Leaders Talk No.130 雇用年齢上限を撤廃、72歳の支店長が誕生 年齢にとらわれず職務と成果の発揮を期待 株式会社岡三証券グループ 人事戦略部担当(グループCHRO)理事 安江 啓さん やすえ・けい 2001(平成13)年、株式会社岡三証券に入社。営業店支店長、本社人事部長、企画部長などを務め、2025(令和7)年より現職。  2023(令和5)年に創業100周年を迎えた岡三証券グループでは、2025年に新人事制度を導入し、雇用の年齢上限を撤廃。同年11月には72歳の新支店長が誕生するなど、高齢社員がそれまでつちかってきた知識や経験を活かし、生涯現役で働ける環境を整えています。  今回は岡三証券グループCHRO・理事を務める安江啓さんに、同社における高齢者雇用の取組みについてお話をうかがいました。 「人事権を社員に返す」視点で制度改革 社員自身がやりたい仕事・働く場所を決める ―貴社では、2025(令和7)年4月より年齢や勤続年数に関係なく、能力・成果に応じた処遇を軸とする新人事制度を導入されたそうですね。そのねらいについて教えてください。 安江 当社は2023年に創立100周年を迎えました。その際に策定した5カ年の中期経営計画では、当社のパーパスとして「金融のプロフェッショナルとして『お客さまの人生』に貢献する」を掲げ、ゴールを「ビジネスモデルを変革し、次の100年も成長しつづける経営基盤を確立する」に設定しています。そのためのビジネスモデルを変革するための成長戦略として、@お客さま一人ひとりに合ったサービスを提供する「One to Oneマーケティングの強化」、A地場証券との連携や外部のリソースを活用した「プラットフォームの高度化」、B「コーポレートブランディングの進化」の三つを掲げています。Bのコーポレートブランディングには内と外がありますが、内部については人事制度の刷新を含んでいます。  人事制度改定のコンセプトの一つがコース制の導入です。金融機関である証券会社では、自分の仕事や勤務地は人事権を持つ会社が決めるのが従来の常識でしたが、この人事権を社員に返し、社員一人ひとりがやりたい仕事を選び、働く場所を自ら決める、というのが大きなポイントです。もう一つが社員との長期的な関係の構築です。簡単にいえば「長く働いてもらいたい」ということ。長く働いてもらうには会社が雇用するというよりも、外部から当社を見たときに選んでもらえる会社にする必要があります。そのために年齢や属性にとらわれず、成長機会の提供とあわせて、能力・成果に応じた積極的な登用、抜擢を行い、「役割・責任・成果」に応じた報酬を支給するPay for Job, Pay for Performanceの考え方を、中期経営計画にもしっかりと明示しました。 ―貴社の人材基本方針でも「お客さまとの関係同様、従業員や様々なパートナーと岡三証券グループは長期的関係であることを前提とします」と掲げています。Pay for Job,Pay for Performanceに基づく新人事制度とはどういうものですか。 安江 雇用年齢上限撤廃とも関連しますが、「年齢にとらわれない」というのには、シニアを含めて長く働いてもらいたいという思いがあります。若くても年齢が高くても結果を出した人に報いるという姿勢は一貫しています。新人事制度ではジョブ(職務)を基軸に置いた仕組みに大きく変えました。具体的には社員は職能等級と職務・専門等級の二つの等級を持ち、報酬とひもづいていますが、年功的な職能等級のウエイトを下げるとともに、職務・専門等級のウエイトを大きくする仕組みに変えました。また、評価によって職務・専門等級が上がると管理職になりますが、従来の制度では最短で10年目に管理職に昇格していたところ、新制度では理論上、4年目で管理職に昇格できる仕組みに変えました。 ―高齢者雇用では、雇用年齢上限を撤廃されました。60歳以降の評価・処遇制度について教えてください。 安江 定年は従来制度の通り60歳で、60歳定年後は再雇用に移行します。先ほどお話しした新人事制度は60歳までの社員を対象としたもので、60歳以降の社員についても処遇制度を見直すべく現在設計中であり、2026年4月より導入予定です。  従来の制度では営業職対象の2コース、本社部門では3コースを設定しており、処遇については個別に契約し、運用していました。評価制度では明確な評価項目もなく、評価ランクも3〜5段階の簡易なものでした。一方で、60歳以降も支店長を継続している再雇用社員が3人います。定年後の再雇用でも個別に契約を結び、現役の支店長と同じ給与・賞与制度で評価し、処遇しています。したがって、役職定年はなく再雇用でも役職を継続できるチャンスがあるという点では、モチベーション維持につながっていると思います。  さらに、導入予定の新たな制度では、60歳定年前と同じように、ジョブとパフォーマンスを基軸にメリハリのある評価と報酬の仕組みに変えていくイメージです。自分が何をやるべきか、目ざす目標を明確に立てる目標管理に基づいて達成レベルをしっかりと評価していくことになります。もちろん、定年後も現役時代と同じように働きたいという人もいれば、60歳を節目にワーク・ライフ・バランスを重視した働き方や自らのセカンドライフを考えてみたいという人もいると思います。そうした人に向けた柔軟な働き方の選択肢も用意したいと考えています。 ジョブとパフォーマンスを基軸にメリハリのある評価・報酬制度を導入 ―貴社の従業員規模で雇用の年齢上限を撤廃している企業はほとんどないのが実情です。年齢上限の撤廃の背景にはどういう考え方があるのでしょうか。 安江 「若いから」とか「高齢だから」といった年齢の概念を取り除きたい、という岡三証券グループの新芝(しんしば)宏之(ひろゆき)社長の強い思いがあります。いままでの制度は、個別契約とはいえ定年になると処遇が下がるケースがほとんどですし、仕事に対する評価もあいまいで、なかには不満を抱える社員もいました。しかし現役並みに働き、しっかり評価されることになればお互いに納得でき、公平性につながるものと期待しています。一方、現役並みの仕事でなくてもよいという人には、仕事の責任や仕事の量を限定するなど、働き方のバリエーションを増やし、本人が納得できる働き方を提示していきたいと考えています。  店舗の支店長として活躍する人もいれば、営業の最前線で活躍した豊富な経験を持ち若い社員のサポート的な役割をになう人もいる、というように個々のキャリアに応じた仕事を企画したいと考えています。また、東京の本社部門で長く働いてきた人のなかには地方出身者も多くいます。将来地元に帰りたいという場合、店舗は札幌から熊本まで70店舗近くありますが、営業を担当してもらうにも経験がないのでむずかしい。それでも証券会社ですので金融の知識はありますし、そういう人でも一定の学びを得て、地方の営業店で働けるような仕組みをつくっていきたいと思っています。 ―実際に60歳以降も働いている人はどのくらいいるのですか。また、65歳以降も働く場合は基準があるのでしょうか。 安江 グループ全体の従業員数は約3500人ですが、60歳以上が約300人。そのうち65歳以上が55人です。65歳以降については、基本的には1年ごとの契約更新の際に評価を見ていますが、今後は健康面であるとか、評価についてもジョブとパフォーマンスの発揮度など、一定の基準を設ける必要があると考えています。 72歳の女性支店長誕生がニュースに年齢にとらわれない支店独自の制度づくりにも期待 ―2025年11月には72歳の女性支店長が誕生したことがニュースになりました。就任の経緯について教えてください。また、支店長にどのような期待をしていますか。 安江 当社としては初めて70代の支店長となった久下(くげ)美恵子(みえこ)支店長は、入社当初は外務員として働き、正社員になり、課長、支店長を経て、最終的に監査等委員を務めました。本人は退任する予定でしたが、社長が多様性を実現する新業態の営業店舗をつくりたいということで久下さんに白羽の矢を立てたというのが経緯です。店舗はビジネスモデル変革の象徴として従来の株、債券、投信を扱うだけではなく、相続対策や不動産の活用など資産管理型のサービスに特化した店舗として、幅広いお客さまに対してサービスを提供しています。店舗には7人のスタッフがいますが、久下さんをはじめ下は20代のスタッフを含めて全員が女性です。また将来的には店舗をグループ会社として独立させる計画であり、支店長ではなく社長としての采配を期待しています。一方、人事としては出産・育児など個々の事情に応じた柔軟な働き方や年齢にとらわれない仕組みなど、独自の就業規則をつくるぐらいの気持ちで新たな制度をゼロベースでつくってトライアルし、その成果を逆に会社全体に提案していただくことを期待しています。 ―雇用の年齢上限撤廃をはじめとする新しい試みは、これから高齢者雇用の推進に取り組む企業にも参考になります。 安江 シニア世代への対応というより、年齢の概念にとらわれず、情熱を持って長く働いてもらいたいし、そのうえで一定の結果を出した人に報いていきたいというのが大きなコンセプトです。また、冒頭で「人事権を社員に返す」とお話ししましたが、社員自らキャリアプランを考えてもらい、それが実現できるような選択肢を私たちもしっかり用意していきたいと考えています。その一つが雇用の年齢上限の撤廃にもつながっているのです。 (聞き手・文/溝上憲文 撮影/中岡泰博)