高齢者の職場探訪 北から、南から 第164回 三重県 このコーナーでは、都道府県ごとに、当機構(JEED)の70歳雇用推進プランナー(以下、「プランナー」)の協力を得て、高齢者雇用に理解のある経営者や人事・労務担当者、そして活き活きと働く高齢者本人の声を紹介します。 65歳へ定年を段階的に引き上げながら70歳超の雇用も検討を進める 企業プロフィール 株式会社三交(さんこう)ドライビングスクール(三重県四市日(よっかいち)市) ▲創業 1961(昭和36)年 ▲業種 各種学校(自動車教習所) ▲従業員数 96人(うち正規従業員数78人) (60歳以上男女内訳)男性(16人)、女性(4人) (年齢内訳)60〜64歳13人(13.5%) 65〜69歳 5人(5.2%) 70歳以上 2人(2.1%) ▲定年・継続雇用制度 定年62歳。定年後は、希望者全員65歳、基準該当者を70歳まで継続雇用。現在の最高年齢者は70歳  三重県は日本の中央部に位置し、海、山、川の豊富な自然に恵まれて、古より「美(うま)し国(くに)」と呼ばれています。観光資源も潤沢で、江戸時代のお伊勢参りから現代のF1グランプリまで、多彩な観光を産業として成立させてきました。県北部に位置する北勢地区は中京工業地帯に属し、四日市の石油コンビナートの化学工業をはじめ、自動車産業や造船などの輸送機械器具製造業のほか、近年は電子デバイス・情報通信機械関連の製品など先端技術型工業の立地が新たな活力を生み出し、日本のものづくりの一端をになっています。  JEED三重支部高齢・障害者業務課の浅井(あさい)雅裕(まさひろ)課長は、支部の取組みについて次のように語ります。  「県内企業から、人手不足や採用難に対応した高齢者の活用対策についてお問合せをいただいています。当支部では、ハローワークと連携して取組みを展開するとともに、社会保険労務士、中小企業診断士などの専門的・実務的能力を持つ方々を70歳雇用推進プランナーとして委嘱し、各企業の課題に対応した制度改善提案などに取り組んでいます」  同支部で活動するプランナーの河合(かわい)恵美(えみ)さんは、労働と社会保険の専門知識と豊富な経験を活かして、県内企業の高齢者雇用をサポートしています。今回は、河合プランナーの案内で、「株式会社三交ドライビングスクール」を訪れました。 四日市と名古屋で自動車学校を運営これまでの卒業生は約20万人  三交ドライビングスクールは、三重県四日市市で「四日市自動車学校」を、愛知県名古屋市で「名四(めいよん)自動車学校」を運営している会社です。両校は各都道府県公安委員会の指定を受けた自動車教習所で、60年以上の歴史がある名門の教習所です。各種自動車の運転免許教習を通じて、安全かつ確かな運転技術をはじめ、命の大切さや運転の責任を伝え、これまでに三重県および愛知県に約20万人の卒業生を送り出し、日本の交通安全を支えてきました。  また、高齢者講習や企業向けの安全運転講習にも取り組んでおり、地域の交通安全センターとしての役割もにない、両県の事業所や地域の人々から親しまれています。  今回訪れた四日市自動車学校は、三重県下で唯一、すべての自動車運転免許が取得できる総合自動車学校で、二輪専用コース、四輪曲線コース、踏切、二種鋭角コースなど各種免許取得のための設備が整備されていて、その広大さにも驚きました。 定年年齢を段階的に65歳へ定年後の働き方は柔軟に対応  同社の従業員数は96人。そのうち、69人が運転技術や交通ルール、安全に関する知識を指導する教習指導員です。従業員の平均年齢は45歳。最年少者は18歳、最高年齢者は70歳で、50代以上の従業員が全体の4割近くとなっています。  同社で人事を担当する総務企画室部長の北端(きたばた)真一(しんいち)さんは、「教習指導員になるには、国家資格が必要で、入社後数カ月間は教養を受け、指導方法や実技を学びます。研修期間は平均6カ月ほどで、資格取得後は指導員として少しずつ経験を積んでいきます。人材育成が肝心ですので、若い人材の教育研修やフォローアップに注力していますが、経験豊富な世代の方々も活き活きと働くことができる環境を整備することもとても大事だと感じています」と力を込めて話します。  同社は、2024(令和6)年に定年制度の改定を行い、60歳からの段階的な定年年齢の引上げをスタートしました。2024年から2年ごとに1歳ずつ引き上げ、2032年4月から65歳定年となります。改定は、親会社である三重交通グループホールディングス株式会社の取組みを参考にしながら、労働組合と協議のうえ実現しました。  定年後については、希望者全員65歳、基準該当者を70歳まで契約社員として継続雇用する制度としました。  自動車教習所は夜間にも授業があることから、正社員の教習指導員には変形労働時間制を採用し、勤務は交番制となっています。契約社員は、それまでにつちかった知見や経験、取得した資格を活かして定年前と同様の働き方を希望する人もいれば、短時間勤務を希望する人もいるため、本人と北端部長とで話し合い、なるべく希望に沿う働き方ができるように努めています。  「日中の勤務を望まれる場合は、日中に実施している高齢者講習を担当してもらっています。一方で、定年後はプライベートを充実させたいという人もいて、昼間は趣味などの活動をして、夕方から出社して夜間の授業のみ担当している人もいます」と北端部長。このように高齢社員の希望に寄り添い、柔軟に対応しています。 70歳超の雇用についてJEEDに相談  そうしたなか、指導員として活躍する契約社員に70歳に近づく人が出てきたことから、「70歳以降の雇用制度について検討を始めたなかでハローワークで紹介してもらった、JEED三重支部高齢・障害者業務課に連絡をし、ご相談したい旨をお伝えしました。2025年7月のことです。ほどなくして、河合プランナーが当社を訪問してくださいました」と北端部長。70歳超の雇用について制度化が必要か、個別の契約でよいのかなど模索しても、70歳超の雇用は事例が少なく、とりわけ自動車教習所の事例はみつからなかったこともあり、まずは知識や情報を得たかったと話します。  河合プランナーは当時の訪問について、「お話をうかがって現行の就業規則を拝見し、70歳までの就業確保措置の基準が設けられていることから、70歳以降についても仕事をベースとする基準を設ける方法をはじめ、体力などの個人差やそれぞれの事情に応じて、70歳からは1年ではなく半年契約にするといったことなどを、他企業の事例も参考にしながらお話ししました」とふり返ります。  北端部長はこれらをふまえて、教習指導員の働き方について安全第一を基本に掲げつつ、どのような雇用形態にすることが一人ひとりの活躍をうながすのかなど、検討を重ねており、この取材後にも労働組合と話合いを経て最終判断をしていきたいと話していました。  また、年齢の高い従業員が増えてきたことなどから、同社では健康経営を推進し、すべての従業員が身体的にも精神的にも健康に働ける会社づくりに取り組んでおり、「健康経営優良法人2025(中小規模法人部門)」の認定※1を受けています。日ごろの健康づくりとしては、社内でゴルフコンペを開催しているほか、三重交通グループ主催の「ソフトバレーボール大会」に参加しています。学生時代にバレー部やラグビー部に所属していた北端部長もソフトバレーボールのチームに入り、体を鍛え続けているそうです。  今回は、勤続47年のベテラン教習指導員で、定年後も活き活きと仕事に取り組む和田(わだ)恭一(きょういち)さん(70歳)にお話をうかがいました。 「し・あ・わ・せ」の4文字を胸に天職と思える仕事に力を発揮し続ける  和田さんは、1980(昭和55)年4月に入社して勤続47年目。おもに教習指導員として、人材育成の管理職も務め、当時の制度で56歳のときに役職定年となり、再び現場の教習指導員に。60歳で定年を迎え、以降は契約社員として指導員を継続。65歳になったとき会社と相談のうえ、高齢者講習の指導員となり、現在も活躍しています。「現場の仕事が好きなので、会社からの提案をありがたく感じて引き受け、現在に至っています」と、にこやかに話す和田さんです。  和田さんの入社当時、教習指導員になるための資格取得の方法は現在と少し異なり、まず半年間は研鑽を積んだそう。資格取得後も指導員として現場で経験を積みながら、指導のために普通自動車第二種免許や大型二種免許、けん引免許などを取得。また、高齢者講習指導員の資格もいち早く取得しました。  「車が好きでこの道に進み、基本的に人も好きですから、指導員は天職だと思っています。『合格しました! ありがとうございます』と感謝の言葉をいただける、ありがたい仕事です。普通免許の取得時に私が教習を担当した女性が、今度は高齢者講習にいらして、何十年ぶりですがお元気な様子を拝見できうれしかったです」  高齢者講習の指導員として力を発揮する現在の働き方は週5日、8時45分から実働7時間勤務。高齢者講習は、認知機能検査(対象は75歳以上)と高齢者講習があり、講習は70〜74歳と75歳以上の2種類。和田さんはいずれも担当しています。  指導員に長くたずさわるなかで和田さんがずっと大事にしているのが、「しあわせ」の4文字といいます。「『し』は真剣に、『あ』は愛情を持って、『わ』は分け隔てなく、『せ』は節度を持って。安全で確かな技術を伝える教習指導員は、節度が必要です。でも、愛情も大事。それも、分け隔てなく、というのが私の信念です」と和田さんは説明してくれました。  北端部長は、「和田さんは、私を教習指導員として育ててくださった元上司です。技術だけでなく、大切なことをたくさん熱心に教えていただいたことを忘れていません。長い年月が経ちましたが、変わらずはつらつとした表情で仕事をされていて、感心するばかりです」と語り、70歳超の雇用について考えるようになったきっかけの一人が和田さんだったと明かしました。  和田さんは、「北端部長が現場に気を配って働きやすいように考えてくれますし、長年働いてきて本当によい会社だと思います。健康に気をつけてもう少し、無理はせずに仕事ができればありがたいです」と笑顔で語ってくれました。  今回の取材を終えて河合プランナーは、「初訪問でうかがったときから雰囲気のよさと、北端部長が現場の方々からお話を聞き、制度づくりに反映することに努めている様子が印象的でした。今回は、和田さんと北端部長のお話を再びうかがうことができ、人を大事に育てて活かしている環境が代々に受け継がれてきた会社なのだと思いました」と同社を評し、そうしたことが新卒者の採用や従業員の定着率の高さにつながっているのではないかと続けました。  「私自身、長く指導員を務めてきて7年ほど前から総務・人事を担当しています。現場もわかるので、よりよいルールや環境づくりをしていくためにいろいろ見聞きしながらやっています。なかなか追いつかないところもありますが、前へ進めていきたいと思います」と北端部長。少人数の人事部門で多忙な毎日が続いていますが、挑戦を続けています。  河合プランナーは取材後も、社内でプロジェクトチームを立ち上げて自主的な基準づくりを進めていくといった他社の成功事例や、JEEDの「高年齢者活躍企業事例サイト※2」などを案内して、同社の今後の取組みにも期待を寄せていました。 (取材・増山美智子) ※1 「健康経営優良法人認定制度」については、経済産業省ホームページをご参照ください。 https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/healthcare/kenkoukeiei_yuryouhouzin.html ※2 「高年齢者活躍企業事例サイト」は、以下のホームページをご覧ください。 https://www.elder.jeed.go.jp 河合恵美 プランナー アドバイザー・プランナー歴:5年 [河合プランナーから] 「人手不足や従業員の高齢化とその活用に悩む企業は多いと感じます。また、社会貢献や就労意欲の高い高齢者の方が増え、多様な働き方への対応がますます求められてきていると感じます。高齢者雇用の推進に向けた橋渡し的な役割がになえるよう、労働・社会保険諸法令の改正事項について、できるかぎり平易な言葉で説明するとともに、企業が抱える高齢者雇用の課題に寄り添ったアドバイスを行うことに努めています」 高齢者雇用の相談・助言活動を行っています ◆三重支部高齢・障害者業務課の浅井課長は、河合プランナーについて「やさしく親しみやすい人柄と、特定社会保険労務士として幅広い知見を持ち、相談・助言や提案の際は、なるべく専門用語やむずかしい言葉を使用せず、趣旨がわかりやすく伝わるよう工夫されています。訪問先からの評判もとても高く、当支部にとって欠かせないプランナーの一人です」と紹介します。 ◆三重支部高齢・障害者業務課は、JR 紀勢線、近鉄名古屋線の「津」駅から徒歩約15 分の「津公共職業安定所」2階にあります。 ◆同県では、7人のプランナーが活動し、2024年度は制度改善提案を目標80件に対して108件、相談・助言を目標318件に対して324 件行いました。 ◆相談・助言を無料で行います。お気軽にお問い合わせください。 ●三重支部高齢・障害者業務課 住所:三重県津市島崎町327-1 津公共職業安定所2階 電話:059-213-9255 写真のキャプション 三重県四日市市 株式会社三交ドライビングスクールが運営する「四日市自動車学校」(写真提供:三交ドライビングスクール) 北端真一総務企画室部長 高齢者講習の指導員として、取材当日も講習を行う和田恭一さん