知っておきたい労働法Q&A  人事労務担当者にとって労務管理上、労働法の理解は重要です。一方、今後も労働法制は変化するうえ、ときには重要な判例も出されるため、日々情報収集することは欠かせません。本連載では、こうした法改正や重要判例の理解をはじめ、人事労務担当者に知ってもらいたい労働法などを、Q&A形式で解説します。 第95回 高年齢者就業確保措置、問題社員の対応について 弁護士法人ALG&Associates 執行役員・弁護士 家永勲/弁護士 木勝瑛 Q1 高年齢者雇用の基本的な枠組みについて知りたい  高年齢者雇用を推進するうえで、高年齢者雇用安定法において規定されている、高年齢者を対象とする制度の全体像を教えてください。 A  65歳までの高年齢者雇用確保措置と、70歳までの高年齢者就業確保措置に大きく分かれます。前者については希望者全員を対象とすることなど厳格な管理が必要とされていますが、後者については、現時点では努力義務となっています。 1 高年齢者の就業機会確保に関する制度  前回※は、高年齢者雇用安定法が定める65歳までの高年齢者雇用確保措置について解説しましたので、今回は、70歳までの就業確保措置について解説します。  高年齢者雇用安定法は、「定年の引上げ、継続雇用制度の導入等による高年齢者の安定した雇用の確保の促進、高年齢者等の再就職の促進、定年退職者その他の高年齢退職者に対する就業の機会の確保等の措置を総合的に講じ、もつて高年齢者等の職業の安定その他福祉の増進を図るとともに、経済及び社会の発展に寄与することを目的」としています(同法第1条)。  この規定のうち、「高年齢退職者に対する就業の機会の確保等」とされている部分が、今回のテーマである「高年齢者就業確保措置」として、現在の高年齢者雇用安定法に、事業主に対する努力義務が定められています。 2 高年齢者就業確保措置について  高年齢者就業確保措置として掲げられているのは、@70歳までの定年の引上げ、A65歳以上の継続雇用制度の導入、B定年の廃止のいずれかをとることに加えて、C高年齢者等との委託契約その他の契約(労働契約を除く)を締結すること、D事業主自らまたは出資する団体が行う社会貢献事業について、当該事業の実施者が委託契約その他の契約(労働契約を除く)を締結することです(同法第10条の2)。  これらのうち、CおよびDは雇用以外の方法による就業機会の確保であり、創業支援等措置と呼ばれています。  まず、@からBまでは、70歳までの雇用継続であり、65歳までの高年齢者雇用確保措置の延長線上にあるものです。そのため、65歳までの高年齢者雇用確保措置とほぼ同様の運用を行うことで対応は可能と考えられます。  相違点としては、65歳までの高年齢者雇用確保措置においては、希望者全員を対象とすることが義務づけられていますが、65歳以降の70歳までの雇用については、現時点では努力義務にとどまっているということもあり、希望者全員を継続雇用の対象とするのではなく、一定の基準を設けて継続雇用を行う高年齢労働者を限定することが可能となっています。  例えば、直近数年間の人事考課の結果や出勤率を基準としたり、継続的に働くために必要な体力などが備わっているかを確認する観点から健康診断の結果などに基づき産業医が業務上の支障がないと判断できることを条件とするといった方法も考えられます。  この「一定の基準」は、就業規則に記載することになることから、労働者の過半数を代表する労働組合がある場合は当該労働組合と、ない場合には労働者の過半数を代表する者(以下、あわせて「過半数代表者」)の意見聴取が必要となりますが、恣意的(しいてき)な基準を設けることを回避する観点から、労使間の協議を行い、同意を得ることが望ましいと考えられています。  例えば、「会社が必要と認めたものにかぎる」とか、「男性にかぎる」とか、「組合員を除く」といった基準を設けることは、恣意的な内容であり許されないと考えられています。  次に、CおよびDの創業支援等措置は、雇用以外の方法による就業機会の確保です。雇用と比較すると、高年齢者本人がリスクを負う程度が高いこともふまえて、導入するための要件も定められています。  まずは、創業支援等措置を導入するためには、事業主が創業支援等措置の実施に関する計画を作成し、当該計画について過半数代表者からの同意を取得する必要があります。ただし、@からBまでの措置と、CおよびDの措置の両方を講ずる場合には、@からBまでの措置を講じることで努力義務を果たしたものとして、計画に過半数代表者からの同意を得ることは必ずしも必要ないものとされています。  過半数代表者からの同意取得後には計画を労働者に周知したうえで、個々の高年齢者との間で契約を締結することが必要です。また、Dの方法による場合で出資する団体と委託契約を締結させることを予定している場合は、事業主と当該団体の間で、当該団体が高年齢者に対して社会貢献活動に従事する機会を提供することを約する契約を締結しておくことも必要です。  計画には、@創業支援等措置を講ずる理由、A従事する業務内容、B支払う金銭に関する事項、C個別契約を締結する頻度、D納品に関する事項、E契約の変更に関する事項、F契約の終了に関する事項、G諸経費の取扱いに関する事項、H安全および衛生に関する事項、I災害補償および業務外の傷病扶助に関する事項、J社会貢献事業を実施する法人その他団体に関する事項、K対象者のすべてに適用される定めをする場合は当該事項(秘密保持義務、個人情報の取扱いなど)を記載することが必要とされています。  さらに、個々の高年齢者との間で契約を締結することとなりますが、契約は書面によることとされており、契約締結時には計画を記載した書面を交付したうえで行う必要があります。また、委託契約とするために、高年齢者と締結する契約が労働契約とならないように内容に留意し、また実態においても指揮命令を継続しないようにしなければなりません。  なお、65歳以降の継続雇用を行う場合には、高年齢者の労働災害防止のための指針に則して、安全衛生に関する教育などを実施することが求められており、創業支援等措置においても、雇用関係ではないとはいえ継続的な関係となることから、同指針に基づく教育等を行うことが望ましいと考えられています。 ※前回(2026年5月号)は、JEEDホームページからもご覧になれます。 https://www.jeed.go.jp/elderly/data/elder/book/elder_202605/#page=48 Q2 問題社員に対してどのように対応していけばよいのでしょうか  当社には、勤務不良や問題行動が多く、くり返し指導しているにもかかわらず一向に改善されない従業員がいます。注意をしても、他責的で、感情的かつ攻撃的な態度をとる状況です。どのように対応すべきでしょうか。 A  まずはくり返しの指導や教育に力を尽くし、解雇を回避する必要があります。配置転換が可能であるならば配置転換を行うなどして、ほかの業務で真価を発揮できるよう試みる必要があります。それでも改善が見込めない場合に初めて解雇を検討することになります。 1 いわゆる「問題社員」について  問題社員についての相談は毎年かなりの数が寄せられます。会社は人の集まりであるため、各従業員が実力を発揮できなければ会社の業績は伸び悩みます。また、問題社員がほかの従業員に悪い影響を与えることも少なくありません。問題社員が原因で退職者が生じたり、ほかの従業員のメンタルに不調をもたらすこともあります。そのため、問題社員が発生した場合には、会社は早期に適切な対応をとる必要があります。  他方で、会社が「問題社員」と認識していても、客観的には従業員の教育不足であったり、環境にマッチしていなかったり、上長と馬が合っていなかったりと、会社が「個性のある従業員」の真価を発揮させられていないだけのことも多くあります。この場合、会社としては、指導教育の体制を整える必要がありますし、配置転換や業務内容の見直しなどを検討する必要があります。これによって、個性のある従業員一人ひとりの真価を発揮させることが、まず第一に目ざすべきところでしょう。 2 問題社員への対応について  労働契約法第16条は、解雇につき、「客観的に合理的な理由」と「社会通念上相当」であることを要求しており、これを欠く場合には、解雇権の濫用として無効と規定しています。ここにいう客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性は、規範的な概念であるため、時代や場所によって移り変わるべきものといえます。  しかしながら、少なくとも、現代においては、会社として問題行動の改善のための行動をせずにした解雇は、客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性を欠くと判断される傾向にありますので、やはり、まずは指導教育・配置転換・業務内容の見直しなど、会社として問題行動の改善のためにやれることをやり尽くすことが重要でしょう。  問題社員が発生した場合にすぐに解雇を検討してしまう会社がありますが、このような対応は妥当ではありません。前述の通り、まずは指導教育・配置転換・業務内容の見直しなど、会社として問題行動の改善のためにやれることをやり尽くして、それでも改善の見込みがない場合に、初めて解雇を検討すべきこととなります。 3 AGC事件(東京地裁令和7年8月21日判決) 問題社員への対応として参考になる裁判例として、AGC事件があります。本裁判例は、会社が、従業員の問題行動や勤務不良について、約9年にわたり指導や配置転換、業務内容の変更をくり返したものの改善せず、そればかりか従業員は他責的な言葉をくり返したり、感情的かつ攻撃的な態度をとっていたため、従業員を解雇した事案です。従業員側は雇用契約上の地位の確認などを求めて提訴しましたが、裁判所は、解雇を有効として、原告(従業員側)の請求を棄却しています。被告の対応を評価した裁判例として参考になります。  裁判例は、以下の理由で解雇を有効と判断しました。  「@原告は、……、自己の担当業務と関連しない抽象論やあるべき論に固執して担当業務を円滑に進捗することができず、面談等において指導を受けながらこれに従わなかった……、A……平易な課題設定がされた上、特別な支援体制が執られ、手厚い指導がされたにもかかわらず、課題達成に必要のない自己の見解に固執して、課題を達成することができなかった……、B……午前9時を過ぎて出社する場合には事前に連絡するよう指導されていたのに、……独自の見解に基づいて事前連絡なく午前9時までに出勤しないことを繰り返し……注意指導にも従わなかった……、C……上長に対して、業務に関係しない不適切な内容のメールを繰り返し送信し、……繰り返し注意指導を受けたにもかかわらず……止めなかった……、D原告は、……上記のメールが不適切な内容のものとは考えていない旨供述している……。……原告は、……注意指導にもかかわらず、独自の見解を正当なものであると考えてこれに固執し自らの行動を一切変えようとしない独善的な姿勢が顕著である……。」  「しかも、……@……原告が担当業務を円滑に遂行できないのは、もっぱら周囲の指導力不足によるものである旨の他責的な言動を繰り返した……、A原告は、……大声を出す、机を叩く、暴行におよぶなど、感情的かつ攻撃的な態度を取り、これにより職場の同僚が原告を怖がることとなり、上長が原告に対する指導を躊躇せざるをえない事態となった……。このような原告の態度は、自省する能力の欠如を表す……、職場内の円滑なコミュニケーションを阻害し、職場の協調性を損なう……。」  「そして、被告は、……約9年間にわたり、原告の配属や担当業務を変更して原告が行うべき業務の水準を下げる一方で、特別の支援体制をとるなどして継続的に指導を行い、原告の不適切な言動に対しても注意指導を繰り返してきた……。……被告は、原告の雇用を継続するための努力を尽くした……、他方、上記のような原告の考え方や姿勢が改善する見込みは極めて乏しい……。」「本件解雇は、客観的合理的理由があり、社会通念上相当であるから、有効である。」 4 まとめ  このAGC事件では、会社側は約9年間にわたって、対象従業員の配属や担当業務を変更したり、対象従業員の行うべき業務の水準を低下させたりして、対象従業員が能力を発揮できる体制を整えるよう尽力するとともに、特別な指導体制を整え、手厚い指導がなされていたとされています。  これに対し、従業員側は自己の考えに固執して改善を行わず、攻撃的な態度を取る状況であったと認定されています。このような事実関係においては、解雇を有効とした本裁判例は妥当な判断でしょう。問題がある従業員に対する会社側の対応として、参考になる事例です。