いまさら聞けない人事用語辞典 株式会社グローセンパートナー 執行役員・ディレクター 吉岡利之 第67回 「女性活躍推進法」  人事労務管理は社員の雇用や働き方だけでなく、経営にも直結する重要な仕事ですが、制度に慣れていない人には聞き慣れないような専門用語や、概念的でわかりにくい内容がたくさんあります。そこで本連載では、人事部門に初めて配属になった方はもちろん、ある程度経験を積んだ方も、担当者なら押さえておきたい人事労務関連の基本知識や用語についてわかりやすく解説します。  今回は、「女性活躍推進法」(以下、「本法」)について取り上げます。正式名称は「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律」で、2015(平成27)年9月に公布、2016年4月に全面施行されています。 ポジティブ・アクションを推進する法律  本法の趣旨を理解するためには、制定の背景を知ることがとても重要です。公布された年度に厚生労働省から出された『平成27年版 働く女性の実情』は、わが国は急速な人口減少局面を迎え将来の労働力不足が懸念されるなかで、国民のニーズの多様化やグローバル化等に対応しなければならず、人材の多様性(ダイバーシティ)を確保することが不可欠としています。それにもかかわらず、就業を希望していながら働いていない女性が約300万人、第一子出産を機に離職する女性が約6割、離職してからの再就職は非正規労働者になる場合が多く、管理職に占める女性の割合は欧米・アジア諸国に比べて低いなど、働く場面において女性の力が十分発揮できる状況にないなどの課題があるとしています。こうした状況をふまえ、女性の個性と能力を十分に発揮できる社会を実現するために、本法が成立したとされています。  本法の特徴は、ポジティブ・アクションを推進することにあります。これは、社会的・構造的な差別によって不利益を被っている者に対して、一定の範囲で特別の機会を提供することで、結果の改善を求める施策を国や自治体、事業主に求めるものです。本法より前の1986(昭和61)年4月に雇用や定年、退職・解雇、労働時間等の男女間の“差別的な取扱いを禁止”する男女雇用機会均等法が施行され女性の雇用や処遇の改善に寄与してきましたが、よりいっそうの“結果の改善の推進”を図るのが本法といえます。  本法は2025(令和7)年度末までの有効期限10年間の時限立法※1でした。しかし、女性の活躍は徐々に進みつつあるものの課題が依然として存在するとして、2025年6月の改正(2026年4月1日施行)により(以下、「改正法」)、さらに10年間期限が延長※2されています。 行動計画の策定と情報公開がメイン  それでは、本法の概要をみてみましょう。本法では、国・地方公共団体・事業主の責務が明確化されています。  おもな内容としては、女性活躍を推進するための具体的な行動計画の策定(常用労働者数101人以上の事業主は義務※3)があげられます。これは、@女性の活躍に関する状況把握・課題分析(女性労働者の割合・男女の平均勤続年数差異・平均残業時間等の労働時間・女性管理職比率など)、A一般事業主行動計画の策定(計画期間や数値目標・取組内容・実施期間)・社内周知・公表、B都道府県労働局への行動計画届出、C数値目標の達成状況や取組みの実施状況の点検・評価の四つの取組みをPDCAサイクルのように回し、次期の取組みにつなげていくものです。  次のおもな内容としては女性の職業選択に資する情報の公表があげられます。情報の公表により、企業の女性活躍に対する姿勢を表し、求職者が企業選択の要素とすることができるようにするためのものです。常用労働者101人以上の事業主には、男女間賃金差異および女性管理職比率の公表を義務づけています。これらに加えて、101人以上の事業主には1項目以上、301人以上の事業主には2項目以上の公表が求められています※4。各企業の公開情報や取組み内容は「女性の活躍推進企業データベース※5」(厚生労働省)に詳しく掲載されています。  このほか、本法では女性活躍を推進するための支援措置について定められています。対象となる取組内容としては、女性の活躍推進に関する状況等が優良な事業主を認定する「えるぼし※6」認定制度が本法制定時からありましたが、改正法により、職場における女性の健康支援に取り組む企業を認定する「えるぼしプラス(3段階)」および「プラチナえるぼしプラス」の認定が追加されました。なお、改正法により女性活躍の推進にあたっての女性の健康上の特性に配慮して行われるべき旨が明確化されている点も押さえておきたいところです。 統計でみる課題  最後に、統計によって女性活躍推進の課題を確認したいと思います。「雇用の分野における女性活躍推進に関する検討会」(第11回 2024年8月1日)の参考資料中「第5次男女共同参画基本計画の目標値の進捗状況」(図表)を参照すると、令和5年時点で到達すべき数値(目標値)に対して、25歳から44歳までの女性の就業率と、えるぼし認定企業数は達成していますが、事業主の情報公表項目にもなっている女性管理職比率は、課長相当職は令和2年よりも増えているものの令和5年目標値に対して未達、部長相当職にいたっては令和2年よりも減少している状態です。このほか、同資料に男女間賃金差異の経年比較がありますが、長期的には縮小傾向にあるものの男性の所定内給与額を100としたときの女性の給与額が同法施行年の2016年の72.9%に対して2023年は74.8%と大幅に改善したとはいいがたい状態です。また、女性の就業率は上昇しているものの、正規雇用比率は30歳代以降に低下し「L字」カーブ※7を描いているとの指摘もあり、本法制定の背景にあった課題は続いているといえそうです。  次回は「スポットワーク」について取り上げます。 ※1 時限立法……一定の目的を期間内に達成する必要がある場合に制定する法律。期限までに目的が達成されない場合は、延長される場合がある ※2 本法の期限は2036年度末まで延長されている ※3 本法制定時は常用労働者301人以上の事業主が義務だったが、改正により101人以上の企業に範囲が拡大 ※4 対象項目は、サイトの資料にわかりやすくまとめられている。https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/001663919.pdf ※5 https://positive-ryouritsu.mhlw.go.jp/positivedb ※6 認定要件の取得度に応じて、「えるぼし(3段階)」、「プラチナえるぼし」を認定。https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/001671864.pdf ※7 女性の正規雇用比率が20歳代後半にピークを迎え、その後右肩下がりになるグラフを90度回転させると「L」に似ていることから、出産を契機に、女性が非正規雇用化することをさす 図表 第5次男女共同参画基本計画の目標値の進捗状況 項目 目標値(令和7年) 策定当時(令和2年) 最新値(令和5年) 等速で目標値を達成する場合、令和5年時点で到達すべき数値 部長相当職に占める女性の割合 ★1 12% 8.5% 8.3% 10.6% 課長相当職に占める女性の割合 18% 11.5% 13.2% 15.4% 係長相当職に占める女性の割合 30% 21.3% 23.5% 26.52% 25歳から44歳までの女性の就業率 ★2 82% 77.4% 80.8% 80.16% えるぼし認定の企業数 ★3 2,500社 1,209社 2,534社 1,983.6社 ★1 資料出所:厚生労働省「賃金構造基本統計調査」 ★2 資料出所:総務省「労働力調査(基本集計)当該年平均」 ★3 厚生労働省調べ 出典:第11回雇用の分野における女性活躍推進に関する検討会(参考資料)