高年齢者活躍企業コンテスト 受賞企業の軌跡 第3回 株式会社すかいらーくホールディングス(東京都武蔵野(むさしの)市)  独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)と厚生労働省との共催で毎年開催している「高年齢者活躍企業コンテスト※」。高齢者雇用の推進に資する事例を広く募集し、優秀な事例を表彰しており、その内容は、毎年本誌で紹介しています。本連載では、かつてコンテストで厚生労働大臣表彰を受賞した企業を取材し、その後の取組みの進化・深化をレポートします。第3回は、2018(平成30)年度に優秀賞を受賞した株式会社すかいらーくホールディングスを取材しました。 健康で意欲と能力があるかぎり働き続けられる職場へ進化 1 大臣表彰優秀賞受賞をきっかけに求人へのシニア世代の応募者が増加  ファミリーレストランの草分けとして名高い株式会社すかいらーくホールディングス(谷(たに)真(まこと)代表取締役会長CEO)は、2018(平成30)年、「平成30年度高年齢者雇用開発コンテスト」で厚生労働大臣表彰優秀賞を受賞した。  同社の店舗や工場では、パートタイマーやアルバイト(以下、「クルー」)の採用が非常に多いなか、2015年に70歳までの継続雇用制度を確立して、高齢従業員が働きやすい環境整備を実現した。また、中高年のクルーが正社員に登用される道が開かれ、従業員のモチベーションが高まったことが、業績の向上につながったとして評価された。  「コンテストで受賞したことにより、当社の高齢者雇用の取組みや職場環境について、メディアにとりあげていただく機会が増えました。そうしたことにより、当社がシニア世代の方々にも安心して働ける職場環境であることが広まり、求人に対する応募者数が増えるという変化がありました」と受賞当時をふり返るのは、同社の人事総務本部人事採用グループの中西(なかにし)匠(たくみ)ディレクター。  厚生労働大臣表彰優秀賞の栄誉に輝いてから7年、この間にはコロナ禍という、レストランなどの飲食店を営む同社にとって非常に厳しい時期があった。しかし、受賞時の2018年と現在とを比較すると、従業員数は増加して、高齢従業員数も大幅に増えている。また、2024(令和6)年度の同社の売上高は過去最高水準を記録し、2025年度も好調が続いている。同社の高齢者雇用のこの7年間を追った。 2 受賞後の7年間で、60歳以上の従業員数が2.5倍、70歳以上は150倍に  同社の歩みは、1962(昭和37)年にさかのぼる。この年に同社の前身である「ことぶき食品有限会社」を設立。1970年には、東京都府中(ふちゅう)市にファミリーレストラン「すかいらーく」1号店(国立(くにたち)店)を出店。1974年には商号を株式会社すかいらーくに変更した。その後は「すかいらーく」をはじめ、「ガスト」、「ジョナサン」、「バーミヤン」など、利用者の嗜好(しこう)に応える、多数のブランドのファミリーレストランを中心に事業を全国展開。現在では20を超えるブランドを有し、日本国内および海外(台湾・マレーシア・米国)に約3100店舗を展開し、年間来店者数は約3・5億人にのぼる世界最大規模の直営レストランチェーンに発展した。そして、2018年7月には「株式会社すかいらーくホールディングス」と社名を変更した。  レストラン以外にも、店舗で提供する食材を一次加工する工場(セントラルキッチン)を全国10カ所で運営するほか、宅配サービス事業にも力を入れている。  同社の従業員数は、正社員が6761人、クルーなどの非正規従業員が11万2220人(2025年12月31日現在)である。  高齢従業員数について、現在と大臣賞受賞当時(2018年4月現在)を比較すると、60〜64歳は4642人(受賞時は2411人)、65〜69歳は2710人(同1110人)、70歳以上は1502人(同10人)で、すべての年齢階層で大幅に増加している。  現在の60歳以上の従業員数は8854人(同3531人)。受賞後の5年間で、60歳以上の従業員数は2.5倍増、70歳以上にかぎっては150倍増となっている。  高齢従業員のほとんどは、レストランの店舗や食品工場で働いている。 3 パート・アルバイトの再雇用上限年齢を70歳から75歳に引上げ  2018年当時の定年・継続雇用制度は、「定年65歳。就業規則等により希望者全員を70歳まで再雇用」であった。定年後の雇用区分は、パート・アルバイトになる。また、65歳から70歳までのパート・アルバイトのクルーには「ベテランズクルー制度」があり、制度の対象者は週の労働時間を20時間未満とし、1年ごとに契約を更新する。クルーの健康面に配慮して整えた制度である。  定年年齢は現在も65歳で変わりはないが、2019年に再雇用の上限年齢を75歳に引き上げた。現在の最高齢従業員は75歳で、店舗で活躍しているという。  再雇用の上限年齢を75歳に引き上げた動機を、中西ディレクターは次のように説明する。  「少子高齢化が進んでいくなかで働く人を増やしていくことに加えて、65歳から70歳までのベテランズクルーとして活躍する従業員のなかには、『まだまだ働いていたい』という意向を持つ人が多く、そうした声を現場で聞いている店長からの要望もあり、健康で意欲と能力があるかぎり働き続けることができる職場環境づくりを目ざして、制度をあらためました」  ここ数年は、求人への70歳超の人からの応募も多くあり、実際、採用もしている。制度改定から6年が経過するなか、70歳以上の従業員数は約1500人となり、これまでにつちかった経験や知識を活かして活躍している。  「昨今、人手不足といわれているなかでも、シニアの方々にしっかりと活躍していただくことで、当社では店舗の営業がスムーズに行われています。シニアの方々は特に定着率がよいのですが、長く安定して働かれていることによって店舗の安定感も増し、お客さまの安心感にもつながっていると感じています」(中西ディレクター)  パート・アルバイトの再雇用上限年齢を75歳に引き上げた後、同社は一般向けの採用ホームページとは別に、シニア向けの採用ホームページを新設した。この採用サイトでは、「全国のすかいらーくのお店で50代以上の方が多数活躍しています!」と呼びかけ、「ライフステージやライフスタイルに合わせ、自分のペースで勤務可能です」、「未経験でも安心!仕事を覚えるまで、分かりやすく、繰り返し教えます」と働き方などを説明。さらに、実際に働いているシニアの声と写真を掲載。また、同グループ全店で使える食事の割引券が福利厚生の一環で従業員に提供されることや、有給休暇制度や社会保険も完備していることなどもわかりやすく伝えている。そして、働きたい場所や同社のレストランのブランドから、求人情報を検索できるようになっている。  このサイトを通して、仕事内容や職場の様子をある程度理解してから応募する人が増えてきており、採用後すぐに辞めてしまうなどのミスマッチが少なくなったという。 4 パート・アルバイトの評価制度を拡充モチベーションと定着率の向上をうながす  同社では、パート・アルバイト従業員の個々の業務スキルや店舗運営への貢献度を、客観的な基準に基づいて評価し、時給に反映させる評価制度を以前から導入している。2025年には内容をあらためて充実を図った。  それまでは「1〜16号」としていたスキルの等級を「1〜25号」に拡充し、どんなことができれば等級が上がっていくのかを明確にした。入社時は「ビギナークルー(1号)」からスタートし、最短、満1カ月で次の等級の「レギュラークルー(2〜5号)」に昇格することができ、それに応じて昇給もする。「明確なキャリアパスと評価制度によって一人ひとりの成長意欲をうながし、すべてのクルーのモチベーションと定着率の向上を目ざしています」と中西ディレクター。等級が上がれば昇給につながるので、70歳を過ぎて昇給するクルーもいるそうだ。  一方、シニアも安心して働くことができる職場環境づくりとして、ベテランズクルー制度では従来通り週の労働時間は20時間未満と定めるほか、企業に求められる安全配慮義務の観点から、70歳以上の従業員については、勤務時間中に1人のみで店舗または事業場にいないこととしている。 5 DXの活用を進めて、シニアも働きやすい職場づくりに取り組む  大臣表彰受賞後に始めた取組み、あるいは拡充した取組みはほかにもある。シニアにかぎらず、外国籍、障害者などあらゆる人たちが働きやすい職場の実現に向けた取組みだ。 (1)DXの活用  接客や店舗内清掃、レジ操作などの業務については、以前から動画マニュアルを活用しているが、それらを個々の従業員のキャリアに応じて段階的に学べるように内容を拡充した。  また、かつてのレストランでは従業員が端末を手にしてテーブルで注文を聞き入力していたが、現在はデジタルメニューブックを導入した。これによりテーブルの客が好きなタイミングで随時オーダーすることができ、従業員は端末操作の必要がなくなった。さらに、配膳作業ロボットの導入を進めており、例えば、重い鉄板皿の料理などはロボットに運んでもらうことで従業員の負担が軽減された。ほかにも、教育ツールの多言語化、セルフレジの導入拡大などに取り組んでいる。  シニア世代は、DXに苦手意識を持つ人も多いのではないかと気になるが、だれもが扱いやすい使い勝手のよいものを導入することで、苦手意識を持つ人も難なく使うことができる、そうしたDX化を推進しているという。 (2)AIを使った体力測定を導入  転倒災害の防止とシニア従業員の健康管理に配慮した環境づくりの取組みの一環として、食品工場で働く60歳以上の全従業員を対象にして、AIを使った体力測定システムを2025年度に導入した。バランス力や柔軟性などをチェックして、自身の体力年齢やリスクを客観的に知ることができ、一人ずつ簡単な操作で行えるため、今後活用を広めて転倒災害の防止を図っていく。  健康と安全については、「従業員の心身の健康なくして、企業の成長なし」という考えのもと、人事総務本部に「健康・労務チーム」を配置し、従業員の安全衛生管理、労務管理をにない、相談対応も行っている。 6 シニアの就業体験イベントに出展参加シニアが年々増えている  大臣表彰優秀賞の受賞以前からの取組みで、勤続30年、40年の従業員を表彰する制度がある。2025年は、クルー87人が、都内のホテルで開催された「勤続記念 感謝パーティー2025」で表彰された。「60代、70代の方が多く、若いスタッフの教育をはじめ、店舗のある地域との交流など重要な役割をになっているクルーです。大切な人材ですので、感謝を伝える会を毎年実施するのですが、『元気なかぎり、がんばって仕事を続けたい』とみなさんうれしそうに話されます」と中西ディレクター。  このほか、従業員が友人をクルー仲間として紹介できる制度も好評だという。紹介した友人が入社すると、紹介した従業員・された従業員それぞれが食事券(グループ全店で利用できる)をもらえる。クルーの5人に1人がこの制度を通じて採用されているという。紹介で採用された従業員は、長く働く人が多いそうだ。  また、週末や繁忙期の勤務実績に応じて付与している福利厚生のポイント制度も、従業員に人気があるそうだ。貯まったポイントは、同社グループの店舗での食事などに利用可能である。  同社は、コロナ禍のあとの2024年から2025年にかけて、「店舗中心経営」への転換を強力に推し進めている。グループ全体の戦略で、「人財に投資することで、従業員満足度が向上し、定着率が高まり、その結果としてサービスの質が向上し、お客さまにご満足いただけることで企業収益も増加し、持続的な賃上げも実現可能となる好循環が生まれる、という考えに基づくものです。現在すべての従業員に対してさまざまな改革を進めていますが、こうした戦略の転換もシニアの方々の雇用増につながっていると考えています。2018年の受賞時と現在の当社をあらためて比べてみると、シニアの方々の活躍が確実に拡大しています。そこで積まれた実績と現場の声に後押しされ、制度の改定がなされ、働きやすい環境整備が進んできたと思います。さらに向上を目ざします」(中西ディレクター)  2025年10月、同社は東京都が主催する「シニアしごとEXPO2025」に出展した。3年連続で就業体験ブースを出展しており、参加者は年々増えているそうだ。新宿と八王子(はちおうじ)の2日間の開催で、2025年は200人超(前年は120人)のシニアが参加し、和食ファミリーレストランの就業体験を行った(写真)。  体験では、「私には無理そう」としり込みしていたシニアが、やってみると関心を持って就業を検討したり、その場で面接をして採用につながった人もいたという。同社で活躍するシニアはさらに増えていく勢いだ。 ※2020(令和2)年度までの名称は「高年齢者雇用開発コンテスト」 写真のキャプション 人事総務本部人事採用グループの中西匠ディレクター 株式会社すかいらーくホールディングス本社(写真提供:株式会社すかいらーくホールディングス) 東京都主催「シニアしごとEXPO2025」に出展し、来場者の好評を博した(写真提供:株式会社すかいらーくホールディングス)