立川(たてかわ)談慶(だんけい)の人生100年時代の歩き方 第4回 豆腐の角(かど)に頭をぶつけて死んじまえ  一見ひどい言葉ですよねえ。これ、「死神」という落語に出てくるセリフです。  「死神」のあらすじは……貧乏な男が、「死にてえな」とつぶやくと、そこに死神があらわれます。「お前にはまだ寿命があるから何をしても死なねえ。それより医者になって儲けろ」といいます。死神は「瀕死の病人宅に入ると死神が見えるようになる」という魔法をその男にかけます。「病人の枕元に死神がいたら寿命だからあきらめろ。逆に足元にいたら呪文を唱えれば死神は消えてなくなる」といい、その呪文を伝授します。  さあ、それからその男は、そんなインチキな呪文だけで病人をすぐに治してしまうという評判が立ち、一気に大金持ちになります。そして愛人をつくり、女房や子供と離縁してしまうのですが、それ以降は枕元に死神がいるケースがほとんどとなり、一気にその男は没落します。貧困にあえぐその男の元へ大金持ちが訪れますが、行ってみると、やはり枕元に死神がいますが、男はふとよからぬことを思いつき、死神がいた枕元と足元の位置を変えてしまう……。  さて、今回は「死神」の冒頭で、この男がおかみさんからいわれるセリフ「豆腐の角に頭をぶつけて死んじまいな」にフォーカスしてみたいと思います。  この言葉、不甲斐ない亭主が出てくる場面など、ほかの落語のなかでも頻繁に出てくるセリフですが、なぜいいなあと思ったのかというと、現実問題として「人間は豆腐の角に頭をぶつけたぐらいで死なない」という大前提があるからなのです。決して相手が死ぬことを望んでいません。そうではなく「豆腐の角に頭をぶつける」程度の衝撃を与えることで、対象であるダメな人間に立ち直ってもらいたいという「愛」がそこにあるような気がしてならないのです。ハチミツ二郎さんという芸人さんが「死ね」などの代わりに使う「風邪引け!」という言葉につながるともいえましょう。  言葉には必ず魂が宿ります。古(いにしえ)の日本人は「言霊(ことだま)」と呼んでいました。心根の優しい言葉使い、心がけたいものです。やっぱり、落語は優しいのです。