【表紙】 画像データです 【表紙2】 令和6年度 「高年齢者活躍企業フォーラム」 「生涯現役社会の実現に向けたシンポジウム」 アーカイブ配信のご案内  10月に開催した「高年齢者活躍企業フォーラム(高年齢者活躍企業コンテスト表彰式)」、10月〜11月にオンライン配信で開催した「生涯現役社会の実現に向けたシンポジウム」の模様をアーカイブ配信しています。  基調講演や先進企業の最新事例発表など、お手元の端末(パソコン、スマートフォン等)でいつでもご覧いただけます。 視聴方法 JEEDホームページのトップページより STEP.01 機構について STEP.02 広報活動 (組織紹介動画・メルマガ・啓発誌・各種資料等) STEP.03 YouTube動画(JEED CHANNEL) STEP.04 「高齢者雇用(イベント・啓発活動)」の欄からご視聴ください ※事前申込不要(すぐにご覧いただけます) 以下の内容を配信中です 2024年10月4日(金)開催 高年齢者活躍企業フォーラム ●表彰式 ●事例発表 ●基調講演 ●トークセッション 生涯現役社会の実現に向けたシンポジウム ●基調講演等 ●事例発表 ●事例発表者とコーディネーターによるパネルディスカッション 2024年10月10日(木)開催 「ジョブ型」人事から考える〜シニア人材の戦力化 2024年10月25日(金)開催 役職定年見直し企業から学ぶシニア人材の戦力化 2024年11月28日(木)開催 ミドルシニアのキャリア再構築 〜リスキリングの重要性と企業の戦略 お問合せ先 独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)高齢者雇用推進・研究部 普及啓発課 TEL:043-297-9527 FAX:043-297-9550 https://www.jeed.go.jp JEEDのYouTube 公式チャンネルはこちら https://youtube.com/@jeedchannel2135 JEED CHANNEL 検索 【P1-4】 Leaders Talk No.117 店舗スタッフの雇用年齢の上限を撤廃 元気で働き続ける職場づくりに注力 株式会社トリドールホールディングス 人事部 部長 竹岡由紀子さん たけおか・ゆきこ 1997(平成9)年、国際基督教大学卒業。大手スーパーやファッションブランド勤務を経て、ホテル、医療機器メーカーの人事部長を経験。2023(令和5)年6月より現職。  全国で約850店舗を展開するうどん専門店「丸亀製麺」では、2023(令和5)年に、店舗スタッフの雇用年齢の上限を撤廃するなど、高齢者雇用の取組みに注力しており、多くの高齢者が働き、活躍しています。  今回は丸亀製麺を運営する株式会社トリドールホールディングス人事部部長の竹岡由紀子さんにご登場いただき、店舗における高齢者雇用と高齢者の活躍推進に向けた取組みについて、お話をうかがいました。 定年は70歳に、再雇用は年齢上限を撤廃 年齢にかかわりなく活躍に期待 ―貴社が運営している「丸亀製麺」の店舗では、多くの高齢者が活躍されています。2023(令和5)年度からは、店舗スタッフの定年を70歳に引き上げるとともに、再雇用の年齢上限を撤廃されました。制度改定の背景やねらいについてお聞かせください。 竹岡 丸亀製麺の国内約850店舗では、「パートナースタッフ(以下、「PS」)」と呼ばれるパートタイム社員が働いており、そのうち65歳以上が1264人、70歳以上が114人となっています(2024年11月1日時点)。また、PSに占める女性の割合は72%です。  従来の制度では、正社員、PSともに定年は65歳で、PSの再雇用の年齢上限は70歳でした。丸亀製麺ではPSも店長になれる制度となっているのですが、65歳の定年になると、店長からも降りなくてはなりませんでした。当社では、社長の粟田(あわた)貴也(たかや)(株式会社トリドールホールディングス代表取締役社長兼CEO)と社員・PSが交流し、意見を聞く機会があるのですが、その意見交換の場で「店長として働き続けたい」という声があったのです。それをきっかけにPSの定年を70歳に引き上げ、70歳以降の再雇用は年齢上限のない制度に改定しました。  高齢者といっても個人差があり、まだまだ若い方もいますし、健康寿命も延びています。元気な方には年齢に関係なく長く働いてもらいたいという思いがあります。また高齢者の方は人生経験が豊富で、お客さまに対する臨機応変な対応など、これまでの実績や経験を活かして活躍してほしいと思っています。店舗には高校生のアルバイトもいますが、世代を超えたコミュニケーションによって、指導や育成の面での活躍も期待しています。  なお、定年の70歳までは店長を継続できますが、70歳以降は降りてもらいます。当然、役割も変わるので処遇も変わります。 ―65歳を超えても店長ということは、まさにPSが店舗における中核的な役割をになっているのですね。店舗で働くPSの人たちは、それぞれどんな役割をになっているのでしょうか。 竹岡 各店舗には、店長と時間帯責任者がおり、一店舗30人ぐらいの人たちが働いています。さまざまな役割があり、例えばメインの「麺打ち」という製麺の役割、お客さまから麺の種類やトッピングなど細かいオーダーを受けてレジまでの間に調理して提供する「湯煎」と呼ばれる役割などがあります。そのほかに天ぷらを揚げる人、おむすびをつくる人、洗い場、レジ、ホール担当など、全部で12の役割に分かれています。  社員の所定労働時間は基本的に1日8時間ですが、PSは雇用契約により異なる時給制で、個々の希望や状況に合わせて店長がシフトを組んでいます。店舗にもよりますが、朝から夜まで運営をしているので、2〜3交代制でシフトを組むことが多く、朝の仕込みを担当している人は昼のピークが終わるまで、昼から入る人は夕方まで、夕方から入る人は夜の閉店までといった働き方をすることが多いです。10年以上勤務している方は全体の8.5%おり、長年活躍いただいている方も多くいます。 ―時給制ということですが、になっている役割などによって時給は異なるのでしょうか。 竹岡 時給は基本のベースがあり、役割をになえるスキルに達したら加算する仕組みになっています。逆に、例えば高齢者の方で体力的に厳しくて、になえる役割・業務が少なくなってくれば、下がる場合もあるかもしれません。しかし、つちかったスキルは基本的に落ちることはないので、スキルが向上すれば時給を上げるようにしています。  例えば、天ぷらを揚げる業務において時給を上げるには、テストをクリアする必要があります。いろいろな食材に衣をつけて揚げながら、同時にかき揚げなどもつくる必要があり、店長もしくは上席の社員が確認・判定を行います。店舗から時給変更届が本部に提出されるのですが、「○○ができるようになった」と時給を上げる理由が書いてあり、最終的に私が承認することになっています。スキルが上がれば時給も上がることが、働くインセンティブになっていると思います。  また、働いた時間数(累積時間数)に応じて昇給する制度がありますが、長く貢献した人に報いようということで、今春より制度の拡充を予定しています。これによって長く働き続けることのメリットを感じてもらえればと思っています。 65歳以上の高齢スタッフの健康を考慮し労働時間管理などを徹底 ―高齢スタッフの健康面や労務管理で留意している点とはなんでしょうか。 竹岡 65歳以上の方の勤怠管理は厳格に実施しています。時間外・休日労働は禁止としており、月に10時間を超える残業があった場合、店舗に対してどうすれば防止できるかという対策を求める「改善指導書」を出しています。また翌日の勤務時間との間に10時間以上の休息時間を必ず設けるように指導しています。例えば、遅番勤務の人が次の日は仕込みなどの早番の勤務をすることは一切ありません。  先ほど申し上げた「湯煎」の担当など、負荷の高い業務については、体力を考慮して配置します。また、健康面や仕事に関する面談を毎月実施しており、本部に報告するようにしています。そのほか、PSが店長を務めている場合、時間外勤務が続くと役職の更新はしないことを通知したり、PS店長1人に任せずに正社員を1人配置してサポートするなど、健康に関する時間管理は厳しくしています。70歳以降については健康面を考慮し、労働時間を週20時間未満に限定しています。 ―丸亀製麺では「麺職人」という制度があるそうですね。どんな制度でしょうか。 竹岡 丸亀製麺には、「一軒一軒が製麺所」というキャッチコピーがあり、オープンキッチンで麺打ちをするライブ感が一つの魅力となっています。その麺打ちを行うのが「麺職人」です。当社には「麺匠(めんしょう)」と呼ぶ社員が1人いるのですが、その後継者をつくるために、2016(平成28)年に「麺職人制度」を立ち上げました。職人育成課という部署があり、その課の社員が全国を回って試験を行い認定します。麺匠を頂点に、一つ星から四つ星までの4ランクで認定します。2024年11月時点で認定された麺職人は、全国で1632人ですが、ほとんどが一つ星で、二つ星は一桁です。  麺職人は高齢スタッフやPSに限定した制度というわけではなく、正社員も挑戦できる認定制度です。認定者は社員とPSでおよそ半分ずつの割合で、50代以上が33%を占めており、そのなかには70代のPSもいます。  麺職人になると、紺色のラインを施し名前が刺繍された、麺職人しか身につけることのできない制服を与えられ、名前が記載された木札が店舗に掲示されます。もちろんランクに応じて手当も支給されます。麺職人に認定されることを、みなさん誇りに感じているようで、それによって仕事に対するやりがいやモチベーションの向上につながっていると思っています。そのほか永年勤続表彰制度もあり、年々、表彰者が増えています。 「麺職人制度」や「永年勤続表彰」が働く人のやりがい・モチベーションを醸成 ―永年勤続表彰制度のある企業は珍しくありませんが、貴社の制度はどういうものですか。 竹岡 正社員やPSを対象に勤続10年を節目とし、以降5年ごとに表彰する制度です。対象者も2024年度は約750人と、2019年の388人から倍増しました。対象者の多くは40代以上で、60代以上が3割を占めています。本人の都合などもあり、表彰式には対象者の約6割が参加しており、2023年度からは関西と関東の2会場に分けて開催しています。従来は表彰式典で社長から感謝状を渡して終わりだったのですが、年々豪華になっています。対象者には社長の直筆メッセージを添えた招待状を送り、式典当日は感謝状や報奨金の授与のほか、フルコースの料理を食べ、アトラクションを楽しみながら交流する一大イベントになっています。PSの方にとってはふだん触れ合う機会のない都道府県の店舗の人たちとのコミュニケーションも楽しみの一つになっています。式典満足度の調査でも5点満点中4・6点と高く、「長く働いていることを評価していただけることに感謝しています」といった声も聞こえています。 ―麺職人制度や永年勤続表彰制度が長く働き続けようと思う効果も生んでいるのですね。 竹岡 麺職人になった方や勤続10年以上の方は離職率が下がることがわかっています。といっても、長く働き続けるには健康も大切です。先ほど申し上げた時間管理に加えて、高齢スタッフにかぎらず、作業負荷を軽減するためのさまざまな取組みも同時に進めています。  また、健康診断の受診率は100%を目ざしていますが、特に65 歳以上の方については、より徹底して受診を呼びかけており、100%の受診を実現しています。今後も健康管理を含めて、長く働き続けたいと思えるような職場環境の改善に取り組み続けていきたいと考えています。 (インタビュー/溝上憲文 撮影/中岡泰博) 【もくじ】 エルダー(elder)は、英語のoldの比較級で、“年長の人、目上の人、尊敬される人”などの意味がある。1979(昭和54)年、本誌発刊に際し、(財)高年齢者雇用開発協会初代会長・花村仁八郎氏により命名された。 ●表紙のイラスト KAWANO Ryuji 2025 February No.543 特集 6 生涯現役社会の実現に向けたシンポジウム〜開催レポートT〜 2024年10月10日開催「『ジョブ型』人事から考える〜シニア人材の戦力化」 2024年10月25日開催「役職定年見直し企業から学ぶシニア人材の戦力化」 10月10日開催 7 基調講演 シニア社員の戦力化は「ジョブ型」人事で 学習院大学名誉教授 今野浩一郎 11 事例発表@ 資生堂のジョブ型人事制度について 株式会社資生堂 ピープル&カルチャー本部 変革推進グループ マネージャー 谷圭一郎 13 事例発表A 経営戦略に連動した人財戦略の実行 ジョブ型人財マネジメントの導入背景を中心に 株式会社日立製作所 人財統括本部 人事勤労本部 ジョブ型人財マネジメント推進プロジェクト シニアプロジェクトマネージャ 神山靖基 15 事例発表B 三菱マテリアルの職務型人事制度について 三菱マテリアル株式会社 人事労政室 室長 廣川英樹 17 パネルディスカッション ジョブ型人事管理への転換に向けた施策と課題 10月25日開催 23 イントロダクション 職業生活(キャリア)の長期化と求められる役職定年制の再構築 玉川大学 経営学部 国際経営学科教授 大木栄一 25 事例発表@ 「人を基軸におく経営」に基づく定年延長および人事・処遇制度の見直し ダイキン工業株式会社 常務執行役員 人事 担当 人事本部長 委嘱 佐治正規 27 事例発表A シニア活用の取り組みについて 大和ハウス工業株式会社 経営管理本部 人財・組織開発部長 菊岡大輔 29 事例発表B リコー式ジョブ型人事制度 株式会社リコー 人事総務部 C&B室 室長 中村幸正 31 パネルディスカッション 年齢による画一的な役職定年制の廃止と影響 1 リーダーズトーク No.117 株式会社トリドールホールディングス 人事部 部長 竹岡由紀子さん 店舗スタッフの雇用年齢の上限を撤廃元気で働き続ける職場づくりに注力 37 日本史にみる長寿食 vol.375 うどんの効果 永山久夫 38 偉人たちのセカンドキャリア 第3回 粘り強く己を磨き 徳川3代に仕えたセカンドキャリア 立花宗茂 歴史作家 河合敦 40 高齢者の職場探訪 北から、南から 第152回 埼玉県 株式会社プロパックス 44 高齢者に聞く 生涯現役で働くとは 第101回 株式会社サルバス・ケイエヌ設計 CADオペレータ 村井美環さん(66歳) 46 加齢による身体機能の変化と安全・健康対策 【第3回】 加齢による目≠フ変化(アイフレイル)と労働衛生における目の重要性 平塚義宗 50 知っておきたい労働法Q&A 《第80回》 退職金減額・不支給、中途採用と信用調査 家永勲 54 地域・社会を支える高齢者の底力 【第3回】 本橋テープ株式会社(静岡県) 56 いまさら聞けない人事用語辞典 第54回 「労働安全衛生法」 吉岡利之 58 「令和7年度高年齢者活躍企業コンテスト」のご案内 60 次号予告・編集後記 61 技を支える vol.348 手組みのよさが活かせる作品をつくり続ける 組紐職人 佐々木良子さん 64 イキイキ働くための脳力アップトレーニング! [第92回] お金の計算 篠原菊紀 ※連載「Books」、「ニュース ファイル」は休載します 【P6】 特集 生涯現役社会の実現に向けた シンポジウム 〜開催レポートT〜 ▼10月10日開催 「『ジョブ型』人事から考える〜シニア人材の戦力化」 ▼10月25日開催 「役職定年見直し企業から学ぶシニア人材の戦力化」  JEEDでは、生涯現役社会の普及・啓発を目的とした「生涯現役社会の実現に向けたシンポジウム」を毎年開催しています。2024(令和6)年度は、企業の人事担当者のみなさまにとって、特に関心の高いテーマごとに全3回開催し、学識経験者による講演や、先進的な取組みを行っている企業の事例発表・パネルディスカッションなどを行いました。  今号では、2024年10月10日に開催された「『ジョブ型』人事から考える〜シニア人材の戦力化」、同10月25日に開催された「役職定年見直し企業から学ぶシニア人材の戦力化」の模様をお届けします。 【P7-10】 2024年10月10日開催 基調講演 令和6年度 生涯現役社会の実現に向けたシンポジウム 「『ジョブ型』人事から考える〜シニア人材の戦力化」 シニア社員の戦力化は「ジョブ型」人事で 学習院大学名誉教授 今野(いまの)浩一郎(こういちろう) 企業にもシニア社員にも求められることは「覚悟」  本日は、「シニア社員の人事はジョブ型が合理的でふさわしい」ということについてお話ししたいと思います。  日本の労働市場をみると、働く人のおよそ5人に1人は60歳以上の高齢者という状況となっています。これは日本の企業の平均的な状況を示しているので、例えば社員1000人の会社だったら200人がシニア社員(60歳以上)ということになるので、企業にとってシニア社員は「大きな社員集団」化していることになります。これだけ大きな社員集団になってくると、シニア社員にがんばってもらわないと経営はたいへんですし、活力ある日本経済のためにも、シニア社員に活躍してもらうことは不可欠な状況にあるというのが労働市場の概況です。  それをふまえて人事管理を考える必要があるのですが、企業にシニア社員を活かす気概がないと、人事管理は形骸化してしまいます。まずは企業が「シニア社員の戦力化は不可欠」という覚悟を持つことが非常に重要だと思います。  一方、シニア社員にとっても同じことがいえます。シニア社員は5人に1人の大きな社員集団化しているので、企業経営からすれば、シニア社員が引退気分で働くことは許されません。シニア社員もしっかり戦力として働く覚悟が必要です。したがって、人事管理をどうするかの前に、企業もシニア社員も「戦力として活用する」、「戦力として働く」覚悟を持つことが重要になります。  日本は先進国のなかで最も高齢化が進んでいるうえ、働く高齢者が多い国なので、シニア社員が活躍できる人事管理をつくることは、世界にモデルを示すことにつながります。人事制度の設計・運用を行うみなさんには、この気概を持って取り組んでいただきたいと考えています。  それでは、具体的な制度の話をしていきましょう。現状は60歳定年制をとり、60歳以降は再雇用とする企業が大半です。そこで、ここでは「60歳定年+再雇用」を前提に人事管理を考えてみます。まずは、人事管理の現状を把握しておく必要があります。活用の面をみると、現職の継続が多く、労働時間ではフルタイムで働く人が多いです。ただし「現職の継続」といっても職責は落とすのが一般的です。さらに働き方については、例えば、転勤なし、長期出張なしなど働き方の制約化が進んでいます。  次に評価・処遇制度について目を向けると、働きぶりを評価する企業が増えつつあるとはいえ、評価をしない企業はまだ少なくない。さらに賃金をみると、定年時に一律に下げ、その後の昇給はないという企業がまだまだ多い状況です。本来は、仕事内容や能力、成果に応じて決めるのが賃金決定の基本原則ですから、その原則から外れた状況にあるのです。つまり、評価しない、あるいはがんばっても賃金が変わらないということになり、このことは、「会社は成果を期待していない」、あるいは「現役並みの活躍を期待しない」といったメッセージを、シニア社員に送っているということになります。  したがって、現状の人事管理は「福祉的雇用型」と呼ぶにふさわしい人事管理といえます。福祉的雇用型の人事管理を行っている以上、シニア社員の働く意欲は落ちますし、働きぶりはそれなりになります。  最初にお話ししたように、シニア社員を戦力化しなければならない状況にあるわけですから、こうした福祉的雇用型の人事管理に将来性はありません。  では、福祉的雇用型をどう変えていくのか。この点を考えるにあたっては、現状をふまえて、「60歳定年+再雇用」を前提に人事管理を考えていきます。シニア社員の人事管理をつくるにあたっては、シニア社員がどういう特性を持つ社員なのかをふまえなければいけません。人事管理は、社員の特性に合わせてつくるものなので、それを確認する必要があるのです。  考慮すべきシニア社員の特性はいくつかあり、特に、定年60歳後の再雇用は65歳までが一般的であることを念頭に置くと、「雇用期間は短い」ということがあげられます。つまり、シニア社員は短期雇用が前提ということになります。定年前の社員のように長期雇用を前提として、最初に教育を行って育て、あとから成果を得るということにはならず、いま持っている能力を、いま活用して、いま払うという特性の社員になります。これをここでは「短期雇用型人材」と呼びます。これがシニア社員の基本特性です。  それに対して定年前の正社員は、若いときに育てて能力を上げ、その後に成果を出してもらい、処遇はそれに対応して長期的な視点に立って決めるという意味で「長期雇用型人材」になります。  そうすると、シニア社員には短期雇用型人材の人事管理が、60歳以前の社員には長期雇用型人材の人事管理が必要になるので、企業全体の人事管理はこの二つを組み合わせた「一国二制度」型の人事管理が必要になります。  この大枠のもとで、具体的に人事管理をどう設計すればよいか。制度設計をするうえでの基本的な考え方をお話しします。 シニア社員の配置は需要重視の「適所適材型」で  ここでは、人事管理で重要な「活用」の面と、「処遇決定」の面についてお話をしたいと思います。  まず「活用」については、「60歳定年+再雇用」を前提にすると、定年で雇用契約はいったん終了し、雇用契約を再締結することとなります。つまり、雇用契約の再契約となるので、再雇用は中途採用の一形態といえる「社内中途採用」といえます。そうすると、通常の中途採用と同様に、企業は「シニア社員から何を買いたいのか」、シニア社員は「会社に何を売りたいのか」を明確にして、活用を決めるという視点が重要になります。これを「シニア社員がいるから仕事をつくる」としてしまうと、「置いてやる雇用」となってしまいます。  したがって、シニア社員の活用の基本は、業務上の人材ニーズは何かを明確にして、その人材ニーズを満たすシニア社員を探して配置するという、人材ニーズに重点を置く「需要サイド型」である必要性があります。つまり、「適所適材型の配置」が必要なのです。現実にはこの通りにはいかない場合も多いのですが、「シニア社員がいるから仕事をつくる」という供給サイド型をとると、どうしても福祉的雇用型になってしまうので、シニア社員活用には需要サイド型の視点を持っていただきたいと思います。  では現実の活用施策はどうなっているのかというと、人事と現場の管理職が相談して決めるやり方が主流になっていますが、これを支えるためにさまざまな試みが行われています。例えばシニア社員向けの社内公募制度を導入する企業があります。これは社内公募ですから、最初に「この業務に、この人材がほしい」と企業が募集をして、あとからシニア社員が手をあげるという順序なので、需要サイド型といえます。  次に処遇面についてですが、賃金を決める際には、「社員タイプにどう合わせるか」と、「活用施策にどう合わせるか」が課題になります。この二つが賃金決定の基本原則になります。すでに説明したように、シニア社員の社員タイプは「短期雇用型」で、活用施策は「適所適材型」です。そうなると賃金は仕事の重要度で決めるのが合理的になります。「仕事基軸の賃金決定」しか手はないと、私は思っています。  したがって、定年を迎え再雇用になった際に、仕事内容に変化があれば、賃金も変わることになります。例えば、現職の継続でも職責が低下する場合は、職責の低下部分だけ賃金が下がるという決定の仕方が必要だろうと思います。  これが基本原則となりますが、日本にはやや複雑な事情があります。それは定年前の賃金が年功賃金を採用している企業の場合です。若いときは成果に比べて賃金を低めに、高齢期は高めに設定するのが年功賃金の理論モデルです。  そのため定年時の賃金は成果を上回る水準になり、上回った部分は、若いときに低めであった部分の後払い部分になります。そうなると、定年後は、この後払い部分を、調整しなければなりません。定年後のシニア社員の賃金は、仕事の内容の変化と年功賃金の調整をどうするか、この二つを考えて決定することになります。  適所適材の活用あるいは配置と、仕事基準の賃金決定を重視する人事管理は、いわゆるジョブ型の人事管理の一形態であると思っています。以上が会社に求めることです。 シニア社員に求める「社内中途採用」の視点  次に、シニア社員に求めることについてもお話ししたいと思います。  先ほど、定年後の再雇用は「社内中途採用」という話をしましたが、シニア社員には、この視点を持って、自分は「何を売りたいか」を、しっかり考えて会社に提示していただきたいのです。業務上のニーズ、つまり職場で何を求められているかを考え、自分はどのような役割を通して会社、職場に貢献するのかを考えてほしいと思います。  これは通常の中途採用であればあたり前のことなので、ぜひともシニア社員の方には「自分は会社に何を売るのか」という視点を持ってほしいと思います。これが一点目です。  もう一つは、キャリアの考え方を転換してほしいということです。65歳、70歳、もしかしたら75歳と、職業生活が長くなってきています。その長い間、「上り続ける」キャリアはありえないと私は思っています。シニア社員のみなさんは、若いころより、よりむずかしい仕事、より高いポジションを目ざしてがんばってきた、つまり「上り続ける」キャリアを続けることでがんばってきたわけですが、それを65歳、70歳、75歳まで続けるのはむずかしいので、キャリアのビジョンを変えなければいけません。つまり「上向指向型」から「水平指向型」、あるいは「降りる指向型」へとキャリア転換が必要になります。こうしてキャリアを転換すると、例えば、責任ある仕事から一担当者への転換など、役割転換が起こることになり、それに対しては気持ちの面の切り替えが非常に重要になります。  つまりキャリアビジョンを転換して役割が変われば、「働く意識・行動と能力」が変わるということを認識し、その再構成の準備をしてほしいと思います。  例えば、部下をしたがえて責任ある仕事をになってきた管理者でも、職責が下がって一担当者になれば、元部下と同じ一社員です。それを意識して行動しなければなりません。あるいは、例えば、苦手なエクセルを使った業務を「これ、よろしくね」と任せられる部下はもういません。エクセルを勉強しなくてはならず、学び直しが必要になってきます。  これは60歳になって取り組んでも間に合わないと思いますので、将来どのような役割を果たしていくのか、そのためにどういった意識・行動・能力の再構成をしていくのか。こうしたキャリアビジョンを描くことに、定年の10年前には取り組んだ方がよいでしょう。 定年の「雇用終了」機能は実質的に喪失している  最後に、定年延長についてお話ししたいと思います(図表参照)。  60歳定年制を採用している企業が多いことから、「日本の企業における定年は60歳だ」と思っている人が多いのではないでしょうか。ですが、法律では「希望者全員65歳までの雇用を確保すること」が義務化されていますので、日本はすでに「実質65歳定年時代」にあると考えてほしいのです。  つまり、年齢を理由にして「雇用を終了する」というのが定年制の基本機能ですが、60歳定年制は、その機能を実質的に失っており、もう従来の定年制ではないという認識が必要です。  では、いまの定年制は、どんな役割を果たしているのか。社員がシニア社員になっていく際にどのようにキャリアや役割を転換するかを考えることを促進する。このキャリア・役割転換促進機能が定年制のもっとも重要な機能になっているのです。  定年延長をどうするかは、こうしたことを前提に考える必要があります。定年延長も再雇用も、シニア社員を戦力化する点では同じですし、その際の人事管理も基本的には何も変わりません。  ですから定年延長をするときは、何を目的とするのかをあらためて考えていただきたいと思います。従来の定年制は、お話ししたようにキャリア、役割転換促進装置として機能しています。定年を延長するとその機能がなくなることになるので、定年延長をする際には、従来の定年制に替わるキャリア、役割転換促進装置をどうつくるかを考えてほしいと思います。 ★「令和6年度 生涯現役社会の実現に向けたシンポジウム」基調講演は、JEEDのYouTube公式チャンネルでアーカイブ配信しています。 こちらから、ご覧いただけます。 https://www.youtube.com/watch?v=SjCefUqFlsg 図表 定年延長の際に考えるべきこと @定年の機能変化 ・実質65歳定年制時代の到来により定年の機能は「雇用終了」から「キャリア・役割転換促進」へ A変わらない定年延長と再雇用への対応 ・定年延長、再雇用にかかわらずシニア社員のキャリア・役割転換が必要 ・戦力化のための人事管理は定年延長でも再雇用でも変わらない B定年延長の際に考えるべきこと ・何を目的に定年延長を行うのかを考えること ・旧定年制に代わるキャリア・役割転換促進装置をどう構築するのか ※シンポジウム配布資料を基に作成 【P11-12】 2024年10月10日開催 事例発表@ 令和6年度 生涯現役社会の実現に向けたシンポジウム 「『ジョブ型』人事から考える〜シニア人材の戦力化」 資生堂のジョブ型人事制度について 株式会社資生堂 ピープル&カルチャー本部 変革推進グループ マネージャー 谷(たに)圭一郎(けいいちろう) 現役報酬から退職金・年金に至る総合的な人事制度の改定を実施  当社は1872(明治5)年に創業しました。 「BEAUTY INNOVATIONS FOR A BETTER WORLD(美の力でより良い世界を)」をミッションに掲げ、化粧品を中心に、約120カ国で事業を展開しており、4万人弱の社員がいます。リージョン体制をとっており、本社、日本、中国、米州、欧州、アジアパシフィック、トラベルリテールのうち、本日は本社と日本における取組みを中心にお話しいたします。  私は人事部門にて制度の設計を行っていた際に、ジョブ型の人事制度の構築にたずさわってきました。当社では2021(令和3)年に、管理職約1800人と総合職4000人弱に対して、新しい人事制度を導入しました。管理職については2015(平成27)年に役割等級制度を導入しジョブ型制度に転換をしていますが、2021年に一般社員・管理職と合わせて、あらためて見直しを行いました。  新制度では六つの改定項目(@ジョブファミリー※1、Aジョブグレード※2、B報酬水準、C報酬構成・報酬比率、D評価と賞与乗率、E退職金・年金)があり、単純にジョブ型を取り入れるというものではなく、現役報酬から退職金、年金に至るまでの総合的な改定となります。「ジョブファミリー」という専門性・キャリアの軸をベースに、個人に求める職務を「ジョブディスクリプション(職務記述書、以下「JD」)」※3、その職務に求められる専門能力を「ファンクションコンピテンシー」※4で定めて、より高いジョブグレードの職務をにない、成長していくためのキャリア目標、昇格の基準を整理しました。一人ひとりが自分の仕事領域に向き合い、強い個が組織を強くしていくというコンセプトで、制度の見直しを行っています。別の観点でみると、社員の成長と会社の成長が、それぞれ好循環につながるように、意図して制度の改定項目をそれぞれつくり、報酬水準、評価、賞与、退職金、年金を整えたということになります。 ジョブの専門性をさらに高める縦軸方向の人材育成に転換  改定項目は多岐にわたりますが、最初に「ジョブファミリー」という考え方について説明します。「美容」、「セールス」、「ブランドマーケティング」、「財務・経理」などの職域があり、この一つひとつをジョブファミリーと呼んでいます。社員が専門性やキャリアを高めていくための軸を定めて、縦軸方向で育成を行っていきます。この縦軸は、グレード(等級)に分かれており、一般社員から管理職まで約10段階のグレードを定め、より高い役割を目ざせるようになっています。新卒採用の際にも、ジョブファミリーを明示して採用を行っており、その後も基本的にはジョブファミリーのなかで異動・育成を行います。もちろん、ジョブファミリーを越えた横の異動の機会もあります。  次に「JD」について説明します。本人に求める職務、そのポジションに求める職責を定義するもので、通常、JDは1ポジション一つです。ただ、今回の改訂から対象となった一般社員については人数・ポジション数が多く、管理が煩雑になってしまうことから、グループ・課、もしくはジョブファミリーの一階層下のサブジョブファミリー単位で作成し、ある程度管理しやすい形にしています。  また、一般社員のJDについては、グレードごとにどれくらいの職務レベルが求められるのかを定めており、グループ・課もしくはサブジョブファミリーにおける成果責任や職務、職責などについて、全社共通のグレードごとの役割定義に基づき文言を作成する運用をしています。  職務・職責を遂行するためには、どういった専門性が求められるかを定めたものが「ファンクションコンピテンシー(専門知識・技能)」です。自分がどんなスキル・専門性を強化していけば上位グレードの業務・役割がになえるのかを、見える化したものです。  報酬水準については、グレードごとに報酬の上限と下限を定め、そのちょうど中間を競合他社とベンチマークするようにし、競合他社に対して一定の競争力を担保する水準に設定しています。中間からプラスマイナス20%で報酬レンジを決定する形をとっています。 永続的かつ公平性をコンセプトにシンプルな退職金・年金制度を構築  最後に、退職金と年金制度について説明します。将来にわたって、退職金あるいは年金を支給できるように、制度のサステナビリティを高めるというコンセプトで改定を行いました。入社から定年まで勤めた場合をモデルに、一時金水準を維持する形で考えており、在職時、働いた間の貢献に応じて積み上がっていくことで公平性を担保します。  以前の制度は確定拠出年金、確定給付年金、退職一時金、特別退職金があり、非常に複雑だったのですが、その時々の貢献に応じて給与の一定割合が確定拠出・確定給付として積み上がる制度に変更するとともに、自己都合退職の場合に減額となる仕組みの廃止、終身年金から有期年金への変更などを行いました。  新しい制度を導入するうえでは、社員とのコミュニケーションが重要となりますが、社員一人ひとりに対してだけではなく、上司によるマネジメントも大切です。マネジメント層を対象に、定期的にマネージャーワークショップを行い、新制度のポイント解説や制度の運用にあたって生じる悩みの解消などにも努めています。  まだまだ改善の余地はありますが、特に制度のシンプル化が、非常に重要だと考えています。制度が複雑だと社員に伝わりにくいということと、運用においても大きな負担となるので、シンプルにすることは大切だと思います。 ※1 ジョブファミリー……知識やスキルなど必要な能力が類似するジョブをグループ化したもの ※2 ジョブグレード……職務の大きさ(ジョブサイズ)を格づけしたグレード ※3 ジョブディスクリプション……になっている職務・職責、業務内容、必要な案件等を記述した文書 ※4 ファンクションコンピテンシー……職務を遂行するために必要な専門性やスキル ★「令和6年度 生涯現役社会の実現に向けたシンポジウム」事例発表(株式会社資生堂)は、JEEDのYouTube公式チャンネルでアーカイブ配信しています。こちらから、ご覧いただけます。https://www.youtube.com/watch?v=OMP9rcRr2OE 【P13-14】 2024年10月10日開催 事例発表A 令和6年度 生涯現役社会の実現に向けたシンポジウム 「『ジョブ型』人事から考える〜シニア人材の戦力化」 経営戦略に連動した人財戦略の実行 ジョブ型人財マネジメントの導入背景を中心に 株式会社日立製作所 人財統括本部 人事勤労本部 ジョブ型人財マネジメント推進プロジェクト シニアプロジェクトマネージャ 神山(かみやま)靖基(やすき) グローバル・メジャープレーヤーへ転換を図り海外グループ全体視点で臨む人事改革  当社は1910(明治43)年の創業で、日本国内を中心に製品やシステムの提供を通じて事業を展開し、国内市場の拡大とともに成長してきました。2008(平成20)年度に経営危機に直面したことから経営転換を図り、従来の製品・システムに加え、データを活用したサービスを提供する「社会イノベーション事業」をグローバルに展開しています。同事業は社会の現在および将来のニーズの探索からビジネスを構築していこうというもので、いわゆるプロダクトアウトのビジネスモデルから、マーケットクリエイト型への転換を行ってきました。これにより、海外の売上高、従業員数ともに2000年との比較で2倍以上に増加し、売上げ、収益、従業員数の60%が海外となっています。  2011年に、中西(なかにし)宏明(ひろあき)代表執行役社長・CEO(当時)から「グローバルメジャープレーヤーへの転換を成し遂げよう。グローバル・グループ全体の視点で人事改革を」という強い要請があり、人財部門は求められる人財・組織を、「さまざまな国籍、性別の多様な人財」、「ワンチームで業務遂行できる組織・人財」、「プロアクティブに自立した人財とその文化を持つ組織」、「変化に速やかに適応できる組織・人財」と定義しました。  人事マネジメントの変革は3段階で進め、2011年から継続して実施しています。第一段階は、グローバル共通の人財マネジメントの基盤を構築しました。第二段階は、特に役員層多様化であり、D&I(ダイバーシティ&インクルージョン)やタレント※の獲得などの人財施策を実行しました。そして第三段階として、マインドセット・企業文化へのアプローチということで、ジョブ型人財マネジメントへの転換を進めてきました。  現在もそれぞれアップデートしながら、継続して推進している施策です。本日のテーマであるジョブ型人財マネジメントへの転換は、成長に向けたマインドセット、企業文化の醸成と位置づけています。 マインド・文化の醸成における要としてジョブ型マネジメントを位置づける  ここからは、ジョブ型人財マネジメントへの転換についてご説明します。日立製作所が目ざすイノベーションが生まれるような組織、文化と人財を育成するために、従来の「推して知るべし」のような日本特有の企業文化を転換する契機として、ジョブ型人財マネジメントを要に据え、現在、推進しているところです。  ジョブ型によって私たちが目ざすのは、組織・個人双方の成長、成長マインド文化の醸成です。会社は組織を見える化し、魅力ある職務、成長機会を個人に提供し、本人は職務に応じた価値発揮、あるいは自律的キャリアを構築していく。そして会社と個人の双方のコミュニケーションにより、適所適材を実現することによって、組織・個人双方の成長を図っていこうというものです。  この転換を進めるため、2013年から2021(令和3)年までの最初の取組みとして、職務の見える化(ジョブディスクリプション〈以下、「JD」〉導入など)、人財の見える化(Workday、リスキル、タレントビューなど)を行い、それらをコミュニケーション(1on1ミーティング、セルフキャリアチェックなど)で連動させることで総合的に展開しました。  それぞれの施策についていくつか紹介します。職務の見える化=JDの作成については、まず標準JDを全職種450種類用意しました。そこに職務概要、求められる能力、期待行動などを記載しており、全従業員がすべてのポジションを閲覧することができます。  次に、人財の見える化については、それまで複数のシステムや紙の書類に点在していた人財マネジメントに関する情報を一つのプラットフォームに統合し、それぞれに閲覧権限を与えて、権限者がデータを見られるようにしました。  次にコミュニケーションですが、これは、なぜ当社がジョブ型を目ざすのか、ジョブ型に転換するとマネージャーの役割はどうなるのか、かなりの時間と回数をかけて、経営層、管理職・一般従業員を含めた全階層で双方向のコミュニケーションを行ってきました。また、会社からの情報として、eラーニングの実施によって、よりジョブ型に対する意識を高めるような情報を現在も発信しています。もちろん、労使の春季交渉および各種委員会においても、ジョブ型による多様な人財の活躍支援策について、継続的に議論を重ねてきました。  ジョブ型推進の議論のなかでは、例えば「日本の企業が持っているチームワークやロイヤリティなど、いままで大切にしてきたものを、ジョブ型によって失うのではないか」という意見も多くありました。しかし、これら一つひとつがじつはステレオタイプ的な理解で、思い込みに過ぎないということを、ていねいな説明を重ね、その払拭に努めてきました。  当社の従業員を対象にジョブ型に関する調査を行ったのですが、自分のキャリアを自分でつくることの必要性に対する理解は87%と肯定的な意見が大半を占めています。また、自分のスキルを高めるための行動をしている人は2022年度からの1年で43%から53%に増加しました。ただ、行動の習慣化ができている人はまだ16%にとどまっているので、まだまだ私たちが目ざすところには至っていない状況です。  2022年以降は、自律的キャリア形成の支援に力を入れており、それぞれの従業員が自ら行動して、その行動変容の具体化、習慣化をねらった対策を進めています。自律的なキャリア形成については、キャリア研修などを通して、入社した時点からWill-Can-Must、自分のキャリアは自分で考えていくような意識づけを図っています。将来的には、ジョブ型人財マネジメントをさらに深化させ、仕事・役割基軸での人財配置・処遇運用の徹底を図っていきたいと考えています。 ※タレント……会社に貢献できるスキルや才能、またはそれらを持つ優秀な人財 ★「令和6年度 生涯現役社会の実現に向けたシンポジウム」事例発表(株式会社日立製作所)は、JEEDのYouTube公式チャンネルでアーカイブ配信しています。こちらから、ご覧いただけます。 https://www.youtube.com/watch?v=MXlOlFbh5Hw 【P15-16】 2024年10月10日開催 事例発表B 令和6年度 生涯現役社会の実現に向けたシンポジウム 「『ジョブ型』人事から考える〜シニア人材の戦力化」 三菱マテリアルの職務型人事制度について 三菱マテリアル株式会社 人事労政室 室長 廣川(ひろかわ)英樹(ひでき) 自律的な人材の確保・育成に向けた人事制度と働き方の改革  当社の創業は1871(明治4)年で、2021(令和3)年に創業150周年を迎えました。従業員数はグローバルで約1万8000人、そのうち日本が約1万1000人です。非鉄金属事業を柱に、加工事業(銅加工)、高機能製品(電子材料、超硬工具)の製造を行っています。社是に「人と社会と地球のために、循環をデザインし、持続可能な社会を実現する」を掲げています。「循環」とは金属資源のほか、われわれが「静脈機能」と呼んでいるリサイクルに注力し、豊かな社会、循環型社会、そして脱炭素社会に貢献することを目ざしています。  私たちの人事制度改革は、HRX(ヒューマン・リソース・トランスフォーメーション)と呼んでいます。2017(平成29)年の品質問題の発生を契機に、ガバナンスの強化、そして組織能力の強化に取り組んできました。2021年には四つの経営改革として、CX(組織・経営管理の改革)、DX(データ・デジタル技術活用改革)、業務効率化、そしてHRXに取り組んでいます。これらは相互に連関しており、HRXは「変化に適応する自律的な人材の確保、育成に向けた人事制度、働き方の改革」をうたい、そのなかでテーマを設けて取り組んでいます。HRXのおもな施策は職務型人事制度、および次世代経営人材の育成、社内公募制度、新たな研修体系、そしてDE&I(ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン)の推進があります。  本日は「職務型人事制度」(以下、「職務型」)についてお話しします。制度適用者は管理職層で、2022年4月1日に導入しており、給与については同年7月からの運用となります。  職務型人事制度の導入に向けた検討を開始したのは2021年1月ですから、1年3カ月のスピード感を持って導入したものです。その間、制度導入までにすべてのポジションについて職務評価を行い、2022年度は移行措置期間とし、給与減となる社員には激変緩和措置として調整給を支給しました。  これは職務型の思想と相違するところではありますが、当社は原則60歳の到達年度末をもって、役職を退くことになっています。当社は長年、年功序列、職能資格制度(以下、「職務資格」)で運用してきた会社ですので、なかなか世代交代が行われず大きな課題となっていました。そういった点もふまえて、役職定年制度は職務型導入後も継続しています。ただ、文化が成熟してきた際には廃止することも検討しています。 人材を「適所適材」で配置する 役割・責任に応じた職務型人事制度  長らく年功序列・職能資格で運用してきたので、職務型を導入するにあたり、人材マネジメント方針をあらためて定めました。「役割、職責、行動、それから目標に対して能力を発揮し貢献した人を、将来を見通し成長していく人として報いていく」ことを重視しています。  職能資格から職務型の変更点として、まず等級名称の変更があります。「職能資格ランク」から「職務グレード」に変更しました。等級については、従来は昇格がメインでしたが、職務グレードの変更ということで、上下の移行が行われます。  職務型のおもなポイントとしては、“人事の3制度”といわれるところの、「等級体系」、「考課体系」、「報酬体系」があげられ、それぞれが関連した仕組みとなっています。  等級体系については、になう役割、責任に基づく新たな職務グレードを設定しました。従来は「参事補」、「参事」、「監事補」などの等級名称としていましたが、「グレード」に統一し、グレード1〜7としています。あわせて執行役員制度も廃止しています。  考課体系については、役割、責任の発揮、成長、育成の促進を評価項目に加えたほか、行動考課と業績考課の二つの軸を設けました。給与は、それらを合わせた総合考課としたベースに改定しています。  報酬体系については、外部市場を参照した報酬、会社業績・個人考課の反映を強く打ち出しています。基本給に、ライフプラン手当を給与として受け取るか、退職金・年金として積み立てるかが選択できます。賞与は基本賞与と業績連動賞与として職務グレードごとに変動幅をもたせています。  また、各職務グレードには四つのゾーンを設けています。ゾーンごとに昇降給のテーブルを設定しており、同一グレード内での昇降給を可能としています。  人材マネジメント改革の取組みは、経営陣が人事課題の議論を行う人材委員会を立ち上げ、年4回の全体会を実施しているほか、年3回以上、次世代経営人材分科会を開催し、臨時会では中長期的な人事課題を討議して人事施策を推進するなど、経営陣が人的資本に関する取組みに積極的に関与しています。  あわせてインフラ整備として、2022年2月よりタレントマネジメントシステムを活用し、人材の管理を行っています。そのほか、社内公募制度や1on1の展開、リスキリングを推進するオンライン学習などのほか、48歳・55歳時に行うキャリアデザイン研修では、キャリアとファイナンスを改めて考えてもらう機会をつくっています。  また、キャリア形成に関しては、毎年11月を「マテキャリ:マテリアルの仕事・人を知る、キャリアを描く月間」と位置づけて有識者の講演、パネルディスカッションを実施してキャリアについて考えるイベントを集中的に展開しています。  制度改定にあたってはコミュニケーションを重視し、タウンホールミーティングを2023年度に全22回行い、直接対話の場を多く設けて経営陣と社員が双方向で話をできるような環境づくりに努めてきました。  今後の課題は、職務をベースにした人材マネジメントの習熟と行動への落とし込みです。「画一的な人事管理」から、一人ひとりの個人の力を最大限引き出す「マネジメントのダイバーシティ」に取り組んでいます。 ★「令和6年度 生涯現役社会の実現に向けたシンポジウム」事例発表(三菱マテリアル株式会社)は、JEEDのYouTube公式チャンネルでアーカイブ配信しています。こちらから、ご覧いただけます。 https://www.youtube.com/watch?v=tkW7BCaM5AU 【P17-22】 2024年10月10日開催 パネルディスカッション 令和6年度 生涯現役社会の実現に向けたシンポジウム 「『ジョブ型』人事から考える〜シニア人材の戦力化」 ジョブ型人事管理への転換に向けた施策と課題 コーディネーター 学習院大学名誉教授 今野浩一郎氏 パネリスト 株式会社資生堂 ピープル&カルチャー本部 変革推進グループ マネージャー 谷圭一郎氏 株式会社日立製作所 人財統括本部 人事勤労本部 ジョブ型人財マネジメント推進プロジェクト シニアプロジェクトマネージャ 神山靖基氏 三菱マテリアル株式会社 人事労政室 室長 廣川英樹氏 導入の秘訣は経営のコミットメントと従業員のマインドセット 今野 本日は「ジョブ型」人事と、シニア社員の対応という二つのテーマを論点にしたいと思います。まず、論点に入る前に、みなさんがお話しされた事例の理解を深めるために、気になった点についておうかがいしたいと思います。  まず、株式会社資生堂の谷さんにお聞きします。管理職から一般社員までジョブグレードをつくっているということですが、一般職が大きな括りであるのに対し、管理職ではランクが細分化されている理由についてお聞かせください。 谷 以前の等級から新しい等級に移行するにあたり、グローバルのグレーディング基準を設けました。共通の物差しでなければならないというところから、海外の基準を厳密に適用したところ、結果的に一般社員の段階数は以前とほぼ同じであったのに対して、管理職は細かくなり段階数が増えました。ただ、実際にグローバルも含め共通で運用してみると、グレードによってその間にあった差が見えるようになり、共通化した意義があったと考えています。 今野 ありがとうございます。続いて株式会社日立製作所の神山さんにお願いします。450種類のジョブディスクリプション(以下、「JD」)をつくったということで、とてもたいへんだったと思うのですが、どのように進めたのでしょうか。 神山 まず階層別に6階層を75職種に分け、職種ごとに委員会を設けて、有識者に協力いただき、ベースとなる共通の標準JDを準備しました。そこからすべてのジョブに適応できるように、アレンジしていくという形で進めました。 今野 ありがとうございます。三菱マテリアル株式会社の廣川さんは、ジョブグレードをつくる際に職務をベースにしている一方で、研究職は別の基準を設けているということでした。研究職はやはりジョブの価値が測りにくいということでしょうか。 廣川 そうですね。私たちの研究所はそれぞれ専門性があり、その専門性を組み合わせたプロジェクトがあって、1人で複数のプロジェクトを抱えることもあります。それを毎年バリューとしてジョブの価値を測ることはむずかしいので、発揮行動等級として、報酬の体系は同じですが別の尺度にして各々つくっています。 今野 ありがとうございました。では、最初の論点として、ジョブ型をうまく推進していくうえでの秘訣について教えてください。 谷 経営陣がしっかりコミットメントして進めることが非常に重要だと思います。ジョブや職務をベースに考えていくことは、従来の仕組みからは大きな転換となります。それについて、社員としっかりコミュニケーションを図り、理解してもらわなくてはいけません。制度変更の説明についても、経営トップから必要かつ大事な制度変更であること、全社的にとても重要な、経営の根幹を考えていくものとして意識して進めていくとのコミットメントがあったので、より進めやすかったところがあります。 神山 やはり従業員のマインドセットが重要だと思います。なぜ当社はジョブ型に向かっていくのか。これについて、経営・幹部層から一般従業員に至るまで、腹落ちできるかがとても大切です。当社の場合は、経営戦略の流れからの人財戦略として、ジョブ型に進んだわけですが、その文脈で話しても、自分ごととしてとらえられていない人が少なからずいるので、まだ到達すべきところまでたどり着けているわけではありません。それぞれの従業員たちが自分なりのジョブ型をしっかり理解することが重要だと考えています。 制度の浸透と運用のカギは各層とのコミュニケーション 今野 つまり、「社員にどうやって腹落ちしてもらうか」ですよね。そのためには、どんなことが大切になるでしょうか。 神山 やはりていねいなコミュニケーションに 尽きると考えています。2017(平成 29 )年 ごろから議論を始め、改革に向かう施策がほぼそろいつつある現在ですら、ふと議論が頓挫することもあります。とにかくあきらめずにジョブ型に向かう目的をしっかり説明していくことが大切だと思います。 今野 この「コミュニケーション」について、資生堂ではどんなことに取り組んだのでしょうか。 谷 いまふり返ってみると、まず役員層、そのあと部長層、課長層というように、徐々に制度を浸透させていき、最後に社員コミュニケーションを行い、一足飛びではない経緯があったように思います。  また、実際に制度がスタートし、運用が始まると、現場の課長がマネジメントを行う際に、必ず悩みが生じてきます。例えば目標設定において、制度導入にともない初めて作成したJDが目の前にあって、「目標の考え方はどうすればよいのだろうか」とつまずくことがあります。そういった悩みをしっかり拾い上げて、制度導入当初は四半期に一回、その後、マネージャーが新制度に慣れてくると半期に一回と頻度を変えながら、定期的なマネージャーワークショップを行いました。最初は制度の説明から運用のポイントに移行していき、そこで運用におけるむずかしい要所をつかんで、徐々に運用できるようになっていきました。くり返しコミュニケーションを行いながら、改善を重ねてきました。 今野 これらの点について、三菱マテリアルではどのような取組みをされたのでしょうか。 廣川 2022(令和4)年にスタートしたばかりの仕組みなので、まだまだ改善が必要な状態です。制度を導入したらそこで終わりということはなく、さまざまなレイヤー、さまざまな形でくり返し社員に伝えていくことを重視しています。同じことをトップが話し、人事も話し、現場の組織長も話していく。これがあるべき姿だと思います。現場への浸透という意味では、まだまだ私たちも力不足を感じているところはありますが、重要なのは厳しい意見が出ても、やはりコミュニケーションを一生懸命とっていくことではないでしょうか。 今野 ありがとうございました。コミュニケーションが非常に重要であることを、みなさんが感じられているのですね。それでは逆に、ジョブ型人事を推進するうえで、「これはしてはいけない」ということはありますか。 廣川 「制度が決まったから」といった、上位下達的な伝え方は絶対してはいけないとつねづね感じています。そうではなく、制度のねらいや実現したいこと、運用の仕方、すべてにおいてきちんとていねいに説明することと、たとえ説明に満足がいかなくても「がんばっていきましょう」と励ましたりしながら、ていねいなコミュニケーションを心がけています。 神山 「メンバーシップ型」から「ジョブ型」に変わるとなると、個別支援型マネジメントが必要になります。そこは現場の管理者に任せるだけでは、なかなかついてこられないでしょう。「マネージャーになりたくない」という声も世間では聞かれていますから、ファーストラインマネージャーの役割に寄り添う形の支援ということで、想定される問題に対して解決のヒントを示したガイド本をつくりました。とにかくHR(ヒューマンリソース、人事部)が現場の課題に耳を傾け寄り添うことが大切だと考えています。 谷 お二人の話にとても共感しました。違う視点からお話しするのであれば、複雑な制度はよくないと思います。以前の制度から移行する際に、さまざまなタイプの制度があって非常に煩雑になっていました。手当にしてもたくさんありすぎて、共通化を進めたというところがあります。受けとめる社員にとっても、建て増しの制度は、何をねらったものなのかわかりにくくなってしまいます。極力シンプルにして、制度のねらい、もしくは会社が目ざしたい方向があってこの制度設計になっているのだと、簡潔に伝えることができるような制度設計にしていくことが大切だと、旧制度から新制度に移行するなかで強く感じました。 社員のマインドセットのために重要なこととは 今野 ジョブ型を推進するうえで生じた課題などがあれば教えてください。 神山 ジョブ型化においては、「自分のキャリアは自分でつくっていく」ことになるので、そういった文化を醸成していくことが課題だと思います。 廣川 社員のマインドセットは課題の一つです。いままで年功序列、右肩上がりがあたり前で、処遇が「下がる」ということに対して、抵抗を感じている人が非常に多くいます。マインドをどう変えていくかが課題だと感じています。 今野 神山さんのお話も一種のマインドセットだと考えます。キャリアは会社が決めるというマインドセットから、自分のキャリアは自分でつくるというマインドに変えようということですね。いまの廣川さんのお話は、年功的な、あるいはそういう気持ちをジョブベースに変えていく意味のマインドセットですか。 廣川 そうですね。例えば、ポストオフのときに部長から部長補佐になる場合には、そこはやはり納得が得られないこともあるので、自律的キャリアを大切にしていきましょうと伝えているところです。 谷 私自身が個人的に感じていることですが、日本の労働法制のなかで、ジョブ型もしくはジョブベースの制度を採っていくことがむずかしい部分もあると思っています。現行の労働法制のなかで実現するためにどうしたらよいか、社内で議論しながら運用まで含めて組み立てても、論理的にむずかしい部分もあり、それは課題でもあるのですが、ある意味やりがいでもあるかなと思います。 今野 ありがとうございました。廣川さんと神山さんは比較的近いことをおっしゃったのであらためてお聞きしたいのですが、「自分のキャリアを自分でつくる」というマインドをつくるときに、一番重視しているのはどんなことでしょうか。 廣川 重視しているのは「1on1」です。上司と部下とのコミュニケーションをしっかりととり、そのなかでキャリアに関することを話題にしてもらっています。ほかにも、「1on1とは」を議題にして研修をしたり、学習ツールをつくったりしています。また、毎年11月をキャリアを考えるキャンペーン月間にするなどの仕掛けを行い、日ごろから話をしていくことで、「もしかしたら自分はグレードが下がるかもしれない」など自分ごとに感じてもらえたり、身近に考えるようになったりします。こうしたことをもっと深めていくべきだと思っています。実際、そうしていくことによって、みなさんが徐々に腹落ちをしてきているようです。 神山 当社では、2023年にグループ公募制度をリニューアルしてから、部門をまたいで異動する人が増えています。社外に求人を出す際には、必ず社内にも求人を出すというルール改正を行い、これによって社内の公募が活性化しています。手あげ式の制度など、形から変えていくのも必要だと思います。 谷 上司と部下の関係性はものすごく大事だと 感じています。これは労働組合が一番こだわった部分でもあります。ジョブベースの制度を導入するにあたって、部下が上司をしっかり信頼できているのであれば、給与変動をともなう昇降格があった場合に、上司が部下の育成をきちんと考えたうえで、本人の成長機会や次のチャンスなどの意図を含めた上司・部下間の双方向のコミュニケーションができるので、納得性が高くなるかもしれません。当社では、2021年の改定時にダウングレードは入れず、2年間、マネージャーワークショップを行って、環境が醸成されたところで、場合によってはダウングレードもあると追加で導入する形を取りました。最も労働組合としてこだわっていた上司・部下の関係性に関する意見は、その通りだなと思いました。信頼関係があって成り立つということを強く感じました。 ジョブ型人事管理制度はシニアが先行して導入 今野 60歳以降の人事制度について、考えていることがあればお聞かせください。 谷 当社は60歳定年以降も同じような報酬体系を適用する制度になっています。管理職については、グレードごとに競争力のある報酬水準をそのまま適用しています。退職金についてはいったん60歳で精算をしますが、それ以外の報酬はまったく変わりません。  特に管理職に対して同じ体系をとってよかったところは、例えば非常に技術の高い人にそこまでの処遇が提示できず、ある程度諦めて違う形で活躍してもらっていたところ、同じジョブで活躍してもらえるようになりました。  一方で一般社員は、付与するジョブのレベルを少し下げることもありますが、レベル分けをして、段階を分けるという意味ではジョブベースになっています。段階で報酬が分かれることでむずかしくなるのは、段階に分けたジョブのどれを本人に提示するかです。本人がどんなことを考えており、どんなスキルがあるのかなどを含め、マッチングが非常にむずかしいですね。そこはシニアの戦力化の面で悩み、考えながら進めているところです。 神山 当社は再雇用制度を2001年から実施しています。ジョブ型がうたわれる前の2017年ごろから、シニア社員にはジョブを提示して選んでもらっているので、その走りだったと思います。また、当社は役職定年を設けていません。最近、ごく少数ですが、60歳以降にも現役世代と同じジョブ、同じ役割を提示して、賃金もそのままという人も出てきています。現役世代のジョブ型がもっと進めば、今後のエイジフリーに向けた議論も前進するのではないかと考えています。 今野 先にシニアがジョブ型となって、60歳以前の人がそれを追っている、ということですね。 神山 はい。会社がジョブを提示して、本人がジョブを選んで、そのジョブに応じて契約をする、という意味では「ジョブ型」といえると思います。 廣川 われわれは、ザ・製造業でして、労働力不足はきわめて深刻な状況になりつつあります。そうしたなかで、役職定年をゆくゆくは廃止したいと考えていますが、一方で65歳定年にして、選択定年を維持していきたいと思っています。一つのけじめとして定年はありつつも、処遇としてはエイジフリーを目ざしたいと考えています。 谷 当社でも、ジョブ型については高齢社員から先行して行ってきました。ただし、やはり悩ましいのは、会社から本人に提示するジョブが松・竹・梅とあったときに、梅が提示される人というのは、本人が望まないかぎり、非常にショックなわけです。それを提示する側もむずかしくて、本人のスキルと、そのポジションを考えた場合に、提示が非常にむずかしいケースも起こるので、会社として、いかにこのポジションを受けてもらわないといけないのか、もしくは、ほかの活躍機会があるのかを提示する必要があります。本人からすると、自分はどういったことができるのかをきちんと示さないと、会社から提示を受けるジョブのレベルが低くなる可能性があります。今野先生が基調講演でお話しされた「覚悟が問われる」というのは、会社側も本人側もあるなと思います。 今野 本日3人のお話を聞いて、第一に、シニアまで含めてシームレスな人事管理をしようとするとジョブ型しかないと思いました。  第二に、3人の方が共通して強調されていましたが、ジョブ型の人事管理が機能するには、その意味について社員がしっかりと腹落ちしないといけないので、社員とのコミュニケーションが重要だと思います。  さらに、社員はジョブ型の人事管理のもとでは、自分のキャリアは自分でつくるのだというマインドセットをつくっていかないと、上手に職業生活は生きていけないので、企業もそれに対して積極的に支援をするということが重要だと思います。  今日の3人のご意見を聞いて、この三つが非常に印象に残ったので、最後のまとめにさせていただきます。 ★「令和6年度 生涯現役社会の実現に向けたシンポジウム」パネルディスカッションは、JEEDのYouTube公式チャンネルでアーカイブ配信しています。こちらから、ご覧いただけます。 https://www.youtube.com/watch?v=lJeVvHFO0IQ 写真のキャプション 学習院大学名誉教授 今野浩一郎氏 株式会社資生堂 ピープル&カルチャー本部 変革推進グループ マネージャー 谷圭一郎氏 株式会社日立製作所 人財統括本部 人事勤労本部 ジョブ型人財マネジメント 推進プロジェクト シニアプロジェクトマネージャ 神山靖基氏 三菱マテリアル株式会社 人事労政室 室長 廣川英樹氏 【P23-24】 2024年10月25日開催 イントロダクション 令和6年度 生涯現役社会の実現に向けたシンポジウム 「役職定年見直し企業から学ぶシニア人材の戦力化」 職業生活(キャリア)の長期化と求められる役職定年制の再構築 玉川大学 経営学部 国際経営学科教授 大木(おおき)栄一(えいいち) 新陳代謝促進とポスト不足解消の機能をになった役職定年制  本日は「役職定年制」をキーワードにしながら、65歳、70歳、あるいは75歳と、職業生活や職業キャリアが長くなっていくなかで、各社がどのような形で人材の育成・活用に取り組んでいるのかのお話を聞いていきたいと思います。  「役職定年制」は、1980年代に行われた55歳定年制から60歳定年制への移行にともない、組織の活性化の問題や人件費抑制の問題が生じたことから導入が進み、1990年代には社員の高齢化によるポスト不足解消の問題などからも導入が進みました。  役職定年制の仕組みは、役職者がある年齢に到達したら、役職を降りてもらうものですが、役職を降りた人のモチベーション低下などの問題から、導入したものの廃止をしたり、一度廃止したものを復活させたりと、歴史とともにさまざまに変遷をたどってきた制度です。  60歳で定年退職となる時代であれば、55・56歳ぐらいで役職定年となり、60歳の退職まで期間は短いのですが、高年齢者雇用安定法の改正にともない就業期間の長期化が進展していくなかでは、役職定年制が少しずつ変わらざるを得ないということでもあります。 定年延長など働く期間の長期化にともない役職定年後のモチベーション維持に課題  役職定年制は、強制的にキャリアをシフト・チェンジをするので、働く側が一生懸命努力して自分のキャリアを重ね、結果として役職に就くのとは異なり、一方的にそのキャリアを降ろされることになるので、当然モチベーションは下がります。  もちろん、だれもがずっと同じ役職に留まることはできません。いまの20〜30代は、学校教育で「自分のキャリアは自分で考えることが必要である」と教わってきています。こういった教育を受けてこなかった50代にはなかなかそれがむずかしく、そのため、役職定年制をうまく機能させるためには、キャリア開発の研修やキャリア支援が求められています。  役職定年制はキャリアチェンジに必要な制度であり、65歳、70歳まで働くとなるときに、その時代、年齢、キャリアによって、組織に対する役割が変わるのだと認識してもらうような仕組みを組み込むことが、この制度を機能させていくための必要な視点だといえます。  それでは、実際に企業や企業で働いている人は役職定年制についてどう感じているのでしょうか。私も参加したJEEDの調査※1では、企業側から見て、役職定年となった人の「仕事に対する意欲」が「下がった」と感じている割合が46.9%、「変わらない」が38.5%で、「上がった」と考える意見はほとんどありません。ただし、60歳以降の職業生活の設計への意欲が高い人、つまり、職業生活のキャリアを少しでも考えているような人たちの意欲が下がった割合は4割程度、逆に考えていない人たちは54%となるので、キャリアを考えた際に、役職定年制のさまざまな意味合いを理解することができた人は、意欲が下がる割合が減ると考えられます。また、役職を降りたあと、面談を実施しているかどうかの状況をみると、面談を行っている企業で意欲が下がった人は45%、面談を行っていない企業は52%ですから、役職を降りたあとに面談をすることによって、役職を降りた人がその後どういうキャリアを歩んでいくかについて、企業と社員がお互いにコミュニケーションをとることが必要だということがわかります。  企業側から見て、役職定年制が60歳以降の職業キャリアを考えるためにどの程度役に立っているかについては、全体の傾向として役立っていると考えているのが55%、あまり役に立っていないと考えているのが40%ほどとなっています。ただし、キャリア相談や役職定年後の面談を実施している企業ほど、「役に立った」が高くなる傾向にあります。  次に、実際に役職定年の経験者に目を向けると(JEEDの別の調査※2)、役職定年制が役に立ったと考える人は4割ほどで、役に立っていないと考える人が6割と、この制度に対する経験者の評価は厳しいといえます。ただし、職業生活やキャリアについてこれまで考えてきた人、あるいはキャリア面談や支援などを受けてきた人ほど、「役に立った」と考える人は多い傾向にあります。  役職定年制がキャリアを変える大きな制度という意味合いを理解できている、理解するための取組みを会社が行っているという層にとっては、この制度の意味が、組織のポスト不足とか組織の活性化だけではなく、キャリアを変えることによって、より長く働いていくことができると考えていると思います。 長期キャリアへの理解の促進が役職定年制に新たな意味を持たせる  役職定年制による社員のモチベーション低下を防ぎ、かつ長く働くことを意識してもらうためにも、キャリアに関する相談や研修、面談などを通して、降りるキャリアへの理解をしてもらうこと、あるいは長い職業人生のなかにはさまざまなキャリア段階があり、若手社員を支援・指導する時期がくることなどを理解してもらうことが重要です。  そのためにも、例えば、働く人のことをよく知るための自己申告制度、あるいは企業がどうしてほしいかを知る仕組み、自分がどうしたいのかを伝える仕組み、相談できる仕組みがうまく機能すれば企業と個人のミスマッチをなくしていくことができると考えます。  ミスマッチが起きたときに足りない能力を学び直すなど、いま流行りのリスキリングなども、キャリアの問題とあわせて役職定年制を考えることができれば、また別の意味で、この制度が働く人にとってよい制度になっていくと考えられます。 ※1 (独)高齢・障害・求職者雇用支援機構『資料シリーズ No.1 調整型キャリア形成の現状と課題―「高齢化時代における企業の45歳以降正社員のキャリア形成と支援に関するアンケート調査」結果―』(2019)  こちらは、JEEDホームページよりご覧になれます。https://www.jeed.go.jp/elderly/research/report/document/series1.html→ ※2 (独)高齢・障害・求職者雇用支援機構『65歳定年時代における組織と個人のキャリアの調整と社会的支援―高齢社員の人事管理と現役社員の人材育成の調査研究会報告書―』(2018) ★「令和6年度 生涯現役社会の実現に向けたシンポジウム」イントロダクションは、JEEDのYouTube公式チャンネルでアーカイブ配信しています。こちらから、ご覧いただけます。 https://www.youtube.com/watch?v=XKBGZxQybrA 【P25-26】 2024年10月25日開催 事例発表@ 令和6年度 生涯現役社会の実現に向けたシンポジウム 「役職定年見直し企業から学ぶシニア人材の戦力化」 「人を基軸におく経営」に基づく定年延長および人事・処遇制度の見直し ダイキン工業株式会社 常務執行役員 人事 担当 人事本部長 委嘱 佐治(さじ)正規(まさき) 一人ひとりの成長の総和が企業の発展の基盤  当社は1924(大正13)年、大阪金属工業所として創業し、1963(昭和38)年にダイキン工業に社名変更、2024(令和6)年に創業100周年を迎えました。グループ従業員数は約9万8000人(2024年3月末時点)、連結子会社は349社になります。空調事業が売上全体の92%を占め、マーケットのセグメント別にアメリカ、アセアン・オセアニア、中国、ヨーロッパ、そして日本と、グローバルマーケットを五つの極でとらえています。5年ごとに戦略経営計画を策定しており、現在は2025年を目標とした「FUSION25」において重点戦略を設定し、これらを進めています。  現在のさまざまな取組みをお話しするうえで、当社のベースになる考え方が「人を基軸におく経営」です。「一人ひとりの成長の総和が企業の発展の基盤である」とするもので、創業以来、経営陣が脈々とつちかってきた考え方です。「企業は人なり」といいますが、企業の競争力の源泉は、そこで働く人の力であり、そして、人は無限の可能性を秘めたかけがえのない存在として、一人ひとりの成長があって初めて企業が発展するといった考え方です。  これらの考え方のもと、2024年4月より従来の60歳から65歳へ定年を延長しました。定年延長にともなって、人事処遇制度の見直しを進めるにあたり、大きく三つの軸で検討しました。まず、一つめとして「挑戦、成長機会のさらなる拡大」です。今回の定年延長は、ベテラン層の処遇改善、あるいはベテラン層に対する制度見直しだけでなく、年齢に関係なく、すべての人材が活躍できる仕組みにし、そして自らの成長にオーナーシップを持ち、自ら挑戦し、自ら育つ環境をつくっていく、これらを大きな柱にしていく方針としています。  二つめが「貢献する人により厚く報いる制度に見直す」で、これまでも実力主義に基づいて、非常に評価格差がつく人事処遇制度でしたが、さらにもう一段、成果に結びつけた人に対していま以上に報いることを目的に、職能資格制度、それから評価制度や運用を見直し、さらに特別な報酬を加えます。  そして、三つめは「基幹職のマネージメント力の強化」です。当社では、一般的なマネージャー層、管理職を「基幹職」と呼びます。定年延長によって延びた5年間において、一人ひとりの活性化を目ざし、基幹職のマネージメント力の強化を今後も進めていきます。  事業拡大、事業の発展に向け挑戦的テーマが目白押しのなか、にない手である人材が、質、量ともに不足しています。人の確保・育成をはじめとした人材力強化が喫緊の課題であり、採用力の強化を図るのはもちろんですが、いま、社内にいる人材の能力を最大限に引き出して、活かすことが不可欠です。また、社員の年齢構成で見ても、現在60歳以上が全体の11%のところ、2033年には全体の5分の1、20%強になることが見込まれており、ベテラン層の活性化が必須です。高い帰属意識を持って挑戦に向けた熱意や行動力があるベテランの豊富な知識、経験を従来以上に活かすためには、定年延長は必須であると、今回の定年延長にふみ切りました。 定年までシームレスな賃金体系を構築し年齢による一律的な見直しを一切廃止  続いて、定年制度および再雇用制度の変遷について説明します。当社では、1979年に定年を56歳から60歳に延長しています。60歳定年が努力義務化されたのが1986年ですから、それよりもかなり早い段階で60歳定年を実現しました。1991(平成3)年には60歳定年後の再雇用制度を導入しました。その際、63歳まで希望者全員の再雇用の仕組みをつくりました。2001年に希望者全員の再雇用期間を65歳に延長しています。そして、2021年に再雇用期間をさらに拡大し、70歳まで希望者全員再雇用の仕組みを導入しました。さらに2024年に、60歳から65歳に定年を延長しました。  これまで定年が60歳でしたので、職能資格制度の適用も60歳でしたが、5年延ばすことによって資格等級を継続適用としました。また、評価の仕組みも60歳以降65歳まで、それまでの59歳以下と同じ評価の仕組みを適用し、60歳以降も昇格・昇給が可能な仕組みにしました。  賃金体系については、役職者は56歳で役職離任し賃金を見直す仕組み、また一般社員についても56歳で再評価し、賃金を見直していましたが、これらを廃止しました。年齢によって一律的に賃金ダウンをする仕組みを廃止し、60歳到達時においても賃金の見直しを行わず、65歳までシームレスに59歳までの賃金の仕組みを継続する体系に見直しました。退職金についても、確定拠出年金の退職金ポイントを65歳まで継続的に付与する仕組みとしています。  今回の制度変更は、ベテラン層の意欲と納得性の向上、能力の最大限の発揮、加えてすべての世代の能力発揮に目的の主眼をおき、また、定年延長を実施する他企業と比較して優位性のある水準の実現を目ざしました。当社では従来から60歳定年後の再雇用率が約90%と高い水準にありましたが、より帰属意識を持って意欲的に働いてもらうために、定年を延長し、65歳まで社員の身分で活躍できる仕組みにあらためました。65歳まで意欲的に活躍し続けてもらうために、年齢による役職離任は行いません。ただし、組織の新陳代謝、あるいは若返りを維持するため、年齢とは関係なく、各人・各仕事に応じて、役職離任をする仕組みを残しています。  また、経過措置として、59歳までの基幹職・一般社員については、いったんダウンした賃金をこの2024年4月に100%に引き上げました。それからすでに60歳を超えている再雇用者については、再雇用者の報酬水準と今回の新しい報酬水準とのギャップを埋めるため、賞与評価によって思い切った処遇ができる仕組みを導入しました。加えて、若手・中堅層を含むあらゆる層の能力成長や、成果により報いることができるように昇格・昇給評価の運用を見直しています。  今後、年齢にかかわらず、多様な人が活躍し、すべての人が自分の成長にオーナーシップを持って挑戦し、育つ環境づくりを行っていくためにさまざまな施策を新たに検討し展開していく予定です。 ★「令和6年度 生涯現役社会の実現に向けたシンポジウム」事例発表(ダイキン工業株式会社)は、JEEDのYouTube公式チャンネルでアーカイブ配信しています。こちらから、ご覧いただけます。 https://www.youtube.com/watch?v=ThGYtMoRmYU 【P27-28】 2024年10月25日開催 事例発表A 令和6年度 生涯現役社会の実現に向けたシンポジウム 「役職定年見直し企業から学ぶシニア人材の戦力化」 シニア活用の取り組みについて 大和ハウス工業株式会社 経営管理本部 人財・組織開発部長 菊岡(きくおか)大輔(だいすけ) シニア社員が生涯活躍できる雇用制度を段階的に整備  当社は、戸建住宅、賃貸住宅の建設のほか、マンション、商業施設、事業施設などさまざまな用途の建物の建設や街づくりを行っています。  創業者の石橋(いしばし)信夫(のぶお)の「儲かるからではなく、世の中の役に立つからやる」という理念のもと、さまざまな社会課題の解決を通じて、多様な事業を展開し、成長してきた会社です。例えば、介護分野、医療分野においても非常に多くの建物を建てており、当社の一つの強みの事業に成長しています。  当社では、2013(平成25)年に65歳定年制を導入しました。当時は、早いタイミングでの導入と世間から評価していただいたのですが、その背景についてふり返っていきます。  当時、改正高年齢者雇用安定法への対応が必要だったという背景だけではなく、将来的な労働人口の減少、私たちでいえば建設にかかわる人財がなかなか増えることはないだろうという状況のなかで、いかに人員を確保していくかという課題がありました。それ以前は60歳定年、65歳までの再雇用制度でしたが、60歳定年の段階で4割以上の社員はリタイアしており、経験豊富で高い技術力を持った社員が流失することは、会社にとっては大きな痛手でもありました。経験豊富な社員を戦力として囲い込み、残ってもらう以上は高いモチベーションで働いてもらう打ち手として、65歳定年制を導入しました。  ただし当時は、60歳以前と以後で異なる人事制度体系をとっており、60歳以降は大きく処遇が下がる体系でした。  2015年度には、65歳以降も活躍できる再雇用制度として「アクティブ・エイジング制度」を導入しました。そして2022(令和4)年度に本日の本題のテーマである役職定年の廃止、つまり、いままで60歳以前・以後で二本立てにしていた人事制度体系を一本化して、年齢だけを理由に役職を降りてもらう、あるいは、処遇が大きく下がるという体系を廃止しました。  2023年度には、今度は70歳までとしていた嘱託再雇用を、職種は技術系に限定されますが、70歳以降も年齢上限なく働けるようにする制度改定を行っています。  65歳に定年を延ばすことで、いまではほぼすべての社員が60歳以降も継続的に活躍をしています。それからアクティブ・エイジング制度においては、65歳定年後、会社に残る選択をする社員は5〜6割程度となっています。 役職定年の特例とシニア用役職名を廃止 年齢にとらわれず活躍できる環境を整備  次に役職定年制の廃止について詳しくお話ししたいと思います。2013年度に65歳定年にした際に初めて役職定年を導入しました。60歳に到達した年度末で、原則として役職定年になるルールとしていました。残りの5年間は社員ではありますが、いわゆるシニア社員という形で、別体系の人事制度のなかで処遇されていくという仕組みをとっていました。例外的に役職定年後も同等の処遇を維持する「理事」と「シニアマネージャー」のコースを設けていましたが、多くは後進の指導や技能伝承を主業務とする「メンター」コース、一担当者として現場で活躍する「プレイヤー」コースで処遇していました。これを2022年度に見直し、理事・シニアマネージャー制度を廃止、また先ほどの説明の通り2本立ての処遇体系を一本化しました。  決断の理由として、優秀なシニア人財の流出を抑止したいこと。それから、60歳を境に処遇の低下とともに下がっていたモチベーションの維持。最後に採用競争力の強化です。じつはこれが大きいと思っています。「大和ハウスは60歳以降も、年齢に関係なく活躍できる会社ですよ」ということを世の中に打ち出すことによって、他業種、他社のいろいろな経験、さまざまなスキル、高度なスキルを持った方を迎え入れたいというねらいもありました。  2022年度の制度改定のときに、年齢だけを理由とした一律の役職は廃止しましたが、無条件に65歳まで役職に留まれるというわけではありません。むしろ、個別具体的に一人ひとり、役職を降りるタイミングが変わる制度にしています。また、シニア社員に独自に使っていた役職呼称なども、そのときに廃止をしました。当然、60歳以降であっても、ポジションが上がったり、昇格したり、評価が上がれば、処遇が上がる余地も残しています。  65歳以降の再雇用制度については、2015年度の導入時は、一律の処遇にして、週休3日・週4日勤務に、報酬についても月額20万円に固定としていました。社員のニーズが多様化するなかで2023年度に制度を一部見直して、働き方の選択肢を拡充しました。週5日の勤務で報酬は職務内容に応じて、22〜35万まで幅を設ける「現役同等コース」を新設しました。ただし、こちらは、職種を限定し、現業の技術職が対象です。  ここまで制度面についてお話ししてきましたが、本当の意味で生涯活躍できる会社になるためのキーワードは「キャリア自律」だと考えています。つまり、会社がよい制度を設けても、その制度にぶら下がって、あとは安泰という社員が増えてしまっては、逆にその制度が維持できなくなってしまうわけです。長く働く以上はやはり社員一人ひとりがキャリア自律の意識を持って、つねに自分を磨き続けてもらいたいとメッセージを発信していかなくてはいけないと思っています。  私たちは人財育成ポリシーとして「Keep Learning, Growing, and Dreaming.」というコンセプトを掲げています。これは「事業を通じて人を育てる」という社是の精神に則り、あらゆる社員が年齢や属性に関係なく、つねに学び続け、成長し続ける、それが本人の夢、会社の夢、パーパスの実現につながっていくという世界観を表現しています。社員のキャリア自律をうながしていくために、日常の上司・部下の「1on1」を通して、ときにはキャリアについても語り合う対話の場を設けています。  65歳以降を活き活きと生涯活躍するためには「Keep Learning, Growing」の精神で、社員が自己のキャリアを自律的に切り拓き、成長し続ける。私たち人事部門としても支援や、後押しをしていきたいと考えています。 ★「令和6年度 生涯現役社会の実現に向けたシンポジウム」事例発表(大和ハウス工業株式会社)は、JEEDのYouTube公式チャンネルでアーカイブ配信しています。こちらから、ご覧いただけます。 https://www.youtube.com/watch?v=VxUf93K_1Jw ★同社の取組みについて、本誌2024年7月号の「マンガで学ぶ高齢者雇用」で紹介しています。 https://www.jeed.go.jp/elderly/data/elder/book/elder_202407/index.html#page=34 【P29-30】 2024年10月25日開催 事例発表B 令和6年度 生涯現役社会の実現に向けたシンポジウム 「役職定年見直し企業から学ぶシニア人材の戦力化」 リコー式ジョブ型人事制度 株式会社リコー 人事総務部 C&B室 室長 中村(なかむら)幸正(ゆきまさ) デジタルサービス企業へ変革の一環としてジョブ型人事制度を導入  ベテラン社員も含めて、社員全員が実力を発揮し意欲に応じて活躍できる制度として、リコー式ジョブ型の人事制度、人事制度の根幹、人事マネジメントの根幹の制度の変更についてご紹介します。  リコーグループは国内外に事業展開しており、グループ社員数は約8万人です。今回のジョブ型の人事制度は国内約3万人に対して展開しています。当社は、創業初期から事務機器の提供を通じて業務の効率化に貢献してきました。これまで事業の中心であったコピー機を一つの入出力のデバイスとし、さまざまなデバイス、あるいはアプリケーションを統合したデジタルサービス企業を目ざして変革を進めています。そこがジョブ型の導入の一つのきっかけになります。  具体的な課題は三つあります。一つめは50代半ば〜後半がボリューム層になっており、職能資格制度と相まって、組織編成がやや硬直化している傾向にあるため、高資格者・管理職層のベテラン社員をどう活かすかがポイントになっています。  二つめは、高資格者・管理職層の能力は非常に重要ながら、ものづくりからデジタルサービスに変革するなかで、現在、必要な能力の見極めを重視していかなくてはいけません。  三つめは、結果として高資格者・管理職層の存在が、若手・中堅の昇格や、ポジションアップのチャンスをはばみ、モチベーションの減退を招くのではないかという大きな危機感があることがあげられます。  そこで、過去の実績ではなく、現在の実力と意欲で活躍することができ、また、事業戦略が変化していくなかで、戦力の変化に応じて適所適材のポジションの任用、オン・オフを実現するような仕組みに変え、それらを通じて、むずかしい仕事にチャレンジした人、成果を上げてきた人が報われるような環境を目ざしています。 ローテーションの柔軟性を担保しヒエラルキーを排除したジョブ型  続いてジョブ型人事制度について説明いたします。まず、グレードの体系について、管理職は、一般的には部長・課長クラスのポジションである「マネージャー」に加え、1人でも会社に貢献できる役割を持っているポジションである「エキスパート」があり、マネージャーと同列に位置づけています。それぞれM1〜M4(EX1〜EX4)の四つの階層に分かれており、M1は課クラス、M2は部クラス、M3はセンタークラスのように、組織の階層に紐づいています。  「ジョブ型」というと、大体イスに値づけをしていくイメージですから、役職者がメインになって、部長や課長ではないかぎり、重用されないと考えられがちですが、マネージャーとエキスパートは完全に並列に並んでいます。  また、「アソシエイト・エキスパート」があります。これが「リコー式ジョブ型」とあえて呼んでいる特徴の一つです。アソシエイト・エキスパートは基本的には管理職扱いで、テーマリーダーとして、担当領域での目標達成をにない、管理職を外れた際の、待機的なポジションとして設けています。3年の年限の間に、あらためてマネージャーあるいはエキスパートにチャレンジしてもらう意図を込めたグレードとなっています。  もう一つのリコー式の特徴として、一般層もジョブ型にしました。日本では一般的に実力主義が強い管理職層にジョブ型を導入していますが、当社の場合は考え方の一貫性を重視した結果です。一般層のポイントは、グレードをシンプルに三段階にした点です。従前の資格等級は非常に細かい段階になっており、順番に上がると途中に昇格審査があるなど、とても時間がかかっていました。現在の制度では「スタッフ」という名称でS1〜3に分かれていますが、S2からでもS3からでも、マネージャーあるいはエキスパートに登用したら、昇格試験を経ず、管理職扱いとなり、優秀人材の管理職ポジションへの早期抜擢を行いやすい構造となっています。  ポジションのオン・オフについては、各組織内で必ず合議でさまざまな要素において決定し、ポジションから外す場合は現任者の状態を見ること、次の新任の任用の際には、力量の多面的な評価をして入れ替えを行います。  ジョブ型JD(ジョブディスクリプション)については、マネージャー、エキスパート、すべてのポジションで作成し、すべて公開しています。なお、格づけは変更しましたが、報酬は基本的に大きく変えていません。  ジョブ型の現状としてはうまく進んでいると感じています。課題はポジションオフの本人の意識の変え方だと思います。  役職定年制は40年近く運用しており、ベテラン社員が最後の期間をどう会社に貢献するかと、自ら考えるようになり、役職を外れた後についてもうまく回りつつあったので、特に問題にしていなかったところはあります。今回、このジョブ型導入の議論のなかで、若手の活躍や登用の話と同時に、ベテランの活躍をどう考えるかの議論になりました。やはり年齢に関係なく実力に応じた形が望ましいとなり、マネージャーとエキスパートを対象に役職定年を廃止しました。ただ、若手抜擢を課題としているので、レビューポイントとして、任用、それからポストオフの際に、従来の57歳を確認ポイントに設定しています。  定年後については、ほぼ全員を非管理職扱いとし、報酬をいっせいに落としていました。しかし、それまでのポジション任用を継続する人が出てきて、必要があれば現役続行とし、従来と同じポジションに就いています。当然、報酬もそのままです。代わりに、評価も現役社員と同じグルーピングで評価するという形で、そういう意味では、選択的に一部役職定年を延長しているような形になっています。 ★「令和6年度 生涯現役社会の実現に向けたシンポジウム」事例発表(株式会社リコー)は、JEEDのYouTube公式チャンネルでアーカイブ配信しています。こちらから、ご覧いただけます。 https://www.youtube.com/watch?v=CTFElO1UZuA 【P31-36】 2024年10月25日開催 パネルディスカッション 令和6年度 生涯現役社会の実現に向けたシンポジウム 「役職定年見直し企業から学ぶシニア人材の戦力化」 年齢による画一的な役職定年制の廃止と影響 コーディネーター 玉川大学 経営学部 国際経営学科 教授 大木栄一氏 パネリスト ダイキン工業株式会社 常務執行役員 人事 担当 人事本部長 委嘱 佐治正規氏 大和ハウス工業株式会社 経営管理本部 人財・組織開発部長 菊岡大輔氏 株式会社リコー 人事総務部 C&B室 室長 中村幸正氏 役職定年制の廃止は若手のやる気を削がない運用が大切 大木 今回のテーマである役職定年制については、「廃止」がキーワードになるかと思います。ポストオフの工夫や悩み、課題について、まずは株式会社リコーの中村さんからお聞かせください。 中村 事例発表では「役職を外すには適所適材で」とお話ししましたが、そこが一番の課題です。若手登用をふまえた柔軟な配置ということで、制度を導入してから2年半が経ち、わりとよく進んでいます。ただしいま現在、役職に就いている人のポストオフはむずかしい問題です。制度のなかでよりよい人材を選出するとしても、現在の役職者もミスなく活躍しているというケースもあります。  「役職者の社内公募をやや強制的な形で実施してみる」というアイデアレベルの話があり、例えば57歳という従来の役職定年の年齢から3年などの任期を決めて、任期が終了したら公募するという話を現場としているところです。 大木 ありがとうございます。続いて大和ハウス工業株式会社の菊岡さんはいかがでしょうか。 菊岡 たしかに役職定年は、自分自身がキャリアを深く考えなくても、ある意味平等にゴールが見えてきます。一方でそれを廃止したとしても、だれしもいずれはポジションから降りるときは来ます。すると一人ひとりがポストオフを考えることにもなるし、それぞれが評価されて決まることにもなります。ここに、会社が一歩ふみ出していくためには、評価の仕組みをいままで以上にきちんと整えたうえで、また、自分のキャリアをしっかり考えてもらう環境を整備していかなければいけないと思っています。  また、「役職定年の廃止によって上が詰まって、若手のやる気が損なわれる」といわれますが、これは導入時に一番避けたいところでした。いかに、ふさわしい人に残ってもらい、そうでない人には降りてもらう運用をしていくかが、非常に重要になると思っており、今後の課題として認識しているところです。 大木 ありがとうございます。では、ダイキン工業株式会社の佐治さんはいかがでしょうか。 佐治 一定の年齢でポストオフすることのルール化がされていれば、本人の覚悟もあるでしょうし、それぞれの組織で準備もします。それがいつの間にかあたり前のようになっていた部分はあると思います。しかし、今回思い切って役職離任制度を廃止することで、年齢ではないポストオフということを考えなければいけなくなりました。逆にいうと、例えばいままでは56歳で役職離任していましたが、56歳よりももっと手前でポストオフする人もあってよいわけですし、逆に60歳、60歳を過ぎてからポストオフする人がいてもよいのです。これを周りの納得性も得ながらしっかりやっていくことができれば、一人ひとりの力を本当に最大限に発揮してもらうという、今回の制度の大きな趣旨に合致するのかなと思っています。 管理職研修は任用後のスキル向上に重点を置く 大木 続いて「管理職研修」についてお聞きしたいと思います。管理職になるための研修、あるいはキャリア開発の研修などについては、具体的にどんな研修をされていますか。 中村 キャリアについて考えてもらうという意味では、ジョブ型に変更してからそれぞれのジョブディスクリプションを公開して、どんな仕事で、どんな責任を持っているのか、備えるべき要件は何かなどを明らかにしています。そこにそれぞれ自律的にチャレンジしてもらっているので、一律的な決まった規格の、管理職になるための研修というのは、いまはほぼしていません。一方で、組織職をきちんと育成するためのプログラムとして「マネジメントカレッジ」というものを立ち上げて、そこで全管理職を対象に、マネジメントレベルを上げるような研修を始めたところです。 菊岡 すでにマネージャーになっている人に向けた研修は、いま力を入れている分野の一つです。当社の場合、1人でも部下を持つ管理職者が約2000人おり、全員まとめて研修を行うのはむずかしいので、4年ほど時間をかけて、各人半年ずつのプログラムに参加してもらい、いわゆるマネジメントスキルをリスキリング、あるいはアップデートする取組みをしています。  当然、制度が変わり定年も延びたなかで、マネージャーを務める期間も延びます。一方で、マネジメントから降りたシニアの部下を持っていたり、Z世代と呼ばれる若手も入ってきたりと、いままでの経験則に頼った通り一辺倒のマネジメントでは対応できません。やはり、時代の変化、人員構成の変化に合わせた、より多様性に対応できるようなマネジメントを身につけていかないといけません。いまのマネージャーはたいへんだと思いますが、そのための武器を再インストールしてもらうという取組みをしているところです。 佐治 マネージャーになってからの教育は、数年前から2回に分けて、マネジメント力の向上のための研修を行ってきました。今回あらためて定年延長によって、部下が多様化し、若い部下と同時に、ベテラン層、自分より年上の、あるいは場合によっては以前自分の上司だった人が自分の部下に入ってくるようなこともあるでしょう。従来のマネジメントスキルについて考えるような研修だけでなく、直接的な指導力向上や、対話の仕方など、より日々の実務に直結するような何かを提供できるものがあればやっていきたいと思います。 若手の管理職登用における具体的な目標や基準の見直し 大木 役職定年制の廃止は若手の登用など、若手の活躍の場を広げていきたいという趣旨もあると思います。若手登用を意識した取組みについて教えてください。 中村 リコー式ジョブ型の導入にあたっては、若手の管理職への登用が少ない点を課題としていたので、若手の管理職比率の目標値を設定しています。いわゆる課長ポジションの管理職のなかで、30代の比率を上げることが目標です。導入前は2%程度でしたが、2年で10%超まで増えています。 菊岡 いわゆる将来の経営人財育成に向けた早期選抜のプログラムがあり、30代からスタートするコースをつくっています。こうした特別プログラムも大切ではあるのですが、あくまで各現場、各事業部門のなかで、若手を抜擢できる環境をつくっていくということが重要であると考えています。 佐治 優秀な人材の昇格を早めるために、基準の見直しを行っているところです。現在トップの優秀層が30歳でなれるポジションについて、その基準を2年早め、20代でマネージャー登用を可能にしたいと思っています。 配置転換(ローテーション)はなお必要な経験を積む仕組み 大木 これまで日本の企業は、配置転換(ローテーション)を行うことによって、さまざまなことを経験させて、人材を育てていくというやり方が一般的でしたが、このやり方は限界がきているという声もあります。ローテーションを巡る問題についてお聞かせください。 中村 ローテーションは、さまざまな経験をするという意味では必要だと思っており、会社として変える必要はないと思っています。仕事、キャリアが多様になることで、さまざまな課題も生まれるので、その意味でローテーションは必要です。  ただし、かつてのように「何年勤務したら転勤をする」というような、機械的に配置を変えていくという発想はもうありません。社員が自律的にキャリアを考えられるよう、マネージャーが本人と話をしたうえで、ローテーションを考えていくことが必要だと思います。 菊岡 当社はローテーションがあまり活発ではない会社で、スペシャリスト志向の育成を昔からやってきた会社といえます。街の開発や、大きな建物をつくるといった、規模の大きい仕事が多く、一人前になるには年数がかかるところが影響しているのかもしれません。エンゲージメントの調査をすると、非常にスペシャリスト志向が強く、自分が手がけている仕事に誇りを持って愛している社員が多いです。  スペシャリストで同じ仕事にずっと就いている人にとっては、ジョブチェンジはハードルが高いですから、副業という機会を使って違う世界に触れてみようという意図から、2022年度に社内外の副業制度を導入しました。 大木 もともとジョブ型に近い仕組みなのですね。 菊岡 人事制度体系自体は職能資格制度、職能資格がベースになっており、ジョブ型に移行したというわけではありませんが、ジョブ型的に採用・配置・育成を伝統的にやってきたところはあるかもしれません。 佐治 当社でもルールに基づいてローテーションや配置をするという仕組みはありません。私は入社してからずっと人事の仕事をしていますが、そのような人もいれば、3〜5年で違う職場に変わる人もいます。もちろん、一人ひとりの力を最大限に発揮してもらうことが大前提です。一方で知恵の偏在というのは明らかにあるので、人材育成という観点からも、会社主導の配置転換は絶対に必要だと思っています。  ただ、今回の定年延長で働く期間が長くなり、いままでとは違う仕事にチャレンジできるような仕組みがあったほうがよいのかなと思っています。例えば、将来ベテラン層になったときに、思い切ってやってみたいこと、じつはチャレンジしたかったことなどがあれば、本人の意向を確認したうえで、その準備ができる場は用意していく必要があると思います。長い目で見て本人の希望をかなえられる人材育成ということにもつながりますし、リスキリングというのを切羽詰まって目の前の問題になってからやるよりも、長い目で見て、自らのキャリア形成を目的とした取組みとして推奨できないかなと思っています。 管理職研修、社内副業、技能伝承、各社の特徴的な取組み 大木 ここからは、個別に質問をさせていただきます。リコーの中村さんには、先ほど話に出た「マネジメントカレッジ」について、詳しくおうかがいしたいと思います。 中村 マネジメントカレッジを始めたのは2021年度からです。各単元にテーマを設け「管理職とは」から始まって、「評価」、「ダイバーシティ&インクルージョン」など、3年間で7〜8個の単元を履修します。コロナの余波があったころにスタートしたので、リモートで実施しています。全管理職が一巡したので、2024年度の10月から単元を組み直してあらためて始めたところです。  近年は、“マネージャー次第”という場面が本当に多くなっています。人事評価をして、それをフィードバックしていくことがとても重要なので、リスタートしたマネジメントカレッジでは、「評価とフィードバック」を単元の一番目に据えました。  キャリア形成をするにしても、それから成長するにしても、いまどういう状態なのかを自己認識することが大切です。評価の結果を正確に、特に改善部分がある人に対して、いかにフィードバックしていくか。これが苦手な人が多いので、第一のポイントとして、最初の単元に設定し、レベルアップを図っているところです。 大木 ありがとうございます。続いて、大和ハウス工業の菊岡さんには、「越境キャリア支援制度」についてお話をいただけますか。 菊岡 「越境キャリア支援制度」は、いわゆる副業制度になるのですが、社外副業、社内副業など、いくつかのメニューがあります。導入して2年半ほどで、参加した社員はおよそ200人、社員全体の1〜2%程度です。参加者が経験したことを社内に発信していく仕組みもつくっており、これからもっと盛り上げていきたいと思っています。  そのなかで非常によかったなと思う取組みの一つが「郊外型住宅団地(ネオポリス)の再耕」です。昭和の時代に、当社が郊外につくった大規模な住宅団地があるのですが、街も住民の方も年齢を重ね、さまざまな課題が生じています。そこで、その街を再び元気にするのも私たちの責任ではないかということで、さまざまな職種、事業部、そしてさまざまな年代の社員が手をあげてこれに参加しました。住民の方と対話しながらプロジェクトを進めています。  この取組みにはシニアの社員が大勢参加しており、これまでつちかってきた経験を活かしています。事業をまたいで、年代をまたいで、さまざまなことを考える場として、うまく運用できているという実感があります。 大木 ありがとうございます。続いて、ダイキンの佐治さんには「卓越技能制度」について、シニア人材との関係も交えて教えていただけますか。 佐治 「卓越技能伝承制度」は、社内では「マイスター制度」と呼んでいます。競合他社に対して競争力を高めるために必要な工場の生産技能を、戦略技能として10職種定め、それぞれについてレベルの高い人材を育てるために始めた制度で、現在ではグローバルに展開している制度です。当初はベテランの方にスポットライトをあてる、いわゆる通常のマネージャーに昇進するルートとは別枠の、自分を磨くルートをつくるためにスタートしました。マイスターの下には「トレーナー」という資格があるのですが、最近では37歳の社員が認定されるなど、以前のようにベテラン層のみにスポットがあたる制度ではなくなってきていますが、いずれにせよ地道に現場で技を磨いてきた人が認められ、人に教える立場になっています。国内も海外も同じ枠組みで実施している制度で、愚直に取り組んできたことがいま、実りつつあると感じています。 大木 最後に、働く期間が徐々に伸びており、60歳以上の人たちを長期にわたって活用していくための取組みや課題について教えていただけますか。 中村 当社は役職定年、定年延長を行っておらず、シニア全員の実力、やる気に沿った活躍、活用を形にするにはまだまだ不足しているのかなと思ってます。ただ単純に定年延長が本当に当社にとって有益なのかどうかということ、再雇用の人が幸せなのかどうかも含めて、検討しなくてはいけないと思っています。 菊岡 長く活躍するために土台になるのは、やはり健康であることだと思っています。そういったところの支援はまだまだ検討の余地があります。65歳、70歳、それ以上も含めて働き続けるということを前提に、健康やウェルビーイングの取組みを、今後、人事部門としては充実させていかないといけないと思っています。 佐治 やはり長く働いてもらう、しかも間違いなく業績に貢献してもらうためには、挑戦と成長をくり返すということを、ひたすら行っていく必要があると思っています。ですから、挑戦できる機会の提供ということが、人事から事業部門に対してお願いしていく最大のポイントかなと思っています。 大木 ありがとうございました。本日は、「役職定年」をキーワードに、みなさんにお話をうかがいました。これまでの上がっていくキャリアのなかで、管理職に就いた後にどう活躍してもらうか。あるいは働く期間が長期化するなかで、役職を降りた後にどうやって自分の職業人生を続けていくのか。本日ご登壇いただいたみなさんのお話のなかにもありましたが、一人ひとりに自分のキャリアをきちんと考えてもらい、それに対して会社がさまざまな形でサポートしていくことが必要となります。ご視聴いただいたみなさんにも、そういったことに取り組んでいただきたいと思います。  本日はありがとうございました。 ★「令和6年度 生涯現役社会の実現に向けたシンポジウム」パネルディスカッションは、JEEDのYouTube公式チャンネルでアーカイブ配信しています。こちらから、ご覧いただけます。 https://www.youtube.com/watch?v=AaJ5fI6gMOg 写真のキャプション 玉川大学経営学部国際経営学科教授 大木栄一氏 ダイキン工業株式会社 常務執行役員 人事 担当 人事本部長 委嘱 佐治正規氏 株式会社リコー 人事総務部 C&B室 室長 中村幸正氏 大和ハウス工業株式会社 経営管理本部 人財・組織開発部長 菊岡大輔氏 【P37】 日本史にみる長寿食 FOOD 375 うどんの効果 食文化史研究家● 永山久夫 江戸の夜鳴きうどんと油揚げ  北風の吹く季節になると、江戸の町ではそばよりもうどんの方が人気がありました。特に屋台の店が人気があり、いつも湯気がもうもうと立ちのぼり、行列までできています。  甘じょっぱく煮た油揚げがのったキツネうどんの人気が高く、朝まで人の途絶える間もなかったそうです。体が温まるからで、特に冷え症の女性に人気がありました。 薬味のあれこれ  雪のちらつくような肌寒い夜になると、薬味のネギを多めに所望する客が多く、屋台の棚には刻んだネギが山ほど置かれていたそうです。ネギの白根には発汗作用の硫化アリル、青い部分にはビタミンCが多く、いずれも風邪の予防に役に立ちました。  うどんに欠かせないのが粉トウガラシ。好みの量をふりかけて食べると、からみ成分のカプサイシンの作用で、血行がよくなり、体がいっそう温まることが知られていました。  江戸中期になって、七味トウガラシが考案され、うどん人気がいっそう高まります。  現代風に、もっと機能的に食べるには、うどんにすりゴマをかけてみましょう。すると、ゴマに多いビタミンB1の作用で、脳の唯一のエネルギー源である糖質の吸収効率が上がり、記憶力の老化を防ぐうえで役に立ちます。情報化時代の食べ方といってもよいでしょう。 うどんのだし  うどん汁には、カツオ節でとっただしのうま味が、しっかり溶け込んでいます。そしてカツオには頭の回転をよくする作用を持つDHA(ドコサヘキサエン酸)や血液サラサラ効果のEPA(エイコサペンタエン酸)が含まれていますから、頭の働きはいっそうよくなります。  私たちは、世界一長寿の国で生活しています。食べ物の機能性を考え、その特徴を上手に活かして食べることで、長寿効果はいっそう高まり、長寿記録をさらに伸ばすことも可能となることを知るべきではないでしょうか。それはともかく、寒い夜には、熱々のぶっかけうどんが食べたいです。 【P38-39】 偉人たちのセカンドキャリア 歴史作家 河合(かわい)敦(あつし) 第3回 粘り強く己を磨き徳川3代に仕えたセカンドキャリア 立花(たちばな)宗茂(むねしげ) 秀吉の寵愛を受けた鎮西(ちんぜい)一≠フ猛将  立花宗茂は、九州柳川(やながわ)の戦国大名です。宗茂が関ヶ原合戦の際に西軍(石田(いしだ)三成(みつなり)方)に身を投じたのは、亡き太閤(豊臣(とよとみ)秀吉(ひでよし))の恩に報いるためだったといいます。  かつて宗茂は、豊後の大友(おおとも)宗麟(そうりん)の重臣でした。関ヶ原合戦から14年前の1586(天正14)年、薩摩の島津氏の大軍が大友宗麟の豊後領内へ攻めこんできました。次々と大友方の城や砦が落ち家臣たちが降伏していくなか、宗茂は攻め寄せる島津の大軍をたびたび奇襲攻撃で翻弄し、相手が撤退するのを見ると、猛追して撃破したのです。このときまだ、宗茂は二十歳でした。  援軍にきた豊臣秀吉がこの奮闘を知ると、宗茂を「鎮西一」とたたえ、翌年、筑後国柳川13万2000石を与えて独立の大名に取りたて、豊臣の直臣としたのです。  まさに大抜擢でした。それからも秀吉の寵愛をうけ、皆の前で「宗茂は本多(ほんだ)忠勝(ただかつ)(家康の重臣)と並んで東西無双の者どもだ」といったそうです。こうした厚恩をうけたので、宗茂は豊臣政権を破壊して天下を握ろうとする家康に対し、迷うことなく敵対したのでしょう。  しかし、宗茂は東軍(家康方)に寝返った京極(きょうごく)高次(たかつぐ)の大津城を攻めていたので、関ヶ原本戦には間に合いませんでした。そこで味方の敗北を知ると、すぐに大坂城へ出向いて総大将の毛利(もうり)輝元(てるもと)に抗戦を説きましたが、すげなく拒まれてしまいました。このため仕方なく、海路で柳川へ戻って籠城の準備を整えました。しかし東軍の大軍に包囲され、到底かなわないと判断して降伏しました。  宗茂には改易(取り潰し)という厳しい処分がくだされました。  宗茂が柳川城から去る際、領民たちが集まって行く手をふさぎ、「出ていく必要はございません。私たちが命を捨てる気持ちは、あなたの家臣と変わりありません。どうぞ城にお残りください」と哀願したといいます。すると宗茂はわざわざ馬から下り、領民に礼を述べ、「柳川の支配は今後も変わりないので安心せよ。お前たちがこのようなことをすれば、却って私のためにならぬ。さあ、帰るのだ」と説得しました。この言葉に農民たちは声をあげて泣いたといいます。宗茂が領民に慕われていたことがよくわかる逸話です。  こうして戦国大名としての宗茂のキャリアは終わりを告げました。 さまざまなスキルの習得を経て大名として復活を遂げる  宗茂はその後、旧臣の多くを熊本城主の加藤(かとう)清正(きよまさ)に預け、わずかな供回りを連れて上方へのぼりました。徳川家に御家再興を求めるためでした。じつは宗茂は、立花家の養子でした。自分の代で家を潰してしまったことに後悔し、どうしても再び大名に返り咲きたいと考えたのです。しかし、家康からよい返事がもらえないまま1年、2年と時間だけが過ぎていき、宗茂が上方に滞留している間、立花家中の分裂・崩壊が進み、家臣たちのほとんどは他家へ仕官してしまいました。  同じく西軍に加担した長宗我部(ちょうそかべ)盛親(もりちか)などは御家再興をあきらめ、寺子屋の師匠になりました。しかし宗茂はあきらめきれず、家康にアプローチし続けました。ただ、宗茂の偉さは、そうした活動の余暇を利用して己のスキルを向上させていったことです。訓練に励んで弓術の免許を獲得したり、妙心寺の了堂宗歇(りょうどそうけつ)に帰依して禅の修行にも励んだりしました。連歌や茶道、香道、蹴鞠、狂言などに通じていたことも判明しており、そうした文芸に磨きをかけたのも、おそらくこの時期だったと考えられます。  自暴自棄にならず、心身の鍛練に励んだ宗茂、結果としてそれが自身の才能に磨きをかけ、のちに将軍秀忠や家光の信頼を勝ち得ることになっていくのです。  1606(慶長11)年の夏、宗茂は江戸へ向かいました。家康の命令でした。宗茂は将軍秀忠の直臣(大番頭)として5000石で仕えることになったのです。かつて倒そうとした徳川家に再就職したわけです。同世代の秀忠は宗茂を大いに気に入り、それからまもなく5000石を加増し、棚倉(たなくら)(福島県棚倉町)1万石の地を与えました。  そうです、ついに宗茂は、大名(1万石以上の武士)として復活を遂げたのです。なんと、関ヶ原合戦から足かけ6年の月日が過ぎていました。その後宗茂は、秀忠の信頼を得て慶長15年までに漸次加増され、領地は3万石に増えました。すると、立花家の旧臣たちが次第に宗茂のもとに戻ってきました。 73歳で出陣 徳川家の信頼厚い名参謀  大坂夏の陣で宗茂は将軍秀忠に従って上洛し、秀忠に近侍して参謀として大いに活躍しました。1620(元和6)年、田中(たなか)忠政(ただまさ)が死去しました。忠政の田中家は、宗茂に代わって柳川城に入った大名家です。ただ、忠政が嗣子なくして没したため、田中家は改易となりました。これにかわって柳川城主となったのが、なんと宗茂だったのです。そう、旧領に復帰できたのです。しかも石高は約11万石。3万石の大名から一気に4倍に領地はふくれあがり、ほぼ、関ヶ原合戦以前と同じ規模になったのです。関ヶ原合戦で改易された大名は90家以上。そのうち大名に復活し、旧領を取り戻した人物は宗茂ただ一人でした。翌年2月、宗茂は旧領へ下向し、20年ぶりになつかしき柳川城に入りました。城は田中氏の大規模改修によって変貌していましたが、城下から眺める景色は昔のままだったはずです。その風景を目にした宗茂は、これまでの苦労を思い感無量だったことでしょう。  宗茂はかつて城を出ていく際、泣いて止めてくれた領民たちを呼び出し、一人ひとりに声をかけたと伝えられます。  それからの宗茂は3代将軍家光にも実父のように敬愛され、外出の際、家光は老齢の宗茂にたびたび供を命じるほどでした。また、その智将ぶりをかわれ、島原の乱が起こると、73歳の高齢にもかかわらず参謀として出陣しています。そしてそれから4年後の1643(寛永19)年11月25日、宗茂は江戸において76年の生涯を閉じました。当時としては大往生でした。  以上、立花宗茂のセカンドキャリアをみてきましたが、失領した宗茂が旧領を取り戻せた最大の理由は、諦めなかったことにあると思います。大名に復帰するまで6年の歳月を費やしており、すべてをなくし浪人となった宗茂には、非常に長い時間でした。どんなに文武に秀でた人格者であっても、もし宗茂に粘り強さが足りなかったら大名に復帰できなかったはず。ただひたすらに耐え、己を磨いて時を待ったからこそ、幸運の女神がほほえんだのです。 【P40-43】 高齢者の職場探訪 北から、南から 第152回 埼玉県 このコーナーでは、都道府県ごとに、当機構(JEED)の70歳雇用推進プランナー(以下、「プランナー」)の協力を得て、高齢者雇用に理解のある経営者や人事・労務担当者、そして活き活きと働く高齢者本人の声を紹介します。 評価制度を見える化し成果給を導入 全社員の就業意欲を高める 企業プロフィール 株式会社プロパックス(埼玉県北本市) 創業 1989(平成元)年 業種 食品の包装加工 社員数 58人 (60歳以上男女内訳) 男性(1人)、女性(22人) (年齢内訳) 60〜64歳11人(19.0%) 65〜69歳 5人(8.6%) 70歳以上 7人(12.1%) 定年・継続雇用制度 定年65歳。以降は運用により継続雇用が可能。最高年齢者はライン作業担当の76歳  埼玉県は、関東地方の内陸県の一つ。年間を通じておおむね穏やかな気候で、晴れた日が多く、地震や台風などの自然災害が比較的少ない地域として知られています。  JEED埼玉支部高齢・障害者業務課の澤井(さわい)源(はじめ)課長は、県の産業と支部の取組みについて次のように説明します。  「埼玉県は、首都圏という立地に、六つの高速道路のほか、東西南北を結ぶ24の鉄道路線など、充実した交通網を持っています。そのため、東京に本社のある企業の支店や工場が多く、関東圏の流通基地としてのロジスティクス産業とそれらを支えるパッケージ産業や、大手メーカーの工場を支える部品製造業が多数存在しています。  当支部への問合せや相談内容としては、高齢社員の就業意識の維持・向上や、労使双方が納得できる継続雇用の基準などが多くなっています」  同支部で活躍するプランナーの一人、小林(こばやし)美木(よしき)さんは、長年にわたって埼玉県下の各エリアを担当してきました。証券会社の営業職を経て、社会保険労務士に転身した経歴の持ち主で、豊富な金融知識を土台に、プランナーとしてつちかった見地と経験を活かし、訪問先事業所の退職金や年金制度の相談にも助言を行っています。  今回は、小林プランナーの案内で「株式会社プロパックス」を訪れました。 機械化に力を入れる食品充填・包装加工会社  株式会社プロパックスは、チーズ加工品やビーフジャーキーなどのおつまみを中心とした食品包装加工を専門とする企業です。  1989(平成元)年5月に埼玉県鴻巣(こうのす)市で開業し、1991年に現在の本社が所在する北本(きたもと)市に第2加工所を開設。2002年5月に第一加工所を閉鎖し、現在の本社兼加工所として統合し、2015年に株式会社に組織変更しました。  食品包装業界ではいち早く食品安全マネジメントシステムの国際規格FSSC22000認証を取得し、計量やシーリング検査の機械化、ラインの機械化により、生産性の向上や社員の作業負担の軽減に努めるとともに、安心・安全な食品を提供しています。 評価制度を見直し年齢関係なくがんばりに応える  同社の定年は65歳。社員の平均年齢は56歳と高齢者が多い職場です。代表取締役社長の板垣(いたがき)芳行(よしゆき)さんは「当社は離職率が低く、長年働いてきた方がそのまま高齢になり、以前と変わらず活躍してくれています」と説明します。  同社では、2023(令和5)年に評価制度の見直しを行い、人事評価を“見える化”しました。同時に、スキルと成果に応じて賃金を上げる成果給を取り入れました。そのねらいについて、板垣社長は次のように話します。  「これまで社員のなかに漠然と存在していた『私とあの人との賃金の差は何だろう』といったモヤモヤに対して、明確に答えられるようにしました。例えば、加工場にはいくつかラインがあり、『手詰めライン』と『機械ライン』では仕事が異なるので、『計量評価』、『検品評価』といった項目は同じでも評価基準は変わります。目標数や作業速度、達成度など、標準値に達すると時給が5円、10円、15円と上がるわかりやすい仕組みにしました。それぞれのラインのリーダーに対する評価項目などもあり、これらの評価基準表はだれでも見ることができます」  評価は年2回実施しており、さらに面談を年1回行っています。板垣社長または工場長が、評価基準表を見ながら個別に社員の現状を確認し、具体的に課題を伝えています。評価制度を見直して成果給を導入してから一年が経ち、社員の時給がどんどん上がっているそうです。  「精力的に仕事をする人のなかには、そうでない人と比べて倍以上成果を出す人もいます。以前は、そういった場合でも時給の差は20円程度でしたが、新制度では120円ほどの差になります。評価基準を明確にしたことで、不公平感が解消され、年齢に関係なく個々のがんばりが評価されるので、社員のモチベーションアップにつながっています」(板垣社長)  小林プランナーは「仕事に対するモチベーションが向上することで、高齢社員にとっては健康の維持・増進に対する意識が高まり、個人の健康管理の面でも向上が期待できるのではないでしょうか」と、その取組みを評します。  介護などの事情を考慮し、変則勤務に柔軟に対応  同社の離職率が低い要因として、変則的な勤務に柔軟に対応する風土があげられます。  「社員のみなさんにとって、仕事と自身の生活のどちらが大切かといえば、もちろん自身の生活だと思います。生活がしっかりできていなければ、仕事もきちんとできませんから、親の介護のための遅刻や早退など、家庭の事情がある人には、そちらを優先するよう伝えています」(板垣社長)  数年前からは給与明細をデジタル化し、それぞれのスマートフォンで見られるようにしているとのこと。ただし、導入時にはたいへんな苦労があったそうです。  「当初は、システムや仕組みの説明どころではなく、そもそも操作方法がわからないところからのスタートでした。いまでは社員全員が対応できるようになりました。事務部門にとっては業務の効率化につながり、負担が格段に減ったので導入して本当によかったです」(板垣社長)  今回は、充填・包装ラインで元気に働くお二人にお話を聞きました。 リーダー職を外れた後も、縁の下で支える  荻島(おぎしま)英子(えいこ)さん(70歳)は、同社の創業から間もない時期に入社しました。定年まではリーダーの役割をになっており、もう一人のリーダーと2人で力を合わせ、若手社員の指導をはじめ、職場のまとめ役を務めてきました。現在、一担当者に戻って計量とヒートシール業務を担当していますが、ライン随一のベテランとして、新人に仕事に対する姿勢や作業のコツなど、教えられる範囲で伝えているそうです。  「計量はアイテムによって原料が異なるので間違えないこと、重い・軽いといった軽過量を出さないことなどが大切です。また脱酸素剤の入れ忘れにも気をつけています。シールは内容物を噛み込んでしまうと完全には接着できなくなるので特に注意が必要です。ですが、たとえ小さなトラブルであっても、上司がすぐに対応してくれるので相談しやすい環境になっています」  70歳を超え、現在は週3日の勤務となっていますが、繁忙期には週4〜5日出勤するなど、いまも会社に貢献しています。  「福利厚生の一環で、正月にはお餅、春にはフルーツ、秋にはお米などをいただけるので、とてもありがたいです。私の母親は72歳まで元気に働いていたので、その年齢をまず目標にして、これからもがんばりたいです」と意欲を語りました。 面倒見がよい職場のムードメーカー  天沼(あまぬま)あき子さん(76歳)は、56歳のときに同社に入社しました。  「今年で勤続20年になります。“食欲があること”これが元気の源です。新人には『包装の仕事は、1個多くても1個少なくても秤(はかり)は許してくれないよ、私は許すけどね』と話しています(笑)」とよく通る声でユーモアたっぷりに語ってくれました。  元気に満ちあふれている天沼さんですが、年齢を考慮して週3日の半日勤務となっています。ただし、荻島さん同様、繁忙期には勤務時間・日数を増やすこともあり、天沼さんは二つ返事で駆けつけるそうです。  「毎年誕生日には昼礼でひとこと話す機会があり、以前は『また一年がんばります』と話していたのですが、いまは『一日、一日、この一時間をがんばります』という気持ちです」と、働き続ける心境を明かしてくれました。  工場長の本田(ほんだ)直也(なおや)さんは、「荻島さんは、知識と経験が会社でいちばん豊富です。いまのリーダーに現場の取りまとめは任せつつも、日常の会話のなかでちょっとしたことをアドバイスしてくれたりと、現場を縁の下で支えてくれる存在です。  天沼さんはつねに明るく元気で、周りに自然と人が集まっています。社員からのさまざまな相談を受け、悩んでいる仲間を励ましてくれています。とても面倒見がよく、だれに対してもやさしく気配りができる、職場には欠かせない存在です。  私自身、お二人には本当にお世話になったので、お二人が働きやすいように、可能なかぎり協力したいと思っています」と話します。  板垣社長は「高齢社員のみなさんには、長く元気に働いてほしいと思っています。どんなに元気でも無理をしてほしくないので、70歳以降は繁忙期を除いて週3日勤務を原則としています。地元で働きたい高齢者をはじめ地域の方々を雇用し続けるためにも、会社がここに存在し続ける努力を、今後も続けていきたいと思います」と誓いました。  小林プランナーは「すでに運用されている高齢者雇用の取組みがありますので、あとは制度面を整えるだけでよいよう、会社の現状にあった補助金の活用などについて、今後もアドバイスしていきたいと思います」と提案し、板垣社長も期待を寄せていました。 (取材・西村玲) 小林美木 プランナー アドバイザー・プランナー歴:23年 [小林プランナーから] 「労働力人口の減少により、企業は働き手を増やす必要性に迫られている一方で、リタイアメントプランの不安を抱えている高齢者も増えています。高齢者でも能力、経験等を活かした職場環境整備の必要性の情報提供を心がけ企業訪問しています」 高齢者雇用の相談・助言活動を行っています ◆埼玉支部高齢・障害者業務課の澤井課長は小林プランナーについて、「労務管理、安全衛生、年金など多方面に明るく、相談に対し事業所に寄り添った適切な助言と情報を提供しています。プランナー等の活動は通算23年を数え、埼玉支部の各プランナー、支部からの信頼も厚く、豊富な知識と穏やかな人柄から、取りまとめ役としても大切な存在となっています」と話します。 ◆埼玉支部高齢・障害者業務課は、JR 浦和駅から徒歩15分、バスでは浦和駅東口から原山で下車徒歩3 分の立地です。Jリーグ浦和レッドダイヤモンズ(浦和レッズ)の準本拠地である「浦和駒場スタジアム」の真向かいとなっています。 ◆同県では、14人の70歳雇用推進プランナーが活動し、県内事業所訪問を実施しています。2023年度は1280件の相談・助言活動、262件の制度改善提案を行いました。 ◆相談・助言を実施しています。お気軽にお問い合わせください。 ●埼玉支部高齢・障害者業務課 住所:埼玉県さいたま市緑区原山2-18-8 埼玉職業能力開発促進センター内 電話:048-813-1112 写真のキャプション 埼玉県北本市 本社兼加工所 板垣芳行代表取締役社長 新人に仕事のコツなども教える荻島英子さん 慣れた手つきで計量を行う天沼あき子さん 本田直也工場長 【P44-45】 第101回 高齢者に聞く 生涯現役で働くとは  村井美環さん(66 歳)は17年間勤めた銀行を定年退職したあと、「東京キャリア・トライアル65」を利用して設計会社に就職。CADオペレータとして第二の人生を歩み始めて1年が過ぎた。  それまで経験のなかったまったく新しい世界で意欲的な日々を送る村井さんが、生涯現役で働く喜びを語る。 株式会社 サルバス・ケイエヌ設計 CADオペレータ 村井(むらい)美環(みき)さん 母の背中を追いかけながら  私は宮崎県日南(にちなん)市の生まれです。市内の高校を卒業後は、東京の大学に進みました。兄が2人いますが、すでに東京で大学生活を送っていた二番目の兄を頼って上京しました。父は地元にあった製紙関係の会社員で、母は小学校の教師でした。自分と同じ教師の道に進むことを密かに願っていた母の気持ちを汲みながら、教員免許の取得を口実に地元を離れたように思います。高校時代から英語が好きだったので教師の道もあるかなと思いつつ、日ごろ激務をこなす母の姿を見続けてきたので、どこか冷めていたようにも思います。ただ、教員免許を取るという母との約束は守りました。教育実習も経験しましたが、結局母の願いをかなえることはできませんでした。  大学を卒業して就職したものの、結婚が早かったのですぐに家庭に入り、下の子が3歳になるまでは専業主婦でした。当時の風潮では仕事と育児の両立など考えられませんでしたし、意外だったのは仕事一筋であった母が、私に子どもが生まれると「子どもが小さいうちは一緒におってやらにゃあいかん」などといい出したことです。教師の仕事が忙しく、不在がちであった母の言葉としては不思議な気がしましたが、母なりに辛さを抱えながらの日々であったのだと、自分が母になってようやく気づきました。  終始落ち着いた雰囲気で言葉を選びながら静かに語る村井さん、教職に進めば素敵な先生になっていたに違いない。家庭に入ったものの外に出たい気持ちは膨らんでいく。働き続けた母の姿に自身を重ねるようになった。 働くことは楽しいこと  下の子が保育園に入って時間的に余裕が出始めると働きたい気持ちが強くなりました。とはいえ正式に働くのはまだ無理でしたから、近所の雑貨屋を手伝ったり、モデルルームや倉庫の番をしたり、トイレ掃除もやりました。声をかけてもらうとあらゆることをやりましたが、どんな仕事も本当に楽しかったです。下の子が高校3年生になったとき、まずはパートで働こうと、新聞広告でみつけた銀行の外国為替課で、週3日間働くことになりました。かつての銀行ならパートタイマーとはいえ、私など採用してもらえなかったでしょうが、そのころ銀行も人手不足に悩み、パートを大量に採用した時期でした。外国為替課なので英語にアレルギーがないことが採用につながったようです。受験勉強で英語のおもしろさにはまって大学でも英語をしっかり学びました。人生に無駄なことは何一つないようです。  パートとはいえ人事異動もあり、結構忙しかったです。入社して6年目に自分から望んでフルタイム勤務になり、65歳で定年を迎えるまでの17年間外国為替の仕事を続けました。 背中を押してくれた人との出会い  銀行で定年まで勤められたのは幸せでしたが、働き続けたい気持ちは強く、ハローワークで仕事探しを始めました。しかし、なかなか結果が出ず途方に暮れていたとき、知人から「東京キャリア・トライアル65」を紹介され思いきって出かけていきました。話を聞いてくれた面接官には銀行のキャリアにこだわらず、何か新しいことをやってみたいという思いを伝えました。しかし、65歳の初心者を雇ってくれる会社などどこにもないだろうとあきらめかけていましたから、「経験がなくてもやる気があればよい」という設計会社を紹介してもらえたときは、本当にうれしかったです。ただ、設計会社ですから採用したい人材はCADのオペレータでした。いくら新しいことがやりたいとはいえ、CADはあまりにも未知の世界でした。パソコンもあまり得意ではない私の不安を払しょくするかのように、面接してくださった後藤(ごとう)研一(けんいち)社長は、「あなたにはまだ伸びしろがあるから大丈夫」とやさしく声をかけてくれました。 同期とともに励まし合い  まずトライアル期間の一カ月に教育のカリキュラムを組んでもらい、社長から直々に教育していただきました。図面の読み方もまったくわからない私に一生懸命に教えてくださるので、私は学生になったつもりで真摯に向き合いました。トライアル期間中は不安もありましたが、その都度社長が「わからなくてあたり前」、「できなくてあたり前」と叱咤激励してくれました  トライアル期間と会社の試用期間を経て、正社員として採用してもらえたときは本当にうれしかったです。  なんとか乗り越えられたのは同期入社の同僚の存在も大きかったと思います。その人も私と同じく「東京キャリア・トライアル65」を利用して入社されました。なかなか仕事が覚えられない私が少しでも弱音を吐くと「年齢に甘えるな」、「勉強が足りない」などの言葉が容赦なく飛んできます。厳しいけれどとにかくCADが大好きな人なのでマニュアルをつくってくれることもありました。まさかこの年で新人の同期に出会えるなんて、とても幸せな気分でした。  村井さんが社長に面接された際、「伸びしろがある」といわれて目からうろこだったそうだが、会社には60歳以上を対象にした「伸びしろの会」があるとのこと。人は成長するということを信じてやまない後藤社長の発案である。 生涯現役を夢みて  母は96歳になり、郷里の宮崎で暮らしています。私が銀行勤務時代、フルタイムを自ら希望したことや、65歳を過ぎても働くことを望んだのは働き者の母の影響かもしれません。会社は社長の考えもあり半数がシニアですし、75歳以上の社員も元気に働いています。生涯現役で働く風土が醸成されている会社で、私も長く働かせてもらって社長に恩返しをしたいと、資格取得にもチャレンジしています。現在は第二種電気工事士という国家資格の取得を目ざしており、もうすぐ技能試験があるので緊張しています。ドライバーぐらいしか持ったことのない私が電気工事士の資格取得を目ざしているのです。人生はじつに愉快です。  これといった趣味もありませんが、心や体を鍛えることには興味があります。週2回ほど、終業後、ヨガの先生のもとに通い心身をメンテナンスしています。会社の若い人たちとの会話もリラックスに役立っています。若い人とつき合うときに自分にいい聞かせているのは、「年齢に甘えない」ということです。  土日には息子から孫の世話を頼まれることもあり、孫との時間は元気の源です。人は元気なかぎり働き続けることがあたり前であり、いまもなおフルタイムで働けることに感謝して、より豊かな明日を迎えたいと思います。 【P46-49】 加齢による 身体機能の変化と安全・健康対策  高齢従業員が安心・安全に働ける職場環境を整備していくうえでは、加齢による身体機能の変化などによる労働災害の発生や健康上のリスクを無視することはできません。そこで本連載では、加齢により身体機能がどう変化し、どんなリスクが生じるのか、毎回テーマを定め、専門家に解説していただきます。第3回のテーマは「目の健康」です。 順天堂大学 眼科学教室 先任准教授 平塚(ひらつか)義宗(よしむね) 第3回 加齢による“目”の変化(アイフレイル)と労働衛生における目の重要性 1 はじめに  最近、本を読むのがつらくなってきていませんか。新聞やスマートフォン画面で小さな文字を追うとき、夜間に運転するとき、「見えにくさ」を感じることはないでしょうか。  ちょっとした不調を「年のせいだろう」と放置していると、視力を失う原因となる目の病気が悪化し、物を見る能力が低下する可能性があります。血圧や血糖値、コレステロールなどの数値には敏感なのに、「目の老化」というとピンとこない、理解できていない、という人はとても多いです。  目の健康が後回しにされがちである理由として「年のせいだから仕方ない」となんとなく考えている人が多い点があげられます。また、「眼科は本当に困った症状が出たときに受診するところ」という考えが一般的である点もそうでしょう。しかし、視力が失われる要因となる病気であっても、早期に適切な治療を行えば、視力を維持することが可能になってきています。とにかく早期に問題を発見し、治療に取りかかることが重要なのです。 2 眼底検査を受けよう  目の病気の早期発見につながるもっとも重要な検査は、眼球の後面にある網膜を観察する「眼底検査」です。眼底写真を撮影したり、眼科で瞳を開いた状態での検査で行われます。われわれ眼科医はその重要性をずっと訴えてきましたが、40歳以上の国民が対象となる特定健康診査(いわゆるメタボ健診)で眼底検査を受けられるのは、高血圧または高血糖があり、医師が必要と認めた人にかぎられています。その結果、受診者の18%しか眼底検査を受けることができていません。「目は全身の窓」といわれるように、目の血管は全身の健康状態を反映するため、目を観察することによって動脈硬化や糖尿病の悪化に気づくこともできます。 3 目の病気の多くは初期には自覚できない  私たちは二つの目を持っているので、片目が悪くてももう片方の目がその機能を補填してしまい症状が出にくいという弱点があります。現在、日本の視覚障害の一番の原因である緑内障は、見える範囲が狭くなってしまう病気です。しかし、初期には視野が完全に欠けるわけではなく、部分的に感度が低下するだけなので、自分で気づくことはできません。緑内障で視野が本当に大きく欠けるのは、相当進行してからであり、そのときに治療を開始しても遅すぎます。日本では疫学調査の結果、緑内障のじつに90%が未発見であるといわれています。  糖尿病患者さんの15%程度に発症している糖尿病網膜症も同様に、初期には自分で気づくことができません。目の奥が出血していても、中心視力をつかさどる網膜のなかの黄斑部というところに出血がなければ視力は落ちないのです。詳しい検査をして、かなり進行している、という状態でも、本人はまったく自覚がないことが恐ろしいところなのです。  見え方の悪い状態はさまざまです。「かすむ」、「ゆがむ」、「暗い」、「まぶしい」、「虫が飛ぶ」など、いろいろな症状が重なって「見えづらい」状態となります。こうなると車の運転がむずかしくなったり、字が読みづらい、転倒しやすいなど、日常生活にも支障を来すようになります。さらに、行動に制限が生まれ、外出機会が減り、社会的に孤立する――ということになりかねません。 4 それ「アイフレイル」ではないですか?  加齢による目の不調を総称して「アイフレイル」といいます。「アイフレイル」の「フレイル」という言葉は、年齢を重ねるとともに心身が弱った、健康と要介護の中間に位置する状態のことです。視機能が低下する「アイフレイル」もまた、自立した生活を困難にする要因となります。  アイフレイルのベースとなるのは、加齢による目そのものの変化です。例えば、目の血管が硬くなり動脈硬化を起こしたり、酸化ストレスによる慢性炎症が起きたり、視神経がもろくなったりします。網膜で光刺激の情報を処理する神経節細胞は30代に比べて70代では15〜20%ほど減少し、視野の感度低下につながります。レンズのように焦点合わせをする水晶体は加齢により硬くなり、ピントを合わせる力が減少していきます。これが老眼です。さらに年をとると透明だった水晶体は白く濁ります。これが白内障であり、進行すると手術が必要になります。このような理由から、年齢を重ねることで、ピントを合わせる力やくっきりと見る力も低下していくのです。 5 「外的要因」と「内的要因」が目にストレスをかける  こうした加齢による衰えに、生活習慣や喫煙、紫外線、手術による侵襲、薬の副作用などの「外的要因」が拍車をかけます。見えづらさを感じても目に関する正しい情報が手に入らない、周囲に相談する人がいないといったことも、目の健康維持に負の影響を与えます。目が見えづらい方は社会参加も減少することが報告されており、ますます悪循環に陥ってしまいます。  もう一つの大きな要因が、糖尿病や高血圧、脂質異常症などの「内的要因」です。これらはいずれも視機能にかかわる血管や神経の働きに悪影響を与えます。しかし、眼底検査をすることで、これらの病気のリスクを目から判断することもできます。例えば、高血圧患者さんの眼底に軟性白斑という変化が出ていたら3年後に脳卒中を起こすリスクは7倍程度に上昇します。  このように「加齢にともなって眼が衰えてきたうえに、さまざまな外的・内的ストレスが加わることによって目の機能が低下した状態、また、そのリスクが高い状態」をアイフレイルといいます。 6 目の異常を示唆する「10の症状」  ふだんの身近な症状から視機能低下に気づいてほしいということで、日本眼科啓発会議※1が作成したものが「アイフレイル自己チェックリスト」です(図表1)。10のチェック項目のうち二つ以上に該当すると、アイフレイルの可能性があります。 (1)目が疲れやすくなった  眼精疲労や老眼などによってかけている眼鏡やコンタクトの度数が合っていない可能性があります。またドライアイかもしれません。 (2)夕方になると見にくくなることが増えた  長時間のパソコンによる眼精疲労で夕方になると見えにくくなります。また、花粉が飛散するピークは夕方が多く、花粉症の症状として見えにくさが出ている可能性もあります。 (3)新聞や本を長時間見ることが少なくなった  小さい文字を追うのがむずかしくなるのは老眼の典型的な症状です。眼鏡やコンタクトを目に合う状態に調整する必要があります。 (4)食事の時にテーブルを汚すことがたまにある  これも、老眼によって近くにあるものが見えづらくなっていると考えられます。また緑内障で視野が欠けているのかもしれません。 (5)眼鏡をかけてもよく見えないと感じることが多くなった  近視、遠視、乱視など、網膜にピントが合わない屈折異常や、老眼が原因のことが多いですが、度数を調整し直しても改善しなければ目の病気の可能性があります。 (6)まぶしく感じやすくなった  まぶしく感じるのは初期の白内障の代表的な症状です。 (7)はっきり見えない時にまばたきをすることが増えた  目が乾燥するドライアイの症状です。まばたきを増やして涙で目を潤そうとします。また、涙の下水道である涙道が加齢でせまくなることで、涙が流れにくくなり外に漏れ出す流涙症(りゅうるいしょう)も考えられます。 (8)まっすぐの線が波打って見えることがある  真ん中の見え方に問題がある場合、働いている人にストレスで起こりやすい中心性漿液性脈絡網膜症(ちゅうしんせいしょうえきせいみゃくらくもうまくしょう)や網膜の表面に薄い膜が形成される黄斑前膜(おうはんぜんまく)などのことが多いです。それ以外にも、加齢黄斑変性や糖尿病黄斑浮腫などの病気の可能性があります。 (9)段差や階段で危ないと感じたことがある  緑内障など視野が欠損する病気の可能性があります。 (10)信号や道路標識を見落としそうになったことがある  これも、緑内障など視野が欠損する病気の可能性があります。  この「アイフレイル自己チェックリスト」は、医学的な信頼度と妥当性が高いことが2024(令和6)年に実証されています。目の疾患のある人と正常な男女2656人(平均年齢62.4歳)を対象に行った研究では、「チェックリストで10項目中2項目以上に該当すること」とさまざまな目の病気との間に、統計学的に有意な関連があることが示されています※2。具体的には、黄斑変性であるリスクが3・3倍、白内障であるリスクが2.4倍になるほか、糖尿病網膜症が2.2倍、緑内障が1.9倍、老眼が1.6倍という結果で、すべて有意な関連(p<0.001)が認められました。アイフレイルチェックリストは10項目の簡単な質問に答えるだけで、目の病気の可能性を教えてくれる優れた質問票です。視力検査ができなくても、眼底検査ができなくても、まずこの10項目だけでもチェックしてみてください。 7 労働衛生的見地からみた視覚の重要性  視覚は、労働者が作業環境で安全かつ効率的に作業を行ううえで不可欠な役割を果たしています。労働衛生学的見地からは、従業員の健康管理と生産性の維持の2点が特に重要です。  まず、健康管理ですが、先ほども書いた通り、目の特徴として左右の両眼でものを見ているために、片眼の問題には気づきにくいという点があげられます。また、眼疾患に関するリテラシーの不足のために、必要な検査や修正可能な対策が十分には行われていないという点も問題になります。目に関する定期的な健康診断は、目の健康を維持し、潜在的な問題を早期に発見するのに役立ちます。視力検査や眼底検査ができなくても、アイフレイルチェックリストであればどこでも簡便に行うことができます。  次に、生産性の維持です。良好な視力は職場の安全に欠かせません。最近、国内の20〜69歳の女性7317人を対象とした職場における転倒に関する大規模な研究が報告されました※3。結果ですが、労災対象の転倒が、視力が0.3〜0.7では1.3倍、0.3未満では2.3倍ということが明らかにされました。  健康な目は、労働者が作業中に情報を正確に認識し、適切に判断するのに役立ちます。視覚障害がある場合、作業の質や効率が低下するため、目の健康管理は、生産性の維持に不可欠です。 8 健康経営○R(★)の観点からみた視覚の重要性  昨今、注目されている健康経営の観点からも、眼の健康管理は重要です。日本における34の健康状態のプレゼンティーイズムによる年間損失額(一人当たり)についての研究では、4位が「目の不調」となっています(図表2)。さらに、1位の「首・肩のこり」の重要な原因に眼精疲労があり、2位の「睡眠不足」と視覚障害との関連も近年指摘されています。  以上のように、労働衛生的観点からみても目の重要性は明白です。労働者の目の健康を保護し、安全な作業環境を確保するためにも、職場における目の健康管理の果たす役割は非常に大きいといえるでしょう。 ※1 公益財団法人日本眼科学会、公益社団法人日本眼科医会、一般社団法人日本眼科医療機器協会、一般社団法人日本コンタクトレンズ協会、一般社団法人日本眼科溶剤協会の5団体が運営するコンソーシアム ※2 山田昌和, 平塚義宗, 鹿野由利子, 加藤圭一, 杉山和久, 辻川明孝.Web調査によるアイフレイルチェックリストの検証.日本眼科学会雑誌128:466-472, 2024. ※3 Shima A, Kawatsu Y, Murakami M, Morino A, Okawara M, Hirashima K, Miyamatsu N, Fujino Y. Relationship Between Low Visual Acuity and Nonfatal Occupational Same-Level Falls in Japanese Female Employees: A Cohort Study. J Occup Environ Med. 2024 Oct 1;66(10):e483-e486. ★「健康経営○R」は、NPO法人健康経営研究会の登録商標です。 図表1 アイフレイル自己チェックリスト アイフレイル自己チェックリスト 出典:日本眼科啓発会議資料 図表2 34の健康状態の該当人数とプレゼンティーイズムによる年間損失額 プレゼンティーイズムによる年間損失額(一人当たり) Presenteeism/person/year(US$) N 人数 N=12,350 the employees in four pharmaceutical companieses in Japan. Painful neck/stiff shoulders Insufficient sleep Back pain Eye symptoms Weariness/fatigue Depression Anxiety Headaches Pain in arms and leg joint Insomnia Skin disease/Itchiness Cold, Influenzas プレゼンティーイズムによる1人当たりの年間損失額上位の症状 日本人労働者(12,350人)を対象に34症状で調査 1位:首・肩のこり 2位:睡眠不足 3位:腰痛 4位:目の不調(ドライアイ・緑内障など) 5位:うつ 出典:Nagata T, et al.Total Health-Related Costs Due to Absenteeism, Presenteeism, and Medical and Pharmaceutical Expenses in Japanese Employers. J Occup Environ Med, 2018. 【P50-53】 知っておきたい労働法Q&A  人事労務担当者にとって労務管理上、労働法の理解は重要です。一方、今後も労働法制は変化するうえ、ときには重要な判例も出されるため、日々情報収集することは欠かせません。本連載では、こうした法改正や重要判例の理解をはじめ、人事労務担当者に知ってもらいたい労働法などを、Q&A形式で解説します。 第80回 退職金減額・不支給、中途採用と信用調査 弁護士法人ALG&Associates 執行役員・弁護士 家永勲 Q1 退職金規程違反を理由に退職金を減額・不支給することは可能でしょうか  当社には退職金制度があるのですが、懲戒事由に相当する事由がある場合には、減額または不支給とすることができる旨が退職金規程に定められています。同業他社への就職や秘密情報の持ち出しを禁止しているにもかかわらず、退職後に同業他社へ情報を持ち出した人物がおり、退職金を不支給にしたいのですが、可能でしょうか。 A  退職金を減額または不支給とするには、過去の功労報賞を著しく抹消するほど重大な違反が必要と考えられています。職業選択の自由の観点から競業避止義務が限定的に解釈することをふまえてもなお、違反の程度が悪質な場合には、大幅に減額することであれば可能な場合はあります。 1 退職金支給と懲戒事由の存在  退職金制度は、必ずしも会社が設けなければならない制度ではなく、また、会社ごとにその内容は異なります。しかしながら、日本では退職金規程を定めたうえで、ご質問のような退職金の減額または不支給の規定を設けている会社は少なくありません。  退職金の請求権は、退職する労働者にとって非常に重要な権利であり、勤務した期間が長くなればなるほど支給額も増える傾向にあることから、継続的に勤務するほどその重要性も増していきます。そのため、退職金の減額や不支給についても、一定程度制限されることが一般的です。とはいえ、まったく減額や不支給ができないとも考えられておらず、そのことは、退職金の性質とも関連しています。  退職金の性質について、裁判例では賃金の後払いとしての性質と功労報償としての性質をあわせ持つといわれています。賃金の後払い的性質については、文字通り読むと賃金全額払いの原則に違反するかに見えますが、勤務に対する評価を蓄積して、退職時に具体的な請求権が発生するものであることから、全額払いの原則に反するとは考えられていません。  したがって、賃金の後払いや功労報償としての性質を有する退職金について、その発生条件として、懲戒事由が存在しない旨を定めておくことは賃金全額払いの原則に抵触するものではなく、有効になり得ると考えられています。  しかしながら、そもそも懲戒事由として定めた規定の有効性が問題となるほか、懲戒事由といえどもその程度はさまざまであることから、単に懲戒事由に該当しさえすれば、退職金の減額または不支給ができるとは考えられていません。 2 裁判例の紹介  会社が定めていた競業避止義務および守秘義務に違反したことを理由として、退職金の全額を大幅に減額としたことの有効性が争われた事件があります(東京地裁令和5年5月19日判決およびその控訴審である東京高裁令和5年11月30日判決)。  この事件では、雇用契約書の備考欄に「退職するに至った場合に退職後1年を経過する日までは、当社が競合若しくは類似業種と判断する会社・組合・団体等への転職を行わないことに同意する。但し、当社の事前の同意があった場合はこの限りでない」という趣旨の規定が定められているほか、社内では数回にわたり、競業避止義務に関する説明を行い、退職前に競業避止義務違反があった場合には退職金の一部または全部が払われなくなることを説明していました。  なお、会社は、労働者に対し、退職時にも競業避止義務を定めた合意書の締結を求めていましたが、労働者がこれを拒絶したため、退職時の競業避止義務の合意は成立していませんでした。  裁判所は、まず競業避止義務の有効性について、「労働者は、職業選択の自由を保障されていることから、退職後の転職を一定の範囲で禁止する本件競業避止条項は、その目的、在職中の職位、職務内容、転職が禁止される範囲、代償措置の有無等に照らし、転職を禁止することに合理性があると認められないときは、公序良俗に反するものとして無効であると解される」として、その有効性は限定的に判断されるべきという基準を示しました。この基準は、労働者の競業避止義務の有効性に関して一般的に用いられる判断基準です。  この事件では、当該労働者の立場から会社の重要なノウハウなどを知ることができたことなどを理由として、期間も不相当に長いものでもないことから、競業他社に転職されることを防ぐための競業避止義務は有効と判断されました。  ただし、競業避止義務が有効に設定されているとしても、直ちに退職金を減額または不支給できるとは判断しておらず、「退職金の性質からすれば、本件競業避止義務違反をもって直ちに退職金を不支給又は減額できるとするのは相当といえず、本件減額規定に基づき、競業避止義務違反を理由に業績退職金を不支給又は減額できるのは、労働者のそれまでの勤続の功を抹消ないし減殺してしまうほどの著しく信義に反する行為がある場合に限られるとするのが相当である」という限定を付しています。  退職金の減額または不支給の判断においてよく用いられるフレーズが、「労働者のそれまでの勤続の功を抹消ないし減殺してしまうほどの著しく信義に反する行為がある場合に限られる」というものであり、これは勤続期間が長く会社への貢献が大きければ大きいほど、減額や不支給が困難であることを示しています。  この事件は、労働者が、元の勤務先で検討されていたプロジェクトにかかわる競業企業に転職しており、また、元の勤務先における秘密情報を大量に印刷して少なくともその一部は社外に持ち出すことを目的としていたことなどが裁判所で認定されており、競業他社への転職のケースにおいても、特に悪質なものでした。  結論としては、「原告の競業避止義務違反の内容が悪質であること、原告が故意に競業避止義務に違反していること、業績退職金に占める原告が貢献した割合も低いことなどを考慮すれば、原告の競業避止義務違反は、原告の勤続の功を大きく減殺する、著しく信義に反する行為」に該当するものとして、退職金額を4分の1にまで減額したことは相当であると判断されました。 3 退職金減額または不支給の留意事項  現代では、70歳までの就労機会の確保が努力義務とされており、65歳定年制も増えていくことが見込まれますが、65歳を超えても働き続けることも想定されています。しかしながら、定年による退職後であっても、競業避止義務を負担することになります。  定年まで勤めた労働者にとっては、同社でつちかったスキルを活かして、新たな仕事を始めることは想定されるところですが、会社の承諾なく行ってしまうと、退職金の減額や不支給といった影響につながるおそれがあります。  せっかく貢献してきた企業にとって勤続の功を抹消ないし減殺してしまうことは、望んでいないでしょうから、競業行為になりそうな場合には、会社の事前承諾を得るなど、退職金の取扱いが紛争化しないように留意していただくことが望ましいものと考えます。 Q2 採用時に行う「信用調査」は、不適切なのでしょうか  当社では中途採用の際、内定を出す前に、外部の民間業者に委託して信用調査を行うこととしています。社内から「採用前に信用調査を行うことはプライバシー侵害になるのでやめた方がよいのではないか」との意見が出ているのですが、信用調査を行うことは不適切なのでしょうか。 A  信用調査を行うにあたっては、本人の同意を得て行うべきでしょう。なお、本人の同意を得た場合であっても、社会的差別の原因となるおそれのある情報のように収集自体が禁止されている情報があることにも留意しなければなりません。 1 信用調査とは  採用の場面における信用調査には、過去の職歴や具体的な業務内容などを過去の在籍企業に問い合わせることによって、採否を決定するための情報として活用する目的があります。  外資系企業においては、「リファレンスチェック」などと呼ばれており、信用調査を行うことが一般的になっていますが、日本の企業では必ずしもこのような調査が行われているわけではありません。情報収集の方法としては、前職の企業に対して、経歴や実績、職務経験、在籍期間、懲戒処分の有無や勤怠状況などを質問する書面を送付したり、面談を申し入れたりすることで行われます。  これらの行為は、調査対象となる本人の同意なく行ってもよいのでしょうか。 2 個人情報保護法による規制  個人情報保護法は、個人情報の取得に関して、利用目的をできるかぎり特定し(同法第17条)、取得にあたっては、偽りその他不正の手段によって個人情報を取得してはならない(同法第20条)とされています。適正な取得と認められるためには、利用目的をあらかじめ公表しておくか、速やかに本人へ通知することが求められています(同法第21条第1項)。さらに本人に対する不当な差別、偏見その他の不利益が生じないように、その取扱いに特に配慮を要するものは、「要配慮個人情報」とされており、同法の除外事由がないかぎり、本人の同意なく取得することが禁止されています(同法第20条第2項)。  信用調査においては、受託した調査会社に対して調査対象となる前職の企業が提供する行為は、個人情報の第三者提供に該当することになります。したがって、個人情報保護法を順守する企業であれば、本人の同意がないかぎり、信用調査に対する回答は行わないということになるでしょう。情報のなかに要配慮個人情報が入っていれば、なおさら同意なく提供することは許されません。  仮に、本人の同意なく情報を得られたということであれば、信用調査を行うことで、前職の企業における個人情報保護法違反を引き起こしてしまっていることになります。調査を依頼した企業としても、個人情報は適正に取得しなければならず、個人情報保護法違反を犯して取得された情報を得ることは避ける必要があります。  なお、個人情報保護法以外に職業安定法でも、労働者の募集を行う者は、労働者の個人情報を収集し、保管し、または使用する際に、その業務の目的の達成に必要な範囲内で取り扱うことが求められており(職業安定法第5条の5)、同法について厚生労働省が定める指針においても、事業者が応募者の適性・能力とは関係のない事項で採否を決定しないようにするために、@人種、民族、社会的身分、門地、本籍、出生地その他社会的差別の原因となるおそれのある事項、A思想および信条、B労働組合への加入状況などの情報収集について、業務目的の達成に必要不可欠であり、収集目的を示して本人の同意を得ないかぎり、禁止しています。したがって、これらの情報については、同意があったとしても、取得することが規制されています。そのため、信用調査を行うとしても取得すべき内容にも限定が必要となります。 3 プライバシー侵害との関係  個人情報の観点だけでなく、プライバシー権との関係も問題となります。プライバシー権とは、「私生活をみだりに公開されないという法的保障ないし権利」(「宴のあと」事件 東京地裁昭和39年9月28日判決)と解されており、非公開の情報で、一般人の感覚を基準として公開によって心理的な負担、不安を覚えるような事柄であれば、法的な保護に値するものと考えられています。  厚生労働省が収集することを禁じている情報は、プライバシー権がおよぶ可能性が高いものといえますが、それ以外にも私生活上の情報や人間関係についても知られたくない内容も含む可能性があります。  プライバシー権についても本人の同意を得て収集する場合には、違法と評価されるには至らないと考えられますが、同意を得ずに収集することはプライバシー権の侵害になる可能性が否定できません。 4 信用調査における留意点  信用調査について外部へ委託する場合もあるかと思われますが、その場合でも、本人の同意を得て開始することを前提とする必要があり、委託先が本人の同意を得ることなく取得した情報を採否の決定に利用することは不適切な個人情報の利用となりかねません。  信用調査については、同意を得られた対象者について実施することとし、同意が得られない場合には前職の企業への質問や面談などを通じて、対象者の情報を収集してはならないと考えられます。  信用調査の結果を採用活動において活用することを継続することを希望されるのであれば、対象者からの同意を確実に獲得しつつ、進めることが適切でしょう。 【P54-55】 地域・社会を支える The Strength of the Elderly 高齢者の底力 第3回 本橋(もとはし)テープ株式会社(静岡県)  少子高齢化や都心部への人口集中などにより、労働力人口の減少が社会課題となるなか、長い職業人生のなかでつちかってきた知識や技術、経験を活かし、多くの高齢者が地域・社会の支え手として活躍しています。そこで本連載では、事業を通じて地域や社会への貢献に取り組む企業や団体、そこで働く高齢者の方々をご紹介していきます。 「細幅(ほそはば)織物(おりもの)」のオールマイティ 地場産業を牽引する会社で35年  静岡県の中部に位置する吉田町(よしだちょう)。東は一級河川の大井川、南は駿河湾に面した、人口約2万9000人、面積約20km2の小さな町だ。櫻井(さくらい)豊(ゆたか)さん(71歳)は現在、吉田町の地場産業である「細幅織物」の専門メーカー、本橋テープ株式会社の営業グループで、出荷関連の業務全般を担当している。細幅織物一筋で、同社が設立(1986〈昭和61〉年)されて間もない、1989(平成元)年の入社から35年。「製品の売りも買いもすべてわかるオールマイティな存在」として活躍中だ。  細幅織物とは、主として綿糸、絹糸、麻糸、レーヨン、合成繊維糸などで製造される幅13cm未満の織物(テープ)のこと。本橋テープは、ナイロンやポリプロピレンの合成繊維糸による、幅0.5〜10cmの製織を得意としており、アパレル分野では、カバンのショルダーベルトなど革や天然繊維に代わる素材として、産業分野でも金属などに代わる素材として、多種多様な用途で活用されている。  櫻井さんはもともと、細幅織物業を個人で経営。関連の組合などを通じて、本橋テープの先代社長と知り合い、同社の仕事を引き受けるようになったそうだ。その後、櫻井さんを含む、地域の細幅織物業者計4人の加盟により、本橋テープが「静岡繊維工業株式会社」を設立したのがきっかけで、同社に入社することになった。  「細幅織物業者を集めて会社をつくるといった例はなく、本橋テープが初めてでした。当時は3交替制で、機械を自動で動かしての24時間操業。忙しかったですね。商品がたくさんあるので、お客さんがどんどん集まってきて注文も増え、会社はずいぶん大きくなりました」と、櫻井さんはふり返る。  本橋テープが地元業者の集約で発展を遂げた一方で、地域の細幅織物業全体は、生産拠点の海外シフトなどにともない衰退傾向。最盛期には、吉田町とその周辺地域で計150社以上あったメーカーも、いまでは15社となり、10分の1まで減少した。  そんななか、本橋テープでは、自社テープを使ったオリジナルバッグの商品開発や独自のアウトドアブランドの展開など、従来の製品に付加価値をつける新分野にも挑戦。好調を保っており、地場産業の牽引役として地域の期待を集めている。 定年後も年齢上限なく雇用 熟練社員の活躍が社業を支える  その本橋テープを支えているのが、櫻井さんをはじめとするベテラン社員だ。同社は2013年度の経営計画書で、社員を「人財」と位置づけ、ダイバーシティ経営を進める方針を打ち出し、女性や高齢者の積極雇用・登用を続けている。  2024(令和6)年9月現在の社員数は49人で、うち60代が3人、70代が5人。最高年齢者は76歳となっている。  現在の定年は60歳だが、2025年5月には65歳に引き上げる予定だ。総務アドバイザーの山本(やまもと)正己(まさき)さんによれば、「定年後の継続雇用は、形のうえでは1年ごとの有期契約ですが、実際には上限を設けているわけではありません」と話す。定年後も、働くことができれば、何歳まででも受け入れる方針で、ハローワークへの同社報告書には「99歳まで」と記載されているそうだ。  櫻井さんは入社後約5年間、製造を担当し、その後は15年にわたり営業職をになった。「おもに問屋さん回りです。東京と大阪に分かれて、最初は大阪を担当していました」という。製造にも製品にも精通していた櫻井さんは、「自分で、その場で結論を出すことができたので、遠方の社長さんに呼ばれるようなこともありました」とのこと。顧客から厚い信頼を寄せられる存在だった。  製造、営業のほか、自社テープを使用した新規事業では商品加工にもたずさわった。60歳の定年を迎えてからは、現在の出荷関連の業務を担当。具体的な仕事の内容は、出荷品のピッキング、点検、荷造で、出荷品管理の統括をしている。さらに、加工グループのサポートや、各現場の連絡・調整役も兼任。本橋テープの広い社屋で、色とりどりのテープが積まれた棚の間をきびきびと移動し、作業を続ける櫻井さんには、熟練社員の風格があった。 楽に楽しく働くのが一番 「なんでも自分でできる」仕事の醍醐味  総務アドバイザーの山本さん、総務グループの本間(ほんま)和幸(かずゆき)さんは、櫻井さんを評し「スーパーマンなんです」と口を揃える。櫻井さんの1日を聞くと、朝は3時に起床し、午前5時半ごろまで日課の外出で、午前6時に朝食を取り、午前6時半からは筋トレとウォーキングを行う。読書家で、登山にバイク、社交ダンス、釣りなど、趣味も幅広い。「食べることも好き」といい、最近は、釣った魚のさばき方を練習しているそうだ。  勤務時間は8時から17時。櫻井さんがつねに意識しているのは「会社が儲かるにはどうしたらよいか」で、作業上では「ムダ(無駄)・ムラ(斑)・ムリ(無理)を避ける」ことをモットーとしている。「仕事が楽しくてしょうがないんですよ」という櫻井さん。「どうやって早く作業をするか、間違わないためにはどうするか。自分の行動を決めて、なんでも自分でできるのが楽しい。働くのが好きなんです」と話した。  櫻井さんについて、「とても貴重な存在です。それだけのキャリアがあり、みんなのお手本になっています」と、山本さんは強調するが、本人としては、技能継承や後身の指導からは一歩引いたスタンスのようだ。「工場に責任者はいるし、営業も技術者もいます。そういう人たちに任せて、出しゃばったことはいわないようにしています。それが長く平和に過ごせる秘訣です」とのこと。  本間さんは、「誠実、堅実で、心がいつも安定しているのがすごいと感じています」と話す。「きっと怒りたくなることもいっぱいあると思うのですが(笑)」と、櫻井さんへの信頼感を口にしていた。  今後について櫻井さんは、「普通の人と同じように働けるうちはいいですが、それよりも衰えれば辞めます」と考えているという。しかし一方で、「慣れている仕事ならまだまだ大丈夫かな」と、生涯現役への自信ものぞかせる。「楽に楽しく働けるのが一番で、それが会社のためになっていれば最高ですね」と、笑顔で語った。 写真のキャプション 左から総務アドバイザーの山本正己さん、櫻井豊さん、総務グループの本間和幸さん 【P56-57】 いまさら聞けない人事用語辞典 株式会社グローセンパートナー 執行役員・ディレクター 吉岡利之 第54回 「労働安全衛生法」  人事労務管理は社員の雇用や働き方だけでなく、経営にも直結する重要な仕事ですが、制度に慣れていない人には聞き慣れないような専門用語や、概念的でわかりにくい内容がたくさんあります。そこで本連載では、人事部門に初めて配属になった方はもちろん、ある程度経験を積んだ方も、担当者なら押さえておきたい人事労務関連の基本知識や用語についてわかりやすく解説します。  今回は、労働安全衛生法について取り上げます。 労働安全衛生法は労働基準法から派生  本法の目的は、「労働災害の防止のための危害防止基準の確立、責任体制の明確化及び自主的活動の促進の措置を講ずる等その防止に関する総合的計画的な対策を推進することにより職場における労働者の安全と健康を確保するとともに、快適な職場環境の形成を促進すること」(第1条)とされています。ここでいう労働災害とは、「労働者の就業に係る建設物、設備、原材料、ガス、蒸気、粉じん等により、又は作業行動その他業務に起因して、労働者が負傷し、疾病にかかり、又は死亡すること」(第2条)をさします。  背景として、いわゆる高度経済成長期の急速な事業や生産量の拡大等により、労働災害が多発し、労働者が死亡にいたるケースが多々ありました。そこで、労働災害の防止のいっそうの強化を図るために、労働基準法から分離して、1972(昭和47)年に労働安全衛生法が制定されました。本法に記載されているのは、労働災害防止に関する“最低基準”と定義されており、この点も労働条件の最低基準について定めた労働基準法との関連性がみられます。  本法では、労働災害の防止という目的を達成するために、事業者(事業を行う者で、労働者を使用するもの)と労働者(労働基準法第9条に規定する労働者※1)の両者に対して責務を定めている点が特徴的です。事業者には、法に定める最低基準を守ることに加え、職場における労働者の安全と健康を確保することが求められています。また、労働者には、労働災害を防止するため必要な事項の遵守や、労働災害の防止に関する措置に協力するように努めることが求められているため、事業者・労働者ともに内容を理解しておくべき法律といえます。 労働安全衛生法の概要  それでは、本法にはどのような内容が定められているか概要についてみていきます※2。 @事業場における安全衛生管理体制の確立  総括安全衛生管理者、安全管理者、衛生管理者、産業医等の選任、  安全委員会、衛生委員会等の設置(第3章) A事業場における労働災害防止のための具体的措置 ・危害防止基準:機械、作業、環境等による危険に対する措置の実施(第5章) ・安全衛生教育:雇入れ時、危険有害業務就業時に実施(第6章) ・就業制限:クレーンの運転等特定の危険業務は有資格者の配置が必要(第6章) ・作業環境測定:有害業務を行う屋内作業場等において実施(第7章) ・健康診断:一般健康診断、有害業務従事者に対する特殊健康診断等を定期的に実施(第7章) B監督と罰則 ・監督:厚生労働大臣・労働基準監督官・産業安全専門官・労働衛生専門官等による検査・指導等の実施(第10章) ・罰則:違反に対しては、違反した当事者には罰金・懲役が科される場合あり(第12章)。  労働安全衛生法に定めてあるのはあくまで概略です。法律に定める責務の具体的な内容等は、省令(労働安全衛生規則等)で規定されていますが、多くの法令を網羅しておさえるのはむずかしい部分もあります。そこで「職場のあんぜんサイト※3」などに安全・衛生対策方法や補助金申請・相談窓口など豊富な情報が掲載されているため、それらの情報をまずは活用してみてください。 高齢者雇用の推進と労働安全衛生法  高齢者雇用の推進の観点からも労働安全衛生に対する積極的取組みの重要性が高まっています。例えば、業務上の転倒による休業4日以上の対象者は、60歳以上が43%、50歳以上が29%という状況(2021〈令和3〉年)※4となっており、今後高齢者雇用を促進していくためには、けが防止等のよりいっそうの対策が求められます。また、2024年11月22日に開催された労働政策審議会安全衛生分科会では、労働災害による休業4日以上の死傷者に占める60歳以上の割合は29.3%(2023年)に達しており、高年齢労働者に対する労働災害防止対策について、対応が必要となっているとの課題提起がなされています。  これに対して、各事業所の取組みの実際はどうでしょうか。2023年「労働安全衛生調査(実態調査)の概況」の高年齢労働者の労働災害防止対策の取組み状況をみると、そもそも高年齢労働者に対する労働災害防止対策に取り組んでいる事業所は19.3%と決して多くなく、うち「高年齢労働者の特性を考慮した作業管理」56.5%が最も多く、「身体機能の低下等を補う設備・装置等の導入」は25.2%と具体的な整備等はまだまだ少ない状況です(図表)。今後、各事業者のより具体的な取組みが期待されます。  次回は、「リストラクチャリング」について取り上げます。 ※1 本連載第52回(2024年12月号)に労働基準法で定める労働者の範囲に関する説明があります。 https://www.jeed.go.jp/elderly/data/elder/book/elder_202412/index.html#page=50→ ※2 厚生労働省の安全・衛生に関するサイト (https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/anzen/index.html)の「労働安全衛生法の概要」から筆者一部加筆 ※3 厚生労働省「職場のあんぜんサイト」(https://anzeninfo.mhlw.go.jp/) ※4 厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署「労働者の転倒災害(業務中の転倒による重傷)を防止しましょう」事業者向けリーフレット(https://www.mhlw.go.jp/content/001101299.pdf)より 図表 高年齢労働者に対する労働災害防止対策の取組の有無及び取組内容(複数回答)別事業所割合 令和5年 (単位:%) 区分 60歳以上の高年齢労働者が業務に従事している事業所計1) エイジフレンドリーガイドラインを知っている2) 高年齢労働者に対する労働災害防止対策の取組の有無 高年齢労働者に対する労働災害防止対策に取り組んでいる3) 取組内容(複数回答) 高年齢労働者の労働災害防止対策に取り組む方針の表明 身体機能の低下等による労働災害発生リスクに関するリスクアセスメントの実施 身体機能の低下を補う設備・装置の導入(転倒災害防止のための通路の手すり設置や段差解消、パワーアシストスーツの使用など) 高年齢労働者の特性を考慮した作業管理(高齢者一般に見られる持久性、筋力の低下等を考慮した高年齢労働者向けの作業内容の見直し) 労働災害防止を目的とした体力チェックの実施(厚生労働省作成の「転倒等リスク評価セルフチェック票」等を活用した体力の客観的な把握) 個々の高年齢労働者の健康や体力の状況に応じた対応(健康診断や体力チェックの結果に基づく運動指導や栄養指導、保健指導などの実施など) 高年齢労働者の特性に応じた教育(加齢による身体能力低下に伴う労働災害リスクや体力維持の重要性の教育など) その他 高年齢労働者に対する労働災害防止に取り組んでいない 合計 [77.7] 100.0 23.1 19.3 (100.0) (20.3) (29.4) (25.2) (56.5) (10.3) (45.9) (27.7) (1.4) 3.8 (事業所規模) 1,000人以上 [96.5] 100.0 62.1 53.7 (100.0) (27.3) (29.7) (62.5) (55.2) (19.1) (66.1) (31.8) (0.8) 8.4 500〜999人 [99.6] 100.0 54.9 43.4 (100.0) (17.8) (25.5) (42.6) (52.0) (18.2) (52.0) (21.5) (0.2) 11.3 300〜499人 [98.9] 100.0 55.0 41.6 (100.0) (25.8) (25.0) (35.9) (57.2) (18.9) (63.0) (29.3) (1.7) 13.2 100〜299人 [97.3] 100.0 37.3 29.4 (100.0) (19.1) (37.6) (36.9) (45.4) (15.6) (49.6) (37.6) (1.1) 7.6 50〜99人 [93.0] 100.0 29.8 24.7 (100.0) (22.0) (42.7) (42.7) (55.6) (8.7) (57.1) (29.2) (0.8) 5.1 30〜49人 [84.4] 100.0 22.3 18.6 (100.0) (17.6) (23.5) (23.4) (69.3) (6.6) (39.2) (22.9) (4.8) 3.6 10〜29人 [72.9] 100.0 20.3 17.2 (100.0) (20.6) (26.8) (18.9) (55.1) (10.4) (43.7) (27.1) (0.7) 3.1 注:1)[ ]は、全事業所を100とした60歳以上の高年齢労働者が業務に従事している事業所の割合である。 2)「エイジフレンドリーガイドラインを知っている」には高年齢労働者に対する労働災害防止対策の取組の有無不明が含まれる。 3)( )は、「高年齢労働者に対する労働災害防止対策に取り組んでいる」事業所を100とした割合である。 出典:令和5年「労働安全衛生調査(実態調査)の概況」(厚生労働省) 【P58-59】 令和7年度 高年齢者活躍企業コンテスト  高年齢者活躍企業コンテストでは、高年齢者が長い職業人生の中でつちかってきた知識や経験を職場等で有効に活かすため、企業等が行った創意工夫の事例を広く募集・収集し、優秀事例について表彰を行っています。  優秀企業等の改善事例と実際に働く高年齢者の働き方を社会に広く周知することにより、企業等における雇用・就業機会の確保等の環境整備を図り、生涯現役社会の実現に向けた気運を醸成することを目的としています。  高年齢者がいきいきと働くことができる創意工夫の事例について、多数のご応募をお待ちしています。 T 応募内容 募集する創意工夫の事例の具体的な例示として、以下の取組内容を参考にしてください。 取組内容 内容(例示) 高年齢者の活躍のための制度面の改善 @定年制の廃止、定年年齢の延長、65歳を超える継続雇用制度(特殊関係事業主に加え、他の事業主によるものを含む)の導入 A創業支援等措置(70歳以上までの業務委託・社会貢献)の導入(※1) B賃金制度の見直し C人事評価制度の導入や見直し D多様な勤務形態、短時間勤務制度の導入 等 高年齢者の意欲・能力の維持向上のための取組 @中高年齢者を対象とした教育訓練、リスキリングの取組、全世代で自律的にキャリア形成を進めていくための(キャリアの棚卸しなどの)キャリア教育の実施 A高年齢者のモチベーション向上に向けた取組や高年齢者の役割等の明確化(役割・仕事・責任の明確化) B高年齢者が活躍できる職場風土の改善、従業員の意識改革、職場コミュニケーションの推進 C高年齢者による技術・技能継承の仕組み(技術指導者の選任、マイスター制度、技術・技能のマニュアル化、若手社員や外国人技能実習生、障害者等とのペア就労や高年齢者によるメンター制度等、高年齢者の効果的な活用等) D高年齢者が働きやすい支援の仕組み(職場のIT化、DXを進めていく上での高年齢者への配慮、力仕事・危険業務からの業務転換) E新職場の創設・職務の開発 等 高年齢者が働き続けられるための作業環境や作業の改善、健康管理、安全衛生、福利厚生の取組 @作業環境や作業の改善(高年齢者向け設備の改善、作業姿勢の改善、休憩室の設置、創業支援等措置対象者への作業機器の貸出等) A従業員の高齢化に伴う健康管理・メンタルヘルス対策の強化(健康管理体制の整備、定期健康診断やストレスチェックの実施と結果に基づく就業上の措置、体力づくり、加齢に伴い増加する病気の予防教育や健診・検診、女性の健康課題も含めた健康管理上の工夫・配慮、若い世代からの健康教育等) B従業員の高齢化に伴う安全衛生の取組(安全衛生を進めるための体制整備、危険防止の措置、安全衛生教育) C福利厚生の充実(レクリエーション活動、生涯生活設計に関する専門家への相談) 等 ※1「創業支援等措置」とは、以下の@・Aを指します。 @70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度の導入 A70歳まで継続的に、「a.事業主が自ら実施する社会貢献事業」または「b.事業主が委託、出資(資金提供)等する団体が行う社会貢献事業」に従事できる制度の導入 U 応募方法 1.応募書類等 (1)指定の応募様式に記入していただき、写真・図・イラスト等、改善等の内容を具体的に示す参考資料を添付してください。また、定年制度、継続雇用制度及び創業支援等措置並びに退職事由及び解雇事由について定めている就業規則等の該当箇所の写しを添付してください(該当箇所に、引用されている他の条文がある場合は、その条文の写しも併せて添付してください)。なお、必要に応じて当機構から追加書類の提出依頼を行うことがあります。 (2)応募様式は、JEED 各都道府県支部高齢・障害者業務課(※2)にて、紙媒体または電子媒体により配付します。また、当機構のホームページ(※3)からも入手できます。 (3)応募書類等は返却いたしません。 (4)提出された応募書類の内容に係る著作権及び使用権は、厚生労働省及び当機構に帰属することとします。 2.応募締切日 令和7年2月28日(金)当日消印有効 3.応募先 JEED各都道府県支部高齢・障害者業務課(※2)へ郵送(当日消印有効)または連絡のうえ電子データにて提出してください。 ※2 JEED各都道府県支部高齢・障害者業務課は本誌65ページをご参照ください ※3 URL:https://www.jeed.go.jp/elderly/activity/activity02.html ホームページはこちら V 応募資格 1.原則として、企業からの応募とします。グループ企業単位での応募は不可とします。  また、就業規則を定めている企業に限ります。 2.応募時点において、次の労働関係法令に関し重大な違反がないこととします。 (1)高年齢者雇用安定法第8条又は第9条第1項の規定に違反していないこと。 (2)令和4年4月1日〜令和6年9月30日の間に、労働基準関係法令違反の疑いで送検され、公表されていないこと。 (3)令和4年4月1日〜令和6年9月30日の間に「違法な長時間労働や過労死等が複数の事業場で認められた企業の経営トップに対する都道府県労働局長等による指導の実施及び企業名の公表について」(平成29年1月20日付け基発0120第1号)及び「裁量労働制の不適正な運用が複数の事業場で認められた企業の経営トップに対する都道府県労働局長による指導の実施及び企業名の公表について」(平成31年1月25日付け基発0125第1号)に基づき公表されていないこと。 (4)令和6年4月以降、職業安定法、労働者派遣法、男女雇用機会均等法、女性活躍推進法、労働施策総合推進法、育児・介護休業法、パートタイム・有期雇用労働法等の労働関係法令に基づく勧告又は改善命令等の行政処分等を受けていないこと。 (5)令和6年の障害者雇用状況報告書において、法定雇用率を達成していること。 (6)令和6年4月以降、労働保険料の未納がないこと。 3.高年齢者が65歳以上になっても働ける制度等を導入(※4)し、高年齢者が持つ知識や経験を十分に活かして、いきいきと働くことができる職場環境となる創意工夫がなされていることとします。 ※4 平成24年改正の高年齢者雇用安定法の経過措置として継続雇用制度の対象者の基準を設けている場合は、当コンテストの趣旨に鑑み、対象外とさせていただきます。 4.応募時点前の各応募企業等における事業年度において、平均した1月あたりの時間外労働時間が60時間以上である労働者がいないこととします。 W 審査  学識経験者等から構成される審査委員会を設置し、審査します。  なお、応募を行った企業等または取組等の内容について、労働関係法令上または社会通念上、事例の普及及び表彰にふさわしくないと判断される問題(厚生労働大臣が定める「高年齢者就業確保措置の実施及び運用に関する指針」等に照らして事例の普及及び表彰にふさわしくないと判断される内容等)が確認された場合は、この点を考慮した審査を行うものとします。 X 賞(※5) 厚生労働大臣表彰 最優秀賞 1編 優秀賞 2編 特別賞 3編 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長表彰 優秀賞 若干編 特別賞 若干編 クリエイティブ賞 若干編 ※5 上記は予定であり、各審査を経て入賞の有無・入賞編数等が決定されます。 Y 審査結果発表等 みなさまからのご応募をお待ちしています  令和7年9月中旬をめどに、厚生労働省およびJEEDにおいて各報道機関等へ発表するとともに、入賞企業等には、各表彰区分に応じ、厚生労働省またはJEEDより直接通知します。  また、入賞企業の取組事例は、厚生労働省およびJEEDの啓発活動を通じて広く紹介させていただくほか、新聞(全国紙)の全面広告、本誌およびホームページなどに掲載します。 過去の入賞企業事例を公開中!ぜひご覧ください! 「高年齢者活躍企業事例サイト」 過去の入賞企業事例を公開中!ぜひご覧ください!JEEDが収集した高年齢者の雇用事例をインターネット上で簡単に検索できるWebサイトです。「高年齢者活躍企業コンテスト表彰事例(『エルダー』掲載記事)」、「雇用事例集」などの、最新の企業事例情報を検索することができます。今後も、JEEDが提供する最新の企業事例情報を随時公開します。 高年齢者活躍企業事例サイト 検索 主催 厚生労働省、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED) JEEDでは厚生労働省と連携のうえ、企業における「年齢にかかわりなく生涯現役でいきいきと働くことのできる」雇用事例を普及啓発し、高年齢者雇用を支援することで、生涯現役社会の実現に向けた取組みを推進していきます。 【P60】 次号予告 3月号 特集 生涯現役社会の実現に向けたシンポジウム〜開催レポートU〜 リーダーズトーク 下村晋二さん(株式会社九電工 人事労務部長) JEEDメールマガジン好評配信中! 詳しくは JEED メルマガ 検索 ※カメラで読み取ったリンク先がhttps://www.jeed.go.jp/general/merumaga/index.htmlであることを確認のうえアクセスしてください。 公式X(旧Twitter)はこちら! 最新号発行のお知らせやコーナー紹介などをお届けします。 @JEED_elder 読者アンケートにご協力をお願いします! よりよい誌面づくりのため、みなさまの声をお聞かせください。 回答はこちらから 編集アドバイザー(五十音順) 池田誠一……日本放送協会解説委員室解説委員 猪熊律子……読売新聞編集委員 上野隆幸……松本大学人間健康学部教授 大木栄一……玉川大学経営学部教授 大嶋江都子……株式会社前川製作所 コーポレート本部総務部門 金沢春康……一般社団法人100年ライフデザイン・ラボ代表理事 佐久間一浩……全国中小企業団体中央会事務局次長 丸山美幸……社会保険労務士 森田喜子……TIS株式会社人事本部人事部 山ア京子……立教大学大学院ビジネスデザイン研究科特任教授、日本人材マネジメント協会理事長 編集後記 ●今号の特集では、2024(令和6)年10月10日、25日に開催された「生涯現役社会の実現に向けたシンポジウム」の開催レポートをお届けしました。  本年度のシンポジウムは、異なるテーマで3回開催しており、今回レポートする2回は「ジョブ型」、「役職定年」を切り口に、高齢者雇用について理解を深めていく内容となっています。いずれも企業事例・パネルディスカッションを交えた構成となっており、有識者による制度のメリットやデメリットの解説、実際に導入・運用している企業の取組み内容、人事担当者の生の声は、きっと読者のみなさまの参考になるはずです。  動画のアーカイブ配信も行っておりますので、そちらもぜひご覧ください。  なお、次号では同年11月28日に開催された「ミドルシニアのキャリア再構築〜リスキリングの重要性と企業の戦略」の模様をレポートします。 ●高年齢者が活き活きと働くことのできる創意工夫に取り組む企業を表彰する「令和7年度高年齢者活躍企業コンテスト」の応募締切りは2月28日です。みなさまからのご応募をお待ちしております。 月刊エルダー2月号 No.543 ●発行日−−令和7年2月1日(第47巻 第2号 通巻543号) ●発 行−−独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED) 発行人−−企画部長 鈴井秀彦 編集人−−企画部次長 綱川香代子 〒261-8558 千葉県千葉市美浜区若葉3-1-2 TEL 043(213)6200 (企画部情報公開広報課) FAX 043(213)6556 ホームページURL https://www.jeed.go.jp メールアドレス elder@jeed.go.jp ●発売元 株式会社労働調査会 〒170-0004 東京都豊島区北大塚2-4-5 TEL 03(3915)6401 FAX 03(3918 )8618 ISBN978-4-86788-045-6 *本誌に掲載した論文等で意見にわたる部分は、それぞれ筆者の個人的見解であることをお断りします。 (禁無断転載) 読者の声 募集! 高齢で働く人の体験、企業で人事を担当しており積極的に高齢者を採用している方の体験、エルダーの活用方法に関するエピソードなどを募集します。文字量は400字〜1000字程度。また、本誌についてのご意見もお待ちしています。左記宛てFAX、メールなどでお寄せください。 【P61-63】 技を支える vol.348 手組みのよさが活かせる作品をつくり続ける 組紐職人 佐々木(ささき)良子(りょうこ)さん(73歳) 「仕立てをしていたころ『人が1枚つくるとき、あなたは2枚つくりなさい』と母によくいわれました。その教えが技能の習得に役立ちました」 引っ張ると伸びるのが手組みの組紐のよさ  複数の糸の束を交差させて組み上げる伝統工芸品「組紐」。東京都練馬区に組紐工房を構える佐々木良子さんは、伝統的な正絹(しょうけん)を使った組紐を一貫して手がけている。  「いまは化繊を使った製品も多いのですが、正絹のよさは手触りと、結びがほどけにくいこと。正絹の組紐は、縦にして持ってもクタッと倒れません」  組紐を使った製品といえば着物の帯締めがあげられる。機械で組み上げられた帯締めもあるが、手組みならではのよさがあるという。  「帯締めは引っ張ったときに伸びないと着崩れしてしまいます。手組みの場合、糸を引っ張るのに使う重りを変えたり、手の力加減によって締め具合を調整することができます。そのため、あらかじめお客さまの要望をしっかり聞いてつくるようにしています」  佐々木さんは帯締めだけでなく、組紐の技術を活かしてアクセサリーや小物も制作している。  「展示会で帯締めだけ並べていても、着物を着ない人には見向きもされません(笑)。お客さまの目に留まるように、毎年一つか二つは新しいものをつくって展示するようにしています」 鎖や天然石などを組み合わせた作品も  組紐は、さまざまな色の糸を用いたり、糸を組む順番を変えたり、糸の本数を増減させたりすることで、多彩な製品をつくることができる。作業の様子を見ると、組み上げる際の手の動きは複雑だが、「この順番で組めばこう組み上がる」というイメージが頭の中にあり、スムーズに手が動いていく。  「左手と右手では力が違いますから、気をつけないと強い方に引っ張られて、ねじれた仕上がりになってしまいます。ですから、つねに同じ力加減で組み上げるように意識しています」  「組紐」といわれるだけに細いものしかつくれないと思いきや、佐々木さんはブックカバーやネクタイなど、幅の広い作品も手がけている。さらに、正絹と鎖やビーズ、天然石などを一緒に組み上げることで、ネックレスなど独自の作品も創作してきた。  佐々木さんの作品を見た人から、「こんなものはつくれませんか」と注文を受けることも多いそうだ。  「例えば、古い軍刀の紐の復元を頼まれたこともあります。図面が残っていないので、古くなった組紐をほどかせてもらって、それを見て図面を起こしてつくりました。オーダーメイドは神経を使いますが、自分では絶対につくらないものをつくらせてもらえるところが楽しいですね」 組紐をつくる楽しさを子どもたちに伝える  幼いころからものづくりが好きで、「手に職をつけた方がよい」という母親の言葉にしたがい、洋服の仕立て職人として働いてきた。しかし、病気で仕事ができなくなり、自宅で療養していたところ、偶然、組紐のチラシが目に留まり「やりたい」と思い立った。30代後半から組紐の先生のもとへ5年間通い、技術の基本を習得した。  「仕立ての仕事をしていたころ、母から『人が1枚つくるとき、あなたは2枚つくりなさい』とよくいわれました。組紐を習い始めたころは、何がわからないのかもわからない状態でした。そこで、できたものを持ち帰って、ほどいて一からやり直すようにしたところ、『こういうときはどうすればよいのだろう』 と疑問がわき、先生に質問ができるようになりました。このとき、母のいっていた言葉の意味がよくわかりました」  組紐をつくるかたわら、展示会に出品したり、見学に来た地元の子どもたちに教える機会も多い。  「子どもたちには組紐や道具を触らせたり、つくらせてみたりして、興味を持ってもらえるように心がけています」  今後も「自分がつくりたいもの、ほかの人があまりつくらないようなものをずっとつくり続けたい」と話す佐々木さん。創作意欲は尽きることがなさそうだ。 組紐工房 葵杏 TEL:03(6321)3809 https://www.kumihimo.net (撮影・福田栄夫/取材・増田忠英) 写真のキャプション 組紐を組むための「高台」。糸の束を交互に組み上げ、ヘラを使って整える。糸の本数を増やすことで、幅の広い組紐をつくることもできる 何十本もの糸を交互に組み上げることで、組紐ならではの美しい模様ができあがる。糸を引っ張る重りの重さや、ヘラを使って叩く際の力加減などで組紐の伸び具合が変わってくる むずかしい図柄の注文を受けた際は、図面に起こしてから制作する。写真はコブシの花の図柄を書き起こしたもの 佐々木さんの母親の婚礼衣装を加工してつくった暖簾。組紐の菊結びが飾りとしてアクセントになっている 組紐でつくった3種類のひな人形。上の作品は、幅の広い組紐を折り紙のように折ってひな人形を表現している 組紐でできたネックレス。左はピンクパール、右は翡翠との組み合わせ。ねじれないように均一の力加減で組み上げる 組紐の定番、帯締め。左の2本は丸く組まれた「丸組」、右は平らに組まれた「平組」。オーダーメイドでは、デザインはもちろん、長さや伸び具合まで要望を細かく聞いたうえで制作する 【P64】 イキイキ働くための脳力アップトレーニング!  いまや電子マネーの時代です。しかし、合計額の計算、お釣りの計算、お釣りに合わせた小銭の出し方の計算など、これらは大事な脳トレになります。頭の中での計算なので、すばらしいワーキングメモリトレーニングです。電子マネーの時代だからこそ、こんな問題に挑戦し、脳力を鍛えましょう。 第92回 お金の計算 目標10分 問1 財布のなかのお金で120 円のジュース2缶と130円の肉まん2個を買うと、残りのお金はいくらでしょうか。 消費税の計算もお忘れなく。 残り   円 問2 Aさんが買い物をしました。支払った紙幣と硬貨の枚数、お釣りの金額から、支払った金額とその内訳を考えましょう。 お会計は7,716円(税込)になります 【支払った紙幣と硬貨の枚数】 紙幣3枚、硬貨5枚 【お釣り】 85円 支払った金額=  円 内訳=5,000円× 枚 1,000円× 枚 500円× 枚 100円× 枚 1円× 枚 ど忘れ・うっかり・アレソレ会話を減らそう  ど忘れ・うっかり・アレソレ会話の解消に関係する脳の部位は「前頭葉」であり、すべての筋肉と結びつく運動野、言葉を発したり文の構造を理解したりすることにかかわる発話性言語野(ブローカ野)のほか、ちょっと覚えておいてあれこれするワーキングメモリ(作業記憶)という力に深くかかわります。  このワーキングメモリの力が衰えると、ど忘れ・うっかり・アレソレ会話が増えがちになりますが、認知トレーニングをすることにより、鍛えることができます。  今回の「お金の計算」では種類の違うお金を数え、計算していくことで、覚えながら(メモリー)作業をする(ワーキング)ので、ワーキングメモリの力を盛んに使います。  また、ワーキングメモリの力は、このような認知トレーニングのほか、運動、禁煙、野菜や魚が豊富なバランスのよい食事、アルコール使用障害への対処、過体重、高血圧、高脂血、高血糖への対処によって改善することが示されています。  運動し、健康に気をつけながら、頭を使いましょう。 篠原菊紀(しのはら・きくのり) 1960(昭和35)年、長野県生まれ。公立諏訪東京理科大学医療介護健康工学部門長。健康教育、脳科学が専門。脳計測器多チャンネルNIRSを使って、脳活動を調べている。『中高年のための脳トレーニング』(NHK出版)など著書多数。 【問題の答え】 問1 残り882円 解説:買ったものの値段、120円×2+130円×2の合計に8%の消費税をつけて540円。 財布のなかには1,422円のお金がある。 1,422円−540円=882円 問2 支払った金額7,801円 内訳:5,000円×1枚、1,000円×2枚、500円×1枚、100円×3枚、1円×1枚 【P65】 ホームページはこちら (独)高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED) 各都道府県支部高齢・障害者業務課 所在地等一覧  JEEDでは、各都道府県支部高齢・障害者業務課等において高齢者・障害者の雇用支援のための業務(相談・援助、給付金・助成金の支給、障害者雇用納付金制度に基づく申告・申請の受付、啓発等)を実施しています。 2025年2月1日現在 名称 所在地 電話番号(代表) 北海道支部高齢・障害者業務課 〒063-0804 札幌市西区二十四軒4条1-4-1 北海道職業能力開発促進センター内 011-622-3351 青森支部高齢・障害者業務課 〒030-0822 青森市中央3-20-2 青森職業能力開発促進センター内 017-721-2125 岩手支部高齢・障害者業務課 〒020-0024 盛岡市菜園1-12-18 盛岡菜園センタービル3階 019-654-2081 宮城支部高齢・障害者業務課 〒985-8550 多賀城市明月2-2-1 宮城職業能力開発促進センター内 022-361-6288 秋田支部高齢・障害者業務課 〒010-0101 潟上市天王字上北野4-143 秋田職業能力開発促進センター内 018-872-1801 山形支部高齢・障害者業務課 〒990-2161 山形市漆山1954 山形職業能力開発促進センター内 023-674-9567 福島支部高齢・障害者業務課 〒960-8054 福島市三河北町7-14 福島職業能力開発促進センター内 024-526-1510 茨城支部高齢・障害者業務課 〒310-0803 水戸市城南1-4-7 第5プリンスビル5階 029-300-1215 栃木支部高齢・障害者業務課 〒320-0072 宇都宮市若草1-4-23 栃木職業能力開発促進センター内 028-650-6226 群馬支部高齢・障害者業務課 〒379-2154 前橋市天川大島町130-1 ハローワーク前橋3階 027-287-1511 埼玉支部高齢・障害者業務課 〒336-0931 さいたま市緑区原山2-18-8 埼玉職業能力開発促進センター内 048-813-1112 千葉支部高齢・障害者業務課 〒263-0004 千葉市稲毛区六方町274 千葉職業能力開発促進センター内 043-304-7730 東京支部高齢・障害者業務課 〒130-0022 墨田区江東橋2-19-12 ハローワーク墨田5階 03-5638-2794 東京支部高齢・障害者窓口サービス課 〒130-0022 墨田区江東橋2-19-12 ハローワーク墨田5階 03-5638-2284 神奈川支部高齢・障害者業務課 〒241-0824 横浜市旭区南希望が丘78 関東職業能力開発促進センター内 045-360-6010 新潟支部高齢・障害者業務課 〒951-8061 新潟市中央区西堀通6-866 NEXT21ビル12階 025-226-6011 富山支部高齢・障害者業務課 〒933-0982 高岡市八ケ55 富山職業能力開発促進センター内 0766-26-1881 石川支部高齢・障害者業務課 〒920-0352 金沢市観音堂町へ1 石川職業能力開発促進センター内 076-267-6001 福井支部高齢・障害者業務課 〒915-0853 越前市行松町25-10 福井職業能力開発促進センター内 0778-23-1021 山梨支部高齢・障害者業務課 〒400-0854 甲府市中小河原町403-1 山梨職業能力開発促進センター内 055-242-3723 長野支部高齢・障害者業務課 〒381-0043 長野市吉田4-25-12 長野職業能力開発促進センター内 026-258-6001 岐阜支部高齢・障害者業務課 〒500-8842 岐阜市金町5-25 G-frontU7階 058-265-5823 静岡支部高齢・障害者業務課 〒422-8033 静岡市駿河区登呂3-1-35 静岡職業能力開発促進センター内 054-280-3622 愛知支部高齢・障害者業務課 〒460-0003 名古屋市中区錦1-10-1 MIテラス名古屋伏見4階 052-218-3385 三重支部高齢・障害者業務課 〒514-0002 津市島崎町327-1 ハローワーク津2階 059-213-9255 滋賀支部高齢・障害者業務課 〒520-0856 大津市光が丘町3-13 滋賀職業能力開発促進センター内 077-537-1214 京都支部高齢・障害者業務課 〒617-0843 長岡京市友岡1-2-1 京都職業能力開発促進センター内 075-951-7481 大阪支部高齢・障害者業務課 〒566-0022 摂津市三島1-2-1 関西職業能力開発促進センター内 06-7664-0782 大阪支部高齢・障害者窓口サービス課 〒566-0022 摂津市三島1-2-1 関西職業能力開発促進センター内 06-7664-0722 兵庫支部高齢・障害者業務課 〒661-0045 尼崎市武庫豊町3-1-50 兵庫職業能力開発促進センター内 06-6431-8201 奈良支部高齢・障害者業務課 〒634-0033 橿原市城殿町433 奈良職業能力開発促進センター内 0744-22-5232 和歌山支部高齢・障害者業務課 〒640-8483 和歌山市園部1276 和歌山職業能力開発促進センター内 073-462-6900 鳥取支部高齢・障害者業務課 〒689-1112 鳥取市若葉台南7-1-11 鳥取職業能力開発促進センター内 0857-52-8803 島根支部高齢・障害者業務課 〒690-0001 松江市東朝日町267 島根職業能力開発促進センター内 0852-60-1677 岡山支部高齢・障害者業務課 〒700-0951 岡山市北区田中580 岡山職業能力開発促進センター内 086-241-0166 広島支部高齢・障害者業務課 〒730-0825 広島市中区光南5-2-65 広島職業能力開発促進センター内 082-545-7150 山口支部高齢・障害者業務課 〒753-0861 山口市矢原1284-1 山口職業能力開発促進センター内 083-995-2050 徳島支部高齢・障害者業務課 〒770-0823 徳島市出来島本町1-5 ハローワーク徳島5階 088-611-2388 香川支部高齢・障害者業務課 〒761-8063 高松市花ノ宮町2-4-3 香川職業能力開発促進センター内 087-814-3791 愛媛支部高齢・障害者業務課 〒791-8044 松山市西垣生町2184 愛媛職業能力開発促進センター内 089-905-6780 高知支部高齢・障害者業務課 〒781-8010 高知市桟橋通4-15-68 高知職業能力開発促進センター内 088-837-1160 福岡支部高齢・障害者業務課 〒810-0042 福岡市中央区赤坂1-10-17 しんくみ赤坂ビル6階 092-718-1310 佐賀支部高齢・障害者業務課 〒849-0911 佐賀市兵庫町若宮1042-2 佐賀職業能力開発促進センター内 0952-37-9117 長崎支部高齢・障害者業務課 〒854-0062 諫早市小船越町1113 長崎職業能力開発促進センター内 0957-35-4721 熊本支部高齢・障害者業務課 〒861-1102 合志市須屋2505-3 熊本職業能力開発促進センター内 096-249-1888 大分支部高齢・障害者業務課 〒870-0131 大分市皆春1483-1 大分職業能力開発促進センター内 097-522-7255 宮崎支部高齢・障害者業務課 〒880-0916 宮崎市大字恒久4241 宮崎職業能力開発促進センター内 0985-51-1556 鹿児島支部高齢・障害者業務課 〒890-0068 鹿児島市東郡元町14-3 鹿児島職業能力開発促進センター内 099-813-0132 沖縄支部高齢・障害者業務課 〒900-0006 那覇市おもろまち1-3-25 沖縄職業総合庁舎4階 098-941-3301 【裏表紙】 定価503円(本体458円+税) 令和7年度 高年齢者活躍企業コンテスト 〜生涯現役社会の実現に向けて〜 ご応募お待ちしています 高年齢者がいきいきと働くことのできる創意工夫の事例を募集します 主催 厚生労働省、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)  高年齢者活躍企業コンテストでは、高年齢者が長い職業人生の中でつちかってきた知識や経験を職場等で有効に活かすため、企業等が行った創意工夫の事例を広く募集・収集し、優秀事例について表彰を行っています。  優秀企業等の改善事例と実際に働く高年齢者の働き方を社会に広く周知することにより、企業等における雇用・就業機会の確保等の環境整備を図り、生涯現役社会の実現に向けた気運を醸成することを目的としています。  高年齢者がいきいきと働くことができる創意工夫の事例について多数のご応募をお待ちしています。 取組内容 募集する創意工夫の事例の具体的な例示として、以下の取組内容を参考にしてください。 1.高年齢者の活躍のための制度面の改善 2.高年齢者の意欲・能力の維持向上のための取組 3.高年齢者が働きつづけられるための作業環境や作業の改善、健康管理、安全衛生、福利厚生の取組 主な応募資格 1.原則として、企業単位の応募とします。グループ企業単位での応募は不可とします。  また、就業規則を定めている企業に限ります。 2.応募時点において、労働関係法令に関し重大な違反がないこととします。 3.高年齢者が65歳以上になっても働ける制度等を導入し、高年齢者が持つ知識や経験を十分に活かして、いきいきと働くことができる環境となる創意工夫がなされていることとします。 4.応募時点前の各応募企業等における事業年度において、平均した1カ月あたりの時間外労働時間が60時間以上である労働者がいないこととします。 各賞 【厚生労働大臣表彰】 最優秀賞 1編 優秀賞 2編 特別賞 3編 【独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長表彰】 優秀賞 若干編 特別賞 若干編 クリエイティブ賞 若干編 ※上記は予定であり、各審査を経て入賞の有無・入賞編数などが決定されます。 応募締切日 令和7年2月28日(金) お問合せ先 独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED) 各都道府県支部 高齢・障害者業務課 ※連絡先は65ページをご覧ください。 2025 2 令和7年2月1日発行(毎月1回1日発行) 第47巻第2号通巻543号 〈発行〉独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED) 〈発売元〉株式会社労働調査会