高齢者の職場探訪 北から、南から 第152回 埼玉県 このコーナーでは、都道府県ごとに、当機構(JEED)の70歳雇用推進プランナー(以下、「プランナー」)の協力を得て、高齢者雇用に理解のある経営者や人事・労務担当者、そして活き活きと働く高齢者本人の声を紹介します。 評価制度を見える化し成果給を導入 全社員の就業意欲を高める 企業プロフィール 株式会社プロパックス(埼玉県北本市) 創業 1989(平成元)年 業種 食品の包装加工 社員数 58人 (60歳以上男女内訳) 男性(1人)、女性(22人) (年齢内訳) 60〜64歳11人(19.0%) 65〜69歳 5人(8.6%) 70歳以上 7人(12.1%) 定年・継続雇用制度 定年65歳。以降は運用により継続雇用が可能。最高年齢者はライン作業担当の76歳  埼玉県は、関東地方の内陸県の一つ。年間を通じておおむね穏やかな気候で、晴れた日が多く、地震や台風などの自然災害が比較的少ない地域として知られています。  JEED埼玉支部高齢・障害者業務課の澤井(さわい)源(はじめ)課長は、県の産業と支部の取組みについて次のように説明します。  「埼玉県は、首都圏という立地に、六つの高速道路のほか、東西南北を結ぶ24の鉄道路線など、充実した交通網を持っています。そのため、東京に本社のある企業の支店や工場が多く、関東圏の流通基地としてのロジスティクス産業とそれらを支えるパッケージ産業や、大手メーカーの工場を支える部品製造業が多数存在しています。  当支部への問合せや相談内容としては、高齢社員の就業意識の維持・向上や、労使双方が納得できる継続雇用の基準などが多くなっています」  同支部で活躍するプランナーの一人、小林(こばやし)美木(よしき)さんは、長年にわたって埼玉県下の各エリアを担当してきました。証券会社の営業職を経て、社会保険労務士に転身した経歴の持ち主で、豊富な金融知識を土台に、プランナーとしてつちかった見地と経験を活かし、訪問先事業所の退職金や年金制度の相談にも助言を行っています。  今回は、小林プランナーの案内で「株式会社プロパックス」を訪れました。 機械化に力を入れる食品充填・包装加工会社  株式会社プロパックスは、チーズ加工品やビーフジャーキーなどのおつまみを中心とした食品包装加工を専門とする企業です。  1989(平成元)年5月に埼玉県鴻巣(こうのす)市で開業し、1991年に現在の本社が所在する北本(きたもと)市に第2加工所を開設。2002年5月に第一加工所を閉鎖し、現在の本社兼加工所として統合し、2015年に株式会社に組織変更しました。  食品包装業界ではいち早く食品安全マネジメントシステムの国際規格FSSC22000認証を取得し、計量やシーリング検査の機械化、ラインの機械化により、生産性の向上や社員の作業負担の軽減に努めるとともに、安心・安全な食品を提供しています。 評価制度を見直し年齢関係なくがんばりに応える  同社の定年は65歳。社員の平均年齢は56歳と高齢者が多い職場です。代表取締役社長の板垣(いたがき)芳行(よしゆき)さんは「当社は離職率が低く、長年働いてきた方がそのまま高齢になり、以前と変わらず活躍してくれています」と説明します。  同社では、2023(令和5)年に評価制度の見直しを行い、人事評価を“見える化”しました。同時に、スキルと成果に応じて賃金を上げる成果給を取り入れました。そのねらいについて、板垣社長は次のように話します。  「これまで社員のなかに漠然と存在していた『私とあの人との賃金の差は何だろう』といったモヤモヤに対して、明確に答えられるようにしました。例えば、加工場にはいくつかラインがあり、『手詰めライン』と『機械ライン』では仕事が異なるので、『計量評価』、『検品評価』といった項目は同じでも評価基準は変わります。目標数や作業速度、達成度など、標準値に達すると時給が5円、10円、15円と上がるわかりやすい仕組みにしました。それぞれのラインのリーダーに対する評価項目などもあり、これらの評価基準表はだれでも見ることができます」  評価は年2回実施しており、さらに面談を年1回行っています。板垣社長または工場長が、評価基準表を見ながら個別に社員の現状を確認し、具体的に課題を伝えています。評価制度を見直して成果給を導入してから一年が経ち、社員の時給がどんどん上がっているそうです。  「精力的に仕事をする人のなかには、そうでない人と比べて倍以上成果を出す人もいます。以前は、そういった場合でも時給の差は20円程度でしたが、新制度では120円ほどの差になります。評価基準を明確にしたことで、不公平感が解消され、年齢に関係なく個々のがんばりが評価されるので、社員のモチベーションアップにつながっています」(板垣社長)  小林プランナーは「仕事に対するモチベーションが向上することで、高齢社員にとっては健康の維持・増進に対する意識が高まり、個人の健康管理の面でも向上が期待できるのではないでしょうか」と、その取組みを評します。  介護などの事情を考慮し、変則勤務に柔軟に対応  同社の離職率が低い要因として、変則的な勤務に柔軟に対応する風土があげられます。  「社員のみなさんにとって、仕事と自身の生活のどちらが大切かといえば、もちろん自身の生活だと思います。生活がしっかりできていなければ、仕事もきちんとできませんから、親の介護のための遅刻や早退など、家庭の事情がある人には、そちらを優先するよう伝えています」(板垣社長)  数年前からは給与明細をデジタル化し、それぞれのスマートフォンで見られるようにしているとのこと。ただし、導入時にはたいへんな苦労があったそうです。  「当初は、システムや仕組みの説明どころではなく、そもそも操作方法がわからないところからのスタートでした。いまでは社員全員が対応できるようになりました。事務部門にとっては業務の効率化につながり、負担が格段に減ったので導入して本当によかったです」(板垣社長)  今回は、充填・包装ラインで元気に働くお二人にお話を聞きました。 リーダー職を外れた後も、縁の下で支える  荻島(おぎしま)英子(えいこ)さん(70歳)は、同社の創業から間もない時期に入社しました。定年まではリーダーの役割をになっており、もう一人のリーダーと2人で力を合わせ、若手社員の指導をはじめ、職場のまとめ役を務めてきました。現在、一担当者に戻って計量とヒートシール業務を担当していますが、ライン随一のベテランとして、新人に仕事に対する姿勢や作業のコツなど、教えられる範囲で伝えているそうです。  「計量はアイテムによって原料が異なるので間違えないこと、重い・軽いといった軽過量を出さないことなどが大切です。また脱酸素剤の入れ忘れにも気をつけています。シールは内容物を噛み込んでしまうと完全には接着できなくなるので特に注意が必要です。ですが、たとえ小さなトラブルであっても、上司がすぐに対応してくれるので相談しやすい環境になっています」  70歳を超え、現在は週3日の勤務となっていますが、繁忙期には週4〜5日出勤するなど、いまも会社に貢献しています。  「福利厚生の一環で、正月にはお餅、春にはフルーツ、秋にはお米などをいただけるので、とてもありがたいです。私の母親は72歳まで元気に働いていたので、その年齢をまず目標にして、これからもがんばりたいです」と意欲を語りました。 面倒見がよい職場のムードメーカー  天沼(あまぬま)あき子さん(76歳)は、56歳のときに同社に入社しました。  「今年で勤続20年になります。“食欲があること”これが元気の源です。新人には『包装の仕事は、1個多くても1個少なくても秤(はかり)は許してくれないよ、私は許すけどね』と話しています(笑)」とよく通る声でユーモアたっぷりに語ってくれました。  元気に満ちあふれている天沼さんですが、年齢を考慮して週3日の半日勤務となっています。ただし、荻島さん同様、繁忙期には勤務時間・日数を増やすこともあり、天沼さんは二つ返事で駆けつけるそうです。  「毎年誕生日には昼礼でひとこと話す機会があり、以前は『また一年がんばります』と話していたのですが、いまは『一日、一日、この一時間をがんばります』という気持ちです」と、働き続ける心境を明かしてくれました。  工場長の本田(ほんだ)直也(なおや)さんは、「荻島さんは、知識と経験が会社でいちばん豊富です。いまのリーダーに現場の取りまとめは任せつつも、日常の会話のなかでちょっとしたことをアドバイスしてくれたりと、現場を縁の下で支えてくれる存在です。  天沼さんはつねに明るく元気で、周りに自然と人が集まっています。社員からのさまざまな相談を受け、悩んでいる仲間を励ましてくれています。とても面倒見がよく、だれに対してもやさしく気配りができる、職場には欠かせない存在です。  私自身、お二人には本当にお世話になったので、お二人が働きやすいように、可能なかぎり協力したいと思っています」と話します。  板垣社長は「高齢社員のみなさんには、長く元気に働いてほしいと思っています。どんなに元気でも無理をしてほしくないので、70歳以降は繁忙期を除いて週3日勤務を原則としています。地元で働きたい高齢者をはじめ地域の方々を雇用し続けるためにも、会社がここに存在し続ける努力を、今後も続けていきたいと思います」と誓いました。  小林プランナーは「すでに運用されている高齢者雇用の取組みがありますので、あとは制度面を整えるだけでよいよう、会社の現状にあった補助金の活用などについて、今後もアドバイスしていきたいと思います」と提案し、板垣社長も期待を寄せていました。 (取材・西村玲) 小林美木 プランナー アドバイザー・プランナー歴:23年 [小林プランナーから] 「労働力人口の減少により、企業は働き手を増やす必要性に迫られている一方で、リタイアメントプランの不安を抱えている高齢者も増えています。高齢者でも能力、経験等を活かした職場環境整備の必要性の情報提供を心がけ企業訪問しています」 高齢者雇用の相談・助言活動を行っています ◆埼玉支部高齢・障害者業務課の澤井課長は小林プランナーについて、「労務管理、安全衛生、年金など多方面に明るく、相談に対し事業所に寄り添った適切な助言と情報を提供しています。プランナー等の活動は通算23年を数え、埼玉支部の各プランナー、支部からの信頼も厚く、豊富な知識と穏やかな人柄から、取りまとめ役としても大切な存在となっています」と話します。 ◆埼玉支部高齢・障害者業務課は、JR 浦和駅から徒歩15分、バスでは浦和駅東口から原山で下車徒歩3 分の立地です。Jリーグ浦和レッドダイヤモンズ(浦和レッズ)の準本拠地である「浦和駒場スタジアム」の真向かいとなっています。 ◆同県では、14人の70歳雇用推進プランナーが活動し、県内事業所訪問を実施しています。2023年度は1280件の相談・助言活動、262件の制度改善提案を行いました。 ◆相談・助言を実施しています。お気軽にお問い合わせください。 ●埼玉支部高齢・障害者業務課 住所:埼玉県さいたま市緑区原山2-18-8 埼玉職業能力開発促進センター内 電話:048-813-1112 写真のキャプション 埼玉県北本市 本社兼加工所 板垣芳行代表取締役社長 新人に仕事のコツなども教える荻島英子さん 慣れた手つきで計量を行う天沼あき子さん 本田直也工場長