほど鍛えるのが会社の方針だったようですが、1年後には希望していた技術部門に異動することができました。  好きな仕事に就けて充実した日々を過ごしていたのですが、25歳のころから10年ほど現場を離れて労働組合の活動に専念しました。きっかけは青年婦人部を新設するための発起人の一人になったことでした。青年婦人部で活動した後、組合本部に呼ばれ、そこで4年ほど支部長も経験しました。そろそろ現場に戻れるかと思ったら今度は自動車労連という上部団体から声がかかり専従役員を務めることになりました。組合員が23万人もいる大きな団体で、目標の一つに「福祉社会の実現」を掲げていました。当時から労働組合も高齢化社会の到来を予測していたのだと思います。組合活動の一環として、それまでは縁のなかった福祉について学べたことは、その後の人生の大きな糧になりました。  団塊世代の斉藤さん。その精悍(せいかん)な風貌から、時代に背中を押されながらいつも真摯に向きあってきた芯の強さが垣間見られる。若いころに組合活動を通じて、多くの人に出会えたことへの感謝はいまも忘れていない。 アクティブ・シニア応援窓口との出会い  35歳で技術部門に戻った後は、能率管理などにたずさわり、定年後は再雇用で65歳まで働きました。65歳でいよいよ退職することになったとき、思いがけずある金型メーカーから声がかかりました。当時、私は工程設定や見積もり、外注手配などの仕事もしていた関係で、金型メーカーと懇意にしていたことから声をかけていただき、結局そこで74歳まで働かせてもらいました。ありがたかったです。それからは、毎日が日曜日という日々が待っていたのですが、18歳から74歳まで働き続けてきた体は、おかげさまで頑健(がんけん)で、気力も衰えず、もう一度働きたいという気持ちは日増しに強くなるばかりでした。  思い立ってハローワークを訪ねてみると、年齢がネックとなってなかなか仕事が見つかりません。あきらめかけていたときに出会ったのが、神奈川県綾瀬(あやせ)市の「アクティブ・シニア応援窓口」でした。  斉藤さんが現在暮らしている綾瀬市は、独自の取組みとして、「アクティブ・シニア応援窓口」を展開している。高齢者がつちかってきたノウハウを地域に活かしてもらおうと2015(平成27)年に立ち上げられ、就労はもとより、社会参加のマッチングも行っている。 人生は挑戦の連続  綾瀬市役所1階にある「アクティブ・シニア応援窓口」は、その名の通り高齢者を応援してくれるところでした。縁があるというのはこういうことかと思いました。応援窓口のコーディネーターのおかげで、2022(令和4)年7月に障害者福祉施設の清掃の仕事に就くことができました。  毎週金曜日から日曜日の週3日、朝8時半〜12時半まで、4時間の勤務です。モップの扱いには慣れましたが、プラスアルファの業務として行っている、施設に入所されている方の洗濯物の整頓の作業はなかなか慣れませんでした。乾燥が終わった洗濯物をそれぞれのかごに入れていくのですが、10時までに終えなければならないので、大げさかもしれませんが時間との戦いです。  最初は、入所者の方と距離の取り方がわからず失敗の連続でしたが、介護関係の仕事を長く続けている妻がいろいろアドバイスしてくれていたので心強かったです。清掃中に入所者の方と顔を合わせる機会もあり、笑顔を見せてくれる人もいて、自分の仕事が少しは役に立っているのかとうれしくなりました。何よりも高齢でも働ける場があるということが幸せで、仕事もだんだん慣れてきましたから、これからもがんばって続けていきたいと思っています。  清掃の仕事に就いた3カ月後、斉藤さんは、もう一つ働く場所を開拓している。当初は体の負担が大きかった清掃の仕事だが慣れてくると自分の体に余力があることを感じ、再びアクティブ・シニア応援窓口をノックした。 だれかの役に立てる喜び  清掃の仕事は週3日だけでしたから、自分はもう少し働けると思い、またコーディネーターのお世話になりました。仕事を増やすというより社会参加への思いが強かったのかもしれません。アクティブ・シニア応援窓口は就労だけではなく、趣味やボランティア、社会参加を通じて高齢者が地域のにない手になれるように背中を押してくれます。私が紹介してもらったのは、綾瀬市で初めての地域密着型通所介護事業所「ワークステーション蒼(あお)組」でした。これは、2019年に設立された一般社団法人インクルDが昨年10月に開設した施設です。ここで運転手の欠員があるとのことで、幸いにも雇っていただき、いまは週1回、水曜日に送迎を担当しています。蒼組では、%所者≠フことを<<塔oー≠ニ呼んでおり、私の仕事は、メンバーを自宅から施設へ送迎するだけではなく、有償ボランティアの現場や農耕作業などの現場に送迎することも含まれています。また、最近ではインクルDの活動に注目する人が増え、見学に来られる方も多く、その方たちの送迎もしています。「働くデイサービス」という言葉を初めて知り、私自身も新鮮な驚きがありましたが、見学に来られた方たちは、介護される人自身が有償ボランティアを通じて社会の役に立つというコンセプトに感動されるようです。  もともと運転は大好きですし、何よりも安全運転を心がけています。この7月にはインクルDの石橋(いしばし)正道(まさみち)代表のすすめで「福祉有償運送運転者講習」と「セダン等運転者講習」の受講を終え、修了証を取得しました。地域で外出支援の要請があれば少しはお役に立てるかと思います。石橋代表から勉強させてもらうことがたくさんあり、蒼組も大切な場所になりつつあります。  高齢者介護事業所での運転は、人の命を預かる重要なお仕事です。オフの日にはしっかり体を休めるとともに心をリラックスさせた後は、働ける喜びをかみしめながら、万全な心身で職場に向かいます。 【P40-43】 新連載 多様な人材を活かす 心理的安全性の高い職場づくり  職場におけるチームマネジメントを考えるうえで、近年注目を集めているキーワード「心理的安全性」をご存じですか? 心理的安全性が高い職場は、チームメンバーのモチベーションが高まり、生産性の向上も期待できるといわれています。そこで、高齢者をはじめとする多様な人材の活躍をうながすうえで大切な「心理的安全性」について、株式会社ZENTechの原田将嗣さん、石井遼介さんに解説していただきます。 株式会社ZENTech(ゼンテク)シニアコンサルタント 原田(はらだ)将嗣(まさし)(著) 代表取締役 石井(いしい)遼介(りょうすけ)(監修) 第1回 心理的安全性をつくる「4つの因子」 1 いまという時代の組織課題  いまという時代は、変化の激しい時代です。自然災害、コロナ禍や戦争といった予期せぬ出来事だけではなく、テクノロジーの進化や顧客ニーズの多様化など、日々激しい変化を実感する毎日ではないでしょうか。たとえ社長や取締役、その道の専門家であったとしても、まだ経験したことがない状況のなかで、手探りで進み続けざるを得ない時代、いわば「だれも正解を知らない」時代です。  さらに悪いことに、少子高齢化による労働力人口の減少はすでに始まっています。このような変化の激しい時代にあって、企業のマネジメントに求められるものは何でしょうか。それは、高齢者の雇用だけではなく、性別、国籍、育児や介護などの家庭環境、障害の有無など、企業で働く人たちの多様性を、チームの力に変えることです。  つまり、いまという時代には「多様な人材を活かし、急速な変化に対応しながらチームの成果に結びつけること」がひとつの重要な組織課題になっているのです。この人々の力を組織やチームのゴールに向けて最大化するための土壌が、「チームの心理的安全性」です。  「心理的安全性」というキーワードを見聞きすることが多くなってきました。新聞や雑誌で目にしたり、テレビやラジオ、上司・同僚との会話のなかで耳にしたり。もしかすると、経営陣から「当社では、心理的安全性を重視する」、「心理的安全性の欠如が課題だ」などといわれている方もいらっしゃるかもしれません。  それではこの「ヌルい組織では?」と誤解されることも多い「心理的安全性」とは、何なのでしょうか。 2 「心理的安全性」とは  心理的安全性とは、「組織やチームのなかで、だれもが率直に、思ったことを言い合える状態」をいいます。この言葉が登場したのは、半世紀以上も前の1965(昭和40)年のこと。もともとは組織全体に使われる言葉でした。その後、現在ハーバード・ビジネススクールの教授を務めるエイミー・C・エドモンドソンがチームに応用し「対人関係のリスク※1をとっても大丈夫だ、というチームメンバーに共有される信念のこと」と定義しています。さらに、米グーグル社が「プロジェクト・アリストテレス※2」のなかで再発見。チームにとって「圧倒的に重要」と結論づけ、注目を集めました。  この成果や生産性につながるという心理的安全性は、左右に仲のよさを、上下に成果やパフォーマンスをとった、図表1で考えるとわかりやすいのではないでしょうか。  図表1の左側のように、仲が悪いことが生産性に悪影響をおよぼすことは明らかでしょう。けれども、心理的安全性は、単にチームメンバーの仲がよいということでもありません。仲がよすぎる状態で、現状の人間関係を維持することが優先され、言うべきことが言えない場合も成果は上がりません。  心理的安全性が高いチームとは、仲が「悪すぎる」でも「よすぎる」でもなく、目ざすゴールや成果のために「健全な意見の衝突(ヘルシーコンフリクト)」が起こせるチームです。 3 心理的「非」安全性について考える  よりイメージを膨らませるために、心理的「非」安全なチームを見てみましょう。対人関係のリスクの高いチームと言い換えてもよいでしょう。人はチームで働くなかで、どんなときに「対人関係のリスク」を感じるのでしょうか。  みなさんの職場でも、該当することはありませんか。 ●現場から離れて長い上司の感覚と、いま現在現場を見ている自分の感覚では、かなりの乖離があるので、率直に意見を言いたいが、失礼だと思われるリスクがある(だから、今回も上司の方針に従った。後日「やっぱり」と思う悪い出来事があった)。 ●自分のほうが経験は豊富だが、役職が上の年下上司に対して意見を言うことはチームの雰囲気を気まずくさせてしまうリスクがある(だから、言った方がよいかもしれないことを言わなかった)。 ●「これからはチャレンジが大事である、という全社方針」に従って、せっかくやってみた新しいチャレンジや意見に「それ、ほんとにうまくいくの?」と訝(いぶか)しげにたずねられた(だから、二度と余計なチャレンジはしないつもりだ)。 ●何か新しいことに挑戦・工夫してみたいが、もし失敗したら評価が下がる、あるいは、仕事ができない人だと思われるリスクがある(だから、従前通りのやり方でやった)。  このように、対人関係のリスクとは、自分の発言や行動が、チームのほかのメンバーから「こんなふうにネガティブに受けとられるかもしれない」、「よかれと思って行動しても、罰を受けるかもしれない」という恐れからくるものです。  上記の事例で見てきたように「罰」といっても、規定による罰則のような大きな罰ではなく、ちょっとした不愉快な反応も含めて「罰」と感じられます。この罰や不安が心理的に「非」安全な職場を生み出し、必要なことでさえメンバーが行動を控えるようになってしまう、厄介なチームの雰囲気が生まれてしまうのです。  心理的「非」安全な職場は、「チームの学習」という観点で、大きく次の二つの問題があります。 @挑戦することがリスク…実践し、模索し、行動することから学ぶということができなくなります。 A情報の滞留と知識の蒸発…個々のメンバーが気づいていたり知っていたりすることを、うまくチームの財産へと変えることができません。つまり、チームというよりも分断された個人の集合(グループ)となってしまい、個人の学びはチーム・組織の学びとならないのです。  一方「心理的安全な職場」は、このような対人リスクに怯えることや、忖度することにエネルギーを使う代わりに、「健全に意見を戦わせ、生産的でよい仕事をすること、成果を出すことに力を注げる」チームです。  「高齢者活用」というと、「高齢者をどのように活かすか」というラベルを貼って物事を見てしまいます。もちろん、高齢者全般にいえる、ケアすべき点・フォローすべき点もあるでしょうが、大原則としては「多様な人材を活かす、心理的安全性の高いチームをつくること」を目ざしていただく、そのチームの一員として、ときに高齢者とくくられる年代の人がいる。そのようなとらえ方をしたほうが結果として高齢者も含めて、全員が輝くチームに近づけます。 4 心理的安全性「4つの因子」  ではこの「心理的安全性」は、どのような構成要素によってつくられるのでしょうか。  私がシニアコンサルタントを務める株式会社ZENTechは、日本の組織文化・働き方・職場環境にあわせた「日本版・心理的安全性」づくりに取り組んできました。独自のサーベイシステムSAFETY ZONE○Rを開発し、日本の1万チーム以上もの組織を計測。検証を重ねたところ、心理的安全性を高めるために重要な因子(要素)を見いだしました。  それが「話しやすさ」、「助け合い」、「挑戦」、「新奇歓迎」の4つの因子です。組織・チームに心理的安全性があるとき、この「話助挑新(わじょちょうしん)」の「4つの因子」が高いと思ってください(図表2)。  4つの因子は、それぞれのチームの状態を表すバロメーターでもあります。まずはこの4つの因子をモノサシとして、ご自身のチームに当ててみてください。 【「話しやすさ」因子】  雑談を含め、情報共有が頻繁に行われる環境はもちろん大切です。「話しやすさ」因子では、そのような情報共有の「量」に加えて「質」も大切です。  例えば、あえての反対意見や、従来のサービスがうまくいっていない兆候など、あなたのチームは、「言いにくいけれど、仕事を前に進めるうえで大切なこと」、「不都合だけど、しかし必要な真実」が発言され、共有され、それが歓迎される環境でしょうか。 【「助け合い」因子】  チームワークの根本となる因子で、互いに助け合える環境のことです。日常的にリーダーや同僚と相談ができ、ミスやトラブルがあったとき、失敗した個人を責めるのではなく、解決・改善に向けて建設的な対話ができる状態です。  特に、あなたがリーダーや先輩の立場であれば、「知らないことをメンバー・後輩に率直に聞けるか、フラットに助けを求めることができるか」をふり返ってみてください。 【「挑戦」因子】  「挑戦」を掲げる組織で、実際に歓迎されているのは多くの場合、挑戦ではなく成功です。けれども成功が保証されていないものに取り組むのが挑戦であって、失敗はつきものです。挑戦の結果が判明する前に、まずは「挑戦したこと、そのもの」を歓迎できる周囲の環境が重要です。この挑戦因子が高いと、アイデアや企画が出やすくなり、挑戦そのものの数、いわばチームの挑戦の総量を増やすことができるでしょう。 【「新奇歓迎」因子】  「人」にフォーカスした因子です。その組織やチーム、ときに社会や業界の「常識」にとらわれず、メンバー一人ひとりの強みや個性、新しい視点や発想を受け入れ、「まとはずれ」をむしろ歓迎する環境です。多様性(ダイバーシティ)が、早期に包摂(インクルージョン)され、うまく活用することに優れた組織・チームです。  これら心理的安全性4つの因子「話助挑新」について、まずはあなたのチームの現状把握を試みましょう。小さなチームであれば、この記事を見ながら数人で「ウチはこれが高そう」、「ここは伸びしろかな」と対話してみてもいいでしょう。全社規模であれば、SAFETY ZONE○Rのような組織診断サーベイの活用が効果的です。診断や対話をもとにフォーカスポイントがわかると、打てる手も見えてくるものです。 5 まとめ  チームの目標に向かうために、地位や経験、年齢も含めた多様な人々が、さまざまな視点を持ち寄り、意見を出し合える状態が心理的安全性の高い状態です。「話助挑新」の4つの因子をチームで高め、多様な人材が活かされ、成果の出るチームを目ざしましょう。 ※1 無知だと思われるリスク、無能だと思われるリスク、邪魔だと思われるリスク、否定的だと思われるリスク ※2 プロジェクト・アリストテレス……2012年に米グーグル社が行った、生産性が高いチームの共通点を見つけるための企業リサーチ 図表1 心理的安全性とは 成果・パフォーマンス 仲が悪すぎる ・話もしたくない ・足を引っ張りあう ・自分中心・他責 心理的安全な関係 ・成果のため健全な意見の衝突 ・意志ある仕事と働きがい 仲がよすぎる ・成果より人間関係重視 資料提供:株式会社ZENTech 図表2 心理的安全性をつくる「4つの因子」 話助挑新 話しやすさ ちょっといま、いいですか? 助け合い 何かサポートできる? 挑戦 まずはやってみよう! 新奇歓迎 その視点はなかった! 資料提供:株式会社ZENTech 『最高のチームはみんな使っている心理的安全性をつくる言葉55』 (飛鳥新社) 原田将嗣 著/石井遼介 監修 定価 1,650円(税込) 職場の心理的安全性を高めるうえで、もっともシンプルで効果的な「言葉の使い方」。本書では、55のケースを用いて、心理的安全性を高めるための言葉の使い方を、「4つの因子」を交えて紹介。ぜひご一読ください。 【P44-47】 知っておきたい労働法Q&A  人事労務担当者にとって労務管理上、労働法の理解は重要です。一方、今後も労働法制は変化するうえ、ときには重要な判例も出されるため、日々情報収集することは欠かせません。本連載では、こうした法改正や重要判例の理解をはじめ、人事労務担当者に知ってもらいたい労働法などを、Q&A形式で解説します。 第66回 契約更新回数の上限の意味、継続雇用希望の意思表示方法 弁護士法人ALG&Associates 執行役員・弁護士 家永勲 Q1 有期契約社員の契約更新の上限設定と、無期転換権発生の関係について教えてほしい  契約社員の更新期限を5年に満たない範囲で設定しています。5年を迎えようとしている社員から「無期転換権を発生させないような制度で、違法なのではないか。労働契約を更新して、無期転換権を行使したい」と求められていますが、応じなければならないでしょうか。 A  更新期限の設定自体は、契約更新を期待させないようにするための一要素として意味があるものであり、そのこと自体が違法というわけではないと考えられます。ただし、契約内容と異なり上限設定が形骸化するような説明や実態がある場合は、上限を設定していたとしても更新する義務が生じることがあります。 1 有期労働契約の無期転換権  有期労働契約を締結している場合、その合計の期間が5年を超えた場合は、当該更新された労働契約の期間中であれば、有期から無期に転換する権利(いわゆる「無期転換権」)を労働者に与えています(労働契約法第18条)。  これは、有期労働契約が長期化するなかで、実態として正社員に近づいていたり、有期労働契約の不安定さを維持することが適切ではなくなっていくことから、5年を超えた有期労働契約については、無期労働契約へ転換する権利を付与することとされています。  この制度が導入された当時、5年を超えないような有期労働契約とすることで、無期転換権が発生しないようにするために、更新回数または更新期間に上限を設定するということが行われてきました。  労働者からすれば、上限設定だけで無期転換権を形骸化することができるというのは不合理に感じられるところであり、使用者からすると非正規雇用は雇用の調整弁としての位置づけもあり、調整弁として機能しなくなってしまう無期転換権を避けることは経営上の判断としては取らざるを得ない選択肢でもあったかと思います。  当時から、この上限設定について、そもそも有効としてよいのか、どのような意味があるのかという点が論点になっていましたが、近年、この論点に関連する裁判例が現れています。 2 更新上限の設定に関する裁判例  東京高裁令和4年9月14日判決(日本通運〈川崎・雇止め〉事件)は、有期労働契約の上限設定に関して、労働契約法第18条を潜脱する目的を有したもので、無効であるという主張が行われた事件です。そのほか、労働者の自由な意思が確保された状態での合意によらなければ、更新上限を設定することはできないという主張もなされています。なお、現在、この事件に対する上告受理申立てがなされており、最高裁による判断がくだされる可能性もあります。  高裁判決では、労働者からの主張として、公序良俗違反と自由な意思による合意の不存在がなされており、これらの争点に対する判断がなされました。  そもそも、第1審の地裁判決においても、「本件雇用契約締結当初から、更新上限があることが明確に示され、原告もそれを認識の上本件雇用契約を締結しており、その後も更新に係る条件には特段の変更もなく更新が重ねられ、4回目の更新時に、当初から更新上限として予定されていたとおりに更新をしないものとされている」という点を重視して、有期労働契約を締結する労働者の業務については、顧客の事情により業務量の減少・契約終了があることが想定されていたことや、業務内容自体が高度なものではなく代替可能であったことなどから、更新に対する合理的な期待を生じさせる事情があったとは認めがたいとして、労働者の主張を認めない判断をしていました。  高裁判決もこれを基本的に維持しつつ、労働者から行われた高裁における追加主張に対する判断をくだしています。  その内容は、「労働契約法18条の規定は、…有期労働契約の濫用的な利用を抑制し、労働者の雇用の安定を図ることを目的とするものと解される」としつつも、「同条の規定が導入された後も、5年を超える反復更新を行わない限度において有期労働契約により短期雇用の労働力を利用することは許容されていると解されるから、その限度内で有期労働契約を締結し、雇止めをしたことのみをもって、同条の趣旨に反する濫用的な有期労働契約の利用であるとか、同条を潜脱する行為であるなどと評価されるものではない」として、上限設定それ自体が違法とされることはないと判断しています。これに類似する判断として、最高裁平成30年9月14日判決において、65歳を超えて有期労働契約を更新しない旨の上限を設けていた事案があります。本件では、「被上告人の事業規模等に照らしても、加齢による影響の有無や程度を労働者ごとに検討して有期労働契約の更新の可否を個別に判断するのではなく、一定の年齢に達した場合には契約を更新しない旨をあらかじめ就業規則に定めておくことには相応の合理性がある」として、上限を設定することが高年齢者雇用安定法に抵触するものではないと判断した事例がありましたので、その傾向は変わっていないように思われます。  しかしながら、上限設定がいかなる場合においても、更新拒絶の理由になるかというと、そういうわけではなく、高裁判決は、「同法19条による雇止めの制限が排除されるわけではないから、有期労働契約の反復更新の過程で、同条各号の要件を満たす事情が存在し、かつ、最新の更新拒絶が客観的かつ合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合には、(中略)従前の有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件で承諾したものとみなされ」、その結果として、通算5年を超えて更新されることとなる場合には、無期転換申込権を取得することになると判断しています。  なお、同法19条の適用に関しても、また、「使用者が、一定期間が満了した後に契約を更新する意思がないことを明示・説明して労働契約の申込みの意思表示をし、労働者がその旨を十分に認識した上で承諾の意思表示をして、使用者と労働者とが更新期間の上限を明示した労働契約を締結することは、これを禁止する明文の規定がなく、同条19条2号の回避・潜脱するものであって許容されないと解する根拠もない」として、更新上限を設けていることのみをもって結論が左右されるのではなく、期待の合理的理由を否定する方向の事情(一要素)として考慮要素になるという整理をしています。  このような判断が下されたことと、2024(令和6)年4月1日から施行される労働条件の事前明示に関して、有期労働契約者に更新上限の明示が義務付けられたことは整合性があるといえます。労働者の主張によると、そもそも更新上限を設定すること自体が許容されるべきではないということになりますが、労働条件明示のルールにおいてはむしろ更新がないのであればないと明確にしておくべきという整理がなされたところです。  高裁の判断や労働条件明示の位置づけからすれば、基本的には、更新上限を設定している場合には、使用者にとって契約当初に想定していた更新期限の設定としての意味を持つことになります。しかしながら、有期労働契約の更新にあたって、5年間の間に、その際の説明内容の変化や業務内容の変化などが生じる可能性があり、また契約期間管理の状況が杜撰であったりした場合にも、期待の合理的理由は高まる可能性はあり、上限設定さえしていれば、更新を確実に拒絶できるわけではありません。  なお、自由な意思による合意が必要との主張に対しては、「本件雇用契約の締結当初から明示されたものであり、しかも、本件雇用契約書及び説明内容確認票の各記載によれば、本件雇用契約の雇用期間は5年を超えない条件であることは一義的に明確であること」や本人には面談のうえ説明されていたことなどから、自由な意思に基づかないで合意されたとの事情があったとはいいがたいとして排斥されています。基本的には、最高裁判例などで採用されている労働者の自由な意思が求められる場面は、これまでもすでに成立している労働条件の不利益変更の場面であることからしても、契約成立時点で明示されている更新上限にまでそのまま妥当するものではないといえるでしょう。ただし、契約締結当初ではなく、有期労働契約の更新時に更新上限を追加するような場合には、労働者の自由な意思による合意が求められる可能性は否定できません。 Q2 定年を迎える従業員の継続雇用への意思確認は、どのようにすればよいのでしょうか  従業員が継続雇用を希望するか否かを明確にするために、会社所定の様式で提出することを求めています。定年を迎えた従業員から様式に則した希望が示されなかったのですが、継続雇用を拒否しても構わないでしょうか。 A  定年後再雇用の希望の示し方について制限を設けていたとしても、希望する旨の意思が示されている場合、客観的かつ合理的な理由および社会通念上の相当性が認められないかぎり、継続雇用に応じる必要があります。 1 継続雇用の要件  高年齢者雇用安定法第9条1項2号において、継続雇用制度について、現に雇用している高年齢者が希望するときは、当該高年齢者をその定年後も引き続いて雇用する制度と定義されています。  ポイントは、高年齢者が「希望」するときという要件が定義に含まれていることから、すべての高年齢者を継続雇用の対象としなければならないというわけではなく、希望者を対象とする制度とされているという点です。  とすると、定年を迎える労働者が、継続雇用を希望しているか否かを確認しなければ、継続雇用するか否かを判断できないということになります。そこで、使用者としては、希望の有無を明確化するために、所定の様式などを用意して確認することもあるでしょう。  所定の様式を用意することは意思を明確化するためには不合理な制度ではないと考えられますが、その運用方法を誤ると、紛争になってしまう可能性があります。 2 様式性の過度な要求による紛争  函館地裁令和4年12月13日判決は、高年齢者雇用の希望について、様式性を厳格に求めたことが一因となって紛争となった事例です。使用者は、定年後の再雇用について、60歳の定年退職者で引き続き勤務延長を希望している労働者は、厚生年金受給開始日の前日までを対象とし、退職日の1カ月前までに所定の書式として「勤務延長願」を作成させるという運用がとられていました。  当該事件において、使用者は、ある労働者について、再雇用にあたっては定年退職日の90日前までに労働者が「勤務延長願」の用紙の交付を請求する運用があり、労働者から当該指定の用紙が提出されなかったことや使用者が用意した定年退職を前提とする確認書に署名押印していることなどを理由に、継続雇用を拒否したところ、労働者は、継続雇用を希望していたことを理由として、再雇用の拒否が不当であるとして労働委員会への救済申立てを行っていました。  裁判所は、「そもそも、所長は、原告が令和3年1月29日に所長に対し継続雇用の意思がある旨を告げた際、原告に対し所定の勤務延長願を交付しておらず、その後も、原告に対しては勤務延長願が交付されないまま、同年2月24日、労務課の職員から再雇用をしない意向を告げられた」ことや、その後に「再雇用を巡って紛争となったという経緯等を踏まえると、原告が所定の勤務延長願の交付を求めず、また提出することもなかったことをもって、原告に再雇用を承諾する意思がなかったことを基礎付けると評価することはできない」と判断されました。また、様式は異なるものの、労働者が、労働組合または代理人弁護士を通じて再雇用拒否が無効である姿勢を示していたことなどから、再雇用を希望する意思があったものと認定しています。  使用者が行っていた運用をそのまま徹底すれば、様式性を満たすことなく示された希望については、使用者にとっては継続雇用の希望を示したものとは認めないという扱いになりますが、裁判所はこれを否定しています。裁判所は、様式性の定めや運用が定着していたとしても、様式外の方法による希望が示されていた事情があれば、継続雇用の希望の意思は示されたものとして取り扱われなければならないという評価をくだしたといえます。また、本件においては、対象の労働者と使用者の間で労働組合における活動内容を背景とした不和が生じており、見方によっては使用者から「勤務延長願」を提供しないことで、継続雇用の様式性を満たせないようにしておくことで拒絶の理由としたというとらえ方もできるような状況となっていました。  様式性を求めて、取扱いをできるかぎり統一的に行うことで、定年後の継続雇用の希望を正確に把握しておくこと自体は不合理ではないとしても、希望の把握方法はその内容に限定されるものではなく、そのほかの方法で希望が示された場合であっても、継続雇用の対象として扱うことが適切です。希望の有無が不明瞭にならないように書面であらためて提出するようにうながすといったことは行ってもよいと考えられますが、所定の様式にこだわりすぎずに、労働者の真意を正確にとらえるように留意することが重要でしょう。 【P48-49】 スタートアップ×シニア人材奮闘記 株式会社Photosynth(フォトシンス)取締役 熊谷(くまがい)悠哉(ゆうや)  起業したばかりのスタートアップ企業においては、はじめてのことばかりで経営や事業にはうまくいかないことや課題にぶつかることが数多くあります。そこで、「スタートアップ企業にこそ、経験豊富で実務のノウハウを持ったシニア人材が必要」という声もあり、実際に、その経験を活かしてスタートアップ企業で働く高齢者も増加しています。  このコーナーでは、スタートアップ企業に必要なシニア人材をどう見出し、活用し、活躍に結びつけていくかについて、実際にスタートアップ時にシニア人材(深谷(ふかや)弘一(ひろかず)さん)を採用し、現在も活躍中である、株式会社Photosynthの熊谷悠哉取締役に、当時をふり返りながらシニア人材活用のポイントについて語っていただきました。 最終回 キーレス社会実現のため、シニア人材の活躍の場はさらに拡大 シニア人材によるガバナンス強化で株式上場を実現  これまで、深谷弘一さんというシニア人材を中心に当社のスタートアップ期におけるシニア人材の活躍についてお話ししてきました。今回は、連載も最終回となりましたので、スタートアップ期を過ぎて株式上場を果たす時期にお世話になったシニア人材と、当社の今後の取組みなどについてお話ししたいと思います。  ふり返れば深谷さんにはスタートアップ時の「会社が0から1」になるタイミングで、おもに開発面を支えてもらったのですが、実際に法人として運営していくためには経営管理や法務といった間接部門の専門知識も必要でした。創業時のメンバーにはそういった知見のある者がほとんどいなかったので、当初は出資していただいた株式会社ガイアックスさんの支援を得たり、外部の顧問弁護士や弁理士にお願いして、法人としての体制を整えていきました。  その後、会社が成長して株式上場を目ざすようになり、上場のために必要な法務担当として雇用したシニア人材が、現在も常勤監査役をお願いしている島田(しまだ)和衛(かずえ)さんです。  島田さんは、大手航空会社や有名アパレル企業などで法務を担当していた経験があり、その知見を当社で活かしてもらおうということで、2019(平成31)年3月に採用しました。入社当時は68歳だったのですが、一見そのような年齢には見えない若々しさでした。しかもアパレル業界出身で、服装もダンディだったので、とても実年齢には見えなかったことを覚えています。  島田さんの法務関連の経験は卓越したものがあり、内部監査として会社運営についてさまざまな角度から指摘してもらったことが、コーポレートガバナンスを強化するという面で大きく役立ちました。島田さんの貢献もあり、その後2021(令和3)年11月には無事に上場することができました。 お互いに納得できる高齢者雇用の形態がこれからの課題  当社も社歴10年目を迎えて、中途入社の方のなかには50代後半にさしかかり、もうすぐ60歳という方もいます。そういった方たちを見ていると姿も仕事も活き活きとされていますので「60歳が高齢なのか?」と率直に思わされます。そのこともあり、深谷さんや島田さんのように70代、80代になっても活躍することは十分可能だと思っています。  そこで、当社でも今後考えていかなければならないのが「高齢者雇用の形態をどのように整備していくのか」という課題です。例えばエンジニアは基本的にアウトプットで評価しますので、事前に上長と設定した成果を出せば、その対価としての給料をもらうという形でわかりやすいのですが、定年後に契約の形態が変わったために専門家として同じことをやっているのに報酬が下がるというのは、違うのではないかと感じるのです。  当社でも就業規則としては定年制がありますが、私自身は定年後も仕事の成果に対して報酬が決まるべきだと考えていますので、そこに合わせて、納得できる報酬で働き続けられる制度を模索していく必要があると思います。  深谷さんというモデルケースがありますが、深谷さんの場合は専門スキルがあって、技術的なアウトプットが明確なので評価しやすく、報酬を決めやすかったところがありました。しかしそれを会社としての評価制度にどう組み込んでいくか、普遍化していくかという制度設計はとてもむずかしいところがあり、会社もシニア人材もより納得できるような制度を目ざして、今後も議論を重ねていくべきだと考えています。 過去の経験だけに頼るのではなくシニア人材こそ勉強が必要  当社では「キーレス社会の実現」をミッションに掲げていますが、これは「物理的な鍵を持たなくても一つのIDを持つことでいろいろなサービスがスムーズに利用できるような世の中にしたい」ということです。  例えば、賃貸物件に入居するときには合鍵をつくるのが普通ですが、それをつくるのに鍵交換を含めて一つ数万円ぐらいの費用が発生します。しかしこれをデジタルに置き換えればスマートフォン上にデジタルな鍵の権限が付与されるので、それをかざすだけで部屋に入れるようになります。しかも利用者側のコストは発生しません。すでにこのサービスを提供し始めているのですが、このようにいろいろな分野に「キーレス」実現のニーズが存在します。つまり業界の数だけキーレスの提供価値があるということです。そういう意味では、その業界に精通している方であれば、当社ではシニア人材の活躍の場がこれからも拡大していくでしょう。  ただし、すでにお話しした通り、過去の経験だけでは通用しないのが現実です。エンジニアの世界では30代ですら20代と競争しています。もちろん40代でも当然20代と競争していて、場合によっては20代の方がある領域については詳しいという場合もあります。それでも年上の世代は総合力で勝とうと、切磋琢磨しているのです。スキルがあって、そこに新たな知見や情報が加わるからこそ対価が出てくるのですから、勉強し続けることはとても重要だと思いますし、それをいまでも続けている深谷さんは、やはりあらためて本当に凄いと感じます。  当社にかぎらず今後もシニア人材活躍の場は大きく広がっていくと思います。それを活かすには自身のスキルや知見をつねに磨き、勉強し続けることができるかどうかにかかっているのではないでしょうか。 〈おわり〉 ★本連載の第1回から最終回まで、当機構(JEED)ホームページでまとめてお読みいただけますhttps:www.jeed.go.jp/elderly/data/elder/series.html 写真のキャプション 上場記念のパーティーで深谷さん(左)と熊谷取締役(右)(写真提供:株式会社Photosynth) 【P50-51】 いまさら聞けない 人事用語辞典 株式会社グローセンパートナー 執行役員・ディレクター 吉岡利之 第40回 「HRDX」  人事労務管理は社員の雇用や働き方だけでなく、経営にも直結する重要な仕事ですが、制度に慣れていない人には聞き慣れないような専門用語や、概念的でわかりにくい内容がたくさんあります。そこで本連載では、人事部門に初めて配属になった方はもちろん、ある程度経験を積んだ方も、担当者なら押さえておきたい人事労務関連の基本知識や用語についてわかりやすく解説します。  HRDXとは、HR(Human Resource)とDX(Digital Transformation)を組み合わせた用語です。 DXは単なる業務の効率化ではない  HRDXの話に入る前に、まずはDXとは何かについて押さえておきましょう。近年、報道や仕事をするうえでDXという用語を聞く機会は多いと思います。  DXの定義はデータやITシステムを使った業務効率化≠ニいった説明も見られますが、経済産業省は『デジタルガバナンス・コード2・0』※1のなかで「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」としています。業務効率化にとどまらず、ビジネスモデルや仕事の仕方、組織までも変革することまで見すえている点が大きなポイントです。会社の理念や存在意義をもとに、中長期的な会社やビジネスのありたい姿(理想)を設定し、理想と現状の差分を解消する一つの手段≠ニしてデータやITシステムを活用することが重要です。しかし、DXの推進そのものを目的にしてしまうと、やってみたものの思ったほどの効果がみられないとして、DXの取組みが頓挫(とんざ)してしまいがちになるため注意が必要です。 人事分野のDX推進は重要性が増していく  それでは、HRDXについてみていきたいと思います。HRは人的資源※2や人材をさすため、人事領域にかかわるDX(人事DX)といえます。わざわざ人事領域にフォーカスしている背景には、人事業務や人事部門ならではの次のような問題があるからです。 @人事のIT化の後れ…ITへの投資をしている会社でも、収益向上に直接かかわらない人事に対する投資は後回しになりがちになっている。 A人事の業務が属人化…人事の多岐にわたる業務(給与計算・労務管理・採用など)を少人数でになっており、担当者しか業務を把握できない状況になっている。 B人事施策の感覚的実施…人の能力や適性などの数値は図りにくく、人事部門に数値的な成果を求められることが少なかったため、経験則に基づく感覚で人事施策を行ってしまう。  ほかにもありますが、人事領域においてはITシステムの導入も活用も後れているというのが、多くの会社で共通しているところです。  それでは、HRDXによって人事はどのように変わっていくのでしょうか。最初のステップとしては人事業務の効率化があげられます。@Aの理由もあり人事担当者は一日の多くの時間を目の前の制度運用対応や手作業に費やし、新たな取組みや提言を行う物理的な時間が不足しているといわれています。DX化により作業などの時間が削減できれば、新たな取組みなどに充てる時間が捻出できることになります。  次のステップとして、人事にかかわるデータを収集・分析し、その結果を用いて人事施策の立案・決定に活かしていくこと(ピープルアナリティクス)があげられます。例えば、採用・人材配置などはBで記載したような経験則で最もやりがちな施策でしたが、優秀層の属性、行動・成果実績やスキルなどをデータ分析し、人材像を明確化したうえで実施する企業も増えています。  さらにその先のステップとして、経営への貢献があげられます。人事部門に求められる役割は人事諸制度の運用改善から持続的な企業価値の向上への貢献に変化してきています※3。人的資本情報の把握(女性管理職比率、男女間賃金差異など)の情報整理はもとより、企業の中長期的な成長に対して、どのような人材を組み合わせれば達成できるか(人材ポートフォリオ)、そのために最適な採用や教育、働き方、組織風土は何かまでも提案・実行することが求められます。DXの定義にある会社の変革を人事面から推進することがHRDXの大きなゴールといえます。 DXの取組みはまだまだこれから  最後に、各社のDXの取組み状況について見ていきたいと思います。HRDXに絞った公的機関が出している統計は見あたらないため、DX全般の統計になりますが、「令和4年版 情報通信白書」(総務省)によると、DXに関する取組みを進めている日本企業の割合(「全社戦略に基づき全社的に」、「一部の部門において」、「部署ごとに個別にDXに取組んでいる」企業の合計値)は約56%です(アメリカは約79%)。中小企業については、より少なく、「中小企業のDX推進に関する調査」(独立行政法人中小企業基盤整備機構)によると、(「既に取り組んでいる」、「取り組みを検討している」企業の合計値)は、24.8%です。取組みが活発であるとはいいがたい理由としては、DXにかかわる人材やスキル不足のほか、「具体的な効果や成果が見えない」、「経営者の意識・理解が足りない」などがあげられています(図表参照)。HRDXについては、推進の必要性を経営者が理解することのハードルがより高いことが想定されるため、HRDXの目的と効果を事前に整理することがいっそう重要となります。  次回は、「フリーランス」について解説します。 ※1 デジタルガバナンス・コード…… 企業のDXに関する自主的取組みをうながすため、デジタル技術による社会変革をふまえた経営ビジョンの策定・公表といった経営者に求められる対応をまとめたもの。2020年11月策定、2022年9月に改訂 ※2 人的資源……経営に不可欠といわれている資源であるヒト・モノ・カネ・情報のうち、ヒトにかかわる部分 ※3 本連載第37 回(2023 年8月号)「人的資本」をご参照ください https://www.jeed.go.jp/elderly/data/elder/202308.html 図表 DXに取り組むに当たっての課題 (複数回答n=1,000) DXに関わる人材が足りない 31.1% ITに関わる人材が足りない 24.9% 具体的な効果や成果が見えない 24.1% 予算の確保が難しい 22.9% 経営者の意識・理解がたりない 19.0% DXに取り組もうとする企業文化・風土がない 18.8% 何から始めてよいかわからない 17.1% ビジョンや経営戦略、ロードマップがない 12.6% 情報セキュリティの確保が難しい 7.5% 既存システムがブラックボックス化している 5.2% その他 2.6% 出典:独立行政法人中小企業基盤整備機構「中小企業のDX推進に関する調査」(2022年5月) 【P52】 日本史にみる長寿食 FOOD 360 きな粉のパワーで人生の山登り 食文化史研究家● 永山久夫 「俺の人生これからだ」  何歳になっても、「俺の人生これからだ」と唱え、生涯の山坂をニコニコしながら登りたいものです。  90歳の山を越えたら、次は100歳の山を目ざせばよいのです。人生の年齢に限界などありませんから、120歳でも、150歳でも、どんどん高い山にチャレンジしましょう。  人生の山登りのパワー源として、おすすめしたいのが「きな粉」です。  きな粉は、丸大豆を火でいり、食べやすいように粉末にしたもので、餅やおにぎりにまぶしたり、ご飯にふりかけたり、あるいはお菓子の材料に用いたりされてきました。  大豆には、100g中に35g強のタンパク質が含まれています。きな粉を食べると、良質のタンパク質が含まれた大豆成分をそのまま摂取できるので、長寿効果を高めることになります。  昔から、「生涯現役で、100歳人生を望むなら、きな粉のような大豆製品を食べましょう」といわれています。大豆の健康や長寿をもたらす効果は、経験的に昔から知られていたのです。 脳の若さを保つきな粉  大豆のタンパク質は、生命体の基本となる細胞の主成分で、体の血となり、肉となるだけではなく、若さを保って長生きするためには欠かせないホルモンや、ウイルス感染などを防ぐ免疫力、さらには、頭脳力と関係の深い神経伝達物質の原料にもなるという、たいへん重要な働きもしています。  記憶力や学習能力、情報の処理能力の向上といえば、なんといっても本命はレシチンで、これもまた、きな粉にはたっぷり。レシチンは、脳のアセチルコリンという記憶物質の原料となる成分で、記憶力や発想力の衰え、物忘れを防ぐうえでも役に立ちます。不足すると、神経状態が不安定になるともいわれ、ストレスに弱くなることもわかっています。  大豆には女性の老化を防ぎ、若さを保つ女性ホルモンと似た作用で注目されているイソフラボンも豊富。もちろん、男性の若々しさを維持するうえでも大切な成分です。また、ビタミンB1も多く、疲労に強い体づくりに最適です。 【P53】 心に残る“あの作品”の高齢者  このコーナーでは、映画やドラマ、小説や演劇、音楽などに登場する高齢者に焦点をあて、高齢者雇用にかかわる方々がリレー方式で、「心に残るあの作品の高齢者」を綴ります 第6回 映画『ハウルの動く城』(2004年) 立教大学大学院ビジネスデザイン研究科特任教授 日本人材マネジメント協会理事長 山ア京子  『ハウルの動く城』はスタジオジブリ作品として2004(平成16)年に公開されました。原作はダイアナ・ウィン・ジョーンズによる小説『魔法使いハウルと火の悪魔』ですが、映画ではよりファンタジー性が強調されているようです。舞台は1900年代初頭のヨーロッパ風の田舎町で、主人公である18歳の少女ソフィーは父が経営していた帽子屋を継ぎ、地味な服装で人づき合いもあまりよくない生活をしています。その店に現れた魔女の呪いでソフィーは90歳の姿に変えられてしまったので、生まれ故郷を離れ、容姿端麗な魔法使いのハウル青年が拠点にしている巨大な動く城に掃除婦として潜りこみます。  この作品でのソフィーの「歳をとる」ことへの台詞に気づかされることがあります。老婆になった自身の姿を鏡で見たときに、ソフィーは絶望するのではなく「落ち着かなきゃ。大丈夫よ、おばあちゃん。前より元気そうだし」というのです。ソフィーは妹に「本当に帽子屋になりたいの?自分のことは自分で決めなきゃ駄目よ」と説教されるほど生気がなかったのですが、街を出るという意思を持ってから活力あふれる女性になっていくのです。また、その後も「歳をとっていいことは、悪知恵がつくことね。驚かなくなるし。なくすものが少なくてすむ」と肯定的に受けとめます。若い女性であることのプレッシャーから解放され、大胆なふるまいができるようになります。  他方、ソフィーとは対照的に「若さへの固執」の象徴として描かれるのが、若い男性の心臓を追い求める魔女です。魔力を奪い取られた後に実年齢の老婆になってまでも、ハウルの心臓にしがみつき手放そうとはしません。こうして見ると、老いの「あるべき姿」を描いているだけのようですが、ソフィーの姿が老婆と少女を往復するところに重要なメッセージがあるように思えます。ハウルを守るために数多くの冒険をしているときにソフィーは老婆から中年女性、そして少女へと姿を何度となく変えているのですが、そのうちにハウルも鑑賞者も、ソフィーの外見はどちらでもよくなってくるのです。年齢に縛られ自分自身をステレオタイプ化するのではなく、いま何をしようとしているのかが大事なのではないか、と思わされます。ちなみに、ソフィーが少女に戻るのは、寝ているときと、ハウルに恋をしているときです。私たちも心のなかにソフィーを宿らせることで、だれもが実年齢から解放され自由に生きられるのではないか、そんな気になれる作品です。 『ハウルの動く城』 ブルーレイ、DVD発売中 発売元 ウォルト・ディズニー・ジャパン ○c2004 Studio Ghibli・NDDMT 【P54-55】 令和6年度 高年齢者活躍企業コンテスト  高年齢者活躍企業コンテストでは、高年齢者が長い職業人生の中でつちかってきた知識や経験を職場等で有効に活かすため、企業等が行った創意工夫の事例を広く募集・収集し、優秀事例について表彰を行っています。  優秀企業等の改善事例と実際に働く高年齢者の働き方を社会に広く周知することにより、企業等における雇用・就業機会の確保等の環境整備を図り、生涯現役社会の実現に向けた気運を醸成することを目的としています。  高年齢者がいきいきと働くことができる創意工夫の事例について多数のご応募をお待ちしています。 T 応募内容 募集する創意工夫の事例の具体的な例示として、以下の取組内容を参考にしてください。 取組内容 内容(例示) 高年齢者の活躍のための制度面の改善 @定年制の廃止、定年年齢の延長、65歳を超える継続雇用制度(特殊関係事業主に加え、他の事業主によるものを含む)の導入 A創業支援等措置(70歳以上までの業務委託・社会貢献)の導入(※1) B賃金制度の見直し C人事評価制度の導入や見直し D多様な勤務形態、短時間勤務制度の導入 等 高年齢者の意欲・能力の維持向上のための取組 @高年齢者のモチベーション向上に向けた取組や高年齢者の役割等の明確化(役割・仕事・責任の明確化) A高年齢者が活躍できる職場風土の改善、従業員の意識改革、職場コミュニケーションの推進 B高年齢者による技術・技能継承の仕組み(技術指導者の選任、マイスター制度、技術・技能のマニュアル化、若手社員や外国人技能実習生、障害者等とのペア就労や高年齢者によるメンター制度等、高年齢者の効果的な活用等) C中高年齢者を対象とした教育訓練、キャリア形成支援(高年齢者の前段階からのキャリア形成支援を含む)の実施(キャリアアップセミナーの開催) D高年齢者が働きやすい支援の仕組み(職場のIT化へのフォロー、力仕事・危険業務からの業務転換) E新職場の創設・職務の開発 等 高年齢者が働き続けられるための作業環境の改善、健康管理、安全衛生、福利厚生の取組 @作業環境の改善(高年齢者向け設備の改善、作業姿勢の改善、配置・配属の配慮、創業支援等措置対象者への作業機器の貸出) A従業員の高齢化に伴う健康管理・メンタルヘルス対策の強化(健康管理体制の整備、健康管理上の工夫・配慮) B従業員の高齢化に伴う安全衛生の取組(体力づくり、安全衛生教育、事故防止対策) C福利厚生の充実(休憩室の設置、レクリエーション活動、生涯生活設計の相談体制) 等 ※1 「創業支援等措置」とは、以下の@・Aを指します。 @70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度の導入 A70歳まで継続的に、「a.事業主が自ら実施する社会貢献事業」または「b.事業主が委託、出資(資金提供)等する団体が行う社会貢献事業」に従事できる制度の導入 U 応募方法 1.応募書類等 イ.指定の応募様式に記入していただき、写真・図・イラスト等、改善等の内容を具体的に示す参考資料を添付してください。また、定年制度、継続雇用制度及び創業支援等措置並びに退職事由及び解雇事由について定めている就業規則等の該当箇所の写しを添付してください(該当箇所に、引用されている他の条文がある場合は、その条文の写しも併せて添付してください)。なお、必要に応じて当機構から追加書類の提出依頼を行うことがあります。 ロ.応募様式は、当機構の各都道府県支部高齢・障害者業務課(※2)にて、紙媒体または電子媒体により配付します。また、当機構のホームページ(※3)からも入手できます。 ハ.応募書類等は返却いたしません。 ニ.提出された応募書類の内容に係る著作権及び使用権は、厚生労働省及び当機構に帰属することとします。 2.応募締切日 令和6年2月29日(木)当日消印有効 3.応募先 各都道府県支部高齢・障害者業務課(※2)へ郵送(当日消印有効)または連絡のうえ電子データにて提出してください。 ホームページはこちら ※2 応募先は本誌65ページをご参照ください ※3 URL:https://www.jeed.go.jp/elderly/activity/activity02.html V 応募資格 1.原則として、企業からの応募とします。グループ企業単位での応募は不可とします。 2.応募時点において、次の労働関係法令に関し重大な違反がないこととします。 (1)令和3年4月1日〜令和5年9月30日の間に、労働基準関係法令違反の疑いで送検され、公表されていないこと。 (2)「違法な長時間労働や過労死等が複数の事業場で認められた企業の経営トップに対する都道府県労働局長等による指導の実施及び企業名の公表について」(平成29年1月20日付け基発0120第1号)及び「裁量労働制の不適正な運用が複数の事業場で認められた企業の経営トップに対する都道府県労働局長による指導の実施及び企業名の公表について」(平成31年1月25日付け基発0125第1号)に基づき公表されていないこと。 (3)令和5年4月以降、職業安定法、労働者派遣法、男女雇用機会均等法、育児・介護休業法、パートタイム・有期雇用労働法に基づく勧告又は改善命令等の行政処分等を受けていないこと。 (4)令和5年度の障害者雇用状況報告書において、法定雇用率を達成していること。 (5)令和5年4月以降、労働保険料の未納がないこと。 3.高年齢者が65歳以上になっても働ける制度等を導入(※4)し、高年齢者が持つ知識や経験を十分に活かして、いきいきと働くことができる環境となる創意工夫がなされていることとします。 ※4 平成24年改正の高年齢者雇用安定法の経過措置として継続雇用制度の対象者の基準を設けている場合は、当コンテストの趣旨に鑑み、対象外とさせていただきます。 4.応募時点前の各応募企業等における事業年度において、平均した1月あたりの時間外労働時間が60時間以上である労働者がいないこととします。 W 審査  学識経験者等から構成される審査委員会を設置し、審査します。  なお、応募を行った企業等または取組等の内容について、労働関係法令上または社会通念上、事例の普及及び表彰にふさわしくないと判断される問題(厚生労働大臣が定める「高年齢者就業確保措置の実施及び運用に関する指針」等に照らして事例の普及及び表彰にふさわしくないと判断される内容等)が確認された場合は、この点を考慮した審査を行うものとします。 X 賞(※5) 厚生労働大臣表彰 最優秀賞 1編 優秀賞 2編 特別賞 3編 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長表彰 優秀賞 若干編 特別賞 若干編 クリエイティブ賞 若干編 ※5 上記は予定であり、各審査を経て入賞の有無・入賞編数等が決定されます。 Y 審査結果発表等  令和6年9月中旬をめどに、厚生労働省および当機構において各報道機関等へ発表するとともに、入賞企業等には、各表彰区分に応じ、厚生労働省または当機構より直接通知します。  また、入賞企業の取組事例は、厚生労働省および当機構の啓発活動を通じて広く紹介させていただくほか、新聞(全国紙)の全面広告、本誌およびホームページなどに掲載します。 みなさまからのご応募をお待ちしています 過去の入賞企業事例を公開中!ぜひご覧ください! 「高年齢者活躍企業事例サイト」 当機構が収集した高年齢者の雇用事例をインターネット上で簡単に検索できるWebサイトです。「高年齢者活躍企業コンテスト表彰事例(『エルダー』掲載記事)」、「雇用事例集」などで紹介された228事例を検索できます。今後も、当機構が提供する最新の企業事例情報を随時公開します。 高年齢者活躍企業事例サイト 検索 主催 厚生労働省、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED) 当機構では厚生労働省と連携のうえ、企業における「年齢にかかわりなく生涯現役でいきいきと働くことのできる」雇用事例を普及啓発し、高年齢者雇用を支援することで、生涯現役社会の実現に向けた取組みを推進していきます。 【P56-57】 BOOKS 女性に焦点を当て、定年後のキャリア形成を探る プロティアンシフト 定年を迎える女性管理職のセカンドキャリア選択 田中(たなか)研之輔(けんのすけ)、西村(にしむら)美奈子(みなこ)著/千倉書房/2200円  男女雇用機会均等法が施行された1986(昭和61)年前後に入社した「均等法第一世代」の女性たちが、定年を迎えはじめている。  本書は、著者自身の管理職としての経験やフィールドワークのデータ、複数の女性管理職へのインタビューをもとに、管理職として働き続けてきた女性たちのキャリア形成と定年後のキャリア選択に焦点をあてた書籍。  いまは女性も「定年」、「セカンドキャリア選択」に向き合う時代になっている。しかし、公益財団法人21世紀職業財団による調査※によれば、50代女性の約4分の1が定年後のキャリアについて、「わからない」と回答している。この背景について、女性には男性のように多くのロールモデルがいない、という事情があると指摘されている。  本書は、仕事に意欲的に向き合ってきた女性管理職たちが、働くことを人生においてどう意味づけ、「定年」という大きな環境変化のなかで、キャリアシフトをどう実現してきたのか。子育てと残業、海外出張、差別と偏見などに直面しながら悩み、考え、歩き続けてきた女性たちの軌跡と定年後の選択からいまを生きる人々のキャリア形成のヒントを探っていく。 ※ 女性正社員50代・60代におけるキャリアと働き方に関する調査(2019年度) 心理学博士が示す、活き活きとした高齢期を過ごすためのヒント 60歳からめきめき元気になる人 「退職不安」を吹き飛ばす秘訣 榎本(えのもと)博明(ひろあき)著/朝日新聞出版/979円  人生の残り時間が気になりはじめる50代から、60代、70代は、喪失の時期でもあるという。特に60歳以降は、仕事上の役割や職場、経済力、体力、気力、記憶力などさまざまな喪失が押し寄せる。そうした人生の後半で、幸せになれるのはどんな人なのか。どうしたら自分の人生を意味あるものと感じられるのか。本書は、これらを考えるための手がかりや、考え方のヒントを、心理学博士である著者が記した一冊。  心の張りのある生活をするために特に大事な要素は、「やりがい」と「居場所」であるという。どちらかひとつでも、ある程度満たされていればよいようだ。ただ、「居場所」をつくるといわれても、どうしたらよいのかわからない人もいるだろう。その場合、行きつけの喫茶店や図書館、美術館・博物館めぐりを楽しむことを居場所としてもよいそうで、「心地よい居場所を持つには、肩の力を抜くことも必要」と著者。また、「社交のむなしさを退職後にまで持ち越さない」、「とりあえず気になることを試してみる」などの言葉に、自然と気持ちが軽くなる内容だ。  最終章では先人の言葉や、何歳になっても挑戦を続けた葛飾北斎などの生き方を紹介。高齢期の人生に希望を与えてくれる。 経営にプラスの影響を与える課題解決の実践プロセスを詳説 人材開発・組織開発コンサルティング 人と組織の「課題解決」入門 中原(なかはら)淳(じゅん)著/ダイヤモンド社/4950円  企業やその経営活動において、人材開発・組織開発とはそもそもどのような意味を持つのか。本書は、「人と組織の課題解決を通して、経営や現場にプラスのインパクトを与える」という目的を持った「経営活動の一つ」と説明する。では、経営や現場にプラスのインパクトを与えるための課題解決とは…。このような問いかけにはじまり、人材開発・組織開発の役割を学ぶ第1部に続いて、第2部では、人材開発・組織開発の基礎的な知識や理論、企業における実践例などを紹介。本書のメインとなる第3部では、人材開発・組織開発の課題解決の具体的な進め方、そのプロセスの詳細を解説していく。  本書はそのプロセスを、「@出会う、A合意をつくる、Bデータを集める、Cフィードバックする、D実践する、E評価する、F別れる」という七つのステップに分けて、ステップごとに知識とノウハウを説明。さらに、よりよい課題解決者になるために、大事にしていきたい姿勢やアップデートの方法なども伝えている。  経営者から、人事や人材開発担当者、社外コンサルタントまで、経営や現場で課題と格闘している人々が、その解決のためのノウハウを体系的、かつ網羅的に学べる一冊といえるだろう。 ユニークな生き方をした偉人たちから学ぶ、人生の指南書 幕末・明治 偉人たちの「定年後」 河合(かわい)敦(あつし)著/扶桑社/990円  だれもが知る歴史上のあの人物は、晩年、どのように人生を仕上げていったのか。本書は、歴史作家の河合敦氏が、歴史の大転換期だった幕末から明治にかけて活躍した偉人たちの第一線から退く時期の行動や、そこからの人生に注目し調べてまとめた一冊。  勝海舟(かつかいしゅう)は52歳で政界を引退後、西さい郷ごう隆たか盛もりや最後の将軍・慶よし喜のぶの名誉回復、旧幕臣の経済支援に努めて満75歳で生涯を閉じた。幕末に勝海舟と並んで活躍した高橋(たかはし)泥舟(でいしゅう)は、第二の人生であえて栄達を捨てる道を選び、それから30数年後、家族に看取(みと)られて満67歳でこの世を去った。「近代日本経済の父」と呼ばれる実業家の渋沢(しぶさわ)栄一(えいいち)は、努力し成功した後は社会福祉事業に全身全霊で取り組み、満91歳で大往生した。  意外な分野への転身や生涯現役を貫いた生き方など、登場する人物が選び歩んだ道はどれもユニークであり、時代や環境が違っても現代人の定年後を充実させる参考になる姿であろう。  100年後、自分の人生がこの本に紹介されることを勝手に想像してみるのもおもしろい。まだ空白のこれからの部分に、どんなことを書いてもらいたいだろう。本書は、そんなことも考えさせてくれる人生の指南書である。 自分らしい、ありたい姿になるためのデジタルスキル習得術 デジタルリスキリング入門 時代を超えて学び続けるための戦略と実践 高橋(たかはし)宣成(のりあき)著/技術評論社/2200円  技術革新やデジタル化の進展に対応するため、自らの職業能力をアップデートし、新しい知識やスキルを身につけるリスキリングが注目されている。本書の著者は、リスキリングについて、「市場ニーズに適合するため、保有している専門性に、新しい取り組みにも順応できるスキルを意図的に獲得し、自身の専門性を太く、変化に対応できるようにする取り組み」と説明する。そして、リスキリングは他人まかせにせず、自ら進んで行うものであると指摘。また、高齢になるほど雇用の安定性が失われていくことをふまえ、さまざまな選択肢を想定して自らリスキリングを重ねておくことの意義にもふれている。  そこでまず大事になるのが、リスキリングをする力である。著者はこの力を、働くことで心理的成功、すなわち幸せを感じられる状態をつくること、また、それを維持するためにスキルをアップデートし続ける力であると解く。さらに、ビジネスパーソンがリスキリングを通して成功するための知識と戦略、行動していくための原則を伝え、自らの仕事仲間となってくれるデジタルスキルを身につける術を提供している。  変化に適応する力を身につけたい人をはじめ、リスキリング力に悩む人にとっても参考になる。 ※このコーナーで紹介する書籍の価格は、「税込価格」(消費税を含んだ価格)を表示します 【P58-59】 ニュース ファイル NEWS FILE 行政・関係団体 厚生労働省 「令和5年版厚生労働白書」  厚生労働省は、「令和5年版厚生労働白書」(令和4年度厚生労働行政年次報告)を公表した。  白書は2部構成で、その年ごとのテーマを設定している第1部では「つながり・支え合いのある地域共生社会」と題し、単身世帯の増加、新型コロナウイルス感染症の影響による人々の交流の希薄化などを背景として、複雑化・複合化する課題、制度の狭間にある課題(「ひきこもり」や「ヤングケアラー」など)が顕在化していることを整理。特に高齢期を中心に単身世帯数が増加し、人との交流の意識も希薄化していくなかで、孤独・孤立の問題が顕在化・深刻化している。これらの課題をふまえ、近年さまざまに行われている対応策を紹介し、これからの時代に求められる「つながり・支え合い」のあり方を提示している。具体的には、世代や属性を超えてさまざまな人が交差する「居場所」づくり、ライフスタイルや興味・関心に応じ、だれもが参画できる「支え合い」の促進(労働者協同組合の活用)などである。  第2部は、「現下の政策課題への対応」と題し、少子社会の現状、労働環境の整備、多様な働き手の参画などについてまとめている。  白書は、厚生労働省のウェブサイト「統計情報・白書」のページ(※)からダウンロードできるほか、全国の政府刊行物センターなどで購入できる。 ※https://www.mhlw.go.jp/toukei_hakusho/hakusho/ 厚生労働省 令和4年「労働安全衛生調査(実態調査)」結果  厚生労働省は、令和4年「労働安全衛生調査(実態調査)」の結果を公表した(※:結果の概要)。調査は、労働災害防止計画における重点施策を策定するための基礎資料を得ることなどを目的に、事業所が行っている安全衛生管理、労働災害防止活動とそこで働く労働者の仕事や職業生活における不安やストレスなどの実態について、常用労働者10人以上の民営事業所約1万4000カ所とそこで働く労働者および受け入れた派遣労働者約1万8000人を対象に実施した。  事業所調査の「治療と仕事を両立できるような取組の状況」をみると、傷病(がん、糖尿病等の私傷病)を抱えた何らかの配慮を必要とする労働者に対して、治療と仕事を両立できるような取組みがある事業所の割合は58.8%(令和3年調査41.1%)、取組み内容(複数回答)をみると、「通院や体調等の状況に合わせた配慮、措置の検討(柔軟な労働時間の設定、仕事内容の調整)」が86.4%(同91.1%)と最も多く、次いで「両立支援に関する制度の整備(年次有給休暇以外の休暇制度、勤務制度等)」が35.9%(同36.0%)となっている。次に、「転倒災害防止対策の取組状況」をみると、対策に取り組んでいる事業所の割合は84.6%となっている。取組み内容(複数回答)をみると、「通路、階段、作業場所等の整理・整頓・清掃の実施」が85.4%と最も多く、次いで「手すり、滑り止めの設置、段差の解消、照度の確保等の設備の改善」が56.6%となっている。 ※https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/r04-46-50b.html 厚生労働省 令和4年「雇用動向調査」結果  厚生労働省は、令和4年「雇用動向調査」の結果を公表した(※:結果の概要)。調査は、全国の主要産業における産業別などの入職者数・離職者数、入職者・離職者の性・年齢階級別、離職理由別などにみた状況を明らかにすることを目的に実施している。調査時期は上半期と下半期の年2回で、今回の調査結果は5人以上の常用労働者を雇用する事業所から1万5120事業所を抽出して行い、9029事業所(上半期)と8452事業所(下半期)から有効回答を得て、2回の調査結果を合算して年計としてまとめた。なお、回答を得た事業所の入職者5万5954人(上半期と下半期の計)、離職者7万2767人(上半期と下半期の計)についても集計している。  調査結果によると、2022年1年間の入職者数は約780万人(前年約720万人)、離職者数は約766万人(同約717万人)となっている。入職率は15.2%で前年(14.0%)と比べ1.2ポイント上昇、離職率は15.0%で前年(13.9%)と比べ1.1ポイント上昇した。その結果、入職超過率は0.2ポイントと入職超過となった。  就業形態別にみた入職率、離職率は、一般労働者は入職率11.8%(前年10.9%)、離職率11.9%(同11.1%)、パートタイム労働者は入職率24.2%(同22.0%)、離職率23.1%(同21.3%)となっている。前年と比べると、いずれも入職率、離職率ともに上昇している。 ※https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/koyou/doukou/23-2/index.html 厚生労働省 令和5年度「地域雇用活性化推進事業」の採択地域に10地域を決定  厚生労働省は、「地域雇用活性化推進事業」(令和5年度開始分)の採択地域に、10地域を決定した(※)。同事業は、雇用機会が不足している地域や過疎化が進んでいる地域などが、地域の特性を活かして「魅力ある雇用」や「それを担う人材」の維持・確保を図るために創意工夫する取組みを支援するもの。地方公共団体の産業振興施策や各府省の地域再生関連施策などと連携したうえで実施する。  具体的には、地域の市町村や経済団体などの関係者で構成する地域雇用創造協議会が提案した事業構想のなかから、雇用を通じた地域の活性化につながると認められるものを選抜し、その実施を、事業を提案した協議会に委託する。委託費上限は、各年度4000万円。複数の市区町村で連携して実施する場合、1地域あたり2000万円/年を加算(加算上限1億円/年)。実施期間は3年度以内。  採択された地域は、次の10地域。@北海道釧路市、A北海道北見市、B岩手県二戸(にのへ)地域(二戸市/一戸町(いちのへまち)/軽米町(かるまいまち)/九戸村(くのへむら))、C埼玉県ちちぶ地域(秩父市/横瀬町(よこぜまち)/皆野町(みなのまち)/長瀞町(ながとろまち)/小鹿野町(おがのまち))、D島根県江津(ごうつ)市、E岡山県津山市、F愛媛県西予(せいよ)市、G熊本県天草(あまくさ)地域(天草市/上天草(かみあまくさ)市/苓北町(れいほくまち))、H大分県竹田(たけた)市、I鹿児島県奄美大島地域(奄美市/大和村(やまとそん)/宇検村(うけんそん)/瀬戸内町(せとうちちょう)/龍郷町(たつごうちょう)) ※https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_34737.html 調査・研究 日本生産性本部 「第13回働く人の意識に関する調査」結果  公益財団法人日本生産性本部は、「第13回働く人の意識に関する調査」結果を発表した(※)。  今回は、新型コロナウイルスの感染症法上の位置づけが「5類」に移行してから約2カ月後の2023年7月、20歳以上の日本の企業・団体に雇用されている1100人を対象に実施した。  調査結果から、テレワークの実施率についてみると、前回1月調査の16.8%から15.5%に減少し、過去最低の実施率となっている。従業員規模別では、1001人以上の勤め先では、前回調査34.0%から22.7%に減少している。  年代別のテレワーク実施率は、30代が19.5%と前回調査16.5%より微増した一方で、20代は13.9%(前回調査18.0%)、40代以上は14.7%(同16.6%)と微減している。  テレワーカーの週あたり出勤日数は、「0日」が前回調査25.4%から14.1%へと減少。  自宅での勤務で「効率が上がった」、「やや上がった」と回答した割合は、前回調査66.7%から71.6%に増加し、過去最高となっている。また、自宅での勤務に「満足している」、「どちらかと言えば満足している」の合計は86.6%で、過去最高となった前回調査87.4%から微減。  今後もテレワークを行いたいかについて、「そう思う」、「どちらかと言えばそう思う」の合計は、前回調査の84.9%から86.4%へと増加している。 ※https://www.jpc-net.jp/research/detail/006527.html パーソル総合研究所 「ミドル・シニアの学びと職業生活についての定量調査」  株式会社パーソル総合研究所は、産業能率大学・齊藤研究室と共同で実施した「ミドル・シニアの学びと職業生活についての定量調査」(調査対象は35歳〜64歳の就業者 N数=3万6537)の結果を発表した(※)。ミドル・シニア層の就業者の学び直しの実態、効用、促進・抑制要因などを調査しており、ミドル・シニア就業者の70.1%が「何歳になっても学び続ける必要がある時代だ」、63.0%が「学び直しは将来のキャリアに役立つと思う」と回答。多くのミドル・シニア就業者が学び直しを肯定的にとらえている一方で、学び直しをしている「学び直し層」は14.4%にとどまっている。「学び直し層」のうち、71.1%が「本業に関する学習」をしているのに対し、「本業以外の仕事やキャリアに関する学習」を実行している人は47.0%で、ミドル・シニア就業者の学び直しは、現在の仕事に関するアップスキリングが多い傾向にある。  学び直しの効用については、「学び直し層」の60.7%が「仕事のパフォーマンスを高められた」と回答。また、68.1%が「学びが将来のキャリアに活かされると思う」と回答し、多くが仕事やキャリアへの効果を実感している。  パーソル総合研究所では、学び直していないミドル・シニアの正社員と同質のグループが学び直していたと仮定し、学び直していない場合との個人年収の差を推定した。その結果、個人年収が「平均プラス12万円」、3年以上の学び直しに限定した場合は「平均プラス30万円」高まるとしている。 ※https://rc.persol-group.co.jp/thinktank/data/middle-senior-learning.html 【P60】 次号予告 12月号 特集 ミドル世代から始める生涯現役時代のキャリア研修 リーダーズトーク 大矢奈美さん(青森公立大学 経営経済学部 教授) JEEDメールマガジン好評配信中 詳しくは JEED メルマガ 検索 ※カメラで読み取ったリンク先がhttps://www.jeed.go.jp/general/merumaga/index.htmlであることを確認のうえアクセスしてください。 お知らせ 本誌を購入するには 定期購読のほか、1冊からのご購入も受けつけています。 ◆お電話、FAXでのお申込み 株式会社労働調査会までご連絡ください。 電話03-3915-6415 FAX 03-3915-9041 ◆インターネットでのお申込み @定期購読を希望される方 雑誌のオンライン書店「富士山マガジンサービス」でご購入いただけます。 富士山マガジンサービス 検索 A1冊からのご購入を希望される方 Amazon.co.jp でご購入いただけます。 編集アドバイザー(五十音順) 猪熊律子……読売新聞編集委員 上野隆幸……松本大学人間健康学部教授 大木栄一……玉川大学経営学部教授 大嶋江都子……株式会社前川製作所コーポレート本部総務部門 金沢春康……一般社団法人100年ライフデザイン・ラボ代表理事 佐久間一浩……全国中小企業団体中央会事務局次長 田村泰朗……太陽生命保険株式会社取締役専務執行役員 丸山美幸……社会保険労務士 山ア京子……立教大学大学院ビジネスデザイン研究科特任教授、日本人材マネジメント協会理事長 六本多……日本放送協会 メディア総局 第1制作センター(福祉)チーフ・プロデューサー 編集後記 ●当機構(JEED)では、10月6日(金)に「令和5年度高年齢者活躍企業フォーラム」を開催し、高年齢者活躍企業コンテスト受賞企業の表彰式、基調講演、受賞企業によるトークセッションなどを行いました。基調講演、トークセッションの模様は、2024年1月号でご紹介する予定です。 ●今号の特集では、前号に続き、高年齢者活躍企業コンテストより、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長表彰優秀賞受賞企業の取組みをご紹介しました。今回は、特に福祉・介護関係の事業所が多く表彰されています。人材不足のなかで、高齢人材が働きやすい職場環境を整え、高齢人材を戦力化する取組みは、業種・業界に関係なく参考になるのではないでしょうか。読者のみなさまにおかれましても、受賞企業の取組みを参考に、高齢者雇用の推進に努めていただければ幸いです。 ●10月・11月にかけて全4回で開催された「生涯現役社会の実現に向けたシンポジウム」は、アーカイブ配信を行う予定です。JEEDホームページよりご視聴ください。 読者アンケートにご協力をお願いします! よりよい誌面づくりのため、みなさまの声をお聞かせください。 回答はこちらから 公式X(旧Twitter)はこちら! 最新号発行のお知らせやコーナー紹介などをお届けします。 @JEED_elder 月刊エルダー11月号 No.528 ●発行日−−令和5年11月1日(第45巻 第11号 通巻528号) ●発行−−独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED) 発行人−−企画部長 境伸栄 編集人−−企画部次長中上英二 〒261-8558 千葉県千葉市美浜区若葉3-1-2 TEL 043(213)6216 FAX 043(213)6556 (企画部情報公開広報課) ホームページURL https://www.jeed.go.jp メールアドレス elder@jeed.go.jp ●発売元 労働調査会 〒170-0004 東京都豊島区北大塚2-4-5 TEL 03(3915)6401 FAX 03(3918)8618 ISBN978-4-86319-981-1 *本誌に掲載した論文等で意見にわたる部分は、それぞれ筆者の個人的見解であることをお断りします。 (禁無断転載) 読者の声募集! 高齢で働く人の体験、企業で人事を担当しており積極的に高齢者を採用している方の体験、エルダーの活用方法に関するエピソードなどを募集します。文字量は400字〜1000字程度。また、本誌についてのご意見もお待ちしています。左記宛てFAX、メールなどでお寄せください。 訂正とお詫び 2023年10月号「特集」(27ページ)において、掲載写真2点のキャプションが逆になっておりました。訂正してお詫び申し上げます。 【P61-63】 技を支える vol.333 シミ抜きや仕上げの技術で大切な服を元通りに クリーニング師 田中(たなか)幸男(ゆきお)さん(72歳) 「お客さまに支持されて、『あそこじゃなければダメ』といわれるのが一番幸せ。そういわれるためには、やはり勉強が欠かせません」 同業者も依頼するほどのシミ抜き・染色補正の技  「クリーニング業発祥の地」といわれる神奈川県横浜市で、父の代から続くクリーニング店「有限会社富士クリーニング商会」を50年にわたり営んできた田中幸男さん。シミ抜きや染色補正などの復元加工を得意とし、遠方からわざわざ頼みに来る人や、同業者からの依頼も多い。2019(令和元)年には優れた技能職者の証である「横浜マイスター」に選定された。  「シミは、上層から油、タンパク質、不溶物、色素の順に層になっており、それを上層から順に壊していくことがシミ抜きの基本です。油の膜がついたままのところにいきなり漂白剤をつけても、シミは取れずに周りだけが白くなってしまいます」と田中さん。シミ抜きには既製のシミ抜き剤は使わず、独自に調合した薬剤を使っている。  「既製品は、汎用的に使えるように7〜8割落とせればよいという考えの基につくられています。それでは満足できないので、シミをほぼすべて落とせるように、シミの状態に適した薬剤を自分で調合してシミ抜きをしています」  生地の色が抜けてしまった場合には、染色補正を行い、元の色と変わらない状態に復元する。動物繊維と植物繊維それぞれに適した染料を用意し、複数の色を混ぜ合わせて生地と同じ色をつくり、筆で染色する。例えば、礼服でも生地の素材や染料によって黒の色合いが異なるため、適切な染料を選ぶには生地の見極めが大切になる。  多様なシミをきれいに取り除いたり、元の生地と同じ色をすみやかにつくり出すことができるのは、独自の勉強と長年の経験によるものだそうだ。 洋服の仕立て職人から仕上げの技術を学ぶ  田中さんは、創業者だった祖父の代から数えると三代目にあたる。  「学生のころまでは、店を継ぐ気はまったくありませんでした。しかし、親父の働く後ろ姿を見て、『この店を潰したらかわいそうだな』と思い、後を継ぐことにしました。やるからには人より上手になりたいという向上心から、クリーニングの仕組みやシミ抜きの技術などを一生懸命勉強しました」  さらに、洋服の仕立ての先生にも教えを請うている。  「洋服を仕立てる際は、まっすぐの生地をアイロンを使って縮めたり伸ばしたりすることで、立体感を生み出しています。その技術を学ぶことで、水洗いした後の洋服を元通りの姿に仕上げられるようになりました」  現在は、洗った服を型に着せて中から出る蒸気で形を整える立体プレス機があるが、それだけでは不十分で、その後さらにアイロンで手直しをすることで、元通りの姿に復元させることができるという。場合によっては、服の寸法をあらかじめすべて採寸してから水洗いし、寸法通りに復元することもあるそうだ。  「お客さまに『お宅で洗った背広を着ると、袖を通したときに気持ちがいい』と喜んでいただきたい、その一心でやっています」 さまざまな機会を通じて技術を教える  田中さんは、東京都と神奈川県の個人クリーニング店の有志による勉強会「ダイヤモンドスリーム会」を結成し、現在は会長として、若い世代に技術などを教えている。また、横浜マイスターとして、中学生の体験授業の講師を務めたり、一般向けの教室やデモンストレーションなどでアイロンのかけ方などを教えることも多い。  「教えることは自分にとっても復習になるよい機会です。アイロンのかけ方を教えて『わかった』、『やってみる』なんて反応がもらえると、やはりうれしいですね」  店では、息子の秀幸(ひでゆき)さんが後継者として、父を目標に研鑽を重ねている。田中さんはその姿を間近に見ながら、顧客に喜ばれる四代目に育つよう、大きな期待を寄せている。 有限会社富士クリーニング商会 TEL:045(322)6245 https://fujicleaning-syoukaiyokohama.on.omisenomikata.jp (撮影・福田栄夫/取材・増田忠英) 写真のキャプション 「孫のためにとっておきたい」と依頼を受けた年代物の振り袖を、シミ抜きをしてきれいな状態に。店には、顧客が大切にしている衣類が多く持ち込まれる 戦後、田中さんの父が開業した「有限会社富士クリーニング商会」 令和元年度の「横浜マイスター」に選定された (右から)息子の秀幸さん、秀幸さんの妻・智子(ともこ)さん、田中さんの妻・八重子(やえこ)さん。4人で店を運営。全員がクリーニング師の国家資格を取得している 染色補正に用いる染料と筆。染料は、服の元の色に調合する。筆は補正する面積や色によって使い分ける クリーニングに不可欠な道具の一つ、アイロン。ダイヤルで温度を設定できるようになっている 水や溶剤を噴霧する専用の機械を使い、生地を傷めずにシミ抜きを行う 「父を目標に、さらに技術のレベルを高めていきたい」と話す秀幸さん 【P64】 イキイキ働くための脳力アップトレーニング!  今回のテーマは迷路です。記憶に基づいて脳にメモをしながら迷路を抜ける、といった知的な作業を行うとき、前頭前野を中心とする中央実行ネットワークといわれる脳のつながりが活性化します。その中核的機能を「ワーキングメモリ」といいます。 第77回 記憶迷路 目標1分 通る記号の順番※を覚えたら手でかくし、順番通りの記号をたどって迷路を抜けてください。 ※通る記号の順番 △→★→〇 ◎一度通ったマスは再度通れません。 ◎斜めには通れません。 START→△ ★ 〇 ○ △ ★ △ △ ★ ★ ○ ★ 〇 △ ○ △ ○ ○ ★ ★ ★ △ △ ★ 〇→GOAL 結晶性知能は、年とともに伸びていく 今回は脳のワーキングメモリをきたえる脳トレです。ワーキングメモリは「脳のメモ帳」と呼ばれる機能であり、記憶や情報をいったん脳に記憶し(メモリ)、作業する(ワーキング)力のことで、知的能力の基礎になります。  脳は大きく二つの知能に分けられます。ひとつは、計算や記憶力、集中力など、それまでの知識の積み重ねがあまり関係しない「流動性知能」であり、もうひとつは、知恵や知識、コミュニケーション力など、経験とともに増える「結晶性知能」です。  残念ながら、流動性知能は25歳くらいをピークに、年齢とともに衰えていきます。一方で、結晶性知能はまさに年の功であり、年齢を重ねるごとに伸びていくことがわかっています。  「脳をきたえる=ワーキングメモリを鍛える」とは、そんな結晶性知能を適切に使えるようにすることが目的であり、ワーキングメモリのトレーニングを行うと、子どもでも高齢者でも、認知機能のテストの成績がよくなることが報告されています。 篠原菊紀(しのはら・きくのり) 1960(昭和35)年、長野県生まれ。公立諏訪東京理科大学医療介護健康工学部門長。健康教育、脳科学が専門。脳計測器多チャンネルNIRSを使って、脳活動を調べている。『中高年のための脳トレーニング』(NHK出版)など著書多数。 【問題の答え】 ●△→★→〇 ○→△      ↓ ↑ ↓  ★ △ △→★ ★          ↓  ○ ★ 〇 △←○        ↓  △ ○ ○←★ ★      ↓  ★ △ △→★→〇→GOAL 【P65】 (独)高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED) 各都道府県支部高齢・障害者業務課 所在地等一覧  JEEDでは、各都道府県支部高齢・障害者業務課等において高齢者・障害者の雇用支援のための業務(相談・援助、給付金・助成金の支給、障害者雇用納付金制度に基づく申告・申請の受付、啓発等)を実施しています。 2023年11月1日現在 ホームページはこちら 名称 所在地 電話番号(代表) 北海道支部高齢・障害者業務課 〒063-0804 札幌市西区二十四軒4条1-4-1 北海道職業能力開発促進センター内 011-622-3351 青森支部高齢・障害者業務課 〒030-0822 青森市中央3-20-2 青森職業能力開発促進センター内 017-721-2125 岩手支部高齢・障害者業務課 〒020-0024 盛岡市菜園1-12-18 盛岡菜園センタービル3階 019-654-2081 宮城支部高齢・障害者業務課 〒985-8550 多賀城市明月2-2-1 宮城職業能力開発促進センター内 022-361-6288 秋田支部高齢・障害者業務課 〒010-0101 潟上市天王字上北野4-143 秋田職業能力開発促進センター内 018-872-1801 山形支部高齢・障害者業務課 〒990-2161 山形市漆山1954 山形職業能力開発促進センター内 023-674-9567 福島支部高齢・障害者業務課 〒960-8054 福島市三河北町7-14 福島職業能力開発促進センター内 024-526-1510 茨城支部高齢・障害者業務課 〒310-0803 水戸市城南1-4-7 第5プリンスビル5階 029-300-1215 栃木支部高齢・障害者業務課 〒320-0072 宇都宮市若草1-4-23 栃木職業能力開発促進センター内 028-650-6226 群馬支部高齢・障害者業務課 〒379-2154 前橋市天川大島町130-1 ハローワーク前橋3階 027-287-1511 埼玉支部高齢・障害者業務課 〒336-0931 さいたま市緑区原山2-18-8 埼玉職業能力開発促進センター内 048-813-1112 千葉支部高齢・障害者業務課 〒263-0004 千葉市稲毛区六方町274 千葉職業能力開発促進センター内 043-304-7730 東京支部高齢・障害者業務課 〒130-0022 墨田区江東橋2-19-12 ハローワーク墨田5階 03-5638-2794 東京支部高齢・障害者窓口サービス課 〒130-0022 墨田区江東橋2-19-12 ハローワーク墨田5階 03-5638-2284 神奈川支部高齢・障害者業務課 〒241-0824 横浜市旭区南希望が丘78 関東職業能力開発促進センター内 045-360-6010 新潟支部高齢・障害者業務課 〒951-8061 新潟市中央区西堀通6-866 NEXT21ビル12階 025-226-6011 富山支部高齢・障害者業務課 〒933-0982 高岡市八ケ55 富山職業能力開発促進センター内 0766-26-1881 石川支部高齢・障害者業務課 〒920-0352 金沢市観音堂町へ1 石川職業能力開発促進センター内 076-267-6001 福井支部高齢・障害者業務課 〒915-0853 越前市行松町25-10 福井職業能力開発促進センター内 0778-23-1021 山梨支部高齢・障害者業務課 〒400-0854 甲府市中小河原町403-1 山梨職業能力開発促進センター内 055-242-3723 長野支部高齢・障害者業務課 〒381-0043 長野市吉田4-25-12 長野職業能力開発促進センター内 026-258-6001 岐阜支部高齢・障害者業務課 〒500-8842 岐阜市金町5-25 G-frontU7階 058-265-5823 静岡支部高齢・障害者業務課 〒422-8033 静岡市駿河区登呂3-1-35 静岡職業能力開発促進センター内 054-280-3622 愛知支部高齢・障害者業務課 〒460-0003 名古屋市中区錦1-10-1 MIテラス名古屋伏見4階 052-218-3385 三重支部高齢・障害者業務課 〒514-0002 津市島崎町327-1 ハローワーク津2階 059-213-9255 滋賀支部高齢・障害者業務課 〒520-0856 大津市光が丘町3-13 滋賀職業能力開発促進センター内 077-537-1214 京都支部高齢・障害者業務課 〒617-0843 長岡京市友岡1-2-1 京都職業能力開発促進センター内 075-951-7481 大阪支部高齢・障害者業務課 〒566-0022 摂津市三島1-2-1 関西職業能力開発促進センター内 06-7664-0782 大阪支部高齢・障害者窓口サービス課 〒566-0022 摂津市三島1-2-1 関西職業能力開発促進センター内 06-7664-0722 兵庫支部高齢・障害者業務課 〒661-0045 尼崎市武庫豊町3-1-50 兵庫職業能力開発促進センター内 06-6431-8201 奈良支部高齢・障害者業務課 〒634-0033 橿原市城殿町433 奈良職業能力開発促進センター内 0744-22-5232 和歌山支部高齢・障害者業務課 〒640-8483 和歌山市園部1276 和歌山職業能力開発促進センター内 073-462-6900 鳥取支部高齢・障害者業務課 〒689-1112 鳥取市若葉台南7-1-11 鳥取職業能力開発促進センター内 0857-52-8803 島根支部高齢・障害者業務課 〒690-0001 松江市東朝日町267 島根職業能力開発促進センター内 0852-60-1677 岡山支部高齢・障害者業務課 〒700-0951 岡山市北区田中580 岡山職業能力開発促進センター内 086-241-0166 広島支部高齢・障害者業務課 〒730-0825 広島市中区光南5-2-65 広島職業能力開発促進センター内 082-545-7150 山口支部高齢・障害者業務課 〒753-0861 山口市矢原1284-1 山口職業能力開発促進センター内 083-995-2050 徳島支部高齢・障害者業務課 〒770-0823 徳島市出来島本町1-5 ハローワーク徳島5階 088-611-2388 香川支部高齢・障害者業務課 〒761-8063 高松市花ノ宮町2-4-3 香川職業能力開発促進センター内 087-814-3791 愛媛支部高齢・障害者業務課 〒791-8044 松山市西垣生町2184 愛媛職業能力開発促進センター内 089-905-6780 高知支部高齢・障害者業務課 〒781-8010 高知市桟橋通4-15-68 高知職業能力開発促進センター内 088-837-1160 福岡支部高齢・障害者業務課 〒810-0042 福岡市中央区赤坂1-10-17 しんくみ赤坂ビル6階 092-718-1310 佐賀支部高齢・障害者業務課 〒849-0911 佐賀市兵庫町若宮1042-2 佐賀職業能力開発促進センター内 0952-37-9117 長崎支部高齢・障害者業務課 〒854-0062 諫早市小船越町1113 長崎職業能力開発促進センター内 0957-35-4721 熊本支部高齢・障害者業務課 〒861-1102 合志市須屋2505-3 熊本職業能力開発促進センター内 096-249-1888 大分支部高齢・障害者業務課 〒870-0131 大分市皆春1483-1 大分職業能力開発促進センター内 097-522-7255 宮崎支部高齢・障害者業務課 〒880-0916 宮崎市大字恒久4241 宮崎職業能力開発促進センター内 0985-51-1556 鹿児島支部高齢・障害者業務課 〒890-0068 鹿児島市東郡元町14-3 鹿児島職業能力開発促進センター内 099-813-0132 沖縄支部高齢・障害者業務課 〒900-0006 那覇市おもろまち1-3-25 沖縄職業総合庁舎4階 098-941-3301 【裏表紙】 定価 503円(本体458円+税) 令和6年度 高年齢者活躍企業コンテスト 〜生涯現役社会の実現に向けて〜 ご応募お待ちしています 高年齢者がいきいきと働くことのできる創意工夫の事例を募集します 主催 厚生労働省、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)  高年齢者活躍企業コンテストでは、高年齢者が長い職業人生の中でつちかってきた知識や経験を職場等で有効に活かすため、企業等が行った創意工夫の事例を広く募集・収集し、優秀事例について表彰を行っています。  優秀企業等の改善事例と実際に働く高年齢者の働き方を社会に広く周知することにより、企業等における雇用・就業機会の確保等の環境整備を図り、生涯現役社会の実現に向けた気運を醸成することを目的としています。  高年齢者がいきいきと働くことができる創意工夫の事例について多数のご応募をお待ちしています。 取組内容  募集する創意工夫の事例の具体的な例示として、以下の取組内容を参考にしてください。 1.高年齢者の活躍のための制度面の改善 2.高年齢者の意欲・能力の維持向上のための取組 3.高年齢者が働きつづけられるための作業環境の改善、健康管理、安全衛生、福利厚生の取組 主な応募資格 1.原則として、企業単位の応募とします。また、グループ企業単位での応募は不可とします。 2.応募時点において、労働関係法令に関し重大な違反がないこととします。 3.高年齢者が65歳以上になっても働ける制度等を導入し、高年齢者が持つ知識や経験を十分に活かして、いきいきと働くことができる環境となる創意工夫がなされていることとします。 4.応募時点前の各応募企業等における事業年度において、平均した1カ月あたりの時間外労働時間が60時間以上である労働者がいないこととします。 各賞 【厚生労働大臣表彰】 最優秀賞 1編 優秀賞 2編 特別賞 3編 【独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長表彰】 優秀賞 若干編 特別賞 若干編 クリエイティブ賞 若干編 ※上記は予定であり、各審査を経て入賞の有無・入賞編数などが決定されます。 詳しい募集内容、応募方法などにつきましては、本誌54〜55ページをご覧ください。 応募締切日 令和6年2月29日(木) お問合せ先 独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED) 各都道府県支部 高齢・障害者業務課 ※連絡先は65ページをご覧ください。 2023 11 令和5年11月1日発行(毎月1回1日発行) 第45巻第11号通巻528号 〈発行〉独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED) 〈発売元〉労働調査会