Leaders Talk No.117 店舗スタッフの雇用年齢の上限を撤廃 元気で働き続ける職場づくりに注力 株式会社トリドールホールディングス 人事部 部長 竹岡由紀子さん たけおか・ゆきこ 1997(平成9)年、国際基督教大学卒業。大手スーパーやファッションブランド勤務を経て、ホテル、医療機器メーカーの人事部長を経験。2023(令和5)年6月より現職。  全国で約850店舗を展開するうどん専門店「丸亀製麺」では、2023(令和5)年に、店舗スタッフの雇用年齢の上限を撤廃するなど、高齢者雇用の取組みに注力しており、多くの高齢者が働き、活躍しています。  今回は丸亀製麺を運営する株式会社トリドールホールディングス人事部部長の竹岡由紀子さんにご登場いただき、店舗における高齢者雇用と高齢者の活躍推進に向けた取組みについて、お話をうかがいました。 定年は70歳に、再雇用は年齢上限を撤廃 年齢にかかわりなく活躍に期待 ―貴社が運営している「丸亀製麺」の店舗では、多くの高齢者が活躍されています。2023(令和5)年度からは、店舗スタッフの定年を70歳に引き上げるとともに、再雇用の年齢上限を撤廃されました。制度改定の背景やねらいについてお聞かせください。 竹岡 丸亀製麺の国内約850店舗では、「パートナースタッフ(以下、「PS」)」と呼ばれるパートタイム社員が働いており、そのうち65歳以上が1264人、70歳以上が114人となっています(2024年11月1日時点)。また、PSに占める女性の割合は72%です。  従来の制度では、正社員、PSともに定年は65歳で、PSの再雇用の年齢上限は70歳でした。丸亀製麺ではPSも店長になれる制度となっているのですが、65歳の定年になると、店長からも降りなくてはなりませんでした。当社では、社長の粟田(あわた)貴也(たかや)(株式会社トリドールホールディングス代表取締役社長兼CEO)と社員・PSが交流し、意見を聞く機会があるのですが、その意見交換の場で「店長として働き続けたい」という声があったのです。それをきっかけにPSの定年を70歳に引き上げ、70歳以降の再雇用は年齢上限のない制度に改定しました。  高齢者といっても個人差があり、まだまだ若い方もいますし、健康寿命も延びています。元気な方には年齢に関係なく長く働いてもらいたいという思いがあります。また高齢者の方は人生経験が豊富で、お客さまに対する臨機応変な対応など、これまでの実績や経験を活かして活躍してほしいと思っています。店舗には高校生のアルバイトもいますが、世代を超えたコミュニケーションによって、指導や育成の面での活躍も期待しています。  なお、定年の70歳までは店長を継続できますが、70歳以降は降りてもらいます。当然、役割も変わるので処遇も変わります。 ―65歳を超えても店長ということは、まさにPSが店舗における中核的な役割をになっているのですね。店舗で働くPSの人たちは、それぞれどんな役割をになっているのでしょうか。 竹岡 各店舗には、店長と時間帯責任者がおり、一店舗30人ぐらいの人たちが働いています。さまざまな役割があり、例えばメインの「麺打ち」という製麺の役割、お客さまから麺の種類やトッピングなど細かいオーダーを受けてレジまでの間に調理して提供する「湯煎」と呼ばれる役割などがあります。そのほかに天ぷらを揚げる人、おむすびをつくる人、洗い場、レジ、ホール担当など、全部で12の役割に分かれています。  社員の所定労働時間は基本的に1日8時間ですが、PSは雇用契約により異なる時給制で、個々の希望や状況に合わせて店長がシフトを組んでいます。店舗にもよりますが、朝から夜まで運営をしているので、2〜3交代制でシフトを組むことが多く、朝の仕込みを担当している人は昼のピークが終わるまで、昼から入る人は夕方まで、夕方から入る人は夜の閉店までといった働き方をすることが多いです。10年以上勤務している方は全体の8.5%おり、長年活躍いただいている方も多くいます。 ―時給制ということですが、になっている役割などによって時給は異なるのでしょうか。 竹岡 時給は基本のベースがあり、役割をになえるスキルに達したら加算する仕組みになっています。逆に、例えば高齢者の方で体力的に厳しくて、になえる役割・業務が少なくなってくれば、下がる場合もあるかもしれません。しかし、つちかったスキルは基本的に落ちることはないので、スキルが向上すれば時給を上げるようにしています。  例えば、天ぷらを揚げる業務において時給を上げるには、テストをクリアする必要があります。いろいろな食材に衣をつけて揚げながら、同時にかき揚げなどもつくる必要があり、店長もしくは上席の社員が確認・判定を行います。店舗から時給変更届が本部に提出されるのですが、「○○ができるようになった」と時給を上げる理由が書いてあり、最終的に私が承認することになっています。スキルが上がれば時給も上がることが、働くインセンティブになっていると思います。  また、働いた時間数(累積時間数)に応じて昇給する制度がありますが、長く貢献した人に報いようということで、今春より制度の拡充を予定しています。これによって長く働き続けることのメリットを感じてもらえればと思っています。 65歳以上の高齢スタッフの健康を考慮し労働時間管理などを徹底 ―高齢スタッフの健康面や労務管理で留意している点とはなんでしょうか。 竹岡 65歳以上の方の勤怠管理は厳格に実施しています。時間外・休日労働は禁止としており、月に10時間を超える残業があった場合、店舗に対してどうすれば防止できるかという対策を求める「改善指導書」を出しています。また翌日の勤務時間との間に10時間以上の休息時間を必ず設けるように指導しています。例えば、遅番勤務の人が次の日は仕込みなどの早番の勤務をすることは一切ありません。  先ほど申し上げた「湯煎」の担当など、負荷の高い業務については、体力を考慮して配置します。また、健康面や仕事に関する面談を毎月実施しており、本部に報告するようにしています。そのほか、PSが店長を務めている場合、時間外勤務が続くと役職の更新はしないことを通知したり、PS店長1人に任せずに正社員を1人配置してサポートするなど、健康に関する時間管理は厳しくしています。70歳以降については健康面を考慮し、労働時間を週20時間未満に限定しています。 ―丸亀製麺では「麺職人」という制度があるそうですね。どんな制度でしょうか。 竹岡 丸亀製麺には、「一軒一軒が製麺所」というキャッチコピーがあり、オープンキッチンで麺打ちをするライブ感が一つの魅力となっています。その麺打ちを行うのが「麺職人」です。当社には「麺匠(めんしょう)」と呼ぶ社員が1人いるのですが、その後継者をつくるために、2016(平成28)年に「麺職人制度」を立ち上げました。職人育成課という部署があり、その課の社員が全国を回って試験を行い認定します。麺匠を頂点に、一つ星から四つ星までの4ランクで認定します。2024年11月時点で認定された麺職人は、全国で1632人ですが、ほとんどが一つ星で、二つ星は一桁です。  麺職人は高齢スタッフやPSに限定した制度というわけではなく、正社員も挑戦できる認定制度です。認定者は社員とPSでおよそ半分ずつの割合で、50代以上が33%を占めており、そのなかには70代のPSもいます。  麺職人になると、紺色のラインを施し名前が刺繍された、麺職人しか身につけることのできない制服を与えられ、名前が記載された木札が店舗に掲示されます。もちろんランクに応じて手当も支給されます。麺職人に認定されることを、みなさん誇りに感じているようで、それによって仕事に対するやりがいやモチベーションの向上につながっていると思っています。そのほか永年勤続表彰制度もあり、年々、表彰者が増えています。 「麺職人制度」や「永年勤続表彰」が働く人のやりがい・モチベーションを醸成 ―永年勤続表彰制度のある企業は珍しくありませんが、貴社の制度はどういうものですか。 竹岡 正社員やPSを対象に勤続10年を節目とし、以降5年ごとに表彰する制度です。対象者も2024年度は約750人と、2019年の388人から倍増しました。対象者の多くは40代以上で、60代以上が3割を占めています。本人の都合などもあり、表彰式には対象者の約6割が参加しており、2023年度からは関西と関東の2会場に分けて開催しています。従来は表彰式典で社長から感謝状を渡して終わりだったのですが、年々豪華になっています。対象者には社長の直筆メッセージを添えた招待状を送り、式典当日は感謝状や報奨金の授与のほか、フルコースの料理を食べ、アトラクションを楽しみながら交流する一大イベントになっています。PSの方にとってはふだん触れ合う機会のない都道府県の店舗の人たちとのコミュニケーションも楽しみの一つになっています。式典満足度の調査でも5点満点中4・6点と高く、「長く働いていることを評価していただけることに感謝しています」といった声も聞こえています。 ―麺職人制度や永年勤続表彰制度が長く働き続けようと思う効果も生んでいるのですね。 竹岡 麺職人になった方や勤続10年以上の方は離職率が下がることがわかっています。といっても、長く働き続けるには健康も大切です。先ほど申し上げた時間管理に加えて、高齢スタッフにかぎらず、作業負荷を軽減するためのさまざまな取組みも同時に進めています。  また、健康診断の受診率は100%を目ざしていますが、特に65 歳以上の方については、より徹底して受診を呼びかけており、100%の受診を実現しています。今後も健康管理を含めて、長く働き続けたいと思えるような職場環境の改善に取り組み続けていきたいと考えています。 (インタビュー/溝上憲文 撮影/中岡泰博)