高年齢者活躍企業コンテスト 受賞企業の軌跡 第2回 株式会社東急(とうきゅう)コミュニティー(東京都世田谷区)  独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)と厚生労働省との共催で毎年開催している「高年齢者活躍企業コンテスト※」。高齢者雇用の推進に資する事例を広く募集し、優秀な事例を表彰しており、その内容は、毎年本誌で紹介しています。本連載では、かつてコンテストで厚生労働大臣表彰を受賞した企業を取材し、その後の取組みの進化・深化をレポートします。第2回は、2018(平成30)年度に優秀賞を受賞した株式会社東急コミュニティーを取材しました。 70歳超でも、いきいきと働ける職場づくりに取り組む 1 大臣表彰受賞を機に、社員の高齢者雇用への理解や意識が高まる  マンションやビルの管理を中心に大規模改修工事、リフォームなど幅広い不動産管理事業を手がける株式会社東急コミュニティー(木村(きむら)昌平(しょうへい)代表取締役社長)は、「平成30年度高年齢者雇用開発コンテスト」で厚生労働大臣表彰優秀賞を受賞した。  同社の社員は、管理運営・営業や事務をになう「事務員」、管理と建物の改修・工事を担当する「技術員」、ビル・マンションの管理を担当する「管理員」に大きく分けられ、このうち管理員の人数がもっとも多い。管理員はおもに契約社員で、他社を定年退職後に入社した者も多く、年齢が高いことも特徴だ。  同社の定年は60歳だが、現場の人材確保、高い技術や能力の保持を目的に、2017(平成29)年に技術員、2018年に事務員について、60歳到達時に、@65歳まで定年延長(一定条件あり)、A契約社員として再雇用、B退職のいずれかを選択できる制度を導入した。また、契約社員の年齢上限を、一定条件のもと、事務員70歳、技術員72歳、管理員75歳まで延長。さらに、高齢者の採用時に研修をていねいに行い、特に管理員の研修、フォローアップ体制の充実に努めているなどの取組みが高い評価を得たことが大臣表彰優秀賞の受賞につながった。  「受賞当時、当社の役員が表彰式に参加した様子と受賞内容をニュースリリースなどで社内外に周知しました。当社が高齢者雇用に力を入れていることと、その取組みが公に評価されたことが社内に広まったことで、社員の高齢者雇用への理解や意識が高まり、多様な人材活用を積極的に考えるよいきっかけとなったと感じます。また、社員のモチベーション向上につながり、長期的なキャリア形成についても意識するようになったと思います」と、同社経営管理統括部グループ人材戦略部人材戦略課の臺(だい)希巳枝(きみえ)主幹は、受賞当時をふり返る。受賞をきっかけに、「高齢者もいきいきと働ける会社」として対外的な評価も高まり、採用活動において年齢やキャリアに関係なく幅広い層からの応募があるなど、多様な人材活用が広く認知されるようになったとも感じていると臺主幹は話してくれた。  受賞から7年、同社の高齢者雇用のその後の軌跡を追った。 2 70歳以上の管理員が大幅に増加長く働ける職場づくりを進める  同社は1970(昭和45)年、東急不動産ホールディングスグループをはじめとした分譲マンションの管理を行う会社として設立された。その後、事業を拡大して東急不動産ホールディングスグループ以外のマンション・ビル管理も行うようになり、全国にその領域を広げた。同時に、建物改修工事も手がけるなど事業領域も拡大。現在では、マンション管理、ビル管理、公共施設管理、リフォーム事業などで実績を積み重ねており、総合不動産管理会社に成長している。2025(令和7)年の管理規模は、マンション管理約81万5000戸、ビル管理約1600件(東急コミュニティーグループ合計〈2025年3月31日時点〉)、公営住宅管理約25万7000戸(東急コミュニティー単体〈2025年4月1日時点〉)、となっている。  東急コミュニティー単体の社員数は1万1881人(うち正社員4448人)で、60歳以上は6682人(うち正社員118人〈2025年10月31日時点〉)。  60歳以上の社員数を7年前の受賞時と比べると、60〜64歳は1290人(受賞時は1506人)、65〜69歳は2718人(同3020人)、70歳以上は2792人(同705人)で、70歳以上の社員数が大きく増えていることがわかる。このことは、管理員を希望して同社に応募する人の年齢が、かつては60代半ばが中心であったが、ここ数年は、他社を定年後に65歳の再雇用まで勤務して退職した人たちなど、60代後半や70歳超の人が増えて、管理員の年齢が以前より高くなったことによるという。「管理員を希望される方には、他社を再雇用で65歳まで勤め、これからも社会とつながっていたい、健康のためにも働きたいという方が多くいらっしゃいます」と臺主幹は指摘する。  同社の高齢者雇用制度は、2018年の受賞時と大きく変わっていない。しかし、2026年に人事制度の大きな改定を予定しており、2030年には定年を60歳から65歳に引き上げることについて検討をしているという。  現制度の「定年延長」は、技術員および事務員の正社員を対象とした制度で、60歳の定年に達した社員で一定の要件を満たす者に65歳までの定年延長を認めるという内容だ。このほかに、契約社員として再雇用を選ぶことができる。毎年、定年に到達する社員の約95%は定年延長または再雇用をしており、内訳は約55%が契約社員としての再雇用、約40%が正社員のまま定年延長をしている。再雇用者のなかには、営業や事務を担当していた正社員から、希望して管理員になる人もいるという。  契約社員の雇用上限年齢は7年前から、事務員70歳、技術員72歳、管理員75歳としているが、管理員についてのみ2025年4月に75歳から76歳に引き上げた。さらに、76歳まで勤務した管理員は、その後アルバイトとして77歳までの勤務を可能とした。この見直しは、人材確保のためと、現場で働く管理員から長く働きたいという声を受けてのことだった。加えて、現在働いている管理員が知識や経験を活かしてより長く働ける職場環境を整えることに、以前にも増して重点を置くようになったという背景がある。  さらに、管理員を含む契約社員は、以前からフルタイム勤務のほか、週3日勤務、1日5時間勤務など柔軟な働き方を選ぶことが可能である。正社員とは異なるが評価制度もあり、一定の評価以上の者には、勤続年数により昇給する仕組みがあり、健康で長く働くことを奨励している。また、年齢にかかわらず、資格取得支援と資格取得者に対する報奨金があり、モチベーションの向上につなげている。  ちなみに、現在の最高齢社員は76歳で、管理員として活躍しているという。 3 1年間で688人のシニアを採用充実した研修とフォローを行う  同社では、60歳以上の契約社員を積極的に採用しており、2024年度は688人を採用した。内訳は、管理員579人、事務員68人、建築技術員2人、設備技術員39人。  高齢社員を対象とした研修制度は、7年前から充実させており、現在も入社時、基礎知識の習得を目的とした導入研修を継続して実施している。現在は、社員の年次や階級・役職に合わせて段階的にスキルアップを目ざす企業内大学「東急コミュニティービジネスカレッジ」があるので、カレッジの枠組みのなかで、マンション管理業の研修として管理員のための5日間の研修を実施している。これは入社後、研修センターでマンション管理員としての基礎を習得するもので、未経験者でも安心して勤務できるように経験豊富なスタッフや有資格者らが講師となり、ていねいに指導する。内容は、接遇マナー、マンション管理の基礎知識や窓口対応業務、清掃の実習、建物点検や設備などについて学ぶということだ。  また、初めての仕事に就くときは、管理員の基本業務に関する指導や教育、人材育成を担当するインストラクターがつき添い、その後は月1回程度インストラクターが訪問し、業務上の疑問や悩みに対してアドバイスやサポートを行ってフォローしている。  入社半年後の管理員には、フォローアップ研修を行い、より高度な知識習得のため、清掃・植栽管理の研修や「認知症サポーター講習」などを実施している。入社2年目以降は1年ごとに、さらなるスキルアップおよびクレーム対応力の強化を目的として、事例をもとにディスカッション形式の研修を実施。仕事のやりがいなどを見つめ直すきっかけにもなる内容だという。さらに、安全教育も随時実施。このように充実した研修を行うことで、長く継続して働く管理員が育っている。  70歳前後に入社する人も多い管理員研修では、受講した社員の手元に残る資料を作成して手渡し、学んだ内容をいつでも何度でも見返すことができるようにしている。また、管理員は基本的に現場では1人で勤務するが、同時期に入社した者同士で一緒に研修を受けてもらい、仲間がいることを感じてもらうようにしている。長く勤めている管理員は、「居住者さまからいただいた感謝の手紙や絵を大切に保管している方や、お住まいのお子さまたちの成長を見守るのが楽しみだとおっしゃる方がいらっしゃいます。また、業務で身体を動かすことにより、健康になったという報告や、洋服がサイズダウンしたと喜んでいる方もいらっしゃいます。みなさんそれぞれに、ご自身が楽しく働けるポイントを見つけて勤務されています」(臺主幹)という。  正社員向けの研修では2024年、東急コミュニティービジネスカレッジで、ミドル世代に向けて、「ライフキャリア形成セミナー」を始めた。以前から取り組んでいたセミナーの仕事に関する内容を充実させたもので、50代社員のキャリアの再考と新たなビジョンを考える機会の提供を目的としている。「過去の棚卸し」、「自己認識を深める」、「理想の60代を迎えるにあたって」などの内容で、受講者から「自分をふり返り、将来を考える機会となってありがたい」といった声が聞かれ、好評を得ている。 4 業界初の健康管理システムを導入 転倒リスクなどの軽減を目ざす  入社する人の年齢が上がり、長く勤めることを望む管理員が増えるなか、現在の管理員がより長く安全に活躍できる職場づくりに重点を置くようになった。そのためには、社員が自分自身の健康や体力に留意することも大切と考え、2025年2月、マンション管理業界では初となる健康管理システムを導入した。健康促進と業務中の転倒リスクなどを軽減し、安全に向けた注意喚起にも活用することで、マンション管理員がこれまで以上に働きやすい職場環境を整備することをねらいとしている。  導入したのは、身体機能の状態を把握する測定アプリで、タブレットのカメラ機能を活用して「足腰筋力・バランス力・柔軟性」など複数項目の測定ができる。測定結果は保存することができ、部署ごとの特徴や一人ひとりの経年変化を確認し、結果に応じた個別サポートを今後行っていくことが可能だ。  2025年9月末時点で、測定実施数2140人(実施率37%)。うち、ハイリスク率は5%。導入したばかりで目に見える効果はまだないものの、管理員の労働災害は減少傾向にあるそうだ。 5 多様な人材が長く活躍できる職場へ人事制度の改定に着手  「当社は、マンションや施設管理など多様な事業にたずさわるなかで、さまざまな人材が活躍できる環境づくりが企業成長やサービス品質の向上に不可欠であると認識しています。また、社会的なダイバーシティ推進への要請や、働き手の価値観の多様化、少子高齢化による人手不足への対応も背景となり、すべての従業員が安心して働ける職場づくりを強化する必要性を感じています」と臺主幹。  このような認識のもと、2025年に企業理念、コーポレートスローガンを刷新し、「誰もが自分らしく、いきいきと輝ける職場づくりに取り組み、すべての従業員が心身ともに健康で満たされた状態をめざします」とする人材マネジメント方針を策定した。  臺主幹は、「この方針をもとに、2026年5月を目途に人事制度の改定を予定しています。だれもが長く安心して働ける環境をつくりたいという思いが根本にあり、短時間や週2、3回なら働けると望む声もありますから、働き方の選択肢をこれまで以上に増やすなど、いろいろな意見を聞きながら検討を進めているところです。年齢、性別に関係なく、多様な社員がいきいきと働ける職場の実現に向けて、そうしたことを支える制度になるように尽力します」と力を込めて語った。どのような制度になるのか、これからもその動きに注目していきたい企業である。 ※ 2020(令和2)年度までの名称は「高年齢者雇用開発コンテスト」 写真のキャプション 経営管理統括部グループ人材戦略部人材戦略課の臺希巳枝主幹 株式会社東急コミュニティーの本社(写真提供:株式会社東急コミュニティー) 管理員のために実施している研修の一コマ(写真提供:株式会社東急コミュニティ