高齢者の職場探訪 北から、南から 第163回 愛知県 このコーナーでは、都道府県ごとに、当機構(JEED)の70歳雇用推進プランナー(以下、「プランナー」)の協力を得て、高齢者雇用に理解のある経営者や人事・労務担当者、そして活き活きと働く高齢者本人の声を紹介します。 ベテラン社員の存在は会社の財産 社員の幸せが事業の発展につながる 企業プロフィール 真川(まがわ)陸送株式会社(愛知県名古屋市) 創業 1970(昭和45)年 業種 運送業 社員数 41人 (60歳以上男女内訳) 男性(7人)、女性(0人) (年齢内訳) 60〜64歳 2人(4.9%) 65〜69歳 3人(7.3%) 70歳以上 2人(4.9%) 定年・継続雇用制度 定年65歳。希望者全員70歳まで継続雇用。最高年齢者はドライバーの76歳  愛知県は、日本のほぼ中央に位置し、太平洋に面した温暖な気候と、内陸部の豊かな自然の双方をあわせ持つ県です。県北部には山々が連なり、南部には三河湾や伊勢湾が広がるなど、地形に変化があり、多様な風土が育まれています。尾張・三河といった地域ごとに歴史や文化、産業の特色が異なり、それぞれが個性豊かな魅力を形成しています。  自動車に代表されるように工業県のイメージが強く、日本一のモノづくり県ともいえますが、商業や農・水産業も盛んです。産業人材の技能レベルが高く「技能五輪全国大会※1」や「全国アビリンピック※2」においても優秀な成績を収めています。  JEED愛知支部高齢・障害者業務課の金杉(かなすぎ)文昭(ふみあき)統括は、「さまざまな産業が盛んではありますが、少子化により若年層の採用に苦慮している企業も多く、プランナーが企業訪問した際は『高齢社員に長期間活躍してもらいたいため、継続雇用制度の対象者基準について詳しく知りたい』、『高齢社員のモチベーションが低下しないよう、人事評価制度の導入について検討したい』といった相談を受けることが多い状況です。プランナーによる制度改善提案の際は、高齢社員のモチベーション維持・向上につながるよう、企業の実情にあわせて人事評価制度、賃金制度、健康管理等に関する施策の提案も行っています」と話します。  2013(平成25)年から同支部で活躍する石ア(いしざき)啓司(ひろし)プランナーは、企業の人事労務分野での豊富な実務経験を経て、社会保険労務士として独立。労務を軸に法務・資金面の知見も活かし、企業の相談に対応しています。  今回は、石アプランナーの案内で「真川陸送株式会社」を訪れました。 「社員、社業、社会」の順で還元する  真川陸送株式会社は、本社を名古屋市、営業所を豊田市に構える物流企業です。1970(昭和45)年に創業者の真川(まがわ)安夫(やすお)氏が自走配送で事業を始め、1978年に積載車輸送がスタート。1989(平成元)年に真川陸送株式会社を設立しました。現在は名古屋トヨペットグループ(NTPグループ)専門の輸送会社として、販売されているすべての車種を取り扱っています。37人の熟練ドライバーを擁し、トラック輸送と自走を組み合わせて毎日、愛知県内のさまざまな地域へ数百台もの車両を運搬しています。  代表取締役社長の真川(まがわ)慈康(いつやす)さんは同社の事業の源について次のように話します。  「私たちの仕事は、車が何台あっても、運転手がいなければ成り立ちません。つまり、事業の土台にあるのは『人』、社員です。そこで当社では、幸せの分配順序を『社員、社業、社会』の順で考えています。社員が幸せであってこそ、お客さまの大切な資産を安心・安全にお届けできると考えているからです。社員が必要とされることで社業が発展し、その発展が雇用や納税を通じて地域社会へ還元されていく。私たちはこの循環を大切にしています」 ベテランと描く成長戦略  真川陸送は、2023(令和5)年8月1日、65歳定年制を導入し、定年後は基準該当者全員を70歳まで継続雇用する制度を整えました。執行役員で同社の豊田営業所所長である横山(よこやま)聡(さとし)さんは「当社は離職率が低く長年働いてきた方がそのまま年を重ねて高齢になってきました。そうした社員がこれからも長く安心して働いてもらえるように定年を延長し、再雇用制度をあらためました。年齢を重ねた社員は会社の資産です。ベテランのみなさんは、若手・中堅の精神的なサポート役をになってくれて、他社の事業主や担当者とのやりとりを中心になって円滑に進めてくれています」と話し、高齢社員の働きぶりに感謝しきりです。  石アプランナーが同社を初めて訪問したのは、まさに65歳定年制を導入した直後の2023年8月のこと。  「当時は社員のうち60歳以上が占める割合は3割を超えていました。こうした状況をふまえ、まずは健康管理を中心としたアドバイスを行いました。また、会社が認める場合に75歳まで継続雇用を延長することなども提案しました。延長にあたってはドライバーが中心であることを考慮し、過去1年間の事故歴や免許処分の有無など、安全面に関する条件の設定が有効であることなどもお話ししました」と、石アプランナーは述べます。  さらに同社では2026年度から、大きな改革を段階的に進めていく予定とのこと。  「定年延長はすべての改革のスタートに過ぎません。現在進めている改革では、新規事業の開拓や能力開発を計画しています。高齢社員が運転できなくなった際の受け皿として、新しい事業の受注を積極的に行っていき、同時に会社の事業拡大につなげたいと考えています。さらに、新しい事業に対応できるよう、高齢社員の多様で柔軟な働き方を可能とする能力開発にも着手したいと考えています」(横山所長)  一連の改革構想には石アプランナーからのアドバイスが活きており、まさに実現に向けた検討を本格化させていました。 高齢や事情に応じて配置換えを実施  多田(ただ)輝三(てるぞう)さん(76歳)は、23歳で入社して以来、現在も現役でキャリアカーに乗るベテラン運転手です。運行管理者の資格を持ち、定年前は配車業務を担当していましたが、定年を機に後輩に道をゆずりキャリアカーの運転手に復帰しました。現在は約6kmの距離を、新車を積んで回送する業務にあたっています。  業務では1日に1万歩以上歩くこともあり、車両によじ登る動作にも年齢を感じさせない軽やかさがあります。仕事そのものが体力づくりになっており、周囲からも「多田さんみたいに跳んだりはできないよ」といわれるほどです。  2025年に75歳を迎えたのを機に、勤務日数を週5日から週4日に減らしました。「仕事はあと2年くらいかな、と考えることもあります。そろそろ引退と思う一方で、家で何もせずぼんやりしていると認知症になりそうで、それが心配なのです」と、揺れる胸の内を明かします。  それでも、職場に行けば同僚と会話ができ、身体も動かせます。「それが楽しいですよ」と笑顔を見せる多田さん。認知症予防への意識もあり、自身が想像するよりも長く働き続ける可能性を感じさせました。  横山(よこやま)正道(まさみち)さん(60歳)は、「昔から運転が好きです」という根っからのドライバーです。多田さんと同様、近距離回送をになうキャリアカーの運転手を務めています。35歳のときに募集を見て真川陸送へ転職しましたが、過去に一度、同社を離れた経験もあるそうです。  「給料が安いからと伝えて辞めましたが、転職先は想像以上に仕事が過酷でした。真川陸送は雰囲気がよく、やっぱり戻りたいと思ってお願いしました」と、横山さん。  こうした社員の復職のケースはほかにもあるとのこと。会社としても貴重な戦力として、喜んで受け入れたというこのエピソードにはおおらかな社風がにじみます。  2年前には、「健康診断で視力が急激に低下していることがわかり、運転免許を失うかもしれないという不安に直面した」という横山さん。「仕事を続けられなくなるのではないかと、心配でした」と当時をふり返ります。そこで会社に相談したところ、身体への負担が比較的少ない現在の業務へ配置転換が行われました。  「いまも健康面を重視し、定期的に通院してもらい、結果を報告してもらっています。何かあれば、また別の仕事を用意し、無理なく長く勤めてもらいたいです」(横山所長)  所長の話を隣で聞きながら、「前よりも、車に乗る仕事が楽しいです」と横山さんは晴れやかな表情で語っていました。  新人のころから二人に指導してもらっているという藤本(ふじもと)千鶴(ちづる)さん(57歳)は、多田さんと横山さんについて次のように話します。  「会社にいる人のほとんどが、お二人から仕事を教わっています。わからないことを何度聞いても嫌な顔ひとつせず、ていねいに教えてくれました。何より、長年にわたり現場で働き続けていること自体がすごいことだと思います」  体力的にも精神的にも負担の大きい仕事でありながら、いまも若い世代と変わらない姿勢で現場に立つ二人の姿に、藤本さんは強い尊敬の念を示していました。  また、横山所長は自らの経験をふり返り、こう語ります。  「以前私が事故を起こしてしまったときに、多田さんには慰めてもらい、横山さんには叱ってもらいました。タイプの異なる先輩に育ててもらったという思いがあります」  そのうえで、「若手には先輩からの注意に腹を立てて受けとめるのではなく、その意味を理解し、ありがたいと思えるところまで成長してほしいです。そのためには、日常的なコミュニケーションが欠かせません」と話します。  現在、朝礼前に社員が一堂に会する時間を活用し、雑談を交えた会話の場を設けているほか、今後は1対1の面談やミーティングの実施も検討し、会社と社員、世代間のコミュニケーションをより密にしていく考えです。  2026年4月には、新しい企業理念の公開と改革の実施を控えており、年代やタイプの異なるドライバー全員に理念を浸透させ、共有していくことが今後の課題となっています。  こうした状況について、石アプランナーは次のように話し期待を寄せます。  「あらためて社員思いのアットホームでよい会社だと感じました。一般の車道を、複数台の新車を積んだキャリアカーで走行し、積み下ろしを行う仕事は、高い技術が求められます。そうしたベテランドライバーを大切にしている点が印象的でした。  会社の規模をふまえ、制度として整える部分と、個別対応のほうが社員にとって望ましい部分を見きわめながら、今後も取組みをサポートしていきたいです」  高齢ドライバーの経験を力に変え、無理なく長く働ける環境づくりを進める真川陸送。その取組みは、人を起点とした経営の一つのかたちを示していました。(取材・西村玲) ※1 技能五輪全国大会……国内の青年技能者(原則23歳以下)を対象に、技能競技を通じ、青年技能者に努力目標を与えるとともに、技能に身近に触れる機会を提供するなど、広く国民一般に対して技能の重要性や必要性をアピールし、技能尊重機運の醸成に資することを目的として実施する大会。 https://www.javada.or.jp/jigyou/gino/zenkoku/about.html ※2 全国アビリンピック……障害のある方々が日ごろ職場などでつちかった技能を競う大会(アビリンピック)の全国大会。障害のある方々の職業能力の向上を図るとともに、企業や社会一般の人々に障害のある方々に対する理解と認識を深めてもらい、その雇用の促進を図ることを目的とする。 https://www.jeed.go.jp/disability/activity/abilympics/national/index.html 石ア啓司プランナー アドバイザー・プランナー歴:13年 [石アプランナーから] 「訪問先の企業にとって、今後の参考となるよう相手先の現状に即しアドバイスするよう心がけており、話しやすい雰囲気づくりに努めています。また、高齢者雇用のみならず、一般的な労務管理に関しても、お話をさせていただいています」 高齢者雇用の相談・助言活動を行っています ◆愛知支部高齢・障害者業務課の金杉統括は石アプランナーについて、「特定社会保険労務士、第一種衛生管理者、行政書士、ファイナンシャルプランニング技能士2級の資格を持っています。人事労務管理のほか、賃金・退職金管理、健康・安全衛生管理に造詣が深く、得意分野を活かして企業への相談・助言、提案を行っています」と話します。 ◆愛知支部高齢・障害者業務課は、最寄りの伏見(ふしみ)駅(名古屋市営地下鉄)から徒歩2分ほどのオフィスビル内にあり、利用者にとってもアクセスのよい立地です。駅周辺はビジネス街ですが、劇場や美術館、科学館などの文化施設もあります。労働局・ハローワークも徒歩圏内にあるため、非常に連携しやすい環境です。 ◆同県では18人のプランナー、6人の高年齢者雇用アドバイザーがそれぞれ活動しており、2024年度は1735件の相談・助言、336件の制度改善提案を実施しました。 ◆相談・助言を実施しています。お気軽にお問い合わせください。 ●愛知支部高齢・障害者業務課 住所:愛知県名古屋市中区錦1-10-1 MIテラス名古屋伏見4階 電話:052-218-3385 写真のキャプション 愛知県名古屋市 真川陸送株式会社のドライバーのみなさん。キャリアカーの前で 真川慈康代表取締役社長 横山聡執行役員・豊田営業所所長 キャリアカーのドライバーを務める多田輝三さん(左)と横山正道さん(右)