高齢者の職場探訪 北から、南から 第166回 京都府 このコーナーでは、都道府県ごとに、当機構(JEED)の70歳雇用推進プランナー(以下、「プランナー」)の協力を得て、高齢者雇用に理解のある経営者や人事・労務担当者、そして活き活きと働く高齢者本人の声を紹介します。 全世代が持ち味を発揮する組織へ 50代から緩やかに後進へ仕事を引き継ぐ 企業プロフィール 株式会社セイワ工業(京都府久世郡(くせぐん)久御山町(くみやまちょう)) ▲創業 1950(昭和25)年 ▲業種 材料溶断、産業用機械の大物部品、製缶・機械加工等 ▲社員数 31人 (60歳以上男女内訳) 男性(4人)、女性(1人) (年齢内訳) 60〜64歳 3人(9.7%) 65〜69歳 1人(3.2%) 70歳以上 1人(3.2%) ▲定年・継続雇用制度 定年60歳。希望者全員65歳まで継続雇用。以降は運用により基準該当者を年齢上限なく継続雇用。最高年齢者は76歳  京都府は、日本有数の歴史都市であり、「鹿苑寺(ろくおんじ)(金閣寺)」をはじめとする世界遺産を有しています。また、伝統工芸品が生活や産業に根づき、毎年多くの観光客が国内外から訪れています。JEED京都支部高齢・障害者業務課の石橋(いしばし)弥生(やよい)課長は、京都府と同支部の取組みについて次のように話します。  「観光のイメージが強い京都府ですが、電子部品や精密機器、計測・分析機器などの製造業も盛んで、世界的なものづくり企業を多数輩出しています。地域別に見ると、京都市中心部には観光資源に加え、大学・研究機関、IT分野や先端産業が集積しています。南部地域では研究開発拠点や製造業、学研都市の整備が進み、北部地域では農林水産業、機械・繊維産業、港湾関連産業が地域経済を支えています。当支部の相談・助言活動では、業種や事業規模の区別なく、各事業所が抱える課題に寄り添い、実情に即した具体的な解決方法の提案を心がけています」  同支部で相談・助言活動に取り組むプランナーの一人、内藤(ないとう)孝夫(たかお)さんは、長年の会社勤めで得た経営・労務・人事・社員教育などの経験を活かし、府内事業所の高齢者雇用の取組みを支援し、人材確保などの課題解決や企業の成長を支援しています。  今回は、内藤プランナーの案内で、「株式会社セイワ工業」を訪れました。 多様なものづくりを支える会社  株式会社セイワ工業は、産業用機械の大物部品加工を得意とする金属加工メーカーです。創業は1950(昭和25)年、清和工業の名称で鉄工所としてスタートしました。その後、有限会社設立をはじめ設備や技術力の向上を図りつつ事業規模を拡大。2000(平成12)年に株式会社セイワ工業に改組し、現在では業界屈指の保有台数とされる7台の五面加工機を保有しています。製造する物の大きさや構造上の特性などを考慮し、最適な機械を選択して迅速な需要への対応や、材料の溶断・溶接・機械加工の一貫生産体制を整えていることを強みとし、国内外のさまざまな産業用機械メーカーから製品を受注し、多種多彩なものづくりを支えています。  同社は、「すべての仲間と笑顔を共有したい お客様のみならず、社員と取引企業などすべての仲間と共に素晴らしい笑顔でいたい。」を企業理念に掲げ、社員が互いに理解しあい、力をあわせて前向きな行動ができる会社づくりを目ざしています。  取締役・総務部長の松井(まつい)義直(よしなお)さんは、同社について次のように説明します。  「『人は財産、社員は家族、社員の家族も家族』という考えのもと、年齢や性別などにかかわりなく、個性を尊重し、また、調和を大切にして働きながら地域や社会貢献にも取り組んでいます。最高齢者は76歳で、60歳を過ぎてから当社に入社し、機械加工と旋盤を担当しています。最年少者は20歳。平均年齢は41歳です」  家族的な温かい社風に加え、年齢や社歴を問わず努力した者を評価する仕組みがあること、また、互いの信頼関係を築くために多数のレクリエーション活動を行うなど福利厚生が充実していることも同社の特徴です。  例えば、新入社員歓迎会を兼ねた社員旅行を毎年3泊4日で開催し、これまでにハワイ、中国、タイ、ベトナム、沖縄などに出かけています。ほかに、運動会やボウリングなどのスポーツ大会を年4回開催。企画は若手が中心になって考えており、工夫を凝らしてみんなで楽しめるプログラムが用意されるそうです。また、クリスマスシーズンは工場をイルミネーションで装飾しており、地域でもたいへん評判がよいとのこと。さらに、「アソビバ」と名づけたジムやインドアゴルフ、ダーツが楽しめる施設を社内に整備しています。地域貢献では、月1回本社と工場周辺の道路清掃を実施。地域の中学生の職場体験、インターンシップの実施なども行い、かつて参加した子どもが同社に就職したこともあったそうです。  「社員旅行の参加率は約8割、そのほかの行事は9割を超えており、遊ぶときはみんなで楽しみます」と松井部長。こうした取組みが功を奏しているのか、毎年新卒者を採用し、離職率の低い職場を実現しています。 社員は財産、働けるうちはいつまでも  同社は2002年に60歳定年と希望者全員65歳までの継続雇用制度を整えました。継続雇用はフルタイム勤務を基本とし、1年ごとに契約を更新します。フルタイム以外にパートタイムで働くこともでき、いずれも基準該当者は年齢上限なく継続して勤務することができます。  「社員は会社にとってもっとも大切な財産ですから、働けるうちは勤務してほしいですし、退職しても家族の一員という考えを持っています」(松井部長)  内藤プランナーが同社を初めて訪問したのは、2022(令和4)年10 月のこと。その時点では比較的若い人材が多い同社でしたが、採用環境が厳しさを増していくことが予想されるなか、次のような話をしたと内藤プランナーはふり返ります。  「企業として技術力を維持・継承していくためには、もっとも大切な財産である社員の技術・ノウハウを、今後も企業内で発揮できる労働環境(福利厚生面を含め)を整えていくことが、若い人たちの就業意識の向上につながり、労働者の確保要因として効力があることなどをお話ししました」  そして2025年12月に2回目の訪問をした際は、50代の社員が増えてきたことから、「将来を見すえて、70歳までの就業を視野に入れた具体的な提案として、就業規則サンプルを提示したほか、JEEDの雇用力評価ツールを活用し、同業他社との比較から、会社の強みや検討課題を洗い出し、その対応策などをお示ししました」と内藤プランナーは話します。それらの提案や助言をふまえ、同社ではいま、定年年齢の引上げの検討や、働く意欲と能力があるかぎり、勤務を継続できる労働環境の整備を進めています。  また、同社では以前から30代が仕事の中心をになう組織づくりを行っており、ベテラン従業員は50代から緩やかに、仕事や役割を後進に引き継ぎ、その後は職場全体を見守るような役割をになっていくといいます。  今回は、そのような仕事の引継ぎを経験されたお二人に話をうかがいました。 若い世代に仕事を引き継ぎ、全体を見守る  勤続25年のHさん(63歳)は、定年後もフルタイムで勤務し、現在は営業事務を担当しています。「営業担当者は外出していることが多いため、お客さまから問合せがあったときなどに代わって対応することもあります」とHさん。お客さまと製造担当者との間に入るため、受注した機械の図面を理解していないとできない仕事です。「私が間違うと現場の人が困るのでそこは気をつけて行っています」と引き締まった表情で語ります。  以前は総務・経理を長く担当しており、「55歳になったころ、世代交代ということで、総務・経理の仕事を1年半くらいかけて次の世代に引き継ぎ、それから営業事務を担当しています」とのこと。ただ、総務・経理を担当していたときから営業事務の業務にもたずさわっていたため、現在の仕事に不安はなかったとふり返ります。  「定年を迎える前は、定年後がどのようになるのか想像もつかなかったのですが、定年を機に『今日からこっちの作業をしてください』といわれるのではなく、同じ仕事で同じような条件と状態で働ける環境で、とてもありがたく感じました。周囲のみなさんも変わらずに接してくれています」と定年を迎えたときの実感を語ってくれました。いまは自らの仕事に責任を持ちながら、「若い人たちの指導役はほかにいますので、そのサポート役として、何か気づいたことがあれば自分の持っている経験を伝えていけたらと思っています」と職場での現在の役割を語ります。  黒川(くろかわ)彰(あきら)さん(63歳)は、勤続31年。定年を迎える2年ほど前まで高度な技術を要する機械オペレーターとして働いていました。現在は、出荷前に行う製品の検査を担当しています。  「図面通りにつくられているか、最終確認する仕事です。製品の大きさや形状はさまざまで、8mほどの大きさの製品もあります」と黒川さん。  黒川さんは、同社の現社長である東(あずま)憲彦(のりひこ)代表取締役と同級生で、互いに気心の知れた仲とのこと。「社長から機械加工を教わり、ともに事業をつくってきました。定年前に、『次の若い人にバトンを渡していこう』と社長から話がありました。経験のある者が同じ仕事をずっとしていると、その人が働けなくなってしまった際に会社が困ります。そうならないよう、経験のある者が順次、次の人を育てていくというのが会社の方針で、私も同じ思いで引継ぎをしました。機械オペレーターは100分の1mmの精度が求められる厳しい仕事でしたから、それに比べると検査はやりやすいです。いま担当している仕事は長年の経験が活かせるのでやりがいもあります。検査で気づいたことがあると、なぜそうなったのか、つくった人が自分で考えて理解できるように導いていくことを心がけています」と仕事と定年前の引継ぎについて語ってくださいました。  また、同社の好きなところをたずねると、「前向きな行動であれば、自由に挑戦させてもらえることです」と黒川さんは即答し、そんな前向きな若手たちを見守り、支えていきたいと笑顔で話しました。 だれもがストレスなく働ける会社を目ざす  同社には、「若者の会」という、会社の将来を展望し、勉強会などを定期的に開催している会があるそうです。技術展などにも若手が積極的に参加しており、「ミドルシニア世代は、そういった若い世代を応援していると思います」と松井部長は話し、「人を大切にして、だれもがストレスなく働ける会社を目ざします」と今後を語りました。  内藤プランナーは、「人を大切にする姿勢が行きわたっているとあらためて感じました。今後60歳を超える社員が増えても、現在の社風であれば、ほとんどの人が70歳くらいまで働き、次の人にバトンを渡していくというよい循環が続いていくのではないでしょうか」と述べ、今後は健康対策などのアドバイスをしたいと話しました。  各世代が家族のようにつながって、互いを敬う職場づくりをしている同社には、技術力に加え、表からは見えない力も育まれていて、会社をより強くしているように感じました。 (取材・増山美智子) 内藤孝夫プランナー アドバイザー・プランナー歴:15年 [内藤プランナーから] 「『三方よし』の考えのもと、高齢者活用のさまざまな情報を訪問先企業にお伝えしています。少子高齢化に対応した人事施策の手がかりをつかんで具体的な制度設計に役立てていただくことで、人材確保と少子高齢化・労働力減少への対応に少しでもお役に立てればと務めております」 高齢者雇用の相談・助言活動を行っています ◆京都支部高齢・障害者業務課の石橋課長は、内藤プランナーについて「企業の人事部門での経験から、特に人事労務管理や製造現場における品質管理などの職場改善を得意分野として15年にわたり当支部で活躍しています。豊富な知識と穏やかな人柄を活かし事業主へていねいなヒアリングを行い、課題解決に向けた的確な提案を行っています。当支部が信頼を寄せるプランナーの一人です」と紹介します。 ◆京都支部高齢・障害者業務課は、阪急電鉄「長岡天神」駅から徒歩8分、またはJR「長岡京」駅から徒歩15分の京都職業能力開発促進センター(ポリテクセンター京都)内にあります。京都市と大阪市の中間に位置し、公共交通機関によるアクセスの利便性が非常に高い立地となっているうえ、周辺では特産品である筍の生産・出荷が行われているなど自然が身近に感じられる環境でもあります。 ◆府内では、10人の70歳雇用推進プランナーが活動しており、事業所訪問を実施しています。2025年度は511件の相談・助言活動、180件の制度改善提案を行いました。 ◆相談・助言を無料で行います。お気軽にお問い合わせください。 ●京都支部高齢・障害者業務課 住所:京都府長岡京市友岡1-2-1 京都職業能力開発促進センター内 電話:075-951-7481 写真のキャプション 京都府久世郡久御山町 株式会社セイワ工業本社・本社工場 松井義直取締役・総務部長 出荷前の製品を厳しいまなざしでチェックする黒川彰さん