【表紙2】 助成金のごあんない 65歳超雇用推進助成金 65歳超雇用推進助成金に係る説明動画はこちら 65歳超継続雇用促進コース  65歳以上への定年の引上げ、定年の定めの廃止、希望者全員を対象とする66歳以上の継続雇用制度の導入、他社による継続雇用制度の導入のいずれかの措置を実施した事業主の皆様を助成します。 主な支給要件 @労働協約または就業規則で定めている定年年齢等を、過去最高を上回る年齢に引上げること A定年の引上げ等の実施に対して、専門家へ委託費等の経費の支出があること。また、改正前後の就業規則を労働基準監督署へ届け出ること B1年以上継続して雇用されている60歳以上の雇用保険被保険者が1人以上いること C高年齢者雇用等推進者の選任及び高年齢者雇用管理に関する措置(※1)の実施 支給額 ●定年の引上げ等の措置の内容、60歳以上の対象被保険者数、定年の引上げ年数に応じて10万円から160万円 高年齢者評価制度等雇用管理改善コース  高年齢者の雇用管理制度を整備するための措置(賃金制度、健康管理制度等)を実施した事業主の皆様を助成します。 支給対象となる主な措置(注1)の内容 @高年齢者の能力開発、能力評価、賃金体系、労働時間等の雇用管理制度の見直しもしくは導入 A法定の健康診断以外の健康管理制度(人間ドックまたは生活習慣病予防検診)の導入 (注1)措置は、55歳以上の高年齢者を対象として労働協約または就業規則に規定し、1人以上の支給対象被保険者に実施・適用することが必要。 支給額 支給対象経費(注2)の60%(中小企業事業主以外は45%) (注2)措置の実施に必要な専門家への委託費、コンサルタントとの相談経費、措置の実施に伴い必要となる機器、システム及びソフトウェア等の導入に要した経費(経費の額に関わらず、初回の申請に限り50万円の費用を要したものとみなします。) 高年齢者無期雇用転換コース  50歳以上かつ定年年齢未満の有期契約労働者を無期雇用労働者に転換した事業主の皆様を助成します。 主な支給要件 @高年齢者雇用等推進者の選任及び高年齢者雇用管理に関する措置(※1)を実施し、無期雇用転換制度を就業規則等に規定していること A無期雇用転換計画に基づき、無期雇用労働者に転換していること B無期雇用に転換した労働者に転換後6カ月分(勤務した日数が11日未満の月は除く)の賃金を支給していること C雇用保険被保険者を事業主都合で離職させていないこと 支給額 ●対象労働者1人につき30万円(中小企業事業主以外は23万円) 高年齢者雇用管理に関する措置(※1)とは (1)55歳以上の高年齢者を対象としたもの (2)次のいずれかに該当するもの (a)職業能力の開発及び向上のための教育訓練の実施等、(b)作業施設・方法の改善、(c)健康管理、安全衛生の配慮、(d)職域の拡大、(e)知識、経験等を活用できる配置、処遇の推進、(f)賃金体系の見直し、(g)勤務時間制度の弾力化 障害者雇用助成金 障害者雇用助成金に係る説明動画はこちら 令和6年4月1日改正分 障害者雇用納付金関係助成金等のおもな変更点について New! 障害者雇用相談援助助成金の創設 障害者雇用相談援助事業を実施する事業者が、当該事業を利用する事業主に障害者雇用相談援助事業を行った場合に、助成します。 New! 障害者職場実習等支援事業の創設 障害者を雇用したことがない事業主等が職場実習の実習生を受け入れた場合等に、謝金等を支給します。 整理拡充 ●障害者作業施設設置等助成金・障害者介助等助成金の一部・職場適応援助者助成金について、加齢に伴って生ずる心身の変化により職場への適応が困難となった中高年齢等障害者(35歳以上)の雇用継続を図る措置への助成を拡充 ●障害者介助等助成金において次の措置への助成を拡充 ・障害者の雇用管理のために必要な専門職(医師または職業生活相談支援専門員)の配置または委嘱 ・障害者の職業能力の開発および向上のために必要な業務を担当する方(職業能力開発向上支援専門員)の配置または委嘱 ・障害者の介助等の業務を行う方の資質の向上のための措置 New! 特定短時間労働者の追加 助成金に共通する事項として対象となる「労働者」に週の所定労働時間が10時間以上20時間未満の重度身体障害者、重度知的障害者、精神障害者が「特定短時間労働者」として加えられます(対象とならない助成金もあります)。 ※お問合せや申請は、当機構(JEED)の都道府県支部高齢・障害者業務課(65ページ参照 東京、大阪支部は高齢・障害者窓口サービス課)までお願いします 【P1-4】 Leaders Talk リーダーズトーク No.109 ベテラン社員のキャリア自律を積極的に推進 多様な選択肢で新たな挑戦と学び直しを支援 ソニーピープルソリューションズ株式会社 執行役員 大塚康さん おおつか・やすし 1992(平成4)年、ソニー稲沢株式会社(現・ソニーグローバルマニュファクチャリング&オペレーションズ株式会社)に入社。その後、ソニー株式会社オーディオ人事部、同社HQ人事部、EC 人事部統括部長などを経て、2023(令和5)年より現職。  人生100年時代を迎え、50歳、60歳、70歳と年齢を重ねていく間、活き活きと暮らし働いていくためには、自らキャリアを切り拓いていくための「キャリア自律」が欠かせません。今回は、ソニーグループにおける人事管理やキャリア支援の役割をになっている、ソニーピープルソリューションズ株式会社の大塚康さんに、ベテラン社員のキャリア自律をうながしていくための取組みについてお話をうかがいました。 ベテラン社員のキャリア自律をうながす「キャリア・カンバス・プログラム」 ―まずは、ソニーグループにおける、ソニーピープルソリューションズ株式会社の位置づけについて教えてください。 大塚 ソニーピープルソリューションズは、ソニー本社の人事機能の一部を別会社にしたもので、グループ社員の採用と研修、給与計算、産業保健、総務、そしてキャリア支援など幅広い業務をになっています。キャリア支援に関しては2021(令和3)年4月に、グループの人材理念として「Special You,Diverse Sony」を発表しました。自らの意思で、独自のキャリアを築き、自由闊達(かったつな)未来を切り拓き、多様な個を受け入れ、新たな価値を創出するための器がソニーである、というメッセージがこめられています。 ―ソニーグループ(以下、ソニー)では、50歳以降のベテラン社員を対象としたキャリア支援制度「キャリア・カンバス・プログラム」を2017(平成29)年に導入されていますね。そのねらいは何でしょうか。 大塚 「自分のキャリアは自ら築く」という文化はソニーの社員には浸透していますが、一方でどこの企業でもそうであるように、ベテラン社員の比率が高まっています。これまで何十年も経験を積んだ50歳以上の社員のさらなる活躍を支援し、人生100年時代であることをふまえて、人事の重点施策としてキャリア支援をパッケージとして提示したのが「キャリア・カンバス・プログラム」です。ベテラン社員が自らの意思でキャリアを磨き、引き続き再雇用で働くというだけではなく、起業をする、他社で働く、仕事だけではなく趣味や地域生活などライフを充実させるなど、さまざまな選択肢を見すえる。そのための学び直しを含めて自律的なキャリア形成を支援していこうというのがプログラムの目的です。 ―業務のためのキャリア開発にとどまらず、社外での活躍を見すえた人生のキャリア≠支援するのは珍しいと思います。具体的な内容について教えてください。 大塚 まず、ソニーのなかで新しい分野への挑戦を支援するメニューとして「キャリアプラス」があります。これは、現部署の仕事を継続しつつ、勤務時間の1〜2割程度を使ってほかの部署のプロジェクトなどに参画し、業務を兼務するというものです。例えば、設計の仕事をしている人が品質保証の仕事もになうことで、新しいスキルの獲得につながり、仕事の領域が広がるなど、人材としての付加価値も上がります。  また、ソニーは社内求人に応募して部署間を異動する「社内公募制度」を1966(昭和41)年から導入していますが、新たな仕組みとして、これまでの職務経歴を登録し、ほかの部署からオファーを受けるスカウト型の「キャリアリンク」も設けました。キャリアプラスが社内兼業で、キャリアリンクは社内転職というイメージです。  そのほか、学び直しの支援として、新たなスキル取得を金銭的に支援する「Re-Creationファンド」があります。50歳以上に限定し、保有スキルの向上や新たなスキルの獲得のための学びに自己投資をした場合、1回10万円まで補助するものです。いまの仕事に必要なスキルだけではなく、ソニーの仕事と直接的な関係がなくても、将来を見すえ、自分でキャリアを考えたうえでの学びであれば、基本的に認めています。ユニークな例では、「自宅を改装してインバウンド向けに日本の食文化を紹介する仕事がしたいので、『そば打ち』を勉強したい」という申請を認めました。 マネジメント経験者をメンターに任命しキャリア研修後のフォローアップを実施 ―社内兼業など新しい分野への挑戦や学び直しを行うには、社員のキャリア自律をうながしていくための研修も重要になります。 大塚 35歳、45歳、50代前半、50代後半を節目とした年代別キャリア研修を実施しており、特に50代で行う二つの研修では、終了後一人ひとりにメンターをつけ、キャリア面談を通じて、次の一歩をふみ出すための後押しを行っています。研修で将来のキャリアを考える気づきを得ても、職場に帰ると日常に戻ってしまう人もいます。そうならないように、マネジメント経験者などがメンターとなって、研修後も定期的にフォローアップを行います。メンターになる人はキャリアコンサルタントの国家資格を持ち、現在約30人います。本業との兼任ですが、同じ部署の社員がつくことはなく、相談内容について人事が関知することは一切ありません。以前はメンターになるマネジメント経験者を社内で探し、資格取得費用も会社で負担し依頼していましたが、いまは人気業務で、社内兼業で公募をすると「資格を持っているのでぜひやりたい」という人が増えています。また、メンター同士が定期的に集まり、情報交換や事例研究を行うなど、楽しんで新しい役割に取り組んでいるのが見てとれます。  また、キャリアについてベテラン社員同士で考える自主的サークル活動「社内分科会」を奨励しています。ソニーではもともと、オフタイムを使って本業とは別の商品企画を考える自主的な活動が盛んでしたが、そういった取組みを会社として支援していくため、ホームページで紹介したり、一部費用を補助するようになってから、異業種交流会や、社外で活躍しているソニーOBを呼んで行う勉強会など、さまざまな分科会が活発に活動しています。会社がメニューを提示して行う施策も大事ですが、社員が主体的につくり出すボトムアップの活動も、キャリアを考えるうえで非常に有効だと気づきました。 ―「シニアインターンシップ」という取組みにも力を入れているとうかがいました。 大塚 シニアインターンシップは、社外から見た自身の価値に気づき、これまでの経験で得られなかったやりがいを知ってもらうことを目的に2年前から取り組んでいます。具体的には、中小企業や自治体が抱える課題の解決に取り組むというもので、例えば、佐賀県のある自治体が「ふるさと納税10億円を達成したい」ということで、ソニーの社員がプロジェクトに参加し、見事に達成したという事例もあります。サラリーマンですから数値目標があるとますます意欲がわくようです。これも手挙げ式で公募していますが、参加可能なプロジェクトは1年間に4〜5件程度。応募者が多いため、参加するための競争率は数倍になります。 キャリア自律支援に重要なのは会社の風土や文化を活かした取組みであること ―キャリア・カンバス・プログラムの導入から7年が経過していますが、ベテラン社員のキャリア形成への意識はどう変わりましたか。 大塚 シニアインターンシップの参加者からは「外部で自分の能力がどの程度通用するのかがわかった」、「これからの選択肢が増えた」といったポジティブな評価が多いです。「新しい体験なのですごく楽しく、ワクワクする」という声もあるなど、いろいろな気づきにつながっています。  社内兼業のキャリアプラスの経験者は累積で400人を超えています。制度の浸透とともに、兼業の求人が増加し、いまでは応募者が足りなくなるほど社内で定着しています。  プログラムでの経験や学びを通じて、「60歳の定年後もソニーで活躍したい」という人もいれば、シニアインターンシップで刺激を受け、参画した会社で副業を始めた人、他社に転職した人、大学の教員やNPOで働く人などもいます。ある男性エンジニアは「子どもが好き」ということから保育士の資格を取り、いまは保育園で楽しく働いています。 ―60歳定年後は再雇用ということですが、定年後も再雇用で働き続ける人はどのくらいいらっしゃるのでしょうか。 大塚 60歳定年以降も継続して働く人は近年増えてきており、6〜7割の人が再雇用を選択しています。3〜4割の人は50代後半から60歳にかけて外部で新たなキャリアを歩んでいます。今後は60歳以降の人に向けたキャリア支援にも力を入れていきたいと考えています。 ―ベテラン社員のキャリア支援や学び直しに取り組みたいと考えている企業にアドバイスをお願いします。 大塚 ソニーには、もともとチャレンジや自律を重視するカルチャーがあることから、ベテラン社員のチャレンジをさらに支援していくべく、キャリア・カンバス・プログラムを導入しました。やはり会社の風土や文化に合った方法を考えたほうがうまくいくと思います。その会社が誇れるような風土や文化を活かした取組みを工夫することが大切です。また、単に「キャリア自律しなさい」と押しつけても、必ずしも自律につながらないのがむずかしいところです。学び直しにしても全員に同じスキルを習得してもらうことに効果があるのかという疑問もあります。ベテラン社員が積み上げてきた経験やスキルは一人ひとり異なります。全員に同じことをやってもらうのではなく、多様な選択肢を用意し、そのなかから自分に合ったものを学んでもらうことが、入口としてあってもよいかもしれません。 (聞き手・文/溝上憲文 撮影/中岡泰博) 【もくじ】 エルダー(elder)は、英語のoldの比較級で、”年長の人、目上の人、尊敬される人”などの意味がある。1979(昭和54)年、本誌発刊に際し、(財)高年齢者雇用開発協会初代会長・花村仁八郎氏により命名された。 ●表紙のイラストKAWANO Ryuji 2024 June No.535 特集 6 即戦力となるシニア人材の確保へ 7 総論 先入観は厳禁、即戦力となるシニアを採用・活用するポイントとは 株式会社シニアジョブ 代表取締役 中島康恵 11 解説@ 副業シニア人材の活用と労務管理 特定社会保険労務士 坂本直紀 15 解説A シニア人材の移籍支援の取組みについて 〜「キャリア人材バンク」における取組みについて〜 公益財団法人産業雇用安定センター 業務部長 下角圭司 19 事例@ 株式会社ProVision(神奈川県横浜市) IT企業が「ミドル・シニア採用」をスタート 採用はスキルと「オープンマインド」が鍵 23 事例A 日野精機株式会社(滋賀県蒲生郡) 品質保証部門に経験豊富なシニアを採用 データで課題を見える化し品質管理の精度が向上 1 リーダーズトーク No.109 ソニーピープルソリューションズ株式会社 執行役員 大塚康さん ベテラン社員のキャリア自律を積極的に推進 多様な選択肢で新たな挑戦と学び直しを支援 27 日本史にみる長寿食 vol.367 「日の丸弁当」の梅干しパワー 永山久夫 28 集中連載 マンガで学ぶ高齢者雇用 突撃!エルダ先生が行く!ユニーク企業調査隊 《第3回》株式会社メイテック 「生涯プロエンジニア」という働き方で若手社員から高齢社員まで活躍する労働市場を創出 34 高齢者の職場探訪 北から、南から 第144回 岩手県 社会福祉法人みちのく大寿会 38 高齢者に聞く 生涯現役で働くとは 第94回 日本綜合警備株式会社 交通誘導警備員 上野敏夫さん(87歳) 40 学び直し$謳i企業に聞く! 【第2回】東京海上日動火災保険株式会社 44 知っておきたい労働法Q&A《第73回》 高齢者の契約更新と期待可能性、賃金の不利益変更 家永勲 48 新連載 シニア社員を活かすための面談入門 【第1回】 シニアとの面談とは? シニア面談の目的・効果について 株式会社パーソル総合研究所 組織力強化事業本部 キャリア開発部 小室銘子 50 いまさら聞けない人事用語辞典 第47回 「出向・転籍」 吉岡利之 52 特別寄稿 「介護が必要になる従業員の親」からみた「仕事と介護の両立支援」の課題 玉川大学経営学部 教授 大木栄一 56 BOOKS 58 ニュース ファイル 60 次号予告・編集後記 61 技を支える vol.340 電力インフラを支える変圧器の心臓部をになう 変圧器組立工 深山茂雄さん 64 イキイキ働くための脳力アップトレーニング! [第84回]負けじゃんけんトーナメント 篠原菊紀 【P6】 特集 即戦力となるシニア人材の確保へ  さまざまな業種・業界で、少子高齢化などによる人手不足が大きな課題となっています。それを補填する人材として、豊富な知識や経験を持つシニア人材に注目が集まっており、他社を退職したシニアの採用や、副業人材としてシニアを活用する企業も増えてきています。  しかし、せっかく採用したシニア人材が、さまざまな要因により、期待していたような即戦力とならないケースもあるといわれています。  そこで今号では、ミスマッチを防ぎ、即戦力となるシニア人材を採用するためのポイントについて解説するとともに、実際にシニア採用を行っている企業の事例をご紹介します。 【P7-10】 総論 先入観は厳禁、即戦力となるシニアを採用・活用するポイントとは 株式会社シニアジョブ 代表取締役 中島(なかじま)康恵(やすよし) 1 即戦力として期待されるシニア  シニアを中途採用する企業は、そのシニアが「即戦力かどうか」を必ず見ます。新卒や若手人材のように、教育に時間やコストをかけ、今後の“伸びしろ”に期待をすることは、シニアの場合、まずありません。  そのため、人手不足が顕著な職種や、比較的短期間で仕事が覚えられる職種以外は、経験が重視されやすく、応募職種の業務から離れている期間があればそのブランクが懸念材料になります。また、場合によっては、たとえ資格を持っていてもその職務経験がなければ採用されないこともあります。  いわばその仕事の“プロフェッショナル”を企業は求めるのですが、それは単に“教育いらず”で仕事を始められるだけでなく、一定以上の“成果を出すこと”がセットです。思った以上に教育に手間どる場合のほか、期待する成果が出ない場合も“ミスマッチ”ととらえられ、そのように判断するまでの期間も非常に短くなりがちです。  しかし、実際にシニアの採用を行っている各企業では、どんな仕事で、どのくらいの期間内に教育が完了し、いつまでにどんな成果を求めるのか、事前に考えたうえで採用を行っているでしょうか。例えば、「本人の仕事ぶりを見て判断」や、「仕事は『営業』だけれど『業務改善や教育も』できるなら任せたい」、「成果は出せるなら出せるだけ」のような曖昧(あいまい)なものでなんとなく採用していないでしょうか。  有能なシニアを採用したくとも、何をもって「即戦力」なのか具体的に定義できていなければ、ミスマッチが発生してしまうでしょう。 2 そもそも「即戦力のシニア」とは  「即戦力」のシニアについて、どう定義すればよいのか、考えていきましょう。まず、即戦力の一つの大きな要素となるのが“教育が不要”という点です。しかし、本当にシニアは“教育が不要”で、採用時に“伸びしろ”を考慮しなくてよいのでしょうか。  結論からいえば、シニアであっても“新たな学び”と“学ぶ姿勢”は絶対に必要です。むしろ、即戦力として活躍するシニアは必ずといってよいほど“学ぶ姿勢”を持っています。たしかにシニアの場合、長期間にわたる教育や成長を見守る過程は必要ありませんが、教育がまったく不要というわけではありません。  即戦力を求める会社は、のちほど解説するシニアの副業や業務委託などでは特に、面接の際に今後の学びや新しいチャレンジの話を出した求職者を「プロの姿勢ではない」と不採用にする傾向があります。もちろん、会社に貢献できるスキルが何もないのは論外ですし、会社の教育・研修に甘えるのも問題です。けれども、新しいことを“学ぶ姿勢”のないシニアは、過去の栄光に固執しやすいものです。むしろ、面接では“学ぶ姿勢”をしっかり確認・評価することが重要となります。  さて、そもそもシニアにかぎらず“戦力”を計る指標はあるのでしょうか。社員の“戦力”の判断基準がないか、あっても基準が曖昧では、即戦力のシニアかどうかも判断できません。若手や中堅も含め、成果や教育結果の評価基準や採用時の判断基準は、明確なものを設定すべきです。それをもとに、シニアの採用基準も調整するとよいでしょう。  また、そもそも事業そのものが成果を上げにくい状況であれば、百戦錬磨のシニアを採用した場合でも、「逆境を乗り越えて成果を出せ」、「プロなら改善も含めてできるだろう」というのは酷です。そうした期待をするのであれば、“その業務”のプロではなく、“事業再構築”や“組織改革”のプロのシニアを採用するべきでしょう。 3 任せる業務と必要なスキルを明確に  前述のように、シニアに任せる業務、求める 成果、採用するシニアの経験とスキルがそれぞ れバラバラだと、いくらスキルの高いシニアを 採用しても即戦力として力を発揮できません。 募集前からどんな仕事を任せて、どんな成果を 期待するのか、しっかりと決めておくことが必 要です。  もし、シニアの仕事の難易度や負担を減らす場合は、社内の仕事内容そのままではなく、シニア専用に業務を切り出すと、より活躍してもらいやすい業務設計ができます。先輩社員が新人向けに行っていたOJTなどの教育をシニアに担当してもらい、中堅社員をコア業務に集中させる例は多く見られます。  このように、事前にシニアの担当業務を明確にすることで、求めるスキルセットも明確になり、業務に見合ったシニアを採用できます。応募するシニアも自分に合った業務であるかを判断しやすくなり、ミスマッチが減ります。  また、シニアに任せる業務も、求めるスキルセットも明確になっている場合、それ以外の曖昧で余計な指標を選考に持ちこんではいけません。例えば、シニアの前職がいくら大企業でも、仕事ができるかは別です。健康アピールも数年後にどうなるかはわかりませんし、やはり仕事の能力とは無関係です。反対に、「シニアだから体力がない」、「ITに弱い」といった先入観(バイアス)で判断してしまうのも問題です。  昨今、国が旗を振っている賃上げの動きが活発化していますが、この背景から採用に必要となってくるものが、転職市場の給与相場の研究です。当然ですが、同じエリアの同じ職種の給与相場を下回る提示金額では採用がむずかしくなります。  もしかすると「シニアは安い給与設定でも採用できる」という感覚を持つ方もいるかもしれませんが、じつはシニアも徐々に採用がむずかしくなり、給与相場も高くなってきています。2023(令和5)年9月の敬老の日に合わせて総務省統計局が発表した『統計からみた我が国の高齢者−「敬老の日」にちなんで−』※1では、65歳以上の人口が1950(昭和25)年以降初の減少となったことが示されました。もちろん、一過性である可能性もありますが、出生率が改善しないかぎり、シニアも人口は減っていきます。人手不足の業界職種では、すでに50代、60代すら採用がむずかしくなっているケースもあります。  現在はシニアが採用できている会社でも、今後賃上げの影響で地域の給与相場を下回り、採用が急にむずかしくなるかもしれません。求人サイトなどで給与相場を確認し、適切な給与などの条件を設定するようにしましょう。 4 モチベーションのポイントを探る  さて、即戦力のシニアを採用する場合であっても、新たなことを“学ぶ姿勢”を持ったシニアのほうが活躍しやすいことは先に述べた通りです。そしてそれは、選考時のチェックポイントだけではなく、入社後により活躍してもらうためや、離職を防止するためにも重要です。  社内で全員がITツールを使用しているならば、シニアにも覚えて使ってもらうべきですし、業務の範囲内で新たなことを学びたい、チャレンジしたいというシニアには、積極的に学びやチャレンジを進めてもらうべきです。これを制限してしまうと、やる気を失い、戦力としても心許なくなってしまうでしょう。  ITが苦手なシニアに配慮して、紙などアナログの手続きによる特別扱いを考える企業もあるかもしれません。しかし、よかれと思ってのことでも、こうした特別扱いはほかの世代の社員との壁を厚くしてしまい、シニアの人数が少ない場合などは特に孤独を感じ、離職を招きやすくなります。  周囲からはちょっと遠慮しているだけのように見えても、シニアの孤独を把握しきれないまま、離職に至ることが珍しくありません。シニア本人も壁をつくらない努力が必要ですが、企業側もシニアとのコミュニケーション量には注意が必要です。  一方で、単に若手と平等に扱えばよいというものではありません。シニアの積極性やモチベーションのあり方は、世代間の差もあってどうしても若手と違うものになります。単純に若手と比べてしまうと消極的に見えることもあるでしょう。もちろん、シニアにやる気がないわけではないので、対話を深め、どこに積極性やモチベーションのポイントがあるのかを探ってみてください。 5 副業・業務委託のシニアは  働き方が多様化するなかで、シニアにおいてもさまざまな方法が生まれています。国も、65歳以上の働き方として、それまで勤めた会社での雇用の継続以外にも、個人事業主や起業して業務委託を受ける形式を「創業支援等措置」※2として制度化し、また、65歳以上が複数の職場での勤務時間を合算して雇用保険に加入できる「雇用保険マルチジョブホルダー制度」※3もスタートさせて、シニアの業務委託や副業を後押ししています。  一般的に副業や業務委託の場合、社員の場合よりさらに即戦力・プロを求める企業は多いのではないでしょうか。しかし、副業や業務委託にチャレンジする人材のなかには、「本業やこれまでの経歴では実現しなかった仕事にチャレンジする」という人も少なくないため、ミスマッチが起きやすくなります。  シニアの場合は特に、定年でこれまでのキャリアに一区切りをつけた意識などから違う分野へのチャレンジも生まれやすくなります。また、「創業支援等措置」で独立した場合などは「その仕事のプロ」ではあっても「起業家・経営者としては素人」であることが多いので、発注する企業も注意が必要です。例えば、会社員からいきなり起業した場合などには、技術力は高くても仕事を受ける際の手際はよくないといったように、得意領域以外は改善の余地がある場合も多いのです。  発注する企業は、仕事を受けるからにはすべてに完璧なプロとしてふるまってほしいと思うかもしれませんが、副業や業務委託でも、任せる業務を細かく具体的に切り出したほうがよいのは社員の採用と同じで、ミスマッチ防止にもなります。  また、これも社員と同様に、副業や業務委託のシニアでも“学ぶ姿勢”を持ったシニアのほうが高いパフォーマンスを発揮します。知識や経験がまったくない場合はさておき、新しい学びやチャレンジを目ざす副業や業務委託のシニアを「プロではない」と拒否するのは得策ではありません。  一方で企業の立場からすると、これまでの日本の雇用のスタイルで一般的ではなかった副業や業務委託などの働き方、それもシニアが行うケースに、スムーズに対応するのは戸惑いが大きいのも事実です。2023年末に厚生労働省が発表した令和5年「高年齢者雇用状況等報告」※4によると、65歳以上の就業機会確保のために業務委託などの働き方を設ける「創業支援等措置」を導入した企業は、調査項目に加わった2021年以降、0.1%のままとなっています(図表)。さらに「フリーランス新法」が2023年4月に成立し、発注する企業の視点で見れば、さまざまな義務が課せられることで負担が増しています。業務委託のシニアに活躍してもらうためのポイントもシニア社員の場合(本稿@〜C)との大きな差がないため、シニア社員の活躍推進とあわせて考えていきましょう。 6 先入観で決めつけない  副業や業務委託だけでなく、シニアをめぐる就業環境や転職市場、制度は目まぐるしく変化しており、企業が学んだり工夫を求められたりする領域と頻度は加速度的に高まっています。経営者や人事担当者は、つねに新しい制度とバイアスにとらわれないシニアの就業と転職の実態を見つめる必要がありそうです。  しかし、最も大切なことは、定められた制度にいち早く順応することや、個別のシニアの事情に寄り添うことではありません。いかに業務遂行能力“だけ”を見て判断・評価ができるか、そして業務遂行能力はあるのになんらかのハードルがあるのであれば、業務遂行能力を活かせる工夫をできるかということが大切です。ぜひ、シニアという先入観に惑わされず、能力で判断するマインドへと変革していきましょう。 ※1 https://www.stat.go.jp/data/topics/pdf/topics138.pdf ※2 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/koureisha/topics/tp120903-1_00001.html ※3 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000136389_00001.html ※4 https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_36506.html 図表 就業確保措置の内訳 全企業 (29.7%) 定年制の廃止3.9% 定年の引上げ2.3% 継続雇用制度の導入23.5% 創業支援等措置の導入0.1% 301人以上 (22.8%) 定年制の廃止0.7% 定年の引上げ0.6% 継続雇用制度の導入21.3% 創業支援等措置の導入0.2% 21〜300人 (30.3%) 定年制の廃止4.2% 定年の引上げ2.4% 継続雇用制度の導入23.7% 創業支援等措置の導入0.1% 出典:厚生労働省 令和5年「高年齢者雇用状況等報告」 【P11-14】 解説1 副業シニア人材の活用と労務管理 特定社会保険労務士 坂本(さかもと)直紀(なおき) 1 はじめに  労働者の副業を容認する企業も増えてきているなかで、人材採用においては副業人材の活用も選択肢の一つとなっています。  特に、知識や経験豊富なシニア人材は、貴重な戦力になる可能性があります。  そこで、本稿では副業人材を受け入れるうえでの労務管理上の注意点について解説します。 2 基本的な考え方 (1)基本的には認める方向  労働者が、労働時間以外の時間をどのように利用するかは、基本的には労働者の自由になります。  したがって、原則的に、会社としては労働者の副業を認める方向で検討することが適当とされています。 (2)就業規則の規定  次に示すのは、厚生労働省の「モデル就業規則」※1における副業・兼業の規定例です。  前述の通り、労働者が労働時間以外の時間をどのように利用するかは、基本的には労働者の自由であり、その点が第1項で定められています。 一方で、会社において、副業の内容から、副業を禁止・制限する場合もあります。その点について、第2項で定めています。 (副業・兼業) 第70条 労働者は、勤務時間外において、他の会社等の業務に従事することができる。 2 会社は、労働者からの前項の業務に従事する旨の届出に基づき、当該労働者が当該業務に従事することにより次の各号のいずれかに該当する場合には、これを禁止又は制限することができる。 @労務提供上の支障がある場合 A企業秘密が漏洩する場合 B会社の名誉や信用を損なう行為や、信頼関係を破壊する行為がある場合 C競業により、企業の利益を害する場合 3 労働時間の通算 (1)事業場を異にする場合も通算労働基準法(以下、「労基法」)第38条第1項では「労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する」と規定されています。  そして、この「事業場を異にする場合」とは事業主を異にする場合をも含むこととされています(労働基準局長通達〈昭和23年5月14日付け基発第769号〉)。  したがって、基本的には、他社で勤務する労働時間についても通算して管理することになります。 (2)労基法の適用がない場合など  以下のいずれかに該当する場合は、その時間は通算されないとされています。 ・労基法が適用されない場合(フリーランス、独立、起業、アドバイザー、顧問など) ・労基法の労働時間規制が適用されない場合(管理監督者など) (3)通算して適用される規定  法定労働時間(労基法第32条)の適用において自らの事業場における労働時間およびほかの使用者の事業場における労働時間が通算されます。  そして、時間外労働(労基法第36条)のうち、時間外労働と休日労働の合計で単月100時間未満、複数月平均80時間以内の要件(同条第6項第2号および第3号)については、労働時間が通算されることになります。 (4)通算して適用されない規定  時間外労働(労基法第36条)のうち、労基法第36条第1項の協定(以下、「36協定」)により延長できる時間の限度時間(同条第4項)、36協定に特別条項を設ける場合の1年についての延長時間の上限(同条第5項)については、それぞれの事業場における延長時間を定めることとされています。 4 労働時間通算における割増賃金 (1)基本的事項 @労働時間を通算管理する使用者  副業を行う労働者を使用するすべての使用者は、労基法第38条第1項の規定により、それぞれ、自らの事業場における労働時間とほかの使用者の事業場における労働時間とを通算して管理する必要があります。 A通算される労働時間  労基法第38条第1項の規定による労働時間の通算は、自らの事業場における労働時間と労働者からの申告などにより把握したほかの使用者の事業場における労働時間とを通算することによって行います。 (2)所定労働時間の通算  副業の開始前に、自らの事業場における所定労働時間とほかの使用者の事業場における所定労働時間とを通算して、自らの事業場の労働時間制度における法定労働時間を超える部分の有無を確認します。  図表1で示す通り、まずは、自らの事業場における所定労働時間とほかの使用者の事業場における所定労働時間とを通算します。  例1、例2のいずれも通算した結果が9時間(企業A:5時間、企業B:4時間)となり、法定労働時間である8時間を1時間超過しています。  そして、法定労働時間を超える部分がある場合は、時間的に後から労働契約を締結した使用者における当該超える部分が時間外労働となります。  例1、例2のいずれも、時間的に後から労働契約を締結したのは企業Bです。  したがって、企業Bが法定時間外労働を1時間発生させたこととして取り扱われ、1時間分の割増賃金を支払うことになります。 (3)所定外労働時間の通算  副業の開始後は、自社の所定外労働時間と副業先における所定外労働時間とを当該所定外労働が行われる順に通算します。  自社と副業先のいずれかで所定外労働が発生しない場合の取扱いは、次の通りです。 ・自社で所定外労働がない場合は、所定外労働時間の通算は不要です。 ・自社で所定外労働があるものの、副業・兼業先で所定外労働がない場合は、自社の所定外労働時間のみを通算します。  そして、通算した結果、図表2で示す通り、自社の労働時間制度における法定労働時間を超える部分が時間外労働となり、割増賃金を支払う必要があります。  例1、例2のいずれも企業Aと企業Bにおいて所定外労働が発生しています。  そして、所定労働時間の通算の後、所定外労働が行われる順に通算することになります。  例1のケースでは、まず、企業A(先に労働契約を締結)の所定労働時間3時間(@)+企業B(後から労働契約を締結)の所定労働時間3時間(A)を通算します。この時点で、労働時間6時間となります。  次に、所定外労働時間の通算です。さきほどの6時間に、当日、先に所定外労働を発生させた企業Aの所定外労働時間2時間(B)を通算します。この時点で8時間ですので、まだ法定労働時間内です。  そして、次に企業Bの所定外労働時間1時間(C)を通算します。  この1時間は法定外労働時間ですので、割増賃金が発生することになります。  例2も同様の順で行います。例2では、企業Aが、法定外労働時間1時間分の割増賃金を支払うことになります。 5 副業と保険関係 (1)労災保険 @複数事業労働者  被災した時点で、事業主が同一でない複数の事業場と労働契約関係にある労働者は、複数事業労働者となります。 A賃金額の合算  複数事業労働者が安心して働くことができる環境を整備するため、非災害発生事業場の賃金額も合算して労災保険給付額を算定することとしています(図表3)。 B負荷の総合的評価  複数事業労働者の就業先の業務上の負荷を、総合的に評価して労災認定が行われます。  長時間労働の場合ですと、例えば、仮に「A社での時間外労働時間数60時間」と「B社での時間外労働時間数40時間」とした場合、A社、B社での負荷を総合評価し、100時間として判断されます。  また、精神障害の負荷においては、例えば、仮に「A社:ノルマが達成できなかった」、「B社:パワーハラスメントを受けた」としたら、複数の出来事があったとして、A社、B社での負荷を総合評価して判断されます。 (2)雇用保険 @原則的な考え  同一の事業主のもとで@1週間の所定労働時間が20時間未満である者、A継続して31日以上雇用されることが見込まれない者は被保険者となりません。  また、同時に複数の事業主に雇用されている者が、それぞれの雇用関係において被保険者要件を満たす場合、その者が生計を維持するに必要な主たる賃金を受ける雇用関係についてのみ被保険者となります。 A雇用保険マルチジョブホルダー制度  原則的な考えの例外として、雇用保険マルチジョブホルダー制度が設けられています。  複数の事業所で勤務する65歳以上の労働者が、そのうち二つの事業所での勤務を合計して次の要件を満たす場合、本人からハローワークに申出を行うことで、申出を行った日から特例的に雇用保険の被保険者(マルチ高年齢被保険者)となることができる制度です。 ・複数の事業所に雇用される65歳以上の労働者であること ・二つの事業所(一つの事業所における1週間の所定労働時間が5時間以上20時間未満)の労働時間を合計して1週間の所定労働時間が20時間以上であること ・二つの事業所のそれぞれの雇用見込みが31日以上であること (3)社会保険  社会保険(厚生年金保険および健康保険)の適用要件は、事業所ごとに判断されます。したがって、複数の事業所で勤務する者が、いずれの事業所においても適用要件を満たさなければ、適用されません。  なお、同時に複数の事業所で就労している者が、それぞれの事業所で被保険者要件を満たすこともあります。  この場合、被保険者は、いずれかの事業所の管轄の年金事務所および医療保険者を選択し、当該選択された年金事務所および医療保険者において各事業所の報酬月額を合算して、標準報酬月額を算定し、保険料を決定することとされています。 6 まとめ  副業によるシニア人材を活用するうえで、今回解説した、労基法における取扱い、特に労働時間の取扱いは留意しておく必要があります。  他社で雇用契約を結んで勤務しているシニア人材と新たに雇用契約を締結する場合、後契約になりますので、所定労働時間を通算した結果、法定労働時間を超過し、割増賃金を支給する可能性もあります。  そして、副業でのトラブルがないように就業規則に適切に規定し、また、副業・兼業に関する届出様式も整備しておくことが重要です。 ※1 モデル就業規則(令和5年7月版) https://www.mhlw.go.jp/content/001018385.pdf ※2 https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/000996750.pdf 図表1 所定労働時間の通算(原則的な労働時間管理の方法) (例1)企業A:時間的に先に労働契約を締結、所定労働時間1日5時間(7:00〜12:00) 企業B:時間的に後に労働契約を締結、所定労働時間1日4時間(14:00〜18:00) 企業A 企業B 0時 7時 12時 14時 17時 18時 24時 →企業Bに、法定時間外労働が1時間発生します。(5時間+4時間−8時間=1時間) (例2)企業A:時間的に先に労働契約を締結、所定労働時間1日5時間(14:00〜19:00) 企業B:時間的に後に労働契約を締結、所定労働時間1日4時間(8:00〜12:00) 企業B 企業A 0時 8時 11時 12時 14時 19時 24時 →企業Bに、法定時間外労働が1時間発生します。(5時間+4時間−8時間=1時間) 出典:厚生労働省「副業・兼業の促進に関するガイドライン わかりやすい解説」(2022年)※2 図表2 所定外労働時間の通算(原則的な労働時間管理の方法) 例1)企業A:時間的に先に労働契約を締結 所定労働時間1日3時間(7:00〜10:00)−@ 当日発生した所定外労働2時間(10:00〜12:00)−B 企業B:時間的に後に労働契約を締結 所定労働時間1日3時間(15:00〜18:00)−A 当日発生した所定外労働1時間(18:00〜19:00)ーC 企業A 企業B @ B A C 0時 7時 10時 12時 15時 18時 19時 24時 →@+A+Bで法定労働時間に達するので、企業Bで行う1時間の所定外労働(18:00〜19:00)は法定時間外労働となり、企業Bにおける36協定で定めるところにより行うこととなります。企業Bはその1時間について割増賃金を支払う必要があります。 (例2)企業A:時間的に先に労働契約を締結 所定労働時間1日3時間(14:00〜17:00)−@ 当日発生した所定外労働2時間(17:00〜19:00)−C 企業B:時間的に後に労働契約を締結 所定労働時間1日3時間(7:00〜10:00)−A 当日発生した所定外労働1時間(10:00〜11:00)−B 企業B 企業A A B @ C 0時 7時 10時 11時 14時 17時 18時 19時 24時 →@+A+B+(Cのうち1時間)で法定労働時間に達するので、企業Aで行う1時間の所定外労働(18:00〜19:00)は法定時間外労働となり、企業Aにおける36協定で定めるところにより行うこととなります。企業Aはその1時間について割増賃金を支払う必要があります。 出典:厚生労働省「副業・兼業の促進に関するガイドライン わかりやすい解説」(2022 年) 図表3 賃金額の合算の具体例 会社A 20万円/月 労働災害 会社B 15万円/月 2社の賃金額計35万円を基に保険給付を算定 出典:厚生労働省「副業・兼業の促進に関するガイドライン わかりやすい解説」(2022年)より抜粋 【P15-18】 解説2 シニア人材の移籍支援の取組みについて 〜「キャリア人材バンク」における取組みについて〜 公益財団法人産業雇用安定センター業務部長 下角(しもかど)圭司(けいじ) 1 はじめに  公益財団法人産業雇用安定センター(以下、「産業雇用安定センター」)では、定年退職される方や雇用延長措置を終了される高年齢者の方が、その経験・能力を活かしてほかの企業でさらに活躍できるよう、「高年齢退職予定者キャリア人材バンク事業」(以下、「キャリア人材バンク」)を運営し、高年齢者と企業とのマッチングを支援しています。本稿では、キャリア人材バンクの概要について紹介します。 2 産業雇用安定センターについて  産業雇用安定センターは、1987(昭和62)年に経済団体・産業団体と国の協力によって設立された公益財団法人です。  1985年のプラザ合意後に円高不況が進行し、輸出型産業を中心に大量の余剰人員が生まれ雇用不安が高まるなかで、企業間の出向・移籍の斡旋(あっせん)により失業を回避し雇用の安定を図るとともに、産業経済の発展に貢献することを目的に設立されました。  以来、厚生労働省、経済・産業団体や連合(労働組合)などとの密接な連携のもと、全国47都道府県の地方事務所の全国ネットワークにより、これまで累計25万人の出向・移籍の成立実績を積み上げてきました(図表1)。 3 キャリア人材バンク事業について  わが国では、少子高齢化の進展により生産年齢人口の減少が見込まれますが、今後もわが国の経済・社会が持続的に成長・発展していくためには、「一億総活躍社会」の実現が重要であり、高年齢者がその能力・経験を活かして活躍することが不可欠です。  このため、産業雇用安定センターでは、出向・移籍支援業務の一環として、高年齢者を支援対象とした「キャリア人材バンク」を2016(平成28)年度から運営し、再就職を希望する60歳以上の「在職者」および「離職後1年までの方」と、高年齢者の採用を希望する企業のそれぞれから求職・求人の申込みを受けて、就職に向けた斡旋を行っています(図表2)。 (1)キャリア人材バンクへの支援登録  再就職を希望する高年齢者、あるいは高年齢者の採用を希望する企業は、居所・所在地の都道府県にある産業雇用安定センター地方事務所※に相談のうえ、キャリア人材バンクへ求職・求人の申込みが可能です。 @求職申込み可能な高年齢者 ・現在在職中の60歳以上の方で雇用期間の満了後に再就職を希望する方  →キャリア・能力・就業希望などの情報を、事業主経由でキャリア人材バンクに登録することができます。 ・現在在職中の60歳以上70歳以下の方で事業主経由での登録を希望しない方、60歳以上70歳以下の離職者の方(離職後1年以内の方にかぎります)  →個人でキャリア人材バンクに登録することができます。 A求人申込み可能な企業  高年齢者の採用を希望し、次のいずれにも該当する企業 ・採用する方が66歳以降も働き続けられること ・採用する方の能力・経験が活かせること ・採用後の雇用期間が1年以上見込まれること (2)キャリア人材バンクの支援  キャリア人材バンクに登録した高年齢者の方には、産業雇用安定センターの担当者が、これまでの職務経験や保有する資格などについてヒアリングしたうえで、希望する職種、賃金、勤務時間などについて打合せを重ねながら求人企業を提案します。  また、求人企業には、希望する人材について、求められる能力、資格、経験などを詳しくヒアリングしたうえで、それらの条件に合った方を紹介します。  キャリア人材バンクでは、企業の人材ニーズと再就職を希望する方の能力・経験を的確に把握したうえで、求人企業と求職者の双方に職種、勤務時間、賃金などについてさまざまな提案を行いながら、面接日程の調整や採否の連絡なども含めてていねいなマッチングを行います。  なお、キャリア人材バンクに自社の従業員の再就職支援を依頼される企業や、個人で支援を希望される方、高年齢者の採用を希望される企業に、登録、相談、紹介などの費用負担はありません。  また、すでにハローワークなどに求職登録されている方、求人登録をされている企業も、キャリア人材バンクを利用することが可能です。 4 キャリア人材バンクにおける取扱いの現状 (1)登録者数、再就職者数の推移  「キャリア人材バンク」の求職登録者数、再就職者数は、高年齢者の就労ニーズの高まりや企業の人手不足感の高まりを背景に年々増加しており、2023(令和5)年度には、登録者数8018人、再就職者数4280人と、いずれも過去最多となりました(図表3)。 (2)登録時の年齢、再就職時の年齢  キャリア人材バンクの登録時・再就職時の年齢は、60歳と65歳に山が見られ、60歳定年、65歳の継続雇用終了時のタイミングで登録・再就職する方が多いことが想定されますが、そのほか、61歳から64歳までの各年齢で比較的まんべんなく登録しています(図表4)。 (3)キャリア人材バンクによる再就職者の受入職種  キャリア人材バンクによる再就職者の受入職種は、「事務的職業」、「販売・営業の職業」、「研究・技術の職業」、「管理的職業」などのいわゆるホワイトカラー系の職種が6割近くとなっています(図表5)。 5 高年齢者のさらなる活躍の促進に向けて  高年齢者雇用安定法の改正により、70歳までの就業機会確保の努力義務が設けられるなかで、高年齢者の就労意欲は今後ますます高まることが予想されます。  一方、高年齢者の働き方に対する考え方はさまざまです。産業雇用安定センターが2023年11月に実施した、求職活動中の60代男女1000人を対象とした調査によれば、50代までの働き方から少しペースを落としつつも、働きやすい仕事や職場で、ある程度しっかりした働き方を希望するなど、高齢者の就業ニーズの一端が明らかになりました(コラム参照)。  また、調査結果では、いわゆる人手不足分野といわれる業種であっても、仕事内容を見直し、業務を細分化してそれぞれ分割した業務ごとに求人することによって高年齢者の応募の可能性が高まり、人手不足の緩和につながる可能性のあることもわかりました。  高年齢者の就業ニーズを理解し、高年齢者が働きやすいような就労環境、雇用条件を柔軟に設定することによって、高齢人材の活躍をうながしていくことがますます必要な時代になっています。 6 おわりに  産業雇用安定センターでは、人手不足に悩む中小企業の人材確保の課題に対して、大手企業でさまざまな経験を積んできた方々がその知識・経験を活かしてさらに中小企業で活躍できるよう、両者の橋渡しに今後さらに積極的に取り組んでいきます。  大手企業で働くみなさんが定年退職、継続雇用の終了を迎える際には、ぜひ、キャリア人材バンクの利用を検討いただき、退職予定のみなさまの企業を通じたご登録をお願いします。また、キャリア人材バンクは個人での登録も受けつけていますので、その周知、利用勧奨につきましても、あわせてお願いいたします。 ※ 地方事務所一覧  https://www.sangyokoyo.or.jp/about/location/index.html#01 コラム 60代シニア層の就業ニーズ調査(結果概要) 1.仕事探しで重視するもの  「仕事内容・職場の働きやすさ」(40%)、「就業場所や通勤時間」(35%)の割合が高く、「給料」(25%)はやや低い 2.希望する就労日数  男性60〜64歳の約半数が「週5日」以上を希望する一方、女性と男性65〜69歳では7割から8割超が「週4日」以下を希望 3.職種別の希望度 ●「行政・公的機関での事務補助(年単位雇用)」(65%)など事務系の職種の希望度が高く、なかでも「事務補助・雑務」、「学校校務支援」などのサポート的な職種の希望度が高い ●人手不足分野の運輸、警備、介護福祉の仕事はシニア層でも希望者は少ないが、「他に仕事がなければ希望したい」とする者などを含めれば一定数いることがわかった ●業務内容を限定または分割することによって希望度が高まる「職種」があり、例えば、福祉施設における業務に関し、「福祉施設の清掃・食器洗浄などの間接業務」は「介助業務」より10ポイント近く希望度が高かった 出典:産業雇用安定センター「60 代シニア層の就業ニーズに関する調査結果」(2023年) https://www.sangyokoyo.or.jp/topics/2023/senior_60ank_20240115.html 図表1 出向・移籍の実績推移 受入・送出情報(人) 成立数(人) 出向成立 移籍成立 送出情報 受入情報 2014年度(平成26年) 8,495 2,361 6,134 2015年度(平成27年) 8,559 2,220 6,339 2016年度(平成28年) 8,181 2,024 6,157 2017年度(平成29年) 8,606 2,073 6,533 2018年度(平成30年) 8,641 1,678 6,963 2019年度(令和元年) 9,417 1,240 8,177 2020年度(令和2年) 11,170 3,061 8,109 2021年度(令和3年) 13,960 5,611 8,349 2022年度(令和4年) 10,060 2,960 7,100 2023年度(令和5年) 10,391 1,813 8,578 資料提供:公益財団法人産業雇用安定センター 図表2 キャリア人材バンク事業概要 登録者情報 自らの能力・経験を生かし66歳以降も働くことを希望する方 事業主経由での登録の場合 事業主様を通じてご登録ください 対象者 60歳以上の在職者の方で雇用契約期間の満了(※)後に再就職を希望する ※定年、継続雇用終了、有期雇用契約期間満了により離職する場合をいいます 個人登録の場合 ご来所の上ご登録ください 対象者 60歳から70歳以下の方で下記のいずれかに該当する方 ・在職者で再就職を希望する ・離職後1年以内の離職者で再就職を希望する 就業希望登録 受入情報提供 応募希望 産業雇用安定センター キャリア人材バンク 再就職の決定 受入情報の登録 就業希望情報の提供 面接 受入情報 高齢者の能力・経験の活用を希望する企業 以下のいずれにも該当する求人情報が対象です @66歳以降も働き続けることが可能なもの A採用者の能力・経験が活かせるもの B採用後の雇用期間が1年以上見込まれるもの 資料提供:公益財団法人産業雇用安定センター 図表3 キャリア人材バンクの登録者、再就職者数の推移 2017年度 再就職者数393人 登録者数1,088人 2018年度 再就職者数1,102人 登録者数2,781人 2019年度 再就職者数1,921人 登録者数3,796人 2020年度 再就職者数2,118人 登録者数4,636人 2021年度 再就職者数2,384人 登録者数4,734人 2022年度 再就職者数2,976人 登録者数5,742人 2023年度 再就職者数4,280人 登録者数8,018人 資料提供:公益財団法人産業雇用安定センター 図表4 キャリア人材バンクの登録時の年齢、再就職時の年齢 【登録時の年齢】 (2023年度) 合計8,018人 60歳 19.9% 61歳 12.7% 62歳 10.5% 63歳 9.3% 64歳 11.1% 65歳 18.3% 66歳以上 18.2% 【再就職時の年齢】 (2023年度) 4,280人 60歳 16.8% 61歳 13.5% 62歳 10.4% 63歳 9.5% 64歳 8.9% 65歳 19.7% 66歳以上 21.1% 資料提供:公益財団法人産業雇用安定センター 図表5 キャリア人材バンクによる受入職種 2023年度 合計4,280人 事務的職業 1,097人 (25.6%) 販売・営業の職業 352人(8.2%) 研究・技術の職業 244人(5.7%) 管理的職業 202人 (4.7%) サービスの職業 663人 (15.5%) 運搬・清掃・包装・選別等の職業 414人(9.7%) 配送・輸送・機械運転の職業 322人(7.5%) 製造・修理・塗装・製図等の職業 289人(6.8%) 警備・保安の職業 184人(4.3%) 福祉・介護の職業 157人(3.7%) その他 356人 (8.3%) 資料提供:公益財団法人産業雇用安定センター 【P19-22】 事例1 IT企業が「ミドル・シニア採用」をスタート 採用はスキルと「オープンマインド」が鍵 株式会社ProVision(プロビジョン)(神奈川県横浜市) ソフトウェア品質検証で事業拡大 先進的で多様性に富んだ社員構成  株式会社ProVisionは2005(平成17)年に北海道札幌市で創業。基盤システムの開発を事業として創業した同社だが、ソフトウェアの品質検証および開発に事業の柱を移し、スマートフォン向けアプリやWEBサイト、ゲームなど、各種ソフトウェア・サービス・プロダクトのテスト、QA(品質保証)、第三者検証により、ソフトウェアの品質にかかわるさまざまな課題解決に向けたサービスを提供している。また、業務改善のDX導入支援のほか、拡張現実(AR)事業など、自社プロダクトの開発・運用を行い、業容を拡大している。2010年に本社を横浜に移転し、札幌開発センター、高崎営業所と合わせて3拠点を構えている。  2019(平成31)年から、働き方改革に関連する法律が順次施行されるなかで、人手不足や長時間労働の問題に改善策を講じる企業や自治体が労務管理のデジタル化を検討すると同時に、生産性向上や業務効率化、品質向上を目ざす世論の後押しもあり業績を伸ばしており、2015年以降、毎年110%強の売上高増加率を維持し中長期的な成長に期待が高まっている。  男性が多いIT業界において、同社社員の男女比率は1対1であり、中国、韓国の出身者をはじめ世界各国のグローバル人材が多く働いている。Jリーグに加盟するプロサッカークラブ「東京ヴェルディ」とコーポレートパートナー契約を締結するなど、プロスポーツを積極的にサポートする一面もあり、アスリート社員、パラアスリート社員、eスポーツ選手の採用も進めてきた。まさに多様な人材が活躍する会社であり、多様性に富む社員たちがお互い助け合って切磋琢磨する職場環境が醸成されている。  また、健康経営○R(★)にも積極的に取り組んでおり、アスリート社員による社員向けフィットネス講座、社内SNSを活用した健康情報の発信、在社時の健康づくりにストレッチポールを設置するなど、従業員の健康増進を目的とした施策や環境整備にも継続的に取り組んでおり、2024(令和6)年3月には、横浜市が認証する「横浜健康経営認証・クラスAA」の認定を取得している。 年齢層の厚みは企業成長に不可欠 ミドル・シニア層の獲得に動く  同社の定年は65歳。およそ1000人いる社員の平均年齢は30歳であり、特に20代が多く若手主体の活気ある会社だ。経営理念は「明るく元気に前向きに、ひたむきに貢献することで、笑顔の花を咲かせます」。業界未経験であっても、チャレンジ意欲が高い若手人材の採用を実施し、継続的に20代を獲得している。  そんな同社だが、2024年1月に、40〜60歳を対象にした「ミドル・シニア採用」を開始した。少子高齢化の影響により、全国的に若年層の獲得がむずかしくなっており、人材確保のために高齢者を積極的に雇用する企業は珍しくなくなってきたが、なぜいま、若手人材に不足のない新進気鋭のIT企業が、ミドル・シニア世代にターゲットを絞った採用に舵を切ったのか。CX部課長の野溝(のみぞ)駿悟(しゅんご)さんに話を聞いた。  「最初からミドル・シニア世代の方を採用したいと考えていたわけではなく、経験豊富な人材や、高度な専門知識を持つスペシャリストの採用を検討していったところ、結果的に『求める人材はミドル・シニア層にあたる』と考え、ミドル・シニア層を採用していこうと方向性が決まりました。当社は若年層が多い会社ですので、求職者に『シニア世代は求められていない』ととらえられてしまっていることは、もともと感じていました。そこで、あえて『ミドル・シニア採用』を前面に打ち出すことにしたのです」と説明する。  今回の「ミドル・シニア採用」は、各事業の部門から「経験者がほしい」という声が上がって大きな流れとなり、経営層でも同様の意見が出て、全社的に機運が高まったことにより実現に至った。創業以来、20代を中心に採用してきたが、経営の中核をになう中心メンバーのほとんどは2010年前後の入社であり、40代を迎えている。IT企業の成長ステージとしてこれまでは問題がなかったことも、今後の成長過程において直面するであろう経営課題を解決し、さらなる成長を推進していくうえでは、経験が不足しているのではないか、と懸念が高まっていたそうだ。  「現在、当社は成長フェーズ(段階)にありますが、その先は未経験。ベンチャー企業の立ち上げ期から成長期に入って行く一連のプロセスより、その後の安定期に入って行くまでを経験されてきたような人材が理想的です」(野溝課長)。  今回の採用は、50〜60代の経験豊富なスペシャリストに参画してもらい、会社の土台を固めると同時に、今後の成長を見すえて始まった取組みということだ。 採用基準は「オープンマインド」 こだわり過ぎない柔軟性を求める  ミドル・シニア採用における募集職種は、QAマネージャーおよびQAコンサルタント、RPAエンジニア、業務改善DXエンジニア、受託開発プロジェクトマネージャー(2024年4月末時点)と幅広い。さまざまな業種・業界からのプロジェクトが増加しており、各分野で開発・テスト業務などの経験を持っている人材の採用を目ざしている。  「単純に『エンジニア』を求めているということであれば、技術領域を見ればよいのですが、必要なのは、“作業をする人”ではなく、人を動かしたり、人を育てたりすることができる、マネジメント力を持った人材。プロジェクトマネジメントだけではなく、事業統括部門のマネジメントができる人材とあわせて、採用活動を行っています。そのほか、バックオフィス管理をになうコーポレート領域においても、専門知識を持つ人材がいれば採用したいと考えています」(野溝課長)  スキル面以外で期待する人物像については、「オープンマインド」がキーとなる。  「会社全体の採用基準として、オープンマインドであるかどうかを非常に大事にしています。さまざまな人の意見を受けとめ、受け入れられる気持ちを持っているかどうかがポイントです。私たちはもともとオープンマインドのメンバーが多く、それが社風にもなっており、大切にしている部分です。ただ、経験を重ねるごとに自身のこだわりが強くなったり、物事を決めつけてしまう傾向があったり、自分の尺度でしか物事をとらえられなかったりすることもあるので、ミドル・シニア採用にあたってその点を注意しています。自分の形に固執しない、若手の意見を受け入れる度量の広さなども期待したいポイントです」(野溝課長) スキルが高いミドル・シニアの能力に合わせ職務内容を見直す  ミドル・シニア採用は書類選考をして面接を行い、内定を出す。事業部長クラスの人材であれば、選考に役員が参加するが、基本的な選考過程は変わらない。各部門が求める人材のニーズに応じて、求人票に記載するスキル要件などを定めているが、期待以上の高いスキルを持つ人材からの応募もあり、採用後に職務内容を調整するケースも発生しているそうだ。求人票とまったく同じ仕事をしてもらうより、その人材がより力を発揮できる業務内容についてすり合わせを行い検討するため、通常の採用よりも、応募者本人や社内の各部門とのコミュニケーションの量が増え、結果的に選考に時間がかかることもあるそうだ。  あらかじめ用意していたポジション以上のスキルを持つ応募者に会うと、「こんなこともできる人材なのか」と期待が湧いてくると野溝課長は話す。また、「経験豊富でマネジメントもできるミドル・シニア人材は、業務内容だけではなく待遇も含めて、求人票の内容から見直しを行うケースが多いです。また、採用すれば既存メンバーの上長にあたるポジションになりますので、そのメンバーとの意見交換など社内調整も行う必要があり、通常の採用活動とは違うむずかしさがあります」という。  なお、ミドル・シニア採用の応募者からは、同社の65歳定年制について「まだこんなに働けるのですね」など好意的な感想が多く聞かれるそうだ。 ITシステムの豊かな経験知見を活かしたいミドル・シニアが入社  今回のミドル・シニア採用により、長年にわたりエンジニアとして活躍し、開発領域の経験がある2人の人材を採用している。2024年1月に入社したAさん(58歳)は、エンジニアとして一般企業で経験を積んだ後、独立して自ら会社を立ち上げ、さまざまな案件を手がけてきたが、最終的には一技術者として自分のキャリアを終えたいとの思いから応募。入社にあたっては、本人と会社で業務内容のすり合わせを行い、本人の意向を尊重したうえで職務内容を決定したそうだ。  「『自ら積んできた経験が活かせる』、『教えがいがあるメンバーが多くておもしろい』といって入社されました。事業部長クラスの能力があるので、本当はマネジメントを任せたいところでしたが、本人の強い希望で技術者としての採用となりました」(野溝課長)  Bさん(60歳)は全国有数の大手企業出身者である。事業部長などの管理職を経て、60歳の定年退職と同時に同社に入社した。  「当社には形を変えながら大きく成長させていきたいフェーズの既存事業があり、この事業について組織課題や事業課題を解決し、やり遂げる気概を持って入社されました」(野溝課長)  まだ入社して日が浅く、彼らがもたらす効果の検証はこれからになるが、豊富な経験を活かした積極的な展開に対する期待は高まる。  なお、現在同社には、創業時代から基盤システムの開発事業の中心的な役割をになってきた50代後半の人材もおり、現在は地方拠点長として活躍している。  「ミドル・シニア採用」と銘打って採用活動をスタートしたことで、当該世代の応募者は以前よりも確実に増加しており、引き続き同世代に向けた求人は続けていく方針だ。最後に野溝課長にミドル・シニア世代の人材への期待をうかがった。  「いまの日本のテクノロジーは、現在50〜60代の方々が中心となって活躍していたころの、おもにメーカーが取り組んで開発していたITシステムによって支えられています。その経験はかけがえのないものです。40代以下の世代にとっては、書籍などから知識として知っていたとしても、実際に体験したことのない、これからも経験することができないものです。テクノロジーは進化しており、技術力は若手も引けを取りません。一方で、まだまだ経験の浅い当社は、ビジネスに根ざした商慣習などに疎いところがあり、ミドル・シニア世代の人材には、そうした慣習を含めて伝授してもらうとともに、目ざすべき組織像を提示していただき、経験に基づいた“ちょうどよい塩梅”の立ち回り方などをアドバイスしていただきたいと思っています。  もちろん、ご自身がつちかってきた経験を発揮し、現役のエンジニアとして現場で活躍したいというミドル・シニア人材の方には、その経験を遺憾なく発揮できる環境を整えています。ご自身が描くキャリアビジョンを実現するための選択肢として、当社を選んでいただけるミドル・シニア人材の方を歓迎します」  同社にはもともと、多様性を受け入れる土壌を持った企業風土がある。そこにいままではいなかったミドル・シニア世代の人材を受け入れるのは、決して高いハードルではないだろう。次の成長段階に向けて、さらに厚みを増した体制でどう挑んでいくのかに注目したい。 ★「健康経営○R」はNPO法人健康経営研究会の登録商標です。 写真のキャプション 株式会社ProVision本社 CX部の野溝駿悟課長 ミドル・シニア採用にて入社したAさん 【P23-26】 事例2 品質保証部門に経験豊富なシニアを採用 データで課題を見える化し品質管理の精度が向上 日野精機株式会社(滋賀県蒲生(がもう)郡) 設計・成形・加工・塗装・組立まですべて自社生産するものづくり企業  1978(昭和53)年7月に創業した日野精機株式会社。スピーカーの部品づくりから事業をスタートし、現在では全国の鉄道踏切に設置されているスピーカーの約80%のシェアを誇っている。創業以来、「発想無限大」をキャッチフレーズに掲げ、スピーカー以外のものづくりにも挑戦を続け、スピーカー製造でつちかった技術を活かした音響機器のほか、産業機器、医療機器などの設計から成形・加工・塗装・組立までを手がけている。製品を構成する部品の大部分を自社内生産が可能な、国内では希有なメーカーだ。2020(令和2)年には、滋賀県野洲(やす)市に精密板金・塗装を主体とした新工場を立ち上げている。  そんな同社では、2019年に内閣府が行っている「プロフェッショナル人材事業」※を通じてシニア人材を採用した。その経緯について安藤(あんどう)泰己(やすき)取締役は次のように話す。  「当社は品質保証部門の管理者の育成ができておらず、品質不良の原因の分析や未然防止の徹底が十分とはいえない状況でした。そこで、大手企業などで品質管理の経験を持ち、その経験を当社で展開するとともに、若手社員の教育・育成をになえる人材を採用すべく、プロフェッショナル人材戦略拠点の提携人材紹介会社である株式会社リクルートキャリアコンサルティングに相談をしました」  会社が抱える課題を解決するため、経験豊富なシニア人材を採用する方針を固める一方で、シニア人材の場合、豊富な知識や経験があっても、若手の指導や育成に消極的で、「聞かれるまで教えない」という傍観者のようなスタンスの人材も少なくないことから、「能動的に自ら率先して動ける人材であることを重視していた」(安藤取締役)という。また、同社の品質保証部門は、女性社員が多い職場であり、年齢や性別に関係なくコミュニケーションがとれるかどうかも、採用のポイントだったそうだ。  そんななかで採用したシニア人材が金武(かねたけ)鶴松(つるまつ)さん(62歳)だ。「『仕事を続けるかぎり最後まで製造業にたずさわっていきたい』という強い思いがあり、非常にまじめで行動力も持ち合わせている、まさに私たちが求めている人物像にピッタリと当てはまる方でした」と、安藤取締役は採用当時の思いをふり返る。 大手機械メーカーを早期退職 地元に戻って再就職活動  金武さんは58歳のとき、当時勤めていた会社が工場を閉鎖することとなり退職を決意したという。その会社は60歳定年で、再雇用制度により希望すれば65歳まで働き続けることもできたが、もともと60歳の定年退職後は赴任先の石川県から地元の滋賀県にUターンして再就職先を探す心づもりがあったこと、役職定年で管理職から降りる予定だったことなどもあり、60歳定年前での退職を決めたそうだ。  金武さんのキャリアは、まさにものづくり一筋≠セ。2回の転職を経験しているが、いずれも電気機器メーカーで、その腕を磨いてきた。  大学卒業後に入社した会社は外資系企業の日本法人。滋賀県に所在する工場でエンジニアとして半導体の製造に従事した。約24年間勤務した後、国内有数の電気機器メーカーに転職。ここでは液晶の製造にたずさわった。その後、液晶ディスプレイメーカーに活躍の場を移し、管理職として約10年間液晶ディスプレイの製造工程において品質管理をになってきた。特に赴任した工場において、国際規格ISO9001取得にあたっては、金武さんが中心的な役割をにないその取得を実現した。金武さんは「この経験は多少なりとも自信になりました」と穏やかな口調で手応えを語ってくれた。  確固たるキャリアを積み上げてきた金武さんだが、再就職活動は決して簡単ではなかったとふり返る。  「58歳で退職し、いったん区切りがついたときは、晴れ晴れした気分で『これから先はなんでもできるぞ』と希望にあふれていました。もともとエンターテインメントが好きだったので『文化ホールのようなところで働くのもよいかな』とか、『医療分野で何か貢献できることはないか』など、いろいろな思いをめぐらせました。ところが、実際に再就職活動を行うにあたって、ハローワークやリクルート(プロフェッショナル人材戦略拠点の提携人材紹介会社)で就職先を探してみると、年齢的な部分で求人の間口が狭いということがわかり、『これはたいへんだぞ』と現実を突きつけられたわけです」  実際に再就職活動を行うなかで、金武さんのような経歴をもってしても、書類選考の段階で断られることもあり、自分より若い年齢の求職者と肩を並べて応募することのむずかしさを実感したという。そんななかで、工場見学ができるという会社がいくつかあり、実際に働く職場を見ておくことは非常に重要と考えていた金武さんは、何社か工場見学を行ったうえで、日野精機に強く興味を持ったそうだ。  「ものづくりにずっとたずさわってきたこともあり、やはりメーカーで働きたいという思いがありました。日野精機の強みの一つに、必要な部品を材料からつくる『ダイキャスト』という工程があり、その機械加工や精密板金加工、組立加工のラインまで持っているのです。『この会社は何でもつくれる』という魅力を感じました。また、面談の際に福田(ふくだ)弘(ひろし)社長から『発想無限大』をキャッチフレーズにしていることを聞き、その考えにも強く惹かれました。会社が求めていた『品質管理』についても、すでにISOも取得しており、その運用も含めて、これまでの経験を活かして貢献できると思いました」  金武さんのものづくり一筋のキャリアと品質管理業務の経験は、まさに同社が求めていた人材であり、「人柄もすばらしい」(安藤取締役)ことから採用が決まり、2019年12月付けで同社品質保証室に着任した。 品質管理と品質保証の責任者として不良数減少を実現  品質保証室の業務は、「品質管理」と「品質保証」の二本の柱からなる。品質管理は、生産した製品について、製品をつくるための材料の受け入れ検査、出荷時の検査など、製造にかかわる検査業務となる。一方の品質保証は、出荷した製品に不具合があった場合の顧客対応やISOの対応が中心となる。  金武さんが入社して一年ほど経ったころ、「ちょっとまずいな」と危機感を覚える事態が起こったという。同社では、社内・社外問わず不良としてあげられた製品をすべて帳票に記載し、その件数を出しているが、2019年の一年間で不良件数が約500件だったのに対し、2020年は770件と、200件ほど急増したのだ。新工場の稼働がその要因の一つと考えられるが、金武さんはそれ以外の大きな要因を感じたそうだ。  「2019年からの3年間は、『品質改善活動』を掲げて取り組んでいたのですが、改善というよりは現状把握にとどまっており、現場任せになっているようにも見えました。そんななかで不良が急増したデータが出たこともあり『非常にまずい』と感じたのです」  不良の急増を受け、同年から金武さんが責任者として品質保証室の室長に就任。責任者となった金武さんは、まず製造現場のそれぞれの工程のどこに弱点があるのかを明らかにしようと考えた。精密板金、機械加工、塗装、ダイキャストなど、各工程における不良の発生要因の洗い出しを行った。  「それぞれの工程において弱点がわかれば、各工程のなかで具体的にどの作業に着目して改善すればよいかがわかるようになります」(金武さん)  すると、2021年は前年から100件減、2022年にはさらに50件減と、不良件数が目に見えて減少した。しかも、当初掲げていた3年間の「品質改善活動」の対象ではなかった製品にも改善活動の幅を広げて取り組んだ結果だそうだ。  安藤取締役は金武さんの仕事ぶりについて、「入社後、社内の不良の発生原因や事象を数年間さかのぼって分析してもらい、それを社内に展開し、不良率の低下に大きく貢献してくれました。また、不良発生時のアクションも早く、取引先にすぐに駆けつけて対応するなど、品質保証担当者の心構えなども含めて、若手社員の見本となるなど、育成にも大きく貢献しています」と話す。  一方で、業務の拡張などにともない、2023年以降は不良発生件数が上昇傾向にあることが課題になっているという。金武さんは今後の対策・方針について次のように話す。  「発生率という意味では2022年の水準を維持できているのですが、業務の拡張などにより発生件数は増加傾向にあります。年間の発生件数を示して改善をうながすだけではなく、例えば月・週ごとなど短い期間でとらえて、『4件↓2件↓0件』と改善状況が目に見えてわかると、作業者も成果を実感しやすいと思います。このようにデータの表し方を工夫して、最終的にはゼロにしたいです」  目標は不良の件数を目に見えて減らし、作業者に起因する不良をなくし、不良ゼロを達成すること。しかし、課題にはさまざまな要素が折り重なっているという。業務拡張だけではなく人の入れ替わりなどが要因となることもあり、そこがむずかしいところだという。教育・育成担当者とも連携しながら、不良ゼロに向けた取組みを推進していく考えだ。 大手企業から中小企業へ転職するうえで大切なこと  これまでの経験を活かし、新たな責任と役割をになっている金武さんだが、転職してきたシニア人材≠ニして、働くうえで気をつけていることや注意していることはあるのだろうか。例えば、大手企業出身のシニア人材が再就職先として中小企業を選び、そこで過去の実績をひけらかしたり、「前の会社はこうだった」などの価値観を押しつけて、周囲から反感を買うといったケースを耳にすることも多い。  「やはりその点には気をつけています。過去は過去のもので、それをそのままいまの会社に持ってきてもまったく役には立たないでしょう。それよりも、いまの現実を、いまいる社員のみなさんに対してデータで示して、どうすればよいかを一緒に考えていくことが重要だと考えて、入社以来仕事に臨んできました」(金武さん)  また、大手企業在籍時は、任される役割がはっきりしており、与えられた目の前の業務に取り組んでいればよかったが、いまはより広い範囲を見ながら仕事をしているという。  「やるべきことがたくさんあるので、たいへんではありますが、いろいろなことが勉強になりますし、それがやりがいでもあります。改善に向けてデータとともに示す私の意見に、会社も耳を傾けてくれますし、さまざまな部署がかかわりながら行うものづくりの現場は、興味深くおもしろいですね」(金武さん) シニア世代の再就職は  小さいころから機械など細かいものが組み合わさったものが好きで、いろいろとものをバラして遊んでいたという金武さん。中学校に上がるとトランジスタラジオを自分で組み立てるなど、そのころから電気機器に興味を持って、ものをつくるおもしろさに魅了され、それがいまも続いているのだそうだ。シニアが再就職をするうえでの心構えについてうかがった。  「一口にシニア≠ニいってもさまざまな方がいて、私のようにものづくりが好きな方もいれば、会社自体の仕組みをつくっていくことが好きだという方、あるいは人を育てることが好きだという方もいるでしょう。やはり最終的には、自分が好きなこと≠目ざすのがよいのではないでしょうか。それがモチベーションを維持して働くうえでの最善の道だと思います。再就職を考えて自分の好きなこと、得意なことをぜひ突きつめてほしいと思います。再就職は本当にご縁だと思います。ただ、何もせずに待っているだけでよいということではなく、自分から積極的に動いて、そのなかで得られたご縁を大切にしていくのが重要だと思います。私は本当にこの会社に入ってよかったなと思っています」(金武さん)  最後に、安藤取締役は「弊社は60歳定年ですが、金武さんは58歳で入社し、現在62歳。立場は再雇用の嘱託社員ですが、定年前の待遇のまま品質保証室室長として活躍しています。本人の体力の許すかぎり勤めていただけたらと思っています」と話し、金武さんの今後の活躍に大きな期待を示した。 ※ 内閣府事業 プロフェッショナル人材事業 https://www.pro-jinzai.go.jp 写真のキャプション 安藤泰己取締役 品質保証室室長の金武鶴松さん 【P27】 日本史にみる長寿食 FOOD 367 「日の丸弁当」の梅干しパワー 食文化史研究家●永山久夫 梅干しの不思議な力  戦中・戦後の食糧不足の時代に、「梅干し」の活躍は見事でした。  「日の丸弁当」の登場です。  アルミ製のでっかい弁当箱に、ご飯をぎっしりと詰め、真ん中にたった一個の赤い梅干し。炭水化物のほかに、おかずは酸っぱい梅干し一個。梅干しが四角い弁当箱の真ん中にあるさまは、日の丸に見えました。まさに「日の丸弁当」です。しかし、その梅干し一個の弁当を平らげると、腹の底からパワーが湧き、少々働き過ぎても、疲れを感じませんでした。  日本人にとって、おかずが梅干しだけの弁当は、不思議なパワーを生み出す弁当でした。戦後の混乱の時代を梅干しを舐めながらがんばり、見事に乗り切って、奇跡の復興を成し遂げたのです。  世界からも賞賛され、豊かになった日本人は、いまや世界でもトップクラスの長寿民族です。 戦国武士に欠かせない梅干し  梅干しは、日本人のソウルフード(魂の食べ物)と呼んでもよいでしょう。  色も鮮やかな赤色で、日本人好み。酸味もよい。日本人の大好きなお米のご飯のほどよい甘さとも、じつによく合います。  食欲も出ます。銀シャリの本当のうまさを知るには、梅干しが一番です。  それにしても、けたたましい、あの酸っぱさはどうでしょう。舐めただけで口はすぼみ、顔中の筋肉がぎゅっと縮んで、顔が一気にシワだらけとなります。  酸味のもとは、クエン酸やリンゴ酸の有機酸で、昔から梅干しの酸味を口にすると、疲労回復や食中毒の予防に役立つことが知られています。  梅干しの機能を知り尽くして、実戦に活用していたのが戦国の武士たち。当時の兵法書によく「息合(いきあい)の最上は梅なり」と出てきます。「息合」とは、息を整えることで、合戦のあとの息切れを癒し、疲労を回復させるためにも欠かせませんでした。まさに、ピンチを乗り切るために梅干しを活用していたのです。 【P28-32】 集中連載 マンガで学ぶ高齢者雇用 突撃! エルダ先生が行く!ユニーク企業調査隊 第3回 「生涯プロエンジニア○R」★という働き方で若手社員から高齢社員まで活躍する労働市場を創出 株式会社メイテック(東京都台東区) ★「生涯プロエンジニア○R」は株式会社メイテックグループホールディングスの登録商標です。 ※1 仮想空間に現実の環境や状況をリアルタイムで再現する技術 ※2 取引先との契約更新がない場合等は、グループ会社の株式会社メイテックEXに転籍し、雇用継続が可能 つづく 【P33】 解説 集中連載 マンガで学ぶ高齢者雇用 突撃! エルダ先生が行く!ユニーク企業調査隊 第3回 「生涯プロエンジニア」という働き方で若手社員から高齢社員まで活躍する労働市場を創出 企業プロフィール 株式会社メイテック(東京都台東区) 創業1974(昭和49)年 エンジニアリングソリューション事業  約8000人のエンジニアを正社員として雇用する、日本最大規模の“プロのエンジニア集団”、株式会社メイテック。大企業から新進気鋭のベンチャー企業まで、さまざまな分野・業界にエンジニアを派遣し、設計・開発領域の技術サービスを通して顧客や社会が抱える課題解決に貢献している。  定年制は設けているものの、一定条件のもと「生涯プロエンジニア」として、年齢の上限なく働ける仕組みがあり、設計・開発にかかわる「技術力」と「人間力」を磨きながら、若手からベテランまで、多くのエンジニアが活躍している。 生涯プロエンジニア  「生涯にわたってエンジニアとして活躍してほしい」という願いと敬意をこめて、60歳以上でも第一線で活躍しているエンジニアを「生涯プロエンジニア」と呼んでいる。同社の定年は60歳だが、顧客との契約が継続するかぎり、正社員として年齢の上限なく働ける仕組みとなっており、2024(令和6)年3月末時点で、延べ600人以上の「生涯プロエンジニア」が誕生。生涯にわたりエンジニアとしてものづくりにたずさわることのできる機会と場の提供に努めている。 「技術力」と「人間力」を磨く、豊富な“学びの機会”  高いパフォーマンスを発揮し、成果を上げ続けるために重要な、「技術力」と「人間力」を磨くため、600 講座以上の研修を整備。各営業拠点では、エンジニア自身が主催する勉強会も日常的に行われており、若手からベテランまで、年齢を問わず多くの人材が自己研鑽に努めている。ベテランエンジニアは、自ら学ぶだけではなく勉強会で講師を務めるなど、後進育成にも大きく貢献している。 60歳を迎えた社員に贈るオリジナル冊子  60歳を迎えた生涯プロエンジニアに向けて、同社が作成・進呈する一人ひとりオリジナルの冊子。本人へのインタビューや職歴をまとめたもので、本人やご家族にとって記念になるだけでなく、若手・中堅社員にとっても、生涯プロエンジニアを目ざしてキャリアを歩んでいくうえで参考になる内容となっている。 【P34-37】 高齢者の職場探訪 北から、南から 第144回 岩手県 このコーナーでは、都道府県ごとに、当機構(JEED)の70歳雇用推進プランナー(以下、「プランナー」)の協力を得て、高齢者雇用に理解のある経営者や人事・労務担当者、そして活き活きと働く高齢者本人の声を紹介します。 より働きやすい職場へ 変化に対応してつねに改革を 企業プロフィール 社会福祉法人みちのく大寿会(だいじゅかい)(岩手県九戸(くのへ)郡) 創業 1990(平成2)年 業種 介護保険事業。特別養護老人ホーム、老人デイサービスなど 職員数 76人 (60歳以上男女内訳) 男性(4人)、女性(14人) (年齢内訳) 60〜64歳 10人(13.2%) 65〜69歳 6人(7.9%) 70歳以上 2人(2.6%) 定年・継続雇用制度 定年65歳、希望者全員70歳まで継続雇用。以降、本人と確認のうえ運用で雇用を継続。最高年齢者は74歳  岩手県は、47都道府県のなかで北海道に次いで面積が広く、四国4県を合わせたものとほぼ同じで、関東4都県(東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県)よりも広大です。県内は、県北、県央、県南、沿岸部と、大きく四つのエリアに分けられ、それぞれ気候も主要産業も異なっています。  JEED岩手支部高齢・障害者業務課の荒川(あらかわ)賢一(けんいち)課長は、県内の産業について次のように説明します。  「県内における産業別就業者は、第3次産業が64%と高い比重を占めますが※1、農林水産業などの第1次産業も盛んで、特に水産業はリアス式海岸などの水産物の生育に適した岩礁に恵まれ、2021(令和3)年の漁業生産額はあわびが全国第1位、わかめが全国第2位、サケが全国第3位です※2。  製造業では自動車関連産業、半導体関連産業が中心となり、国際競争力の高いものづくり産業が県経済をけん引しています」  また、岩手県における70歳まで働ける企業の割合は39・5%(2023年6月1日現在)で全国第3位となっています※3。  「一方で、沿岸部では、東日本大震災以降の人口減少および高齢化が課題となっており、県内全体で見ても階級別人口構成から、高齢者の労働力に頼らざるを得ない傾向があります。そのため、事業所訪問活動では労働局、ハローワークなどの関係機関と連携して企業に働きかけるとともに、JEEDの企業診断システムを活用し、高齢労働力の活用に向けて企業内において取り組むべき課題と方向性を整理し、企業の実情に合った相談や助言、提案をしています」(荒川課長)  同支部で活躍するプランナーの一人である後藤(ごとう)真理子(まりこ)さんは、各企業の状況に応じた専門的かつ技術的な相談・助言や制度改定に関する提案を行うとともに、各企業の希望に応じて、職場管理者や中高年社員を対象とした就業意識向上研修の講師を務めるなど、高齢社員が活き活きと働く職場づくりの支援に注力しています。  今回は、後藤プランナーの案内で、「社会福祉法人みちのく大寿会」を訪れました。 故郷の笑顔を守るために唯一の特別養護老人ホームを開設  社会福祉法人みちのく大寿会は、1990(平成2)年に社会福祉法人として設立され、同年に特別養護老人ホーム久く慈平(じひら)荘を開所しました。その後、デイサービスやホームヘルパーサービス、小規模多機能型ホームを開設するなど徐々に事業を拡大して、現在では7事業を展開しています。法人基本理念に「私たちは、故郷の笑顔を守る法人になります。」を掲げて、高齢者に必要な支援を提供し、故郷に住み続けたい人やその家族を支えています。2020年には久慈平荘が開所30周年を迎え、その歩みを収めた30周年記念誌には入所者やサービスの利用者、ご家族から、たくさんの笑顔の写真とともにお祝いと感謝の言葉が寄せられました。このことからも、同法人が地域の笑顔を守り、親しまれ、信頼されてこの地域の福祉をになっていることがわかります。  同法人では、働きやすい職場づくりを目ざしてさまざまな取組みを展開しており、岩手県主催「いわて働き方改革AWARD2017優秀賞・同2018最優秀賞」連続受賞をはじめ、厚生労働省・JEED共催「令和2年度高年齢者雇用開発コンテスト」(独)高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長表彰特別賞受賞、厚生労働省主催2023年度「介護職員の働きやすい職場環境づくり」厚生労働大臣表彰奨励賞受賞などの評価を受けています。  同法人が働きやすい職場づくりに注力するようになったのは2008年ごろから。特別養護老人ホーム久慈平荘の野田(のだ)大介(だいすけ)副施設長は、「それまでは順調にできていた新規学卒者の採用が、少子高齢化の影響などから徐々にむずかしくなっていました。そこで、『いま働いている職員をもっと大切にしよう』と考え、どうすれば働きやすい職場になるのかの検討を行いました。当時は、子育て中の女性職員が多かったことから、まずは保育料の半額を補助する子育て支援手当制度を制定し、好評を得ました」とふり返ります。  以降、賃金制度改革、休暇の取得促進、人事考課の導入、住宅取得応援制度などに積極的に取り組むとともに、長く働いている職員が年齢を重ねていくなか、将来を見すえ、2019年に定年を60歳から65歳に延長し、継続雇用の上限年齢を65歳から70歳へ引き上げました。  後藤プランナーは、2016年10月に同法人を初めて訪問。「地域性、業種からも人材確保が困難であり、すでに多様な取組みを実施されていました。職場は明るい雰囲気で、職員も仕事に誇りを持ち、活き活きと働いている印象を受けました」と当時をふり返ります。そして、いくつになっても活躍することができる職場を目ざして、定年と継続雇用年齢の引上げを提案。職員の声を聞きながら、制度の改定をていねいに行っていくことなどを助言しました。  今回は、特別養護老人ホーム久慈平荘を支えるベテラン職員のお二人にお話を聞きました。 制度を活用して資格を取得  久保(くぼ)洋子(ようこ)さん(63歳)は、特別養護老人ホーム久慈平荘の開設時からの職員で、勤務歴34年の大ベテラン。現在、准看護師兼介護支援専門員として、フルタイムで週5日働いています。  仕事に必要な資格として、入職後に同法人の資格支援取得制度を活用して介護福祉士と介護支援専門員、准看護師を取得しました。資格支援取得制度は、受験勉強のための勤務調整と、受験費用とその旅費を同法人が負担する制度です。  働きながらの受験は簡単なことではなく、久保さんは6年の時間をかけてこれらの資格を取得しました。なかでも准看護師は、「2年間平日は学校に通い、週末に久慈平荘で仕事をするというサイクルでたいへんでしたが、手厚いサポートと周囲の協力があったので、がんばって取得することができました」とふり返ります。  現在は、資格と学んだことを活かして、活き活きと仕事をしています。「利用者の方から『ありがとう』の言葉が聞けたときがやはりうれしく、原動力になります」と話します。  職場は休暇が取りやすく、お互いさまの精神で支え合うことができ、「休暇後は、次からまたしっかりがんばろう、という気持ちになります。働けるうちは、働いていたいです」と笑顔で話してくれました。  野田副施設長は、「業務に看護職が必要になることから資格取得を奨励したのですが、期待に応えてくれました。周囲への気配りやコミュニケーションもよくとって、いつもしっかり仕事をしてくれる存在です」と久保さんをたたえます。  源田(げんだ)ゆきえさん(63歳)も、入職後に資格取得支援制度を活用して介護福祉士、介護支援専門員の資格を取得しました。そして、それらの資格を活かして、久慈平荘で介護主任兼介護支援専門員として、フルタイムで週5日働いています。保育士などの経験を経て、36歳のときに入職し、勤続27年です。  「介護職はむずかしさも楽しさもあります。利用者のことを第一に考え、また、同僚のことも考えながら仕事をして悩むこともありますが、最後は結局利用者や職員に助けられています。利用者から『ありがとう』といわれたときは、この仕事をしていてよかったと心から思います」と明るい表情で話す源田さん。  以前は介護福祉士として夜勤もこなしていましたが、介護支援専門員も兼任していることから、野田副施設長のすすめで、体力的な負担を軽減するため60歳を過ぎてからは日勤のみになったそうです。  また、「健康経営○R(★)の取組みの一環で、職員の健康管理のため、歩行推進やオンラインのヨガ教室に参加できる機会がありますので、積極的に参加しています。体調を管理して、いつまでも働けるようにしたいです」と今後の働き方を話してくれました。  野田副施設長は源田さんについて、「バイタリティがあり、幅広く仕事を任せられる存在です。長く働いてほしいと思い、60歳過ぎから夜勤をなくし日勤のみで働いてもらっています」と人柄と期待を語りました。 地域総動員で取り組む環境をつくる  定年と継続雇用の上限年齢を引き上げたほかにも、年齢にかかわりなく評価制度があり賞与に反映していること、短時間・短日数勤務など希望に合った柔軟な働き方ができること、例えば「シーツ交換のみ」といった得意なこと・できることで仕事に就ける環境があること、相談しやすい職場風土があることなど、いくつになっても働きやすい職場づくりが実現されています。  「過疎地域ですので、総動員でやっていかないと立ち行かなくなります」と野田副施設長。法人として、住宅取得支援制度で地元に住む住民を増やすことに協力したり、地域の学校と連携して福祉教育などにも取り組んでいます。  後藤プランナーは、「2019年に高年齢者雇用開発コンテスト(現・高年齢者活躍企業コンテスト)へ応募した際は、20年ほど前から労務管理において取り組まれていることを年表形式で整理し、取組み内容とその効果を具体的に確認していきました。すると、若手人材の離職率減少などの効果が確認できた取組みもあり、コンテストの応募資料のまとめをお手伝いしながら、将来的な職員の高齢化を見すえたうえで、高齢職員の活用の重要性を共有することができました。コンテストに応募した理由は『職員の誇りになると考えてのこと』とのことで、つねに、職員のやりがいと誇りを大事にしている職場だと思います」と同法人の取組みを称賛します。  野田副施設長は、「後藤プランナーに専門家の目で取組みのポイントを整理していただくなかで、あらためて学ぶことがあり、有意義なチャレンジになりました。どういう職場が働きやすいのか。これからも、さまざまな変化に対応し、改革を止めることなく、よりよい職場づくりに努めていきたいと思います」と明るく語ってくれました。  挑戦し続ける職場の今後にも注目したいと思います。(取材・増山美智子) ★「健康経営○R」はNPO法人健康経営研究会の登録商標です。 ※1 岩手県「県民経済年報」(2022年) ※2 農林水産省「海面漁業生産統計調査」(2023年) ※3 岩手県労働局「令和5年『高年齢者の雇用状況等報告』の集計結果」(2023年) 後藤真理子プランナー アドバイザー・プランナー歴:8年 [後藤プランナーから] 「人材不足が課題となるなか、地方の中小企業においては業種を問わず積極的に高齢者を活用していかなければならない状況にあると考えています。戦略的に高齢者を活用していくためにも、ていねいにヒアリングを行い、課題を共有することを心がけています。そのうえで課題解決に向けて、同業他社事例などの情報提供を行い、高齢者活用のメリット、配慮すべき事項などをお伝えしています」 高齢者雇用の相談・助言活動を行っています ◆岩手支部高齢・障害者業務課の荒川課長は後藤プランナーについて、「特定社会保険労務士の資格を持ち、とりわけ人事労務管理の分野に精通しています。プランナーとして、JEED が岩手県内で開催する地域ワークショップの講師や就業意識向上研修などにも積極的に取り組んでいます」と活躍状況を話します。 ◆岩手支部高齢・障害者業務課は、JR盛岡駅から徒歩約15分、県庁所在地である盛岡市中心街・菜さい園えん地区のビル内にあります。近隣には盛岡城跡公園や石割桜などの観光スポット、岩手県庁や盛岡市役所などの行政機関、複数の映画館や飲食店が並ぶアーケード街などがあります。同じビルには、ハローワーク盛岡菜園庁舎も入居しています。 ◆同県では、7人の70歳雇用推進プランナーが活動しており、2023(令和5)年度は421件の相談・援助を実施、76件の制度改善提案を行いました。 ◆相談・助言を無料で行っています。お気軽にお問い合わせください。 ●岩手支部高齢・障害者業務課 住所:岩手県盛岡市菜園1-12-18 盛岡菜園センタービル3階 電話:019-654-2081 写真のキャプション 岩手県九戸郡 みちのく大寿会の法人理念「私たちは、故郷の笑顔を守る法人になります。」 特別養護老人ホーム久慈平荘の野田大介副施設長 准看護師として、特別養護老人ホームで入所者の血圧測定をする久保洋子さん 特別養護老人ホームに入所する女性に話しかけながら、髪を整える源田ゆきえさん 【P38-39】 第94回 高齢者に聞く生涯現役で働くとは 日本綜合警備株式会社 交通誘導警備員 上野(うえの)敏夫(としお)さん  上野敏夫さん(87歳)は、交通誘導警備員としていまも現場に立ち続けている。かつては長く縫製の仕事をしていたが、それまでまったく縁のなかった警備の世界に入って27年が過ぎた。そのパワフルな働きぶりはマスコミでも紹介され、いまや時の人となった上野さんが、生涯現役の極意を語る。 縫製の仕事に没頭した日々  私は群馬県で生まれました。生家は農業と林業を兼業しており、農業といっても自分たちで食べる程度の規模でしたから、白米は6割であとは麦とサツマイモで空腹を満たしました。5人兄弟の長男で本来なら家の仕事を継ぐところですが、ありがたいことに高校に通わせてもらえました。当時、高校まで進めたのは同級生の1割程度でしたから、進学させてもらったことに感謝しながら自転車で1時間かけて通学しました。  20歳のとき、東京都小平(こだいら)市で縫製の仕事をしていた叔母を頼って上京。その少し前に家内と出会ったのですが、周囲に結婚を許してもらえず、駆け落ち同然で郷里を出ました。とにかく二人分を稼がなければならないので叔母の縫製工場で一生懸命働きました。  縫製の技術は見よう見まねで覚えました。がんばって働き続けたかいあって、十年後には独立して、自分の工場を持つことができました。おもに子ども服や当時の女性の定番であったプリーツスカートを縫製しました。そのころ売り出し中の著名なデザイナーから注文をもらったこともありますし、航空会社の制服も手がけました。当社の洋服が銀座通りの店に飾られたこともあり、おもしろいようにお金が稼げた時代でした。  「駆け落ち」という言葉を久しぶりに聞いた。その話をするときの上野さんは、少年のようにはにかんだ。高齢の交通誘導警備員としてマスコミから熱い視線を浴びる上野さんの魅力はこの笑顔にあるに違いない。 人生下り坂でも前を向いて  いま思えば、私は人生を少し甘く見ていたかもしれません。とにかくおもしろいように儲かって、1970(昭和45)年開催の大阪万博には職人全員を引き連れて出かけたものです。豪勢な社員旅行でした。私自身このころは、家事や育児は家内に任せっぱなしで、週に1回はゴルフ場に通うなど勝手し放題。毎日午前様を気どっていました。  しかし、バブルはやがてはじけます。あっという間に業績が悪化して、59歳で会社をたたむことになりました。残ったのは家と工場のローンだけでした。人生というものは下り坂になれば本当に速いです。家族が食べていくために次の仕事を求めて公共職業安定所(ハローワーク)に通いましたが、60歳目前では簡単に仕事は見つかりませんでした。専業主婦だった家内は野菜を扱う市場で働き始めてくれました。幸いにも、そのころ警備業界が人手不足で高齢者でも募集があることを知り、すぐに応募したところ採用してもらいました。自宅から近いところに会社があることにも縁を感じました。縁がつながり、気がつけば、もう27年間お世話になっています。  上野さんが60歳で第二の人生のスタートを切った日本綜合警備株式会社は、1977年の創業以来、質の高い「安全の実現」を合言葉に業容を拡大してきた。「創業者は厳しいが面倒見のよい人だったからいまがある」と上野さんは語る。 交通誘導警備員という仕事に誇りをもって  私に与えられたのは交通誘導警備員という仕事でした。年齢に関係なく働ける職場はありがたかったのですが、いざ働いてみると、想像以上にたいへんな仕事でした。交通誘導警備とは、建設現場などに機材や資材を搬入する際、一般の通行者と作業員の安全を確保し、円滑な交通整理を行い、工事がスムーズに進行するようサポートするものです。研修を終えて現場に出たものの、最初のうちは車の誘導がなかなかうまくできなくて、叱られてばかりいました。猛暑のなか、あるいは雨が激しく降る日でも紅白の旗を手に持ち、朝から晩まで立ち続けなければならない激務ですが、通行者や作業者の安全を守っているという誇りが支えになりました。  体力勝負ですから、私の生活スタイルも次第に変わっていきました。晩酌をやめ、煙草もきっぱりやめました。  勤め始めて10年が経ったとき、家内に肝硬変が見つかりました。余命4年を告げられながら7年間の闘病ののち他界しました。若くして駆け落ち同然で郷里を飛び出してから苦労のかけっぱなしでした。新しい職場に早く慣れなければと、自分のことに夢中で、会社をたたんでからずっと青物市場で早朝から働き続けてくれた家内を思いやる余裕がなかったことが、いまも悔やまれてなりません。 いつまでも旗を振り続けることを夢見て  一人暮らしになって初めて家内のありがたみを知りました。不思議なもので「感謝」ということをつねに考えるようになり、自然に仕事の場面で活かされていきました。ドライバーに赤旗を振って止まってもらうとき、「止まれ」ではなく「止まっていただけますか」というお願いの気持ちをこめるようにしたのです。そして、止まってくれたときと発車のとき、いつも2回お辞儀するようになりました。感謝の気持ちというものは必ず通じるようです。すべて家内に教わりました。  通行されるみなさんには、わかりやすい言葉で話しかけるように心がけています。特にお年寄りにはていねいに。私のほうが年上だったりしますけれど、笑顔を添えて話しかけています。子どもたちはとても率直で「おじちゃん、ありがとう。これからもがんばってね」などと声をかけられると本当に天にも昇るような心地になります。安全を守るという仕事に就いている喜びがここにあります。  身体が丈夫なのが自慢でしたが、3年前に大動脈解離が見つかってからは、勤務時間を短縮させてもらっています。健康診断で異常が見つかったのは幸いでした。身体の3カ所に人工血管が入っています。不整脈も見つかったので、いまは週末と水曜日が休みの週4日勤務です。  勤務のある日は5時に起床し、弁当をつくって6時半には家を出て現場に向かいます。ここ30年間ほど朝食は摂っていません。そのほうが私は体調がよいのです。昼休みは1時間もらえるので、弁当を食べたら少し仮眠をとるようにしています。自分に合ったリズムが健康には一番だと思っています。  仕事から帰って真っ先にやることは旗の洗濯です。薄汚れた旗を振っているのをだれかに見られたら、私というよりは会社、さらには業界全体のイメージが悪くなってしまいます。この年になるまで働かせてもらっている会社や業界に、少しはお役に立ちたいと思っています。  叶うならば生涯現役で旗を振りながらパタッと死んで、家内のところに行きたい。ちょっとカッコよすぎるでしょうか。 【P40-43】 “学び直し”先進企業に聞く! 第2回 東京海上日動火災保険株式会社  「人生100年時代」に向け、社員の学び直し≠積極的に後押しする企業を紹介する本連載。第2回は、「東京海上日動版ライフシフト大学」などのプログラムで、中高年人材のリカレント教育に力を注ぐ、東京海上日動火災保険株式会社にご登場いただいた。生涯現役を可能にする学び直し≠ヨと、社員の意識をいかにして高めるか―。取組みのポイントについて聞いた。 社員数約1万6000人 「エイジフリー」の活躍を後押し  日本最大手の損害保険会社として知られる東京海上日動火災保険株式会社(東京都)。2004(平成16)年10月に、旧東京海上と旧日動火災が合併して現会社が誕生し、20年の節目を迎えるが、創業自体は明治時代にまでさかのぼる。自由闊達な社風で、大学生の就職先人気ランキングでも上位の常連だ。  社員数は2023(令和5)年3月末現在で1万6645人。定年は60歳。60歳以降は「シニア社員」として1年更新で65歳まで再雇用。現在、60歳以上のシニア社員はおよそ900人となっている。  同社では、シニア社員の活躍をうながし、自律的にキャリア開発を行ってもらうために、おもに二つの制度を導入している。一つ目は「シニアお役に立ちたい」。社内公募でシニア人材を募り、人員が不足している地方部署などに派遣し、当該職場をサポートするとともに、シニア社員がこれまでつちかってきた経験・知識を元に交流することで、組織力を高めていく制度となっている。二つ目は「シニア戦略ジョブリクエスト制度」。高度な専門性や知識・経験が求められるポストについて、シニア人材の社内公募を行い、シニア人材が蓄積してきたノウハウや知見を活かす仕組みだ。いずれも年々、社内公募数、応募者ともに増えてきているという。  「年齢にかかわりなく活躍していただきたいという意味で、会社として『エイジフリー』を掲げてきました」と話すのは、同社人事企画部の部長で、キャリアデザイン室長を兼務する山本(やまもと)泰浩(やすひろ)氏。  「人生100年時代を見すえ、『ライフシフト』の考え方が浸透しつつあるなか、会社としても、社員の能力開発や自己研鑽の機会の提供に取り組み、エイジフリーで活躍する社員を後押ししようと考えています」と語る。  その取組みの一つとなるのが、「東京海上日動版ライフシフト大学(以下、「東京海上日動版LSU」)」だ。 リカレントプログラムで「ミドル層のさらなる成長」を支援  東京海上日動版LSUは2021年10月に開講。「学び直しを通じて自分自身を内省し、自律的キャリア開発のためのマインドを養うとともに、具体的アクションに繋げ、変化対応力を備える」ことがプログラムのコンセプトだという。同社で活躍しているミドル層社員の学び直し、さらなる成長を支援するのが目的だ。  プログラムは、株式会社ライフシフト(東京都)の協力のもと開発された。同社は、ミドル・シニア層のセカンドキャリア形成に特化した教育機関である「ライフシフト大学」を運営している※。同大学が一般のミドル・シニア人材に提供している学び直し・リカレントプログラムを、東京海上日動向けにカスタマイズし、新しいプログラムとして創設したのが東京海上日動版LSUとなる。  東京海上日動版LSUのプログラムは、全8回、各回3時間のリアルタイム講義と、「ミドル・シニア学び放題」と銘打ったeラーニング講座などで構成されている。対象は、42歳から57歳のミドル層社員(2024年度より40歳から59歳に拡大)。定員は20人程度で、例年4月ごろから募集をし、7月から9月にかけて開催する。  リアルタイム講義は、「夜に実施することも検討しましたが、夜は業務の影響で参加できないなど、中途半端になってしまう可能性もあるので、土曜日にしました。また、家庭がある人などへの影響も考え、講義時間も3時間にしています」と、山本室長。社員が参加しやすいプログラムになるよう、検討を重ねたという。 何を学べばよいかわからない―― 学び直しへの「きっかけ」を提供  「『学び直し』に注目が集まるなかで、おそらく多くの人が『学ばなければいけない』と考えていると思います。しかし、仕事が忙しい、子育てや介護があるなど、さまざまな理由から学ぶ時間がとれない、考える時間すらないという人が多いのも現実」というのが、山本室長の見解だ。「まずは『何を学んだらよいのかわからない』という人に、学ぶきっかけを提供したい」という思いから、東京海上日動版LSUについては、専門特化型ではなく「さまざまな分野について『きっかけ』になるような内容」を意識しているそうだ。  2024年のプログラムを見てみよう。「マインド」、「知恵」、「健康」、「評判」、「仲間」の五つをテーマに、イノベーターシップやキャリア戦略、マインドフルネスやウェルビーイング、セルフブランディング、ロジカルシンキングなどの内容がリアルタイム講義に盛り込まれている(図表)。2024年からは新たに「知恵」をテーマとした講義で、「未来を考えるための視点として、歴史や哲学に関する内容も学ぶのが特色の一つ」(山本室長)だという。  そのうえで「プラスα」のコンテンツとして、見たいとき、学びたいときにオンデマンドで視聴することができる、eラーニング講座も開設。内容は@ライフシフトプランニング、Aミドルシニアロール、Bイノベーション、C未来を考える力、の4カテゴリーで、各カテゴリーの講座数は10〜16。いずれも20〜30分程度にコンパクトにまとめられており、例年「予想以上に視聴されている」(山本室長)そうだ。前年までの実績では、1人あたり10時間以上視聴している計算になるという。 「新たなマインドセットができた」 「会社を退職後も人生は続く」  東京海上日動版LSUの受講費用は計12万5000円。すべて受講者が負担する。「自己負担してでも学ぼうということなので、意識が高い人が集まっているという面はありますが、しっかり勉強をしていただいて、すばらしいと思います」と、山本室長。受講者を対象に、プログラムの満足度について調査した結果によると、受講者のうち半数以上が満足度「10点満点」で、全員が8点以上、平均は9.4点という結果だった。  東京海上日動版LSUのスタートから3年間で、受講した社員の数は計約60人。そのうちの2人に、プログラム受講の感想をうかがった。 A社員(54歳) ◯所属・役職/Y支店・企業営業チーム、マネージャー ◯参加理由/「メンバーを指揮する・鼓舞する・よい影響を与える」という役割にあるリーダーとして、最新の確立されたビジネス理論と自身の経験を融合させる意義・重要性を強く感じたためです。また、「人生100年時代」において、文字通り折り返し年齢を過ぎた時点で、公私ともにこれまでの人生をふり返る絶好の機会だとも思いました。当時の勤務地(北海道)から、休日にオンラインで受講できるという利便性も参加の決め手になりました。 ◯受講した感想/全8回にコンパクトにまとめたプログラムで、効率・効果的に学び、深く考えるきっかけも得られたと思います。特に自身の持つ強みに気づき、半生を「心の充実度」という切り口でふり返ったことで、自分の想いを再確認し、公私ともに新たなマインドセットができたと思います。お金の重要性にもあらためて気づかされ、国家資格の1級ファイナンシャル・プランニング技能士を取得することもできました。 B社員(47歳) ◯所属・役職/Z支社、支社長 ◯参加理由/以前に別のビジネススクールを受講して刺激を受けるとともに、学び続けることの大切さを実感していたなかで、東京海上日動版LSUが開講することを知り参加しました。社会人経験は長くなってきてはいますが、「このままでよいのか」といった漠然とした将来への不安があり、変化の激しい時代において、自らが変化したり学んだりできる環境を求めていたのではないかと思います。 ◯受講した感想/会社員人生が終わっても、その後の人生は長く続くこと、そして10年、20年後の将来について、いまから考えておく必要があることを実感しました。変化の激しい時代だからこそ学び、チャレンジし続けることが大切です。そのためには健康が重要だと思い、体調管理にも非常に気を遣うようになりました。健康について体系的に学ぶため「日本健康マスター検定」のエキスパートコースの受験を決意し、合格することができました。 「50研修」で醸成する学び直し≠ヨの意識  成果をあげつつある東京海上日動版LSUだが、同社にとってはミドル層社員向けの研修体系の一部であり、40代・50代の社員に学び直しや自己研鑽(けんさん)の機会を提供する取組みは、ほかにも重層的に行われている。  まず研修体系の第1ステップとなるのが47歳に到達した社員を対象としていることから「47歳研修」と呼ばれ、長く実施されてきた「人事制度説明会」だ。研修には47歳を迎えた全社員が参加し、ミドル・シニア向けの人事制度に関する説明が行われる。年金や退職金に関することや、セカンドライフ支援制度(早期退職等)など、いわば「今後の人生のために、知っておくべきこと」を学ぶ場となっている。  次のステップが「キャリアデザイン50研修」。以前は、47歳研修と同様、50歳研修を必須で実施していたが、「キャリア選択は自律の時代。全員に一律の研修を受けさせることはやめ選択制としました。いまは、今後のキャリアに向けて、まだ一歩をふみ出せていない人、自分の取組みでは足りないと感じている人に向けて、研修を行っています」(山本室長)  研修の対象となるのは、50〜57歳の社員(2024年度より50〜59歳に拡大)。毎年、希望者を募り、各回定員20人で年8回、計約160人が参加している。各回とも、4時間の研修2回で構成。1回目は、自分を理解すること、内省をうながすような内容が中心で、例えば「欲求」について考え、「自分は何をしたいか」の原点に立ち返ったり、自分の能力、経験の棚卸しを通じ、「自分に何ができるか」を考えたりするそうだ。  2回目の研修は、1回目の2週間後に実施される。1回目から2週間の時間をおき、その間に「自分が今後、何をしていきたいか」などを考える時間を設けているのがポイントだ。2回目の研修では、考えたことをふまえアクションプランを作成する。「『まずは最初の一歩から』、『小さな目標からでも始めよう』ということで、アクションプランを作成します。現実として、何から始められるかを考えるきっかけになればよい」(山本室長)と、研修のねらいについて話した。 「第一歩」へ背中を押す―― 学び直し≠ナの会社の役割  東京海上日動版LSU、キャリアデザイン50研修はいずれも、受講者から好評を博しているが、「いま、受講している人も、社員の分母からすれば決して多いというわけではありません。もっと会社のなかで、リスキリング、学び直しの裾野を広げてムーブメントにすることが課題だと思います」(山本室長)  山本室長自身、キャリアデザイン室を運営するにあたり、「自分も学び直しをしなければ」と考え、キャリアコンサルタントの国家資格取得に挑戦。専門機関の講習会に参加し学びの輪に入るなかで、自ら費用をかけ、時間をかけて学んでいる人の多さに、刺激を受けたという。  「私たちの世代、少なくとも入社当時の私には、勉強の機会や研修は会社が与えてくれるもので、会社がレールを敷いてくれるという感覚がありました。いまでは社内にも自ら学んでいる社員はたくさんいますが、会社全体で学び直しの大きな流れをつくっていく必要があると感じています」(山本室長)  社内に学び直し≠フ文化を根づかせるために、大切だとするのが「きっかけづくり」。キャリアについて考え、学び直しのきっかけにもしてもらおうと、同室はこのほど、同室社員によるキャリア相談をスタートさせた。  山本室長は、「キャリア自律ということで、『自分で考えるべきだ』という考え方もあるかもしれませんが、スタートはやはり、背中を押してあげることが大事」と強調する。会社が背中を押すことで、「生涯現役につながるような意識をもってもらいたい。社内で『これからも、しっかりがんばっていこう』という人たちを、1人でも多くしたい」という思いだ。 ※ 『エルダー』2022年12月号特集「いまだからこそ学び直す」参照   https://www.jeed.go.jp/elderly/data/elder/book/elder_202212/index.html#page=8 図表 東京海上日動版LSUの講義プログラム(2024年) テーマ 概要 1 マインド VUCAの時代に生き残るためのイノベーターシップ イノベーターシップの総論と学び方を学習します。創造のためには過去の経験をアンラーニングし、自分の未来への思いを描くことが大切です。イノベーションマインドを呼び覚まします。 2 マインド 人生100年時代のキャリア戦略 変身資産確認@ 人生100年時代の現実を認識したうえで、自分が本来持っている強みに気づき、これからのキャリアのビジョンを描きます。その実現のための自身の力(変身資産)を確認します。 3 知恵 問題解決のための思考力を磨く 意思決定、論理思考、問題解決力など、ビジネスに求められる基本的能力をおさらいし、ミドルシニアとしてしっかり応用が効くスキルを再構築します。 4 健康 マインドフルネス・ウェルビーイング 心身ともに健康であってこその人生100 年。マインドフルネスやウェルビーイングの極意を得てご自身の健やかなライフシフトに向けての実践方法を理解します。 5 評判 セルフブランディング力(自己PR力) 第二の人生を切り拓くための自己PR力を高める具体的なノウハウを学びます。将来のキャリアの方向性を見定めセルフブランディング力を高めます。 6 知恵 未来を考える力 ミドルシニアのための教養講座 グローバル世界と日本についての歴史や哲学のおりなす背景、また主観を鍛えるアートなどミドルシニアに相応しい教養を学ぶ新たな視点を身につけます。 7 仲間 ミドルシニアのコミュニケーション力 ミドルシニアに求められる「支援型リーダーシップ」の重要性を認識するとともに、必要なコミュニケーションスキル(共感力/傾聴力/モチベート力/コーチング力)を実践的に学びます。 8 まとめ 変身資産確認A 並行 キャリア・コーチング ・個人別に2回(各回30分) 並行 オンライン自主学習 ・ライフシフト大学オンライン(WEBシステム)を6カ月利用(7月〜12月末) ※学習動画(ミドル・シニア学び放題:全48講座)、ジャーナリング(学習振返り)、セルフコーチング(日記) ○c 2022 LIFE SHIFT INC All Rights Reserved. 写真のキャプション 人事企画部 部長兼キャリアデザイン室長の山本泰浩氏 【P44-47】 知っておきたい労働法Q&A  人事労務担当者にとって労務管理上、労働法の理解は重要です。一方、今後も労働法制は変化するうえ、ときには重要な判例も出されるため、日々情報収集することは欠かせません。本連載では、こうした法改正や重要判例の理解をはじめ、人事労務担当者に知ってもらいたい労働法などを、Q&A形式で解説します。 第73回 高齢者の契約更新と期待可能性、賃金の不利益変更 弁護士法人ALG&Associates 執行役員・弁護士 家永勲 Q1 他社を定年退職した高齢者を雇用する際に留意すべきことは何ですか  人材の不足が続いていることから、自社内での定年後の再雇用だけでなく、他社において定年を迎えた高齢者についても、有期雇用の社員として採用を始めました。定年後再雇用の労働者と基本的には同一の業務を任せて、おおむね3年から5年程度の期間で契約を終了することを予定しています。何か留意しておく事項はありますか。 A  無期転換権の適用を除外することができないことに留意する必要があるほか、労働契約更新の期待を自社の実情を考慮して、適切な記載にしておく必要があります。また、更新拒絶の可能性がある場合には、事前に更新の基準などを説明しておくことが望ましいでしょう。 1 人材不足と高齢者雇用のニーズ  物流や建設業界などでは、「2024年問題」と呼ばれている働き方改革による時間外労働の上限規制の適用開始もあいまって、一人あたりの時間外労働時間数を減らさなければならず、人材不足をいかにして補っていくのかという課題に直面している事業者も多いようです。  物流・建設業界が特に取り上げられることが多いですが、これらの業種にかぎらず、人材不足に悩みを抱えている企業は増えているように思われます。  定年後の再雇用については、これまでに触れてきている通り、高年齢者雇用安定法に基づき、65歳までの継続雇用については、解雇事由に該当するような事情がないかぎりは、雇止めは認められず、70歳までの継続が努力義務として定められているところです。なお、定年後の再雇用においては、第二種計画認定を受けておくことによって、労働契約法第18条に基づく無期転換権の適用を除外することが可能となっています。  他方で、自社で定年を迎えていない高齢者の採用については、定年を超えた年齢で採用しているかぎり、第二種計画認定によって無期転換権の適用を除外することができません。また、定年後の継続雇用とは異なるため、65歳未満であっても、高年齢者雇用安定法により65歳までの継続雇用が保障されるわけでもありません。  このように、自社で定年を迎えた労働者の継続雇用であるか、それとも、他社で定年を迎えた後に採用した高齢者雇用であるのかという違いは、65歳までの継続雇用や無期転換権の適用除外が可能であるかといった点に相違があるため、まったく同じような取扱いをしていくことが適切とはかぎりません。  他社を定年退職した高齢者を雇用する場合には、有期雇用契約の更新基準や更新に向けた評価、面談などについて、継続雇用してきた労働者以上に気をつけておく必要があると考えられます。 2 高齢者に対する雇止めに関する裁判例  大手信託銀行を定年退職した労働者(入社時66歳)が、ハローワークを通じて入社した企業において、契約を合計3回更新して、通算3年2カ月の間、有期雇用契約を継続していたところ、社員の若返りを図りたい旨を口頭で伝えたうえで、担当していた業務への社内からのクレームがあること、担当業務が実施されていなかったこと、居眠りおよび年齢を理由として雇止めを行う旨を通知したところ、これに不服をとなえて訴訟に至ったという事案があります(東京地裁令和3年2月18日判決)。  他社を定年退職して入社してきた有期雇用の労働者ですので、高年齢者雇用安定法による保護対象ではありませんが、通常の有期雇用契約と同様に、更新に対する期待が合理的であるか、反復して更新されており無期雇用の労働者と社会通念上同視できる場合には、雇止めについて、有期雇用契約の継続を主張することができます。ただし、雇止めに客観的かつ合理的な理由があり、社会通念上相当である場合には、労働契約は期間満了をもって終了することになります(労働契約法第19条)。  この事件では、採用時の求人票には、「契約更新の可能性あり(原則更新)」と記載されており、年齢による更新上限や定年制の規定がなかったうえ、年齢も70歳に至っていないという事情がありました。また、原則更新との記載を打ち消すような、更新上限や最終更新時期、業務遂行状況を評価したうえでの雇止めの可能性などについて具体的な説明も行われていませんでした。これらの事情を理由として、裁判所は、「原告において本件労働契約の契約期間の満了時(平成31年3月31日の満了時)に同契約が更新されるものと期待することがおよそあり得ないとか、そのように期待することについておよそ合理的な理由がないとはいえず、本件労働契約は労働契約法19条2号に該当する」と判断し、雇止めが制限されると判断しています。  したがって、雇止めに関して、客観的かつ合理的な理由と社会通念上の相当性が必要となるのですが、裁判所はその判断をする前に、労働者の期待について、「原告が、平成31年3月31日の満了時に同契約が更新されることについて強度な期待を抱くことにまで合理的な理由があるとは認められず」という理由をつけ加えています。労働契約法第19条2号の要件においては、合理的期待の有無であって、その程度は判断基準とは直接関係はありません。にもかかわらず、裁判所が「強度な期待を抱くこと」について合理的な理由はないと触れているのは、雇止めにおける客観的かつ合理的な理由および社会通念上の相当性の判断基準を低く設定する意図があったものと考えられます。  実際、この事件では、労働者による業務上の不備がさまざま指摘されたうえで、「本件労働契約は、労働契約法19条2号に該当するものの、被告が原告の更新申込みを拒絶することが客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当であると認められないとはいえないから、原告の更新申込みを被告が承諾したものとはみなされない」として、雇止め自体は有効であると判断して、労働者側が敗訴しています。  この裁判例からは、他社を定年退職した高齢者を雇用するにあたって、更新の可能性に関して、「原則更新」といった記載をしておくことは、更新に対する合理的な期待が認められる可能性を高めることになることには留意する必要があるでしょう。また、現在は、更新上限回数を労働条件通知書に記載する必要がありますので、定年後再雇用者と同程度の期間を想定するのであれば、70歳までもしくは5回を上限とするなど、労働条件通知書や雇用契約書に記載する事項についても、継続雇用の労働者以上に気を配る必要があると考えられます。 Q2 業績悪化による賃金減額・手当の廃止を検討しているのですが、注意点はありますか  会社の業績などを考慮すると、昇給を継続することができず、むしろ手当の削減や給与制度全体の見直しが必要な状況にあると考えています。廃止すべき手当について、どのように選別していくとよいのか、また、削減するにあたって、気をつけるべき点があれば教えてください。 A  不利益変更の必要性のほか、全体的な不利益の程度を試算し、不利益緩和措置を行うこと、労働組合などとの協議を行い条件を調整すること、協議については回数を重ねて行い、譲歩の余地があれば会社から提案するといったプロセスを経て、最終的な変更に至ることが重要となります。 1 賃金の不利益変更  支給する賃金を個別にではなく、全体的に見直すことを予定している企業において、就業規則の不利益変更に関する配慮は避けることができません。  労働契約法第10条は、就業規則により労働者の労働条件を不利益に変更することについて、合理的なものでなければならないと定めています。したがって、不利益変更の合理性がどのような観点から認められるのか検討する必要があります。合理性判断にあたって考慮される内容は、以下のような事項とされています。 @労働者が受ける不利益の程度 A労働条件変更の必要性 B変更後の就業規則の内容の相当性 C労働組合等との交渉の状況 Dその他就業規則の変更に係る事情  ただし、労働契約において、労働者および使用者が就業規則の変更によっては変更されない労働条件として合意していた部分については、合意によらないかぎり変更することはできません。  会社の業績などを考慮して、賃金制度の見直しを行うということは、会社の現在の業績と昇給ができないという事情が、A労働条件変更の必要性ということになります。決算書をふまえた資産の状況などを考慮して、切実な必要性が認められるのか、そうではないのかということが検討されることになります。賃金に関する不利益変更を有効と認める裁判例では、「高度の必要性」(例えば、破産または清算するか、賃金減額するか選択せざるを得ないほどの必要性)が求められ、なかなか変更が有効とは認められていません。  次に、手当の削減の金額やそれに対する経過措置を置くかどうかといった点が、@労働者が受ける不利益の程度や、B変更後の労働条件の相当性として考慮されることになります。なお、ある手当を削減しつつ、ほかの条件を引き上げることで実質的に不利益ではない状態を整えたとしても、部分的な不利益変更があるかぎりは、就業規則の変更には合理性が必要となると考えられており、ほかの条件の引上げはB変更後の就業規則の内容の相当性において考慮されるにとどまります。  また、近年で重視される傾向にあるのは、C労働組合などとの交渉の状況です。労働組合がない場合には、労働者たちに対する説明会の実施や労働者から選ばれた過半数代表者との協議などがこの要素として考慮されることがあります。  さらに、Dその他就業規則の変更に係る事情としては、社会一般の状況や代償措置の内容、その他の労働条件の改善状況などが含まれると考えられています。 2 手当廃止と経過措置による不利益変更  今回は、特殊業務手当という手当を廃止するために、基本給などの昇給措置をとり、廃止にあたっては経過措置として20%ずつ実施した事案において、賃金減額の不利益変更が有効と認められた事案を紹介します(東京地裁立川支部令和5年2月1日判決)。  当該事案は、病院を運営する法人において、精神病棟に勤務する職員のみに特殊業務手当が支給されていました。その理由は、過去の制度において、精神病棟に執務することの負担を考慮して、支給するものとされていたからでした。  他方で、現在では、精神病棟のみならず、一般病棟においても精神病患者を受け入れているなど、かつてほどの相違がなくなっていたことから、特殊業務手当の廃止を決断するに至ったという背景があります。  また、約7年間経常収支が赤字の状態が継続しており、給与制度の適正化を含む取組みにより黒字化や繰越欠損金の削減を図ることが、厚生労働大臣より求められている状況から、労働条件変更の必要性が肯定されています。  なお、特殊業務手当について、4年の経過措置で廃止すること(1年25%ずつの削減)を提案していたところ、労働組合との交渉の結果、5年(1年20%ずつの削減)に変更したうえで、地域手当や基本給などほかの賃金項目の引上げなどにより不利益性を緩和した結果、賃金変更の合理性が肯定されるという結論になっています。  なお、多くの裁判例において、賃金の不利益変更については、「高度の必要性」がないかぎり、有効とは認められにくかったのですが、この裁判例では、「高度の必要性」はなくとも変更の合理性を認めたという点に特徴があります。  そのような結論を導いた背景としては、精神病棟の職員のみに支給すべき事情が失われていたこと、減額の幅が最大でも3.92%程度にとどまっていたこと、労働組合との協議が2カ月という短期間に5回と多数回行われたうえ、協議以外の場においても交渉を行い、双方の条件を調整するための提案を行っていたことなどが考慮されています。なお、この事案では、労働組合は、提案された内容に対して賛成しておらず、最終的に労働組合と合意ができたわけではありませんでした。  これらの事情は、就業規則を不利益変更するにあたって重要な事情が網羅されているといえそうです。就業規則変更のプロセスにおいて、労働組合との協議のなかで提案を修正するなどして合理的な条件を見出すほか、短期間で実現する必要がある場合にはスピード感をもって回数を重ねることも意義がありそうです。また、全体の従業員について不利益変更後の賃金額を試算して、その結果を見たときに最大の減額幅(3.92%)が把握できていたという事情も重要でしょう。  仮に特殊業務手当を削減しなければならないという目的だけをもって、不利益緩和措置や減額にともなう従業員に生じる不利益の程度が試算できていなかった場合には、このような結論にはならなかったと思われます。 【P48-49】 新連載 シニア社員を活かすための面談入門 株式会社パーソル総合研究所 組織力強化事業本部 株式会社パーソル総合研究所 組織力強化事業本部 キャリア開発部 小室(こむろ)銘子(めいこ)  長年の職業人生のなかでつちかってきた豊富な経験や知見を持つシニア社員。その武器を活かし、会社の戦力として活躍してもらうために重要となるのが「面談」です。仕事内容や役割、立場が変化していくなかで、シニア社員のやる気を引き出し、活き活きと働いてもらうための面談のポイントについて、人と組織に関するさまざまな調査・研究を行っているパーソル総合研究所が解説します。 第1回 シニアとの面談とは? シニア面談の目的・効果について はじめに  2021(令和3)年4月の改正高年齢者雇用安定法の施行により、シニアの就業率は過去10年間で大幅に上昇しています※。  株式会社パーソル総合研究所が、シニア人材に関して企業がどのような課題を抱えているかを調査した結果、最も頻繁にあげられた課題は「モチベーションの低さ」、「パフォーマンスの低さ」、「マネジメントの困難さ」でした。しかしながら、人手不足の問題が深刻化するなかで、シニア社員が長年つちかってきた経験と知識を活かし、さらに長く活躍してもらうことが、企業とシニア社員本人の双方にとって利益となるでしょう。  そこで、シニア社員の力を最大限に引き出すために、「面談」という機会を活用するポイントを今回から6回シリーズで紹介していきます。 シニア社員との面談とは?  まず、シニア社員との面談には、どのようなものがあるでしょうか。定年前後の時期には、定年前面談や定年後再雇用面談があります。定年後再雇用以降には、契約期間前に行われる契約更新の確認面談もあります。また、シニア社員にかぎらず行われる面談として、目標面談、評価フィードバック面談、キャリア面談、1on1などがあります。会社によって面談のタイミングはさまざまだと思いますが、定年後のシニア社員に対してはあまり面談を実施していないという話も聞かれます。これは、管理職が自分よりも大先輩のシニア社員に対して面談を行うことに遠慮する気持ちや、役割や評価などの方針が明確に決まっていないために避けているケースもあるようです。しかし、次項で紹介するようにシニア社員との面談にはさまざまな効果があるので、有効に活用していただきたいと思います。 シニア社員との面談の目的・効果  次に、「面談」の目的について考えてみましょう。 「面談」とは、互いの気持ちや人柄を知るために行われる会話の機会です。面談の目的は、互いの考えや思いを共有し、認識のずれを修正し、共通の理解を築くことです。シニア社員との面談では、特に定年を機に役割や期待が変わることや、本人の働き方の希望が変わることなどを確認し合うことが重要です。しっかりと意思疎通を図ることで相互理解が深まり、信頼関係が築かれます。シニア社員にとっては、期待される役割が明確になり、モチベーションが高まり、取り組むことが明確化されます。また、キャリア目標や成長のための計画を共有し、支援を受けることができるなどの効果が考えられます。組織側にとっては、パフォーマンスの向上や経験や知識の共有、組織全体の活性化などの効果が期待できます。 躍進して働いている60代の傾向  シニア社員のパフォーマンスについて、「定年後再雇用において躍進している60代にはどのような特徴があるのか」を分析しました。その結果、仕事観・キャリア意識において共通する傾向として、@「社会の役に立つ仕事をしている」、A「今の仕事で成長を実感している」、B「自分のやり方で仕事をしている」、C「組織に影響力を発揮できている」の4点が明らかになりました(図表1)。特に注目すべきは、2番目にあげられた「仕事を通じた成長実感」です。定年後再雇用のシニア社員については、これまでつちかってきた知識やスキルをどのように活かすかや、世代間の知識の継承に焦点があてられがちですが、実際には躍進するための鍵は専門的な能力を発揮≠キることよりも、さらなる成長≠ノあることが示唆されています。  シニア社員との面談では、今後も成長する個人≠ニして、希望や目標を確認し、仕事を通じた成長機会を共有することが有効です。そして、そのやり方については、シニア社員の意向を尊重し、組織への影響を期待しながら伝えることが大切です。 定年前面談の重要性  定年後のさらなる躍進に向けて、定年前面談や定年後再雇用面談は非常に重要です。しかし、最近では定年後再雇用があたり前のようになり、定年前面談が単なる就業継続の希望確認にとどまるケースもあります。調査結果では、図表2に示されているように、「定年後再雇用に備えた事前準備」についてたずねたところ、全体の約4割が「備えとして行っていたことは特にない」と答えていました。前項でも見てきたように定年後も躍進してもらうために、今後のキャリアをどう考えているのか、選択肢はどのようなものがあるのか、会社としてはどのような期待があるのかなどを提示しながら話合いを行うことは非常に重要です。シニア社員の思いをよく聴き、早めに準備行動に移すことは、組織とシニア社員の両方にとって有益な結果となるでしょう。冒頭で紹介した企業の課題「モチベーションの低さ」、「パフォーマンスの低さ」への解決にも有効であると考えられます。 ※ 総務省統計局「労働力調査(基本集計)2022年(令和4年)平均結果」 図表1 60代の躍進行動に影響を与える要因 60代の躍進行動 + 社会貢献・社会的意義 + 仕事による成長実感 + 自己効力感(自分のやり方でできる) + 組織内影響力発揮の見通し 出典:パーソル総合研究所・法政大学大学院石山研究室「ミドル・シニアの躍進実態調査」(2017年) 図表2 定年後再雇用に備えた事前準備 〈仕事の意識転換〉〈家族と話し合い〉〈職場メンバーとの良好な人間関係構築〉→7割がしていない 仕事に対する考え方を変えていた30.3% 定年後の過ごし方について家族と話し合った 29.7% 職場メンバーと、良好な人間関係を築けるよう心掛けていた28.3% 専門性を深める・広げる2割程度 専門性を深めるために努力していた20.3% 仕事のやり方を見直していた19.7% 専門性を広げるために努力していた19.3% 定年後の具体的な業務を計画していた16.3% 定年後の具体的なキャリアプランを計画していた14.3% 人脈を広げるよう努めた13.3% 定年後については極力考えないようにしていた13.3% 社外での活動に取り組んだ10.0% 転職に向けて準備していた9.7% 副収入を得るために副業をしていた6.0% 起業に向けて準備していた3.7% 4割弱が何もしていない 備えとして行っていたことは特にない36.7% 出典:パーソル総合研究所・法政大学大学院 石山研究室「ミドル・シニアの躍進実態調査」(2017年) 【P50-51】 いまさら聞けない人事用語辞典 株式会社グローセンパートナー 執行役員・ディレクター 吉岡利之 第47回 「出向・転籍」  人事労務管理は社員の雇用や働き方だけでなく、経営にも直結する重要な仕事ですが、制度に慣れていない人には聞き慣れないような専門用語や、概念的でわかりにくい内容がたくさんあります。そこで本連載では、人事部門に初めて配属になった方はもちろん、ある程度経験を積んだ方も、担当者なら押さえておきたい人事労務関連の基本知識や用語についてわかりやすく解説します。 出向・転籍は人事異動の一つ  今回は、出向・転籍について取り上げます。  出向・転籍は人事異動の一つです。人事異動とは、社員の所属する組織や地位、勤務条件などが変わることをいいます。  人事異動のうち、社員の所属する組織を変えるおもな行為が配置転換・出向・転籍です。このうちほぼすべての企業で行われるのが配置転換で、自社内において、勤務地や所属する部署・職務が変更となることをさします。一方で、自社以外の企業へ所属や職務が変わることが出向・転籍で、「社外への異動」というのが配置転換との違いになります。 出向は元の会社との雇用関係あり  それでは、出向と転籍について具体的にみていきたいと思います。まずは出向ですが、図表の〔出向〕にある通り、労働者が出向元企業(自社)と出向先企業(他社)と労働契約を結び、双方と雇用関係を持ちながら職務に従事することをいいます。労働者がもともと労働契約を結んでいる企業に在籍したまま他社の仕事をすることから在籍型出向とも呼ばれます。民法上では、労働契約の権利を使用者(雇用主)が第三者に譲り渡すことはできないとされていますが、本人の合意または就業規則に基づく異動命令※1により実施されることになります。  出向を実施するにあたり必要となるのが、出向元・出向先間で結ばれる出向契約です。出向契約で定めておくことが望ましい事項の代表的なものとして、出向期間、職務内容・職位・勤務場所、就業時間・休憩時間、休日・休暇、賃金・手当などの負担、社会保険・労働保険の扱い、福利厚生の扱い、人事考課の実施方法、途中解約の条件があげられます※2。このうち、就業時間・休憩時間、休日・休暇、安全配慮・労災保険などの就労にかかわる部分は出向先、解雇については出向元の就業規則に従います。賃金に関しては、出向元・出向先のいずれが給与を支払う窓口となるか、支給水準や各々の支払いの負担(出向負担金)をどうするかは両社の協議で定め、厚生年金・健康保険は賃金の支払窓口となる企業の適用、雇用保険は賃金負担の大きい企業の負担というのが基本的な考えとなります。 転籍は元の会社との雇用関係がなくなる  次に転籍ですが、図表の〔転籍〕をみると、転籍元と労働者間は雇用関係終了となり、転籍先と労働者間のみ雇用関係ありとなっています。このように、元の会社との労働契約を終了させ、転籍先と労働者間で新たに労働契約を結ぶことを転籍といいます。転籍元・転籍先・労働者間で結ぶ転籍契約に基づき、一定期間出向した後に、出向元企業との雇用契約を終了させると同時に、出向先企業との雇用契約を発生させるケースが多いことから転籍型出向と呼ばれることがあります。ただし、企業が保有する事業の一部または全部を他社に譲り渡す事業譲渡や、別会社に移転する会社譲渡にともなう転籍もあるため、転籍は出向と必ずしも一緒に行われるというわけではありません。  転籍における出向との大きな違いは、労働者の個別の合意なく企業の一方的な命令だけでは転籍させられない点にあります※3。また、出向契約に定めるような、労働条件や賃金などについての出向元・出向先どちらの規程に従うかといった別はなく、すべて転籍先の規程に従うことになります。ただし、転籍による労働者の処遇への影響が避けられないことから、転籍前の給与水準を維持する、退職金の支給や年次有給休暇の付与日数において、転籍前の勤務期間を通算するなどの個別の定めをするケースもみられます。 出向と転籍にはメリットも大きい  かつて大ヒットした銀行を舞台にした某ドラマで、出向や転籍だけはしたくないといったシーンがたびたびあったように、特に労働者側の立場からは、出向・転籍に対して消極的な印象が強いかと思います。たしかに、以前は人員数や人件費削減のためになかば強制的に子会社や関連会社に出向・転籍させ、同時に給与水準を引き下げるといった運用が多くみられたことは否めません。しかし、近年ではその状況は変わりつつあります。  例えば、2021年の「在籍型出向に関するアンケート結果について」※4をみると出向先での業務経験により知識・スキルが高まった、出向先での交流を通じて人的ネットワークが広がった、出向先での業務経験によりキャリアの選択肢が広がったというキャリア形成・能力開発に関するメリットを見出す労働者側の回答が目立ちます。ここでは転籍については触れられていませんが、出向先の業務が気に入って自ら転籍を希望するという事例は実際に耳にします。  また、人員数や人件費の調整ではなく、社内や企業グループ内でのキャリア形成を目的に、本人希望や公募を起点とした出向・転籍を実施する企業も増えています。このほか、人手不足のなか、社員が社外に転職する前に、社内の異なる仕事に目を向けてもらいリテンション(人材流出防止)を図ることを目的としたり、高度な専門的スキルを有する人材を本社等で採用し、一定期間従事後に子会社等に出向・転籍させることでグループ全体の専門レベルを引き上げる施策をとる企業も増えています。  多様な働き方が求められるなか、今後は出向・転籍もキャリアの幅を広げる機会ととらえられることが増えていくのではないでしょうか。  次は、「役員報酬」について取り上げます。 ※1 出向先での賃金・労働条件、出向の期間、復帰の仕方など就業規則や労働協約等によって労働者の利益に配慮して整備されている、また出向命令が使用者の権利の濫用ではないといった前提が必要 ※2 『在籍型出向「基本がわかる」ハンドブック(第2版)』(厚生労働省)。在籍型出向の詳しい解説や出向契約書の参考例あり ※3 会社分割による場合は、労働者の個別の合意なく、分割契約書の定めによる包括的同意のみで転籍可能とされている ※4 都道府県労働局にて産業雇用安定助成金の計画届を受理した出向元・出向先事業主および在籍型出向を経験した労働者に対して都道府県労働局が2021年8月に実施した調査 図表 出向・転籍 〔出向(在籍型出向)〕 出向契約 出向元 出向先 労働者 雇用関係 雇用関係 〔転籍(転籍型出向)〕 転籍契約 転籍元 転籍先 労働者 雇用関係の終了 雇用関係 出典:「出向等に関する参考資料」経済産業省北海道経済産業局、筆者一部加工 【P52-55】 特別寄稿 「介護が必要になる従業員の親」からみた「仕事と介護の両立支援」の課題 玉川大学経営学部教授 大木(おおき)栄一(えいいち) 1 親子が協力して乗り切る大介護時代に突入  介護保険制度が導入された2000(平成12)年以降、高齢化の進展を背景に、介護保険サービスに対するニーズは拡大を続けている。これにともない、介護人材(介護職や看護職など)については、2000年の介護保険制度創設当時の約55万人から順調に増加を続け、2013年には約171万人となり、要介護高齢者等に対する介護サービス提供を支えてきた(厚生労働省「介護サービス施設・事業所調査」〈2014年〉)。また、厚生労働省「衛生行政報告例(就業医療関係者)の概況」(2017年)によれば、介護施設で働く看護職は2006年では13万7102人であったのが、2016には22万1020人になり、ここ10年間で60%以上もの伸びを見せており、今後、よりいっそう介護分野での看護職のニーズは高まっていくと予想される。しかし、現状では、介護サービスの需要の高まりに、安定した人材確保が追いつかない状況にある。団塊世代全員が75歳以上となる2025(令和7)年には、5人に1人が75歳以上、3人に1人が65歳以上という超高齢化社会に突入する。要介護者も大幅に増えると予想され、大量介護への対応が必要な「2025年問題」が迫っている。高齢者人口の増加は要介護者数の増加につながり、子や子の配偶者が介護をになうケースが多い日本では、その世代にあたる、いわゆる働き盛りの世代の介護の負担が増す可能性が高いと考えられる。  このように増え続ける高齢者の介護をいったいだれがになっているのだろう。厚生労働省「国民生活基礎調査」(2001年および2010年)によると、2001年および2010年いずれも「同居する家族」(2001年が71.1%、2010年が64.1%)におもに介護されている。次いで「事業者」(同9.3%、同13.3%)による介護が多く、これに、「別居する家族」(同7.5%、同9.8%)による介護が続いている。さらに、同居する家族の内訳をみると、いずれも「配偶者」(同25.9%、同25.7%)の割合が最も高く、次いで、「子」(同19.9%、同20.9%)、「子の配偶者」(同22.5%、同15.2%)となっている。公的介護保険の導入により介護の外部化が進み、同居家族による介護が減少し、事業者による介護が増加しているが、それでも要介護者の6割強が同居する家族に介護されている状況にある。加えて、同居するおもな介護者として「子の配偶者」の割合が7.3ポイント減少しており、働く妻が増えて夫の親の介護まで手が回らない現実があると推測される。  同居のおもな介護者の性別をみると、2001年では、女性が76.4%、男性が23.6%であったのに対して、2010年では、女性は7ポイント減少して69.4%、これに対して、男性は30.6%になり、男性の割合が増えている。このことは介護のにない手の男性シフトが続いていることを示している。その理由として40〜50歳代の女性の就業率が高まり、共働き世帯が増加していることが考えられる。さらに、同居している家族介護者のうち「子」の年齢(2010年)についてみると、男女ともに5割以上(女性52.6%、男性56.5%)が40歳代から50歳代になっており、仕事を持っている中高年介護者が増えている。  そのため介護を理由とする離職者(介護離職者)も増加している。総務省統計局「就業構造基本調査」(2017年)によれば、過去1年間(2016年10月〜2017年9月)に「介護・看護のため」に前職を離職した者についてみると、9万9000人(過去1年間に前職を離職した者に占める割合1.8%)で、うち男性は2万4000人、女性は7万5000人となっており、女性が74.1%を占めているが、男性比率の推移をみると、2002年10月〜2003年9月までの間の16.0%から、2011年10月〜2012年9月までの間には19.5%、2016年10月〜2017年9月までの間の24.2%となっており、上昇傾向にあることがうかがわれる。  このように多くの中高年男性にとって親の介護は配偶者任せにはできなくなり、自らが当事者になることをあらためて認識する必要がある時代に突入した。また、要介護者になったときの子どもの仕事と介護の両立支援も大きな課題になっている。 2 60歳代は自分の介護について子どもとどの程度話し合っているか  筆者が執筆に参加した、60歳代(調査時点で団塊世代と呼ばれていた64歳〜67歳)を対象にしたアンケート調査をまとめた(独)高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)〈2015〉『団塊世代の就業・生活意識に関する調査研究報告書ー2014年調査ー』(第8章)によれば、子どもがいる60歳代(1629人)が自分の介護が必要になったとき、配偶者に頼れない場合、どのような対応をするか明らかにしている。  それによれば、子どもと「話し合ったことがある」(「話し合ったことがある」1.5%+「ある程度話し合ったことがある」9.8%)が11.3%、「話し合ったことがない」(「あまり話し合ったことがない」32.3%+「話し合ったことがない」56.4%)が88.7%であり、60歳代の9割弱が、自分の介護について子どもと話し合っていないことになる(図表1)。こうした結果は大介護時代を乗り切るために、まだ、十分な準備に取りかかっていないことを表している。  こうした60歳代の自分の介護に関する子どもとの話合い状況については男性よりも女性の方が自分の介護について子どもと話し合っている。また、現在の就労状況別にみると、就労状況にかかわらず、自分の介護について子どもと話し合う比率は変わらない。これに対して、60歳代の介護保険制度の仕組みに関する知識の保有状況別にみると、介護保険制度の仕組みに関して知っている者ほど、自分の介護について子どもと話合いを行っており、介護保険制度の仕組みを知ることと自分の介護について子どもと話合いを行うことは密接な関係にある。  ちなみに、同報告書では、60歳代が「介護保険制度の仕組みをどの程度知っているのか」についても明らかにしている。それによれば、介護保険制度の仕組みについて「知っている(「知っている」6.3%+「ある程度知っている」45.6%)が51.9%、「知っていない」(「あまり知らない」44.1%+「知らない」4.0%)が48.1%であり、60歳代の5割弱が介護保険制度の仕組みを知らないことになる。また、「知っている」者の多くが「ある程度知っている」にとどまっており、「介護保険制度の仕組みに関する知識」が十分であるとはいえない状況にある。こうした結果は、大介護時代を乗り切るために、まだ、十分な準備に取りかかっていないことを表している。 3 介護が必要になったとき自分の子どもは就労を継続することができるか  自分(60歳代)の介護が必要になったとき、配偶者に頼れない場合、あなたの介護をになう子どもは「就労を継続することができると思う」(「就労を継続することができると思う」26.6%+「ある程度就労を継続することができると思う」30.3%)が56.9%、「就労を継続することができないと思う」(「あまり就労を継続することができないと思う」24.7%+「就労を継続することはできないと思う」18.5%)が43.2%であり、6割弱が、自分に介護が必要になったとき、子どもは就労を継続することができると考えている(図表2)。  こうした子どもが就労を継続できるかどうかについては、介護保険制度の仕組みに関して知っている60歳代ほど、介護をになう子どもは就労を継続することができると考えている者も多くなっている。同様に、自分の介護に関して子どもと話し合っている機会が多い60歳代ほど、介護をになう子どもは就労を継続することができると考えている者も多くなっている。  つまり、自分の介護をになう子どもが就労を継続することができるかどうかについては、介護保険制度の仕組みの知識、あるいは、自分の介護について、どの程度子どもと話し合っているか、いいかえれば、子どもとのコミュニケーションと密接な関係にあることがうかがわれる。 4 求められる「仕事と介護の両立支援」の整備  60歳代の5割弱が介護保険制度の仕組みを知らないだけではなく、「知っている」者の多くが「ある程度知っている」にとどまっており、「介護保険制度の仕組みに関する知識」が十分であるとはいえない状況にある。加えて、60歳代の9割弱が、自分の介護について子どもと話し合っていない。つまり、自分の介護について、子どもとのコミュニケーションが十分にできていないことを表している。こうした結果は、60歳代が大介護時代を乗り切るために、まだ、十分な準備に取りかかっていないことを表している。  しかしながら、大介護時代を乗り切るためには、60歳代自身だけが準備するだけでなく、その子どもも準備に取りかかる必要がある。そのためには、60歳代の親を持つ子どもが介護保険の仕組みに関して知識を持ち、介護について親と話合いを行うことも重要である。さらに、社会全体で、とくに、企業においては、従業員の介護に備えて、「介護と仕事の両立支援の構築」が求められる。  仕事と介護の両立の課題は、女性だけの問題ではなく、男女共通の課題であると同時に、当該層は企業経営をになう中核人材でもある。こうした中核人材が仕事と介護の両立に困難やストレスを感じたり、仕事と介護の両立が困難となることで離職に至ると、企業としての損失はきわめて大きなものとなる。したがって、従業員の介護の実態や仕事と介護の両立にかかわるニーズを的確に把握し、仕事と介護の両立を支援することが、企業経営としてもきわめて重要な課題となる。  介護の必要が長く続くことを考えると、仕事と介護の両立支援では、育児への支援とは異なり、長期間の休業による対応を前提とするよりも、通常の働き方を改革してワーク・ライフ・バランスを実現できる職場としたり、半日単位や時間単位で利用できる介護のための休暇制度や短時間勤務などの柔軟な勤務形態の整備をすることで働きながら介護を行うことができる仕組みを構築することが重要である。  さらに、働く時間(とくに、残業時間)の短縮も大きな課題であり、そのためには、職場の管理職の管理行動の改革が必要不可欠である(詳しくは、大木栄一・田口和雄(2010)「「賃金不払残業」と「職場の管理・働き方」・「労働時間管理」賃金不払残業発生のメカニズム」『日本労働研究雑誌』No.596を参照)。仕事の計画能力が欠如している上司、無駄な仕事を指示する上司ではなく、残業前提に仕事の指示をする、評価を行う際に残業時間の長さを考慮するような時間管理能力が欠如している上司の下で働く従業員ほど、実残業時間が長くなっている。つまり、仕事の計画と配分の管理行動より、部下への時間管理行動が適正に行われないと残業時間は長くなりやすくなるということである。 ※ここで取り上げた報告書の執筆に際して、JEEDの鹿生治行上席研究役から協力を得ました。記して謝意を表します。 図表1 自分(60 歳代)の介護に関して、どの程度子どもと話し合っているか (単位:%) 件数 話し合ったことがある 話し合ったことがない 話し合ったことがある ある程度話し合ったことがある あまり話し合ったことがない 話し合ったことがない 全体 1,629 11.3 1.5 9.8 32.3 56.4 88.7 性別 男性 1,415 9.5 1.1 8.4 30.5 60.0 90.5 女性 214 23.4 4.7 18.7 43.9 32.7 76.6 現在の就労状況別 主に仕事をしている 555 10.6 0.9 9.7 33.9 55.5 89.4 仕事をしていない 1,074 11.7 1.9 9.8 31.5 56.9 88.4 介護保険の仕組みに関する知識の保有状況別 知っている 102 30.4 9.8 20.6 31.4 38.2 69.6 ある程度知っている 743 15.0 1.3 13.7 34.9 50.1 85.0 あまり知らない 719 5.3 0.7 4.6 31.7 63.0 94.7 知らない 65 4.6 0.0 4.6 10.8 84.6 95.4 (注)子どもがいる64歳〜67歳の回答 出典:(独)高齢・障害・求職者雇用支援機構(2015)「団塊世代の就業・生活意識に関する調査研究報告書−2014年調査−」 図表2 介護が必要になったとき自分の子どもは就労を継続することができるか (単位:%) 件数 就労を継続することができると思う 就労を継続することはできないと思う 就労を継続することができると思う ある程度就労を継続することができると思う あまり就労を継続することができないと思う 就労を継続することはできないと思う 全体 1,629 56.9 26.6 30.3 24.7 18.5 43.2 介護保険の仕組みに関する知識の保有状況別 知っている 102 65.7 30.4 35.3 23.5 10.8 34.3 ある程度知っている 743 62.7 29.5 33.2 21.5 15.7 37.2 あまり知らない 719 50.6 22.9 27.7 28.4 21.0 49.4 知らない 65 44.6 27.7 16.9 21.5 33.8 55.3 介護に関して子どもと話し合っている程度別 話し合ったことがある 25 84.0 56.0 28.0 0.0 16.0 16.0 ある程度話し合ったことがある 159 75.5 25.8 49.7 16.4 8.2 24.6 あまり話し合ったことがない 526 57.6 23.2 34.4 30.0 12.4 42.4 話し合ったことがない 919 52.5 27.9 24.6 23.7 23.8 47.5 (注)子どもがいる64歳〜67歳の回答 出典:(独)高齢・障害・求職者雇用支援機構(2015)「団塊世代の就業・生活意識に関する調査研究報告書−2014年調査−」 【P56-57】 BOOKS ※このコーナーで紹介する書籍の価格は、「税込価格」(消費税を含んだ価格)を表示します 法令解釈の誤りやすいポイントを厳選し、Q&Aでわかりやすく解説 担当者の共通の悩みはコレ! 条文だけでは分からない 労働安全衛生の実務Q&A 改訂版 中山(なかやま)絹代(きぬよ)著/第一法規/3740円  労働安全衛生法は、働く人々の安全と健康を守るとともに、快適な職場環境をつくることを目的としている。近年は、働き方改革やDX化、新型コロナウイルス感染症による就労環境の変化、高齢の就労者が増えて働く人の年齢層が広がっていることへの対応など、企業で安全衛生業務にたずさわる担当者にはさまざまな課題への解決力や対応力が求められている。  本書は、企業の実務者に向けて、労働衛生コンサルタントである著者が、第一法規の運営するWEB上の「安全衛生セレクション」の相談機能に寄せられた2000件超の相談から厳選した相談内容をベースにして、実務上の対応や判断基準をQ&A形式で解説する。法令解釈を誤りやすい事案、解釈ができないために方針を決めることができずに悩んでいる事案など、110の質問を掲載し、回答している。  2024(令和6)年4月1日から、事業者には化学物質の自律的管理に向けた実施体制の確立が求められているが、この内容もフォローした改訂版である。  実務をになう初心者からベテランまで、判断に迷うような法令解釈上の疑問などを解決してくれる心強い一冊といえるだろう。 トレンドや実践例から学べる「持続可能な働き方」で人生を輝かせる! 最新のHRテクノロジーを活用した 人的資本経営時代の持続可能な働き方 民(たみ)岡良(おかりょう)著/すばる舎/2750円  「持続可能な働き方」について本書では、「自らが持てる『強み』によって自然な形で組織や社会に貢献し、不必要な『無理』を強いられることなく、適度なパフォーマンスを持続的に発揮し続けていけるような働き方」と説明する。また、その実現にはHRテクノロジーを活用し、豊富な経験などを持つ「人間」との協働が必要になる、という考え方を示している。  本書は、「持続可能な働き方」を実現し、すべての人々が強みを発揮して活き活きと生きるための考え方と具体的な方法を提示した一冊である。第1章では、これからの人事に求められる役割や機能について、第2章では、日本企業で持続可能な働き方を阻害してきた要因や日本企業の強みに触れたうえ、第3章のHRテクノロジーの活用の仕方の紹介につなげていく。第4章では、個人としてはどのようなスキルを身につけてキャリア自律を実現し、「持続可能な働き方」につなげていくか、また企業側、人事部門としては、これらをどのように支援し、持続可能な組織づくりや社会の構築に寄与していくか、その姿を示し、具体的な取組みを例示する。  経営者や人事担当者のみならず、よりよい働き方を目ざす個人にとってのヒントも満載。 人事のプロが実体験から語る、「個」が活きる組織とは 人事変革ストーリー 個と組織「共進化」の時代 倉(だかくら)千春(ちはる)著/光文社/990円  いま「人的資本経営」、「リスキリング」、「ウェルビーイング経営」など人事関係の話題が注目されている。30年近く複数の外資企業、日本企業で人事制度改革などに取り組んできた著者の倉千春氏は、いまほど人事のテーマが注目された時代はなかったのではないか、と現在を記す。だが同時に、単に流行として取り入れるだけになっていないだろうか、と心配もしている。  人的資本経営を持続的に実現するためには、「社員がやりがいや生きがいを感じながら働ける状態を目指して、エンゲージメントの向上はもちろん、プライベートの充実も図っていく。そういうウェルビーイング経営の実践を通じて、活力にあふれたすべての社員が企業活動に参画できるオープンで前向きな風土をつくっていく必要がある」と著者は綴る。今後は、個人と組織がともに成長して進化していく時代であるという。本書は、著者が紆余曲折を経て取り組んできた人事変革と、企業人事はいま何を問われ、今後はどうあるべきなのか、人の生き方に直結する「人事」に求められているものを考え、示していく。具体例などから学ぶことが多いうえ、人事担当者に必要とされるマインドについても触れるなど、ぬくもりも感じる良書である。 つらい気持ちや悲しみをときほぐしていくプロセスを描いた「読む処方箋」 ココロブルーに効く話 精神科医が出会った30のストーリー 小山(こやま)文彦(ふみひこ)著/金剛出版/2970円  精神科医として30年以上のキャリアを持つ著者の小山文彦氏は、読売新聞社の医療サイトで「ココロブルーに効く話」を連載している。小山氏が診療や相談の現場で多くの人の悩みやストレスを聴き、かかわった事例を題材に書いているものだ。  本書は、それらのなかから30の事例を選び、小山氏がそれぞれの過程のなかに見いだせた「心のありか」に主眼を置き、同サイトでは書き切れなかった著者の心情などを交えて再編し、書籍化した一冊である。  ある50歳の男性は、仕事をしながら週末は隣県に住む母親の世話をすることが大事なライフワークになっていた。しかし、母親が突然他界。心にぽっかりと穴があいてしまったが、昔から親しんでいた音楽を再び楽しむことが、うつの解消につながっていく。人は一生のうちに何度か、この男性のような経験をするという。家族との死別、退職、子どもの自立など、そのような時期に、「心の穴」を広げないために大切なことが、本書に示されている。  30のストーリーは、似たようなことが自分に起こった場合の参考になるとともに、読むことで安堵感を覚えるような内容となっている。 医療・介護の現場で活躍中の93歳!!毎日を明るく生きていくための心得を伝授 93歳、支えあって生きていく。 細井(ほそい)恵美子(えみこ)著/Gakken/1650円  著者の細井恵美子氏は、1931(昭和6)年生まれの93歳。17歳から医療・看護の現場で働き、身体拘束のない看護に取り組んだほか、在宅療養部の開設や病院ボランティアの導入にも尽力した。70歳で特別養護老人ホームの施設長に。81歳から同顧問となり、現在も現場で活躍する生涯現役の実践者である。  本書は、「110歳人生を目指し、いきいきと暮らしていきましょう」と語る著者が実践している、毎日を明るく楽しく生きていくための心得帖。健康のこと、人とのつながり、仕事に対する思いを、みずみずしい表現で綴っている。「高齢者の幸福とは働けること。働けることは自由の源です」、「定年は人生再構築の出発点≠ナす。自分にできる働き方に、どんどん挑戦を」、「心に桜の花を咲かせましょう」など読者の背中を押してくれる言葉や心身の健康づくりのヒントが詰まっている。そこには、だれもがかかる可能性がある認知症の予防や向きあい方、支える家族の苦悩について、また、すべての人に訪れる人生の最期について、エピソードを交えながら自らの考えも示されている。本書のタイトルにある「支えあって生きていく。」、この姿勢が読むほどに心に染みる。 【P58-59】 NEWS FILE ニュース ファイル 行政・関係団体 厚生労働省 「求職者等への職場情報提供に当たっての手引」を公表  厚生労働省は、求職者と企業のよりよいマッチングの促進に向けて、「求職者等への職場情報提供に当たっての手引」を策定し、公表した。  厚生労働省の調査によると、「自身が経験した転職・就職活動の中で入手した企業の職場情報と比較し、転職・就職後に働き始めてから知った実際の職場環境との間に自身にとって不都合なギャップがあった者」は、全体の約6割となっている。このようなギャップが生じないようにするために、企業には求職者が就職前に収集する職場情報の充実を図り、実際の職場環境とのギャップを解消することが求められる。このため同省では、転職経験者、求人企業および民間人材サービス事業者を対象とするヒアリングなどの調査研究を行い、それらをふまえて、労働政策審議会において議論を重ね、この手引きを策定した。  手引きは、各企業がよりよい採用活動を行ううえで参考にできるよう、現行の労働関係法令で定められている開示項目などの整理および求職者が求める情報を例示しているほか、企業が職場情報を提供するにあたっての一般的な課題や対応策を示している。一般的な課題やその対応例として、「職場情報の提供時期・提供方法」、「提供する情報の量」、「資本市場における人的資本に関する情報の活用」などを取り上げている。 ◆「求職者等への職場情報提供に当たっての手引」https://www.mhlw.go.jp/content/001237234.pdf 厚生労働省 「job tag」(職業情報提供サイト)をリニューアル  厚生労働省は、職業情報提供サイト「job tag(じょぶたぐ)」をリニューアルした。  「job tag」は、500を超える職業について、ジョブ、タスク、スキルなどの観点から職業情報を「見える化」し、求職者の就職活動や企業の採用活動、人材育成などを支援するウェブサイト。就職活動においては、各種検査によって自身の適職を探索できるほか、自己分析や、希望する職業の情報と自身のこれまでの経験などを照らし合わせることでアピールポイントを検討することなどに活用できる。  また、企業の採用活動においては、求める人物像の明確化、人材育成では、従業員のスキルの棚卸しなどによる教育や訓練の検討などにも活用できる。さらに、キャリアコンサルティングにおいては、職業情報を参考にした客観的な助言や、相談者がこれまでの職業経験で蓄積したスキル・知識の棚卸しや各種自己診断ツールの結果などをふまえた相談に活用できる。  年間のアクセス件数は2000万件を超えるが、仕事を探している人や企業の採用・人事担当者、転職・就職を支援するキャリアコンサルタントなどより幅広い人々に活用してもらえるよう、サイト機能を紹介する使い方動画を追加した。加えて、IT分野の職業情報の拡充、自己診断ツールの機能の充実、500超の職業情報をさらに追加するなどのリニューアルを行った。 ◆job tag(職業情報提供サイト)https://shigoto.mhlw.go.jp/User 厚生労働省 「地域で活躍する中小企業の採用と定着成功事例集」を公表  厚生労働省は、中小企業における人材確保の取組みを進める際のヒント集として「地域で活躍する中小企業の採用と定着成功事例集」を作成し、公表した。  全国的に人手不足感が高まるなか、特に地方の中小企業では人材確保が大きな課題となっている。このことをふまえ、採用や定着に成功している20社について、成功事例としてまとめたものである。  掲載事例の職種は、医療介護、保育、建設、警備、運輸などの人手不足分野に加え、製造、卸小売、飲食、宿泊、情報通信など多岐にわたる。各事例は、採用と定着について各社で認識している課題とその解決に向けた取組みについて、事業戦略の転換や業務内容の見直し、働く環境の整備や採用活動の工夫など、さまざまな角度から掘り下げている。  例えば、有料老人ホームを運営する株式会社アピイ(青森)では、身体的負担が大きい介護職には長期勤続への不安があることが、採用難や定着率低下の要因になっていると考え、「従業員がいくつになっても働くことができる職場を作る」を目標にかかげた。従業員のやる気に寄り添い、いつでも相談に乗る姿勢、資格取得の支援、研修の充実、従業員が望む働き方を実現できる環境整備などに取り組んだところ、質の高いサービス提供につながり、経営基盤が安定し、人への投資をさらに強化。その結果、さまざまな応募者が集まる人気職場になっている。 ◆「地域で活躍する中小企業の採用と定着成功事例集」 https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_38019.html 厚生労働省 「令和5年賃金構造基本統計調査」結果を公表  厚生労働省は、「令和5年賃金構造基本統計調査」の結果を公表した。調査は、2023(令和5)年6月分の所定内給与について調べたもので、今回まとめられたのは、常用労働者10人以上規模の約4万9000事業所について集計したもの。  調査結果によると、一般労働者(短時間労働者以外の労働者)の男女計の賃金額は31万8300円(前年比2.1%増)、男女別では、男性35万900円(同2.6%増)、女性26万2600円(同1.4%増)となっている。男女間賃金格差(男性=100)は74.8(前年差0.9ポイント低下)。男女計の前年比2.1%増(金額、率とも令和6年1月24日公表の速報から変わらず)は、1994(平成6)年に2.6%増となって以来29年ぶりの水準。  学歴別に賃金がピークとなる年齢階級をみると、男性では大学卒が55〜59歳52万600円、高専・短大卒が55〜59歳44万3200円、高校卒が55〜59歳36万500円、一方、女性では大学卒が55〜59歳38万6100円、高専・短大卒が50〜54歳30万3200円、高卒が50〜54歳24万7900円となっている。  短時間労働者の1時間当たり賃金は、男女計1412円(前年比3.3%増)、男性1657円(同2.0%増)、女性1312円(同3.3%増)となっている。男女別に1時間当たり賃金を年齢階級別にみると、1時間当たり賃金が最も高い年齢階級は、男性では40〜44歳で2506円、女性では30〜34歳で1488円となっている。 https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/chingin/kouzou/z2023/dl/12.pdf 内閣府 「生活設計と年金に関する世論調査」結果を公表  内閣府は、「生活設計と年金に関する世論調査」の結果を公表した。調査は、全国の18歳以上5000人を対象として、2023(令和5)年11月から12月にかけて実施した。  調査結果から、「何歳まで仕事をしたいか、またはしたか」についてみると、「66歳以上」と回答した人が42.6%となっている。年齢階級別では、「61〜65歳」28.5%、「66〜70歳」21.5%、「71〜75歳」11.4%の順となっている。  「61歳以上」と回答した人に、その年齢まで働きたい理由、または退職した年齢まで働いた理由をたずねた質問では、「生活の糧を得るため」が75.2%、「いきがい、社会参加のため」が36.9%。また、「61歳以上」と回答した人に、「61歳以降も収入を伴う仕事をする場合、どのような形態での就労を最も希望するか、または退職した年齢まで主にどのような形態で就労したか」をたずねた質問では、「期間従業員、契約社員、派遣社員を含む、非正規の職員・従業員」が39.5%、次いで「役員を含む、正規の職員・従業員」が34.9%、「自分で、または共同で事業を営んでいる自営業主・自由業」が12.2%となっている。  次に、厚生年金を受け取る年齢になったときの働き方についてみると、44.4%が「年金額が減らないように、就業時間を調整しながら会社などで働く」と回答。ほかには、「働かない」が23.6%、「年金額が減るかどうかにかかわらず、会社などで働く」が14.0%と続いている。 https://survey.gov-online.go.jp/r05/r05-nenkin/ 経済産業省 「仕事と介護の両立支援に関する経営者向けガイドライン」を公表  経済産業省は、仕事をしながら家族の介護に従事する「ビジネスケアラー」を取り巻く諸課題への対応として、より幅広い企業が両立支援に取り組むことをうながすため、「仕事と介護の両立支援に関する経営者向けガイドライン」を策定した。  ビジネスケアラーは増加傾向にあり、2030(令和12)年時点では約318万人にのぼり、経済損失額は約9兆円と試算されている。従業員が抱える介護の問題は、その個人だけでなく、パフォーマンス低下や介護離職などにつながり、結果として企業業績に影響をおよぼす可能性がある。また、共働き世帯が増加し、2023年には共働き世帯1278万世帯、専業主婦世帯517万世帯と倍以上の開きとなっているなか、家族介護のにない手は変化し、働くだれもがにない手になり得る状況にある。  本ガイドラインは、仕事と介護の両立をめぐる問題は日本の未来を左右する重要課題であるとして、両立支援を先導していくことが期待される経営層を対象にして作成された。企業が取り組むべき事項を「経営層のコミットメント」、「実態の把握と対応」、「情報発信」の三つのステップに沿って、具体的な取組みと好事例を示している。  本編のほかに、「入門編」、先進企業事例集と仕事と介護の両立支援に関する支援施策などをまとめた「参考資料集」も作成し、公表している。 ◆「仕事と介護の両立支援に関する経営者向けガイドライン」について https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/healthcare/kaigo/kaigo_guideline.html 【P60】 次号予告 7月号 特集 新任人事担当者のための高齢者雇用入門 リーダーズトーク 菊地和信さん(前澤工業株式会社 上席執行役員 管理本部長) JEEDメールマガジン好評配信中! 詳しくは JEED メルマガ 検索 ※カメラで読み取ったリンク先がhttps://www.jeed.go.jp/general/merumaga/index.htmlであることを確認のうえアクセスしてください。 お知らせ 本誌を購入するには 定期購読のほか、1冊からのご購入も受けつけています。 ◆お電話、FAXでのお申込み 株式会社労働調査会までご連絡ください。 電話03-3915-6415 FAX 03-3915-9041 ◆インターネットでのお申込み @定期購読を希望される方 雑誌のオンライン書店「富士山マガジンサービス」でご購入いただけます。 富士山マガジンサービス 検索 A1冊からのご購入を希望される方Amazon.co.jp でご購入いただけます。 編集アドバイザー(五十音順) 猪熊律子……読売新聞編集委員 上野隆幸……松本大学人間健康学部教授 牛田正史……日本放送協会解説委員室解説委員 大木栄一……玉川大学経営学部教授 大嶋江都子……株式会社前川製作所 コーポレート本部総務部門 金沢春康……一般社団法人 100年ライフデザイン・ラボ代表理事 佐久間一浩……全国中小企業団体中央会事務局次長 丸山美幸……社会保険労務士 森田喜子……TIS株式会社人事本部人事部 山ア京子……立教大学大学院ビジネスデザイン研究科 特任教授、日本人材マネジメント協会 理事長 編集後記 ●今号の特集は「即戦力となるシニア人材の確保へ」と題し、シニア人材採用をテーマにお届けしました。豊富な知識や経験を持つシニア人材は、即戦力となりうる可能性を持っています。しかし、業務内容や期待する役割などの面でミスマッチが生じてしまうと、せっかくの知識や経験も宝の持ち腐れになってしまいます。  また、正社員や契約社員として雇用するだけではなく、副業や業務委託としてシニア人材と雇用・契約関係を結ぶのも、即戦力人材を確保するための方法の一つです。  ぜひ本特集をご一読いただき、即戦力人材の確保の参考にしていただければ幸いです。 ●前号からスタートした新連載「学び直し$謳i企業に聞く!」に続き、今号から「シニア社員を活かすための面談入門」が始まりました。変化の激しいこの時代に、生涯現役でシニア人材に活躍してもらうためには学び直しは不可欠。その学び直しをうながし、キャリア自律の意識を持ってもらうためのカギを握るのが「面談」です。シニア人材の活躍推進に向け、ぜひご注目ください。 読者アンケートにご協力をお願いします! よりよい誌面づくりのため、みなさまの声をお聞かせください。 回答はこちらから 公式X(旧Twitter)はこちら! 最新号発行のお知らせやコーナー紹介などをお届けします。 @JEED_elder 月刊エルダー6月号No.535 ●発行日−−令和6年6月1日(第46巻 第6号 通巻535号) ●発行−−独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED) 発行人−−企画部長 境 伸栄 編集人−−企画部次長綱川香代子 〒261-8558 千葉県千葉市美浜区若葉3-1-2 TEL 043(213)6200 (企画部情報公開広報課) FAX 043(213)6556 ホームページURL https://www.jeed.go.jp メールアドレス elder@jeed.go.jp ●発売元 労働調査会 〒170-0004 東京都豊島区北大塚2-4-5 TEL 03(3915)6401 FAX 03(3918)8618 ISBN978-4-86788-037-1 *本誌に掲載した論文等で意見にわたる部分は、それぞれ筆者の個人的見解であることをお断りします。 (禁無断転載) 訂正とお詫び  2024年5月号「特集」(9ページ)において、「CogEvo○R」は株式会社ハンドレッドライフが開発し、同社の登録商標であると記載しておりましたが、正しくは、株式会社トータルブレインケアが開発、同社の登録商標です。  また、同特集(10ページ)の図表3についても、正しくは株式会社トータルブレインケアが作成した資料です。  関係者のみなさまには多大なるご迷惑をおかけしましたことを心よりお詫び申し上げます。 【P61-63】 技を支える vol.340 電力インフラを支える変圧器の心臓部をになう 変圧器組立工 深山(みやま)茂雄(しげお)さん(62歳) 「仕事をやらされている意識では進歩しないので、つねに製品に愛情を持ち、よいものを早くつくろうと考えるように後輩たちに伝えています」 一人で担当する巻線作業は技能が求められる仕事  私たちが電気を利用するうえで、欠かせない設備の一つに変圧器がある。発電所から電気を送る際、送電線の抵抗によって電気の損失が生じる。この送電損失を減らすには、電流を少なくする必要がある。そこで、発電所で発電した電気は、電流を少なくするために電圧を上げて送電され、変電所を経由して工場やビル、一般家庭などで必要な電圧に下げて利用される。その際に使用されるのが変圧器だ。  変圧器を主力製品として製造している、富士電機株式会社千葉工場(千葉県市原(いちはら)市)に勤務する深山茂雄さんは、40年以上にわたり変圧器の巻線作業に従事。令和5年度「現代の名工」に選ばれた。  変圧器は、基本的に鉄心に電線を巻いた一次コイルと二次コイルで構成され、電磁誘導の法則を利用して電圧を変換する。電力は一次コイルによって磁気エネルギーに変換され、鉄心を介して二次コイルに伝達し、再び電力に変換される。電圧は、それぞれのコイルの巻数比を変えることで調整できる。変圧器の心臓部といえるコイルをつくるのが巻線作業だ。  「共同作業が多い工場のなかで、一つのコイルを一人で担当する巻線は唯一の個人作業です。図面に表せない部分が多く、電線を巻く際の張り具合の調整など、体で覚える要素が多い仕事といえます」  深山さんがおもにたずさわってきたのは、変電所や工場などで使用される大型の変圧器で、コイルだけでも1〜15トンの重さがある。61ページの写真のような大きな巻型に、電線を重ねて巻いていく。電線や巻き方には、それぞれ用途に応じてさまざまな種類があり、それらを一通り覚えて一人前となる。さらに、変圧器は受注生産で毎回仕様が異なるため、豊富な経験が必要になる。  「コイルは決められた仕様・工数内に仕上げる必要があります。例えば寸法なら、1.5ミリ前後の範囲内に収めなければなりません。正確性と品質を保ちつつ、効率よく仕上げる技能が求められます」 新たな製造法を導入し品質・効率の向上に貢献  深山さんは製造方法の改善にも取り組んできた。その一つに「竪型(たてがた)巻線(まきせん)技法ぎほう)」(竪巻き)の導入がある。同社の巻線作業は、61ページの写真のように、横にした巻型に電線を縦方向に巻いていく方法(横巻き)のみで行われてきたが、電線が太い場合、上に重ねて巻いていくとねじれやすいという欠点がある。巻型を立てて電線を横に巻いていく竪巻きであれば、電線を上に積み重ねていけるため、太い電線でも巻きやすい。そのため、設計の自由度が増したという。  「竪巻きでつくるコイルは工場で使われる変圧器のものが多いです。工場の変圧器は電源のオン・オフが多く、電源を入れるたびに振動が起こるため、コイルに緩みがあると崩れやすくなります。竪巻きにしたことで緩みが生じにくくなり、耐久性も向上しました」 後進の育成を加速させる「巻線道場」を提案  ものづくりが好きだった深山さんは、工業高校電気科を卒業し、1980(昭和55)年に富士電機株式会社に入社。1年間の研修を経て巻線の職場に配属された。  「最初の1年ほどは覚えることが多くて』きついな』と思いましたが、早く一人前になりたくて、毎日夜遅くまで働きました。仕事ができるようになると、自分の腕が出来栄えに表れるところにおもしろさを感じるようになりました」  深山さんの入社当時は、電線やコイルの種類を一通り覚えるのに10年かかるといわれていたそうだ。現在、その期間は半分ほどに短縮されている。それを可能にしたのが、深山さんが提案した「巻線道場」の存在だ。職場のOBが指導役となり、若手が巻線作業を練習できる場である。  「早く一人前になれば、仕事のおもしろさも早くわかる」と、自身がつちかってきた技能を、今後も後進の育成に活かしていく考えだ。 富士電機株式会社千葉工場 TEL:0436(42)8110 https://www.fujielectric.co.jp (撮影・福田栄夫/取材・増田忠英) 写真のキャプション 現在は生産管理課主任として工程管理や品質保証を担当するが、繁忙期には現場を手伝う。教え子だった現場のリーダーに指導面でアドバイスをすることも 東京湾に面している千葉工場。中央の大きな建屋が変圧器工場。大型の変圧器はクレーンで船に積んで出荷される(写真提供:富士電機株式会社) 61ページ写真の右奥には、電線ドラムが設置された架台がある。そこから自動で送られてくる電線の張り具合を調整しながら巻いていく 巻線作業の担当者が共同で使用するスパナ、ハンマー、ペンチ、カッターなどの工具類。必要時にすぐに使えるように整理整頓されている 深山さんが確立させた竪型巻線。横型巻線ではねじれてしまう幅の太い電線を巻けるようになり、設計の自由度が増し、耐久性も向上した(写真提供:富士電機株式会社) 千葉工場の主力製品である大型変圧器。受注生産により、半年〜1年程度をかけて製作される(写真提供:富士電機株式会社) 【P64】 イキイキ働くための脳力アップトレーニング!  年齢とともに低下しやすいのが、「ワーキングメモリ(作業記憶)」の力です。ちょっと脳に記憶しながら(メモリ)、そこに知的作業を加えていく(ワーキング)、という力です。このじゃんけんトーナメントもメモを取らず、頭の中でチャレンジしましょう。そして、すらすらと順を追って答えられるようになるまでくり返しましょう。 第84回 負けじゃんけんトーナメント 例題 負けた方が勝ちのじゃんけんトーナメント、優勝したのはだれ? 優勝 Aグー Bチョキ Cパー Dグー 【答え】優勝はB 本題 目標1分 負けた方が勝ちのじゃんけんトーナメント、優勝したのはだれ? 1分で答えてください。メモを取ってはいけません。 優勝 Aパー Bグー Cチョキ Dグー Eチョキ Fパー Gグー Hパー 健康こそ脳の力を保つ  今回は、脳にしっかりメモをしながら、順に考えていく力が要求される問題です。脳にメモをして、そこで何かをするのは、面倒でストレスです。また、年齢を重ねるほどにこういった頭の使い方を避けるようになっていきます。しかしながら、記憶力を保持するには「脳のなかで正しくメモを取る力」が必要なため、あきらめず、順序よく考えていきましょう。  さて、WHO(世界保健機関)は2019年に認知機能低下予防のためのガイドラインを公表しています。それによると、運動、禁煙、地中海食などの健康的でバランスのとれた食事、危険で害ある飲酒行動を止めたり減らしたりすること、認知的なトレーニング、過体重・肥満・高血圧・高脂血・糖尿病への介入が、強くまたは条件つきで推奨されています。  運動すること、健康的な食事を摂ること、健康に気を使うこと、つまるところ、脳も体の一部なので、健康こそ脳の力を保つ源泉なのです。いまやSNSをのぞき込めば、さまざまな筋トレ法、運動法があふれています。しっかり運動しましょう。 篠原菊紀(しのはら・きくのり) 1960(昭和35)年、長野県生まれ。公立諏訪東京理科大学医療介護健康工学部門長。健康教育、脳科学が専門。脳計測器多チャンネルNIRSを使って、脳活動を調べている。『中高年のための脳トレーニング』(NHK出版)など著書多数。 【問題の答え】 本題の答え→優勝はC 【P65】 ホームページはこちら (独)高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)各都道府県支部高齢・障害者業務課 所在地等一覧  JEEDでは、各都道府県支部高齢・障害者業務課等において高齢者・障害者の雇用支援のための業務(相談・援助、給付金・助成金の支給、障害者雇用納付金制度に基づく申告・申請の受付、啓発等)を実施しています。 2024年6月1日現在 名称 所在地 電話番号(代表) 北海道支部高齢・障害者業務課 〒063-0804 札幌市西区二十四軒4条1-4-1 北海道職業能力開発促進センター内 011-622-3351 青森支部高齢・障害者業務課 〒030-0822 青森市中央3-20-2 青森職業能力開発促進センター内 017-721-2125 岩手支部高齢・障害者業務課 〒020-0024 盛岡市菜園1-12-18 盛岡菜園センタービル3階 019-654-2081 宮城支部高齢・障害者業務課 〒985-8550 多賀城市明月2-2-1 宮城職業能力開発促進センター内 022-361-6288 秋田支部高齢・障害者業務課 〒010-0101 潟上市天王字上北野4-143 秋田職業能力開発促進センター内 018-872-1801 山形支部高齢・障害者業務課 〒990-2161 山形市漆山1954 山形職業能力開発促進センター内 023-674-9567 福島支部高齢・障害者業務課 〒960-8054 福島市三河北町7-14 福島職業能力開発促進センター内 024-526-1510 茨城支部高齢・障害者業務課 〒310-0803 水戸市城南1-4-7 第5プリンスビル5階 029-300-1215 栃木支部高齢・障害者業務課 〒320-0072 宇都宮市若草1-4-23 栃木職業能力開発促進センター内 028-650-6226 群馬支部高齢・障害者業務課 〒379-2154 前橋市天川大島町130-1 ハローワーク前橋3階 027-287-1511 埼玉支部高齢・障害者業務課 〒336-0931 さいたま市緑区原山2-18-8 埼玉職業能力開発促進センター内 048-813-1112 千葉支部高齢・障害者業務課 〒263-0004 千葉市稲毛区六方町274 千葉職業能力開発促進センター内 043-304-7730 東京支部高齢・障害者業務課 〒130-0022 墨田区江東橋2-19-12 ハローワーク墨田5階 03-5638-2794 東京支部高齢・障害者窓口サービス課 〒130-0022 墨田区江東橋2-19-12 ハローワーク墨田5階 03-5638-2284 神奈川支部高齢・障害者業務課 〒241-0824 横浜市旭区南希望が丘78 関東職業能力開発促進センター内 045-360-6010 新潟支部高齢・障害者業務課 〒951-8061 新潟市中央区西堀通6-866 NEXT21ビル12階 025-226-6011 富山支部高齢・障害者業務課 〒933-0982 高岡市八ケ55 富山職業能力開発促進センター内 0766-26-1881 石川支部高齢・障害者業務課 〒920-0352 金沢市観音堂町へ1 石川職業能力開発促進センター内 076-267-6001 福井支部高齢・障害者業務課 〒915-0853 越前市行松町25-10 福井職業能力開発促進センター内 0778-23-1021 山梨支部高齢・障害者業務課 〒400-0854 甲府市中小河原町403-1 山梨職業能力開発促進センター内 055-242-3723 長野支部高齢・障害者業務課 〒381-0043 長野市吉田4-25-12 長野職業能力開発促進センター内 026-258-6001 岐阜支部高齢・障害者業務課 〒500-8842 岐阜市金町5-25 G-frontU7階 058-265-5823 静岡支部高齢・障害者業務課 〒422-8033 静岡市駿河区登呂3-1-35 静岡職業能力開発促進センター内 054-280-3622 愛知支部高齢・障害者業務課 〒460-0003 名古屋市中区錦1-10-1 MIテラス名古屋伏見4階 052-218-3385 三重支部高齢・障害者業務課 〒514-0002 津市島崎町327-1 ハローワーク津2階 059-213-9255 滋賀支部高齢・障害者業務課 〒520-0856 大津市光が丘町3-13 滋賀職業能力開発促進センター内 077-537-1214 京都支部高齢・障害者業務課 〒617-0843 長岡京市友岡1-2-1 京都職業能力開発促進センター内 075-951-7481 大阪支部高齢・障害者業務課 〒566-0022 摂津市三島1-2-1 関西職業能力開発促進センター内 06-7664-0782 大阪支部高齢・障害者窓口サービス課 〒566-0022 摂津市三島1-2-1 関西職業能力開発促進センター内 06-7664-0722 兵庫支部高齢・障害者業務課 〒661-0045 尼崎市武庫豊町3-1-50 兵庫職業能力開発促進センター内 06-6431-8201 奈良支部高齢・障害者業務課 〒634-0033 橿原市城殿町433 奈良職業能力開発促進センター内 0744-22-5232 和歌山支部高齢・障害者業務課 〒640-8483 和歌山市園部1276 和歌山職業能力開発促進センター内 073-462-6900 鳥取支部高齢・障害者業務課 〒689-1112 鳥取市若葉台南7-1-11 鳥取職業能力開発促進センター内 0857-52-8803 島根支部高齢・障害者業務課 〒690-0001 松江市東朝日町267 島根職業能力開発促進センター内 0852-60-1677 岡山支部高齢・障害者業務課 〒700-0951 岡山市北区田中580 岡山職業能力開発促進センター内 086-241-0166 広島支部高齢・障害者業務課 〒730-0825 広島市中区光南5-2-65 広島職業能力開発促進センター内 082-545-7150 山口支部高齢・障害者業務課 〒753-0861 山口市矢原1284-1 山口職業能力開発促進センター内 083-995-2050 徳島支部高齢・障害者業務課 〒770-0823 徳島市出来島本町1-5 ハローワーク徳島5階 088-611-2388 香川支部高齢・障害者業務課 〒761-8063 高松市花ノ宮町2-4-3 香川職業能力開発促進センター内 087-814-3791 愛媛支部高齢・障害者業務課 〒791-8044 松山市西垣生町2184 愛媛職業能力開発促進センター内 089-905-6780 高知支部高齢・障害者業務課 〒781-8010 高知市桟橋通4-15-68 高知職業能力開発促進センター内 088-837-1160 福岡支部高齢・障害者業務課 〒810-0042 福岡市中央区赤坂1-10-17 しんくみ赤坂ビル6階 092-718-1310 佐賀支部高齢・障害者業務課 〒849-0911 佐賀市兵庫町若宮1042-2 佐賀職業能力開発促進センター内 0952-37-9117 長崎支部高齢・障害者業務課 〒854-0062 諫早市小船越町1113 長崎職業能力開発促進センター内 0957-35-4721 熊本支部高齢・障害者業務課 〒861-1102 合志市須屋2505-3 熊本職業能力開発促進センター内 096-249-1888 大分支部高齢・障害者業務課 〒870-0131 大分市皆春1483-1 大分職業能力開発促進センター内 097-522-7255 宮崎支部高齢・障害者業務課 〒880-0916 宮崎市大字恒久4241 宮崎職業能力開発促進センター内 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