立川(たてかわ)談慶(だんけい)の人生100年時代の歩き方 第2回 本当の優しさとは?  優(やさ)しさって何でしょう?  「人を憂(うれ)う」と書いて優しさと読みますが、「優(すぐ)れる」とも読めます。「優しい人は優れている」、「優しい人が勝つから優勝」なんて、とても奥が深いような感じがしませんでしょうか?  「優しさ」という言葉を考えているうちに、「動物園」という落語が浮かんできました。あらすじは……「楽して儲けたい」、「しゃかりきに働きたくない」という若者が、「昼間ゴロゴロ寝ていて、たまにぶらぶら歩くだけで、月百万の仕事がある」といわれ、喜んで行ってみるとそこは「移動動物園」でした。「目玉動物として、白いライオンを見せる予定でいたのが、死んでしまった。その亡骸からぬいぐるみをつくったので、そこに入ってもらいたい。動物は基本夜行性だから、昼は寝ていていい」といわれ、若者は喜んで引き受けます。  寝たり起きたり、たまに見に来た子どもをからかいながら、最終日を迎えました。  「こんなんでカネがもらえるなんていい商売だな」と思っていたら、いきなりファンファーレが鳴り響き、楽隊が現れました。司会者は「今日は最終日です。特別企画として『白いライオン対黒い虎』の世紀の対決をご覧いただきます!」といって、白いライオンの檻に黒い虎の入った檻がガチャンとくっつけられます。  若者は青ざめ、「聞いてないよ!!どうりでいいバイトのはずだった。最終日にこんなことになるなんて。俺の人生もこれまでだ」。もはやこれまでとブルブル震えていたところに黒い虎がのしかかりました。念仏を唱える若者の耳元で、黒い虎が「心配するな。俺も月百万で頼まれた」。  上方経由の新作落語ですが、私はこのオチの「心配するな、俺も百万で頼まれた」というのにこのうえない優しさを感じるのです。  逆の立場で考えてみますと、自分が窮地に陥った場合、「心配しなくても大丈夫ですよ、私も同じ立場です」といわれたら最高の安心感が訪れるはずではないでしょうか。  長男が受験の時でした。第一志望の学校に落ちたのですが、「心配ないよ、パパも落ちたよ。もっというとパパは浪人のような前座修業を9年半も続けたんだよ」といった際の彼の安心した表情は忘れることができません。それは同時に、あの前座時代に流した涙がじつはこの日のためにあったのだと、あらためて悟った瞬間でもありました。  あの日あの時流した涙は、無駄ではありませんでした。  そんな優しさ、持ち続けたいものです。「動物園」、聞いてみてください。