いまさら聞けない人事用語辞典 株式会社グローセンパートナー 執行役員・ディレクター 吉岡利之 第68回 「スポットワーク」  人事労務管理は社員の雇用や働き方だけでなく、経営にも直結する重要な仕事ですが、制度に慣れていない人には聞き慣れないような専門用語や、概念的でわかりにくい内容がたくさんあります。そこで本連載では、人事部門に初めて配属になった方はもちろん、ある程度経験を積んだ方も、担当者なら押さえておきたい人事労務関連の基本知識や用語についてわかりやすく解説します。  今回は、「スポットワーク」について取り上げます。 スポットワークは短期的・単発の働き方  スポットワークは、SPOT(一時的)とWORK(働く)を組み合わせた造語で、法律において定められた用語ではありません。  厚生労働省のリーフレット『「知らない」では済まされない「スポットワーク」の労務管理』(2025〈令和7〉年7月)※1によると「スポットワークとは、短時間・単発の就労を内容とする雇用契約のもとで働くこと」としています。また、財務省の資料である『スポットワーク市場の動向と展望について』※2の説明が、この働き方の特徴をより示しており、「継続した雇用関係を持たず、数時間〜数日間の期日で働くこと」としています(傍線は筆者による)。  このような働き方をする人をスポットワーカーと呼びますが、重要なのは、短期間でも業務を発注した事業主とスポットワーカーの間には直接の雇用契約が結ばれるという点です。このため、短時間・単発の仕事であろうと労働基準法の対象となります。同じような働き方を示す用語にギグワークがありますが、こちらは短期的・単発の仕事を業務委託契約に基づき実施するため、原則的には労働基準法の対象外となります。  スポットワークの形態についてはさまざまな形態があるものの、スポットワーク仲介事業者が運営するスポットワークアプリを通して、事業主が掲載した求人にスポットワーカーが応募し、面接等を経ることなく、短時間に求人と応募をマッチングさせることで雇用契約が成立し、仲介事業者が賃金の立替払いまで行うサービスが多く採用されています。リーフレットをはじめとした政府の資料もおおよそこの形態を前提に記載されています。 スポットワークの働き方は急速に拡大している  このスポットワークの働き方は、近年急速に拡大しています。  拡大の要因は三つに整理できます。一つめは労働力の確保という事業者側のニーズです。日本労働組合総連合会(連合)がまとめた『スポットワークに関する調査2025』(2025年1月公表)(以下、「連合調査」)※3によると、スポットワークで従事したことがある仕事の内容のうち回答上位3位は、「倉庫作業員(27.5%)」、「飲食店スタッフ(21.0%)」、「イベントスタッフ(17.2%)」という、求人しても応募者が集まりにくい業務やかぎられた期間中に人手が必要な業務があがっています。二つめは短期的・単発業務に対するニーズの高まりです。連合調査のスポットワークで働こうと思った理由の回答上位3位は、「生活のために収入を得たいから(27.1%)」、「空いている時間を有効活用したいから(24.5%)」、「賃金がすぐに受け取れるから(18.4%)」となっています。三つめは、ITの進化によるサービスの利便性です。スポットワークアプリで応募から賃金払いまで一貫して手軽に℃タ施できるサービスは、空いている時間ですぐに稼ぎたいというニーズに対して、非常にマッチしているといわれています。この仕組みがあってこそのスポットワークの拡大であるため、スポットワークという用語よりもCMで流れているサービス名※4やその際に使われるスキマバイトという用語の方がむしろ一般的になじみがあるといえます。  これらの要因から、内閣府の『令和7年度年次経済財政報告』のスポットワークの拡大の状況を参照すると、2019年12月時点ではスポットワークアプリの延べ登録者数は330万人程度だったものが、2025年1月時点には3200万人程度と、10倍近くに拡大しています。 スポットワークの課題  一方で、急速な拡大にともない課題も顕在化しています。スポットワーカーについての保護法などは現行では特になく、短期的・単発の業務であっても通常の労働者とは変わらないという位置づけで労働基準法が適用されます。しかし、その認識・順守が不足しているケースも多くあるのが実際のところです。  例えば連合調査によると、スポットワークで働いている際に仕事上のトラブルを経験することがあったかという問いに対しては、46.8%がトラブル経験ありの回答で、トラブルの内容は「仕事内容が求人情報と違った(19.2%:回答上位1位)」、「労働条件が求人情報と違った(16.5%:同4位)」、「急に仕事が取消しになった(15.6%:同6位)」という状況です。いずれも労働基準法に照らすと違反の指摘を受けざるを得ない内容です。  特に、雇用契約成立後の仕事の取消しについては、出勤前の取消しであれば賃金を支払わないというケースが頻発したこともあり、訴訟にも発展しました。このようなこともあり、厚生労働省は、「別途特段の合意がなければ、事業主が掲載した求人にスポットワーカーが応募した時点で労使双方の合意があったものとして労働契約が成立するもの」として、事業主の都合で丸1日の休業または仕事の早上がりをさせた場合には、休業手当または該当する賃金を支払うようにリーフレットにまとめ周知・徹底することとしました。  このほかリーフレットには、業務に必要な準備行為等も労働時間である点や一方的な賃金の減額は違法である点、スポットワーカーも労災保険※5給付の対象である点、ハラスメント対策が行われるべき点などについても記載されています。あたり前に遵守すべき事項として一般的に浸透しているような内容ですが、スポットワークは“手軽に”成立することから、事業主・スポットワーカーともに労働基準法への意識が低くなりがちなのが課題といえます。  また、空いた時間を活用するという働き方については、長い社会人経験やスキルを有したシニア層がにない手になる可能性は十分にあると考えられます。しかし、株式会社パーソル総合研究所の「スキマバイト/スポットワークに関する定量調査」(2025年1月公表)によると、スキマバイト(スポットワーク)の経験率でもっとも多いのは20〜29歳であり、60〜69歳は2%にも満たない状態です。若年層にはわかりやすいスポットワークアプリの仕組みがシニア層にはなじみにくい点は否定できず、シニア向けサービスの充実が待たれます。 ***  次回は、「労働委員会」について取り上げます。 ※1 本資料は事業主向けで、働き手向けには『ご存じですか?「スポットワーク」の注意点』という資料がある。 いずれも、https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_59321.htmlから参照可能 ※2 本資料はスポットワークの登場から現状の動向、市場拡大の背景、課題と展望までがコンパクトにまとめられている。 https://www.mof.go.jp/public_relations/finance/202412/202412l.pdf ※3 以下のホームページでご覧になれます。 https://www.jtuc-rengo.or.jp/info/chousa/data/20250123.pdf ※4 スポットワークの健全な発展の推進を目的とした「一般社団法人スポットワーク協会」の会員であるタイミー社のサービスなどは有名で、年次経済財政報告に統計情報のデータ提供を行っている ※5 労災保険……労働者が仕事や通勤が原因で負傷した場合、また、病気になった場合や亡くなった場合に行われる給付