新春 特別企画A 「令和6年度 高年齢者活躍企業フォーラム」 受賞企業を交えたトークセッション  「高年齢者活躍企業フォーラム」より、「令和6年度高年齢者活躍企業コンテスト」入賞企業3社と基調講演を行った株式会社FeelWorks代表取締役の前川孝雄氏が登壇して行われたトークセッションの模様をお届けします。コーディネーターに東京学芸大学の内田賢名誉教授を迎え、高齢社員が生涯現役で活躍できる職場づくりについて、前川氏を交えて各社にお話をうかがいました。 コーディネーター 東京学芸大学名誉教授 内田(うちだ)賢(まさる)氏 パネリスト 株式会社植松建設(うえまつけんせつ) 代表取締役 植松(うえまつ)信安(のぶやす)氏 総務課 井上(いのうえ)浩幸(ひろゆき)氏 株式会社久郷一樹園(くごういちじゅえん) 代表取締役 久郷(くごう)愼治(しんじ)氏 株式会社ドリーム 顧問 堀内(ほりうち)善弘(よしひろ)氏 株式会社FeelWorks 代表取締役 前川(まえかわ)孝雄(たかお)氏 企業プロフィール 株式会社 ドリーム 〈静岡県浜松市〉 ◎創業 1998(平成10)年 ◎業種 その他の事業サービス業(警備保障業、福祉事業) ◎従業員数 74人(2024年4月1日現在) ◎特徴的な高齢者雇用の取組み  2022(令和4)年に定年70歳、希望者全員75歳まで継続雇用、その後も運用により希望者全員が働ける制度とした。高齢社員の健康状況や個々の要望などに合わせて、勤務時間の変更が可能。年齢にかかわらず昇給につながる「キャリアパス制度」も導入している。 株式会社 久郷一樹園 〈富山県富山市〉 ◎創業 1875(明治8)年 ◎業種 総合工事業(造園緑化工事・土木工事) ◎従業員数 25人(2024年4月1日現在) ◎特徴的な高齢者雇用の取組み  2019(令和元)年に定年制を廃止。年齢にかかわらず昇給できる賃金体系を導入した。技術の伝承と業務に必要な感性の引継ぎのために、高齢社員と若手社員の同行作業を推進している。機械化を進めて作業効率の高い機械を導入し、作業負担の軽減に努めている。 株式会社 植松建設 〈佐賀県鹿島市〉 ◎創業 1933(昭和8)年 ◎業種 総合工事業(土木工事、建設工事、とび、土工工事、舗装工事) ◎従業員数 40人(2024年4月1日現在) ◎特徴的な高齢者雇用の取組み  2022(令和4)年に定年制を廃止。個々の体力や健康状態に配慮した勤務制度を構築した。社長と年1回面談を実施し、高齢社員の思いや願いを聞いている。昇給は、年齢にかかわりなく評価に応じて行っている。高齢社員には、若手への技能伝承の役割も期待している。 ★3社の詳しい取組み内容は、本誌2024年10月号「特集」に掲載しています。 JEEDホームページでもご覧になれます。 https://www.jeed.go.jp/elderly/data/elder/book/elder_202410/index.html#page=8 高齢社員のモチベーション維持・向上のために取り組んでいること 内田 はじめに、高齢社員のみなさんのモチベーションの維持・向上のための取組みについてお聞かせください。株式会社植松建設さんからお願いします。 植松 私が念頭に置いているのは、やりがい、生きがいを持ってもらうということです。そのためにも「自分はこの道で生きていくんだ」、「この仕事が楽しいんだ」と社員に思ってもらえるような職務を提供していくことを心に留めて実践しています。 井上 情報共有も大切です。「人ごと」を「自分ごと」に変換し、会社のすべての情報を共有できることが、モチベーションにつながっていると思います。また、当社では社長が社員一人ひとりと面談をして、会社に対する思いや願いを聞いています。社員にとっては、自分が認めてもらえていると感じられる機会になっています。 内田 続いて、株式会社久郷一樹園さん、お願いします。 久郷 当社の高齢社員には、自分のキャリアをまっとうする意欲があり、体力も能力もあります。そのため、それぞれの社員が持つ特性を活かし、力を発揮できる職場環境づくりに力を入れています。また、高齢社員と若手社員とのペア就労を行っており、高齢社員が指導役をになうことで若手社員から尊敬されたり、感謝されたりと、よい関係性が築けており、モチベーションにつながっているような気がします。 内田 続いて、株式会社ドリームさん、お願いします。 堀内 警備会社は全国に約1万600社あり、約58万5000人が働いています。そのなかで縁あって当社に入社したからには、高齢であっても長く、楽しんで働いてほしいと願っています。そのためにも当社では、“居場所や人間関係をつくる場所”と思ってもらえるよう、現場から帰ってきた社員とのコミュニケーションをていねいに行うなど、意識的に取り組んでいます。 高齢社員ならではの技能を活かす職場づくりと課題 前川 高齢社員ならではの技術や技能を活かす職場づくりについて、工夫や苦労していることがあればお聞かせください。 植松 建設業では建設機械などのICT化が進む一方で、細かい仕事には人の手が欠かせません。そういった際に頼りになるのがベテランの高齢社員です。経験もあり、効率よく仕事を成し遂げる術を自分で考えることができます。このように高齢社員がその力を活かせるような職場づくりを心がけています。 久郷 造園工事業は建設業における専門工事業の一つですが、ほかの専門工事業と比べると多工種です。小さい工事が多く、そのすべての技術・技能を習得するまでには、ものすごく時間がかかるわけです。そこで、経験と知識に裏づけされた技能・技術を持つ高齢社員の存在が非常に大切になります。技術・技能を若い社員に教えることのできる機会をつくっていくことが重要ではないかと思います。 堀内 高齢者が警備員になる場合、特に技術は必要ありません。当社が求めているのは、常識や責任感、長年の職業人生のなかでつちかってきた忍耐力です。これらが、じつはとても大きな宝なのです。高齢者が備えているコモンセンスといったものが警備業の技能ではないかと思っています。 前川 ありがとうございます。とてもよいお話が聞けました。一方で、環境の変化が激しいなか、高齢社員の活躍について課題もあると思いますが、どんな課題にどのように対応されているのでしょうか。 植松 環境の変化にもいろいろありますが、特に当社では昨今の自然環境の変化が大きなネックになっています。年々、夏の暑さが増していくなか、特に高齢社員の働き方に配慮しながら、健康第一で仕事ができる環境の整備に努めています。  また、仕事でスマートフォンやタブレットを使う機会が増えていますが、60〜70代の高齢社員の場合、最初から触れたくないという社員もいて、そういったことへの対応が課題になっています。 井上 暑さへの具体的な対策としては、6〜9月の4カ月間は熱中症対策費を給与とは別に支給しています。デジタル化への対応では、若手社員とペアになることで、高齢社員と若手社員それぞれが苦手なことを相互にフォローしてもらうようにしています。 久郷 やはりパソコンやタブレットなどの扱いを苦手とする高齢社員は多く、植松建設さんと同じように若手から逆に教えてもらうようにしています。また、新しい情報や知識、技能の研修など、若手と一緒に学ぶ機会をできるだけつくるようにしています。 堀内 警備員は、配属される現場が日々変わるため、連絡手段として、スマートフォンのアプリを活用しています。最初から使いこなせる人はいないので、くり返し教えて、間違えながらも覚えてもらいます。実際に使いこなせるようになるとうれしいようです。新しいことができるということは、年齢にかかわらずうれしいことなのだと思いました。 前川 デジタル化への対応は、みなさん共通して苦労されているようですが、若手と組んで教えてもらうということが、つながりのなかで自己承認にもなっているというところが新しい発見です。 内田 「ドローンを飛ばせるのは若手社員だが、ドローンが撮った映像を分析できるのは高齢社員だ」という話を聞いたことがあります。そこで、若手社員が高齢社員にドローンの操作方法を、高齢社員が若手社員に分析方法を教えるのだそうです。お互いの強みを教え合うということが大事なんだろうという気がします。 処遇の維持・改善、仕事に対する評価、納得性について 内田 続いて、高齢社員の処遇の維持・改善や、仕事についての評価、それに対する納得性を高める取組みについてお聞かせください。 植松 基本的に年齢や性別、国籍などにかかわりなく、当社に勤めている者は同じ基準で処遇を決めています。そこは、社員も納得しているだろうと思っています。 久郷 当社は、60歳以降でも昇給できる仕組みを導入しています。体力や能力は、年齢ではなく個人によって異なるものなので、会社への貢献度によって個別に評価しています。 堀内 先ほどもお話しした通り、警備という仕事は、明日は違う現場に行く、ということも多い。ですので、それぞれ働いた現場で「よかったよ、ありがとう」といわれると、とても活き活きしてきます。そういったそれぞれの社員の評判を、会社でも把握に努めて、評価・賃金にフィードバックしています。もちろん、公平性が保てるように気をつけているところです。 前川 賃金や賞与などの処遇はもちろん大切なことですが、それ以外のインセンティブや報酬などについて教えてください。 植松 全社員に対して1年間のご褒美という意味で、誕生月に地元産の佐賀牛をプレゼントしたり、隣町の嬉野(うれしの)温泉の入浴券を配布しているほか、永年勤続表彰などを行っています。 久郷 高齢社員を含む全社員を対象に、年2回の賞与のほか、臨時ボーナスを支給しています。会社への貢献度を私が評価して、本人に説明をしたうえで支給します。これが、社員の会社への理解とモチベーションの向上に影響していると感じています。 堀内 社員の誕生日には、ケーキとお弁当を用意して、みんなでお祝いをします。「この年になるまで、こんなことをしてもらったことがない」と感動する社員もおり、よい風土・文化であると感じています。また、アニバーサル休暇制度があり、本来は自己申請により休暇を取得するものなのですが、高齢社員はなかなか申請がしづらいようで、事務員が「○○さん、来月お誕生日ですよね。休暇の申請をしますか?」という具合に声をかけています。こうしたやり取りも、社員にとっては励みになっていると思いますし、居心地のよさにつながっているのではないかと感じています。 前川 人として尊重されるということと、会社が自分の大切な居場所になっているということが大事なんだということを感じますね。 内田 人はお金だけで動くわけではなく、むしろお金以外の、例えば感謝される、頼りにされる、といったことが大きな力になるということですね。3社の工夫を聞いていて、そういうことが人を奮い立たせたり、いくつになっても働き続けられる大きな要素なんだろうとあらためて感じました。 強みを発揮しながら無理なく働いてもらうために 内田 高齢になると体力が落ちてきたり、疲れが出やすくなったりといったことがあると思います。高齢社員に強みをいつまでも発揮してもらう工夫、あるいは、無理なく働いてもらうための仕組みについてお聞かせください。 井上 腰痛予防や身体負荷の軽減を目的に、アシストスーツの導入を進めています。また、高齢社員からの要望をふまえ、現場で使えるコードレス機器を導入したところ、現場からは「よかった」という声があがっています。コードレスなら、発電機とそれをつなぐためのコードリールも不要になるので、コードに足が引っかかって転倒するリスクも防げます。コストはかかりますが、そういうところは積極的に改善しています。 植松 少し話はずれますが、当社の高齢社員の場合、奥さまと2人暮らしという家庭が多いのです。仕事で日曜に出勤してもらうこともあるので、奥さまに負担をかけないよう、日曜出勤の際は会社で昼ご飯を出すようにしています。 久郷 現場で発生する高齢社員のトラブルを検証してみると、自分の能力を過信しているケースがあるので、まずは体力の低下などについて自覚が必要なことを研修会などでくり返し伝えています。そのうえで、例えば、トラックの荷台から落ちて骨折するといった労働災害を防止するために、すべてのトラックにはしごを設置し、上り下りしやすくするなどの改善を行っています。また、身体負荷の高い危険な作業は若手社員が行うというルールをつくりました。 堀内 無理なく働いてもらうという意味では、短時間の仕事をなるべく高齢社員に任す、自宅から配属先までの距離に配慮する、複数の社員が配属されている現場では、ほかの社員の車に同乗する、といった配慮を柔軟に行っています。こうしたことができるのも、配属先を管理している担当者が、個々の社員の特性をよく理解しているからです。同時に、「高齢だからあの人たちだけ優先されている」などの不満が生じないような社風を築いていくことも大切だと思っています。 前川 みなさんのお話に共通しているのが、若手社員など、ほかの社員を巻き込んで役割分担をしているということです。それが無理なく働ける仕組みであり、互いの尊重にもつながっている、という好循環になっているということですね。 内田 以前に取材した会社では、高齢社員は経験があるだけに、「いままで通りにできるはずだ」、「もう少しやっておこうかな」と、どうしても無理をしがちで、そういうことが労働災害につながることもあるそうです。しかしそこで若手社員が、「もうやめておきましょう」と強制的に終了させる。若手社員にはその役割があり、そのためのペア就労なのだそうです。この話を、みなさんのお話を聞きながら思い出しました。高齢社員だけではなく、若手社員も含めて考えていくことを重視すべきなのだとあらためて感じました。 これから高齢者雇用を進める企業・団体へのアドバイス 内田 高齢者雇用を進めようと考えつつも、とまどいを感じている企業もあると思います。そうした企業に向けてアドバイスをお願いします。 植松 当社ではダイバーシティを推進し、高齢社員にかぎらず、だれもが働きやすい職場環境づくりに努めています。それぞれにできること、できないことがあります。しかし、わが社に、地域に、この世の中にとってみんな必要な存在です。そのことをわかってもらう、それがまず大事だろうと思いながら、当社では取組みを進めています。 井上 私は経営者のリーダーシップの重要性を強く感じています。経営者が働く者の声を聞く耳を持ち、仕事を任せる懐の広さ、そして最後に決断する勇気を示す。当社もまだ取組みを始めたばかりですが、「もっとできる」という可能性を感じています。 久郷 私自身の取組みの反省なのですが、「高齢者」としてひとくくりにするのではなく、体力も能力も貢献度もすべて違うので、一人ひとりをみて、適正に評価をしていくことがもっとも大切なことだと思います。 堀内 会社の理念や目ざしている方向性について、年齢にかぎらず、何度も地道に伝えていくことが大事だと思っています。  そして、やはり健康で長く働いてもらい、そのなかで幸せを追求できるよう、一緒に考えていきたいという思いで仕事をしています。当社では、社員がそれぞれ持っている夢をかなえられるよう支援を行っています。最初は“夢”をたずねても、何も出てこないのですが、やりたかったことや課題などを考えてもらいながら、仕事と並行して、夢を探してかなえてもらう。それが当社の目的でもあります。そんな取組みがあることも提言できればと思います。 内田 ありがとうございます。前川さんからも、3社の事例やお話をふまえて、エールをいただけますか。 前川 みなさんのお話を聞いていて、やはり“人を大切にする”ということの重要性をあらためて感じました。特に、“一人ひとりをきちんとみる”、これがとても大事なのだと思います。法律上の高齢者雇用は一律のルールになっていますが、実際の社員は一人ひとり違います。会社は一律ではなく、個々を見ていく、これがとても大切であることをあらためて学びました。  また、会社の理念や目的のお話がありましたが、この理念こそ、私はとても大事なものだと思っています。「VUCA(ブーカ)」※という言葉も聞かれるこの混迷の時代、この先何がどう変わっていくかもわからない時代です。そのなかで「うちの会社はこういうことを成し遂げたい」と掲げ、そこに共感する人たちが集まってくるのが会社だと思います。理念を経営者が語り、集まった一人ひとりが持ち味を活かしてつながっていくと、すごくよい会社になると思います。企業の究極の目的は単年度の収益ではなく、長く社会に貢献し続けることだと思うのですが、理念を掲げることが、そこにもつながっていくのではないかと思います。  現在60歳、65歳くらいの方々は、元気な方が多いのですが、「自分が何をしたらよいのかわからない」、「世の中にどう貢献できるのか」、「体力も気力もあるような気はするけれど自分の持ち味がピンときていない」と感じている方々がたくさんいるように見受けられます。力を持てあましたままリタイアしてしまうのは、すごくもったいないことです。そうしたなかで、本日の3社のみなさまの取組みは、これからのロールモデルになると思いますし、そうした会社が世の中にもっと増えて、元気で能力のある人たちが活躍できるステージをつくっていただけると、日本全体が活性化し、希望にもなっていきます。そして、若い人たちの将来の希望にもつながっていくのではないか、そんなことを感じました。 内田 ありがとうございました。「高年齢者活躍企業コンテスト」で表彰される企業のみなさんから、毎年いろいろなお話をうかがいますが、やはり人を大切にしていることがどの企業・団体からも感じられます。もちろん高齢社員だけではなく、すべての社員に対してです。そうした経営者の思いが姿勢としてあらわれ、最終的に企業の長期的な存続と成長につながっていくのだと思います。  一方で、何歳になっても同じ仕事ができるという人ばかりではなく、ガクッと体力が落ちる人もいます。そういった方々にいままで通り強みを発揮してもらうためには、弱みを補うような仕組みが必要になります。勤務日数や仕事の負担を変えるなど、手間をかけてメニューを用意しなくてはいけないこともあります。しかし、手段がないわけではありませんし、それを行うことによって、会社の期待に応えて高齢社員ががんばり、その姿を見た若手・中堅社員は自分たちの将来に希望が持てる。それが企業の長期的成長につながるのだろうと思います。  ただ、注意していただきたいことが一つあります。一人ひとりの状況が違うからといって、規則・制度を設けずに、運用で進めるという選択をする会社も少なくないのですが、私はやはり、就業規則などに明記される必要があると考えています。「これをやりさえすればこうなれる」、「こうなるためにはこうすればよい」ということが明確で、みんなにわかることが重要です。ルールが曖昧なままでは、社員に不安が生じて働く意欲にも影響を及ぼす可能性もあります。運用ではなく規則に則っていること、そして課題や悩みごとが生じた際には、社員と経営者・管理職とがしっかりとコミュニケーションをとれる環境も大事になると思います。本日の3社のお話やお考えは、他企業のみなさんにとってもおおいに参考になると思います。  本日はありがとうございました。 ※ VUCA……「Volatility(変動性)」、「Uncertainty(不確実性)」、「Complexity(複雑性)」、「Ambiguity(曖昧性)」の頭文字をとった言葉で、先行が不透明で、将来の予測が困難な時代であること 写真のキャプション 東京学芸大学 名誉教授 内田 賢氏 株式会社FeelWorks代表取締役の前川孝雄氏 株式会社植松建設代表取締役の植松信安氏(右)と総務課の井上浩幸氏(左) 株式会社久郷一樹園 代表取締役の久郷愼治氏 株式会社ドリーム 顧問の堀内善弘氏