高齢者の職場探訪 北から、南から 第153回 千葉県 このコーナーでは、都道府県ごとに、当機構(JEED)の70歳雇用推進プランナー(以下、「プランナー」)の協力を得て、高齢者雇用に理解のある経営者や人事・労務担当者、そして活き活きと働く高齢者本人の声を紹介します。 働き続けられる快適な職場を目ざして働き方や作業環境などを不断の努力で改善 企業プロフィール 株式会社八千代商事(千葉県君津(きみつ)市) 創業 1964(昭和39)年 業種 緑化造園管理業、ビルメンテナンス業、食品販売サービス業 社員数 392人(うち正社員数47人) (60歳以上男女内訳) 男性(158人)、女性(135人) (年齢内訳) 60〜64歳 35人(8.9%) 65〜69歳 108人(27.6%) 70歳以上 150人(38.3%) 定年・継続雇用制度 定年60歳。希望者全員70歳まで契約社員として継続雇用。70歳以降は状況をふまえて再雇用。現在の最高齢は82歳  首都圏の東側に隣接し、房総半島全域を擁する千葉県。温暖な気候や、変化に富んだ海岸線、緑豊かな房総丘陵(きゅうりょう)などの自然に恵まれています。東京へのアクセスがよく、成田国際空港や東京湾アクアラインなどがあることでも知られています。  産業は、農業、水産業、工業、商業がバランスよく発展し、いずれも全国有数の規模を誇ります。商工業では、化学工業が盛んな京葉臨海地域、複合的な機能を備える幕張新都心、高い技術力を持つものづくり企業や大学などが集まる東葛地域など地域ごとに特色がみられます。  JEED千葉支部高齢・障害者業務課の杉林(すぎばやし)ゆう子課長は、「企業の規模や業種によって高齢者の活用のされ方も異なるため、さまざまな事例についてつねにアンテナを張り、情報収集することが、相談・助言にあたっては大切だと考えています」と県内事業所への高齢者雇用の支援について話します。  同支部で活躍するプランナーの一人、榎本(えのもと)富士男(ふじお)さんは、経営者としてのさまざまな経験と、ファイナンシャルプランナーとしての専門的知見などを活かし、事業主の立場に立った支援活動を行い、信頼を得ています。  今回は、榎本プランナーの案内で、「株式会社八千代商事」を訪れました。 高齢者を意識した快適な職場づくりに注力  株式会社八千代商事は、八幡(やはた)製鐵(せいてつ)株式会社(現在の日本製鉄株式会社)の君津進出にともない、漁場を失った漁民の転業対策として、転業者有志の共同出資によって1964(昭和39)年に設立されました。日本製鉄・君津地区傘下の協力会社として、おもに同構内において各事務所の管理・清掃をはじめ、緑化造園管理、資源回収、食品販売サービスなどをにない、鉄鋼生産業務を支えています。  また、これらの事業でつちかった技や経験を活かし、構外における事業にも進出しており、公共・民間のコンベンション施設、宿泊施設などの設備管理業務なども手がけています。  同社の定年は60歳で、その後70歳まで契約社員として働くことができ、70歳以降は状況をふまえて再雇用することとしています。  社員の9割近くを占めるパート社員には定年制度がなく、半年ごとに行う面談・相談を通じて労働時間などの見直しを行い、契約を更新しています。  同社では以前から多くの高齢者が活躍していることから、快適な職場づくりに注力しており、柔軟な勤務制度をはじめ、資格・キャリアを活かした配置、作業環境の改善、定期的な安全衛生教育、各種表彰制度などの多様な取組みを展開しています。 プランナーの訪問を機に取組みを深化  榎本プランナーは、2024(令和6)年1月に八千代商事を初めて訪問し、高齢者雇用の取組みを聞き、JEEDの高年齢者活躍企業コンテストへの応募を勧奨しました。また、「信頼関係の構築をねらいとして、会社側であたり前のように行っていることが、高齢者が活き活きと働くうえで大事な施策であることに社員に気づいてもらえるよう、伝えていくことが大切です」などの助言を行ったそうです。  同社代表取締役社長の青木(あおき)宏道(ひろみち)さんは、「榎本プランナーの訪問を受けたことで、自社で取り組んできた快適な職場づくりの取組みを客観的に見ることができ、状況を整理することにつながりました」とふり返ります。  「当社は9割がパート社員で高齢化が進んでおり、現在では60歳以上の社員が全体の75%近くになっています。今後も高齢者雇用の取組みや仕組みを強化していく必要性を痛感し、社内でも認識を共有しました」(青木社長)  そして、同社の行動指針に新たに、「高齢者の能力を最大に発揮してもらうことを目ざした心身の健康づくり」という文言を加え、特定保健指導受診率の向上などの取組みを行っています。  また、高齢社員の安全確保のため、「愚直に続けることが大事。だれもが安全に長く働ける環境を重視して、毎月社員と対話し、作業環境の改善や負荷軽減になる新しい機器の導入を検討しています」(青木社長)と不断の努力を続けています。  今回は、清掃、資源回収、ビル設備などの管理の各現場で活躍中の3人の社員とそれぞれの上司にお話を聞きました。 清掃業務に就いたことで、より健康的な日々に  山下(やました)睦子(むつこ)さん(73歳)は、前職を66歳で退職後、ハローワークに通いつつも仕事が決まらないなか、68歳で八千代商事の面接を受けて、すぐに採用が決まったとふり返ります。  初めて清掃業務に就くことに不安もあったそうです。「仕事が身につくまではたいへんでしたが、教えてくれた先輩が年上の方で、がんばれば先輩のようになれるかなと思い、仕事に励みました」とはつらつとした表情で話します。  現在、会社寮の清掃を担当しており、8時30分〜12時の勤務をメインに、月3〜4回は8時30分〜16時30分の勤務を行っています。「寮は3階建ての大きな建物で、3人のチームで、階段を上り下りしながら清掃します。70歳を過ぎてから勤務は月14日間になり、年齢に配慮した働き方にしていただけるのも助かります。何より働けることに感謝しています」と話します。仕事を通して「自分の成長を感じられることや仲間ができることがうれしい」とも話し、「健康に留意し、まずは75歳まで働くことを目標にしています」と抱負を語ってくれました。  上司の三上(みかみ)仁(じん)係長は、「山下さんは、つねに前向きで、作業手順やこの汚れはどうしたら落とせるかと考えたり質問に来たり、そのやり方をみんなにも広めてくれる頼もしい存在です」と話します。 仲間にも恵まれて楽しく元気に勤務  赤池(あかいけ)美津子(みつこ)さん(69歳)は、58歳のときに同社の求人を見て応募し採用されました。現在、日本製鉄・君津地区構内で、資源回収業務に就いています。  入社してから2年間は車両の運転もしましたが、「いまは助手席に座り、おもに車両の誘導や、ごみの回収・積載をしています。前職は事務職でしたので、この仕事を始めた当初は、車両誘導の笛を吹くのもうまくできず、仕事に必要な道具類についても何もわからなかったのですが、ていねいに教えてもらい、少しずつできるようになりました。作業員は16人で、仲間にも恵まれて楽しく元気に働けています」と笑顔で話します。  週5日、8時30分〜16時30分の勤務で、「土・日が休みですし、明るいうちに帰宅できるので家のこともできます。安全第一で、身体が動くうちは勤務を続けたいと思っています」と話してくれました。  上司の善ぜん修一(しゅういち)課長は、「赤池さんは、明るい人柄で職場を和ませてくれますし、よく気がつき、動いてくれる大切な存在です。けがをすることなく、これからも楽しく働いてほしいと思っています」と話します。 技術と経験を活かして愉快に活躍  勤続14年の梨(たかなし)久幸(ひさゆき)さん(74歳)は、前職では電力会社に勤務しており、日本製鉄・君津地区構内で働いていたそうです。60歳で定年退職後、縁あって八千代商事に入社しました。  ボイラー技士2級、電気主任技術者の資格を持ち、資格と経験を活かして、大手ホテルや関連施設などの設備管理、修理を行う、かずさ施設管理課に所属。入社当時から係長をにない、同課のまとめ役としても活躍しています。同社では、契約社員は70歳まで継続雇用という規定がありますが、梨さんは代えがたい存在として評価され、雇用形態も役職も変わらず、いまもフルタイム勤務を続けています。  上司の立花(たちばな)修二(しゅうじ)課長は、「梨係長は、経験と技術に加え、温厚な人柄で、みんなの話を聞き、チームワークを大事にして仕事を進めてくれます。経験がものをいう仕事なので、梨係長のような人がいてくれることがたいへんありがたいです」と話します。  梨さんは、「何でも相談できる関係を立花課長が築いてくれて、こちらこそありがたいです。この課は、私と同様に第二の人生で入社された方がほとんどですから、『安全に、みんなで愉快に仕事をしましょう』と話しています。必ず複数人で仕事にあたること、話し合ってから作業に入ることを大切にしています。うれしいことは、みんなが『会社が楽しい』といってくれることです」と穏やかに話し、「会社が認めてくれるうちは、仕事を続けたいです」と話しました。 安全と健康への対応を重視して  3人のお話を聞いて榎本プランナーは、「みなさんが、さまざまな面での負担を感じることなく働かれているように感じました。同僚や上司の方々と信頼関係ができているという背景があるのだと思います」と感想を述べました。  同社では、制度や仕組みづくりに加え、日ごろから青木社長の考えを社員に伝えるとともに、現場の声に耳を傾け、社員が話しやすい環境づくりにも気を配っているとのこと。  「当社は中途採用者が多く、いまは65歳くらいで入社する人も多くなっています。今後は、安全と健康への対応がより大切になってきます。会社でもつねに気を配りますが、現場の実態や社員の本音が聞き出せるよう、信頼関係の構築を引き続き大切にしていきます」と話す青木社長。最後に、「地域のニーズに応えていくために、信頼される会社を目ざし、そのなかで雇用によって元気な高齢者が増えて、地域貢献につながればよいですね」と話してくれました。 (取材・増山美智子) 榎本富士男 プランナー アドバイザー・プランナー歴:3年 [榎本プランナーから] 「プランナー活動では、訪問する会社のよい点を事前に調査して仮説を立てておき、訪問趣旨を説明したのち、会社の雰囲気やよい点を面談者から聴きだし、共感することを心がけています」 高齢者雇用の相談・助言活動を行っています ◆千葉支部高齢・障害者業務課の杉林課長は榎本プランナーについて、「経営者として人事労務管理や賃金改定にたずさわった経験を活かし、2022年から当支部で活躍しています。経営者の視点で事業主に寄り添いつつ、ていねいなヒアリングで課題を洗い出し、解決に向けた提案を行っています。支部が信頼を寄せるプランナーの一人です」と話します。 ◆千葉支部高齢・障害者業務課は、JR稲毛駅または西千葉駅からバスで約30分の千葉職業能力開発促進センター(ポリテクセンター千葉)内にあります。 ◆同県では、13人のプランナー、高年齢者雇用アドバイザーが活動しています。専門的・実務的能力を有するプランナー・アドバイザーがそろい、県内の企業訪問などを通じて、高齢者雇用に関する相談・援助を行っています。2023年度は646件の相談・助言を実施し、217件の制度改善提案を行いました。 ◆相談・助言を無料で行います。お気軽にお問い合わせください。 ●千葉支部高齢・障害者業務課 住所:千葉県千葉市稲毛区六方町274 千葉職業能力開発促進センター内 電話:043-304-7730 写真のキャプション 千葉県君津市 株式会社八千代商事 本社 青木宏道代表取締役社長 清掃業務に就いて5 年目の山下睦子さん(右)と上司の三上仁係長(左) 日本製鉄・君津地区構内の資源回収を担当している赤池美津子さん(右)と上司の善修一課長(左) 施設の設備点検やメンテナンスをにない、チームをまとめている梨久幸さん(中央)と上司の立花修二課長(左)、梨さんの仕事を学んでいる岸正浩さん(右)