立川(たてかわ)談慶(だんけい)の人生100年時代の歩き方 第5回 だから教えねえほうがよかった  これは落語「長短」のオチです。「長短」とは、気の長い男(長七(ちょう)しち)と気の短い男(短七(たんしち))との二人の会話だけという落語らしい設定です。ただ、この二人がとても仲がよく、いつも一緒にいる感じがしてとてもよい空気感に包まれるような一席でもあります。  気の短い男は、気の長い男の言動にいちいち腹を立てます。会話から、餅菓子の食べ方に至るまで、腹を立ててばかりいます。気の長い男のたばこの吸い方に怒りを覚えて、「こうやって吸うんだよ」と気の短い男が見本を見せるのですが、「短七さんは、気が短いから、いつも怒っているよなあ」、「そうだよ」、「俺のいうこともやっぱり腹が立つかい?」、「お前は別だよ。生まれついて仲よくしていて幼なじみだ。お前が何いっても俺は怒らないよ」、「ほんとかい」、「うるせえな、ほんとだよ」、「じゃあ、いうけど、お前さんが煙草盆にはたいた火の玉が煙草盆に入らねえでお前さんの着物の袂(たもと)に入っちまって、大丈夫かなと思っていたら、いまモクモクと煙が出てきているけど…」。ここで短七は激怒して「そういうことは早くいえ、バカ野郎!」、「ほら、やっぱり怒るじゃねえか。だから教えねえほうがよかった」。  師匠の談志(だんし)は、このオチにフォーカスし、「世の中、教えすぎなんだよ。教えねえほうがいい場合が、じつはほとんどじゃないか」と頻繁に訴えていたものです。  情報過多のマイナスという意味合いでしょうか。「教えてしまう」ことで自分の力で工夫するという大切な可能性もなくなってしまうのではと危惧していたものです。  かくいう私も還暦を過ぎてからというもの、成人しているわが子二人にも、ついつい教えたがりになってしまっているようで、これも老害かと反省するのみです。  そこで「向こうが教えてくれというまで教えない」と心の中で決めてみました。  得てして若い人は「わからないところがわからない」ケースもあるものです。向こうが気づくまで待つしかありません。いや、これは若い人ばかりではありません。何ごとも気を長くして待ちましょう。