高齢者の職場探訪 北から、南から 第165回 滋賀県 このコーナーでは、都道府県ごとに、当機構(JEED)の70歳雇用推進プランナー(以下、「プランナー」)の協力を得て、高齢者雇用に理解のある経営者や人事・労務担当者、そして活き活きと働く高齢者本人の声を紹介します。 制度整備と職場環境改善を進め高齢者の活躍を支える 企業プロフィール 新江州(しんごうしゅう)サービス株式会社(滋賀県長浜(ながはま)市) 創業 1988(昭和63)年 業種 一般貨物運送業、倉庫業、流通加工業(包装資材製造) 社員数 62人 (60歳以上男女内訳) 男性(15人)、女性(5人) (年齢内訳) 60〜64歳 11人(17.7%) 65〜69歳 8人(12.9%) 70歳以上 1人(1.6%) 定年・継続雇用制度 定年60歳。希望者全員65歳まで継続雇用、その後は運用により75歳まで継続雇用。最高年齢者は74歳  滋賀県は、県土の約6分の1を日本最大の湖・琵琶湖が占める、水と自然に恵まれた地域です。琵琶湖は豊富な水量を有し、県内のみならず、京都府・大阪府を含む近畿地域の人々の暮らしや産業を支える重要な水源となっています。古くから近畿・中部・北陸の三圏域を結ぶ交通の要衝として発展し、現在も高速道路や鉄道などの広域交通ネットワークが整備され、物流や人の移動において高い利便性を有しています。  JEED滋賀支部高齢・障害者業務課の和田(わだ)睦美(むつみ)課長は県内の産業について、「滋賀県は機械、電子部品、自動車関連を中心に製造業が盛んで、県内総生産に占める第二次産業の割合は46.9%と全国1位(内閣府『令和4年度県民経済計算』)となっており、『ものづくり県』として全国的に知られています」と話します。  さらに、滋賀県で活動するプランナーが受ける相談内容について、「@高齢労働者の働くことに対するモチベーションの維持、A職場におけるコミュニケーション、B納得感のある賃金制度などが多く見受けられます。制度改善提案業務については、プランナーに対し、初回訪問時に事業主および人事・労務担当者の話にしっかり耳を傾け、課題だけではなく事業所が置かれている実状も把握するようお願いしています。提案にあたっては、事業主をはじめ関係者に検討いただけるよう、把握した実状に即した内容とすることを心がけています」と説明します。  同支部で活躍するプランナーの一人、三橋(みつはし)正樹(まさき)プランナーは、社会保険労務士、FP技能士の資格を持ち、豊富な知識と経験を活かして、事業所訪問を通じて、課題整理や制度理解につながるよう支援を行っています。  今回は、三橋プランナーの案内で「新江州サービス株式会社」を訪れました。 60歳超ドライバーの評価・賃金制度を整備  新江州サービス株式会社は、1988(昭和63)年2月に設立された、滋賀県長浜市などの湖北地域を拠点とする企業です。一般貨物運送業と倉庫業を中心とした物流事業、ダンボールやフィルムの加工をになう製造事業の二本柱で構成されています。  経営理念に「人を大切に」を掲げる澤(さわ)文明(ふみあき)代表取締役社長は、「地域社会からの信頼を大切にし、時代とともに変化する物流をチャンスととらえ、運送・倉庫・製造を組み合わせることでお客さまの多様なニーズに応えてきました」と語ります。  全社員の約3割が60歳以上と社員の高齢化が進んでいることなどもふまえ、高齢者が働きやすい職場づくりに取り組んでいます。  「社会や家族のあり方が変化するなかで、高齢者の生きがいに対する考え方も大きく変化しました。以前は定年後に旅行をすることなどが一般的でしたが、現在は仕事そのものに生きがいを見いだす高齢者が非常に増えてきていると実感しています。こうした背景から、生涯現役で働ける企業を目ざし、仕事がやりがい(生きがい)となるためには、単に雇用を継続するだけでなく、『自分が会社からどう評価されているか』を明確にすることが重要であると考えました」(澤社長)  他方、2022(令和4)年から実施している社員満足度調査では、定年後の賃金制度が曖昧で、これから定年を迎える社員たちが将来に不安を抱いているという実態が浮き彫りになりました。  「年齢という区切りだけで賃金を下げることへの疑問がありながらも、法律や社会的なルールに照らして妥当なのか、客観的な判断がむずかしく、三橋プランナーに相談しました」(澤社長)  三橋プランナーは、同社から相談を受けた際のことを次のようにふり返ります。  「50代のドライバーが多く、今後、定年を迎える方が相当数いる状況でした。澤社長の『定年後も安心して働き続けられるような雇用の仕組みをつくりたい』という意向をふまえて、評価制度と賃金制度の改定を提案しました。第一歩としてドライバー職の評価軸を設け、生きがい・やりがいが処遇にしっかり反映される仕組みにするとともに、他社や全国平均のデータも示しながら、定年前と基本的には変わらない水準で雇用を継続できるような内容に取りまとめました」  成宮(なるみや)康宏(やすひろ)常務執行役員(中小企業診断士)は「ドライバー職の制度が整い、他職種への展開についても、三橋プランナーによる制度がベースにありますので、自信を持って社員に説明できます。定年後も安心して働いてもらえるのではないでしょうか」と話します。 満足度調査を活かして、環境改善に注力  社員満足度調査の結果をもとに、高齢者の視点に立った具体的な改善にも取り組んでいます。アンケートで寄せられた「通用口の段差がつまずきやすい」という意見を受けて、段差部分にスロープを設置したほか、移動の負担を減らすために工場の近くにトイレを増設しました。  青根(あおね)知美(ともみ)管理部長は「日々の業務中には10分間の小休憩を設けており、これが高齢社員の体力回復に役立っていることがアンケートからわかりました。管理部門としては全社員の顔と名前を把握してフランクに話しかけ、体調など気遣うようにしています」と話し、日ごろから高齢社員の健康状況などの把握に努めていることがうかがえます。  2026年3月からは、「時間単位の有給休暇制度」を新たに導入。通院や子どもの送迎、家庭の事情などに合わせて2時間単位で取得することができ、柔軟な働き方を後押ししています。  一方、高齢社員には、長年の経験に基づく技術や責任感を若い世代へ伝えるにない手としても期待が寄せられています。小倉(おぐら)徹(とおる)製造部長は、「他社で製造業などを経験されたことのある方は、当社とは異なる視点や知見をお持ちです。同じ現場に長くいると視野が狭くなりがちですが、外部を経験したベテランの方から『こう改善すべきではないか』と具体的な提案をいただけるのは非常に新鮮で、まさに“目からウロコ”の連続です。人生の先輩として率直な意見をいただけるのはとてもありがたいですね。ときには熱心なあまり議論が白熱することもありますが、それも良好な信頼関係があるからこそ。日々、新しい刺激を受けています」と語ります。  今回は、60歳を超えてますます自らの強みを活かして活躍するお二人にお話を聞きました。 日次棚卸しを徹底し、誤出荷防止に取り組む  前田(まえだ)雄治(ゆうじ)さん(64歳)は、機械メーカーに28年勤務した後、大手倉庫でのピッキング業務を経て入社し、現在勤続4年10カ月。入荷からピッキング、梱包、出荷までを一貫して担当しています。「倉庫内に棚番がなく置き場所を記憶する必要がありますが、項目ごとに分類して配置することで対応しています」と話します。  品質管理においては、出荷品の棚卸しを毎日徹底しています。週1回程度の頻度が一般的ななか、日次で確認することで誤出荷を未然に防いできました。新製品の増加により類似品も増えていますが、「誤出荷ゼロ」を最優先に、色や箱の違いなど細部まで注意を払っています。  製造部主任の進藤(しんどう)規子(のりこ)さんは「まじめで健康で、力仕事もまかせられる、頼りになる存在です。現場を安心してまかせられますし、年齢を感じさせない仕事ぶりです。これからもずっと元気に一緒に働きたいです」と話し、大きな信頼を寄せています。  「前田さんは感知力に優れており、事務所で停電が発生した際には、電柱のカラスの巣によるショートをいち早く発見し報告してくれて、迅速な復旧につながりました。ほかにもちょっとしたトラブルにすぐに気づいて知らせてくれたり、すばやく業者の来訪を共有してくれたり、高い報告姿勢も相まって会社にとってありがたい存在です」(青根部長)  今後については、「誤出荷ゼロを続けていきたい」と語り、新製品の増加にともなう保管場所の課題に対して、整理整頓や置場の最適化を進めていく考えです。「できるだけ長く勤めながら、現場をよりよくしていきたい」と、前向きな意欲を見せています。 ていねいな作業と先読みで、入出庫業務に貢献  川村(かわむら)二三男(ふみお)さん(74歳)は、20歳のときに入社して、約40年にわたり段ボール製造に従事し、係長や課長も経験しました。定年前にフォークリフト業務の部門に異動して15年、カウンターリフトやクランプリフトを操作して入出庫や出荷業務をになっています。  「初めはクランプリフトに恐怖心がありました。左右から荷物を挟んで持ち上げるクランプリフトは、挟む圧力の調整が必要で、重量物を扱ううえに、落下すれば重大な事故につながります。覚悟を決めて乗務を重ね、技術を習得しました」  その経験が安全意識の向上につながっています。  二つの製造課の動きを把握し、1週間先の製造予定を見すえながら荷物の配置や前出しを行うことで、スムーズな入出庫を実現しており、「計画通りに仕事が終わったときが一番うれしいですね」と語ります。  物流部課長の吉川(よしかわ)武(たけし)さんは、「川村さんは前準備や先を読む力に優れ、周囲からの信頼も厚く、『川村さんにお願いすれば安心』といわれるような存在です。なにより、仕事がとにかくていねいですね。ドライバー・外部業者への対応もていねいで、現場の信頼関係づくりに貢献してくれています。川村さんのていねいさと段取り力、コミュニケーション力を次世代へ引き継いでいってほしいです」と語り、期待しています。  プライベートでは、若いころから続けているボウリングで体力を維持しており、プロ選手に勝利した経験もあるほどの腕前です。現在も日々の運動や歩行を心がけ、健康管理に努めています。75歳を迎える節目を前に「これまでの分を恩返ししたい」と語る川村さん。長年つちかってきた経験と姿勢で、これからも現場を支えながら、「若い発想力、変化、進化に期待し、次世代にバトンタッチしたい」と話してくれました。  同社は今後も社会の変化に合わせて制度をアップデートし、地域社会に信頼される企業を目ざし、高齢者雇用を推進していく方針です。  三橋プランナーとの連携は現在も続いており、国の施策や法令の変化、他社の動向などをふまえながら、継続雇用制度をさらにレベルアップさせていくための相談を行っているそうです。(取材・西村玲) 三橋正樹 プランナー アドバイザー・プランナー歴:5年 [三橋プランナーから] 「事業所自身が気づいていないような課題を抽出し、その解決の必要性を認識していただいたうえで、実際に実践してもらえるような改善策の提案をするように心がけています」 高齢者雇用の相談・助言活動を行っています ◆滋賀支部高齢・障害者業務課の和田課長は三橋プランナーについて「専門とする分野は賃金・退職金管理および人事・労務管理であり、事業所訪問時には人事評価・賃金制度や職場環境改善などについて、訪問先の状況に応じたさまざまなアドバイスを行っています。アドバイザー・プランナーとしての経験は6 年目となり、5年間で62件の提案、266件の相談・助言を行っており、責任感が強く、事業所が安心して相談できるプランナーです」と評します。 ◆滋賀支部高齢・障害者業務課は、JR石山駅から徒歩約10分、京阪唐橋前駅から徒歩5分の「ポリテクセンター滋賀」内にあります。公共交通機関でのアクセスがよく、来所しやすい便利な立地です。また、付近には名橋として知られる「瀬田の唐橋」や紫式部ゆかりの「石山寺」があります。 ◆同県では6人の70歳雇用推進プランナー・高年齢者雇用アドバイザーが活動しており、2025年度は制度改善提案を58件、相談・助言を232件行いました。 ◆相談・助言を実施しています。お気軽にお問い合わせください。 ●滋賀支部高齢・障害者業務課 住所:滋賀県大津市光が丘町3-13 滋賀職業能力開発促進センター内 電話:077-537-1214 写真のキャプション 滋賀県長浜市 本社社屋 左から青根知美管理部長、澤文明代表取締役社長、成宮康宏常務執行役員、小倉徹製造部長 ピッキング業務を行う前田雄治さん クランプリフトを操作する川村二三男さん