高年齢者活躍企業コンテスト 受賞企業の軌跡 最終回 株式会社きむら(香川県高松市)  独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)と厚生労働省との共催で毎年開催している「高年齢者活躍企業コンテスト※」。高齢者雇用の推進に資する事例を広く募集し、優秀な事例を表彰しており、その内容は、毎年本誌で紹介しています。本連載では、かつてコンテストで厚生労働大臣表彰を受賞した企業を取材し、その後の取組みの進化・深化をレポートします。第6回は、2017(平成29)年度に最優秀賞を受賞した株式会社きむらを取材しました。 80代も活躍中!65歳定年後、三つの雇用区分を用意 1 大臣表彰受賞後、求人の応募者が増加 栄誉が人材獲得と成長の推進力となる  香川県高松市(たかまつし)に本部と本店を置く株式会社きむら(以下、「きむら」)(木村(きむら)宏雄(ひろお)代表取締役)は、2017(平成29)年に「平成29年度高年齢者雇用開発コンテスト」で厚生労働大臣表彰最優秀賞を受賞した。同社は、生鮮食品を中心とする地域密着型のスーパーマーケット(以下、「スーパー」)を展開する老舗企業。人材獲得競争が激化するなかで、経験や技術を持った高齢者を即戦力と位置づけ、定年60歳(当時)以降の再雇用制度について、雇用の上限年齢を廃止した。また、賃金制度の見直しも行い、本人が60歳時と同じ就業を希望し、支障がなければ再雇用後も役職・給与を継続することとした。これらの取組みなどが高く評価され、厚生労働大臣表彰最優秀賞の栄誉に輝いた。  総務・人事部の藤田(ふじた)誉(ほまれ)部長は、「この賞をいただいてから、当社の求人に対してシニアの方々の応募が増えました。当社の店舗で高齢従業員が活躍していることや、健康で就業意欲があれば長く働き続けられる職場であることがハローワークなどから広まったのだと思います。また、高齢者のための就職面接会といったイベントや、パネルディスカッションのパネリストとして呼んでいただくなど、当社の取組みを多くの方に知っていただく機会が増え、人材獲得に加えて、企業として成長していく推進力になりました」と大臣表彰がもたらした効果をふり返る。受賞と同年の12月には、経済産業省が選定する「地域未来牽引企業」に選ばれるという栄誉にも浴した。翌2018年には、香川県が進める「かがわ働き方改革推進宣言」を行い、長時間労働の是正に取り組んで目標を達成するなど、全従業員の働き方改革も前に進めた。  大臣表彰から9年。この間、コロナ禍があったことは記憶に新しい。全国のスーパーは人々の暮らしを守る大切な役割をになって営業していた。同社でも感染防止対策を徹底して店を開け、従業員は使命感を持って働いていたという。また、流通業界では昨今、全国展開する大手スーパーが地方のスーパーを買収するなどの再編が進んだり、多彩な品揃えのドラッグストアが進出してきたりして、地方のスーパーが生き残るには地域に支持され続ける店舗づくりが以前にも増して求められるようになった。そのような状況下に同社の高齢者雇用はどのように深化したのか。そして、社業にどのような影響を与えているか、同社の軌跡を追った。 2 香川県発祥の地場スーパーとして地元の新鮮な食材を提供  同社は1907(明治40)年に食品を小売りする個人商店として香川県で創業し、有限会社、株式会社への組織変更を経て、現在に至る。1982(昭和57)年には県内2番目となるコンビニエンスストアスタイルの小型スーパーを開設し、店舗に書店を併設したことが注目を集めた。その後、生鮮食品を中心とした事業を展開し、屋号を「新鮮(しんせん)市場(いちば)きむら」とする。2001年からは本格的なチェーン化を目ざし、現在は香川県に11店舗、岡山県に4店舗を展開している。  屋号に「市場」とつけたのは、取り扱う商品の7割を生鮮品が占め、活気に満ちた市場の雰囲気をそのまま店に持ち込んでいるからだという。地域のニーズに合わせた品揃えとするため、店舗ごとに仕入れを行うことも同社の特徴だ。また、事業の継続が困難になった魚市場を買い取ってその運営も手がけており、鮮魚コーナーは、この直営市場のほか、漁船からの直接の買いつけと、直営以外の卸売市場で競り落とすという三つの仕入れルートを持ち、獲れたての魚を箱に入れたままずらりと並べて販売することでも有名になった。魚を目当てに、開店と同時ににぎわう日が多いという。精肉、青果、総菜にもこだわりがあり、最近ではピザチェーン店とのコラボレーション商品が人気となり、総菜部門の売上げを伸ばした。また、お客さま向けのアプリを開発するなど、さまざまな工夫を凝らし、唯一無二の地場スーパーとして地域の人々から親しまれ、人口減少が続くなかでも売上げを維持している。  9年前と現在の同社の取組みの違いとして、SNSや動画配信を使った広報が大幅に増えたことがあげられる。公式のほか店舗ごとの配信もあり、動画は若い従業員が中心になって制作しているそうだが、ミドル・シニア世代の従業員が参加しているものもある。多世代の多様な人材がそれぞれの持ち味とつちかってきた技術や経験を活かして働いているからこそ、同社の店舗が活気と工夫にあふれているといえそうだ。 3 定年を65歳に引き上げ、再雇用の雇用区分を整備。従業員から好評を得る  2026(令和8)年2月1日現在、同社の従業員数は887人。60歳以上の従業員は269人で、全体の30.3%を占めている。内訳は、60〜64歳が83人、65〜69歳が62人、70代が118人、80代が6人で、最高齢者は総菜部門の85歳。  大臣表彰受賞時の『エルダー』誌面によると2017年は、60歳以上は290人で、60〜64歳が126人、65〜69歳が132人、70歳以上が32人。比較すると、現在は70代、80代が大きく増えている。「パートで入って10年以上勤務する方が多いので、おそらく9年前から働いている方々の多くが年齢を重ねて、いまも元気に働いている、ということだと思います」と藤田部長は分析する。  豊富な経験や技術を持つ高齢従業員を即戦力として位置づけ、就業意思があれば年齢の上限なく再雇用する制度をはじめ、再雇用後も人事評価を行い結果によって昇給の可能性があることや、次世代の教育指導役として高齢従業員が活躍していること、作業環境はつねに改善を目ざし積極的な機械化を推進していること、60歳を超えてからの採用も積極的に行っていることなど、9年前から実施している高齢者雇用の取組みはいまも続いている。  ただ一つ、以前は「定年60歳。定年後は、希望者全員を65歳まで再雇用。さらに、運用で本人の就業意思があれば、年齢の上限なく再雇用」としていた定年制度を2024年にあらため、「定年65歳。定年後は、運用で本人の就業意思があれば、年齢の上限なく再雇用」とした。そして、定年後の雇用区分として、大きく次の3区分を整えた。@嘱託社員(定年前と同じ役職・給与を維持する働き方。本人の希望と会社の意向を調整して決まる)、A契約社員(1日8時間のフルタイム勤務で残業なしの働き方)、Bパート契約社員(勤務時間・日数は希望に応じて会社と相談して決まる。多様な働き方が可能)。  定年を65歳に改定したことについて藤田部長は、「以前は60歳定年後、ほとんどの人が60歳時と同じ働き方を希望して再雇用で勤務を継続していました。ただ、65歳前後くらいから、体調や家庭の事情などにより、ゆるやかな働き方を望む人も出てきます。そこで、自分に適した働き方でより長く勤務できるよう、定年を65歳にして、ここで面談をしてその後の働き方をしっかりと相談し、以降も1年ごとに面談を行うことにしました」と改定の理由を語る。従業員からは、「働き方を相談できるタイミングができてよかった」、「無理なく長く働けるようになってありがたい」といった好意的な声が聞かれているという。面談のタイミングで退職を決める人もいて、「面談の機会が決まっていてよかった」という声も聞かれたそうだ。  定年を65歳にしてから、次のようなこともあった。大手企業に勤務していた男性から求人へ応募があり、動機をたずねると、その男性の会社は60歳定年のため、65歳まで正社員として働くことができ、その先も年齢上限なく再雇用の道があるきむらに転職したいとのこと。その結果、経験豊富な50代を採用できたという。また、他社を60歳で定年退職後、きむらで正社員として働きたいと入社した人もいる。求人への応募者は9年前より年齢が上がっていて、経験と意欲があれば70歳超も採用している。人材獲得競争は年々激しさを増しているが、70代、80代も活躍できる雇用制度や職場づくりが同社にとって大きな力になっていることは間違いなさそうだ。最近は外国人材の採用にも取り組んでいる。  同社は、地場スーパーとして、地場の漁師や農家の生産者が生き残っていくことも意識して、生鮮食品に特化した事業にこだわっている。従業員には、そうした思いを強く持って仕事に臨んでいる人も多いという。「香川県発祥のスーパーはかつて多数あったのですが、大手による買収や事業譲渡が相次ぎ、当社を含めて数社となりました。そうした状況は社長から従業員に伝えており、従業員は地場のスーパーとして誇りを持ち、さらにがんばっていこうという思いを持って仕事をしています」(藤田部長) 4 経験豊富なベテランが、若い人材を育て安心して成長できる職場環境に貢献  同社で働いている高齢従業員の方々は、高齢者雇用制度や自身の働き方についてどのように感じているのだろうか。70代と60代のお二人からお話をうかがうことができた。  茶納(ちゃのう)英明(ひであき)さん(71歳)は、以前に勤務していたスーパーが閉店し、50代半ばできむらに入社して約15年。「当時、再就職は困難かと思いましたが、木村社長に救われました」とふり返る。店長の経験を経て、定年後は嘱託社員として太田本店に勤務しているが、昨年12月から急きょ同店の店長代理となり、次の店長を育てる役割もになっている。藤田部長は、「店長の欠員ができて経験者の茶納さんに代理をお願いしました。朗らかにみんなを引っ張ってくれる頼もしい存在です」と茶納さんを紹介する。茶納さんは、「店長経験があり、『店長代理』にと声がかかったことはうれしかったのですが、10年のブランクがあり、仕事の流れなども変化していますから、かなり重圧を感じました。それでも代理をやろうと決意したのは、社長の考え方や仕事に対する熱意が好きですし、何よりスーパーの仕事が好きですから、会社の役に立てるなら、という気持ちが勝りました。店長代理を務めながら、後進の育成もしています。店長代理として、たくさんの地域の方々に愛される店づくりを、そして、従業員が明るく元気に仕事ができる職場づくりを目ざしてがんばります。この仕事は天職と思っていますので、体調管理に気をつけて、あと10年は続けていきたいです」と笑顔で話してくれた。  上田(うえだ)耕司(こうじ)さん(62歳)は、家族が経営していたスーパーに長年勤務した後、13年前に入社した。スーパー勤務の経験は40年、そのうち37年は青果を担当し、きむらの青果部門でもチーフを務めた。藤田部長は「現在はチーフの役を若手に引き継いで、チーフをサポートする役をになっています。青果の知識も経験もたいへん豊富なので、いろいろなことを教えていると思います」と上田さんを語る。上田さんは、「チーフはすでにだいたいのことができるようになりましたので教えることはあまりなく、野菜に関する知識や情報を伝えたり、イレギュラーなことが起こったときに支えたりするくらいです。いまは仕入れの担当ではないのですが、担当していたときと同じような感覚で仕事に臨み、お客さまにどのように提供するかを考え、工夫することがやりがいになっています。  これからも活気があるスーパーであり続けるよう、補佐役としてしっかり仕事をしていきたいと思います。そのなかで、小さなことにもドキドキワクワクできるような、そんな働き方を続けていけたらいいなと思っています」とおだやかな表情で語った。  お二人の話から、経験豊富なベテランの存在が若い人材をしっかり育てていること、若手従業員が安心して育つ環境づくりに高齢従業員が貢献している様子が伝わってきた。  藤田部長は、今後に向けて次のように語った。「地元の新鮮な魚、肉、野菜などを地元のお客さまにおいしく食べていただけるよう、また、香川県発祥のローカルスーパーとして誇りを持って一生懸命仕事をする人材を採用し、育成することを続けることが大事な課題です。新卒者の採用に注力していますが、高齢者の方々の力も必要です。今後も働きたいと思っていただけるスーパーであるよう、よりよい職場づくりに取り組んでいきます」 ※2020(令和2)年度までの名称は「高年齢者雇用開発コンテスト」 写真のキャプション 総務・人事部の藤田誉部長 「新鮮市場きむら」の太田本店 太田本店の店長代理を務める茶納英明さん 青果部門のチーフをサポートする上田耕司さん