高齢者の職場探訪 北から、南から 第162回 静岡県 このコーナーでは、都道府県ごとに、当機構(JEED)の70歳雇用推進プランナー(以下、「プランナー」)の協力を得て、高齢者雇用に理解のある経営者や人事・労務担当者、そして活き活きと働く高齢者本人の声を紹介します。 70歳を過ぎても柔軟な働き方で力を発揮し、地域医療に貢献 企業プロフィール 医療法人社団同仁会(どうじんかい) 中島(なかじま)病院(静岡県伊豆(いず)市) 創業 1912(明治45)年 業種 医療業、介護事業 職員数 74人(うち正規職員数61人) (60歳以上男女内訳) 男性(8人)、女性(10人) (年齢内訳) 60〜64歳 7人(9.5%) 65〜69歳 6人(8.1%) 70歳以上 5人(6.8%) 定年・継続雇用制度 定年65歳。希望者全員70歳まで継続雇用。運用により70歳超の勤務も可能。現在の最高年齢者は77歳  静岡県は日本列島のほぼ中央に位置し、相模灘(さがみなだ)、駿河湾(するがわん)、遠州灘(えんしゅうなだ)に沿った約500kmの海岸線と、富士山をはじめとする高い山々が地形を特徴づけており、富士川、大井川、天竜川などが県土を縦断し、温暖な気候のもと肥沃な土地に恵まれています。  JEED静岡支部高齢・障害者業務課の柿崎(かきざき)祐花里(ゆかり)課長は、県内の産業と支部の取組みについて次のように語ります。  「東部エリアは、世界文化遺産富士山や伊豆半島ジオパークを活かした観光業が盛んで、製紙業や医薬品関連の産業も発展しています。中部エリアは、県庁所在地で行政機能が集中するほか、静岡茶やみかんなどの農業、焼津(やいづ)漁港の水揚げなど地域に根ざした産業が活発です。西部エリアは、自動車、楽器、電子部品などの製造業が盛んです。当課では、労働局およびハローワークと連携し、三つのエリアごとにプランナーを配置し、事業所の実情にあった相談・助言活動に努めています。プランナーは事業主に寄り添い、十分なヒアリングを行ったうえで、自身の強みと蓄積されたノウハウを活かし、多様な業種や業態、規模の各事業所の課題を引き出します。そのうえで、就業確保措置の制度化や明文化の提案に加え、人事評価・安全管理など高齢者雇用に関する課題解決に向けた提案を行い、高齢者がより働きやすく、活躍できる環境づくりに取り組んでいます」  同支部で活動するプランナーの一人、稲葉(いなば)正久(まさひさ)さんは、特定社会保険労務士の資格を持ち、県内企業の労務上の課題などに寄り添い、解決や成長を支えています。プランナー活動には5年前からたずさわり、人事労務管理、職場改善を得意分野として豊富な専門知識と親切な対応で企業から信頼を置かれています。今回は、稲葉プランナーの案内で「医療法人社団同仁会中島病院」を訪れました。 地域医療に貢献して113年  中島病院は1912(明治45)年、医師の中島(なかじま)孝三(こうぞう)さんが地元の協力を得て開いた小さな医院がはじまりでした。以来、地域の医院として親しまれ、徐々に規模を拡大して、2000(平成12)年に医療法人化。病院、通所リハビリテーションに加え、訪問看護、居宅介護支援の介護事業も実施しています。2022(令和4)年には、全国で医療・福祉のネットワークを展開するSAITO MEDICAL GROUPに事業承継して、現在に至ります。  「地域医療に貢献する開院当初からの精神は、いまも変わりません。2022年から新体制となったことで、現在の齋藤(さいとう)浩記(こうき)理事長が大切にする『医食同源』の考えが新たに加わり、病棟の食事を見直すなどこれまで以上に『食』を重視した医療を行っています」と語るのは、中島病院の総務課長・運営施設課長の福西(ふくにし)剛(つよし)さん。事業承継は、「全国より高い水準で高齢化が進んでいるこの地域で、病院運営を将来も持続させること、人材を確保していくことを考えて必要な選択肢だった」とも話します。 65歳定年後、70歳まで継続雇用  2024年、それまで60歳としていた定年年齢を65歳に延長しました。同時に、希望者全員の継続雇用も65歳から70歳へ。「少子高齢化が進むなか、長年の現場経験に裏打ちされた技術力や判断力、多様な見識を持つ職員の力を、なるべく長く発揮していただきたいという考えから制度改定を行いました」と福西総務課長は話します。  稲葉プランナーは、この改定が行われた直後の2024年7月に同院を訪問しました。「制度の改定とそれにともなう独自の取組みがすでに行われており、現場の話をうかがうことができて、こちらのほうが教えていただいたような訪問でした。そのうえで、安全・健康対策に終わりはないことを伝え、いっそうの改善を目ざして中央労働災害防止協会の『エイジアクション100』※1の活用や、JEEDの70歳雇用推進事例集※2、高年齢者活躍企業事例サイト※3などをご案内しました」と稲葉プランナーはふり返ります。  同院では、65歳以上の職員は、それぞれの体力や事情などに応じて就労条件を決める柔軟な働き方が可能です。また、高齢職員には若い職員への技能伝承を期待しています。職場環境整備の面では、現場の声を受けて動きやすいナースシューズに変更し、転倒防止に努めています。  このような取組みについて福西総務課長は、「当院の現場で何年もかけてつちかってきたものはお金には代えられない価値のあるもので、一人ひとりの職員がとても大切です。柔軟な対応で勤務が続けられるなら、できるかぎり努力していきたい」と話します。60歳定年のときには、その前に転職する職員もわずかながらいたそうですが、いまは職員が安心して働いているように感じられるとのことです。  60歳以上の職員の採用にも積極的で、特に介護職では未経験者や異業種からの転職者も採用しています。3〜5年以上勤務すると介護福祉士、ケアマネジャーの資格を取得する職員もいて、そうした職員に対しても、長く安心して働ける職場環境を整備することが大切だといいます。制度はないものの運用により70歳を過ぎて働くことも可能で、就業条件は話し合って決めているそうです。  福西総務課長は「年齢が上がると健康や安全に関するリスクが高まるので、稲葉プランナーからご紹介いただいた『エイジアクション100』や、ほかの事業所の先進事例などが参考になっています。また、特に介護分野での人材不足が全国的に課題となっていますが、当院も同じ状況ですので、年齢に関係なく働けるモデルとなるような、理想的なケースやアドバイスなどについて今後も相談にのってほしいですね」と話していました。  今回は、作業療法士の加賀(かが)利美子(とみこ)さんと、同院の最高年齢者で生涯現役を実践されている院長の森(もり)博昭(ひろあき)さんにインタビューしました。 心の通うリハビリテーションで安心を提供  加賀利美子さん(63歳)は、36歳のときに入職して勤続27年。作業療法士として当初は病棟で、10年ほど前から通所施設で利用者のリハビリテーションを担当しています。60歳で定年を迎えて現在は継続雇用ですが、週5日のフルタイム勤務を続けています。福西総務課長は「責任者を降りて、いまは職場全体をフォローする役をになってもらっています。いろいろなことに柔軟に対応できる、欠かせない存在です」と加賀さんを高く評します。  加賀さんは、職場と仕事について「入職当時は子育てと両立していましたが、『お互いさま』という風土があり、子育てのしやすい職場で助かりました。いまでは、自分の年齢が利用者に近づいてきて、これまで以上に気持ちに寄り添えるようになってきた気がします。会話も大事にして、その方の思いをくみ取れるように接し、安心して通っていただける施設でありたいです。ほかの部署とも協力して、地域に選ばれる病院になるよう、この病院のために働けるかぎりは働いていたいです」と始終笑顔で思いを話してくれました。 生涯現役の秘訣は登山と体力維持の心がけ  院長の森博昭さん(77歳)は、東京都内の病院に長年外科一筋で勤務し、60歳からは茨城県内の病院に外科、内科医として勤務。そして2025年1月、中島病院の院長に就任しました。はじめに、同病院の高齢職員の働きぶりについてお聞きすると、「年齢を重ねるとあちこちに不便なことが生じますが、お互いにカバーをしながら働いてくれています。病院のほうも、私の着任以前から働きやすい環境づくりや、働く意欲と体力があれば年齢を問わず採用して、その人にあった柔軟な働き方ができるよう対応に努めており、すばらしい環境を実現しています。医療介護サービスは、多職種のチームワークで成り立っています。人員充足が課題ですが、まずは現有勢力でベストを尽くしています」と穏やかな表情で語ります。  ご自身の働き方は、以前の職場では週6日勤務でしたが、現在は週4日+1日の宿直です。内科医として勤務しており、蜂さされなどの救急対応や草刈りでのけがなどにも対応しています。患者の多い日もあれば少ない日もあるそうですが、「勤務中はつねに緊張しています」と医師の仕事を語ります。仕事で大事にしていることは、「患者さんの立場に立つこと。そして、話をよく聞くこと」。自身については、「健康と体力の維持を心がけています」と即答。登山が好きで、天城山にも何回か登っているそうです。一般的に往復10時間といわれるコースを、森院長は7時間で登る健脚の持ち主。それほどの体力の背景には、5kmのランニングを最低週2日と、施設内のエレベーターをいっさい使用せず、階段で移動して仕事中も足腰を鍛えるという日々の努力があります。また、気温が5度以下、30度以上では走らないなど科学的に判断して無理をしないことも大切にしています。  医師を志してそれを叶(かな)え、「人に接するこの仕事が好きです。これからも続けていきます」と生涯現役を宣言。明るい笑顔で、患者さんや職員をいつのまにか笑顔にしている森院長です。 誠実に、できることを精いっぱい行う  2024年の訪問時と今回の取材を通して稲葉プランナーは、「加賀さんと森院長、お二人のお話に感銘を受けました。取組みでは、現場で働いている職員の方々の話をよく聞いて、例えばシューズを替えるなどできることは即対応されており、そういう姿勢がすばらしく、職員が意見をいいやすい職場環境であることも大事なことだと思いました」と中島病院の取組みを評価するとともに、今後も支援を続けていくと話していました。  最後に、福西総務課長に今後についてうかがうと、「だれも差別せず、すべての人を平等に慈しみ、愛するという当院の理念である『一視同仁(いっしどうじん)』を守り、すべての人に誠実に対応すること、できることは精いっぱいやること。働きやすい職場づくりも、このモットーを大切して進めてまいります」としっかりした口調で語りました。 (取材・増山美智子) ※1 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000055195_00001.html ※2 https://www.jeed.go.jp/elderly/data/manual.html ※3 https://www.elder.jeed.go.jp 稲葉正久 プランナー アドバイザー・プランナー歴:5年 [稲葉プランナーから] 「プランナー活動では、中小企業の立場に寄り添い、地元企業の現状・課題に対して、同一労働同一賃金や健康管理・安全衛生などについて、専門的見地から情報提供を行うことを心がけています」 高齢者雇用の相談・助言活動を行っています ◆静岡支部高齢・障害者業務課の柿崎課長は稲葉プランナーについて、「訪問先企業などの取組みを確認したうえで、JEEDの事例集や事例サイト、『エルダー』などから他社の具体的な事例を紹介するなど、法人全体に対するさらなる改善につながる働きかけを行い、信頼関係を構築しています。今回の取材もそうした経緯から実現しました」と話します。 ◆静岡支部高齢・障害者業務課は、ポリテクセンター静岡内に所在しています。バス(しずてつジャストライン)では、静岡駅南口からみなみ線内回り乗車、「ポリテクセンター静岡」下車(所要時間は約15分)。車では、東名静岡インターまたは日本平久能山スマートインターから約10分、あるいは静岡駅南口からも約10分です。 ◆同県では、16人のプランナーが担当地域ごとに活動しています。2024年度は691件の相談・助言を実施し、そのうち220件の制度改善提案を行いました。 ◆相談・助言を無料で行います。お気軽にお問い合わせください。 ●静岡支部高齢・障害者業務課 住所:静岡県静岡市駿河区登呂3-1-35 ポリテクセンター静岡内 電話:054-280-3622 写真のキャプション 静岡県伊豆市 医療法人社団同仁会 中島病院 福西剛総務課長・運営施設課長 通所リハビリで、通所者とラジオ体操をする作業療法士の加賀利美子さん 入院患者さんに話しかける森博昭院長