【表紙】 令和8年3月1日発行(毎月1回1日発行)第48巻第3号通巻556号 Monthly Elder 高齢者雇用の総合誌 2026 3 特集 令和7年度 生涯現役社会の実現に向けたシンポジウム〜開催レポートU〜 リーダーズトーク 雇用年齢上限を撤廃、72歳の支店長が誕生 年齢にとらわれず職務と成果の発揮を期待 株式会社岡三証券グループ 人事戦略部担当(グループCHRO)理事 安江 啓 【前頁】 画像データです 【P1-4】 Leaders Talk No.130 雇用年齢上限を撤廃、72歳の支店長が誕生 年齢にとらわれず職務と成果の発揮を期待 株式会社岡三証券グループ 人事戦略部担当(グループCHRO)理事 安江 啓さん やすえ・けい 2001(平成13)年、株式会社岡三証券に入社。営業店支店長、本社人事部長、企画部長などを務め、2025(令和7)年より現職。  2023(令和5)年に創業100周年を迎えた岡三証券グループでは、2025年に新人事制度を導入し、雇用の年齢上限を撤廃。同年11月には72歳の新支店長が誕生するなど、高齢社員がそれまでつちかってきた知識や経験を活かし、生涯現役で働ける環境を整えています。  今回は岡三証券グループCHRO・理事を務める安江啓さんに、同社における高齢者雇用の取組みについてお話をうかがいました。 「人事権を社員に返す」視点で制度改革 社員自身がやりたい仕事・働く場所を決める ―貴社では、2025(令和7)年4月より年齢や勤続年数に関係なく、能力・成果に応じた処遇を軸とする新人事制度を導入されたそうですね。そのねらいについて教えてください。 安江 当社は2023年に創立100周年を迎えました。その際に策定した5カ年の中期経営計画では、当社のパーパスとして「金融のプロフェッショナルとして『お客さまの人生』に貢献する」を掲げ、ゴールを「ビジネスモデルを変革し、次の100年も成長しつづける経営基盤を確立する」に設定しています。そのためのビジネスモデルを変革するための成長戦略として、@お客さま一人ひとりに合ったサービスを提供する「One to Oneマーケティングの強化」、A地場証券との連携や外部のリソースを活用した「プラットフォームの高度化」、B「コーポレートブランディングの進化」の三つを掲げています。Bのコーポレートブランディングには内と外がありますが、内部については人事制度の刷新を含んでいます。  人事制度改定のコンセプトの一つがコース制の導入です。金融機関である証券会社では、自分の仕事や勤務地は人事権を持つ会社が決めるのが従来の常識でしたが、この人事権を社員に返し、社員一人ひとりがやりたい仕事を選び、働く場所を自ら決める、というのが大きなポイントです。もう一つが社員との長期的な関係の構築です。簡単にいえば「長く働いてもらいたい」ということ。長く働いてもらうには会社が雇用するというよりも、外部から当社を見たときに選んでもらえる会社にする必要があります。そのために年齢や属性にとらわれず、成長機会の提供とあわせて、能力・成果に応じた積極的な登用、抜擢を行い、「役割・責任・成果」に応じた報酬を支給するPay for Job, Pay for Performanceの考え方を、中期経営計画にもしっかりと明示しました。 ―貴社の人材基本方針でも「お客さまとの関係同様、従業員や様々なパートナーと岡三証券グループは長期的関係であることを前提とします」と掲げています。Pay for Job,Pay for Performanceに基づく新人事制度とはどういうものですか。 安江 雇用年齢上限撤廃とも関連しますが、「年齢にとらわれない」というのには、シニアを含めて長く働いてもらいたいという思いがあります。若くても年齢が高くても結果を出した人に報いるという姿勢は一貫しています。新人事制度ではジョブ(職務)を基軸に置いた仕組みに大きく変えました。具体的には社員は職能等級と職務・専門等級の二つの等級を持ち、報酬とひもづいていますが、年功的な職能等級のウエイトを下げるとともに、職務・専門等級のウエイトを大きくする仕組みに変えました。また、評価によって職務・専門等級が上がると管理職になりますが、従来の制度では最短で10年目に管理職に昇格していたところ、新制度では理論上、4年目で管理職に昇格できる仕組みに変えました。 ―高齢者雇用では、雇用年齢上限を撤廃されました。60歳以降の評価・処遇制度について教えてください。 安江 定年は従来制度の通り60歳で、60歳定年後は再雇用に移行します。先ほどお話しした新人事制度は60歳までの社員を対象としたもので、60歳以降の社員についても処遇制度を見直すべく現在設計中であり、2026年4月より導入予定です。  従来の制度では営業職対象の2コース、本社部門では3コースを設定しており、処遇については個別に契約し、運用していました。評価制度では明確な評価項目もなく、評価ランクも3〜5段階の簡易なものでした。一方で、60歳以降も支店長を継続している再雇用社員が3人います。定年後の再雇用でも個別に契約を結び、現役の支店長と同じ給与・賞与制度で評価し、処遇しています。したがって、役職定年はなく再雇用でも役職を継続できるチャンスがあるという点では、モチベーション維持につながっていると思います。  さらに、導入予定の新たな制度では、60歳定年前と同じように、ジョブとパフォーマンスを基軸にメリハリのある評価と報酬の仕組みに変えていくイメージです。自分が何をやるべきか、目ざす目標を明確に立てる目標管理に基づいて達成レベルをしっかりと評価していくことになります。もちろん、定年後も現役時代と同じように働きたいという人もいれば、60歳を節目にワーク・ライフ・バランスを重視した働き方や自らのセカンドライフを考えてみたいという人もいると思います。そうした人に向けた柔軟な働き方の選択肢も用意したいと考えています。 ジョブとパフォーマンスを基軸にメリハリのある評価・報酬制度を導入 ―貴社の従業員規模で雇用の年齢上限を撤廃している企業はほとんどないのが実情です。年齢上限の撤廃の背景にはどういう考え方があるのでしょうか。 安江 「若いから」とか「高齢だから」といった年齢の概念を取り除きたい、という岡三証券グループの新芝(しんしば)宏之(ひろゆき)社長の強い思いがあります。いままでの制度は、個別契約とはいえ定年になると処遇が下がるケースがほとんどですし、仕事に対する評価もあいまいで、なかには不満を抱える社員もいました。しかし現役並みに働き、しっかり評価されることになればお互いに納得でき、公平性につながるものと期待しています。一方、現役並みの仕事でなくてもよいという人には、仕事の責任や仕事の量を限定するなど、働き方のバリエーションを増やし、本人が納得できる働き方を提示していきたいと考えています。  店舗の支店長として活躍する人もいれば、営業の最前線で活躍した豊富な経験を持ち若い社員のサポート的な役割をになう人もいる、というように個々のキャリアに応じた仕事を企画したいと考えています。また、東京の本社部門で長く働いてきた人のなかには地方出身者も多くいます。将来地元に帰りたいという場合、店舗は札幌から熊本まで70店舗近くありますが、営業を担当してもらうにも経験がないのでむずかしい。それでも証券会社ですので金融の知識はありますし、そういう人でも一定の学びを得て、地方の営業店で働けるような仕組みをつくっていきたいと思っています。 ―実際に60歳以降も働いている人はどのくらいいるのですか。また、65歳以降も働く場合は基準があるのでしょうか。 安江 グループ全体の従業員数は約3500人ですが、60歳以上が約300人。そのうち65歳以上が55人です。65歳以降については、基本的には1年ごとの契約更新の際に評価を見ていますが、今後は健康面であるとか、評価についてもジョブとパフォーマンスの発揮度など、一定の基準を設ける必要があると考えています。 72歳の女性支店長誕生がニュースに年齢にとらわれない支店独自の制度づくりにも期待 ―2025年11月には72歳の女性支店長が誕生したことがニュースになりました。就任の経緯について教えてください。また、支店長にどのような期待をしていますか。 安江 当社としては初めて70代の支店長となった久下(くげ)美恵子(みえこ)支店長は、入社当初は外務員として働き、正社員になり、課長、支店長を経て、最終的に監査等委員を務めました。本人は退任する予定でしたが、社長が多様性を実現する新業態の営業店舗をつくりたいということで久下さんに白羽の矢を立てたというのが経緯です。店舗はビジネスモデル変革の象徴として従来の株、債券、投信を扱うだけではなく、相続対策や不動産の活用など資産管理型のサービスに特化した店舗として、幅広いお客さまに対してサービスを提供しています。店舗には7人のスタッフがいますが、久下さんをはじめ下は20代のスタッフを含めて全員が女性です。また将来的には店舗をグループ会社として独立させる計画であり、支店長ではなく社長としての采配を期待しています。一方、人事としては出産・育児など個々の事情に応じた柔軟な働き方や年齢にとらわれない仕組みなど、独自の就業規則をつくるぐらいの気持ちで新たな制度をゼロベースでつくってトライアルし、その成果を逆に会社全体に提案していただくことを期待しています。 ―雇用の年齢上限撤廃をはじめとする新しい試みは、これから高齢者雇用の推進に取り組む企業にも参考になります。 安江 シニア世代への対応というより、年齢の概念にとらわれず、情熱を持って長く働いてもらいたいし、そのうえで一定の結果を出した人に報いていきたいというのが大きなコンセプトです。また、冒頭で「人事権を社員に返す」とお話ししましたが、社員自らキャリアプランを考えてもらい、それが実現できるような選択肢を私たちもしっかり用意していきたいと考えています。その一つが雇用の年齢上限の撤廃にもつながっているのです。 (聞き手・文/溝上憲文 撮影/中岡泰博) 【もくじ】 エルダー エルダー(elder)は、英語のoldの比較級で、”年長の人、目上の人、尊敬される人”などの意味がある。1979(昭和54)年、本誌発刊に際し、(財)高年齢者雇用開発協会初代会長・花村仁八郎氏により命名された。 ●表紙の写真:PEANUTS MINERALS/アフロ 2026 March No.556 特集 6 令和7年度 生涯現役社会の実現に向けたシンポジウム 〜開催レポートU〜 2025年10月24日開催 「シニア社員を活性化するための人材マネジメント組織の活性化に貢献!−シニア社員を活かす持続可能な人材マネジメントの仕組み」 7 基調講演 シニア社員を活かす人材マネジメント サスティナブル・キャリアの視点から 立教大学大学院ビジネスデザイン研究科 特任教授・日本人材マネジメント協会理事長 山ア京子 11 講演 シニアのジョブ・クラフティング−生涯現役を支える組織のあり方 釧路公立大学 准教授 岸田泰則 13 事例発表@ 三菱UFJ信託銀行のシニア向け人事関連施策について 三菱UFJ信託銀行株式会社 執行役員人事部長 中村剛雄 15 事例発表A ミドル・シニア向けキャリア自立支援について ライオン株式会社 人事部 青木陽奈 17 パネルディスカッション 「キャリアのマルチステージ化への支援−ミドル・シニア期も含めたキャリア再設計を支える制度と実践を共有する」 1 リーダーズトーク No.130 株式会社岡三証券グループ 人事戦略部担当(グループCHRO)理事 安江 啓さん 雇用年齢上限を撤廃、72歳の支店長が誕生 年齢にとらわれず職務と成果の発揮を期待 23 立川談慶の人生100年時代の歩き方 【第2回】 本当の優しさとは? 24 特別企画 「産業別高齢者雇用推進ガイドライン」のご紹介 30 特別企画 労働者協同組合という働き方 36 偉人たちのセカンドキャリア 最終回 生涯現役で絵を描き続ける 葛飾北斎 歴史作家 河合 敦 38 高齢者の職場探訪 北から、南から 第163回 愛知県 真川陸送株式会社 42 高齢者に聞く 生涯現役で働くとは 第113回 アイエム翻訳サービス株式会社 上級アドバイザー 角嶋正甫さん(78歳) 44 高年齢者活躍企業コンテスト 受賞企業の軌跡 【第3回】 株式会社すかいらーくホールディングス 48 知っておきたい労働法Q&A《第92回》 定年後再雇用と雇止めにおける期待可能性、会社に無断の副業と労働時間の通算 家永 勲/木勝瑛 52 諸外国の高齢化と高齢者雇用 【第4回】 デンマーク、スウェーデン、ノルウェー 藤本 真 54 いまさら聞けない人事用語辞典 第65回 「ILO(国際労働機関)」 吉岡利之 56 BOOKS 58 ニュース ファイル 59 読者アンケート結果発表!! 60 次号予告・編集後記 61 技を支える vol.361 顧客の期待に応えるため 一足一足に心を込める 靴修理職人 折田勝壽さん 64 イキイキ働くための脳力アップトレーニング! [第105回] 立方体の展開図 篠原菊紀 【P6】 特集 令和7年度 生涯現役社会の実現に向けたシンポジウム 〜開催レポートU〜 ▲2025年10月24日開催 「シニア社員を活性化するための人材マネジメント組織の活性化に貢献!−シニア社員を活かす持続可能な人材マネジメントの仕組み」  JEEDでは、生涯現役社会の普及・啓発を目的とした「生涯現役社会の実現に向けたシンポジウム」を毎年開催しています。2025(令和7)年度は、企業の人事担当者のみなさまにとって特に関心の高いテーマで2回にわたり開催し、学識経験者による講演や、先進的な取組みを行っている企業の事例発表、パネルディスカッションなどを行いました。  今号では、2025年10月24日に開催された「シニア社員を活性化するための人材マネジメント 組織の活性化に貢献!―シニア社員を活かす持続可能な人材マネジメントの仕組み」の模様をお届けします。 【P7-10】 2025年10月24日開催 基調講演 令和7年度 生涯現役社会の実現に向けたシンポジウム 「シニア社員を活性化するための人材マネジメント」 シニア社員を活かす人材マネジメント サスティナブル・キャリアの視点から 立教大学大学院ビジネスデザイン研究科 特任教授・日本人材マネジメント協会理事長 山ア(やまざき)京子(きょうこ) 人生100年時代とマルチステージ化  本日お話しするテーマは、「シニア社員を活かす人材マネジメント サスティナブル・キャリアの視点から」です。サスティナブル・キャリアの具体的な内容については、講演のなかで詳しくお話ししていきます。  まず、日本のシニアを取り巻くキャリア環境について見ていきます。統計値・推計値によれば、日本の総人口が減少する一方で、65歳以上の人口割合はますます上昇していきます。2040年には60〜64歳の就業率が80%、65歳以上でも61%に達すると予測されており、これは1989(平成元)年のおよそ2倍にあたる数字です※1。このように急激な高齢化が進んでいますが、人口動態の変化は以前から予測されていたため、官民をあげた対策が長年進められてきました。  超高齢社会におけるキャリア形成は、日本だけでなく先進国共通の課題です。リンダ・グラットンとアンドリュー・スコット著の『LIFE SHIFT(ライフ・シフト)』(東洋経済新報社)で提唱した「人生100年時代」という言葉が、日本でも数年前に広まりました。ここであらためて、長寿化社会におけるキャリア形成についてふり返りたいと思います。  まず、彼らが指摘するのは、人生は3ステージからマルチステージに変わっていくということです。3ステージとは、「教育」、「仕事」、「引退」のそれぞれのステージをさします。  しかしながら、このうち「仕事」の期間が長引いてきています。日本の事情に目を向けてみると、高年齢者雇用安定法が施行されたのが1986(昭和61)年で、このときには定年が55歳、そして60歳までの雇用機会確保が努力義務でしたが、現在では努力義務が70歳になっています。この努力義務はいずれ義務化される可能性もありますので、70歳定年が目前に迫ってきているといえます。55歳定年のころと比べると、職業生活が15年も後ろ倒しになってきているということです。  また、現在の役職定年の平均年齢は55歳といわれており、55歳から70歳まで15年間もあります。55歳は世の中ではシニアであり、シニア期間が15年間もあるというのは、かなり長いと思いませんか?このように考えると、人生の長い時間を過ごす「仕事」が、マルチステージ化していくのはもっともなことで、リンダ・グラットンらが指摘していることが、日本にもまさしく当てはまってくるわけです。  そこで、リンダ・グラットンらは働き方を三つの考え方でとらえてみてはどうかと提唱しています。それが、「エクスプローラー」、「インディペンデント・プロデューサー」そして「ポートフォリオ・ワーカー」です。  「エクスプローラー」は「探査」という意味で、さまざまな世界を探査し、多様な経験をしていくことを意味しています。さまざまな職業経験を通して、幅広い見識を養っていくキャリアの形成です。  次の「インディペンデント・プロデューサー」は「独立」を意味しています。組織に所属せず、自由と柔軟性を重視して、小さなビジネスを起こす働き方です。特に士業などで、会社に勤めながらキャリア後半に勉強を始め、適切なタイミングで独立する方々も、みなさまの周りにいらっしゃるのではないでしょうか。あるいは、最近ではオンラインでの仕事やITの進展により、インターネットを使ったビデオ制作や翻訳などのコンテンツ制作といった、広義でのフリーランスの働き方も、このインディペンデント・プロデューサーに相当します。最近では副業の解禁もあり、本業をしながらこういった独立した仕事をしていく準備をすることも、認められるようになってきました。  最後に「ポートフォリオ・ワーカー」です。完全に独立をするというよりは、複数の仕事を組み合わせていく働き方です。さまざまな仕事を経験していくことで、互いに相乗効果があり、本業にも副業にもよい影響を与えていく、そういったポートフォリオの組合せは理想的です。 日本型雇用システムとの相性  この三つの働き方は興味深い提言ですが、日本型雇用システムとの相性には課題があります。  伝統的な日本企業が取り入れている日本型雇用システム、最近では「メンバーシップ型」として知られるようになりましたが、この日本型雇用システムは、必ずしもリンダ・グラットンらが指摘している人生100年時代の働き方とは相性がよいとはいえません。  具体的には、新卒一括採用、会社都合の人事異動、年齢による定年、そして再雇用時に処遇が4割減になるケースもあるなど、年齢による護送船団的なメンバーシップ型には、いくつかの問題があります。  もちろん、これまでの高度経済成長において、日本型の雇用システムは大きなメリットがあったということは決して否定しません。かなり効果的な人的資源管理の手法でしたが、現代におけるミドル・シニアのキャリアだけを取り出して考えてみると、彼らの自律的なキャリア形成に対して、いくつか影響を与えています。  例えば、メンバーシップ型は内部労働市場と指摘されていますが、組織のなかで人材の流動化をうながす方法になっていますので、エクスプローラーとしての経験は社内にかぎられていきます。転職をくり返しながら、さまざまな専門性を身につけていくジョブ型と異なり、社内での経験にかぎられてしまうのです。  また、日本では転職市場が活性化していないため、独立へのハードルが高いといえます。一度会社を辞めて独立した人が組織に戻る壁も高く、インディペンデント・プロデューサーにもなりにくい状況があります。  さらに、副業を考えても、まだまだ日本社会では完全には定着していないこともあり、本人、あるいは企業もまだ模索段階です。そういった意味では、ポートフォリオ・ワーカーも、まだ一般化するにはむずかしいといえます。  このように、日本型雇用システムは、マルチステージ化への対応がむずかしいといわざるを得ません。ただし、早くから対策を進めている企業ももちろんあり、このあと事例として二社からご紹介いただきますが、定着に向けて現在、相当な努力をされているところだと思います。  多様な課題があるなかで、シニア個人の視点で見ると、企業はさまざまな施策を打ち、最近ではキャリア自律が叫ばれるようになっていますが、納得するには時間のかかる方々もいらっしゃいます。というのも、彼らが入社した当初は、会社のために自分のキャリアをささげる働き方が歓迎されていた時代でした。  当然、会社のなかでの昇進・昇格も、会社都合による人事異動にそのまま抵抗せずに、どこにでも異動し、できるだけ早く適応していくことが昇進していくうえでの大きな条件だったわけですから、ある日突然、自律的なキャリアといわれても、非常に戸惑ってしまうのは当然です。  このため、釈然としない世代である50代の方々が、まだまだ残っていると思います。現在の30代は、この動きを自然に受け入れるでしょうが、今後10年ほどは釈然としない世代のキャリアシフトチェンジが求められます。個人と組織双方が納得できる制度設計と運用が必要です。 サスティナブル・キャリアにおける成功の3要素  そうしたなかで、今回、私が提案したいのが、「サスティナブル・キャリア」という考え方です。サスティナブルは、継続可能なという意味ですが、この考え方が生まれてきた背景について説明します。  この研究を推進してきたのが、オランダのファン・デル・ハイデン氏と、ベルギーのデ・フォス氏というヨーロッパの研究者です。「ジョブ型」、「メンバーシップ型」の区別をする際に、私たちは「ジョブ型」を欧米的といいがちですが、実際はアメリカ的です。ヨーロッパは比較的、アメリカより社会主義的で、社会のため、個人のためという発想を持っています。  彼らがサスティナブル・キャリアを提言する社会的背景として、大きく四つのポイントがあげられます。  1点目は、時間軸の変化です。人生100年時代といわれるように、キャリアが長期化しています。  2点目は、キャリア形成の場の変化です。一つの組織だけでなく、会社以外の社会貢献活動なども含め、さまざまな経験がキャリアに影響を与える空間が広がっています。  3点目は、キャリアの責任所在です。一つの組織内でキャリアが完結するなら、キャリアや生活保障は組織側の責任ですが、空間が広がることで、キャリア形成は自己責任になりつつあります。  そして4点目は、キャリアサクセスの考え方の変化です。一つの組織内でのキャリア形成であれば、昇進・昇格がサクセスでしたが、空間が広がり境界があいまいになると、サクセスは個人の満足感、達成感、充実感という内的キャリアへ志向が向きます。この四つの社会的変化が、サスティナブル・キャリアという考え方を生み出しました。  では、サスティナブル・キャリアにおける成功の条件は何でしょうか。健康と幸福と生産性、この三つが重なり合ったところが、サスティナブル・キャリア成功の成果変数です。  まず1点目が健康です。健康経営○R(★)は、いまでも非常に重要であり、心身ともに健康である経営を目ざすことは、社会的な動きになっています。  2点目は、最近注目されているウェルビーイングです。社員一人ひとりが幸福であり、価値観や目標が自覚され、達成され、成長ニーズを満たすウェルビーイング経営も、特に人的資本経営の成果指標として取り上げられるようになりました。  3点目が生産性です。これは企業の目線になりますが、一人ひとりの生産性が高いからこそ利益率の高い経営が可能になり、個人のキャリア支援も可能になります。個人目線では、いかに生産性の高い仕事ができるか、言い換えれば、エンプロイアビリティの高い仕事をしていくかが重要な視点です。  この三つを達成できるよう、組織の責任を説いているのが、サスティナブル・キャリアの特徴です。これまでキャリア支援は個人の目線に偏りがちでしたが、組織側の責任を説いている点で意義があります。だからこそ、本日、サスティナブル・キャリアという考え方を紹介する意味があると考えます。 日本型雇用システムとの課題  残念ながら、日本型雇用システムは、サスティナブル・キャリアに対していくつか課題があります。サスティナブル・キャリアの研究では、キャリア配置の個別化が重要とされていますが、日本の定年退職は年齢で区切られており、個別対応がなかなか行われていない点が課題の一つです。もう一つが、自身の価値観の自覚と表現が重要だという点です。研究上明らかになっていますが、個別配置は依然としてむずかしく、手上げ式がある一方で、会社にも事情があるので、会社都合による配置も外せません。いかに個人のキャリアと会社事情を橋渡しするか、この二つが大きな課題です。日本型雇用システムには、個人とキャリアの適合による継続性に適さない組織要因が含まれています。  そんななか、私の研究チーム3人で行っている伝統的日本企業研究からわかったことを紹介したいと思います。  50代後半の方々にキャリア展望をインタビューしたところ、その傾向は大きく三つに分かれました。「ドリフト・モラトリアム型」、「リセット心機一転型」、そして「コーリング型」です。特に注目したいのが、「リセット心機一転型」です。会社都合の人事異動をくり返された方々には、疲弊を感じている人が一定数おり、これ以上会社都合で仕事をアサインされるのではなく、一度立ち止まってゆっくり自分の人生を考えたいという方々がいらっしゃったことが、この研究の重要な発見でした。  このため、60代以降のキャリアの選択肢として一時停止を望む方々に対して、例えばサバティカル制度※2のような自己を見つめ直す制度設計も重要かもしれません。  もう一つは尺度開発です。これまでサスティナブル・キャリアに関する心理尺度はありましたが、ジョブ型に対応したものでした。そこで、われわれ研究チームで日本人を対象としたキャリア尺度を開発しました。その結果、制約環境下での適応力、社会関係資本、主体的な態度という三つの要素が抽出され、この三つの能力がサスティナブル・キャリアをどう形成していくのかについても、今後研究を進めていきます。  これらをふまえ、組織としての取組みを5点あげます。「キャリアのマルチステージ化への支援」、「配置・処遇・働き方の個別化」、「価値観を自覚し表現できる場づくり」、「心理尺度の実務的活用」、そして「費用対効果の検討」です。  これらについては、このあとのパネルディスカッションで、ご登壇企業のみなさまがどのように対応されているのか、詳しくお聞きしていきたいと思います。私からの基調講演と問題提起はここまでとさせていただきます。ありがとうございました。 ★「令和7年度 生涯現役社会の実現に向けたシンポジウム」基調講演は、JEEDのYouTube公式チャンネルでアーカイブ配信しています。 こちらから、ご覧いただけます。 https://www.youtube.com/watch?v=PiiR6UtMADY ※1 令和2年版厚生労働白書 ★「健康経営○R」は、NPO法人健康経営研究会の登録商標です。 ※2 サバティカル制度……長期休暇制度 【P11-12】 2025年10月24日開催 講演 令和7年度 生涯現役社会の実現に向けたシンポジウム 「シニア社員を活性化するための人材マネジメント」 シニアのジョブ・クラフティング ―生涯現役を支える組織のあり方 釧路公立大学 准教授 岸田(きしだ)泰則(やすのり) シニアのジョブ・クラフティングとは何か  「ジョブ・クラフティング」とは、働く人が 自ら工夫し、仕事をやりがいのあるものに変え ていく考え方です。ジョブ・クラフティングは 三つに分類されます。仕事のやり方の工夫を変 える「業務クラフティング」、周りの人との関 係に工夫を加える「関係性クラフティング」、 そして仕事の考え方を工夫する「認知的クラフ ティング」です。これにより活力が高まりスト レスが軽減され、結果として健康やチームのパ フォーマンス向上につながります。  ジョブ・クラフティングが注目されるのには、三つの大きな理由があります。人事の観点からはエンゲージメント向上に寄与することで離職防止につながり、産業保健の領域では身体的・精神的・社会的なウェルビーイングの向上に貢献します。そして、キャリアの時間軸が長期化するなかで生じる、個人と仕事のミス・フィット感を小さくします。  続いて、シニアにおけるジョブ・クラフティングの事例を紹介します。業務クラフティングでは、自分なりに小さな工夫を施す例として、メーカーの工場で検品を担当するシニア社員が、仕事を覚えにくいため自作のマニュアルを作成しました。また、自らの能力向上を図る例として、職場に障害のある社員が増えたことをきっかけに、寄り添った支援を行うためジョブコーチ(12ページ※)の研修を受講したシニア社員もいます。  関係性クラフティングでは、新たな関係づくりの例として、シニア社員が現役世代と交流するために昼休みにランチ会を開催しています。関係強化として、毎朝のあいさつを欠かさず行います。一方で、関係を見直す例として、再雇用や役職定年後に現役世代との距離を意識的に取り、会議での発言を控えるケースも見られます。  認知的クラフティングでは、役割の再認識として、「これからは若手社員の相談相手になろう」と自分の立ち位置を見つめ直しました。また、仕事の意味をとらえ直す例として、スマートフォン修理業にたずさわるシニアが、自らを「スマートフォンの外科医」と位置づけるケースがあります。こうした工夫によって、気乗りしなかった仕事も、やりがいのあるものへと変わっていきます。 シニアの拡張的・縮小的クラフティング  シニアのジョブ・クラフティングを深く知るキーワードとして、「拡張的」と「縮小的」という考え方があります。これは、仕事を広げていくか、あえて手放していくかという選択の違いを表すものです。私の研究では、シニア社員が拡張的クラフティングと縮小的クラフティングの両方を行っていることがわかりました。拡張しながらも縮小している側面があり、これが個人のモチベーション維持に寄与していました。  また、大企業の定年後再雇用者・男性15人にインタビューをし、再雇用者になるプロセスを分析したところ、再雇用に応じると現役正社員の座を失い、役割があいまいなケースが多く、それを認知します。しかし高い仕事能力を有するため、仕事とのマッチングを図る過程でジョブ・クラフティングが起こります。周りを見て職場での距離感を保ち、仕事への新たな認知を得て働きかけることで、再雇用者としての立ち位置を得て適応します。  業務クラフティングでは、現役世代がやっていない仕事を見つける(拡張的)、自分の立場に合わせた仕事量調整(縮小的)があります。関係性クラフティングでは、現役への配慮で発言を自制(縮小的)します。認知的クラフティングでは、次世代への継承のため仕事の意義を見つける(拡張的)、生活に占める仕事の比重を低減(縮小的)します。定年後再雇用者は縮小的と拡張的の両方を織り交ぜて行動しています。 シニアのジョブ・クラフティングの必要性  「エイジング・パラドックス」という、シニアは加齢で失うものが増えるのに、幸せだという現象があります。加齢による喪失への適応方法として、選択(目標を特定水準に絞る、水準を下げる)、最適化(自分のもつ資源を最適化する)、補償(喪失を補う手段・方法を用いることとして、だれかの助けを得る)が行われます。これをジョブ・クラフティングに変換して考えてみると、選択は仕事量を減らす、最適化はその仕事に必要なスキル維持に時間を使う、補償は他者の助けを借りる、です。助けを借りるのは大事で、遠慮しなくていいのです。  シニアのジョブ・クラフティングが必要な理由は三つあります。仕事そのものの変化(役職定年、定年後再雇用)、自分自身の変化(加齢による体力変化)、周囲の変化(介護、周りからの見る目の変化)です。そのためジョブ・クラフティングの実践が必要です。しかし、暴走するクラフターという事例もあります。自分だけの考えで仕事のやり方を変えてしまい、現場や現役世代と合わないケースです。認知のゆがみがあるため、上司がレールに戻す必要があります。また、自律的な行動であるジョブ・クラフティングにもマネジメントが必要です。直接指示するのではなく、間接的なマネジメントにより、ジョブ・クラフティングが起こりやすい環境を整えます。  上司からの支援として、シニアが変わる可能性を想像する、自分自身がジョブ・クラフティングをしてロールモデルになる、リバースメンタリング(上司が自分の問題をシニアに質問し、アドバイスを得る)があります。特に、リバースメンタリングはシニアに活力を与えられる方法です。  最後に、上司がエイジズム(年齢差別)を持たないことがもっとも大切になります。上司に報告せずに進められる領域を「遊び」と呼ぶのですが、やりがいを感じながら仕事をするには、ネジ穴の遊びのようなものが必要だと思います。  ジョブ・クラフティングを使って、個人と仕事のミス・フィットを減らすこと。だれかの物語を生きるのではなく、仕事を自らの手で手触り感のあるものに変えていくこと。変わる手始めとして仕事を小さく変えてみてください。 ★「令和7年度 生涯現役社会の実現に向けたシンポジウム」講演は、JEEDのYouTube公式チャンネルでアーカイブ配信しています。 こちらから、ご覧いただけます。 https://www.youtube.com/watch?v=xktLfZqHh1g ※ジョブコーチ(職場適応援助者)については、厚生労働省ホームページをご参照ください。 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/shougaishakoyou/06a.html 【P13-14】 2025年10月24日開催 事例発表@ 令和7年度 生涯現役社会の実現に向けたシンポジウム 「シニア社員を活性化するための人材マネジメント」 三菱UFJ信託銀行のシニア向け人事関連施策について 三菱UFJ信託銀行株式会社 執行役員人事部長 中村(なかむら)剛雄(たけお) 2023年に「シニアジョブコース」を新設  本日は、三菱UFJ信託銀行株式会社のシニア向け人事施策についてお話しします。まず当社の概要です。当社は、三菱UFJフィナンシャルグループ傘下の信託銀行で、従業員数は約6000〜7000人。銀行業務と信託業務の両方を行っています。信託業務では、資産運用・管理、不動産、相続関連業務など幅広い分野を扱っており、現金のみならず、不動産や株式、無形資産なども取り扱います。このため、社員数の割には業務領域が細分化された、いわゆる「少量多品種」型のビジネスモデルとなっています。  当社では順次、ジョブ型制度を導入してきました。2020(令和2)年4月に職務給重視の評価体系へ移行しつつメンバーシップ型を維持していましたが、2021年と2024年には現役世代向けにジョブ型制度を導入しました。  シニア層に関しては、2023年4月に「シニアジョブコース」を新設。さらに2025年10月からは「シニアジョブエルダー」として、65歳超の雇用延長制度を開始しました。  ジョブ型導入の理由は、当社の業務領域にシニアが活躍しやすい分野が多くあるためです。例えば、企業年金の制度設計、他企業の年金制度運用設計支援、個人のお客さまの資産承継・相続業務などは、長年の経験に基づく高度な知見が求められます。また、不動産業務や証券代行業務においても、複雑な案件への対応力が必要とされます。こうした専門性の高い領域に、シニアの知見を活かせるジョブ型制度を適用しました。  採用形態は新卒一括採用が主ですが、近年はキャリア採用も増加しています。新卒はメンバーシップ型のオープン採用に加え、コース別・部門別採用も実施しており、プロフェッショナルジョブ制度(ジョブ型)へ移行する社員も多数います。  定年後再雇用については、現状60歳定年後、8〜9割が再雇用を選択し、その半数以上が「シニアジョブコース」へ移行しています。  こうした状況をふまえ、2027年度からは60〜65歳を正社員として処遇する予定です。さらに65歳以降については「シニアジョブエルダー」として、再雇用嘱託形式で最長70歳まで契約更新可能な制度としています。 シニアジョブコースと職務定義  「シニアジョブコース」の基本コンセプトは、高い職務貢献が期待できる層に対し、ミッションに応じて従来より高い処遇を設定することです。  最大の特徴は、職務定義書(ジョブディスクリプション)の作成です。嘱託再雇用において業務内容が曖昧になりがちという課題に対し、上司と本人が対話し、1年間の業務内容と役割を明確化することを必須要件としています。  この職務定義書には、担当する具体的な業務、求められる成果、評価基準などを明記します。年度初めに作成し、期中で進捗確認を行い、年度末に評価を実施するというPDCAサイクルを回すことで、シニア社員の貢献を可視化し、適正な処遇につなげています。この仕組みにより、シニア社員本人も「何を期待されているか」が明確になり、モチベーション向上にもつながっています。従来の曖昧な業務指示ではなく、明確な目標設定がなされることで、やりがいを持って働ける環境が整いました。  シニア活用では「年下上司と年上部下」の関係性が課題となります。そこで、制度導入と同時に「シニアマネジメント研修」を新設しました。  研修では、年下上司向けに「適切な指示の出し方」、「経験豊富なシニアの知見の引き出し方」、「世代間ギャップの埋め方」などを扱います。一方、シニア側には「後輩への適切なかかわり方」、「自律的な働き方」などを伝えています。  また、上司・シニア双方が参加するワークショップも実施し、相互理解を深める場を設けており、シニア層から「会社からの期待や担当領域が明確になり、働きやすい」といった好意的な声が多く寄せられています。 仕事と介護の両立支援制度の充実  シニア期に向けた準備として、57〜58歳ごろに研修を実施しているほか、研修の1年後にフォローアップ面談を行い、60歳以降のキャリアの希望を確認しています。  また、50歳以降を対象としたアンケートを実施し、今後のキャリアに加え、健康状態や介護などの家庭事情(本人の同意の範囲で)も把握しています。最適な働き方を人事部とともに考える体制を整え、シニアジョブ認定後も定期的な1対1の面談を通じてフォローを継続します。  シニア活躍の鍵となるのが「仕事と介護の両立支援」です。育児とは異なり、介護は終わりが見えにくく、精神的・時間的負荷が大きいためです。当社における具体的な支援策として、初めて介護に直面する社員向けハンドブックの配付、介護施設の選び方や公的支援制度の説明会開催、介護を抱える社員同士のコミュニティ形成などを行い、情報共有と不安解消の場を提供しています。  また、上司・周囲の理解促進も重要です。管理職向け研修で「介護を抱える部下への配慮」を啓発するとともに、2026年度からは介護休業取得者の周囲のメンバーに対し「お礼金」を支給する制度を導入予定です。周囲への気兼ねを減らし、心身ともに疲弊することなく働き続けられる環境を目ざしています。制度はつくるだけでなく、運用に魂を入れることが重要です。人事制度を整備したうえで、それをしっかりと運用していくことが、われわれ人事部の使命だと考えています。  現場におけるシニアへのニーズは非常に高まっており、例えばシステム分野では、旧来のプログラム言語で構築されたシステムの保守など、若手にはないシニアのスキルが不可欠な場面が多々あります。また、複雑な金融商品の設計や、長期にわたる顧客との信頼関係が求められる業務においても、シニアの経験値はほかに代えがたいものがあります。  今後も制度の実効性を高め、シニア社員が活き活きと活躍できる環境づくりを推進してまいります。本日はご清聴ありがとうございました。 ★「令和7年度 生涯現役社会の実現に向けたシンポジウム」事例発表(三菱UFJ信託銀行株式会社)は、JEEDのYouTube公式チャンネルでアーカイブ配信しています。こちらから、ご覧いただけます。 https://www.youtube.com/watch?v=tdQ6ilOt4Cw 【P15-16】 2025年10月24日開催 事例発表A 令和7年度 生涯現役社会の実現に向けたシンポジウム 「シニア社員を活性化するための人材マネジメント」 ミドル・シニア向けキャリア自立支援について ライオン株式会社 人事部 青木(あおき)陽奈(あきな) ライオン流働きがい改革  本日は、ライオン株式会社におけるミドル・シニア向けキャリア自立支援についてお話しします。ライオン株式会社は1891(明治24)年に創業し、2025(令和7)年で134年を迎えた日用品・化粧品メーカーです。従業員数はグループ連結で約7600人、国内外に展開しています。歯磨きや洗剤など、みなさまの生活に身近な製品を通じて「より良い習慣づくりで、人々の毎日に貢献する」ことを使命としています。  当社では「ライオン流働きがい改革」を推進しています。この改革の最大のポイントは、「働きがいの向上=個人の成長を起点にした組織力の向上」ととらえている点です。  従来の管理志向から脱却し、従業員一人ひとりの意思、意欲、能力の最大化を促進するため、人事制度や育成体系を全方位的に見直しました。具体的には、テレワークやフルフレックス制度など、働き方の柔軟性を大幅に高めてきました。本日は、そのなかでも特にミドル・シニアのキャリア自立支援につながる三つの主要施策、「関係性向上プログラム」、「副業制度」、「キャリアデザインサポート」についてご紹介します。  一つめの施策は、管理職育成としての「関係性向上プログラム」です。組織の成長には、本音で対話できる心理的安全性の高い関係性が不可欠だと考え導入しました。  このプログラムは、3年間で全管理職540人を対象に、6カ月間の長期研修として実施しました。特徴は、単なる知識習得ではなく「自分史」の作成から始まる点です。自身の価値観や原体験をふり返り、それを受講生同士や部下に対してオープンに語ることで、自己開示を進め、自分らしいリーダーシップを模索してもらいました。  効果として、若手部下とのコミュニケーションスコアや心理的安全性スコアの向上が確認されました。また、受講した管理職の8割強が満足しており、孤独になりがちな管理職同士が共通の悩みを共有し、横のネットワークを構築できたことも大きな成果でした。 副業制度の導入  二つめの施策は「副業制度」です。導入の主目的はあくまで人材開発にあります。社員が副業を通じて自身の新たな可能性を知り、社外からよい刺激を受け、それを自社業務にポジティブに還元することを期待しています。  当社は離職率が低く、一社経験の長い従業員が多いのが特徴です。そのため経営陣としても「外を知ること」を推進したいという意向があり、副業制度を前向きに導入しました。以前は原則禁止でしたが、現在は申告制で認めており、健康管理や労働時間に関するルールを整備したうえで運用しています。  特徴的な取組みとして、内閣府のプロフェッショナル人材事業と連携した「地方副業案件の紹介」を行っています。各地のプロフェッショナル人材戦略拠点から地方企業の副業案件を紹介していただき、当社が副業を希望する人材とマッチングを支援する仕組みです。初めて副業に挑戦する社員にとって、会社が機会を提供することでハードルを下げる効果があります。  この制度はミドル・シニア層にも積極的に活用されており、実際に経験した社員からは、「最初の一歩がむずかしいので、会社が機会をつくってくれてありがたい」、「自分のスキルが、社外でも役に立つことがわかり、大きな自信になった」といった声があがっています。このように、社外での経験が自信となり、新たなキャリア展望につながっています。 キャリアデザインサポート  三つめの施策は「キャリアデザインサポート」です。当社では、年代ごとのキャリアテーマに即した年代別キャリアデザインセミナーの展開と、全年代向けに通年でいつでも個別にキャリア相談を受けられる体制を整えています。  まず、50歳の社員を対象とした必須研修「ライフイノベーションセミナー」を実施しています。人生後半のライフプランに向けて、キャリア、健康、資産形成について学ぶ機会を提供しています。この3点セットで、包括的に人生後半を考える機会となっています。  さらに希望者には「年代別キャリアデザインセミナー」を用意し、キャリアの棚卸しや強みの再整理を行うワークショップを実施しています。参加者からは「会社の外でどの程度役に立つのか不安だったが、知らないうちにポータブルスキルが身についていることを知ることができてよかった」、「同年代と価値観を自己開示しながらやりとりできたことがよかった」といった声をいただいています。特にグループでのシェアリングが好評です。  また、より気軽な場として「蔵前(くらまえ)おとな未来カフェ」という取組みも展開しています。40代から60代を中心に、少人数でざっくばらんに語り合う場です。テーマはマネープランやキャリアの悩み、趣味などさまざまです。ときには定年後再雇用の先輩社員にも参加していただき、当時の心境などをフランクに語ってもらうことで、「定年後の再雇用に対するモヤモヤが晴れた」といった心理的なハードルを下げる場となっています。  人生100年時代におけるキャリアのマルチステージ化を見すえ、今後のキャリアをどう歩むかの起点は「自己理解」にあります。しかし、それは一人だけで完結するものではありません。  会社としては、上司とミドル・シニア本人が二人三脚で歩めるよう支援していく必要があります。上司が組織の方向性を伝えつつ、本人の可能性について対話できる関係性が重要です。  そして何より、ご本人の自律が大前提です。キャリアについて、複数の選択肢のなかから自分で決めたという感覚を持つことが、その後の前向きな業務姿勢につながります。私たちは、そうした自律的なキャリア形成を後押しできる施策を、今後も継続して展開してまいりたいと思います。 ★「令和7年度 生涯現役社会の実現に向けたシンポジウム」事例発表(ライオン株式会社)は、JEEDのYouTube公式チャンネルでアーカイブ配信しています。こちらから、ご覧いただけます。 https://www.youtube.com/watch?v=NKfKXqDSKSs 【P17-22】 2025年10月24日開催 パネルディスカッション 令和7年度 生涯現役社会の実現に向けたシンポジウム 「シニア社員を活性化するための人材マネジメント」 「キャリアのマルチステージ化への支援−ミドル・シニア期も含めたキャリア再設計を支える制度と実践を共有する」 コーディネーター 立教大学大学院ビジネスデザイン研究科 特任教授・日本人材マネジメント協会理事長 山ア京子氏 パネリスト 釧路公立大学 准教授 岸田泰則氏 三菱UFJ信託銀行株式会社 執行役員人事部長 中村剛雄氏 ライオン株式会社 人事部 青木陽奈氏 シニア期出口を見すえた長期キャリア設計 山ア パネルディスカッションの最初のテーマは「キャリアのマルチステージ化への対応」です。シニア期が長期化するなか(55歳から70歳までの約15年間)、シニア社員の人材マネジメントはこれまでの「福祉的雇用」ではなく、より戦略的な人材戦略として位置づけていく必要があります。三菱UFJ信託銀行株式会社の仕事と介護の両立支援や、ライオン株式会社のキャリアデザインサポート、副業といった制度は、そういった戦略性を意識しての設計ではないかと思いますが、詳しく説明していただけますか。 中村 シニアの方は介護や健康面への配慮が必要です。両立支援が一番の肝だと考えています。最終ステージで輝いていただき「ご卒業いただく」形を会社として支援していきたいです。 青木 55歳や60歳で初めて「これからのキャリアをどうしたい?」といわれても描きづらいものです。40代など早い段階からキャリアを考える機会や副業で経験を試し、60歳を迎えるときには選択肢が増えている状態をつくりたいと思っています。 山ア 出口戦略は、その後のキャリアや会社のブランディングにもつながります。入口と出口を両方見ていく人事の考え方が重要ですね。 個別化と公平性が両立するジョブ型設計 山ア 次のテーマは「配置、処遇、働き方の個別化」です。研究では、シニアの方々は経験が豊富なため個別化が進んでおり、一人ひとりの希望に合わせた柔軟な制度設計が必要だといわれています。一方で、個別化は「特別扱い」ととらえられる懸念もあります。西欧においては本人のパフォーマンスや志向性に合わせたものが公平であるという考え方ですが、日本の場合は「分配的公平」といわれるように、だれにも同じように分配することが公平であるという価値観があるため、不公平感への懸念があります。三菱UFJ信託銀行の「キャリアパス・シニアジョブコース」では対話を重視していますが、不公平感が出ないようにどんな工夫をされていますか。 中村 山ア先生がおっしゃるように、まさに特別感を出すための制度であることは事実で、当初はシニアジョブではない社員のモチベーションが下がるのではという懸念もありましたが、逆にシニアジョブの方が輝いている姿を見て「自分も目ざしたい」という声が多く、うれしい誤算でした。  一方でシニアジョブは求められる業務の質が高く責任も大きいので、「自己選択」がベースになります。介護や健康などの事情がある社員のためのメンバーシップ型も併存させているので、週3〜4日勤務や在宅勤務も含め、自身で選びつつ会社からも選ばれる関係性を築いていきたいと考えています。 山ア ライオンでは、この特別扱いや個別化といったことについて、どのような取組みを行っているのですか。 青木 当社は2023(令和5)年に職務役割型の人事制度に移行し、それにともない2024年に再雇用制度の見直しを行いました。等級区分を一本化し、その年の成果で昇給や賞与が決まる仕組みです。「年齢や年次に拠らない」が人事制度全体のコンセプトの一つなので、段階的に改定を進めています。 山ア 一つだけ何か施策を入れるということではなくて、大事なコンセプトに基づいて前の施策と連動させていくことが大事なのですね。岸田先生は、こうした取組みについてどのようにお考えでしょうか。 岸田 「年功や年次に拠らない」視点はとても大切です。年功に拠るとエイジズムにつながりかねません。中村さんがおっしゃった「自己選択」も同様に大切です。がんや介護など人それぞれ事情があります。自己選択できる制度は、画一的ではなくなってきている社会に即していると思います。 山ア いまのお話のように、本人のパフォーマンスやキャリア志向性に合わせるとなると、どうしても「ジョブ型」になっていくのでしょうか。最近はジョブ型の話題が盛り上がっていますが、ジョブ型が広がった背景としてはグローバル化などの説明がなされています。一方で、シニアの方の輝ける職場開発を考えていくと、結果的にジョブ型に近づいていくのか、という点についておうかがいしたいのですが。 中村 シニアの方はジョブ型に寄っていったほうがよいと思います。専門性を発揮しやすいですし、人事異動の心配がなく最後まで決めてしまうほうが、納得感があって腰を据えやすいのではないでしょうか。若いうちは可能性を広げていき、中堅で決めていく形で併存させています。 青木 職務型か役割型かは、現時点では正確な答えを持っていません。2023年に管理職を対象に二つのラダー(キャリアの段階や成長の道筋)を用意したのですが、その管理職が定年後再雇用になった際、役割型が適しているのか、職務を固定して決まった仕事をお任せしたほうがよいのかは、今後の検討課題だと思っています。 山ア もしジョブ型、あるいはそれに近い制度運用になってきたとすると、特に先ほどのお話のように、キャリア後半でいわゆる出口戦略として輝くことが、本人にとっても自分にフィットした仕事を選んでいくことが大事になります。専門用語で「P-Jフィット(Person-Job Fit)」といういい方をしますが、これは若者の採用のときによく使われる概念ですが、個別化したシニアこそ、このP-Jフィットという概念が大事なのだと思います。 キャリア自律を支える対話の仕組みづくり 山ア 次の課題は「価値観を自覚し、表現できる場づくり」です。P-Jフィットには、自分は何ができ、何をしたいのか、強みを自覚し選択していくための対話が不可欠であることが、2社の事例からもうかがえます。  一方で、本人に明確なキャリア意識があっても、ポジションをすべて個別に用意できないという組織側の制約があります。この制約と個人のキャリア志向をどのように橋渡ししているのか、その苦労についてお聞かせください。 中村 シニアの定年前に細かく面談をすると、60歳手前で「本来いた、元の部門に戻りたい」と希望する方もいらっしゃいます。例えば不動産業務をずっと経験された方が、いまは個人向けの別業務をしていて、そこで定年後再雇用でジョブ型になっていくよりは、自分のキャリアのハイライトになっている業務に戻りたい、といった例です。ポストの兼ね合いで、人事異動を即座に行うことはむずかしいので、60歳で定年を迎える2年ほど前から、対象者全員に対し人事部で面談を行い希望を確認しています。こうすることで、人事異動に希望を反映させやすくなります。面談はまず人事部が個別面談を行い、そのうえで上司との面談を実施しています。上司としては「自部署に残ってほしい」という思いがある一方で、本人は「別の部署に戻りたい」と考えているケースもあります。そのため、人事部が客観的な立場で話を聞き、調整役をになっています。  実施時期についても、あまり早すぎると本人が自分ごととしてとらえにくく、「まだ先の話」となってしまいますし、定年直前では運営上の調整がむずかしくなります。その点から、1〜2年前がもっとも適切なタイミングだと考えています。 山ア ライオンではコミュニケーションを密にとることをプログラムに組み込んでいらっしゃるようですね。「関係性向上プログラム」などはどのように運営されているのですか。 青木 関係性向上プログラム運営中は、受講された管理職の方にバディとなる人を立てていただいて、その方と対話をくり広げるというプログラム構成にしていました。  また、全社的な取組みとして「キャリア設計シート」を用いて、年に1回キャリアの自己申告をして、そのシートをベースに自身の上長とキャリア面談を行う仕組みがあります。定年後再雇用を希望するかどうかは、そのキャリア設計シートを使って55歳時点でヒアリングをしています。このキャリア設計シートには、将来希望する部署だけではなく、自分が仕事で大事にしている価値観や、退職後の暮らしも含めてどんなことをやってみたいかを記載する場所を設けています。そして、仕事経験で工夫したことやコンピテンシーも測っているので、その人の強みをデータ的にも定量的に転記いただく箇所があります。  そういった自身の将来の希望の背景に一体どんな思いがあるのかということも、こちらのシートを見ながら面談することで、相互理解が進むような仕組みにしており、定年後再雇用でその方にどのような仕事を任せるのか、上長が判断する際の一つの材料にしてもらっています。 山ア 何十年もキャリア設計シートに取り組んできているので、自分の価値観ややりたい仕事については、シニア期以前から習慣的に考えられているということですね。 青木 シート自体は以前からあるのですが、2023年に一部内容を見直し、価値観のところから書いていただくような仕様にしています。どう書けばよいか戸惑う方もいるので、セミナーなどを試験的に実施したり、キャリア設計シートを書く時期の前に個別相談会などの取組みも実施しています。  また、キャリアなどについて、よりカジュアルに話せる場として、「蔵前おとな未来カフェ」といった取組みも行っています。 山ア 先ほどジョブ型の話も出ましたが、こういったメンバーシップ型のよさがしっかり活かされていることが、両社の離職率の低さにもつながっているのかなと思えます。岸田先生は、こうした取組みについてどう思いますか。 岸田 両社とも、とても先進的な取組みだと感じました。キャリアを考える機会を「仕組み」として用意している点が特に重要だと思います。つねに考え続けるのはたいへんですが、イベントなどの節目で立ち止まって考える時間があることは大きな意味があります。これは、山ア先生が示されている「価値観を自覚し、表現できる場づくり」そのものです。最近よくいわれる「キャリア自律」も、言葉だけでなく、実際に支える仕組みや支援があってこそ成り立つものだと思います。  さらにいえば、マネージャーの育成も欠かせません。上司がメンバーと向き合う姿勢やスキルを高め、関心を持ち、リスペクトする。そうした関係性がある職場こそ、働く人にとって幸せな環境だと感じました。 個人と組織の成長を同期させる人事戦略 山ア では最後のテーマです。「健康・幸福・生産性のバランス」についてうかがいたいのですが、サスティナブル・キャリアでは、健康や幸福に加えて「生産性」を重視している点が特徴で、ここには組織の視点が入っています。三菱UFJ信託銀行では、個人のキャリアだけでなく、事業のニーズとのマッチングを意識されている点が印象的なのですが、このあたりをもう少し教えていただけますか。 中村 人事戦略と事業戦略をどう同期させるか、という点を起点に制度設計を行ってきました。生産性を高めていくためには、必要なポストや業務に最適な人が就くことが、会社にとっても社員にとっても一番自然な状態だと考えています。同時に、会社の生産性だけではなく個人の生産性も重要です。やりたいこととミッションが合い、役割が明確な業務に取り組むほうが、生産性は高まりますし、その結果、ライフの充実にもつながると思っています。 山ア ライオンでは個人能力の向上が組織力の向上につながる、というお話をされていましたが、あらためてお聞かせいただけますか。 青木 当社では、個人の成長をいかに組織の力につなげるかという視点で、「働きがい改革」に取り組んでいます。その土台となる健康については、お口の健康は社員に徹底してもらっていますし、ラインケアなども通じて、従業員がよいコンディションで働ける環境づくりを重視しています。また、ウェルビーイングの観点では、時間や場所、業務特性に応じて働き方を選べることが重要です。こうした選択肢が、働きがいの向上や生産性の向上につながると考えています。 山ア 岸田先生は、企業で管理職を経験された後、現在は研究者として活動されています。会社と個人、両方の視点から、今回のテーマである費用対効果、そして健康・幸福・生産性のバランスについて、どうお考えでしょうか。 岸田 社員時代は自由にやらせてもらっていたので、正直にいうと当時はコストをあまり意識していませんでした。ただ、今日「費用対効果」という言葉が前面に出たことで、あらためて考えさせられました。現在、大学ではサブスクリプション経営学を教えていますが、サブスク企業はLTV(Life Time Value)、つまり顧客の生涯価値を見すえて、初期に大きなコストをかけます。そう考えると、人事施策でも、効果を完全に数値化できなくても、どんな価値が生まれるのかをイメージできることが重要だと思います。本日お話を聞いていて、人事施策においても価値や効果が見えることが大事だということを教わりました。 山ア 企業として人事施策を進める以上、一定のリターンが見えなければ、意思決定はむずかしくなります。組織にとって、あるいは社員にとってだけではなくて、もう少し社会にとって何がよいのかといったところまで視野を広げて、費用対効果といったものを設計していく視点も必要でしょうね。その点を、今日のお話からあらためて確認できたと感じています。 共感を起点にした組織と個人の橋渡し 山ア 最後に、今日を通して新たに得られたことや、視聴くださっている方々に伝えたいことをお聞かせいただけますか。 中村 当社でもさまざまなことを考えながら取組みを進めてきたわけですが、本日、山ア先生や岸田先生、ライオンさんのお話をうかがって、「やってきたことは間違っていなかった」とほっとしました。導入を迷っているとか、検討しているけど進まない企業の方には、「まずやってみる」ことをおすすめしたいですね。実際にやってみるとそれほど間違ったことにならないと思います。人事施策は効果が見えにくく、数値化もしづらいので、裏づけがないとなかなか始められないところは、経営面としてあると思います。ただ、「こうしたほうが社員のためになる」という熱い意思があるなら、一歩踏み出し、まず導入してほしいと思います。人的資本経営の改革は、日本の人材が減っていくなかでは待ったなしです。やるべきだと思ったらどんどん導入したほうがいいと思います。 青木 やはりミドル・シニア世代の方は、メンバーシップ型で雇用されてからいろいろと変化に富む会社人生を歩んでこられたと思います。そこでいきなり「自律」といわれても、なかなか受けとりにくい部分がたくさんあると感じています。だからこそ、自律を押しつけてはいけないのだと思います。人事としては、社員に選択肢・機会を提供することが大事だと思っています。何を選ぶか、いつ活動に参加するかは、あくまで自己選択でよいのではないでしょうか。一方で、その施策が本当に的を射ているのか、費用対効果の部分、そしてどの層に響く施策を用意するのかは、より科学的に考えていきたいと思います。こういった点で本日は多くの学びをいただきました。 岸田 ジョブ型やメンバーシップ型の話を聞きながら、私自身いろいろ考えさせられました。学生と話をしていると、メンバーシップ型や新卒一括採用を支持する声はいまも多いです。若者は、自分の将来にシニアの姿を重ね合わせて見ています。日本は高齢化が進んだ国だからこそ、ここで行われる施策や実践は、世界的にも大きな示唆を持ちます。研究者として、その動きをしっかり見ていきたいと思いました。 山ア 私なりに、最後に少し感想を述べさせていただきます。これまで私が問題提起してきたのは、日本型雇用システムが、リンダ・グラットンのいうマルチステージ化に十分対応できていないのではないか、という点でした。ただし、だからといって100%ジョブ型にすればよい、という話でもないと思っています。今回ご登壇いただいた三菱UFJ信託銀行、ライオンの両社には共通するキーワードがあると感じました。それが「共感」です。  シニア期に入ると、両立支援の問題も含め、「急に自律といわれてもむずかしい」という現実があります。その点を人事部がきちんと理解していることが、非常に重要だと思います。人事は、理論や他社事例を学ぼうと思えばいくらでも学べますし、「まずはやってみる」という選択も否定されるものではありません。一方で、その施策を推進する立場の人が、会社の事情とシニア本人のキャリアの双方に心から共感し、どうすればウィンウィンの関係をつくれるのかを真剣に考えているかどうか。ここが、すべての前提となるオペレーションだと思います。  そうした土台があってこそ、プログラムは「魂のこもったもの」として機能し始めます。理念や思いがないまま、他社の施策を形だけ導入しても、うまくはいきません。実際にそれを動かしていくのは人事部だけでなく、共感した現場のマネージャーやシニア本人だからです。結局のところ、人の心を動かすのは、人事部の「想い」なのだと思います。ご視聴のみなさまも、そうした想いを持ってこのシンポジウムに参加されているのではないでしょうか。  形はそれぞれ違っても、組織と個人の双方にとってよりよい社会をつくっていく。その媒介となるのが「キャリア」という概念であることを、ぜひ心に留めていただければと思います。そして来年度は、ぜひみなさま自身が登壇者としてこの場に立っていただけることを願っています。本日はありがとうございました。 ★「令和7年度 生涯現役社会の実現に向けたシンポジウム」パネルディスカッションは、JEED のYouTube 公式チャンネルでアーカイブ配信しています。こちらから、ご覧いただけます。 https://www.youtube.com/watch?v=OROWq1Pd65w 写真のキャプション 立教大学大学院ビジネスデザイン研究科 特任教授 日本人材マネジメント協会理事長 山ア京子氏 釧路公立大学 准教授 岸田泰則氏 三菱UFJ 信託銀行株式会社 執行役員人事部長 中村剛雄氏 ライオン株式会社 人事部 青木陽奈氏 【P23】 立川(たてかわ)談慶(だんけい)の人生100年時代の歩き方 第2回 本当の優しさとは?  優(やさ)しさって何でしょう?  「人を憂(うれ)う」と書いて優しさと読みますが、「優(すぐ)れる」とも読めます。「優しい人は優れている」、「優しい人が勝つから優勝」なんて、とても奥が深いような感じがしませんでしょうか?  「優しさ」という言葉を考えているうちに、「動物園」という落語が浮かんできました。あらすじは……「楽して儲けたい」、「しゃかりきに働きたくない」という若者が、「昼間ゴロゴロ寝ていて、たまにぶらぶら歩くだけで、月百万の仕事がある」といわれ、喜んで行ってみるとそこは「移動動物園」でした。「目玉動物として、白いライオンを見せる予定でいたのが、死んでしまった。その亡骸からぬいぐるみをつくったので、そこに入ってもらいたい。動物は基本夜行性だから、昼は寝ていていい」といわれ、若者は喜んで引き受けます。  寝たり起きたり、たまに見に来た子どもをからかいながら、最終日を迎えました。  「こんなんでカネがもらえるなんていい商売だな」と思っていたら、いきなりファンファーレが鳴り響き、楽隊が現れました。司会者は「今日は最終日です。特別企画として『白いライオン対黒い虎』の世紀の対決をご覧いただきます!」といって、白いライオンの檻に黒い虎の入った檻がガチャンとくっつけられます。  若者は青ざめ、「聞いてないよ!!どうりでいいバイトのはずだった。最終日にこんなことになるなんて。俺の人生もこれまでだ」。もはやこれまでとブルブル震えていたところに黒い虎がのしかかりました。念仏を唱える若者の耳元で、黒い虎が「心配するな。俺も月百万で頼まれた」。  上方経由の新作落語ですが、私はこのオチの「心配するな、俺も百万で頼まれた」というのにこのうえない優しさを感じるのです。  逆の立場で考えてみますと、自分が窮地に陥った場合、「心配しなくても大丈夫ですよ、私も同じ立場です」といわれたら最高の安心感が訪れるはずではないでしょうか。  長男が受験の時でした。第一志望の学校に落ちたのですが、「心配ないよ、パパも落ちたよ。もっというとパパは浪人のような前座修業を9年半も続けたんだよ」といった際の彼の安心した表情は忘れることができません。それは同時に、あの前座時代に流した涙がじつはこの日のためにあったのだと、あらためて悟った瞬間でもありました。  あの日あの時流した涙は、無駄ではありませんでした。  そんな優しさ、持ち続けたいものです。「動物園」、聞いてみてください。 【P24-25】 特別企画 「産業別高齢者雇用推進ガイドライン」のご紹介  高齢者雇用を進めるためのポイントは、業種や業態によって違いがあります。そこで当機構(JEED)では、産業別団体内に推進委員会を設置し、高齢者雇用に関する実態を把握するとともに、解決すべき課題などを検討して、高齢者雇用を推進するために必要な留意点や好事例を「ガイドライン」として取りまとめています。  わが国では急速な高齢化が進むなか、中長期的に労働力人口の減少が見込まれ、高齢者が社会の支え手として意欲と能力のあるかぎり活躍し続ける「生涯現役社会」の実現が求められています。  2021(令和3)年4月1日から改正高年齢者雇用安定法が施行され、各企業には70歳までの就業確保措置を講ずる努力義務が設けられました。高齢者が長年つちかった能力を十分発揮しながら満足感を得て働き続けるためには、賃金・処遇、能力開発、健康・安全対策などの仕組みづくりがますます重要となります。  しかしながら、産業ごとに労働力の高齢化の状況や置かれている経営環境、職務内容、賃金制度、雇用形態などには差異があります。このため、高齢者の就業機会の確保を図るには産業ごとに必要な諸条件を検討する必要があることから、JEEDでは「産業別高齢者雇用推進事業」により産業別団体の取組みを支援しています。 「産業別高齢者雇用推進事業」とは  「産業別高齢者雇用推進事業」は、産業別団体が高齢者の雇用推進のために解決すべき課題について検討し、その結果をもとに高齢者雇用推進にあたっての方策・提言からなる「産業別高齢者雇用推進ガイドライン」(以下、「ガイドライン」)を策定し、これを用いて会員企業に普及・啓発することで、高齢者雇用をいっそう効果的に推進することを目的としたものです。  この事業では、毎年1月に高齢者雇用の推進に取り組もうとする全国規模の産業別団体を公募しており、本事業の目的に合致した産業別団体を複数選定し、JEEDと契約(2年以内の委託事業)を締結しています。現在までに建設、製造、情報通信、運輸、サービスなど、多岐にわたる産業のなかで、103業種がこの事業に取り組んでいます。 JEED 委託 産業別団体 「ガイドライン」の策定/普及・啓発 ○○○業高齢者雇用ガイドライン 会員企業 改善 高齢者の活用・戦力化 ガイドラインの策定  ガイドライン策定への具体的な流れは、産業別団体内に、大学教授などの学識経験者を座長として、団体に所属する会員企業の経営者や人事担当者などで構成される高齢者雇用推進委員会(以下、「委員会」)を設置し、各年度4回程度委員会を開催します。  初年度の委員会では、その産業における高齢者雇用の実態把握を行います。高齢者雇用における課題は何かを検討し、あげられた課題をより明確に把握するため、会員企業へのアンケート調査や先進的な企業へのヒアリング調査を実施します。2年度目は、初年度の調査結果で浮き彫りとなった課題とその解決策を整理し、ガイドラインを策定します。  なお、ガイドラインでは、以下の点をおもな課題として取り上げています。いずれを重視するかは産業ごとに異なり、各産業の実態をふまえた実践的な一冊に仕上げています。 ・制度面に関する改善 ・能力開発に関する改善 ・新職場・職務の創出 ・健康管理・安全衛生 ・作業施設等の改善 ・定年前の準備支援  ガイドラインは高齢者雇用に対する理解を深め、活用してもらえるよう会員企業に配付します。  さらに、普及・啓発活動として会員企業に対し高齢者雇用推進セミナーを開催することで、ガイドラインをより効果的に活用できるようにするとともに企業への浸透をうながしています。  実際にガイドラインを読んだ会員企業へのアンケート調査結果では、9割ほどの会員企業から「ガイドラインは役に立った」または「役に立ちそうだ」との回答があり、「業界における高齢者雇用の動向を知ることができた」、「高齢者雇用の課題や解決方法がわかった」など、好評をいただいています。 業種を超えたガイドラインの活用  JEEDホームページでは、これまでに策定したガイドラインをはじめ、高齢者を雇用するうえで実際に役立つワークシートやチェックリストなどの各種ツールを公開しています。ガイドラインは業種や時代による変化があったとしても、共通して参考となる点も多くありますので、ぜひご覧いただき高齢者雇用の取組みにお役立てください。  次ページより、2025年度に策定した四つのガイドラインを紹介します。 産業別 高齢者 ガイドライン 検索 産業別高齢者雇用推進ガイドライン一覧 (2022〜2024年度に策定したガイドライン) 建設業 とび・土工工事業 高齢者がバトンをつなぐ未来のガイドライン〜人生100年時代!活躍の場・生きがいを求めて!〜(2022年) 機械土工工事業における高齢者活用推進のためのガイドブック〜高齢従業員の活躍と若手従業員の定着に向けて〜(2022年) 建設業基礎工事における高齢技能労働者の活躍ガイドライン(2022年) 製造業 鉄リサイクル業〜その経験、活かせます!ベテランの活躍が鉄リサイクル業の未来を拓く〜(2022年) 歯車製造業 高齢者の活躍に向けたガイドライン〜シニアの技を次世代にバトンタッチ、皆が活躍できる職場作り〜(2022年) 2024年版 鞄産業における高齢者雇用推進ガイドブック(2024年) ダイカスト業 高齢者の活躍に向けたガイドライン〜高齢者とともに、働きやすい職場づくり〜(2024年) 計量計測機器製造業 高齢者の活躍に向けたガイドライン〜はたらくすべての人々のウェルビーイング実現のために〜(2024年) 情報通信業 組込みシステム業 高齢者雇用推進の手引き(2023年) IT検証サービスにおけるシニア人材活用についてのガイドライン(2024年) 運輸業 倉庫業 高齢者の活躍に向けたガイドライン〜シニア人材の強みを生かす〜(2023年) 医療、福祉 高齢者も働きやすい介護事業所に向けて〜在宅介護サービス業高齢者雇用の手引き〜(2023年) サービス業(他に分類されないもの) 食品リサイクル業 高齢者の活躍に向けたガイドライン(2022年) 職業紹介業における高齢者雇用推進ガイドライン(2023年) 警備業 高齢者の活躍に向けたガイドライン〜社会の安全・安心を支えるため、高齢者の活躍に向けて〜(2023年) ※( )内の数字はガイドライン策定年度を表します 【P26】 産業別高齢者雇用推進ガイドライン1 コールセンター業界におけるシニア人材の雇用・活躍推進のためのガイドライン 〜人生100年時代のキャリアこれからも/これからはコールセンターで活躍〜  コールセンターは、生活者・お客さまからの注文受付けや疑問の解決、不安の解消など、顧客と事業者をつなぐ窓口としての機能に加え、顧客の声を商品・サービスの開発や改善に活かし、企業の信頼やブランドイメージ向上につなげるなど、経営戦略をになう役割が求められている。そんななか、労働力人口の減少により、コールセンターの人材確保はいっそう困難になると見込まれるため、「多様な人材が心身ともに健康的に活躍できる環境の整備」を軸に、2024(令和6)年度からシニアの雇用・活躍推進に取り組んできた。  コールセンターで長年勤務し定年を迎えた方が継続して働き、未経験のシニアが新たな就業先として挑戦し、活躍できる点に言及していることが本ガイドラインの特長となっている。  「T.コールセンター業におけるシニアの活躍に向けた考え方」では、コールセンター業において、さらなるシニアの活躍が求められる背景や考え方などを整理している。  「U.コールセンター業におけるシニアの活躍を推進するための指針」では、シニアの活躍を推進するための具体的な指針として、「しくみづくり」、「テクノロジー活用」、「柔軟な働き方」、「処遇の工夫」、「次世代育成」、「社会貢献」の六つを提示している。  しくみづくりでは、一人ひとりに合ったキャリアの提供の重要性を説き、テクノロジーの活用ではソフトウエアや入力補助、FAQやレポーティングといった業務支援に最新技術を導入してシニアをサポートし、強みを最大限に引き出す考え方を示している。そのほか、短時間勤務や在宅オペレーションなどライフスタイルに即した柔軟な働き方の重要性の強調、処遇の面では貢献度に応じた適切な処遇の推奨、メンターやロールモデルとして次世代育成をになうことの期待など、コールセンター業界が先導してきたシニア活用のノウハウが他業界の指針となり社会への貢献につながっていることを示している。  V・W章では、協会会員企業や従業員へのアンケート調査、ヒアリング調査の結果を通じて、シニア雇用の現状や評価、課題を多角的に紹介している。未経験のシニアであっても、研修やサポート体制を整えることで十分に活躍できること、またシニアが若手の相談役やメンターとして組織によい影響を与えている実態が明らかにされている。  さらにシニアが働きやすい職場づくりが、結果として子育て世代や若年層を含む全従業員の働きやすさ向上につながるという視点を提示している。  巻末の参考資料では、70歳までの就業機会確保措置に関する法制度や助成金情報など、実務に役立つ情報が整理されている。コールセンター業界が今後も社会的役割を果たし続けるためには、シニアという熟練人材と最新テクノロジーを融合させ、世代を超えた協働を実現していくことが重要である。本ガイドラインは、そのための実践的な指針として、今後の業界運営に大きな示唆を与えるものとなっている。 一般社団法人 日本コンタクトセンター協会 住所 〒101―0042 東京都千代田区神田東松下町35 アキヤマビルディング2 4階 TEL 03―5289―8891 HP https://ccaj.or.jp 【P27】 産業別高齢者雇用推進ガイドライン2 ハイヤー・タクシー業における高齢者雇用推進に向けたガイドライン  全国的な少子高齢化の進行により、ハイヤー・タクシー業界においても人手不足は深刻な課題となっている。タクシー運転者の平均年齢は60歳を超え、地域によっては高齢者が運転者の半数以上を占めるなど、高齢人材が業界を支える中核となっている。一方で、高齢者の就業意欲は依然として高く、健康や能力に応じて長く働き続けたいというニーズも明確である。  こうした状況をふまえて策定した本ガイドラインは、2020(令和2)年策定の旧版をもとに、70歳までの就業機会確保の努力義務化やコロナ禍後の環境変化を反映して改訂されたもので、高齢者が安全かつ意欲的に働き続けられる環境づくりを目的としている。  第1章「高齢者雇用に関するハイヤー・タクシー業を取り巻く環境」では、人口構造の変化や労働市場の現状を整理している。  第2章「ハイヤー・タクシー業における課題と指針」では、現状をふまえて業界特有の課題を見渡したうえで、既存人材の流出防止として先進企業の取組みや労働者が会社を退職するおもな理由などについて、図表を交えて紹介している。  新規採用に向けては、若年者を中心とした採用の重要性に触れつつも、地方都市における新規採用のむずかしさをふまえ、地域に根ざした生活基盤を持つ高齢者の存在が、安定した雇用につながる強みになると位置づけ、他産業を定年退職した未経験の高齢者をターゲットとする積極的な採用の重要性を示している。  一方、65歳以上のドライバーを継続雇用する際、多くの企業が健康上の不安、交通事故の発生の不安があると回答した調査結果を示し、各社における高齢ドライバーの健康管理の確認方法、健康診断の項目のほか、安全・健康管理への具体的な配慮について、交通事故防止に直結する検査項目を示すとともに、賃金や労働時間等の労働条件に関する柔軟な対応に関する取組みを提示している。また、国土交通省の補助金制度を活用した実務的な対応策も紹介されている。  第3章「人手不足を解消し、働ける環境にあり、働く意欲を有する高齢者が継続して働くことができるようにするために―まとめ―」では、人手不足解消と高齢者の継続就業に向け、業界全体での取組みの必要性を整理している。健康の維持・確保の必要性、検査・検診の費用負担の重要性などを示し、短時間勤務や兼業との組み合わせは、高齢者の就業意欲維持につながる制度として評価している。  さらに本ガイドラインは、2019年と2024年のアンケート結果を比較し、70歳以上のドライバー増加や、経営側と現場の意識差をデータで明らかにしている。参考資料編では、高年齢者雇用安定法の概要や助成金情報など、実務に役立つ情報も整理されている。  運転業務という高い安全責任をともなう職種において、本ガイドラインは具体性と実践性に富んだ内容となっており、業界の持続的な人材確保に資する指針といえる。 一般社団法人 全国ハイヤー・タクシー連合会 (ハイヤー・タクシー業高齢者雇用推進委員会) 住所 〒102―0074 東京都千代田区九段南4―8―13 自動車会館3階 TEL 03―3239―1531 HP https://taxi-japan.or.jp 【P28】 産業別高齢者雇用推進ガイドライン3 高齢人材が輝く 介護サービス業へ 〜ともに働き、ともに築く職場づくりに向けて〜  介護サービス業界では、人材不足が年々深刻化しており、今後さらに状況が逼迫していくことが予想されている。都市部を中心に介護サービスの需要が増加すると見込まれる一方で、人手不足への対応は大きな課題である。こうした状況において、高年齢者の活用を推進するヒントを示すことを目的に本ガイドラインは策定された。  高年齢者の雇用促進は、単なる人材確保にとどまらず、長年つちかわれた知識や経験を次世代へ引き継ぐ貴重な機会でもあり、介護サービス全体の質の向上にもつながると期待されている。しかし、介護現場にはさまざまな課題があることが指摘されており、高年齢者が長く働き続けられる環境が十分に整っていないケースも少なくない。  本ガイドラインは、現場の実態や課題、好事例をていねいに取り上げ、企業が実際に活用できる内容にまとめられている。  第T章「介護現場における高年齢者雇用の必要性と現状」では、全国約1000事業所への調査結果をもとに、高年齢者雇用の実態を整理している。8割以上の事業所が高年齢者を雇用していることや、65歳以上でも常勤職員として活躍している高年齢者が2割超いること、4割超の人が週5日以上働いていることなどを紹介。また、高年齢者が持つ経験を現場に活かすことが、サービスの質向上や若手育成につながる点も示されている。  第U章「高年齢者の確保・定着のためのポイント」では、介護サービス業における高年齢者の活用について四つの視点から整理している。  @「配慮と公平性」では、加齢にともなう身体的変化に配慮しつつも、特別扱いしない透明性の高いルールづくりが重要とされ、評価基準や制度を全世代共通とする考え方が示されている。  A「柔軟な働き方の導入」では、短時間勤務や勤務日数の調整など、健康状態や生活スタイルに合わせた柔軟な働き方の導入があげられている。また、再雇用・継続雇用制度の設計は内容と運用の透明性が安心して働き続けるための重要なポイントと指摘。個人の健康状態や生活状況に応じた多面的支援についても触れている。  B「業務の切り分けと適材適所の配置」では、高年齢者の身体的負担の程度をあらためて点検し、業務内容の調整や再構築の検討をうながしている。高年齢者の経験を活かせる役割を戦略的に設け、無理なく活躍できる環境整備を提案。チームによるフォロー体制も鍵になるとしている。  C「スタッフ間のコミュニケーション」では、雇用前後のオリエンテーション等の工夫、定期的な面談・相談体制の整備の取組みの重要性を示す。さらに多世代間におけるコミュニケーション促進を強調している。  資料編では、70歳までの就業確保措置に関する法制度や専門家による支援事業など、実務に役立つ情報が整理されている。  高年齢者の特性に合わせた環境整備は、結果として子育て・介護中の職員を含む全職員の働きやすさの向上に直結し、事業の持続可能性を高める大きなメリットをもたらすと示唆している。 一般社団法人『民間事業者の質を高める』 全国介護事業者協議会(民介協) 住所 〒101―0047 東京都千代田区内神田3―18―4 第一杉本ビル 202号室 TEL 03―5289―4381 HP https://minkaikyo.info 【P29】 産業別高齢者雇用推進ガイドライン4 指定自動車教習所業における高齢者雇用推進に向けたガイドライン 〜高齢教習指導員のさらなる活躍のために〜  指定自動車教習所業では、若年指導員の確保に加え、現在勤務している高齢の教習指導員が安心して活躍できる環境を整え、長年つちかってきた技術や経験を活かすことが不可欠となっている。継続雇用や定年延長に取り組む教習所もあるが、今後は業界全体として高齢指導員が活躍できる環境づくりをいっそう進めることが求められている。こうした背景のもと、指定自動車教習所における高齢の教習指導員の活躍のあり方について検討し、本ガイドラインが取りまとめられた。  「T.指定自動車教習所業における高齢の教習指導員の活躍に向けた考え方」では、高齢教習指導員の活躍が求められる背景と基本的な考え方が示されている。  「U.指定自動車教習所業における高齢の教習指導員の活躍に向けた指針」では、各教習所が高齢者の活躍を推進しながら競争力を高めるために取り組むべき課題や方向性を紹介している。高齢指導員の活躍を促進するための具体的な指針として、以下のようなキャリア提示、個別面談、健康管理、意欲向上、職場風土の五つの指針を整理している。  指針1「高齢期の働き方やキャリアのあり方の提示」では、年齢段階に応じた勤務形態や役割の目安を示し、将来の働き方を見通しやすくすることが重要とされている。  指針2「面談を通じた、高齢の教習指導員の個々の状況についての理解促進」では、健康状態や私生活の状況を把握し、業務内容や勤務時間に反映させる対話の重要性が示されている。  指針3「体力維持と健康管理の強化」では、事故防止の観点から、組織として日常的な支援体制を整える必要性が指摘されている。  指針4「高齢の教習指導員の働きやすさとモチベーションの向上施策の推進」では、処遇面での評価や表彰などを通じて意欲を維持・向上させる取組みを求めている。  指針5「職場のコミュニケーションや風土の改善を図るとともに、指定自動車教習所の特長・魅力のアピール」では、多世代が円滑に連携できる職場風土づくりが、高齢指導員の定着と組織全体の活性化につながるとされている。  各指針とも関連するアンケート調査やヒアリング調査、他業種の取組み事例もあわせて示されており、内容をより深く理解できる。  「V.アンケート調査結果」では、教習指導員の約3割が60歳以上であり、多くの事業者が高齢指導員の働きぶりを高く評価していることを紹介。一方、指導員自身がもっとも不安に感じているのは健康・体力面であり、就労継続に向けた支援の必要性が明確になっている。これらの結果は、指針の妥当性を裏づけるものとなっている。  「W.参考資料」では、高齢者雇用に関する法制度や助成金、相談窓口などが整理されている。事業者が自社の状況に応じて実践的な取組みを進めるための基礎資料として位置づけられている。  教習所を取り巻く状況は千差万別であるが、本ガイドラインは、各教習所における高齢教習指導員の活躍推進を具体的に進めるための実践的な指針として活用できる一冊となっている。 一般社団法人 全日本指定自動車教習所協会連合会 (指定自動車教習所業高齢者雇用推進委員会) 住所 〒102―0074 東京都千代田区九段南2―3―9 サン九段ビル4階 TEL 03―3556―0070 HP https://www.zensiren.or.jp 【P30-31】 特別企画 労働者協同組合という働き方 解説 経験とスキルを活かし、地域とつながる「協同労働」という新しい選択肢 厚生労働省 雇用環境・均等局 勤労者生活課 労働者協同組合業務室 1 はじめに  人生100年時代を迎え、定年退職後の「セカンドキャリア」や、生涯現役としての働き方に注目が集まっています。そうしたなかで、「労働者協同組合」での新しい働き方が、シニア世代にとって有力な選択肢の一つとなりつつあります。本稿では、この新しい法人制度の原理と現状、そしてなぜいま、シニア世代にとって「労働者協同組合」が働き方の有力な選択肢といえるのかについて、具体的な事例を交えて解説させていただきます。 2 シニア世代の就業意識と「働きがい」について  全国の60歳以上の男女を対象とした調査(内閣府「令和7年版高齢社会白書」※1)によると、現在収入を伴う仕事をしている人については「何歳ごろまで収入を伴う仕事をしたいか」という質問に対して、「働けるうちはいつまでも」と回答した割合が33.5%でもっとも高く、「70歳くらいまで」またはそれ以上と答えた人を合わせると、その割合は8割を超えています※2。多くの人が、年齢にかかわらず社会とかかわり続けたいという意識を持っていることがわかります。  また、現在仕事をしている人に「その仕事を決めた理由」について質問をしたところ、「自分の経験やスキルが生かせる」という回答が約4割でトップとなり、次いで「自宅から通いやすい」、「仕事にやりがいがある」といった理由が続きます※3。  単に収入を得るためだけではなく、長年つちかった職業能力を活かしたい、地域社会のなかで無理なく働きたい、そして何より「やりがい」を感じたい、こうしたシニア世代のニーズに合致する働き方の器として期待されているのが、労働者協同組合です。 3 労働者協同組合の3原則(基本原理)  労働者協同組合法では、以下の3原則からなる基本原理が定められています。 (1)出資原則:組合員が出資すること (2)意見反映原則:事業を行うにあたり組合員の意見が適切に反映されること (3)事業従事原則:組合員が組合の行う事業に従事すること  つまり、仲間と一緒に資金を出し合い、話し合って経営を決め、みんなで働く。民主的で主体的な働き方のスタイル、それが「労働者協同組合」です。また、設立手続きも簡素化されており、NPO法人などとは異なり行政庁の許認可を待つことなく、法に定めた要件を満たした定款を作成し、登記をするだけで法人を設立することができます。 4 広がる活動分野とエッセンシャルサービス  2022(令和4)年10月の労働者協同組合法の施行から3年余りを経て、労働者協同組合の設立は着実に進んでいます。現在、北は北海道から南は沖縄県まで、37都道府県で177法人が設立されています(2026年1月1日時点)。  その事業分野はきわめて多岐にわたりますが、特に目立つのが地域課題の解決に直結する分野です。介護・福祉、子育て支援、学童保育といった対人援助の現場から、緑地管理、配食サービス、清掃、さらには若者や就労困難者の自立支援など、私たちの暮らしに欠かせない「エッセンシャルサービス」のにない手として、その存在感を高めています。地域に住む人々が、「自分たちの地域の困りごとは、自分たちの手で解決しよう」と立ち上がり、事業化するケースが多く見られます。 5 シニア世代による多様な実践事例  ここからは、実際にシニア世代が中心となって活躍している労働者協同組合の事例を、その設立経緯や形態ごとに紹介します。 (1)定年退職後や早期退職後の起業(経験を地域に還元する)  長年のキャリアを活かし、退職後に仲間とともに「起業」するケースが増えています。これには定年退職後の挑戦だけでなく、早期退職を経て、新たなライフワークとして地域貢献を目ざす事例も含まれます。  定年後の起業としては、「労働者協同組合上田」(長野県)や「つくば労働者協同組合」(茨城県)があり、地域の高齢者が中心となって、それぞれの得意分野を持ち寄り活動しています。また、「助け合いケア労働者協同組合ヘルパント」(兵庫県)は、デイサービスなどの高齢者施設での補助業務などをになうために設立されました。  一方、早期退職後のUターン起業として、「労働者協同組合チャイルドセンター彩葉(いろは)」(福井県)があります。元システムエンジニアとしての勤務を経て、故郷で放課後等デイサービスなどの子どもの支援事業を立ち上げた事例であり、異業種の経験が地域福祉の現場で活かされています。  これらの事例に共通するのは、「自分たちで仕事をつくる」という姿勢です。現役時代のスキルや人脈を活かしつつ、体力や家庭の事情に合わせて働く時間を調整できる点も、セカンドキャリアにおける労働者協同組合のメリットと言えます。 (2)継続就業と再就職(地域密着の現場で働く)  既存の労働者協同組合へ、定年後に「再就職」するという道もあります。「労働者協同組合ワーカーズ・コレクティブ・キャリー」(神奈川県)は、消費財等の配送サービスを行っており、運転技術を持つシニア世代が活躍しています。また、「労働者協同組合うんなん」(島根県)では、地域の暮らしの困りごと支援に取り組んでおり、地元で暮らし続けたいと願う高齢者の雇用の受け皿にもなっています。ここには「自宅から通いやすい」場所で、地域住民と触れ合いながら、「仕事にやりがい」を持って働く人々の姿があります。 (3)関係機関との連携(広島市のモデル)  地域全体の就労支援を強化する動きとして、広島市の事例が注目されています。広島市では、「広島市シルバー人材センター」と「広島市協同労働支援センター」が2025年4月に統合し、「広島市シルバー・協同労働センター」となりました。  シルバー会員が協同労働団体に加入・設立したり、協同労働団体メンバーがシルバー会員になったりと、相互に会員数や団体数の増加につながる好循環が生まれています。これは、シニアの多様な就業ニーズに対し、地域全体で受け皿を広げていくためのモデルケースといえるでしょう。 6 おわりに−自分らしく働き続けるために−  労働者協同組合法は、働く人々が主役となり、豊かな地域社会をつくり出すための基盤です。「働けるうちはいつまでも働きたい」、「経験を活かしたい」と願うシニア世代にとって、自ら出資し、経営に意見を反映させ、事業に従事するこの働き方は、大きな充足感をもたらすことにつながります。  人生の後半戦を、受動的に過ごすのではなく、仲間とともに能動的に切り拓く。労働者協同組合という選択肢が、みなさまのこれからのキャリア、そして人生をより豊かに彩る一助となることを願っています。 ※1 https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/index-w.html ※2 同白書63ページ ※3 同白書64ページ 【P32-33】 事例1 労働者協同組合事務局 ワーカーズ・コレクティブJam(ジャム)(神奈川県横浜市) 自由な働き方が「女性の自立」と「シニアの活躍」を後押し  神奈川県横浜市港北区(こうほくく)の新横浜駅から10分ほどの場所に本部を構える「労働者協同組合事務局 ワーカーズ・コレクティブJam」(以下、「Jam」)。おもに、生活協同組合である生活クラブへの加入促進を中心に、共済推進、コールセンター業務を請け負う労働者協同組合です。神奈川県全域と東京都の人形町に11のブランチ(拠点)があり、2026(令和8)年1月現在の組合員は144人。うち60代が53人、70代が8人、最高齢者は78歳で、60歳以上の組合員が事業の前線で活躍しています。  Jamは1992(平成4)年に設立されました。当時、生活クラブの運営は、職員と一般の組合員だけで行われていましたが、組合員の活動が広がったことによって、専門性を持った事務局が必要になり、ワーカーズ・コレクティブ≠ニして立ち上げたそうです。  ワーカーズ・コレクティブとは、働く人たちが自ら出資し、経営にも労働にも主体的にかかわる協同組合の一種。欧米では古くからあるシステムですが、日本では横浜市で1982(昭和57)年、生活クラブの店舗運営をになう国内初のワーカーズ・コレクティブ「にんじん」が結成されたのをきっかけに広がったといいます。  「1980年代の日本は男性が中心の社会で、女性は子育てや介護をになうのが一般的というなか、子育てや介護があっても自分たちが参加できる働く場として、意欲ある女性たちがワーカーズ・コレクティブをつくりだしたと聞いています」と話すのはJamの柴田(しばた)浩美(ひろみ)理事長。「女性の自立」を目ざす組織という側面も大きかったそうです。 コロナ禍をきっかけに法人格取得「社会的に認められる存在」に  Jamは創設以来、法人格を持たない「みなし法人」として活動してきましたが、2022年の労働者協同組合法施行を受け、2023年4月に労働者協同組合として法人化しました。柴田理事長によれば、法人化を決意するきっかけの一つが「新型コロナウイルス感染症の感染拡大時に、持続化給付金を受給できなかったこと」。こうした状況とともに、Jamの事業拡大も視野に入れて、「法人として、社会的に認められなければいけない」という思いを強くしたそうです。  これまでもJamでは、組合員が出資し、それぞれの意見を反映させながら、組合員自身が労働者として事業に従事するという働き方を実現させてきていたので、労働者協同組合になっても、その部分に変化はないといいます。例えば、Jamで働く利点の一つが「柔軟さ」で、組合員はそれぞれ、勤務についての年間計画を自分で決めて提出するものの、家庭の事情などに合わせて休んだり、出勤時間を変更したりすることは自由です。こうした働き方も、労働者協同組合になっても変わっていません。  Jamでの仕事の内容は、生活クラブの組合員に配付するニュースのセットなどの基本業務から、生活クラブの組合員を増やすための組織業務、文書や施設備品の管理、経理などを行う総務業務、神奈川全域の生活クラブ組合員計約8万人を対象としたコールセンター業務など、多岐にわたります。Jamのメンバーは基本的に、そのなかから、それぞれに合った仕事をすることができるため、「年齢に関係なく、働きやすい」(柴田理事長)ようです。 柔軟で自由な働き方「仕事は楽しい」  Jamで現在、最高齢の組合員の一人として活躍する長縄(ながなわ)信子(のぶこ)さん(77歳)。大学を卒業して書店に就職しましたが、夫の転勤のため2年ほどで退職し、その後ずっと「仕事をしたいと思っていました」と話します。生活クラブの「本の花束」というカタログのコンテンツに興味を持ち、その編集に参画。そして、55歳のときにJamの募集を知って応募し、仕事を始めました。それから20年以上、組織拡大推進の業務などで手腕を発揮しています。  現在は、週4日、1日約7時間働いています。週に2日ずつ、コールセンターと組織の業務にあたっており、若い組合員からも「先輩」と慕われる存在だそうです。長縄さんは「いろいろな人とかかわれるのが、とても楽しいから仕事を続けています」と笑顔。「若い人たちともこんなに接することができて、言いたいことを言って、言いたいことを言われる場所って、なかなかないですよね」と、仕事のやりがいを語ってくれました。  今年65歳になった小林(こばやし)乃恵子(のえこ)さんは、週に2〜3日、おもにコールセンターでの仕事を担当しています。Jamに入ったきっかけは「幼稚園のママ友」の存在とのこと。「その方のすばらしい人間性にひかれて、この人がいるところだったら大丈夫だろう」と考え、子育てが一段落した50歳少し前に、Jamで働き始めました。  小林さんが働く目的は「やりたいことがいろいろあるから」。仕事で稼いだお金は、趣味の旅行や習い事に投入しています。Jamに入って5年ぐらいで一度、家庭の事情で辞めたのですが、その後落ち着き、ほどなく復帰しました。「働きながら高齢の親のところにも行けるし、旅行をするときは、1週間ぐらい休めます。やっぱり家にいるより楽しいし、働いていて、とても快適です」と小林さん。「コールセンターの業務をやっていると、頭を回転させるから認知症の予防になる気がしますね。これからも、がんばろうと思います」と、話していました。 子育て世代をシニアが支える 今後の事業拡大にも意欲  柴田理事長によれば、「最近の女性は晩婚の人が多く、40代でも子どもが小さいケースが多く、早く帰りたいから時短で働きたいという組合員も多いです」といいます。そこで、子育て世代ができない仕事をカバーしているのが50代、60代の組合員で、Jamの運営は、元気なシニアの「お互いさまの精神」によって支えられています。  一方で柴田理事長も長縄さんも小林さんも、「働こうという気持ちに年齢は関係ない」と口をそろえていいます。Jamでは、だれもが同じ組合員として、それぞれの適性に合った仕事を主体的にしていくことができるので、年齢を感じることは少ないようです。さらに、「労働者協同組合は、労働者派遣事業以外、どんな業種でも、やりたいことをやっていけるのが魅力です。今後は、地域に根ざした組織として、地域の困りごとを仕事につなげることができたらいいなと思っています」と柴田理事長は、今後の事業拡大にも意欲を見せていました。 ※「ワーカーズ・コレクティブJam」の組合員の方を、本誌2025年12月号「生涯現役で働くとは」で紹介しています。JEEDホームページでもご覧になれます。 https://www.jeed.go.jp/elderly/data/elder/book/elder_202512/index.html#page=38 写真のキャプション 左から、長縄信子さん、理事長の柴田浩美さん、小林乃恵子さん 【P34-35】 事例2 労働者協同組合 労協センター事業団 埼玉事業本部 地域密着型デイサービス「そらまめ」(埼玉県ふじみ野市) 支援活動から生まれたシニアが主役の協同労働  埼玉県の南西部に位置するふじみ野市。東京の都心部から30km圏内ながら、緑が多く残る住宅地に地域密着型デイサービス「そらまめ」(以下、「そらまめ」)はあります。「自分の親を預けたいと思えるデイサービス」を合言葉に、利用者一人ひとりに合ったきめ細かい支援を行い、地域の人々との交流を大切にしています。「食は元気の源」ととらえ、食事にこだわっているのも特徴で、毎日提供している昼食やおやつは手づくりで、併設する「そらまめファーム」で収穫した新鮮野菜をふんだんに使っているそうです。  定員10人、平屋の古民家を拠点とするそらまめは、労働者協同組合労協センター事業団埼玉事業本部の一事業として、同本部に所属する22人の組合員によって運営されています。60歳以上の組合員は、介護職が7人、ドライバーが3人、調理、清掃担当が各1人の計12人。うち70歳以上は、所長の島袋(しまぶくろ)俊子(としこ)さん(71歳)を筆頭に計5人が活躍しており、最高齢者は75歳です。 きっかけは東日本大震災「主婦6人」の活動がデイサービスに発展  島袋さんによると、そらまめ誕生のきっかけは、2011(平成23)年の東日本大震災でした。当時、同市内の公務員住宅に被災地から多くの人が避難してきて、地域住民が支援活動を始めたことが現在のサービスにつながったそうです。島袋さんらは、福島県から避難してきた人から「息が詰まりそう。畑仕事がしたい」という声を聞き、市内の農家の協力を得て、被災者らと農作業を行う活動を進めました。「一緒に作物を育て、収穫し、料理して食べることを通じて、参加者がみんな笑顔になった」(島袋さん)経験に大きな影響を受けているといいます。  そらまめは2012年4月、島袋さんを含む地域の主婦6人によって設立されました。6人はいずれも、被災者の支援にたずさわっていたのですが、支援活動を続けるためには、「拠点となる事業所が必要」との考えで一致。「避難者のなかには、高齢の家族の介護が必要な方がいらっしゃいました。6人のなかには看護師やケアマネジャー、介護福祉士、ヘルパー(介護職員初任者研修)の資格を持つ人がいたので、『あなたたちだったら、高齢者を支援するデイサービスを立ち上げられる』と、私たちの活動を見ていた労協センター事業団の人に声をかけられた」(島袋さん)ことで、事業所の核となる事業をデイサービスにすることを決めたといいます。 支援活動も「仕事」 地域貢献の実績に「1000万円」が集まる  6人は当時50〜60代で、全員が別の仕事をしていました。島袋さんも、調理師として市内の保育所でパート勤務をしており、支援活動はボランティアで続けるつもりでしたが、「島袋さんたちがしている支援活動も、労協センター事業団にとっては仕事なのです」といわれたことで、気持ちが変わったといいます。  「『本来、地域の必要に応える仕事おこしが労働者協同組合です』と説明を受け、『そんな働き方があるんだ』と思いました」と、島袋さんは笑顔で語ります。「市民が自分の町に貢献できる仕事を、自分たちで出資し、自分たちで職場をつくり、自分たちで運営していくのが協同労働だと聞いて、おもしろいと感じましたし、同じ仕事だったら、そんなやりがいのある仕事にチャレンジするのもいいなと考えました」  それから6人は、労協センター事業団の組合員となり、事業本部のサポートを受けつつ、お互いに話し合いを重ねて、そらまめをスタートさせました。当初は、メンバーが所有していた一軒家で、定員7人のデイサービスと、少し離れた場所にある畑での農作業の活動を展開していましたが、「定員10人程度に拡大できたら」、「畑が近くにあったら」との思いが強くなり、新たな拠点を数年かけて探し、現在の古民家に移ったそうです。  古民家の改修には、約1000万円がかかりました。「1000万円と聞いて、あまりにもリスクが高いと感じ、もうパッと止めてしまってもいいんじゃないかと思いました」と島袋さん。しかし、「『そらまめ以外には行きたくない』といってくれる利用者さんが何人かいて、みんなでがんばろうといって出資を募った」そうです。すると、そらまめの活動実績を評価する市民や利用者の家族から出資が集まり、その額は1000万円に達しました。 経験、特技を活かしてシニアが活躍「次のにない手」も切望  そらまめで約7年、介護職にあたっている斎藤(さいとう)れい子さん(69歳)は、ふじみ野市に隣接する埼玉県富士見市(ふじみし)在住で、2000年の介護保険制度スタート前に、富士見市のヘルパー講習を受けたことをきっかけに、デイサービスの仕事に就きました。そこで一緒だったのが、そらまめの組合員の1人。「手伝ってほしい」と請われ、2018年ごろから週1回そらまめで働くようになったそうです。66歳で定年退職した後は、1日8時間、週2回ペースで仕事をしています。  「ここはとても環境がよいのです。空も見えるし、畑もあって」と齋藤さん。「以前の職場は定員25人だったので、広いから少し疲れるし、いろいろな意味でたいへんでしたが、こちらは、こじんまりしているし、環境もよいし。体力が続くかぎり働きたいなと思っています」と、話してくれました。齋藤さんは、介護の仕事以外にも、手芸をはじめとした得意の手作業でそらまめに貢献しています。手づくりの誕生日カードなどもその一つで、精緻(せいち)な紙の花で飾られたカードを見た利用者のご家族が、「そらまめに行きたい」との希望をいってきたケースなどもあるそうです。  齋藤さんのほかにも、さまざまな経験を持つ組合員が、それぞれの特技を活かし、利用者を楽しませています。  「人や社会をよく知っていて、『こういうことをしたら利用者が喜ぶ』と、自主的に積極的にやってくれる60・70代の組合員の存在は大きいです」と島袋さん。シニアが自ら主役になって支えてくれているからこそ、そらまめの事業が成り立っていると話します。  一方で、「いろいろな世代で介護することも、すごく重要だと思います」という島袋さん。さらなるシニア世代の活躍を進めるためには、若い世代の力も必要だとの考えですが、なかなか人材確保がむずかしいそうです。「若い人にとって介護職はあまり魅力がないようですが、楽しいこともあり、やりがいが多いと思います。私たちの理念を引き継げるような人を、本当に心から待ち望んでいます」と強調していました。 写真のキャプション そらまめスタッフのみなさん。左から深作(ふかさく)信浩(のぶひろ)さん、所長の島袋俊子さん、齋藤れい子さん、小川(おがわ)由佳(ゆか)さん、土屋(つちや)美千子(みちこ)さん、渡邊(わたなべ)美緒貴(みおき)さん。後ろには齋藤さん手づくりのタペストリー 【P36-37】 偉人たちのセカンドキャリア 歴史作家 河合(かわい)敦(あつし) 最終回 生涯現役で絵を描き続ける 葛飾(かつしか)北斎(ほくさい) 絵を描くのが好きだが、生活はいい加減  葛飾北斎といえば富嶽三十六景(ふがくさんじゅうろくけい)が有名ですが、彼が描いた絵は3万点を超えています。これほどの多くの作品を送り出すことができたのは、長生きであったうえ生涯現役だったからです。今回は、北斎の生き方に焦点をあてていこうと思います。  1760(宝暦10)年に江戸の本所割下水(ほんじょわりげすい)で生まれた北斎は、幼いころから絵を描くのが好きで、19歳で勝川(かつかわ)春章(しゅんしょう)の弟子となり、勝川(かつかわ)春朗(しゅんろう)と名乗って浮世絵師として活躍します。ところが30代半ばで勝川派を破門になり、仕方なく俵屋(たわらや)一派に入って2代目俵屋宗理(そうり)として肉筆画を描いていました。しかし10年後に浮世絵の世界に戻って葛飾北斎と号し、読本作家・曲亭馬琴(きょくていばきん)の挿絵で名が知られるようになりました。  北斎は毎日朝から晩まで描き続け、腕が萎え目が疲れてようやく筆を置くのが日課でした。9月下旬から4月上旬までは炬燵のなかで仕事をし、夜も炬燵で寝、掃除をしないので炬燵ぶとんはシラミだらけでした。炊事もせず、3度の食事は近くの煮売屋に運ばせ、料理を包む竹皮や重箱は部屋に放置したので散らかり放題。ゴミだらけになると転居したといいます。なんと生涯に93回も引っ越しています。  60歳を過ぎたころには有名画家となり、原画は高額で買い取られましたが、北斎は紙に包まれた礼金を確かめもせず、部屋にほうり投げておきました。このため食費や絵の具代などを徴収に来る商人たちは、ゴミのなかから包まれた礼金を勝手に持ち出し、思った以上に金が入っていれば超過分は着服、不足の際は残金を催促に来たそうです。そんな無頓着な北斎が、唯一執着したのが長生きをすることでした。 70歳を超えても止まらない向上心  75歳になった1834(天保5)年、北斎は富嶽三十六景に続いて大作『富嶽百景(ひゃっけい)』を刊行しますが、巻末に次のような言葉を記しています。  「6歳から絵を描いてきたが、70歳前まで描いた絵はじつに取るに足らないものだった。73歳になって少しだけうまく様子を描くことができるようになった。きっと87歳になればもっと上手になり、90歳で奥義(おうぎ)をきわめ、100歳で神妙(しんみょう)の域に達するだろう。百数十歳になれば一点一格がまるで生きているがごとくに描けるはず。どうか長生きした方々は、私の予言があたったことを見てほしい」  このように北斎は絵がうまくなるため長生きを目ざし、ひたすら描き続けたのです。  あるとき北斎の弟子・露木(つゆき)為一(いいつ)が北斎の娘・阿栄(おえい)に「筆がうまく運ばない。才能がないのかもしれない」とため息をつきます。すると阿栄は笑って「父は幼いころから80歳のいまにいたるまで毎日描き続けていますが、この前、腕を組んで、私は猫一匹もきちんと描くことができないと涙を流し、嘆息しておりました。己はダメだと自らを棄てようとするときこそ、じつは上達する機会なのです」と助言しました。すると、横で娘の言葉を聞いていた北斎は「まさにその通りだ」と大きく頷いたといいます。  北斎のあくなき絵画上達への執念がわかります。晩年の北斎は肉筆画に力を入れます。83歳のときからは、門弟の高井(たかい)鴻山(こうざん)の依頼によってたびたび信濃国小布施(おぶせ)村を訪れ、娘の阿栄とともに祭屋台の天井画をはじめ、いくつもの作品を遺しました。特に88歳のときに描いた岩松院(がんしょういん)本堂の天井画「八方睨み鳳凰図(ほうおうず)」は20畳を超える大きさ。力強く鮮やかな色彩で、とても卒寿の老人が描いたとは思えない見事さです。この年には鳳凰図のほか、北斎は多くの肉筆画を描いています。  当時の北斎のことを記した手紙(戯作者の笠亭(りゅうてい)仙果(てんか)の医師・平出(ひらで)順益(じゅんえき)宛書簡)には、北斎が「眼鏡をかけず曲描きや細かな版下絵が描け、背もかがんでいなかった。春ごろには雨降りに足駄(雨天用の二枚歯の高下駄)をはき、西両国から日本橋まで行き来しても、何ともない達者であった」(永田生慈著『葛飾北斎』〈吉川弘文館〉)と記されています。  89歳の1848(弘化5)年に刊行した「絵本彩色通」の跋ばつ文ぶんには、「90歳になったらまた画風を一新し、100歳以降はこの画道を改革することだけに邁進する」と述べています。驚くべき気力の充実と、進歩への希求といえるでしょう。 好きなことをやり続けて生涯を終える  しかし、北斎も不死身ではありません。卒寿(90歳)になった年、にわかに病にかかり、薬も効かない容態となってしまいました。  医師は阿栄に向かって「老衰だから、治らない」と宣告したそうです。それ以来、阿栄のほか門人たちも入れ替わり立ち替わり献身的に看病しましたが、北斎の衰弱は激しく、ついに浅草聖天町(あさくさしょうでんちょう)の遍照院(へんじょういん)境内にある仮宅でいよいよ臨終のときを迎えます。  このおり多くの門人や友人たちが集まってきましたが、北斎は嘆息し「天があと10年、いや5年の命を長らえさせてくれたら、私は真正の画工になれたのに」と告げ、そのまま亡くなったそうです。1849(嘉永2)年4月18日未明のことでした。  辞世は「飛と魂でゆくきさんじや夏の原」  「気晴らしに、人魂になって夏の草原をゆらゆらと飛んで行こうかな」という意味で、北斎らしい粋(いき)な句です。  さて、改めて北斎が生涯現役を貫くことができた理由ですが、いま述べたように、絵を描くこと以外は何もしなかったことが大きいと思います。煩わしい人付き合いも避けました。道ばたで知人にあっても「こんにちは」、「やあ」というだけで、立ち止まって挨拶をすることはなかったそうです。ときには歩きながら法華経をとなえ続け、知人が目に入らないふりをしたともいいます。  金や権力にも無頓着でした。例えば南部藩主・津軽氏が北斎に屏風絵を描かせようと家臣を遣わしたことがあります。その家臣は北斎に5両をにぎらせて同行を求めましたが、いうことを聞きません。怒った武士は「お前を殺してこの場で腹を切る」と叫びますが、それでも北斎が首を縦にふることはありませんでした。ところが、です。それから数カ月後、北斎はふらりと南部藩邸を訪れ、屏風絵を描きはじめたそうです。  「やりたくないことは、どんなに金を積まれても脅されてもやらない。しかし気分が乗れば、喜んで筆をとる」。そうした気質が健康と長生きにつながり、結果として売れっ子絵師になることができたのだと思います。人に一切媚びたりせず、ひたすら大好きなことだけをやり続けて生きていくことができた北斎。しかも生涯現役、何ともうらやましい人生といえるでしょう。 【P38-41】 高齢者の職場探訪 北から、南から 第163回 愛知県 このコーナーでは、都道府県ごとに、当機構(JEED)の70歳雇用推進プランナー(以下、「プランナー」)の協力を得て、高齢者雇用に理解のある経営者や人事・労務担当者、そして活き活きと働く高齢者本人の声を紹介します。 ベテラン社員の存在は会社の財産 社員の幸せが事業の発展につながる 企業プロフィール 真川(まがわ)陸送株式会社(愛知県名古屋市) 創業 1970(昭和45)年 業種 運送業 社員数 41人 (60歳以上男女内訳) 男性(7人)、女性(0人) (年齢内訳) 60〜64歳 2人(4.9%) 65〜69歳 3人(7.3%) 70歳以上 2人(4.9%) 定年・継続雇用制度 定年65歳。希望者全員70歳まで継続雇用。最高年齢者はドライバーの76歳  愛知県は、日本のほぼ中央に位置し、太平洋に面した温暖な気候と、内陸部の豊かな自然の双方をあわせ持つ県です。県北部には山々が連なり、南部には三河湾や伊勢湾が広がるなど、地形に変化があり、多様な風土が育まれています。尾張・三河といった地域ごとに歴史や文化、産業の特色が異なり、それぞれが個性豊かな魅力を形成しています。  自動車に代表されるように工業県のイメージが強く、日本一のモノづくり県ともいえますが、商業や農・水産業も盛んです。産業人材の技能レベルが高く「技能五輪全国大会※1」や「全国アビリンピック※2」においても優秀な成績を収めています。  JEED愛知支部高齢・障害者業務課の金杉(かなすぎ)文昭(ふみあき)統括は、「さまざまな産業が盛んではありますが、少子化により若年層の採用に苦慮している企業も多く、プランナーが企業訪問した際は『高齢社員に長期間活躍してもらいたいため、継続雇用制度の対象者基準について詳しく知りたい』、『高齢社員のモチベーションが低下しないよう、人事評価制度の導入について検討したい』といった相談を受けることが多い状況です。プランナーによる制度改善提案の際は、高齢社員のモチベーション維持・向上につながるよう、企業の実情にあわせて人事評価制度、賃金制度、健康管理等に関する施策の提案も行っています」と話します。  2013(平成25)年から同支部で活躍する石ア(いしざき)啓司(ひろし)プランナーは、企業の人事労務分野での豊富な実務経験を経て、社会保険労務士として独立。労務を軸に法務・資金面の知見も活かし、企業の相談に対応しています。  今回は、石アプランナーの案内で「真川陸送株式会社」を訪れました。 「社員、社業、社会」の順で還元する  真川陸送株式会社は、本社を名古屋市、営業所を豊田市に構える物流企業です。1970(昭和45)年に創業者の真川(まがわ)安夫(やすお)氏が自走配送で事業を始め、1978年に積載車輸送がスタート。1989(平成元)年に真川陸送株式会社を設立しました。現在は名古屋トヨペットグループ(NTPグループ)専門の輸送会社として、販売されているすべての車種を取り扱っています。37人の熟練ドライバーを擁し、トラック輸送と自走を組み合わせて毎日、愛知県内のさまざまな地域へ数百台もの車両を運搬しています。  代表取締役社長の真川(まがわ)慈康(いつやす)さんは同社の事業の源について次のように話します。  「私たちの仕事は、車が何台あっても、運転手がいなければ成り立ちません。つまり、事業の土台にあるのは『人』、社員です。そこで当社では、幸せの分配順序を『社員、社業、社会』の順で考えています。社員が幸せであってこそ、お客さまの大切な資産を安心・安全にお届けできると考えているからです。社員が必要とされることで社業が発展し、その発展が雇用や納税を通じて地域社会へ還元されていく。私たちはこの循環を大切にしています」 ベテランと描く成長戦略  真川陸送は、2023(令和5)年8月1日、65歳定年制を導入し、定年後は基準該当者全員を70歳まで継続雇用する制度を整えました。執行役員で同社の豊田営業所所長である横山(よこやま)聡(さとし)さんは「当社は離職率が低く長年働いてきた方がそのまま年を重ねて高齢になってきました。そうした社員がこれからも長く安心して働いてもらえるように定年を延長し、再雇用制度をあらためました。年齢を重ねた社員は会社の資産です。ベテランのみなさんは、若手・中堅の精神的なサポート役をになってくれて、他社の事業主や担当者とのやりとりを中心になって円滑に進めてくれています」と話し、高齢社員の働きぶりに感謝しきりです。  石アプランナーが同社を初めて訪問したのは、まさに65歳定年制を導入した直後の2023年8月のこと。  「当時は社員のうち60歳以上が占める割合は3割を超えていました。こうした状況をふまえ、まずは健康管理を中心としたアドバイスを行いました。また、会社が認める場合に75歳まで継続雇用を延長することなども提案しました。延長にあたってはドライバーが中心であることを考慮し、過去1年間の事故歴や免許処分の有無など、安全面に関する条件の設定が有効であることなどもお話ししました」と、石アプランナーは述べます。  さらに同社では2026年度から、大きな改革を段階的に進めていく予定とのこと。  「定年延長はすべての改革のスタートに過ぎません。現在進めている改革では、新規事業の開拓や能力開発を計画しています。高齢社員が運転できなくなった際の受け皿として、新しい事業の受注を積極的に行っていき、同時に会社の事業拡大につなげたいと考えています。さらに、新しい事業に対応できるよう、高齢社員の多様で柔軟な働き方を可能とする能力開発にも着手したいと考えています」(横山所長)  一連の改革構想には石アプランナーからのアドバイスが活きており、まさに実現に向けた検討を本格化させていました。 高齢や事情に応じて配置換えを実施  多田(ただ)輝三(てるぞう)さん(76歳)は、23歳で入社して以来、現在も現役でキャリアカーに乗るベテラン運転手です。運行管理者の資格を持ち、定年前は配車業務を担当していましたが、定年を機に後輩に道をゆずりキャリアカーの運転手に復帰しました。現在は約6kmの距離を、新車を積んで回送する業務にあたっています。  業務では1日に1万歩以上歩くこともあり、車両によじ登る動作にも年齢を感じさせない軽やかさがあります。仕事そのものが体力づくりになっており、周囲からも「多田さんみたいに跳んだりはできないよ」といわれるほどです。  2025年に75歳を迎えたのを機に、勤務日数を週5日から週4日に減らしました。「仕事はあと2年くらいかな、と考えることもあります。そろそろ引退と思う一方で、家で何もせずぼんやりしていると認知症になりそうで、それが心配なのです」と、揺れる胸の内を明かします。  それでも、職場に行けば同僚と会話ができ、身体も動かせます。「それが楽しいですよ」と笑顔を見せる多田さん。認知症予防への意識もあり、自身が想像するよりも長く働き続ける可能性を感じさせました。  横山(よこやま)正道(まさみち)さん(60歳)は、「昔から運転が好きです」という根っからのドライバーです。多田さんと同様、近距離回送をになうキャリアカーの運転手を務めています。35歳のときに募集を見て真川陸送へ転職しましたが、過去に一度、同社を離れた経験もあるそうです。  「給料が安いからと伝えて辞めましたが、転職先は想像以上に仕事が過酷でした。真川陸送は雰囲気がよく、やっぱり戻りたいと思ってお願いしました」と、横山さん。  こうした社員の復職のケースはほかにもあるとのこと。会社としても貴重な戦力として、喜んで受け入れたというこのエピソードにはおおらかな社風がにじみます。  2年前には、「健康診断で視力が急激に低下していることがわかり、運転免許を失うかもしれないという不安に直面した」という横山さん。「仕事を続けられなくなるのではないかと、心配でした」と当時をふり返ります。そこで会社に相談したところ、身体への負担が比較的少ない現在の業務へ配置転換が行われました。  「いまも健康面を重視し、定期的に通院してもらい、結果を報告してもらっています。何かあれば、また別の仕事を用意し、無理なく長く勤めてもらいたいです」(横山所長)  所長の話を隣で聞きながら、「前よりも、車に乗る仕事が楽しいです」と横山さんは晴れやかな表情で語っていました。  新人のころから二人に指導してもらっているという藤本(ふじもと)千鶴(ちづる)さん(57歳)は、多田さんと横山さんについて次のように話します。  「会社にいる人のほとんどが、お二人から仕事を教わっています。わからないことを何度聞いても嫌な顔ひとつせず、ていねいに教えてくれました。何より、長年にわたり現場で働き続けていること自体がすごいことだと思います」  体力的にも精神的にも負担の大きい仕事でありながら、いまも若い世代と変わらない姿勢で現場に立つ二人の姿に、藤本さんは強い尊敬の念を示していました。  また、横山所長は自らの経験をふり返り、こう語ります。  「以前私が事故を起こしてしまったときに、多田さんには慰めてもらい、横山さんには叱ってもらいました。タイプの異なる先輩に育ててもらったという思いがあります」  そのうえで、「若手には先輩からの注意に腹を立てて受けとめるのではなく、その意味を理解し、ありがたいと思えるところまで成長してほしいです。そのためには、日常的なコミュニケーションが欠かせません」と話します。  現在、朝礼前に社員が一堂に会する時間を活用し、雑談を交えた会話の場を設けているほか、今後は1対1の面談やミーティングの実施も検討し、会社と社員、世代間のコミュニケーションをより密にしていく考えです。  2026年4月には、新しい企業理念の公開と改革の実施を控えており、年代やタイプの異なるドライバー全員に理念を浸透させ、共有していくことが今後の課題となっています。  こうした状況について、石アプランナーは次のように話し期待を寄せます。  「あらためて社員思いのアットホームでよい会社だと感じました。一般の車道を、複数台の新車を積んだキャリアカーで走行し、積み下ろしを行う仕事は、高い技術が求められます。そうしたベテランドライバーを大切にしている点が印象的でした。  会社の規模をふまえ、制度として整える部分と、個別対応のほうが社員にとって望ましい部分を見きわめながら、今後も取組みをサポートしていきたいです」  高齢ドライバーの経験を力に変え、無理なく長く働ける環境づくりを進める真川陸送。その取組みは、人を起点とした経営の一つのかたちを示していました。(取材・西村玲) ※1 技能五輪全国大会……国内の青年技能者(原則23歳以下)を対象に、技能競技を通じ、青年技能者に努力目標を与えるとともに、技能に身近に触れる機会を提供するなど、広く国民一般に対して技能の重要性や必要性をアピールし、技能尊重機運の醸成に資することを目的として実施する大会。 https://www.javada.or.jp/jigyou/gino/zenkoku/about.html ※2 全国アビリンピック……障害のある方々が日ごろ職場などでつちかった技能を競う大会(アビリンピック)の全国大会。障害のある方々の職業能力の向上を図るとともに、企業や社会一般の人々に障害のある方々に対する理解と認識を深めてもらい、その雇用の促進を図ることを目的とする。 https://www.jeed.go.jp/disability/activity/abilympics/national/index.html 石ア啓司プランナー アドバイザー・プランナー歴:13年 [石アプランナーから] 「訪問先の企業にとって、今後の参考となるよう相手先の現状に即しアドバイスするよう心がけており、話しやすい雰囲気づくりに努めています。また、高齢者雇用のみならず、一般的な労務管理に関しても、お話をさせていただいています」 高齢者雇用の相談・助言活動を行っています ◆愛知支部高齢・障害者業務課の金杉統括は石アプランナーについて、「特定社会保険労務士、第一種衛生管理者、行政書士、ファイナンシャルプランニング技能士2級の資格を持っています。人事労務管理のほか、賃金・退職金管理、健康・安全衛生管理に造詣が深く、得意分野を活かして企業への相談・助言、提案を行っています」と話します。 ◆愛知支部高齢・障害者業務課は、最寄りの伏見(ふしみ)駅(名古屋市営地下鉄)から徒歩2分ほどのオフィスビル内にあり、利用者にとってもアクセスのよい立地です。駅周辺はビジネス街ですが、劇場や美術館、科学館などの文化施設もあります。労働局・ハローワークも徒歩圏内にあるため、非常に連携しやすい環境です。 ◆同県では18人のプランナー、6人の高年齢者雇用アドバイザーがそれぞれ活動しており、2024年度は1735件の相談・助言、336件の制度改善提案を実施しました。 ◆相談・助言を実施しています。お気軽にお問い合わせください。 ●愛知支部高齢・障害者業務課 住所:愛知県名古屋市中区錦1-10-1 MIテラス名古屋伏見4階 電話:052-218-3385 写真のキャプション 愛知県名古屋市 真川陸送株式会社のドライバーのみなさん。キャリアカーの前で 真川慈康代表取締役社長 横山聡執行役員・豊田営業所所長 キャリアカーのドライバーを務める多田輝三さん(左)と横山正道さん(右) 【P42-43】 第113回 高齢者に聞く生涯現役で働くとは  角嶋正甫さん(78歳)は、豊富な経験と高度な専門知識を活かして60歳から、医学・薬学分野を中心とする翻訳会社の翻訳者として第一線に立ち続けている。クライアントの立場に立ったサービスの提供を心がける角嶋さんが、本来の自分の力を駆使して生涯現役を目ざす喜びを語る。 アイエム翻訳サービス 株式会社 上級アドバイザー 角嶋(かくしま)正甫(まさとし)さん 新天地への旅立ち  私は神奈川県横浜市(よこはまし)で生まれました。科学の道に進みたくて、市内の高校で化学部に在籍し、実験に没頭する青春時代を過ごして、東京教育大学(現在の筑波大学)理学部化学科に進学しました。学生運動が盛んだったころなので、3年生のときにはキャンパスが機動隊に封鎖されて、近くの女子大の学生会館で授業を受けたり、サークルに参加したりした記憶もあります。  研究の世界に憧れていた私は大学院進学を目ざし、4年時に研究室の恩師からカナダ政府の教育・研究機関を紹介されました。応募したところ、幸いにも進学がかないました。  カナダでは、日本の博士号(はくしごう)にあたる学位を取得。その後、非常勤講師として学生を指導しました。カナダでの生活はとても充実していましたが、当初、学生ビザでの渡航であったため、1年ごとのビザの更新や保険料の自己負担などが必要でした。しかし、24歳のときに移民ビザに変更できる機会に恵まれ、カナダでの就労が可能になり、縁あって米国の大手製薬企業のモントリオール研究所の主任研究員に就くことができました。モントリオールはケベック州にあり、公用語はフランス語なので、終業後に週3回、フランス語を猛勉強したものです。すべてが懐かしい思い出です。  角嶋さんの語り口には、とても自然に英語が織り込まれる。日本で英語やドイツ語、ロシア語を学び、さらにカナダでフランス語を身につけた経験を持つだけあって、インタビューのときも、英語をすぐに日本語にいい直してくれた。やさしさにあふれた紳士なのである。 60歳から翻訳という世界へ  私は24歳のときに学生結婚をしました。家族も学生寮に住むことが許され、モントリオール研究所に勤めるまでは、奨学金で生活することができました。貨幣価値がいまとは異なり、1日にカナダドルで2ドルもあれば暮らすことができたのです。31歳で就職したモントリオール研究所の仕事はやりがいがあったのですが、ケベック州では母国語が英語でない両親の子弟はフランス語で学ぶという法律があり、子どもたちの将来を考えて、35歳のときに、妻と相談して帰国しました。  不思議なもので、私が岐路に立つと、いつも周りの人が支えてくれました。このときは、大学時代の恩師が、ある外資系企業の東京研究所を紹介してくれました。そこでの仕事は、微生物が産生する新規薬物の探索研究でした。しかし、企業の宿命で事業の統合や閉鎖にともなう異動を何回か経験してから、田辺製薬株式会社(現在の田辺ファーマ株式会社)の研究開発センターに移りました。そして2007(平成19)年11月に満60歳で定年退職しました。  田辺製薬に在職中は、私に外資系製薬企業での基礎研究のバックグラウンドがあることに加えて、英語が話せ、ビジネスの経験もあるので、海外企業との共同研究などの仕事を任されたこともありますが、私には若い研究者の教育をしてみたいという思いがつねにありました。  こうした自分の思いを貫きたいと考えていたときに声をかけてくださったのが、アイエム翻訳サービス株式会社の創業者・新比惠(いまひえ)智子(さとこ)社長です。新比惠社長は、田辺製薬の翻訳・学術情報支援部門に勤めておられ、私の経歴を知って、アイエム翻訳サービスに採用してくださいました。社内で行うセミナーの講師や大学の非常勤講師、製薬会社向けの英文ライティングの研修などを担当し、アカデミックな環境での充実した日々が始まりました。  アイエム翻訳サービスの設立は2016年3月。新比惠社長は創業に際し、高齢従業員が専門性を発揮して長く働けるように、高齢者雇用制度を充実させた。その取組みが評価され、2016年度「高年齢者雇用開発コンテスト※」で(独)高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長表彰優秀賞を受賞した。 自己管理の徹底でより良い仕事を  当社は定年後再雇用の上限年齢を撤廃しています。スタッフは全員国内外の大手製薬会社や大学で研究や教育にたずさわってきた人たちばかりです。現在、翻訳や投稿論文の英文校正が私のおもな仕事ですが、医学・薬学に特化した翻訳ですから、仕事のクオリティを下げないようにするために毎日の勉強が欠かせません。  翻訳というのは個人の仕事のように思われがちですが、じつは一人ではできない仕事です。例えば日本語を英訳するとき、まず一次翻訳をしてから、2人目がバイリンガルチェックを行います。最終的に3人目によるクオリティ・コントロールをもって完結します。一つのプロジェクトを3人で仕上げるというのは国際規格に基づいたやり方です。  また、英文校正の場合は、専門分野に詳しいネイティブが担当するのですが、日本人が書いた英語の論文原稿の場合、ネイティブには理解できないことがあります。そうしたときには私がチェックをするのですが、原稿の英文を書いたクライアントは何がいいたいのかと想像する力が必要です。  このように、翻訳は共同作業です。体調管理を徹底しないと周りに迷惑をかけます。このため、コロナ禍以降はテレワーク中心で、オフィスへの出勤は月に1、2回程度。75歳からは週所定労働日数を3日にしてもらいました。最近は、年齢による衰え、フレイルを感じる場面が増えてきました。とりわけ視力の衰えは顕著で、パソコンは32インチのディスプレイを使っています。高齢者が長く働き続けるためにはフレイルを客観的に見て、早めに対策を打つことが大切だと思います。 自らのアップデートのために  科学の世界は日進月歩です。翻訳でも、専門用語が無数に出てきます。私たちはプロですから、最先端の医学・薬学の知識や用語を知っている必要があります。できるだけ医学の専門誌を読んでいますが、なかなか追いつくことができず、それが悩みです。同時に医学分野のテクノロジーの進歩や、AIの台頭など懸念事項は山積しています。ただ、物事をあまりシリアスにとらえすぎないというスタンスが、私が長く働いてこられた原動力ですから、すべてを前向きに受けとめています。心がけているのは、クライアントの立場に立ったきめ細かいサービスの提供です。  当社が創業して10年が経とうとしています。自然科学という自分の好きなものに関連した世界を歩いてこられたことはとても幸せです。学生時代から、ずっと私を支えてきてくれた家族には感謝しかありません。  人生100年時代といわれますから、私の年齢はその緒についたばかりです。無数の「知らないこと」に出会い、それを「知ることの喜び」に変えていくために、明日も新しい世界の扉を開き続けたいと思います。 ※現在の名称は「高年齢者活躍企業コンテスト」。次のページからは同コンテスト関連の連載記事ですので、ぜひご覧ください! 【P44-47】 高年齢者活躍企業コンテスト 受賞企業の軌跡 第3回 株式会社すかいらーくホールディングス(東京都武蔵野(むさしの)市)  独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)と厚生労働省との共催で毎年開催している「高年齢者活躍企業コンテスト※」。高齢者雇用の推進に資する事例を広く募集し、優秀な事例を表彰しており、その内容は、毎年本誌で紹介しています。本連載では、かつてコンテストで厚生労働大臣表彰を受賞した企業を取材し、その後の取組みの進化・深化をレポートします。第3回は、2018(平成30)年度に優秀賞を受賞した株式会社すかいらーくホールディングスを取材しました。 健康で意欲と能力があるかぎり働き続けられる職場へ進化 1 大臣表彰優秀賞受賞をきっかけに求人へのシニア世代の応募者が増加  ファミリーレストランの草分けとして名高い株式会社すかいらーくホールディングス(谷(たに)真(まこと)代表取締役会長CEO)は、2018(平成30)年、「平成30年度高年齢者雇用開発コンテスト」で厚生労働大臣表彰優秀賞を受賞した。  同社の店舗や工場では、パートタイマーやアルバイト(以下、「クルー」)の採用が非常に多いなか、2015年に70歳までの継続雇用制度を確立して、高齢従業員が働きやすい環境整備を実現した。また、中高年のクルーが正社員に登用される道が開かれ、従業員のモチベーションが高まったことが、業績の向上につながったとして評価された。  「コンテストで受賞したことにより、当社の高齢者雇用の取組みや職場環境について、メディアにとりあげていただく機会が増えました。そうしたことにより、当社がシニア世代の方々にも安心して働ける職場環境であることが広まり、求人に対する応募者数が増えるという変化がありました」と受賞当時をふり返るのは、同社の人事総務本部人事採用グループの中西(なかにし)匠(たくみ)ディレクター。  厚生労働大臣表彰優秀賞の栄誉に輝いてから7年、この間にはコロナ禍という、レストランなどの飲食店を営む同社にとって非常に厳しい時期があった。しかし、受賞時の2018年と現在とを比較すると、従業員数は増加して、高齢従業員数も大幅に増えている。また、2024(令和6)年度の同社の売上高は過去最高水準を記録し、2025年度も好調が続いている。同社の高齢者雇用のこの7年間を追った。 2 受賞後の7年間で、60歳以上の従業員数が2.5倍、70歳以上は150倍に  同社の歩みは、1962(昭和37)年にさかのぼる。この年に同社の前身である「ことぶき食品有限会社」を設立。1970年には、東京都府中(ふちゅう)市にファミリーレストラン「すかいらーく」1号店(国立(くにたち)店)を出店。1974年には商号を株式会社すかいらーくに変更した。その後は「すかいらーく」をはじめ、「ガスト」、「ジョナサン」、「バーミヤン」など、利用者の嗜好(しこう)に応える、多数のブランドのファミリーレストランを中心に事業を全国展開。現在では20を超えるブランドを有し、日本国内および海外(台湾・マレーシア・米国)に約3100店舗を展開し、年間来店者数は約3・5億人にのぼる世界最大規模の直営レストランチェーンに発展した。そして、2018年7月には「株式会社すかいらーくホールディングス」と社名を変更した。  レストラン以外にも、店舗で提供する食材を一次加工する工場(セントラルキッチン)を全国10カ所で運営するほか、宅配サービス事業にも力を入れている。  同社の従業員数は、正社員が6761人、クルーなどの非正規従業員が11万2220人(2025年12月31日現在)である。  高齢従業員数について、現在と大臣賞受賞当時(2018年4月現在)を比較すると、60〜64歳は4642人(受賞時は2411人)、65〜69歳は2710人(同1110人)、70歳以上は1502人(同10人)で、すべての年齢階層で大幅に増加している。  現在の60歳以上の従業員数は8854人(同3531人)。受賞後の5年間で、60歳以上の従業員数は2.5倍増、70歳以上にかぎっては150倍増となっている。  高齢従業員のほとんどは、レストランの店舗や食品工場で働いている。 3 パート・アルバイトの再雇用上限年齢を70歳から75歳に引上げ  2018年当時の定年・継続雇用制度は、「定年65歳。就業規則等により希望者全員を70歳まで再雇用」であった。定年後の雇用区分は、パート・アルバイトになる。また、65歳から70歳までのパート・アルバイトのクルーには「ベテランズクルー制度」があり、制度の対象者は週の労働時間を20時間未満とし、1年ごとに契約を更新する。クルーの健康面に配慮して整えた制度である。  定年年齢は現在も65歳で変わりはないが、2019年に再雇用の上限年齢を75歳に引き上げた。現在の最高齢従業員は75歳で、店舗で活躍しているという。  再雇用の上限年齢を75歳に引き上げた動機を、中西ディレクターは次のように説明する。  「少子高齢化が進んでいくなかで働く人を増やしていくことに加えて、65歳から70歳までのベテランズクルーとして活躍する従業員のなかには、『まだまだ働いていたい』という意向を持つ人が多く、そうした声を現場で聞いている店長からの要望もあり、健康で意欲と能力があるかぎり働き続けることができる職場環境づくりを目ざして、制度をあらためました」  ここ数年は、求人への70歳超の人からの応募も多くあり、実際、採用もしている。制度改定から6年が経過するなか、70歳以上の従業員数は約1500人となり、これまでにつちかった経験や知識を活かして活躍している。  「昨今、人手不足といわれているなかでも、シニアの方々にしっかりと活躍していただくことで、当社では店舗の営業がスムーズに行われています。シニアの方々は特に定着率がよいのですが、長く安定して働かれていることによって店舗の安定感も増し、お客さまの安心感にもつながっていると感じています」(中西ディレクター)  パート・アルバイトの再雇用上限年齢を75歳に引き上げた後、同社は一般向けの採用ホームページとは別に、シニア向けの採用ホームページを新設した。この採用サイトでは、「全国のすかいらーくのお店で50代以上の方が多数活躍しています!」と呼びかけ、「ライフステージやライフスタイルに合わせ、自分のペースで勤務可能です」、「未経験でも安心!仕事を覚えるまで、分かりやすく、繰り返し教えます」と働き方などを説明。さらに、実際に働いているシニアの声と写真を掲載。また、同グループ全店で使える食事の割引券が福利厚生の一環で従業員に提供されることや、有給休暇制度や社会保険も完備していることなどもわかりやすく伝えている。そして、働きたい場所や同社のレストランのブランドから、求人情報を検索できるようになっている。  このサイトを通して、仕事内容や職場の様子をある程度理解してから応募する人が増えてきており、採用後すぐに辞めてしまうなどのミスマッチが少なくなったという。 4 パート・アルバイトの評価制度を拡充モチベーションと定着率の向上をうながす  同社では、パート・アルバイト従業員の個々の業務スキルや店舗運営への貢献度を、客観的な基準に基づいて評価し、時給に反映させる評価制度を以前から導入している。2025年には内容をあらためて充実を図った。  それまでは「1〜16号」としていたスキルの等級を「1〜25号」に拡充し、どんなことができれば等級が上がっていくのかを明確にした。入社時は「ビギナークルー(1号)」からスタートし、最短、満1カ月で次の等級の「レギュラークルー(2〜5号)」に昇格することができ、それに応じて昇給もする。「明確なキャリアパスと評価制度によって一人ひとりの成長意欲をうながし、すべてのクルーのモチベーションと定着率の向上を目ざしています」と中西ディレクター。等級が上がれば昇給につながるので、70歳を過ぎて昇給するクルーもいるそうだ。  一方、シニアも安心して働くことができる職場環境づくりとして、ベテランズクルー制度では従来通り週の労働時間は20時間未満と定めるほか、企業に求められる安全配慮義務の観点から、70歳以上の従業員については、勤務時間中に1人のみで店舗または事業場にいないこととしている。 5 DXの活用を進めて、シニアも働きやすい職場づくりに取り組む  大臣表彰受賞後に始めた取組み、あるいは拡充した取組みはほかにもある。シニアにかぎらず、外国籍、障害者などあらゆる人たちが働きやすい職場の実現に向けた取組みだ。 (1)DXの活用  接客や店舗内清掃、レジ操作などの業務については、以前から動画マニュアルを活用しているが、それらを個々の従業員のキャリアに応じて段階的に学べるように内容を拡充した。  また、かつてのレストランでは従業員が端末を手にしてテーブルで注文を聞き入力していたが、現在はデジタルメニューブックを導入した。これによりテーブルの客が好きなタイミングで随時オーダーすることができ、従業員は端末操作の必要がなくなった。さらに、配膳作業ロボットの導入を進めており、例えば、重い鉄板皿の料理などはロボットに運んでもらうことで従業員の負担が軽減された。ほかにも、教育ツールの多言語化、セルフレジの導入拡大などに取り組んでいる。  シニア世代は、DXに苦手意識を持つ人も多いのではないかと気になるが、だれもが扱いやすい使い勝手のよいものを導入することで、苦手意識を持つ人も難なく使うことができる、そうしたDX化を推進しているという。 (2)AIを使った体力測定を導入  転倒災害の防止とシニア従業員の健康管理に配慮した環境づくりの取組みの一環として、食品工場で働く60歳以上の全従業員を対象にして、AIを使った体力測定システムを2025年度に導入した。バランス力や柔軟性などをチェックして、自身の体力年齢やリスクを客観的に知ることができ、一人ずつ簡単な操作で行えるため、今後活用を広めて転倒災害の防止を図っていく。  健康と安全については、「従業員の心身の健康なくして、企業の成長なし」という考えのもと、人事総務本部に「健康・労務チーム」を配置し、従業員の安全衛生管理、労務管理をにない、相談対応も行っている。 6 シニアの就業体験イベントに出展参加シニアが年々増えている  大臣表彰優秀賞の受賞以前からの取組みで、勤続30年、40年の従業員を表彰する制度がある。2025年は、クルー87人が、都内のホテルで開催された「勤続記念 感謝パーティー2025」で表彰された。「60代、70代の方が多く、若いスタッフの教育をはじめ、店舗のある地域との交流など重要な役割をになっているクルーです。大切な人材ですので、感謝を伝える会を毎年実施するのですが、『元気なかぎり、がんばって仕事を続けたい』とみなさんうれしそうに話されます」と中西ディレクター。  このほか、従業員が友人をクルー仲間として紹介できる制度も好評だという。紹介した友人が入社すると、紹介した従業員・された従業員それぞれが食事券(グループ全店で利用できる)をもらえる。クルーの5人に1人がこの制度を通じて採用されているという。紹介で採用された従業員は、長く働く人が多いそうだ。  また、週末や繁忙期の勤務実績に応じて付与している福利厚生のポイント制度も、従業員に人気があるそうだ。貯まったポイントは、同社グループの店舗での食事などに利用可能である。  同社は、コロナ禍のあとの2024年から2025年にかけて、「店舗中心経営」への転換を強力に推し進めている。グループ全体の戦略で、「人財に投資することで、従業員満足度が向上し、定着率が高まり、その結果としてサービスの質が向上し、お客さまにご満足いただけることで企業収益も増加し、持続的な賃上げも実現可能となる好循環が生まれる、という考えに基づくものです。現在すべての従業員に対してさまざまな改革を進めていますが、こうした戦略の転換もシニアの方々の雇用増につながっていると考えています。2018年の受賞時と現在の当社をあらためて比べてみると、シニアの方々の活躍が確実に拡大しています。そこで積まれた実績と現場の声に後押しされ、制度の改定がなされ、働きやすい環境整備が進んできたと思います。さらに向上を目ざします」(中西ディレクター)  2025年10月、同社は東京都が主催する「シニアしごとEXPO2025」に出展した。3年連続で就業体験ブースを出展しており、参加者は年々増えているそうだ。新宿と八王子(はちおうじ)の2日間の開催で、2025年は200人超(前年は120人)のシニアが参加し、和食ファミリーレストランの就業体験を行った(写真)。  体験では、「私には無理そう」としり込みしていたシニアが、やってみると関心を持って就業を検討したり、その場で面接をして採用につながった人もいたという。同社で活躍するシニアはさらに増えていく勢いだ。 ※2020(令和2)年度までの名称は「高年齢者雇用開発コンテスト」 写真のキャプション 人事総務本部人事採用グループの中西匠ディレクター 株式会社すかいらーくホールディングス本社(写真提供:株式会社すかいらーくホールディングス) 東京都主催「シニアしごとEXPO2025」に出展し、来場者の好評を博した(写真提供:株式会社すかいらーくホールディングス) 【P48-51】 知っておきたい 労働法Q&A  人事労務担当者にとって労務管理上、労働法の理解は重要です。一方、今後も労働法制は変化するうえ、ときには重要な判例も出されるため、日々情報収集することは欠かせません。本連載では、こうした法改正や重要判例の理解をはじめ、人事労務担当者に知ってもらいたい労働法などを、Q&A形式で解説します。 第92回 定年後再雇用と雇止めにおける期待可能性、会社に無断の副業と労働時間の通算 弁護士法人ALG&Associates 執行役員・弁護士 家永 勲/弁護士 木勝瑛 Q1 定年後の継続雇用について、更新をしない前提で有期労働契約を締結してもよいのでしょうか  定年を迎える労働者との間で継続雇用に関する面談を予定しているのですが、社内において協調性が低く業務遂行に支障があり、本人の意思は不明瞭ではあるものの転職も視野に入れているかのような噂も耳にしています。通常の継続雇用とは異なり、一定期間の転職に必要な期間のみを有期雇用として、更新予定がないという内容で有期労働契約を締結してもよいでしょうか。 A  解雇事由または退職事由に相当する事情があり、客観的に合理的な理由および社会通念上の相当性がないかぎり、65歳を超えるまで、有期労働契約を終了させることはできません。 1 継続雇用制度について  労働者を雇用している事業主は、高年齢者雇用安定法により、65歳までの雇用安定のために、@定年年齢の65歳までの引上げ、A65歳までの継続雇用制度の採用、B定年制の廃止という選択肢のうち、いずれかを採用する必要があります。  また、65歳を超えてからについては、就業機会の確保も含めて、@定年年齢の70歳までの引上げ、A70歳までの継続雇用、B定年制の廃止、C70歳までの業務委託契約締結、D70歳まで継続的に社会貢献事業に従事できる制度という選択肢のうち、いずれかを採用する努力義務も定められています。  現行法において、法的に義務化されているのは65歳までの継続雇用ですが、厚生労働省は、この継続雇用に関して、「就業規則に定める解雇事由又は退職事由(年齢に係るものを除く。以下同じ。)に該当する場合には、継続雇用しないことができる」としつつも、「継続雇用しないことについては、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当であることが求められると考えられることに留意する」と定めています。  そのため、継続雇用について、使用者に広い裁量があるものではなく、継続雇用しないという判断には、客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性が必要と解釈しています。 2 定年後2カ月で「更新なし」と合意したことについて判断した裁判例  東京地裁令和7年5月30日判決で、定年後の継続雇用において2カ月間という短期間を定めたうえで、「更新なし」として有期労働契約を締結し、2カ月間の期間満了を理由として雇止めを行った事案について、その有効性に関して判断されました。  定年退職後の再雇用契約締結に至る経緯に関して、使用者から継続雇用することはできない旨を労働者に伝えたところ、労働者より転職活動をするための時間が必要と求められ、定年退職日を延長する提案を行い、2カ月間の有期労働契約をもって、それに対応し、労働者も当該2カ月という期間や「更新なし」という条件を含めて了承したというのが、使用者からの主張です。労働者においては、退職することをほかの従業員にも挨拶して回っていたという事情も使用者から主張されています。  労働契約法第19条においては、有期労働契約の雇止めに関して、@反復更新されて無期労働契約に対する解雇と同視できる場合、または、A更新されると期待することについて合理的な理由があると認められる場合には、解雇と同様に、客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性が認められないかぎり、有期労働契約を終了させることはできないとされています。  通常の有期労働契約であれば、初回の契約締結である以上、@の無期労働契約との同視はできず、有効期間が2カ月で「更新なし」と明記されている場合であれば、Aにおける合理的な理由に基づく更新への期待も認められないことが一般的です。  しかしながら、当該裁判例では、厚生労働省が定める継続雇用に関する指針を参照しつつ、「高年法の定め及び本件指針の内容を踏まえると、使用者において定年後再雇用の継続雇用制度が採用されている場合、解雇事由又は退職事由に該当しない限り、…定年による雇用契約終了後に再雇用契約を締結した労働者には、定年後再雇用の上限まで契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があって、再雇用契約の締結又は更新を拒否することについて、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、これを拒否することはできないと解するのが相当である」と判断しました。  この判断は、継続雇用制度の期間中は、解雇事由または退職事由がないかぎりは、65歳まで継続雇用されるという期待が、労働契約法第19条に基づく合理的な理由に基づく更新への期待として保護されるということを示しています。  厚生労働省が継続雇用に関する指針として定めている解雇事由または退職事由がある場合には、継続雇用をしないことができるが、客観的に合理的な理由および社会通念上の相当性が必要であるという解釈は、裁判所においても同趣旨で採用されていることには留意する必要があります。 3 裁判例におけるその他の事情  当該裁判例においては、定年退職前に、同僚が、友人としてのアドバイスと前置きしつつ、定年後に辞めるべきだと思う旨、就職活動をする期間がないので退職日を延長するべきと思っており、出勤は一切しなくてもいい、延長して、給料を満額払います、という扱いをすべきと思っている旨を伝えるなどしています。  この同僚の方がどういう意図があったのかということまでは明確ではありませんが、投げかけている提案を見るかぎりは、退職勧奨に該当するような提案の仕方になっています。こういった働きかけのもと、真意としても退職を選択したのであれば、合意退職が成立していたということになるのであろうと思われます。  しかしながら、真意をくみ取らずに無理に合意退職にしたり、裁判例のように短期間の有期労働契約を締結することは、高年齢者雇用安定法の趣旨に反する取り扱いとして、違法になるおそれがあるので、留意する必要があります。 Q2 社員の無断副業が発覚したのですが、時間外の割増賃金を当社が支払わないといけないのでしょうか  このたび社員が、会社に無断で、当社の就業時間後に1時間の副業を行っていたことが判明しました。どうやら当社に入社前からの副業のようです。当社の一日の所定労働時間は8時間としていますが、副業先での労働時間を合わせると一日の法定労働時間を超過することになります。この場合、当社は時間外の割増賃金を支払わなければならないのでしょうか。 A  貴社が労働者の副業を認識していなかった場合には、貴社は、時間外の割増賃金の支払義務を負わないと判断される可能性があります。他方で、貴社が労働者の副業を認識していた場合には、1時間分について、法定外の割増賃金の支払義務を負う可能性があります。 1 法定外労働時間について  労働基準法では、「使用者は、労働者に、休憩時間を除き1週間について40時間を超えて、労働させてはならない」(労働基準法第32条1項)、「使用者は、1週間の各日については、労働者に、休憩時間を除き1日について8時間を超えて労働させてはならない」(同第32条2項)と規定されています。  もっとも、労使協定(いわゆる三六協定)の締結および届出がなされた場合には、上記規定にかかわらず、三六協定により認められた範囲においては、法定労働時間の規制を超えて労働させることが可能となります(同第39条)。  なお、法定時間外労働がなされた場合には、通常の賃金額に25%以上の割増率を乗じた賃金の支払いが必要となります(同第37条)。  例えば、一日9時間働いた場合には、法定内労働時間が8時間、法定外労働時間が1時間となりますので、法定外労働時間の1時間分について割増賃金の支払義務が生じることになるのです。 2 労働時間の通算 (1) 副業・兼業時の労働時間の考え方  では、異なる事業所や異なる使用者のもとで副業ないし兼業して働いた場合の労働時間はどのように考えるべきでしょうか。  これについては、同第38条1項が規定しています。同項は、「労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する」と規定しています。なお、「事業場を異にする場合」とは、同一の使用者のもとで事業場を異にする場合のみならず、別使用者で事業場を異にする場合も含むとされていますので(昭和23年5月14日基発769号)、副業ないし兼業時にも同第38条1項が適用されることになるのです。  そして、通達(令和2年9月1日基発769号)によれば、時間外労働の労働者単位の上限規制(休日労働も含めて単月100時間未満、複数月平均80時間以内)や、割増賃金の支払義務は、通算された時間に対して適用されるとされています。 (2) 通算により法定外の労働時間が発生した場合  では、通算の結果、法定外の労働時間が発生した場合の割増賃金は、いずれの事業所が支払うことになるのでしょうか。  通達(令和2年9月1日基発769号)によれば、まず労働契約の締結の先後の順に所定内労働時間を通算し、次に所定外労働時間の発生順に所定外労働時間を通算することによって、通算した労働時間全体を把握し、そのうち法定労働時間を超える部分で自ら労働させた時間について、時間外労働の割増賃金の支払義務を負うとされています。  なお、労働者が使用者に無断で副業や兼業を行っていた場合にまで割増賃金の支払義務を生じさせることは不合理であることから、「労働者からの申告等がなかった場合には労働時間の通算は要せず、また、労働者からの申告等により把握した他の使用者の事業場における労働時間が事実と異なっていた場合でも労働者からの申告等により把握した労働時間によって通算していれば足りる」とされています(令和2年9月1日基発769号)。 3 タイミー事件  労働時間の通算に関して判示した近年の裁判例として、タイミー事件(東京地裁令和7年3月27日判決)がありますので見ていきましょう。  裁判所は、「労働者が複数の事業主の下で労働に従事し、それらの労働時間数を通算すると労基法32条所定の労働時間を超える場合には、労基法38条1項により、時間的に後に労働契約を締結した事業主はその超えた時間数について割増賃金の支払義務を負うとされている」としたうえで、「当該労働者が他の事業主の下でも労働しており、かつ、同所での労働時間数と通算すると労基法32条所定の労働時間を超えることを当該事業主が知らなかったときには、同事業主の下における労働に関し、当該事業主は、労基法38条1項による割増賃金の支払義務を負わないものというべき」としました。  そして、「本件では、原告がA社において勤務していた間、事業主であるA社が、原告からの申告等により、他の事業主の下における労働時間と通算すると原告の労働時間が労基法32条所定の労働時間を超えることを知っていたとは認められない」、「A社あるいは被告において、労基法38条1項の規定を念頭に置いて、原告の申告等がない場合にも、自ら、他の事業主の下での労働について原告に確認する義務を負っていたものと解すべき根拠は見出せ」ないなどと認定し、事業主の割増賃金の支払義務を否定しました。 4 ふり返り  前述の通り、労働者が使用者に無断で副業や兼業を行っていた場合にまで割増賃金の支払義務を生じさせることは不合理であることからすれば、割増賃金の支払義務を否定したことは妥当な判断と思われます。 【P52-53】 諸外国の高齢化と高齢者雇用 第4回 デンマーク、スウェーデン、ノルウェー 独立行政法人労働政策研究・研修機構 人材開発部門 副統括研究員 藤本(ふじもと)真(まこと)  世界でもっとも高齢化が進行している国が日本であることは、読者のみなさんもご存じだと思いますが、高齢化は世界各国でも進行しており、その国の法制度に基づき、高齢者雇用や年金制度が整備されています。本連載では、全6回に分けて、各国における高齢者雇用事情を紹介します。第4回は北欧のデンマーク、スウェーデン、ノルウェーです。 福祉国家である北欧諸国でも高齢化が課題に 北欧諸国は、包括的な福祉国家体制、高い税負担と再分配機能、柔軟性と安全性の両立、平等主義といった、経済・社会体制上の特徴(いわゆる「北欧モデル[Nordic Model]」)を共有しているといわれます。しかし北欧諸国においても徐々に高齢化は進んでおり※、現役世代が高齢世代を支える伝統的な賦課方式の年金財政の圧迫や、労働供給の制約による経済成長の鈍化が懸念されています。  今回は北欧諸国のうち、デンマーク、スウェーデン、ノルウェーを取り上げ、経済・社会体制を持続可能なものへと再構築するプロセスにおいて、高齢者の就業にかかわる諸制度や慣行がどのように扱われ変化してきているか、また、そうしたなかでの高齢者の雇用・就業をめぐる現状と課題について見ていきます。 年金制度における「自動調整メカニズム」の厳格な運用と高齢者就業促進――デンマーク  ヨーロッパ諸国の多くは、少子高齢化にともなう財政負担の増大を抑制するため、人口動態や経済状況の変化に合わせ、給付額や受給開始年齢を自動的に調整する仕組みを年金制度において導入しており、なかでもデンマークはこの「自動調整メカニズム」を厳格に適用していることで知られています。デンマークの自動調整メカニズムの基礎は、2006(平成18)年の「福祉協定(Velfardsforliget)」によって確立されました。この協定は、公的年金受給開始年齢を、平均余命の上昇に合わせて5年ごとに見直すことを法制化したもので、長期的な年金受給期間を14.5年に固定することを目標としています。この協定の施行により、デンマークの公的年金受給開始年齢は、2030年には68歳、2035年には69歳へと引き上げられることが確定しています。  公的年金受給開始年齢の引上げに対応するため、デンマークでは高齢者の就業に関連した諸制度の改革が行われました。従来は雇用契約や労働協約において70歳での強制退職を定めることが認められていましたが、2016年1月に施行された改正差別禁止法により、一部の例外を除いて特定の年齢に達したことを理由に自動的に退職となる条項を設けることは違法となりました。また、長年の重労働に従事した労働者を保護する目的で設けられていたものの、実際は中産階級の早期引退手段として広く利用されていた「早期退職制度(Efterlon60歳から公的年金開始までの間、失業保険基金を通じて給付を受けられる制度)」が2011年に改革され、  受給期間が5年から3年に短縮されました。これら政策転換の効果もあり、デンマークの55〜64歳の雇用率は2000年の56%から2020(令和2)年には71%へと伸びました(Hal vorsen 2021)。もっともフレキシキュリティ・モデルに基づくデンマークの労働市場においては解雇が比較的容易で、高齢者もその対象となりうるのですが、高齢者が一度職を失うと、長期失業に陥るリスクは若年層よりも高く、「シニア・プレカリアート(不安定雇用高齢者)」となる懸念が指摘されています(Marold and Larsen 2009)。 「ワーク・ライン」の徹底――スウェーデン・ノルウェー  一方、スウェーデンとノルウェーは、「働ける人は皆、福祉に頼るのではなく、労働を通じて社会に貢献し、自立するべき」という、「ワーク・ライン」(スウェーデン:Arbetslinjenノルウェー:Arbeidslinja)の原則が、社会政策・労働政策において貫かれている点で共通しており、高齢者の雇用・就業にかかわる政策にもこの原則が反映されています。  スウェーデンの雇用保護法(LAS Lagen om anstallningsskydd)は、解雇規制についての 基本法です。同法は「雇用主が特段の理由なく雇用を終了できる年齢(LAS年齢)」を規定しており、このLAS年齢が事実上の定年として機能しています。近年、高齢者の働く権利を強化するため、LAS年齢の上限引上げが断続的に行われており、2020年には67歳から68歳へ、2023年には68歳から69歳へと引き上げられました。  またスウェーデンでは、平均余命に連動した「目安年齢(Riktalder)」という概念が導入されています。目安年齢は社会保険庁が毎年算出しており、公的年金の受給開始年齢や、失業保険・疾病手当の給付終了年齢などが、この年齢やその周辺年齢に自動的にリンクします。これにより、社会保障制度全体が整合性を持って「就労延長」へとシフトする設計になっています。さらに、2007年には年金をもらいながら働くことのメリットを大きくする目的で、「勤労所得税額控除(Jobbskatteavdrag)」が導入され、勤労所得に対する税率が年金所得に対する税率よりも低く設定されるようになりました。  ノルウェーでは、2015年に労働環境法(Arbeidsmiljoloven)が改正され、雇用主が一方的に雇用契約を終了できる「一般年齢制限(aldergrense)」が、70歳から72歳へと引き上げられました。もっともこの改正の後も民間企業では、健康・安全上の理由などを根拠に就業規則で「70歳定年」を定めることが認められていました。しかし、2026年1月1日に一般年齢制限が官民問わずに72歳に統一され、企業における70歳定年は廃止されています。  高齢者に関連した制度におけるノルウェーの特徴として、年金を受給しながらどれだけ働いて稼いでも、年金が減額されない点をあげることができます。ノルウェーでは62歳から75歳の間で自由に年金の受給開始時期を選ぶことができ、開始が早いほど受給月額はより少なくなりますが、「62歳で年金を受給しつつ、フルタイム勤務を継続し、給与と年金を得る」という選択も可能です。この仕組みは高齢者の労働供給のモチベーションを強力に刺激すると同時に、早期受給による受給額低下(長生きリスク)を個人に負わせる仕組みともいえます。 【参考】 Halvorsen, B. E. (2021)“High and rising senior employment in the Nordic countries” Marold, J. and Larsen, M. (2009) “How “flexicure” are older Danes?” ※国立社会保障・人口問題研究所の「人口統計資料集(2025年版)」によると、1990(平成2)年から2020(令和2)年にかけての65歳以上人口の割合の推移は、デンマーク15.6%→20.0%、スウェーデン17.8%→20.1%、ノルウェー16.3%→17.7%となっている 【P54-55】 いまさら聞けない人事用語辞典 株式会社グローセンパートナー 執行役員・ディレクター 吉岡利之 第65回 「ILO(国際労働機関)」  人事労務管理は社員の雇用や働き方だけでなく、経営にも直結する重要な仕事ですが、制度に慣れていない人には聞き慣れないような専門用語や、概念的でわかりにくい内容がたくさんあります。そこで本連載では、人事部門に初めて配属になった方はもちろん、ある程度経験を積んだ方も、担当者なら押さえておきたい人事労務関連の基本知識や用語についてわかりやすく解説します。  今回は、「ILO(国際労働機関)」について取り上げます。なんとなく聞いたことがあるものの、実際にはよくわからないという方も多いと思いますが、じつは経営者・労働者双方にとってかかわりの深い組織です。 ILOとはそもそもなにか  ILOはInternational Labour Organizati-onの略称で、日本語訳では「国際労働機関」といいます。1919(大正8)年6月に設立された国際連合の専門機関※1で、創設100年以上の長い歴史を誇っています。本部はスイスにあり、現在187カ国が加盟しています。日本は設立当初からの加盟国です(1940〈昭和15〉年に脱退し、1951年に再加盟)。また、日本はILOの通常予算に対する第3位拠出国で米国・中国に次ぐ位置にあります。これらにみられるように、まずはILOと日本のかかわりは深いことを押さえておいてください。  では、ILOとはそもそも何をする組織なのかについてみていきましょう。国際連合広報センターのサイトには、ILOとは「世界中のすべての人が、自由、公平、安全、人間としての尊厳が確保された条件のもとで、ディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)の機会を促進すること」を使命とした機関とあります。ILO駐日事務所によると、幅広い労働の問題に全力で取り組む国際機関であり、次の主要な四つの戦略目標を数々の手段を用いて実現していくとあります。 ・仕事の創出…必要な技能を身につけ、働いて生計が立てられるように、国や企業が仕事をつくり出すことを支援。 ・社会的保護の拡充…安全で健康的に働ける職場を確保し、生産性も向上するような環境の整備。社会保障の充実。 ・社会対話の推進…職場での問題や紛争を平和的に解決できるように、政・労・使の話し合いの促進。 ・仕事における権利の保障…不利な立場に置かれて働く人々をなくすため、労働者の権利の保障、尊重。  ILOが特徴的なのは、社会対話の推進のところにあるように、政府(政)・労働者(労)・使用者(使)が対等に参加する「三者構成」で運営されている点といわれています。これは国際機関のなかでも唯一の運営体制といわれており、労働問題を解決していくためには、もっとも切実な利害関係者である労働者と使用者の参画が不可欠とされているからです※2。 ILOと私たちとのかかわり  ILOに関する概要を押さえたところで、実際に私たちにどのようにかかわってくるのかをみていきましょう。  もっともかかわりの大きいものに、ILOの使命や目標を達成するための国際的な労働基準の設定があります。設定の対象は、強制労働の禁止、雇用・職業の差別待遇の排除などの基本的人権に関連するものから、労働条件、労働安全衛生、社会保障など、労働に関連するあらゆる分野に及んでいます。  これらの基準に実効性を持たせるために「条約」と「勧告」という手段を用いています。条約は、2カ国以上の加盟国が批准(ひじゅん)することで国際的に発効し、批准国は条約を実施するために必要な措置を執るという国際的な義務を負うことになります。一方で、勧告は加盟国の事情が相当に異なることに配慮し、各国に適した方法で適用できる指針となるものです。条約には拘束力があるが、勧告にはないという関係になります。なお、現在の条約数は全体で191(うち撤回・廃止11、棚上げ19)、勧告数208(うち撤回36、置き換え22)という状況です※3。  日本の批准条約数は50です。詳細な内容と批准・未批准の情報に関心のある方は、インターネットで公開されている『国際労働基準 ILO条約・勧告の手引き2025年版』(ILO駐日事務所 編集・発行)※4をご参照いただき、本稿では、中核的労働基準に絞ってみていきます。  中核的労働基準とは、労働に関する最低限の基準を定めたものであり、5分野・10条約で構成されています(図表)。このうち8条約は批准されていて、「雇用及び職業についての差別待遇に関する条約(111号)」と「職業上の安全及び健康に関する条約(155号)」は未批准の状態です。条約を批准すると必要措置を執る義務が発生しますので、具体的に労働法制に反映していくことになります。この反映にあたっては、厚生労働大臣の諮問(しもん)機関である労働政策審議会(労政審(ろうせいしん))※5で審議にかけられたのち、国会で審議され法案成立というプロセスを執ることになります。  当然ながら法として整備された後は企業・労働者ともに遵守する必要があるため、ILOの活動は私たちの賃金や働き方に大きくかかわってくるといえます。例えば、現在の労働時間の基本である1日8時間、週40時間の基準は、ILOの条約や勧告に沿ったものです※6。今後の動きとしては、先述の職業上の安全及び健康に関する条約(155号)について条約締結に向けた手続きを進めていく予定で、国内の労働安全衛生政策に大きな影響を与えることが想定されます。 * * *  次回は「過重労働対策」について取り上げます。 ※1 国連の専門機関とは、経済・社会・文化・教育・保健その他の分野で国際協力を推進するために設立された国際機関。よく知られている機関では、WHO(世界保健機関)、UNESCO(国際連合教育科学文化機関)がある ※2 日本労働組合総連合会(連合)ホームページ「労働法制の決定プロセスと三者構成原則」より。https://www.jtuc-rengo.or.jp/rengo_online/2023/07/20/1563/ ※3 ILO駐日事務所のサイト「数字で見る国際労働基準(2023年8月時点)」https://www.ilo.org/ja/reqions-and-countries/国際労働基準(基準設定と監視機構) ※4 ILO駐日事務所のサイトhttps://www.ilo.org/ja/publications/国際労働基準:ilo条約・勧告の手引き2025年版 ※5 労働政策審議会についても、公(公益代表委員)・労(労働者代表委員)・使(使用者代表委員)の三者構成で議論が行われている ※6 第1号条約に定められた内容だが、日本は直接の批准は行っていない 図表 中核的労働基準 5分野・10条約 結社の自由・団体交渉権の承認 結社の自由及び団結権の保護に関する条約(87号) 団結権及び団体交渉権についての原則の適用に関する条約(98号) 強制労働の禁止 強制労働に関する条約(29号) 強制労働の廃止に関する条約(105号) 児童労働の禁止 就業の最低年齢に関する条約(138号) 最悪の形態の児童労働の禁止及び廃絶のための即時行動に関する条約(182号) 差別の撤廃 同一価値の労働についての男女労働者に対する同一報酬に関する条約(100号) 雇用及び職業についての差別待遇に関する条約(111号) 安全で健康な労働条件 職業上の安全及び健康に関する条約(155号) 職業上の安全及び健康促進枠組条約(187号) 出典:日本労働組合総連合会ホームページ(中核的労働基準とILO) https://www.jtuc-rengo.or.jp/activity/kokusai/ilo/ 【P56-57】 BOOKS 再雇用制から65歳定年制へ。制度改革の進め方を徹底解説! 65歳定年制への移行の実務 荻原(おぎはら)勝(まさる) 著/経営書院/2640円  高年齢者雇用安定法に基づく経過措置の終了により、2025(令和7)年4月から働く意欲のある希望者全員を65歳まで雇用することがすべての企業に義務化された。  これを受けて、60歳の定年後に嘱託社員などとして65歳まで再雇用する制度を整えた企業が多くみられるなか、著者は「高齢者の安定した雇用の確保」をはじめ、「能力と経験の有効活用」、「モチベーションの向上」などの観点から、また、少子高齢化の影響で労働力不足、人手不足がさらに進行すると予測されることもふまえ、「65歳までの継続雇用は、再雇用制ではなく、定年延長が望ましい」との見解を表明。  本書は、この見解に立ち、65歳定年制への移行を具体的にどのように進めていけばよいかを説明する。実務に即した全10章の構成で、定年延長へ向けての社内機運の醸成や、段階的な定年延長、給与・賞与・退職金制度の見直し、勤務時間・休日・休暇のあり方、多様な働き方などについて解説。さらに、中高年のエンゲージメントや自己啓発支援、ITリテラシー、高齢期の健康問題にも言及している。  労使双方にとって有意義な制度改革を進めるために、手にとりたい実用書である。 会話形式で理解しやすい!過度な要求や苦情などカスハラ対応20事例 実践 カスタマーハラスメント 対応ケーススタディ 日本能率協会コンサルティング 編著/経団連出版/2420円  顧客や取引先などからのひどい暴言、不当な要求などをさす「カスタマーハラスメント(カスハラ)」が社会問題の一つとなっている。このため、労働施策総合推進法の改正により、2026(令和8)年中にカスタマーハラスメント(カスハラ)防止対策構築がすべての企業に対して義務化されることになった。  本書は、20年以上にわたり悪質な苦情への組織的な備えや、対応する従業員のスキルアップなどを支援してきたコンサルタントら2人が、組織・企業として従業員が安心して働ける職場をつくるという観点で、カスハラ対応の基本的な考え方から、適切な対応、そのポイントを解説する。ケーススタディでは、実際にメーカーや保険会社、通販会社、カフェなどで起こり得る20のケースについて、多様な登場人物によるドラマ仕立ての会話形式により「望ましくない対応」と「あるべき対応」を紹介。さらに、各ケースの対応のポイントを説明して、理解が深められる内容になっている。  法改正にともない「カスハラ防止対策」に取り組む企業の担当者や、顧客や取引先に対応する現場スタッフ、管理職などさまざまな立場のビジネスパーソンに役立つ一冊となっている。 対話型の人事制度が会社も社員も成長させ、潜在能力を最大化する! 改訂増補第2版 ダイアローグ(対話)型人事制度のすすめ 島森(しまもり)俊央(としひさ)・吉岡(よしおか)利之(としゆき) 著/日本生産性本部生産性労働情報センター/2420円  会社の経営戦略が現場に浸透し、現場のメンバーがそれを実行して結果を出せば、企業と社員がともに成長できる。しかし、経営戦略が現場に浸透しない、会社全体が進むべき方向に向いていない、という状況はめずらしくない。  本書は、こうした課題を解決するため、ダイアローグ(対話)をベースとした「戦略浸透会議」や「人材育成会議」などを組み込んだ人事制度の構築と運用によって、会社の潜在能力を最大化する方法を解説している。  初版の発行から十余年が経過し、人事をとりまく状況には変化が生じているが、「日常の職場にダイアローグの機会を増やすこと」、「戦略・方針を効果的に浸透させ実行させること」などの本書の内容は現在の状況にも対応できるうえ、「より一層必要とされている」と著者。ただし、初版時の考え方の根本は大切にしつつ、本書には、著者の考え方が変わった部分や最新の情報をとり入れ、また、第4章の事例紹介を具体的なイメージが湧くようにリニューアルした。  著者の一人、吉岡氏は、本誌の長期連載「いまさら聞けない人事用語辞典」(54ページ)の筆者でもある。人事担当者に加え、経営のヒントを得たい経営者らにもおすすめの内容である。 働きやすい職場をつくる仕組みとは? 定着率9割超の会社が実践する取組みと考え方 生成AIでわかった経営者のための人財定着術 小山(こやま)昇(のぼる) 著/あさ出版/1870円  本書は、入社3年以内の新卒社員の定着率が91%、勤続10年以上の社員133人中、過去10年間の退職者はわずか5人という、社員数約300人の企業「株式会社武蔵野」が実践する採用と定着の仕組みを公開し、「人財」確保のカギとなるマネジメントの本質を提示する。  同社ではなぜ、人が辞めないのか。その理由を探るため、同社の社内ナレッジなどをデータ化し、まずAIを使って分析・検証した。AIが注目したのは「会社」、「仕事」、「人間関係」の三つの観点。いずれにも満足できる環境が整うと、結果として高い定着率が実現するという。  本書の特徴は、AIの分析結果をもとに、「なぜそれが定着につながるのか」、「どのような視点で仕組みをつくるべきか」を、同社で実践している取組みや考え方を掘り下げて紹介している点にある。そこには、社員教育の大切さ、やる気を引き出すコミュニケーション方法、お局さまも派閥も生まない人事異動、感謝の言葉が潤滑油になるといったさまざまな工夫がある。最終章では、社員の人生を応援する働きやすい仕組みとして、パートの働き方が「妥協」ではなく「選択」になる仕組みなどを紹介。高齢者雇用に役立つ情報も織り込まれている。 初学者や人事労務担当者におすすめ。復職後フォローまでの流れを学べる実用書 8ステップ・42タスクで対応する メンタルヘルス不調者への職場復帰支援 森川(もりかわ)隆司(たかし) 著/セルバ出版/1870円  2025(令和7)年に公益財団法人日本生産性本部が実施した「メンタルヘルスの取り組み」に関する企業アンケート調査結果によると、「最近3年間における『心の病』」が「増加傾向」と回答した企業は約4割(39.2%)で、前回調査(2023年)を下回ったものの、依然として高水準が続いている。そうしたなか、対応に苦慮している企業は少なくないようだ。  本書は、メンタル不調者の対応について経験がない、あるいは経験が少ない人事労務担当者に向けて、メンタルヘルス対策や休職からの復職支援の対応とそのヒントを平易な言葉で解説している。具体的には、「休職・復職支援で大切なこと」を説いたうえで、不調者発見から休職中の対応、復職判断、復職後フォローまでの流れを八つのステップに分解し、それぞれのステップで行うべきタスクを整理。休職者個人のスキル開発や、組織の職場環境改善まで視野に入れた対応を学ぶことができる内容となっている。  著者は、臨床心理士、公認心理師の資格を持ち、コンサルティングサービスや職場環境改善、復職支援など年間100社以上の支援にたずさわっている。企業の人事労務担当者にとって、実用的な情報が得られる一冊といえるだろう。 ※このコーナーで紹介する書籍の価格は、「税込価格」(消費税を含んだ価格)を表示します 【P58】 NEWS FILE 行政・関係団体 厚生労働省 「第20回中高年者縦断調査(中高年者の生活に関する継続調査)」結果を公表  厚生労働省は、同じ集団を対象に毎年実施している「中高年者縦断調査(中高年者の生活に関する継続調査)」の第20回調査の結果を公表した。  調査は、2005(平成17)年10月末に50〜59歳だった全国の中高年者世代の男女を対象に実施。第20回調査では、2005年の第1回調査から協力が得られた1万4980人について集計。調査対象者の年齢は、69〜78歳となっている。  第1回調査から19年間の就業状況の変化をみると、「正規の職員・従業員」は、第1回39.0%から第20回2.1%と減少している。「パート・アルバイト」は、第1回17.0%から第20回12.3%と減少している。第1回で「仕事をしている」者について、性別に第20回の就業状況をみると、男性で第1回に「正規の職員・従業員」だった者では36.7%が第20回も仕事をしており、第20回は「パート・アルバイト」が13.7%で最多。女性で第1回に「パート・アルバイト」だった者では28.3%が第20回も仕事をしており、第20回も「パート・アルバイト」が22.5%で最多となっている。  続いて、仕事をしている者の仕事への満足感を、比較可能な第6回と第20回とで比べると、いずれの項目でも「満足+やや満足」の割合が増加。増加幅が大きいのは、「就業時間・休日」で6.1ポイント、次いで「賃金・収入」が5.8ポイント。 https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/judan/chukou25 厚生労働省 令和7年度「輝くテレワーク賞」受賞者を決定 厚生労働省は、2025(令和7)年度「テレワーク推進企業等厚生労働大臣表彰(輝くテレワーク賞)」の受賞者を決定した。  テレワークは、時間や場所を有効に活用できる柔軟な働き方であり、仕事と育児などの両立やワーク・ライフ・バランスの向上につながるとともに、企業などにとっては介護離職などによる人材の流失防止につながるなど、労使双方にメリットがある働き方といわれている。  この表彰制度は、テレワークの活用によって労働者のワーク・ライフ・バランスの実現に顕著な成果をあげた企業・団体を表彰し、先進的な取組みを広く社会に周知することを目的として2015(平成27)年度に創設された。  「輝くテレワーク賞」を受賞した企業は、テレワークの活用によりワーク・ライフ・バランスの実現を図っていることがアピールできる「認定マーク」を使用することができる。  2025年度の受賞は、「優秀賞」に1社、「特別奨励賞」に4社が決定した。  2025年度の受賞企業は次の通り。 ◆優秀賞  日本情報通信株式会社 ◆特別奨励賞(五十音順)  アウンコンサルティング株式会社  株式会社サイバー大学  株式会社太陽都市クリーナー  株式会社ノベルワークス  https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_65100.html 国土交通省 「建設工事における猛暑対策サポートパッケージ」および事例集を公表  国土交通省は、近年厳しさを増す夏の猛暑への対策として、最新技術を活用した多様な働き方の実現を支援する「建設工事における猛暑対策サポートパッケージ」を策定し公表した。  これまでも国土交通省の直轄土木工事において、発注段階における猛暑日を考慮した工期設定、熱中症対策にかかわる経費の充実、建設現場の生産性向上(省人化)の取組み「i-Construction 2.0」による遠隔施工の促進などの対策を実施してきた。一方で、近年の夏の暑さは厳しさを増し、今後も続くと想定されることから、よりいっそうの猛暑対策が求められていることを受け、建設業団体の意見もふまえて、受注者が施工の時期、時間や方法を柔軟に選択できるよう、工期の設定、新技術の導入や熱中症対策にかかわる経費等について支援する取組みを「建設工事における猛暑対策サポートパッケージ」としてまとめた。  具体的に実施する施策・取組みとして、同パッケージでは次の4本柱を掲げている。 1.猛暑期間・時間の作業回避 2.効率的な施工・作業環境の改善 3.猛暑対策に必要な経費等の確保 4.地方公共団体・民間発注者等への周知・要請、好事例の横展開  また、猛暑期間中の作業時間の柔軟な設定や、猛暑日を考慮した工期設定などの取組みを紹介する「建設工事における猛暑対策事例集」も公表した。 https://www.mlit.go.jp/report/press/kanbo08_hh_001275.html 【P59】 読者アンケート結果発表!! ご協力いただき、ありがとうございました  日ごろより『エルダー』をご愛読いただき、ありがとうございます。今年度実施した「読者アンケート」には、多くのご意見・ご要望をお寄せいただきました。心より感謝申し上げます。今号では、そのアンケート結果の一部をご紹介します。アンケートは今後の企画・編集の参考とし、よりよい誌面づくりに活かしてまいります。  引き続き『エルダー』をご愛読いただきますようよろしくお願いいたします。 (アンケート調査実施期間:通年、集計期間:2024(令和6)年2月1日〜2026年1月31日) 本誌に対する評価 ・「非常に参考になる」、「参考になる」と、多くの方から高い評価をいただきました。その理由として「高齢者雇用の現状や各社の取組みがよく理解できる」、「人事担当者としての知識が入手できる」などのご意見がありました。 ・「参考になったコーナー」は、「知っておきたい労働法Q&A」、「特集」、「生涯現役で働くとは」、「高齢者の職場探訪 北から、南から」、「いまさら聞けない人事用語辞典」の順で回答が多く寄せられました。 参考になったコーナーとその理由 特集 ・高齢者の就業についてさまざまな面から考える機会が得られる。 ・いま知りたい話題が、理解しやすくかみ砕いて掲載されている。 など 知っておきたい労働法Q&A ・制度の紹介・解説や法律相談など実務上重要な情報を提供してくれている。 など リーダーズトーク ・新しい考え方や制度に触れることで、参考になることが多い。 など 高齢者の職場探訪 北から、南から ・高齢者雇用の状況がわかる。 など いまさら聞けない人事用語辞典 ・解説がわかりやすく、社員に説明する際に参考にすることも多い。 など その他 ・データや生の声を現場で活かせるため。 ・法令や処遇制度の具体例の情報収集ができる。 ・人材育成、確保、再雇用などさまざまな分野について参考になるから。 など さらに充実を図ってほしいコーナーとその理由 ・〈知っておきたい労働法Q&A〉労働法は改正事項が多く、最新情報が不可欠であるから。 ・〈生涯現役で働くとは〉仕事と個人の自由時間をどのように、バランスをとっているか多くの例を参考に知りたい。 など 今後取り上げてほしい内容、ご意見、ご要望 ・認知症に関する記事もあってよいのではと思います。 ・高齢者を雇う時、やるべきこと、年金のことなど。 ・他のIT企業における高齢者雇用について。 ・健康寿命を延ばす方法、高齢者がやっている例。 など 興味・関心のあるテーマについては、JEED ホームページに掲載しているバックナンバーもご覧ください。 https://www.jeed.go.jp/elderly/data/elder/backnumber.html エルダー バックナンバー 検索 ご回答者の立場 (所属先を「民間企業」と答えた方のみ) 人事総務部門責任者・担当者 57.8% 経営者・取締役 (役員含) 26.7% その他(一般社員など) 7.8% その他の管理監督者(工場長、支店長、管理職など) 7.2% 無回答 0.6% 本誌に対する評価 非常に参考になる 29.7% 参考になる 66.4% あまり参考にならない 3.5% 参考にならない 0.0% 無回答 0.4% 【P60】 次号予告 4月号 特集 改正労働安全衛生法が施行 リーダーズトーク 村関不三夫さん(株式会社高齢社 代表取締役社長) 読者アンケートにご協力をお願いします! よりよい誌面づくりのため、みなさまの声をお聞かせください。 回答はこちらから 編集アドバイザー(五十音順) 池田誠一……日本放送協会解説委員室解説委員 猪熊律子……読売新聞編集委員 上野隆幸……松本大学人間健康学部教授 大木栄一……玉川大学経営学部教授 大嶋江都子……株式会社前川製作所 コーポレート本部総務部門 金沢春康……一般社団法人 100年ライフデザイン・ラボ代表理事 佐久間一浩……全国中小企業団体中央会事務局次長 丸山美幸……社会保険労務士 森田喜子……TIS株式会社人事本部人事部 山ア京子……立教大学大学院ビジネスデザイン研究科特任教授、日本人材マネジメント協会理事長 JEED メールマガジン 好評配信中! 詳しくは JEED メルマガ 検索 ※カメラで読み取ったリンク先がhttps://www.jeed.go.jp/general/merumaga/index.htmlであることを確認のうえアクセスしてください。 公式X(旧Twitter)はこちら! 最新号発行のお知らせやコーナー紹介などをお届けします。 @JEED_elder 編集後記 ●今号の特集では、前号に引き続き2025(令和7)年10月に開催された、「生涯現役社会の実現に向けたシンポジウム」の開催レポートをお届けしました。「開催レポートU」のテーマは「シニア社員を活性化するための人材マネジメント 組織の活性化に貢献!―シニア社員を活かす持続可能な人材マネジメントの仕組み」です。  各記事でも紹介している通り、「サスティナブル・キャリア」や「ジョブ・クラフティング」の視点を持って、シニア人材をマネジメントしていくことは、さまざまな事情を持ったシニア人材の能力を効果的に活用していくことにつながります。また、三菱UFJ 信託銀行株式会社やライオン株式会社の事例のように、企業文化・風土に基づいた独自の仕組み・制度を構築・運用していくことは、その文化のなかで育ってきた高齢社員の強みをさらに引き出すことにもつながります。これらの取組みを参考に、自社におけるシニア人材マネジメントに取り組んでいただければ幸いです。  また、JEEDのYouTube公式チャンネルでは、動画のアーカイブ配信を行っていますので、ぜひそちらもご覧ください。 ●特別企画では「労働者協同組合」を取り上げました。シニアの新しい働き方として今後も注目です。 月刊エルダー3月号 No.556 ●発行日−−令和8年3月1日(第48巻 第3号 通巻556号) ●発行−−独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED) 発行人−−企画部長 鈴井秀彦 編集人−−企画部次長 綱川香代子 〒261‐8558 千葉県千葉市美浜区若葉3-1-2 TEL 043(213)6200 FAX 043(213)6556 (企画部情報公開広報課) ホームページURL https://www.jeed.go.jp メールアドレス elder@jeed.go.jp ●編集委託 株式会社労働調査会 〒170‐0004 東京都豊島区北大塚2-4-5 TEL 03(3915)6401 FAX 03(3918)8618 *本誌に掲載した論文等で意見にわたる部分は、それぞれ筆者の個人的見解であることをお断りします。 (禁無断転載) 読者の声 募集! 高齢で働く人の体験、企業で人事を担当しており積極的に高齢者を採用している方の体験、エルダーの活用方法に関するエピソードなどを募集します。文字量は400字〜1000字程度。また、本誌についてのご意見もお待ちしています。左記宛てFAX、メールなどでお寄せください。 【P61-63】 技を支える vol.361 顧客の期待に応えるため一足一足に心を込める 靴修理職人 折田(おりた)勝壽(かつひさ)さん(78歳) 「修理する靴は千差万別。状態が悪い靴は、どう直すか夜通し考えることもあります。何よりお客さまに喜んでもらうことが一番です」 欧米の高級ブランドにも認められた靴修理の技術  「修理の仕方は見本があるわけではないので、完成品に近づけるように手探りで対応してきました」  そう話すのは、新宿区西落合(にしおちあい)にある「哲学堂(てつがくどう)靴修理店」の折田勝壽さん。靴修理60年のベテランで、これまで大手小売店や欧米の高級ブランドなどから依頼を受け、数多くの靴修理を手がけてきた。また、靴づくりを学ぶ生徒のインターンシップの受入れなど後進の育成にも貢献し、2025(令和7)年度の「新宿ものづくりマイスター」に認定された。 つちかった技術力と人柄で得意先を一から開拓  哲学堂靴修理店は、1945(昭和20)年、靴職人だった折田さんの父が創業。当初は靴をつくって販売していた。  ところが、折田さんが9歳のときに父が急逝。16歳で靴職人になることを決意し、高校卒業後、2年間の修業を経て1968年に家業を継いだ。しかし、そのころから大手メーカーの既製靴が市場に出回るようになり、靴は履き捨ての時代に変わりつつあった。  「つくって並べても価格が合わず、売れない。なんとかしないと、と思いついたのが靴の修理でした」  周辺の駅前にあった靴の小売店を一軒一軒回り、修理の仕事を開拓。話し好きな人柄と技術が信用され、30店以上と取り引きするまでになった。忙しい修理の合間を縫い、週に3日はたくさんの靴を積んでバイクで集配する日々が続いた。  「毎日大変でしたが、とにかく仕事があることがうれしかった」  30代後半に転機が訪れる。営業で回る折田さんの姿を見ていた問屋から声がかかり、大手小売店が販売した靴の修理を一手に請け負うことになったのだ。背景には、折田さんの技術への信頼があった。  やがて、その技術は欧米の高級ブランドにも認められるようになる。本国に送ると費用も時間もかかるため、国内で対応できる技術を持つ折田さんのもとに依頼が集まった。  「靴づくりの工程を1から10まで熟知しているので、靴を見ただけで壊れている状態がどうなのか、修理をするにはどこから手をつけたらよいのかが即座にわかります。お客さまの要望を聞き、自分なりに工夫してやってきたという意味では、お客さまから教わっている部分が大きいですね」 調整がむずかしい機械を使いこなし、効率化を実現  大手との取引きが増えると、修理の依頼は急増した。数をこなすため、折田さんは機械の導入を積極的に進めた。  「機械でできるところは機械で、大切なところは手で仕上げることで、効率化を図りながらも仕上がりの質を維持できます」  また、機械を導入することで、外注せずに自店だけで修理を完結できるようにしたことも、顧客からの信頼につながった。  数ある機械のなかでも特に扱いがむずかしいのが、高級靴の革底(ソール)と甲の部分(アッパー)を縫製する「ダシ縫い機」。約30年前に導入した海外製の機械だが、革の厚みなどに合わせて細かい調整が必要で、折田さんのように使いこなせる職人は少ない。  「針の位置、送り、糸をかける部分などの調整が何十通りもあり、若いころは調整だけで一晩中かかったこともあります」  近年はコロナ禍を境に高級靴の需要が減り、スニーカーの傷の修理や色補正、クリーニングなどの依頼が増えた。一緒に働く長男の康之(やすゆき)さんは、こうした新分野の技術を開拓し、新たな顧客を増やしている。折田さんは「私はソールの交換は得意だけど、色の補正などは苦手。長男がいなかったらできません」と話す。親子による二人三脚で、時代の変化に対応している。  「お客さまに喜んでもらえることが一番です」と、一足一足に心を込める折田さん。たいへんな時代もあったが、いまはこの仕事をやってきてよかったと感じている。「生涯現役」を目ざして、今日も靴と向き合う。 哲学堂靴修理店 有限会社折田商会 TEL:03(3951)7667 https://t-kutsushuri.com (撮影・羽渕みどり/取材・増田忠英) 写真のキャプション 「ダシ縫い機」という海外製の機械で高級靴の革底と甲の部分を縫製する。材料である革の質や厚みによって細かい調整が必要で、自在に扱える職人は少ない 哲学堂公園近くの商店街にある「哲学堂靴修理店」。1945年に折田さんの父が群馬県高崎市で創業し、3年後新宿区に移転した ダシ縫い機は機構が複雑で、どこか1カ所でもずれると縫製できなくなるほど調整がむずかしい。導入当初は調整だけで明け方までかかったことも 長男の康之さん(左)は、インターネットを駆使した新たな市場と、スニーカーの修理や色補正など新たな分野を開拓し、父と二人三脚で経営を支える ソールをグラインダーで削っているところ。修理を頼まれた靴は、できるだけ完成品に近づくよう、きれいに仕上げることに細心の注意を払う 高級靴のソールとアッパーを縫製している様子。大手との取引きで多忙だった時代、この機械を導入し内製化したことで、納期の短縮を実現した 効率化のために機械化を進めてきたが、手作業も多い。道具の数々は、靴修理が多様な技能を要する仕事であることを物語っている 【P64】 イキイキ働くための脳力アップトレーニング!  展開図の問題は、小学校5年生あたりの算数で、「つまずきやすい」とされる問題です。この問題がきっかけで、算数が嫌いになった人もいるかもしれません。この問題を解くときは、ふだん使っている脳の部位と違う部位を使うため絶好の脳トレになります。 第105回 立方体(りっぽうたい)の展開図 目標3分 イラストのような、正方形が6面集まってできた多面体を「正六面体=立方体」といいます。下の展開図のなかで、立方体に組み立てることができる展開図が二つあります。その展開図を選んでください。 立方体 @ A B C D E F G H I 頭の中で展開図を考える脳トレの効果  今回の問題を解く際に、脳の中では非常に活発な運動が行われています。平面に描かれた図形を立体として組み立てたり、逆に立体を頭の中で分解したりする過程では、空間認知能力が強く刺激されます。これは物体の位置関係や向きを把握する力で、日常生活から専門的な仕事まで幅広く役立つ能力です。  また、展開図を考える際には、複数の面の情報を一時的に記憶しながら操作する必要があるため、脳のワーキングメモリも鍛えられます。どの面がどこにつながるのかを保持しつつ思考を進めることは、脳の処理能力そのものを高める訓練にもなります。加えて、論理的に順序立てて考える力と、全体像を直感的にとらえる力の両方を使う点も特徴的です。  さらに、集中力や注意力の向上も期待できます。小さな見落としが正解・不正解を分けるため、自然と細部に目を向ける習慣が身につきます。こうした複合的な脳の使い方は、学習効率の向上や認知機能の維持にもつながります。 篠原菊紀(しのはら・きくのり) 1960(昭和35)年、長野県生まれ。人システム研究所所長、公立諏訪東京理科大学特任教授。健康教育、脳科学が専門。脳計測器多チャンネルNIRSを使って、脳活動を調べている。『何歳からでも間に合う 脳を鍛える方法』(徳間書店)など著書多数。 【問題の答え】 B I 【P65】 ホームページはこちら (独)高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)各都道府県支部高齢・障害者業務課 所在地等一覧  JEEDでは、各都道府県支部高齢・障害者業務課等において高齢者・障害者の雇用支援のための業務(相談・援助、給付金・助成金の支給、障害者雇用納付金制度に基づく申告・申請の受付、啓発等)を実施しています。 2026年3月1日現在 名称 所在地 電話番号(代表) 北海道支部高齢・障害者業務課 〒063-0804 札幌市西区二十四軒4条1-4-1 北海道職業能力開発促進センター内 011-622-3351 青森支部高齢・障害者業務課 〒030-0822 青森市中央3-20-2 青森職業能力開発促進センター内 017-721-2125 岩手支部高齢・障害者業務課 〒020-0024 盛岡市菜園1-12-18 盛岡菜園センタービル3階 019-654-2081 宮城支部高齢・障害者業務課 〒985-8550 多賀城市明月2-2-1 宮城職業能力開発促進センター内 022-361-6288 秋田支部高齢・障害者業務課 〒010-0101 潟上市天王字上北野4-143 秋田職業能力開発促進センター内 018-872-1801 山形支部高齢・障害者業務課 〒990-2161 山形市漆山1954 山形職業能力開発促進センター内 023-674-9567 福島支部高齢・障害者業務課 〒960-8054 福島市三河北町7-14 福島職業能力開発促進センター内 024-526-1510 茨城支部高齢・障害者業務課 〒310-0803 水戸市城南1-4-7 第5プリンスビル5階 029-300-1215 栃木支部高齢・障害者業務課 〒320-0072 宇都宮市若草1-4-23 栃木職業能力開発促進センター内 028-650-6226 群馬支部高齢・障害者業務課 〒379-2154 前橋市天川大島町130-1 ハローワーク前橋3階 027-287-1511 埼玉支部高齢・障害者業務課 〒336-0931 さいたま市緑区原山2-18-8 埼玉職業能力開発促進センター内 048-813-1112 千葉支部高齢・障害者業務課 〒263-0004 千葉市稲毛区六方町274 千葉職業能力開発促進センター内 043-304-7730 東京支部高齢・障害者業務課 〒130-0022 墨田区江東橋2-19-12 ハローワーク墨田5階 03-5638-2794 東京支部高齢・障害者窓口サービス課 〒130-0022 墨田区江東橋2-19-12 ハローワーク墨田5階 03-5638-2284 神奈川支部高齢・障害者業務課 〒241-0824 横浜市旭区南希望が丘78 関東職業能力開発促進センター内 045-360-6010 新潟支部高齢・障害者業務課 〒951-8061 新潟市中央区西堀通6-866 NEXT21ビル12階 025-226-6011 富山支部高齢・障害者業務課 〒933-0982 高岡市八ケ55 富山職業能力開発促進センター内 0766-26-1881 石川支部高齢・障害者業務課 〒920-0352 金沢市観音堂町へ1 石川職業能力開発促進センター内 076-267-6001 福井支部高齢・障害者業務課 〒915-0853 越前市行松町25-10 福井職業能力開発促進センター内 0778-23-1021 山梨支部高齢・障害者業務課 〒400-0854 甲府市中小河原町403-1 山梨職業能力開発促進センター内 055-242-3723 長野支部高齢・障害者業務課 〒381-0043 長野市吉田4-25-12 長野職業能力開発促進センター内 026-258-6001 岐阜支部高齢・障害者業務課 〒500-8842 岐阜市金町5-25 G-frontU7階 058-265-5823 静岡支部高齢・障害者業務課 〒422-8033 静岡市駿河区登呂3-1-35 静岡職業能力開発促進センター内 054-280-3622 愛知支部高齢・障害者業務課 〒460-0003 名古屋市中区錦1-10-1 MIテラス名古屋伏見4階 052-218-3385 三重支部高齢・障害者業務課 〒514-0002 津市島崎町327-1 ハローワーク津2階 059-213-9255 滋賀支部高齢・障害者業務課 〒520-0856 大津市光が丘町3-13 滋賀職業能力開発促進センター内 077-537-1214 京都支部高齢・障害者業務課 〒617-0843 長岡京市友岡1-2-1 京都職業能力開発促進センター内 075-951-7481 大阪支部高齢・障害者業務課 〒566-0022 摂津市三島1-2-1 関西職業能力開発促進センター内 06-7664-0782 大阪支部高齢・障害者窓口サービス課 〒566-0022 摂津市三島1-2-1 関西職業能力開発促進センター内 06-7664-0722 兵庫支部高齢・障害者業務課 〒661-0045 尼崎市武庫豊町3-1-50 兵庫職業能力開発促進センター内 06-6431-8201 奈良支部高齢・障害者業務課 〒634-0033 橿原市城殿町433 奈良職業能力開発促進センター内 0744-22-5232 和歌山支部高齢・障害者業務課 〒640-8483 和歌山市園部1276 和歌山職業能力開発促進センター内 073-462-6900 鳥取支部高齢・障害者業務課 〒689-1112 鳥取市若葉台南7-1-11 鳥取職業能力開発促進センター内 0857-52-8803 島根支部高齢・障害者業務課 〒690-0001 松江市東朝日町267 島根職業能力開発促進センター内 0852-60-1677 岡山支部高齢・障害者業務課 〒700-0951 岡山市北区田中580 岡山職業能力開発促進センター内 086-241-0166 広島支部高齢・障害者業務課 〒730-0825 広島市中区光南5-2-65 広島職業能力開発促進センター内 082-545-7150 山口支部高齢・障害者業務課 〒753-0861 山口市矢原1284-1 山口職業能力開発促進センター内 083-995-2050 徳島支部高齢・障害者業務課 〒770-0823 徳島市出来島本町1-5 ハローワーク徳島5階 088-611-2388 香川支部高齢・障害者業務課 〒761-8063 高松市花ノ宮町2-4-3 香川職業能力開発促進センター内 087-814-3791 愛媛支部高齢・障害者業務課 〒791-8044 松山市西垣生町2184 愛媛職業能力開発促進センター内 089-905-6780 高知支部高齢・障害者業務課 〒781-8010 高知市桟橋通4-15-68 高知職業能力開発促進センター内 088-837-1160 福岡支部高齢・障害者業務課 〒810-0042 福岡市中央区赤坂1-10-17 しんくみ赤坂ビル6階 092-718-1310 佐賀支部高齢・障害者業務課 〒849-0911 佐賀市兵庫町若宮1042-2 佐賀職業能力開発促進センター内 0952-37-9117 長崎支部高齢・障害者業務課 〒854-0062 諫早市小船越町1113 長崎職業能力開発促進センター内 0957-35-4721 熊本支部高齢・障害者業務課 〒861-1102 合志市須屋2505-3 熊本職業能力開発促進センター内 096-249-1888 大分支部高齢・障害者業務課 〒870-0131 大分市皆春1483-1 大分職業能力開発促進センター内 097-522-7255 宮崎支部高齢・障害者業務課 〒880-0916 宮崎市大字恒久4241 宮崎職業能力開発促進センター内 0985-51-1556 鹿児島支部高齢・障害者業務課 〒890-0068 鹿児島市東郡元町14-3 鹿児島職業能力開発促進センター内 099-813-0132 沖縄支部高齢・障害者業務課 〒900-0006 那覇市おもろまち1-3-25 沖縄職業総合庁舎4階 098-941-3301 【裏表紙】 申込不要・いつでも視聴可能! JEED CHANNELで公開中 −令和7年度− 高年齢者活躍企業フォーラム 生涯現役社会の実現に向けたシンポジウム  2025(令和7)年10月に開催された「高年齢者活躍企業フォーラム(高年齢者活躍企業コンテスト表彰式)」と、オンライン配信で開催された「生涯現役社会の実現に向けたシンポジウム」の模様をアーカイブ配信しています。  基調講演や先進企業の最新事例発表など、お手元の端末(パソコン、スマートフォン等)でいつでもご覧いただけます。 YouTubeにて (JEED CHANNEL) アーカイブ配信中 視聴方法 JEEDホームページより STEP.01 機構について STEP.02 広報活動 (SNS・メルマガ・啓発誌・各種資料等) STEP.03 JEED CHANNEL(YouTube動画) STEP.04 「高齢者雇用(イベント・啓発活動)」の欄からご視聴ください ※事前申込不要(すぐにご覧いただけます) 以下の内容を配信中です 2025年10月3日(金)開催 高年齢者活躍企業フォーラム ●表彰式 ●事例発表 ●基調講演 ●トークセッション 生涯現役社会の実現に向けたシンポジウム ●基調講演等 ●事例発表 ●事例発表者とコーディネーターによるパネルディスカッション 2025年10月16日(木)開催 これからのキャリア形成支援 自律的キャリアはなぜ難しい? ――ミドル・シニアの学ぶ意思をどう引き出すか 2025年10月24日(金)開催 シニア社員を活性化するための人材マネジメント 組織の活性化に貢献! ――シニア社員を活かす持続可能な人材マネジメントの仕組み お問合せ先 独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED) 高齢者雇用推進・研究部 普及啓発課 TEL:043-297-9527 FAX:043-297-9550 JEEDのYouTube 公式チャンネルはこちら JEED CHANNEL 検索 https://youtube.com/@jeedchannel2135 2026 3 令和8年3月1日発行(毎月1回1日発行)第48巻第3号通巻556号 〈発行〉独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED) 〈編集委託〉株式会社労働調査会