BOOKS 中小企業の経営層に向けて、会社の潜在力を引き出し発揮させていく「伴走支援」とは 経営の力と伴走支援 「対話と傾聴」が組織を変える 角野(かどの)然生(なりお)著/光文社/946円  賃上げや働き方改革など企業を取り巻く環境が激変するなか、中小企業には、自ら自社を変革させていく勇気と挑戦が必要といわれている。  本書は、元中小企業庁長官の著者が、中小企業支援活動のなかで推進し全国に広めてきた「伴走支援」の考え方を整理した一冊。  本書で述べられている「伴走支援」とは、企業経営者に対して「対話と傾聴」を通じて寄り添いながら、経営者がより本質的な経営課題に気づき、納得することにより、主体性を持って会社の自己変革に取り組み、組織が本来持っている潜在力を引き出していく支援をいう。考え方の要素は、「対話と傾聴」、「課題設定力」、「自己変革と自走」の大きく三つに集約できるという。  第1章および第2章では、伴走支援を現場で実践してきた経緯や考え方を、第3章では伴走支援の枠組みについて説明。伴走支援を取り入れた中小企業のさまざまな事例に触れながら、経営者の心が変わる過程を紹介している。  著者は、「会社の強みや潜在力を引き出し、さまざまな環境変化を乗り越えていく手段があることを知ってほしい」と記すとともに、「伴走支援を受け入れる姿勢が大切であることも訴えたい」と経営者への思いを綴っている。 社労士で産業カウンセラーの著者が、二つの目線から、やる気が出ない要因と対処法を説く こうして社員は、やる気を取り戻す 三谷(みたに)文夫(ふみお)著/ぱる出版/1540円  業績アップのためには、社員のモチベーションアップが不可欠だが、「せっかく入社した社員がやる気を失っている」、「指示待ち社員ばかり」といった職場は少なくないようだ。社員がやる気を喪失する要因は、さまざまあるだろう。  やる気を取り戻すために、会社は何をすべきか。本書は、この問いに対して、社会保険労務士で産業カウンセラーでもある著者が解説する。1テーマごとに、「事例」、「マイナス→ゼロ」、「ゼロ→プラス」という3段階で、まず、社員のやる気が出ない要因とその対処法について社会保険労務士の目線で説明してマイナスをゼロまで戻し、次に、産業カウンセラーの目線でゼロをプラスに変える方法を提案している。例えば、テレワークが禁止など働き方の選択肢が少ないという職場の事例では、「禁止」ではなく、いかに「活用」していくのかに頭を切り替え、テレワーク導入・活用に向けた環境づくりを説明(マイナス→ゼロ)。次に、テレワークで社員が「さぼる」という認識を「期待」に変えて任せてみる、そのために「信頼関係」をつくる努力も必要(ゼロ→プラス)、と説いている。  社員がやる気の出る職場づくり、離職者の少ない会社づくりのヒントが得られる一冊だ。 日本型賃金の「決め方」、「上げ方」、「支え方」とは? 制度の基本を整理し、賃上げの方策を探る 賃金とは何か 職務給の蹉跌と所属給の呪縛 濱口(はまぐち)桂一郎(けいいちろう)著/朝日新聞出版/1045円  なぜ日本人の賃金は30年間横ばいなのだろう。また、そもそも「最低賃金制」とはどういうものなのか。今後の賃上げの行方は……。  本書は、ここ数年大きな政策課題となっている賃金の問題について、日本型賃金の仕組みを過去から紐解いて分析・検証し、賃金制度の基本をまとめた一冊。著者は、労働政策研究・研修機構の労働政策研究所長を務める濱口桂一郎氏。  冒頭の序章では、賃金制度の前提となる雇用システム論の「基礎の基礎」として、ジョブ型、メンバーシップ型の雇用契約、賃金制度、労使関係について整理。続いて、第T部から第V部までは、賃金の「決め方」、賃金の「上げ方」、賃金の「支え方」の三つの角度から、日本の賃金のあり方について解説している。第T部では、約150年間の賃金制度の推移を概観、第U部ではおもに労使交渉の歴史を、第V部では最低賃金制などについて解説している。  そして終章では、「なぜ日本の賃金は上がらないのか」という問題について、その「根深い構造」を考察し、今後の賃上げはどういう方向に向かうべきなのか、方策を検討している。  賃金にかかわる企業の担当者や賃金に関心のある人々にとって、有益な一冊といえるだろう。 年齢にかかわりなく、「睡眠は健康にとって極めて大切な時間」! 脳は眠りで大進化する 上田(うえだ)泰己(ひろき)著/文藝春秋/1078円  睡眠は謎が多い活動として、その研究は長く停滞していたそうだが、ここに来て急速に進歩し、新常識が生まれる可能性があるという。その一つが、「睡眠は人間の成長、特に脳の神経細胞の成長に必要不可欠な、極めて大切な時間である」ということ。成長は若年層にかぎらず、ヒトの無数の神経細胞は年老いても日々成長していることから、睡眠はすべての人にとって、「健康のために、何より人間の知的活動のために、極めて重要な時間」と本書の著者はいう。  本書は、生命の時間・情報の解明、睡眠の研究に取り組み、注目を集めている上田泰己氏が、これまでの睡眠研究の流れから、新しい研究と発見の詳細と技術の解説、現在取り組んでいる睡眠検診のこと、そして、睡眠研究の未来についてまで解説。むずかしい研究内容も「睡眠はアクティブな活動だった」、「脳は眠って覚えて、起きて『探す』?」などのわかりやすい文言で表現している。また、日本人の睡眠時間の短さと、睡眠が関係する病気とその実態に触れ、健康診断のメニューの一つとして睡眠を測定する「国民的睡眠検診」の必要性などを説いている。  健康寿命を延ばして生涯現役を実現するうえでも、興味深い最新情報が満載である。 運動を習慣化して、加齢変化のスピードダウンをはかろう 一生、自分の足で歩くためのらくらく1分間筋トレ 山田(やまだ)実(みのる)監修/ナツメ社/1540円  60歳以上の労働災害による死傷者数が増えるなか、事故の種類をみると「転倒」が最多となっている。転倒災害防止には、作業環境の改善が大事だが、特に高齢者の場合、転倒予防のための体づくりを行うことにも取り組みたい。  本書は、年齢を重ねてからはじめる筋トレの方法を紹介し、いつまでも元気に過ごすために、生活習慣に取り入れることをすすめている。  はじめに、簡単なテストで筋力をチェックし、筋力レベル1〜3にあわせて、筋トレを選んで実践できる内容だ。いすに座って両足を上げる体幹トレーニングや、片足立ちでバランスを取るお尻と足のトレーニングなど、いずれも1分程度でできる筋トレ法を、部位別に写真を使ってわかりやすく解説。また、筋トレがもたらすメリットや、筋トレ効果を上げる食事や睡眠に関するアドバイス、元気に食べるためのオーラルトレーニングについても取り上げている。  筋肉量は、40代を境に減少するスピードが増していくという。しかし、本書の内容の筋トレを開始し、習慣化できるようになると、加齢変化のスピードダウンを実感できるはず、ともいう。転倒による労働災害を防ぐためにも、職場で取り入れてみるのもよいのでは。 ※このコーナーで紹介する書籍の価格は、「税込価格」(消費税を含んだ価格)を表示します