Leaders Talk No.131 健康を第一にフレキシブルな働き方を実践 働くからこそ“元気”になる 株式会社高齢社 代表取締役社長 村関不三夫さん むらぜき・ふみお 1979(昭和54)年に東京ガス株式会社に入社。同社取締役常務執行役員、東京ガスリキッドホールディングス株式会社代表取締役社長、株式会社ガスター取締役会長などを経て、2021(令和3)年より現職。  高齢者派遣の先駆けとして知られる株式会社高齢社。2000(平成12)年の創業以来、高齢者が豊富な知見や経験を活かして働けるよう、派遣という働き方を通じて、生涯現役社会の実現に向けた一端をになってきました。  今回は、同社代表取締役社長を務める村関不三夫さんにご登場いただき、高齢者派遣の現状や課題、これからの高齢者の働き方などについてお話をうかがいました。 強みを活かし希望をかなえる「高齢者派遣」という働き方 ―貴社が高齢者専門の人材派遣会社として創業し、25年以上が経過しました。あらためて高齢社設立の経緯や、登録者の推移など現状の実績について教えてください。 村関 当社は東京ガス株式会社の子会社の社長だった上田(うえだ)研二(けんじ)さんが2000(平成12)年に設立した会社です。事業の一つとして、新築マンションの入居者向けのガス器具の使い方の説明会などを請け負っていたのですが、土日の依頼が多く、社員だけでは手が回らず困っていました。そんなとき定年後に暇を持て余している東京ガスのOBを活用してはどうかと考え、声をかけて設立したのがきっかけです。ですので、最初は20人程度のOBの派遣社員と東京ガスの仕事だけのスモールスタートでした。その後、上田さんのメディア露出などもあって当社のことを知ってもらう機会が増え、東京ガス以外の会社を定年退職した方の派遣登録も増加し、就労先も広がりました。2026(令和8)年2月20日現在の登録者数は1259人で、就労中の方が417人、就労率は33.1%となっています。  登録者の平均年齢は72.7歳、就労者の平均年齢が71.6歳です。年齢別でみると65歳から右肩上がりで増加し、68歳が103人で最多。69歳以降は80〜90人前後で推移しており、79歳以降は減少します。やはり65歳で再雇用が終了した後に当社に登録するケースが多いですね。 ―派遣先での具体的な仕事内容や働き方について教えてください。 村関 東京ガス関連の仕事では、ガス工事や各種営業、マンション内覧会の運営、倉庫管理、事務、保安司令センター問合せ対応、行政関係への申請手続きなど、幅広い業務で活躍しています。東京ガス以外では、マンション管理やレンタカー受付、ゴルフ場コース管理、スーパーマーケットなど、分野は多岐にわたります。  働き方にも特徴があります。一つは、高齢者は朝が早くても苦にならない、ということ。例えばマンション管理の業務の一つとして、ゴミ出しや清掃業務がありますが、朝早くからの仕事が求められます。またレンタカーの受付業務などでは、朝早くから営業の準備をしている事業所もあります。こういった仕事を当社の人材がになっています。  二つめの特徴としては、仕事が午前中で終わるなど、短時間勤務で、仕事以外のプライベートの時間を確保できること。例えば、東京ガスの本社のなかにあるコンビニエンスストアで働いている76歳の女性スタッフは、7〜13時の勤務となっています。午後は自分の時間に使えるので、趣味の社交ダンス教室に通い、当社が年に1回開催している派遣社員の集いである感謝の会で、社交ダンスを披露してくれました。  三つめの特徴は、職場が自宅から近い、ということ。1時間以上も満員電車に揺られる“痛勤”もありません。  四つめの特徴は、フルタイム勤務だけではなく、週2〜3日勤務のような働き方も可能であるということ。もちろん、フルタイムで活躍しているスタッフもいますが、65歳、70歳を過ぎれば、年金をもらいながら働く人もいますし、若いころのように毎日フルタイムで働くのではなく、短日勤務で、自分の体力・健康の状態に合わせた働き方や、趣味や地域活動との両立も可能です。  当社が毎月1回開催している新人派遣者向けの研修では、高齢期の働き方として「健康」、「(人や社会との)つながり(=孤独ではない)」、「そこそこのお金」が重要であると伝えています。無理をして収入を上げるのではなく、お金と健康の順番を間違えないことが、何より大切です。 フレキシブルな勤務やワークシェアリングなどの無理のない働き方が高齢者の就業を後押し ―まさに「生涯現役」の働き方を実践されているのですね。一方、高年齢者雇用安定法では70歳までの就業確保が企業の努力義務となっています。シニアの働き方は今後どのように変化していくと考えていますか。 村関 70歳まで雇用を延長する企業も増えてきましたが、いまのところ当社の登録者数には影響していません。その背景には、週2〜3日勤務といったフレキシブルな働き方を認めていない会社が少なくないからだと考えています。その点で、フレキシブルな働き方ができる派遣は高齢者に合っていると思います。また、当社では、一つの仕事を2〜3人で曜日を変えながらになうワークシェアリングを、派遣先企業の理解を得たうえで導入しています。これにより無理のない働き方ができますし、高齢者派遣という働き方が続いていくのではないかと思います。  また、70歳まで同じ会社で働くのではなく、65歳でリセットし、別のところで働きたいという人は少なくありません。当社でも、「64歳になったら、65歳以降の暮らしをイメージして全部リセットし、新しい生き方にチャレンジしませんか」という呼びかけをすることもあります。65歳以降、自分はどう生きていくのかを真剣にイメージしている人は意外と少ないのです。65歳以降の幸せな老後のあり方について、65歳未満の方、50代後半以降の方に、世の中の実態をふまえて発信していくことも私たちの役割だと思っています。 ―2025年には、貴社監修の書籍『人には聞けない60歳からのビジネスマナー』(宝島社)が刊行されました。働く高齢者に求められるマナーとはどのようなものでしょうか。 村関 この本には実務的ビジネスマナーだけではなく、高齢者が働くうえでの心構えについても触れています。キーワードは「感謝」と「謙虚さ」。新たな職場で快く受け入れてもらうには態度やふるまいで周りの人たちに感謝の気持ちを示すことが大切です。  特に意識したいのが、「オ」「ア」「シ」「ス」(おはようございます、ありがとうございます、失礼します、すみません)です。定年を迎えても仕事ができるのはあたり前のことではなく、じつはありがたいことなのです。新入社員のつもりであいさつは自分からすることが重要です。  謙虚さについても実例を出しながら紹介しています。例えば、「俺は部長だった」、あるいは「○○社の役員だった」などといい、派遣先から「プライドが高くて仕事がやりにくい」といわれてしまう人がときどきいます。そういった人に送るアドバイスが「自慢話は1回まで」です。年を取ると自慢話をついしてしまいがちですが、何度も過去の自慢話や経験談をしていると煙たがられてしまうので、自省をすることが大切です。  また、「明るく」、「楽しく」、「前向き」に仕事をすることも重要なので、その頭文字を取って「アタマ」と呼んでいます。逆に「暗く」、「つまらなく」、「後ろ向き」になると「クツウ(苦痛)」になります。  「70歳を過ぎても働くのは元気だから」という人がいますが、私が高齢社にきて実感しているのは「働くから元気になる」ということ。働いているからこそ健康を保てるのです。研修などでは、先ほどの「アタマ」に、「働く」、「元気」の頭文字を加えて「ハゲアタマ」の大切さを呼びかけています(笑)。 さまざまな知見をもつ高齢者の活用へ安全・健康面での企業からのサポートに期待 ―シニア人材を受け入れる企業に期待すること、あるいはシニア人材を受け入れるにあたってのアドバイスなどがあればお願いします。 村関 なにより高齢者だからと、年齢で判断しないでいただきたいですね。当社の派遣人材の方は働き出すと、派遣先から「この人はこんなこともできるのか」と驚かれることも多いです。また、いまは若い人の採用や離職が大きな課題になっていますが、高齢者は簡単に仕事を辞めません。年齢的に転職がむずかしいということもありますが、いまの仕事先で骨を埋めたいという人が大半ですし、当社の派遣の方でも同じ会社で10年程度働いている人がほとんどです。高齢者を採用したことがない会社でも雇ってみると、「なるほど、こういうよさがあるのか」と必ずわかってもらえると思います。  企業に要望したいことは、健康と安全への留意です。改正労働安全衛生法により4月から高齢労働者の労働災害防止の取組みが事業主の努力義務になりました。当社の研修でも健康の維持や転倒などの労働災害防止に向けた注意喚起をしているほか、産業医の先生を招いた講演や、インターバル歩行法などの運動習慣など、「健康は自分でつくるもの」ということを伝えています。  また、熱中症予防も大切です。昨年は本人の健康管理だけではなく、派遣先企業に出向いて熱中症予防に向けた対応のお願いをしたのですが、大事には至らなかったものの派遣先で当社の登録スタッフが熱中症になるケースもありました。当社にかぎった話ではありませんが、高齢者はあらゆる企業にとっての貴重な人材であり、宝でもあります。ぜひ企業の方には高齢者の健康管理をサポートしていただきたいと思います。 (聞き手・文/溝上憲文、撮影/中岡泰博)