[特集] 困っているのは年下上司?それとも年上部下?  役職定年や定年後再雇用による役割や職責の変化により、上司・部下の関係が入れ替わり、年下上司と年上部下の関係となって仕事をすることが増えてきています。しかし、このように関係性が入れ替わったとき、年下上司は「お世話になった先輩にこんな指示をしてよいのだろうか」、年上部下は「私が出しゃばってしまったら仕事をしにくいだろうな」といった具合に、それぞれの立場に応じた悩みがあるのではないでしょうか。  そこで今回は「年下上司」と「年上部下」をテーマに、悩んでいることや困っていることのポイント、その解決に向けたマネジメントの考え方などについて解説します。 特別インタビュー エイジレス社会の実現に向け「年下上司・年上部下」が活躍できる環境を 青山学院大学 名誉教授 山本(やまもと)寛(ひろし)  年下上司・年上部下の関係は、多くの会社で増加傾向にあります。その背景や課題をふまえ、年下上司と年上部下が「チーム」として会社の事業に貢献していくためのポイントについて、働く人のキャリアや企業における人材マネジメントについて詳しい青山学院大学名誉教授の山本寛先生にうかがいました。 年功序列の崩壊とエイジレス社会 ―役職定年や定年後再雇用によって、「年下上司・年上部下」が増えていますがその背景についてどのようにご覧になっていますか。 山本 いわゆる能力主義や成果主義の広がりによって、日本的経営の一つの柱である「年功処遇」が崩れてきているということが背景にあるでしょう。能力や成果の重視によって、若手の人たちをどんどん抜擢(ばってき)していかなければ、中堅層の人たちがやる気をなくし、モチベーションの低下、業績の低下につながり、場合によっては辞める人が出てしまうというようなことがいわれるようになっています。そうしたなかで、年下上司・年上部下という関係は、必然的に発生せざるを得ないものだととらえています。  また、もう少し大きな視点でみると「エイジレス社会」への変化があげられます。年齢による画一化を見直し、すべての年代の人々が希望に応じて意欲・能力を活かして活躍できる社会を目ざすという流れです。日本における年功処遇という岩盤はまだまだ強固であり、意識のなかでも根強いのですが、制度的にはそれを変えて、エイジレスの方向に進もうとしています。その処遇面における一つのやり方が、年下上司・年上部下という現象だと思っています。  年下上司・年上部下の実態については、民間企業が実施した調査が参考になります。一つめは人材サービスのエン・ジャパン株式会社(現・エン株式会社、以下、「エン」)(東京都)が2016(平成28)年に同社サイト利用者を対象に実施したアンケート「『年下上司』について」(有効回答数352人)※1。二つめはIT大手のサイボウズ株式会社(以下、「サイボウズ」)(東京都)が2023(令和5)年、30〜50代会社員計3000人を対象にした「年下の上司に聞く『年上の部下へのマネジメント』調査」※2です。  サイボウズの調査結果によると、調査対象の会社員のうち「直属の上司が年下」である人は約20%で、従業員2000人以上の会社になると、これが30%近くに達します。必ずしも55歳、60歳以上のシニア世代だけでなく、その下の世代も経験しているという結果で、年下上司・年上部下は近年、より一般化してきているということがわかります。年下上司・年上部下の関係は、いまやどこでもみられる状況になってきているのです。 「どのように仕事をしやすくするか」を考える ―年下上司・年上部下が増えている社会で、企業はどのような意識を持つことが必要でしょうか。 山本 年下上司・年上部下の関係では、年齢と役割の逆転による「やりにくさ」が、課題としてあげられることがあります。エンの調査結果では、年上部下で「仕事がしづらい」と回答した人は58%で、「仕事がしやすい」の42%を上回っていた一方、2023年のサイボウズの調査では、年下上司、年上部下ともに76%が「相手(年下上司・年上部下)との仕事はやりやすい」と回答しています。両調査のたずね方の違いなども影響しているかもしれませんが、年下上司・年上部下がより一般化してきていることが、結果によって示されているのではないかと思います。  そもそも仕事がしやすいか、しづらいかということは、本人の意識の問題でもあります。年下上司・年上部下は、もはや必然的に発生せざるを得ないものですから、「しやすい」、「しづらい」の傾向や比率を考えることより「どのようにしやすくするか」を考えるべきでしょう。  そのため、まだまだ足りていないのが研修だと思います。例えば、初めて課長に昇進したときの初任者研修で、年下上司・年上部下の問題は、必須で取り入れるべき内容だと考えています。ジェンダーや国籍の問題、障害のある人への配慮など、ダイバーシティ(多様性)という視点の一つとして、取り入れるべきです。  さらに大きい問題が一つあり、それが「エイジズム」、「エイジハラスメント」という、いわゆる年齢差別です。年下上司・年上部下の関係性のなかでは、エイジズム・エイジハラスメントに陥らないよう意識する必要があります。エイジズム・エイジハラスメントとは、例えば、「中高年だったらどうせIT、AIはわからないだろう」といった偏見で、「じゃあ、そういうものを使わない仕事をさせよう」と仕事を制限したり、定年近くになった人に「だんだん手を抜いていくし、楽をしたいだろうから」と仕事を与えなかったりすることです。逆にエイジズム・エイジハラスメントは、若手に対するものもあります。  日本では本当に、年齢による意識がまだまだ強く、職場で働いていないようにみえる中高年の男性を「妖精さん」と呼ぶこともあるようですが、そうしたこともエイジズムが根底にあるといえるでしょう。経験のある人材を活かせていない、非常にもったいないことだと思います。 「リスペクト」と「柔軟性」、「チームの成果」にフォーカス ―年下上司・年上部下が「働きやすい」と感じる職場にするために、課題となること、必要とされる取組みは、どのようなことでしょうか。 山本 現状の課題と「どうしたらよいか」ということを、「年下上司」、「年上部下」、「年下上司・年上部下共通」の三つの視点からまとめると次のようになります。 @年下上司の課題と心得 ―リスペクトを形にする―  年上部下は「経験へのプライド」がある一方で、「価値観が固い」、「気を遣って指示しにくい」など、指示への拒絶感や気まずさを感じているケースがあります。そうした年上部下に対応するため、年下上司には六つの点を心がけてほしいと思います。  一つめは「敬語の徹底」です。基本中の基本ですが、相手の人生経験への敬意を払うため、公私ともにていねいな言葉遣いを維持します。頭ごなしの指示は避け、「どう思いますか?」と経験を尊重する姿勢が必要です。ただ、サイボウズの調査結果では、「年上部下へのマネジメントで必要だと思うこと」について、年下上司でもっとも多くあがった回答が「敬語・丁寧な言葉遣い」(41.9%)だったのに対し、年上部下の同回答は27.7%にとどまります。「丁寧な言葉遣い」は年上部下から、年下上司が思うほど求められていないという結果ですが、逆に「言葉だけていねいでもだめ」ということなのかもしれません。  二つめは「相談の形をとる」ということ。年上部下に接するときは、命令ではなく「〇〇さんの知見をお借りしたい」と頼る姿勢をみせることで、年上部下の承認欲求を満たし、強固な協力関係を築くことが可能になります。サイボウズの調査結果でも、年上部下が必要だと思うことの最多は「部下の話を聞く」でした。具体的には1on1ミーティングなどで、相手の知識や経験を認め、相談を持ちかけるような方法をとるとよいでしょう。年上部下の経験や知識を頼り、助けを求めることが、相手のプライドを尊重し、モチベーションを高めることにつながるでしょう。  三つめは「役割の明確化」です。年下上司・年上部下の問題を端的にいえば、「役割の逆転」だと思います。「年齢ではなく、役割が違うだけ」という共通認識が必要です。「あなたのほうが経験もあります。ただ、たまたま私が現在上司という立場になっただけです」と、具体的に伝えたほうがよいという考え方もあります。  四つめは「自己開示」です。これは日本では、なかなかむずかしいことですが、年下上司が年上部下に、自分から「開示」をしていくことが大事です。上司から弱みをみせたり、雑談を増やしたりして、人間的な信頼関係を先に構築すること。積極的なコミュニケーションを、上司から先にとっていくことが重要です。  五つめは「指示は遠慮しない」こと。遠慮をしていては上司としての役割は果たせません。ただし、指示をする際は、命令口調ではなく相談という形をとるほうが、関係性がよくなるでしょう。  最後は「外部セミナーの活用」です。必要に応じ、外部セミナーを受けて指導方法を学ぶことも有効です。例えばアンガーマネジメントのセミナーなどを活用し、感情をコントロールする方法を学ぶことなどで、人間関係の円滑化につながることも期待できます。 A年上部下の課題と心得 ―「柔軟性と役割理解」―  年上部下は、年下上司に対して「扱いづらさ」を感じ、「年下に命令されたくない」、「面子を潰された」などと思いがちですが、重要なのは「組織としての成果」にフォーカスすることです。役割の逆転を許容し「組織の一員」として割り切り、チームの成果を上げることに注力することが必要です。具体的な心得として次の四つがあげられます。  一つめは「報告・連絡・相談を怠らない」こと。いわゆる「報連相(ほうれんそう)」ですね。報連相は新入社員など若手に対する研修では必ず出てくる内容ですが、ベテラン社員が「いまさら」と思うのは大間違いです。年上部下の場合、豊富な経験があるがゆえに自己判断で進めてしまい、情報共有が漏れるケースが多い傾向にあります。最低限の報連相を徹底し、上司を安心させることは信頼につながります。  二つめは「価値観のアップデート」です。サイボウズの調査結果では、年下上司の67.6%が「年上部下の価値観はなかなか変わらない」という項目に「そう思う」と回答していました。年上部下は、過去の成功体験に固執せず、新しいやり方、デジタルスキルや最新トレンドにも通じた、年下ならではの視点を受け入れる姿勢が求められます。年下上司のよさを受け入れ、過去のやり方を押しつけないことが肝要です。  三つめは、「これまでの経験に基づく適切な関与」です。サイボウズの調査結果をみると、年上部下は年下上司に対し「適切な判断と意思決定」、「部下のミスのフォロー」などを期待している実態がみられました。年下上司も確固とした自信を持っているわけではなく、「これでよいのかな」と感じている面があり、年上部下には、経験に基づいた関与、フォローを求めているということです。さらに同調査では、年上部下に対し「若い人の手本になるべき」、「上司に適切な助言やアドバイスをするべき」という意見をあげる年下上司が、6割以上にのぼっています。年上部下も遠慮をせず、自信をもってバリバリと活躍していくべきでしょう。  最後は「ハラスメント意識」です。部下から上司への不遜な態度は、「逆ハラスメント」とみなされることもあるので、マナーを守った関係性が不可欠です。 B共通の課題と心得  年下上司、年上部下ともに、年齢や経験の差に関係なく、チームの成果を最優先事項として共有することが重要です。また、この関係性で注意しなければならないことに「コミュニケーションの負のループ」があります。一番問題なのは、双方が遠慮しすぎて、コミュニケーション量が減ること。コミュニケーション量が減ると、業務が滞る「負のループ」に陥ってしまいます。 いずれはみんな「年上部下」 フォロワーシップの学びも重要 ―年下上司と年上部下が協働していくためには、当事者の意識改革などとともに、企業・人事の取組みもカギになると思います。企業・人事に求められる考え方や対応のあり方について考えをお聞かせください。 山本 特に新人の管理職に対し、1on1で話を聞くことなどが必要だと思います。コーチングという形をとることもありますが、とにかくまずは年下上司が潰れないようにすることが大切です。プレーヤーとして活躍できた人でも、管理職になると求められるものがまったく違う状況になるので、メンタル面も含めて、大きな役割の変化に対応できるようにサポートしなくてはなりません。  年上部下に対してベストなのは、例えば年上部下が持っている専門性を尊重し、残していくということでしょう。そのためには例えば、社内につくられるプロジェクトチームやタスクフォースで、年上部下に重要な位置づけを任せることなどが考えられます。逆に、中高年社員にとって必要なことは、自分の専門性を確立していくことだと思います。中高年社員にとって受け入れにくいのが「リスキリング」ですが、新しい状況に合わせて、自分の専門性をブラッシュアップしていくことができれば、年下上司にとって頼れる存在となるでしょう。  企業は、「本気で中高年の人たちにがんばってもらいたいと考えている」ということを示すためにも、必要なスキルを身につけるための研修などについて、就業時間内に受ける機会を設けるべきです。「武者修行研修」や「レンタル移籍」など、企業や部署の枠を超えて実施される能力開発も、中堅や管理職などの中高年層に門戸を開くことが有効だと思います。  現在の若手も、年下上司も、「同期トップ」のような一握りの人たちを除き、ほぼ全員がいずれは年上部下になります。会社組織にいれば、だいたい「いつごろに年上部下になるか」予想がつくものです。そのときに備える意味でも、自分の立場が変わったときに、どのように人を助けたらよいのかを考えておくことも必要だと思います。  部下の心得を一言でいうと「フォロワーシップ」ですが、リーダーシップやチームビルディングの研修を実施する企業は多い反面、フォロワーシップの研修はあまりみられません。リーダーシップ研修と並んで、フォロワーシップ研修をすることは効果的だと思います。フォロワーシップ研修を実施した部署の業績が上がる、エンゲージメントが上がるということがあれば、年下上司でも年上部下でも、より仕事のしやすい環境を構築できるのではないでしょうか。 ※1 エン・ジャパン株式会社(2017)「『年下上司』について(2016年版)」 https://mid-tenshoku.com/enquete/report-125/ ※2 サイボウズ株式会社(2023)「年下の上司に聞く『年上の部下へのマネジメント』調査」 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000242.000027677.html 解説1 年下上司の困りごと ―年上部下マネジメントのポイント― 一般社団法人日本産業カウンセラー協会 産業カウンセラー 竹野(たけの)潤(じゅん) @「年下上司」、「年上部下」の現状  昨今のビジネスシーンでは、年功序列型の崩壊やジョブ型雇用の浸透により「年下上司」と「年上部下」という関係性がごく一般的になりました。図表1(12ページ)は役職別の平均年齢を表示したグラフです。部長の平均年齢が過去10年ほぼ横ばいなのに対し、課長と係長の平均年齢は右肩上がりです。2014(平成26)年と2024(令和6)年でそれぞれの役職間の平均年齢差を比較してみましょう。従業員数1000人以上の大企業(図表1ー1)では、部長と課長の平均年齢差は4.1歳→3.5歳に、課長と係長の平均年齢差は3.6歳→3.4歳に縮まっています。同じく100〜999人の中堅企業(図表1−2)でも、部長と課長は4.6歳→3.4歳に、課長と係長は4.3歳→4.2歳といずれも平均年齢差が縮まっています。これは「年下上司」、「年上部下」といった、役職と年齢の逆転現象の増加を意味しています。  一方、日本には儒教に由来する「長幼(ちょうよう)の序(じょ)」といった年長者を敬う伝統的な価値観が色濃く根づいており、この関係性に強いストレスや悩みを抱える若手・中堅マネジャーは少なくありません。ここでは年下上司が年上部下に対して抱える「悩み・困りごと」を整理し、それらを乗り越えるための「解決に向けた対策」を具体的に解説していきます。 A年下上司が抱える「悩み・困りごと」  年下上司が直面する壁にはさまざまなものがありますが、おもにコミュニケーション、心理的負担、業務遂行といった側面に分けられます。では具体的なシーンを紹介していきましょう。 (1)言葉遣いや距離感のとり方がわからない  「敬語を使うべきか、上司としてタメ口を混ぜるべきか」という基本的なスタンスで悩む上司は意外に多いです。へりくだりすぎると舐められるという懸念が生じ、逆に横柄にふるまうと反発を買うというおそれから、適切な距離感に悩むマネジャーは多いようです。2023(令和5)年にサイボウズ株式会社のサイボウズチームワーク総研が実施した「年上の部下へのマネジメントとして、必要だと思うこと」に関するアンケート結果※においても、年下上司がもっとも必要だと感じているのは「敬語・丁寧な言葉遣い」という結果になっています。 (2)指示や注意がしづらい  人生経験や社歴が自分より長い年上部下に対し、「どこまで強くいっていいのか」、「生意気だと思われないか」と躊躇(ちゅうちょ)してしまい、明確な指示や改善要求をいい出せず、結果として業務に支障をきたすケースです。こういった状況が続くと、ほかの若手メンバーは「年上部下の特別扱い」といった不公平感を抱きかねず、チームの風通しが悪くなるおそれがあります。 (3)年上部下のプライドや「過去の成功体験」の扱い  年上部下の多くは過去の実績や成功体験に対する自負を持っています。かつてはチームを率いるマネジャーとして活躍していた人が、役職定年などによりやむなく管理職を退くケースもあります。そのため、自分がこれまでマネジメントしてきたやり方とは異なるチーム運営に対し「私のやり方とは違う」などと反発したり、あるいは暗黙の抵抗、いわゆる面従腹背(めんじゅうふくはい)するケースもあります。 (4)人事評価の強烈なプレッシャー  半期や期末ごとの人事評価において、自分より給与が高い(あるいは過去高かった)年上部下に対して評価をつけることは、年下上司にとっての大きな心理的負担です。なかでも低評価をつけざるを得ないケースなどは、面談に臨むに際してそれなりの準備が必要になってきます。評価の根拠を巡って感情的な議論に発展することを恐れ、ついつい無難な評価をつけてしまう、あるいは至らない点ばかりを指摘することで“予防線”を張ってしまい、関係がぎくしゃくしてしまう、といったことが起こり得ます。 B解決に向けた対策とコミュニケーション術  これらの悩みを解決するためには、年下上司自身の「マインドセットの変革」と「コミュニケーション術」の両輪が重要になってきます。では具体的な解決策をご紹介しましょう。 (1)組織ミッション・ビジョンの共有  会社にはミッション(経営理念・存在意義)と、ビジョン(向かうべき方向)があります。上司はこれらを、自分たちの組織に置き換えたものに明文化しなければなりません。これは上司にしかできないもっとも大切な仕事です。これらが明確になることで、社員たちは「自分たちは何のために働くのか」、「自分たちはどの方向に向かうべきなのか」を認識します。そして年上部下には組織のミッション・ビジョンをしっかり共有し、その実現のために“協力を仰ぐ”のです。経験年数の長い年上部下は、過去にさまざまな組織に所属してきたはずです。蓄積された経験値を惜しみなく発揮してもらい、組織ミッション実現のために一肌脱いでもらいましょう。 (2)育成ビジョンの相互共有  若手部下と違い、年上部下の育成に頭を抱える年下上司は多いようです。まずは“育成する”という概念を捨てましょう。これは年上部下の人材育成を放棄するという意味ではありません。まずは自分の組織のミッション実現のために、年上部下にどのような役割をになってもらいたいのかを正直に伝えます。彼らの経験やノウハウがどのような形で組織に貢献できるのかを考えてもらう、そのプロセスが年上部下の成長をうながします。  仮に定年間近のベテラン社員であっても同じです。定年までの期間を大過なくやり過ごすのはあまりにもったいないです。定年退職後も人生はまだまだ続きます。組織に所属できる残りわずかな貴重な時間を、豊かな老後に向けて自分を成長させる時間と位置づけてもらいましょう。 (3)役割分担  上司=偉い人、部下=従う人、という前時代的な考えを少しでも持っている年下上司は、まず意識改革が必要です。上司と部下は「偉さ」ではなく「役割」と割り切ってください。会社における役職は単なる「役割(機能)」の違いに過ぎません。上司の役割は「組織をマネジメントすること」、「人を育てること」、「組織目標を達成させること」であり、人間的な上下関係ではありません。上司としての役割(機能)に対する認識を、年上部下ときっちり共有してください。そして彼らに対してはこのような接し方がよいでしょう。  「意見はどんどんいってください。先輩の意見には謙虚に耳を傾け、そのうえで組織の方針を総合的に判断します。ただし決まったことには気持ちよく従ってください」  これなら彼らも自分の立ち位置を正しく理解してくれるはずです。 (4)“力を借りる”というスタンス  年上部下を動かす最大のコツは、彼らの「承認欲求や経験を尊重すること」です。頭ごなしに「〇〇してください」と指示するのではなく、「〇〇さんの経験を貸してください」、「相談に乗ってください」といった「依頼・相談」のアプローチをとります。「頼りにしている」ことを明確に伝えると、年上部下のプライドが満たされ強力なサポーターになってくれるはずです。  年上部下のなかには過去にマネジャー経験がある人もいます。「じつはいま、ちょっと困っていまして、○○さんは過去にどんなマネジメントをしていました?」などと、あえて自分の弱みを開示すると、年上部下との心理的距離感は一気に縮まります。人間は論理だけで動く生き物ではなく、感情でも動く生き物でもあることを忘れないようにしてください。 (5)年上部下の「居場所(活躍の舞台)」をつくる  年上部下が反発したりモチベーションを下げる背景には「自分の居場所がなくなる」、「若手のお荷物になりたくない」という不安が隠れています。そのため「豊富な人脈」、「トラブル対応の経験」、「特定の専門知識」など、彼らの強みが活きる役割を与えてください。例えば「若手のメンター役」、「クレーム対応の最終防波堤」、「特定顧客の専任担当」なども候補になるかもしれません。つまり「自分は組織に必要だ」と実感できる役割を任せることができれば、彼らのモチベーションは維持できるはずです。 (6)「ていねいな敬語」を徹底し、敬意を態度で示す  いうまでもありませんが、年上部下に対しては一貫して「ていねいな敬語(です・ます調)」を心がけてください。「上司らしくふるまおう」と無理にタメ口をきくのは禁物です。人生の先輩への敬意を言葉遣いで示しましょう。  また若手部下であれば「よくやったな!」といった表現でも問題ありませんが、年上部下に対して使う表現としては適切ではありません。そこでぜひ「一人称表現」を使ってみてください。「すごいですね!」、「よくやりましたね!」といった表現は上から目線の印象を与えますが、このような“客観的”な表現ではなく、「(私は)うれしかったです!」、「(私は)助かりました!」といった一人称表現を用いた“主観的”な表現で伝えてください。きっと彼らに「よし、次も組織に貢献しよう!」というモチベーションが芽生えるはずです。 (7)こまめな「1on1ミーティング」の実施  サイボウズチームワーク総研が実施した「年上の部下へのマネジメントとして、必要だと思うこと」のアンケート結果(図表2)をご覧ください。年下上司がもっとも必要だと考えていることが「敬語・丁寧な言葉遣い」であるのに対し、年上部下がもっとも求めているのは「部下の話を聞く」ということです。そこで大切にしていただきたいのが、年上部下との「1on1ミーティング」です。出身地や出身校、会社ではどんな仕事をして、どんな成果を出してきたのか、といった年上部下の「歴史」に耳を傾けてください。そうすることで、彼らが何を大切にして仕事をしてきたのか、つまり“価値観”が次第に見えてくるようになります。価値観の理解なくして彼らに本来の力を発揮させることはできません。1on1ミーティングの真の目的はここにあります。  それともう一つ、1on1ミーティングのなかでやっていただきたいことは「期待値を伝える」ことです。上司であるあなたが彼らに期待することをはっきりと伝え、四半期などの節目で互いにふり返ってください。あなたの期待値に対する彼らの“現在地”を1on1ミーティングのなかで確認しながら、互いの認識の“ズレ”を修正するのです。これで年度末の人事評価のフィードバックに対する精神的負荷がかなり軽減されるだけでなく、あなたの期待値に対する彼らのモチベーション維持を図ることができるはずです。 C最後に  年下上司と年上部下の関係性は、初めはだれしもやりにくさを感じるものです。しかし「彼らの経験に敬意を払うこと」と「役割として毅然とマネジメントすること」は両立可能です。  年上部下を持つという経験はだれもができる経験ではありません。年上部下を敬い、彼らの力を引き出すことができるようになったとき、年下上司であるあなたの人間力は格段に向上しているはずです。組織をマネジメントする役割を与えてくれた会社に感謝しつつ、ぜひ人としての器を広げていってください。 ※サイボウズチームワーク総研(2023年)「『年上の部下』へのマネジメント、必要なのは『敬語』よりも『傾聴』と『適切な関与』」 https://teamwork.cybozu.co.jp/blog/youngerboss.html 図表1―1 大企業の役職別平均年齢の推移 平均年齢(歳) 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 2014年 部長52.1 課長48.0 係長44.4 全体46.6 2019年 部長52.4 課長48.7 係長45.2 全体47.1 2024年 部長52.5 課長49.0 係長45.6 全体47.2 ※厚生労働省「賃金構造基本統計調査」をもとに株式会社トランストラクチャが作成 図表1―2 中堅企業の役職別平均年齢の推移 平均年齢(歳) 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 2014年 部長52.6 課長48.0 係長43.7 全体46.6 2019年 部長52.8 課長48.6 係長44.9 全体47.2 2024年 部長52.8 課長49.4 係長45.2 全体47.8 ※厚生労働省「賃金構造基本統計調査」をもとに株式会社トランストラクチャが作成 図表2 年上の部下へのマネジメントとして、必要だと思うこと 上司の意見:年上の部下のマネジメントに必要(n1500) 部下の意見:年上の部下のマネジメントに必要(n1000) 上司の意見:年上の部下に実際にしていること(n1500) 敬語・丁寧な言葉遣い 日々の声かけ 部下の話を聞く 他部員と平等に接する 適切な判断と意思決定 部下のモチベーション向上 所属チームの良い雰囲気づくり 適切なフィードバック 業務進捗の把握 部下のミスのフォロー 部下の性格・価値観の把握 社内情報の収集と共有 所属チームの状況・目的の共有 裁量の付与 役割やキャリアへの助言 上司の自己開示 出典:サイボウズチームワーク総研(2023年)「『年上の部下』へのマネジメント、必要なのは『敬語』よりも『傾聴』と『適切な関与』」 解説2 年上部下の困りごと ―心理的安全性を高め、経験を資産に変える職場づくり― アチーブ人財育成株式会社 代表取締役社長、NPO法人フィンランド式人材育成研究所 理事長 諌山(いさやま)敏明(としあき) @なぜいま「年上部下の心理的安全性」が重要なのか?  2026(令和8)年、日本の労働市場は未曾有の転換点を迎えています。労働力不足が深刻化し、シニア層の戦力化が企業の命運を分けるなか、役職定年や定年後再雇用にともなう「役割の逆転」は、いまやどの職場でも見られる日常となりました。「かつての部下が上司となり、かつての上司が部下として支える」という新しい関係性は、一見スムーズに見えても、その水面下では深刻な「溝」が生まれていることが少なくありません。  特に注目すべきは、年上部下の「心理的安全性」が著しく損なわれている現状です。心理的安全性とは、だれもが非難を恐れず、自分らしく発言し、貢献できる状態をさします。年上部下が「出過ぎた真似はできない」と口を閉ざし、周囲への「気兼ね」から必要な指摘を避ける職場では、彼らが数十年のキャリアでつちかってきた貴重な知見は組織に還元されず、ただ埋没してしまいます。  本稿では、年上部下が抱える「困りごと」を理解して、年上部下の「遠慮」を「貢献」に変えるために、会社や管理職がいかにして心理的安全性を構築し、年上部下の経験を組織の人的資本と再定義して経営していくか、具体的な対応策を提示します。  昨今、「年上部下の心理的安全性」が重要視されているのは、Google社の研究によって、心理的安全性の高いチームほど生産性が高いと証明されたことが大きな要因です★。多様な人材が活躍する現代において、年齢にかかわらずだれもが安心して意見をいえる環境が、組織全体のパフォーマンス向上に不可欠だからです。心理的安全性とは、組織のなかで自分の意見や気持ちを、拒絶や非難を恐れずに発言できる状態をさします。  この心理的安全性が年上部下にとって重要な理由として考えられるのは、次の4点です。 (1)意見表明の促進 ・年上部下も、自身の経験に基づく意見や疑問を気兼ねなく発信できる。 ・上司の顔色をうかがう「沈黙」がなくなる。 ・多様な視点を活用できる。 ・率直な意見交換により、チームに多様な価値観が生まれる。 ・イノベーション創出につながる可能性がある。 (2)学習と成長の機会 ・質問や相談をためらわず、知識や情報を共有できる。 ・個人の能力が最大限に発揮しやすくなる。 (3)エンゲージメントの向上 ・組織への愛着心が深まる。 ・離職率の低下にもつながる。 (4)心理的安全性が低い職場での問題 ・心理的安全性が低い職場では、図表1のような問題が発生しやすくなる。  心理的安全性は古くから存在する概念ですが、特に2016(平成28)年のGoogle社の「プロジェクト・アリストテレス」という調査結果によって一躍注目を集めました。この調査では、生産性の高いチームの共通点として「心理的安全性の高さ」があげられています。 ■Google社のおもな調査結果(★15ページ) @生産性の高いチームは、心理的安全性が高いです。 Aチームメンバーの「誰か」より「どのように協力しているか」が重要です。 B離職率が低く、収益性が高いなどの効果があります。 C心理的安全性の高い職場は、単なる「仲良しチーム」や「ぬるま湯組織」とは異なります。  むしろ、健全な意見の対立が生まれ、建設的な議論ができる環境をさします。 A年上部下が直面する「見えない困りごと」の正体  弊社が企業の定年延長者・再雇用者を対象に実施した昨年度の社員研修で、「シニア社員の困りごと・悩みごとアンケート」の調査を行った結果、もっとも多い回答が、「体力・健康面に対する不安」(50.0%)で、次いで「モチベーションの低下」(49.5%)、「パフォーマンスの低下」(42.3%)となり、体力・気力の衰えや、モチベーションが下がることに対して課題や不安を感じていることがわかりました(2025年度実施の研修受講者累計338人の有効回答結果より)。  アンケート調査結果をみると、特筆すべき点は、年上部下の抱える悩みごとの多くの場合、周囲からは見えにくいという特徴があります。これは、ベテラン社員として・プロフェッショナルであるとしてふるまおうとするあまり、内面の葛藤を押し殺している状況があるようです。  年上部下が直面する「見えない困りごと」について、シニア社員向けの研修で分析した結果、次の3点がわかりました(図表2)。 (1)働く自己像(アイデンティティ)の揺らぎと役割喪失感  長年、決定権を持ち組織を牽引してきた自負がある人ほど、肩書きが外れた後の「一担当者」としての自分を受け入れることに苦しみます。これは単なるプライドの問題ではなく、長年築き上げた「働く自己像(アイデンティティ)」が崩れるという深刻な心理的体験です。 (2)コミュニケーションにおける「沈黙の忖度(そんたく)」  年上部下は、年下上司を立てるために「あえて教えない、口を出さない」という選択をすることがあります 。例えば、このようなエピソードがありました。ある製造現場では、再雇用されたベテランが、若手上司の判断ミスを予見しながらも「いまさら口を出してメンツを潰しては悪い」との配慮で沈黙を守ったそうです。結果として生じたトラブルは、回避できたはずの損失でした。 (3)スキルへの不安と孤独感  最新のデジタルツールや生成AIなどの急速な変化に対して、「いまさら聞くのは恥ずかしい」というプライドが邪魔をし、一人で抱え込むことで孤立感を深めてしまうケースも多く見受けられます。 B心理的安全性を阻害する要因  組織側に目を向けると、意図せず年上部下の心理的安全性を損なう「構造的な壁」が存在します。  第一に、組織に蔓延する「アンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)」です。「シニアは教えにくい」、「過去に固執する」といった決めつけが、彼らへの期待値を下げ、挑戦の機会を奪っています。  第二に、会社からの「曖昧な期待役割」です。「経験を活かしてほしい」という抽象的な指示は、本人に「どこまで踏み込んでよいのか」という迷いを生じさせます。この曖昧さが、さらなる「遠慮」と「居心地の悪さ」を助長しているのです。 C心理的安全性を高めるための環境整備〜年上部下への取るべき対応  では、ここからは、年上部下の困りごとについて、具体的にどのように対応すればよいのかを考察します。  まずは、年上の部下を「かつての功労者」として遇するのではなく、「現在の重要な戦力」として再定義することが必要です。上司が年下で、自分より若い人材が多い組織に入った場合、年上部下は「自分はここにいていいのだろうか?」、「自分がいる意味があるのか?」といった不安を抱えがちです。不安を解消するには、「自分の居場所がある」と思える具体的な役割を与えることがおすすめです。  例えば、業界経験の長い年上部下に若手の指導役をお願いすれば、長いキャリアから得た経験や気づきなども伝えてもらえるメリットが生まれます。発言や提案してもらう機会を増やすことも効果的です。  また、居場所をつくるうえでは、企業やチームのビジョンを伝えて、「ビジョン実現のために〇〇さんの力が必要だ」、「◯◯スキルの高い若手を育てていきたい」といった話をすることで、年上部下の役割や居場所は増えやすくなるでしょう。チーム内に居場所がある実感が生まれると、年下上司や同僚の話にも耳を傾ける心の余裕も生まれやすくなるでしょう。  年上部下の場合、人生経験や業務経験がある分、年下上司やチームに対して構える姿勢があったり、プライドが高かったりするのはやむを得ない部分でしょう。そのプライドを「悪しきもの」として否定せず、活かしてもらえるように働きかけていきましょう。年下上司が年上部下のプライドを受け入れると、同チーム内で働く部下も年上部下の経験を尊重しやすくなりますし、年上部下の居場所も次第に増えていくことでしょう。  年上部下の心理的安全性を高めるために必要な環境整備は図表3のようになります。 (1)「期待役割」の言語化と合意形成  現在のポストにおける具体的な「貢献の形」を明文化します。例えば、「若手の商談同行・フィードバック」や「ナレッジの体系化」など、本人と話合いのうえで役割を特定し、組織全体に周知します。 (2)「対話の質」を変える1on1面談の仕組み  あえて業務進捗を確認しない「対話の時間」を定期的に設けます。上司が「教えてもらう」姿勢で、部下が現在感じている「働きにくさ」や、過去の経験をいまの課題にどのようにつなげられるかを聞き出すことで、心理的距離を縮めます。 (3)「学び直し(リスキリング)」能力開発への機会を提供  ITリテラシー向上や生成AIの活用など、変化に適応するための学習を会社として奨励します。知識のアップデートは「現役感」と「自己効力感」を取り戻させ、貢献意欲を再点火させます。 D年上部下が年下上司に接するときの心構え  昨今の年功序列制度の見直しや中途入社者の増加により、年下の上司や年上の部下との関係が多く見られるなか、お互いが気をつかい、パフォーマンスが上がらないケースも散見されます。その際、年上部下への適切な接し方を十分に理解することが重要です(図表4・5)。  逆に、年上部下が年下上司に接するときの心構えとして、「役割」と「人格」を切り離し、役割に徹する意識が求められます。  上司と部下は役割が異なるため、年齢や経験にかかわらず、部下としての仕事に注力します。 (1)敬意を持つ  たとえ年下であっても、上司には敬意を払い、礼を失しないことが大切です。 (2)積極的にコミュニケーションをとる  良好な関係を築くためには、積極的にコミュニケーションをとり、信頼関係を構築します。 (3)自分の強みでサポートする  豊富な経験や知識を活かし、チームや上司をサポートすることで、自尊心が満たされ、主体的に仕事に取り組めます。 (4)上司の気持ちに寄り添う  年下上司もまた、年上の部下との接し方に悩んでいることがあります。相手の立場を理解し、寄り添う姿勢が大切です。  次に「良好な関係を築くための共通ルール」を意識することも必要です。役職や立場の違い、権限を明確にするなど、共通のルールを設定することで、ぎくしゃくした関係を防げます。そのためには、共通のビジョンや目標を掲げ、目標達成に向けて協力することで、良好な関係を築けます。 Eおわりに「経験を組織の資産へ」  年上部下の心理的安全性を高める取組みは、単なる配慮ではなく、組織の持続可能性を高める経営戦略そのものです。「遠慮」というブレーキを外し、ベテランの持つ豊かな「経験」というエンジンを再び回し始めること。そのための土壌を整えることこそが、多世代共生社会における理想の組織像ではないでしょうか。 ★出典:Google re:Work「『効果的なチームとは何か』を知る」より一部参考 https://rework.withgoogle.com/intl/jp/guides/understanding-team-effectiveness 図表1 心理的安全性が低い職場での 問題点 体的な影響 無知だと思われる不安 質問や相談を控える 無能だと思われる不安 積極的な発言や失敗の共有を避ける ネガティブだと思われる不安 否定的な意見や懸念を報告しない 邪魔だと思われる不安 チームへの貢献をためらう ※筆者作成 図表2 年上部下の「見えない困りごと」 カテゴリ 具体的な影響 存在価値の揺らぎ 「自分がいなくても組織は回る」という喪失感・疎外感 役割の曖昧さ 期待されている役割が「現状維持」なのか「貢献」なのか不明 コミュニケーションの壁 「出過ぎた杭」になりたくないという過度な遠慮 スキルへの不安 新しいツールや手法への適応に対する焦りと気後れ ※筆者作成 図表3 心理的安全性を高める環境整備(施策の柱とアクション) 施策の柱 具体的なアクション 期待される効果 役割の明確化 ジョブ記述書の作成・貢献領域の合意 「自分の居場所」の確信 対話の仕組み 定期的1on1面談・多角的なフィードバック 孤独感の解消、本音の表出 能力開発支援 リスキリング・強みの棚卸し支援 自己効力感の向上、変化への適応 ※筆者作成 図表4 年下上司と年上部下の関係構築(おすすめ・避けるべきスタンス) 項目 おすすめのスタンス 避けるべきスタンス 聞き方 「〇〇さんの視点をお借りしたいです」 「昔の話はいいので、今の話をしてください」 フィードバック 「助かりました」「さすがの安定感です」 「年上なんだから、これくらいやって当然」 指導が必要な時 「チームとしてこのルールで統一したいので協力してください」 「私のやり方に従ってください(感情的な命令)」 ※筆者作成 図表5 年下上司の支援明日から使える「声かけ」Before/After 場面 逆効果な声かけ(NG) 心理的安全性を高める声かけ(OK) 業務の相談 「これ、やっておいてください」 「〇〇さんのこれまでのご経験から見て、この進め方はどう思われますか?」 ミスへの指摘 「やり方が古いです」 「〇〇さんの知見は貴重ですが、今のプロジェクトのスピード感に合わせるため、このツールを併用しませんか?」 1on1面談の冒頭 「何か困っていることはありますか?」 「〇〇さんにチームの『重し』として支えていただき感謝しています。より力を発揮しやすくするために、私に手伝えることはありますか?」 ※筆者作成 コラム メール相談事例で学ぶ年上部下の悩みごと 独立行政法人労働者健康安全機構 横浜労災病院 勤労者メンタルヘルスセンター長 山本(やまもと)晴義(はるよし) 25年間で20万件の相談に対応してきた心療内科医・山本晴義さんに、年上部下から寄せられたメール相談をご紹介いただきました。 相談事例1 年下上司との関係に揺れる心  私は今年、役職定年を迎え、長年務めてきた部長職を退きました。これまで部下だった若手が、いまでは私の上司としてチームを率いています。頭では「時代の流れ」、「組織の仕組み」と理解しているつもりなのですが、心が追いつきません。  会議で彼が指示を出すたび、かつて自分が同じように采配していた姿がよみがえり、胸の奥がざわつきます。彼の判断に納得できないときもありますが、「元上司の自分が口を出すのはみっともない」と思うと、意見を飲み込んでしまいます。逆に、彼が私に遠慮している様子が見えると、申し訳なさと居心地の悪さが混ざり合い、ますます自分の立ち位置がわからなくなります。  これから私は、どのように心を整え、年下上司との関係を築いていけばよいのでしょうか。(61歳 事務職) 【山本先生の回答】  メール拝見しました。胸中の複雑なお気持ちが伝わってきます。頭では割り切れても、心の整理がつきにくいのは当然です。とりわけ、かつては采配を振るい、組織の決定権をになってきたご自身にとって、「いまは意見を控えるべきか」、「発言したら過去の威圧と映るのでは」と葛藤されることは、ごく自然な反応といえます。  まず大切なのは、「年月をかけてつちかった経験や知見、誇りは消えない」ことを心に留めておくことです。役職は変わっても、あなたがこれまで積み上げてきた業務知識、人脈、問題解決能力は、チームにとって貴重な資産です。ですから、ご自身を卑下する必要は一切ありません。今後は、「決定する立場」から少し距離をとり、「支える立場」として力を発揮してみてはいかがでしょうか。  例えば会議で意見があるときは、責任ある助言者として、具体的な提案や「私はこういう経験があるが、どう思いますか」と問いかける形にすると、元上司・現部下の線を越えず、いまの組織に調和した形で存在感を示せるはずです。 さらに、遠慮や居心地の悪さを感じるのは、おもにお互いの気づかいゆえです。どちらかが割り切ることも一つの方策ですが、やはり、敬意と信頼をベースに、オープンな対話を日々意識しましょう。「今後はあなたを支える役割で貢献したい」と、自分なりの立ち位置を相手に伝えておくのも有効です。  最後に、自らも新たな専門性や分野を学び直すことで、過去の輝きにすがるだけでなく、「いまここでこそできる」自分の成長の機会へと変えていきましょう。自分の役割が変わることは、人生の新たなステージの始まりです。焦らず、経験値を活かしつつ、前向きな気持ちで新しい関係性とご自身のあり方を模索してみてください。 相談事例2 「老害」といわれショックです  定年退職後、アドバイザーという立場で5年間働いてきました。若い社員の育成や、これまでの経験を伝えることにやりがいを感じ、微力ながら会社に貢献できていると思っていました。  ところが先日、研修講義を担当した際、受講後の匿名アンケートに「老害」という言葉が書かれていました。正直、胸を刺されるようなショックを受けました。自分なりに誠実に取り組んできたつもりでしたし、これまでの経験が少しでも役に立てばという思いで続けてきたので、否定されたように感じてしまいました。  このような状況で、私は会社を辞めるべきなのでしょうか。それとも、受けとめ方やかかわり方を見直すべきなのでしょうか。自分では冷静に判断できなくなっています。ご意見をいただければ幸いです。(65歳 技術職) 【山本先生の回答】  悩みをお寄せいただき、ありがとうございます。定年退職後もアドバイザーとしてご勤務し、若手社員の育成に尽力されてきたこと、誠に立派ですばらしいことだと思います。長年の経験を基に、後進へのサポートをされる姿勢は、決して軽視されるべきものではありません。こうした職務を通じて、あなた自身も多くのやりがいを感じていたことでしょう。  それにもかかわらず、アンケートで「老害」と書かれたことが、いまのあなたに大きなショックを与えたこと、心中お察しします。人は自分が誠実に取り組んできたことを否定されたと感じると、その影響は非常に大きいものです。このようなフィードバックに直面することは、特に長年の経験を持っている方にとってはつらいことです。匿名性のある評価は時に、その言葉に強い感情が込められることがあり、無意識に心の負担となることもあります。  まずは、自分自身の気持ちを受けとめてあげてください。どれだけ努力しても、すべての人に受け入れられることはむずかしいのが現実です。しかし、あなたがいままで蓄積してきた経験や知識は、きっと多くの人にとって価値あるものです。それを伝えることに責任を感じているあなた自身の姿勢は、偉大なことだと思います。ですから、今回の一つの意見にふり回されるのはもったいないです。  今後のかかわり方については、次のように考えてみてはいかがでしょうか。まず、アンケート結果をただの評価だと受け取るのではなく、一つの意見としてとらえ、自らを見直すきっかけにすること。自分の言葉や伝え方をふり返り、若手社員とのコミュニケーションのスタイルを工夫するのもよいかもしれません。また、フィードバックとして受け入れつつ、積極的に対話を持ち、その内容についてじっくりと話し合う機会をつくることができれば、理解も深まるでしょう。  会社を辞めることについては、その判断は慎重に行うべきです。あなたの存在が迷惑になっているかどうかは、周りの意見や反応をしっかりと確認してみることで得られる答えでもあります。可能であれば、ほかの信頼できる同僚や上司とも話をしてみて、客観的な声を得ることが重要です。最終的な決断は、あなた自身がどのように感じ、思うかにかかっています。自分にやさしく、控えめな気持ちを持ち続けながら、少しずつ前進していただければと思います。 ※Dr.山本のメール相談(無料) mental-tel@yokohamah.johas.go.jp