Leaders Talk No.132 コア事業でシニアの能力を最大限活用 「モダナイマイスター」制度の魅力 富士通株式会社 モダナイゼーションナレッジセンター センター長 SVP 伊井哲也さん いい・てつや 1990(平成2)年富士通株式会社に入社。データセンター事業本部長、インフラ&ソリューションセールス本部長などを経て2024(令和6)年より現職。  著しいスピードで新しい技術が生まれ、つねにアップデートが求められるIT業界。そんな時代の最先端を行く業界でいま、数十年前のシステムに精通するベテランエンジニアの力が求められていることをご存じですか。今回は、シニア人材の知見を活かし、旧来の“レガシーシステム”を最新のシステムに移行する「モダナイゼーション」に取り組む、富士通株式会社モダナイゼーションナレッジセンターの伊井哲也さんにお話をうかがいました。 「モダナイゼーション」に必要なレガシースキルを持つエンジニアの価値とは ―富士通では、「モダナイマイスター」という認定制度を設け、外部からの登用も含め、シニア人材の活躍推進に取り組まれています。富士通が取り組む「モダナイゼーション」とはどういうものでしょうか。 伊井 「モダナイゼーション」は日本語で「近代化」という意味ですが、コンピュータなどのITの進化のスピードは著しく、その知識や技術は5〜10年でたちまち古くなってしまいます。そういった過去の知識や技術を、われわれは「レガシー」と呼んでおり、それをいかにして新しい基盤に移行させるかが、当社が掲げるモダナイゼーションです。単に機器を新しくするだけではなく、新しいIT環境においてお客さまのさまざまな業務変革やプロセス、あるいは人の働き方や文化を変えるDX(デジタルトランスフォーメーション)の世界に誘導していくことを目的としています。  当社では、2024(令和6)年4月にモダナイゼーションに欠かせない技術情報やノウハウ、知見を集約するセンターオブエクセレンス(CoE)として、「モダナイゼーションナレッジセンター」を発足させました。現在のメンバー数は200人にのぼります。モダナイゼーションにかかわるプロジェクトは、当社のなかでも数多く動いていますが、その全体の動きを集約する、あるいは逆に各プロジェクトのナレッジを集約し、社内全体に展開していく、また、モダナイゼーションにかかわる商品を開発し提供していく役割などをになっています。モダナイゼーションは富士通にとってもコア事業の一つでもあります。 ―「モダナイマイスター」に期待する役割とはどのようなものでしょうか。 伊井 古くなったITの仕組みをいまでも使っているお客さまのなかには、下手をすると30年前の基盤がいまも生き残っているケースなどがあります。例えばそれに使われているプログラミング言語の一つにCOBOL(コボル)と呼ばれるものがありますが、それを知っている人はすでに50歳を超えているのです。古いシステムならではのいろいろな特性があり、単純にそれを新しい技術で上書きするだけではモダナイゼーションはうまくいきません。また、そうしたレガシースキルを持ったエンジニアは今後退職し、放っておくと減っていくことになります。  そのためレガシースキルを持つ人材を社内外から募集し認定する「モダナイマイスター(以下、「マイスター」)」という社内認定制度を設けました。現在、80人のマイスターが働いており、平均年齢は58歳、最高齢は70歳になります。マイスターは自身でシステム開発をするわけではなく、エンジニアたちが担当する各プロジェクトを側面支援するのが大きな役割です。2026年度は、マイスターの人数をさらに増やしていきたいと考えています。 ―マイスター認定のプロセスや、求められる能力についてお聞かせください。 伊井 社内募集と社外募集の二つがあり、社内は年に2回、社外は年に1回、募集の機会を設けています。職種はSEに限定し、社内はポスティング(公募)で行い、自信がある人は年齢に関係なくだれでも応募できますがレガシースキルが不可欠の要件になります。書類選考と面談を経て認定しており、面談は私とマイスター室の室長が担当します。スキル面はもちろんですが、“人柄”を重視しているのも特徴です。  「側面から支援する」というのは意外とむずかしく、支援する相手はプロのエンジニアですからプライドもありますし、そんななかで、マイスターの意見に耳を傾けてもらうためには、やはりコミュニケーション能力が大事になります。  また、突発的な仕事が入ってくることもあるので、そこに柔軟に対応していく姿勢も必要になります。コミュニケーションスキルに加え、学ぶ意欲、挑戦する意欲、業務に柔軟に対応できるフレキシビリティも重要です。これまでに500人を超える応募がありましたが、認定されたのは80人で、合格率は2割弱になります。合格者の役職をみると、一担当者だった人もいれば上級幹部社員だった人もいます。マイスターの仕事はいままでにない機能ですから、新しいチャレンジともいえます。 モダナイマイスターは定年後も処遇を維持 年齢に関係なくKPIに基づく評価を実施 ―認定後の具体的な仕事や働き方はどのようなものでしょうか。 伊井 基本的知識や支援方法、お客さまとの商談のやり方などのルールをまとめた「ブートキャンプ(短期間の集中プログラム)」を整備しており、認定後は所属部署の業務と並行して1カ月程度にわたって受講してもらいます。マイスターに合格しても、もとの仕事の都合などもあり、実際にマイスター室に配属される時期はバラバラですし、当初は本当にたいへんでした。  働き方や仕事の内容は大きく三つに分かれています。一つめはお客さま先での対応です。モダナイゼーションプロジェクトは1〜3年かかる場合もあり、お客さまの課題を聞いて解決策を提示する、あるいは常駐する社内のメンバーと相談し、品質向上のための提案などを行います。  二つめは、当社のオフィスでお客さまごとの課題について、エンジニアと打合せをしてお客さまのニーズに応じた商品開発にたずさわります。  三つめはテレワーク業務で、システム開発の支援やプログラムが正しく動いているかの動作確認などの評価・検証を行います。 ―マイスターの処遇についてはどうなっているのでしょうか。 伊井 ほかの社員と同様、マイスターもになう職務と職責によってジョブグレードに格づけされ、それに基づいて報酬が決まります。マイスター室長のもと、80人のマイスターが四つのチームに分かれ、それぞれシニアディレクターが管理しています。  当社は定年60歳ですが、マイスターの処遇は60歳以降も変わりません。60歳定年後は1年ごとに雇用契約を更新することになりますが、定年前と同水準の給与や賞与が支給されます。評価制度も現役の一般社員と同じで、KPI(重要業績評価指標)に基づいて評価し、年齢に関係なくグレードと評価に応じて処遇が決まります。実際に60歳以降でもになう職責や評価によってグレードが上がり、処遇が上がった人もいます。 モダナイマイスターとして役割を遂行することが本人のモチベーションを高め組織の力を高める ―テレワークも可能な比較的自由度の高い働き方ですね。一方で、モチベーションの維持・向上に向けた取組みなどもあるのでしょうか。 伊井 コミュニケーションを密にとるようにしています。例えば、各プロジェクトの方針が分散しないよう、目的などについて確認する週1回のオンライン会議を実施しているほか、半年に1回、全国のマイスター全員がオフィスに集合する全体会議を開催しています。  また、毎週火曜日に首都圏のメンバーによる飲み会なども開催しており、たいへん好評です。マイスター以外のエンジニアも含めて毎回10〜20人が参加しており、仕事の不満などをリアルにぶつけてもらうなど、業務の方向性や働き方を確認する場として有効に機能していると感じています。 ―60歳を過ぎても処遇は変わらず、しかもつちかったスキルを武器に働けるので、やりがいを感じている人も多いのではないでしょうか。 伊井 50代後半や60代になると、実力はあっても組織全体を見すえて「自分の役割はここまで」と考えてしまう人もいるかもしれません。ですが、マイスターとして活躍している社員は、仕事にやりがいを感じている人も多いですし、前向きにいろいろな提案も出てくるなど、よい組織になってきている実感があります。  その理由は、「自分の持つ古いスキルは、世間では斜陽でもここではメインのスキルであり、周囲からも頼られる」と感じられるからではないでしょうか。処遇面でもがんばれば昇格することができますし、一定の評価があれば年齢に関係なくいつまでも働けることも大きいと思います。 ―古いスキルだけではなく、新しいスキルも身につける必要があるかと思います。学び直しの支援を含めてマイスターの学ぶ意欲などはいかがでしょうか。 伊井 新たな資格取得の支援など、学ぶためのメニューを取り揃えています。レガシースキルを持ちつつ、クラウドなど新しいスキル・資格を最低限5〜6種類程度学ぶことを推奨しており、実際に積極的に受講し資格を取得している方は多いです。私もメンバーに対して、「いまの仕事に年齢は関係ない」、「富士通のなかでも大事なミッションである」ということを、ことあるごとに強調していますし、社内外の評価も含めて、高いレベルでの信頼が維持できるように心がけています。 (聞き手・文/溝上憲文、撮影/中岡泰博)