諸外国の高齢化と高齢者雇用 第4回 デンマーク、スウェーデン、ノルウェー 独立行政法人労働政策研究・研修機構 人材開発部門 副統括研究員 藤本(ふじもと)真(まこと)  世界でもっとも高齢化が進行している国が日本であることは、読者のみなさんもご存じだと思いますが、高齢化は世界各国でも進行しており、その国の法制度に基づき、高齢者雇用や年金制度が整備されています。本連載では、全6回に分けて、各国における高齢者雇用事情を紹介します。第4回は北欧のデンマーク、スウェーデン、ノルウェーです。 福祉国家である北欧諸国でも高齢化が課題に 北欧諸国は、包括的な福祉国家体制、高い税負担と再分配機能、柔軟性と安全性の両立、平等主義といった、経済・社会体制上の特徴(いわゆる「北欧モデル[Nordic Model]」)を共有しているといわれます。しかし北欧諸国においても徐々に高齢化は進んでおり※、現役世代が高齢世代を支える伝統的な賦課方式の年金財政の圧迫や、労働供給の制約による経済成長の鈍化が懸念されています。  今回は北欧諸国のうち、デンマーク、スウェーデン、ノルウェーを取り上げ、経済・社会体制を持続可能なものへと再構築するプロセスにおいて、高齢者の就業にかかわる諸制度や慣行がどのように扱われ変化してきているか、また、そうしたなかでの高齢者の雇用・就業をめぐる現状と課題について見ていきます。 年金制度における「自動調整メカニズム」の厳格な運用と高齢者就業促進――デンマーク  ヨーロッパ諸国の多くは、少子高齢化にともなう財政負担の増大を抑制するため、人口動態や経済状況の変化に合わせ、給付額や受給開始年齢を自動的に調整する仕組みを年金制度において導入しており、なかでもデンマークはこの「自動調整メカニズム」を厳格に適用していることで知られています。デンマークの自動調整メカニズムの基礎は、2006(平成18)年の「福祉協定(Velfardsforliget)」によって確立されました。この協定は、公的年金受給開始年齢を、平均余命の上昇に合わせて5年ごとに見直すことを法制化したもので、長期的な年金受給期間を14.5年に固定することを目標としています。この協定の施行により、デンマークの公的年金受給開始年齢は、2030年には68歳、2035年には69歳へと引き上げられることが確定しています。  公的年金受給開始年齢の引上げに対応するため、デンマークでは高齢者の就業に関連した諸制度の改革が行われました。従来は雇用契約や労働協約において70歳での強制退職を定めることが認められていましたが、2016年1月に施行された改正差別禁止法により、一部の例外を除いて特定の年齢に達したことを理由に自動的に退職となる条項を設けることは違法となりました。また、長年の重労働に従事した労働者を保護する目的で設けられていたものの、実際は中産階級の早期引退手段として広く利用されていた「早期退職制度(Efterlon60歳から公的年金開始までの間、失業保険基金を通じて給付を受けられる制度)」が2011年に改革され、  受給期間が5年から3年に短縮されました。これら政策転換の効果もあり、デンマークの55〜64歳の雇用率は2000年の56%から2020(令和2)年には71%へと伸びました(Hal vorsen 2021)。もっともフレキシキュリティ・モデルに基づくデンマークの労働市場においては解雇が比較的容易で、高齢者もその対象となりうるのですが、高齢者が一度職を失うと、長期失業に陥るリスクは若年層よりも高く、「シニア・プレカリアート(不安定雇用高齢者)」となる懸念が指摘されています(Marold and Larsen 2009)。 「ワーク・ライン」の徹底――スウェーデン・ノルウェー  一方、スウェーデンとノルウェーは、「働ける人は皆、福祉に頼るのではなく、労働を通じて社会に貢献し、自立するべき」という、「ワーク・ライン」(スウェーデン:Arbetslinjenノルウェー:Arbeidslinja)の原則が、社会政策・労働政策において貫かれている点で共通しており、高齢者の雇用・就業にかかわる政策にもこの原則が反映されています。  スウェーデンの雇用保護法(LAS Lagen om anstallningsskydd)は、解雇規制についての 基本法です。同法は「雇用主が特段の理由なく雇用を終了できる年齢(LAS年齢)」を規定しており、このLAS年齢が事実上の定年として機能しています。近年、高齢者の働く権利を強化するため、LAS年齢の上限引上げが断続的に行われており、2020年には67歳から68歳へ、2023年には68歳から69歳へと引き上げられました。  またスウェーデンでは、平均余命に連動した「目安年齢(Riktalder)」という概念が導入されています。目安年齢は社会保険庁が毎年算出しており、公的年金の受給開始年齢や、失業保険・疾病手当の給付終了年齢などが、この年齢やその周辺年齢に自動的にリンクします。これにより、社会保障制度全体が整合性を持って「就労延長」へとシフトする設計になっています。さらに、2007年には年金をもらいながら働くことのメリットを大きくする目的で、「勤労所得税額控除(Jobbskatteavdrag)」が導入され、勤労所得に対する税率が年金所得に対する税率よりも低く設定されるようになりました。  ノルウェーでは、2015年に労働環境法(Arbeidsmiljoloven)が改正され、雇用主が一方的に雇用契約を終了できる「一般年齢制限(aldergrense)」が、70歳から72歳へと引き上げられました。もっともこの改正の後も民間企業では、健康・安全上の理由などを根拠に就業規則で「70歳定年」を定めることが認められていました。しかし、2026年1月1日に一般年齢制限が官民問わずに72歳に統一され、企業における70歳定年は廃止されています。  高齢者に関連した制度におけるノルウェーの特徴として、年金を受給しながらどれだけ働いて稼いでも、年金が減額されない点をあげることができます。ノルウェーでは62歳から75歳の間で自由に年金の受給開始時期を選ぶことができ、開始が早いほど受給月額はより少なくなりますが、「62歳で年金を受給しつつ、フルタイム勤務を継続し、給与と年金を得る」という選択も可能です。この仕組みは高齢者の労働供給のモチベーションを強力に刺激すると同時に、早期受給による受給額低下(長生きリスク)を個人に負わせる仕組みともいえます。 【参考】 Halvorsen, B. E. (2021)“High and rising senior employment in the Nordic countries” Marold, J. and Larsen, M. (2009) “How “flexicure” are older Danes?” ※国立社会保障・人口問題研究所の「人口統計資料集(2025年版)」によると、1990(平成2)年から2020(令和2)年にかけての65歳以上人口の割合の推移は、デンマーク15.6%→20.0%、スウェーデン17.8%→20.1%、ノルウェー16.3%→17.7%となっている