【P6】 特集 即戦力となるシニア人材の確保へ  さまざまな業種・業界で、少子高齢化などによる人手不足が大きな課題となっています。それを補填する人材として、豊富な知識や経験を持つシニア人材に注目が集まっており、他社を退職したシニアの採用や、副業人材としてシニアを活用する企業も増えてきています。  しかし、せっかく採用したシニア人材が、さまざまな要因により、期待していたような即戦力とならないケースもあるといわれています。  そこで今号では、ミスマッチを防ぎ、即戦力となるシニア人材を採用するためのポイントについて解説するとともに、実際にシニア採用を行っている企業の事例をご紹介します。 【P7-10】 総論 先入観は厳禁、即戦力となるシニアを採用・活用するポイントとは 株式会社シニアジョブ 代表取締役 中島(なかじま)康恵(やすよし) 1 即戦力として期待されるシニア  シニアを中途採用する企業は、そのシニアが「即戦力かどうか」を必ず見ます。新卒や若手人材のように、教育に時間やコストをかけ、今後の“伸びしろ”に期待をすることは、シニアの場合、まずありません。  そのため、人手不足が顕著な職種や、比較的短期間で仕事が覚えられる職種以外は、経験が重視されやすく、応募職種の業務から離れている期間があればそのブランクが懸念材料になります。また、場合によっては、たとえ資格を持っていてもその職務経験がなければ採用されないこともあります。  いわばその仕事の“プロフェッショナル”を企業は求めるのですが、それは単に“教育いらず”で仕事を始められるだけでなく、一定以上の“成果を出すこと”がセットです。思った以上に教育に手間どる場合のほか、期待する成果が出ない場合も“ミスマッチ”ととらえられ、そのように判断するまでの期間も非常に短くなりがちです。  しかし、実際にシニアの採用を行っている各企業では、どんな仕事で、どのくらいの期間内に教育が完了し、いつまでにどんな成果を求めるのか、事前に考えたうえで採用を行っているでしょうか。例えば、「本人の仕事ぶりを見て判断」や、「仕事は『営業』だけれど『業務改善や教育も』できるなら任せたい」、「成果は出せるなら出せるだけ」のような曖昧(あいまい)なものでなんとなく採用していないでしょうか。  有能なシニアを採用したくとも、何をもって「即戦力」なのか具体的に定義できていなければ、ミスマッチが発生してしまうでしょう。 2 そもそも「即戦力のシニア」とは  「即戦力」のシニアについて、どう定義すればよいのか、考えていきましょう。まず、即戦力の一つの大きな要素となるのが“教育が不要”という点です。しかし、本当にシニアは“教育が不要”で、採用時に“伸びしろ”を考慮しなくてよいのでしょうか。  結論からいえば、シニアであっても“新たな学び”と“学ぶ姿勢”は絶対に必要です。むしろ、即戦力として活躍するシニアは必ずといってよいほど“学ぶ姿勢”を持っています。たしかにシニアの場合、長期間にわたる教育や成長を見守る過程は必要ありませんが、教育がまったく不要というわけではありません。  即戦力を求める会社は、のちほど解説するシニアの副業や業務委託などでは特に、面接の際に今後の学びや新しいチャレンジの話を出した求職者を「プロの姿勢ではない」と不採用にする傾向があります。もちろん、会社に貢献できるスキルが何もないのは論外ですし、会社の教育・研修に甘えるのも問題です。けれども、新しいことを“学ぶ姿勢”のないシニアは、過去の栄光に固執しやすいものです。むしろ、面接では“学ぶ姿勢”をしっかり確認・評価することが重要となります。  さて、そもそもシニアにかぎらず“戦力”を計る指標はあるのでしょうか。社員の“戦力”の判断基準がないか、あっても基準が曖昧では、即戦力のシニアかどうかも判断できません。若手や中堅も含め、成果や教育結果の評価基準や採用時の判断基準は、明確なものを設定すべきです。それをもとに、シニアの採用基準も調整するとよいでしょう。  また、そもそも事業そのものが成果を上げにくい状況であれば、百戦錬磨のシニアを採用した場合でも、「逆境を乗り越えて成果を出せ」、「プロなら改善も含めてできるだろう」というのは酷です。そうした期待をするのであれば、“その業務”のプロではなく、“事業再構築”や“組織改革”のプロのシニアを採用するべきでしょう。 3 任せる業務と必要なスキルを明確に  前述のように、シニアに任せる業務、求める 成果、採用するシニアの経験とスキルがそれぞ れバラバラだと、いくらスキルの高いシニアを 採用しても即戦力として力を発揮できません。 募集前からどんな仕事を任せて、どんな成果を 期待するのか、しっかりと決めておくことが必 要です。  もし、シニアの仕事の難易度や負担を減らす場合は、社内の仕事内容そのままではなく、シニア専用に業務を切り出すと、より活躍してもらいやすい業務設計ができます。先輩社員が新人向けに行っていたOJTなどの教育をシニアに担当してもらい、中堅社員をコア業務に集中させる例は多く見られます。  このように、事前にシニアの担当業務を明確にすることで、求めるスキルセットも明確になり、業務に見合ったシニアを採用できます。応募するシニアも自分に合った業務であるかを判断しやすくなり、ミスマッチが減ります。  また、シニアに任せる業務も、求めるスキルセットも明確になっている場合、それ以外の曖昧で余計な指標を選考に持ちこんではいけません。例えば、シニアの前職がいくら大企業でも、仕事ができるかは別です。健康アピールも数年後にどうなるかはわかりませんし、やはり仕事の能力とは無関係です。反対に、「シニアだから体力がない」、「ITに弱い」といった先入観(バイアス)で判断してしまうのも問題です。  昨今、国が旗を振っている賃上げの動きが活発化していますが、この背景から採用に必要となってくるものが、転職市場の給与相場の研究です。当然ですが、同じエリアの同じ職種の給与相場を下回る提示金額では採用がむずかしくなります。  もしかすると「シニアは安い給与設定でも採用できる」という感覚を持つ方もいるかもしれませんが、じつはシニアも徐々に採用がむずかしくなり、給与相場も高くなってきています。2023(令和5)年9月の敬老の日に合わせて総務省統計局が発表した『統計からみた我が国の高齢者−「敬老の日」にちなんで−』※1では、65歳以上の人口が1950(昭和25)年以降初の減少となったことが示されました。もちろん、一過性である可能性もありますが、出生率が改善しないかぎり、シニアも人口は減っていきます。人手不足の業界職種では、すでに50代、60代すら採用がむずかしくなっているケースもあります。  現在はシニアが採用できている会社でも、今後賃上げの影響で地域の給与相場を下回り、採用が急にむずかしくなるかもしれません。求人サイトなどで給与相場を確認し、適切な給与などの条件を設定するようにしましょう。 4 モチベーションのポイントを探る  さて、即戦力のシニアを採用する場合であっても、新たなことを“学ぶ姿勢”を持ったシニアのほうが活躍しやすいことは先に述べた通りです。そしてそれは、選考時のチェックポイントだけではなく、入社後により活躍してもらうためや、離職を防止するためにも重要です。  社内で全員がITツールを使用しているならば、シニアにも覚えて使ってもらうべきですし、業務の範囲内で新たなことを学びたい、チャレンジしたいというシニアには、積極的に学びやチャレンジを進めてもらうべきです。これを制限してしまうと、やる気を失い、戦力としても心許なくなってしまうでしょう。  ITが苦手なシニアに配慮して、紙などアナログの手続きによる特別扱いを考える企業もあるかもしれません。しかし、よかれと思ってのことでも、こうした特別扱いはほかの世代の社員との壁を厚くしてしまい、シニアの人数が少ない場合などは特に孤独を感じ、離職を招きやすくなります。  周囲からはちょっと遠慮しているだけのように見えても、シニアの孤独を把握しきれないまま、離職に至ることが珍しくありません。シニア本人も壁をつくらない努力が必要ですが、企業側もシニアとのコミュニケーション量には注意が必要です。  一方で、単に若手と平等に扱えばよいというものではありません。シニアの積極性やモチベーションのあり方は、世代間の差もあってどうしても若手と違うものになります。単純に若手と比べてしまうと消極的に見えることもあるでしょう。もちろん、シニアにやる気がないわけではないので、対話を深め、どこに積極性やモチベーションのポイントがあるのかを探ってみてください。 5 副業・業務委託のシニアは  働き方が多様化するなかで、シニアにおいてもさまざまな方法が生まれています。国も、65歳以上の働き方として、それまで勤めた会社での雇用の継続以外にも、個人事業主や起業して業務委託を受ける形式を「創業支援等措置」※2として制度化し、また、65歳以上が複数の職場での勤務時間を合算して雇用保険に加入できる「雇用保険マルチジョブホルダー制度」※3もスタートさせて、シニアの業務委託や副業を後押ししています。  一般的に副業や業務委託の場合、社員の場合よりさらに即戦力・プロを求める企業は多いのではないでしょうか。しかし、副業や業務委託にチャレンジする人材のなかには、「本業やこれまでの経歴では実現しなかった仕事にチャレンジする」という人も少なくないため、ミスマッチが起きやすくなります。  シニアの場合は特に、定年でこれまでのキャリアに一区切りをつけた意識などから違う分野へのチャレンジも生まれやすくなります。また、「創業支援等措置」で独立した場合などは「その仕事のプロ」ではあっても「起業家・経営者としては素人」であることが多いので、発注する企業も注意が必要です。例えば、会社員からいきなり起業した場合などには、技術力は高くても仕事を受ける際の手際はよくないといったように、得意領域以外は改善の余地がある場合も多いのです。  発注する企業は、仕事を受けるからにはすべてに完璧なプロとしてふるまってほしいと思うかもしれませんが、副業や業務委託でも、任せる業務を細かく具体的に切り出したほうがよいのは社員の採用と同じで、ミスマッチ防止にもなります。  また、これも社員と同様に、副業や業務委託のシニアでも“学ぶ姿勢”を持ったシニアのほうが高いパフォーマンスを発揮します。知識や経験がまったくない場合はさておき、新しい学びやチャレンジを目ざす副業や業務委託のシニアを「プロではない」と拒否するのは得策ではありません。  一方で企業の立場からすると、これまでの日本の雇用のスタイルで一般的ではなかった副業や業務委託などの働き方、それもシニアが行うケースに、スムーズに対応するのは戸惑いが大きいのも事実です。2023年末に厚生労働省が発表した令和5年「高年齢者雇用状況等報告」※4によると、65歳以上の就業機会確保のために業務委託などの働き方を設ける「創業支援等措置」を導入した企業は、調査項目に加わった2021年以降、0.1%のままとなっています(図表)。さらに「フリーランス新法」が2023年4月に成立し、発注する企業の視点で見れば、さまざまな義務が課せられることで負担が増しています。業務委託のシニアに活躍してもらうためのポイントもシニア社員の場合(本稿@〜C)との大きな差がないため、シニア社員の活躍推進とあわせて考えていきましょう。 6 先入観で決めつけない  副業や業務委託だけでなく、シニアをめぐる就業環境や転職市場、制度は目まぐるしく変化しており、企業が学んだり工夫を求められたりする領域と頻度は加速度的に高まっています。経営者や人事担当者は、つねに新しい制度とバイアスにとらわれないシニアの就業と転職の実態を見つめる必要がありそうです。  しかし、最も大切なことは、定められた制度にいち早く順応することや、個別のシニアの事情に寄り添うことではありません。いかに業務遂行能力“だけ”を見て判断・評価ができるか、そして業務遂行能力はあるのになんらかのハードルがあるのであれば、業務遂行能力を活かせる工夫をできるかということが大切です。ぜひ、シニアという先入観に惑わされず、能力で判断するマインドへと変革していきましょう。 ※1 https://www.stat.go.jp/data/topics/pdf/topics138.pdf ※2 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/koureisha/topics/tp120903-1_00001.html ※3 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000136389_00001.html ※4 https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_36506.html 図表 就業確保措置の内訳 全企業 (29.7%) 定年制の廃止3.9% 定年の引上げ2.3% 継続雇用制度の導入23.5% 創業支援等措置の導入0.1% 301人以上 (22.8%) 定年制の廃止0.7% 定年の引上げ0.6% 継続雇用制度の導入21.3% 創業支援等措置の導入0.2% 21〜300人 (30.3%) 定年制の廃止4.2% 定年の引上げ2.4% 継続雇用制度の導入23.7% 創業支援等措置の導入0.1% 出典:厚生労働省 令和5年「高年齢者雇用状況等報告」 【P11-14】 解説1 副業シニア人材の活用と労務管理 特定社会保険労務士 坂本(さかもと)直紀(なおき) 1 はじめに  労働者の副業を容認する企業も増えてきているなかで、人材採用においては副業人材の活用も選択肢の一つとなっています。  特に、知識や経験豊富なシニア人材は、貴重な戦力になる可能性があります。  そこで、本稿では副業人材を受け入れるうえでの労務管理上の注意点について解説します。 2 基本的な考え方 (1)基本的には認める方向  労働者が、労働時間以外の時間をどのように利用するかは、基本的には労働者の自由になります。  したがって、原則的に、会社としては労働者の副業を認める方向で検討することが適当とされています。 (2)就業規則の規定  次に示すのは、厚生労働省の「モデル就業規則」※1における副業・兼業の規定例です。  前述の通り、労働者が労働時間以外の時間をどのように利用するかは、基本的には労働者の自由であり、その点が第1項で定められています。 一方で、会社において、副業の内容から、副業を禁止・制限する場合もあります。その点について、第2項で定めています。 (副業・兼業) 第70条 労働者は、勤務時間外において、他の会社等の業務に従事することができる。 2 会社は、労働者からの前項の業務に従事する旨の届出に基づき、当該労働者が当該業務に従事することにより次の各号のいずれかに該当する場合には、これを禁止又は制限することができる。 @労務提供上の支障がある場合 A企業秘密が漏洩する場合 B会社の名誉や信用を損なう行為や、信頼関係を破壊する行為がある場合 C競業により、企業の利益を害する場合 3 労働時間の通算 (1)事業場を異にする場合も通算労働基準法(以下、「労基法」)第38条第1項では「労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する」と規定されています。  そして、この「事業場を異にする場合」とは事業主を異にする場合をも含むこととされています(労働基準局長通達〈昭和23年5月14日付け基発第769号〉)。  したがって、基本的には、他社で勤務する労働時間についても通算して管理することになります。 (2)労基法の適用がない場合など  以下のいずれかに該当する場合は、その時間は通算されないとされています。 ・労基法が適用されない場合(フリーランス、独立、起業、アドバイザー、顧問など) ・労基法の労働時間規制が適用されない場合(管理監督者など) (3)通算して適用される規定  法定労働時間(労基法第32条)の適用において自らの事業場における労働時間およびほかの使用者の事業場における労働時間が通算されます。  そして、時間外労働(労基法第36条)のうち、時間外労働と休日労働の合計で単月100時間未満、複数月平均80時間以内の要件(同条第6項第2号および第3号)については、労働時間が通算されることになります。 (4)通算して適用されない規定  時間外労働(労基法第36条)のうち、労基法第36条第1項の協定(以下、「36協定」)により延長できる時間の限度時間(同条第4項)、36協定に特別条項を設ける場合の1年についての延長時間の上限(同条第5項)については、それぞれの事業場における延長時間を定めることとされています。 4 労働時間通算における割増賃金 (1)基本的事項 @労働時間を通算管理する使用者  副業を行う労働者を使用するすべての使用者は、労基法第38条第1項の規定により、それぞれ、自らの事業場における労働時間とほかの使用者の事業場における労働時間とを通算して管理する必要があります。 A通算される労働時間  労基法第38条第1項の規定による労働時間の通算は、自らの事業場における労働時間と労働者からの申告などにより把握したほかの使用者の事業場における労働時間とを通算することによって行います。 (2)所定労働時間の通算  副業の開始前に、自らの事業場における所定労働時間とほかの使用者の事業場における所定労働時間とを通算して、自らの事業場の労働時間制度における法定労働時間を超える部分の有無を確認します。  図表1で示す通り、まずは、自らの事業場における所定労働時間とほかの使用者の事業場における所定労働時間とを通算します。  例1、例2のいずれも通算した結果が9時間(企業A:5時間、企業B:4時間)となり、法定労働時間である8時間を1時間超過しています。  そして、法定労働時間を超える部分がある場合は、時間的に後から労働契約を締結した使用者における当該超える部分が時間外労働となります。  例1、例2のいずれも、時間的に後から労働契約を締結したのは企業Bです。  したがって、企業Bが法定時間外労働を1時間発生させたこととして取り扱われ、1時間分の割増賃金を支払うことになります。 (3)所定外労働時間の通算  副業の開始後は、自社の所定外労働時間と副業先における所定外労働時間とを当該所定外労働が行われる順に通算します。  自社と副業先のいずれかで所定外労働が発生しない場合の取扱いは、次の通りです。 ・自社で所定外労働がない場合は、所定外労働時間の通算は不要です。 ・自社で所定外労働があるものの、副業・兼業先で所定外労働がない場合は、自社の所定外労働時間のみを通算します。  そして、通算した結果、図表2で示す通り、自社の労働時間制度における法定労働時間を超える部分が時間外労働となり、割増賃金を支払う必要があります。  例1、例2のいずれも企業Aと企業Bにおいて所定外労働が発生しています。  そして、所定労働時間の通算の後、所定外労働が行われる順に通算することになります。  例1のケースでは、まず、企業A(先に労働契約を締結)の所定労働時間3時間(@)+企業B(後から労働契約を締結)の所定労働時間3時間(A)を通算します。この時点で、労働時間6時間となります。  次に、所定外労働時間の通算です。さきほどの6時間に、当日、先に所定外労働を発生させた企業Aの所定外労働時間2時間(B)を通算します。この時点で8時間ですので、まだ法定労働時間内です。  そして、次に企業Bの所定外労働時間1時間(C)を通算します。  この1時間は法定外労働時間ですので、割増賃金が発生することになります。  例2も同様の順で行います。例2では、企業Aが、法定外労働時間1時間分の割増賃金を支払うことになります。 5 副業と保険関係 (1)労災保険 @複数事業労働者  被災した時点で、事業主が同一でない複数の事業場と労働契約関係にある労働者は、複数事業労働者となります。 A賃金額の合算  複数事業労働者が安心して働くことができる環境を整備するため、非災害発生事業場の賃金額も合算して労災保険給付額を算定することとしています(図表3)。 B負荷の総合的評価  複数事業労働者の就業先の業務上の負荷を、総合的に評価して労災認定が行われます。  長時間労働の場合ですと、例えば、仮に「A社での時間外労働時間数60時間」と「B社での時間外労働時間数40時間」とした場合、A社、B社での負荷を総合評価し、100時間として判断されます。  また、精神障害の負荷においては、例えば、仮に「A社:ノルマが達成できなかった」、「B社:パワーハラスメントを受けた」としたら、複数の出来事があったとして、A社、B社での負荷を総合評価して判断されます。 (2)雇用保険 @原則的な考え  同一の事業主のもとで@1週間の所定労働時間が20時間未満である者、A継続して31日以上雇用されることが見込まれない者は被保険者となりません。  また、同時に複数の事業主に雇用されている者が、それぞれの雇用関係において被保険者要件を満たす場合、その者が生計を維持するに必要な主たる賃金を受ける雇用関係についてのみ被保険者となります。 A雇用保険マルチジョブホルダー制度  原則的な考えの例外として、雇用保険マルチジョブホルダー制度が設けられています。  複数の事業所で勤務する65歳以上の労働者が、そのうち二つの事業所での勤務を合計して次の要件を満たす場合、本人からハローワークに申出を行うことで、申出を行った日から特例的に雇用保険の被保険者(マルチ高年齢被保険者)となることができる制度です。 ・複数の事業所に雇用される65歳以上の労働者であること ・二つの事業所(一つの事業所における1週間の所定労働時間が5時間以上20時間未満)の労働時間を合計して1週間の所定労働時間が20時間以上であること ・二つの事業所のそれぞれの雇用見込みが31日以上であること (3)社会保険  社会保険(厚生年金保険および健康保険)の適用要件は、事業所ごとに判断されます。したがって、複数の事業所で勤務する者が、いずれの事業所においても適用要件を満たさなければ、適用されません。  なお、同時に複数の事業所で就労している者が、それぞれの事業所で被保険者要件を満たすこともあります。  この場合、被保険者は、いずれかの事業所の管轄の年金事務所および医療保険者を選択し、当該選択された年金事務所および医療保険者において各事業所の報酬月額を合算して、標準報酬月額を算定し、保険料を決定することとされています。 6 まとめ  副業によるシニア人材を活用するうえで、今回解説した、労基法における取扱い、特に労働時間の取扱いは留意しておく必要があります。  他社で雇用契約を結んで勤務しているシニア人材と新たに雇用契約を締結する場合、後契約になりますので、所定労働時間を通算した結果、法定労働時間を超過し、割増賃金を支給する可能性もあります。  そして、副業でのトラブルがないように就業規則に適切に規定し、また、副業・兼業に関する届出様式も整備しておくことが重要です。 ※1 モデル就業規則(令和5年7月版) https://www.mhlw.go.jp/content/001018385.pdf ※2 https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/000996750.pdf 図表1 所定労働時間の通算(原則的な労働時間管理の方法) (例1)企業A:時間的に先に労働契約を締結、所定労働時間1日5時間(7:00〜12:00) 企業B:時間的に後に労働契約を締結、所定労働時間1日4時間(14:00〜18:00) 企業A 企業B 0時 7時 12時 14時 17時 18時 24時 →企業Bに、法定時間外労働が1時間発生します。(5時間+4時間−8時間=1時間) (例2)企業A:時間的に先に労働契約を締結、所定労働時間1日5時間(14:00〜19:00) 企業B:時間的に後に労働契約を締結、所定労働時間1日4時間(8:00〜12:00) 企業B 企業A 0時 8時 11時 12時 14時 19時 24時 →企業Bに、法定時間外労働が1時間発生します。(5時間+4時間−8時間=1時間) 出典:厚生労働省「副業・兼業の促進に関するガイドライン わかりやすい解説」(2022年)※2 図表2 所定外労働時間の通算(原則的な労働時間管理の方法) 例1)企業A:時間的に先に労働契約を締結 所定労働時間1日3時間(7:00〜10:00)−@ 当日発生した所定外労働2時間(10:00〜12:00)−B 企業B:時間的に後に労働契約を締結 所定労働時間1日3時間(15:00〜18:00)−A 当日発生した所定外労働1時間(18:00〜19:00)ーC 企業A 企業B @ B A C 0時 7時 10時 12時 15時 18時 19時 24時 →@+A+Bで法定労働時間に達するので、企業Bで行う1時間の所定外労働(18:00〜19:00)は法定時間外労働となり、企業Bにおける36協定で定めるところにより行うこととなります。企業Bはその1時間について割増賃金を支払う必要があります。 (例2)企業A:時間的に先に労働契約を締結 所定労働時間1日3時間(14:00〜17:00)−@ 当日発生した所定外労働2時間(17:00〜19:00)−C 企業B:時間的に後に労働契約を締結 所定労働時間1日3時間(7:00〜10:00)−A 当日発生した所定外労働1時間(10:00〜11:00)−B 企業B 企業A A B @ C 0時 7時 10時 11時 14時 17時 18時 19時 24時 →@+A+B+(Cのうち1時間)で法定労働時間に達するので、企業Aで行う1時間の所定外労働(18:00〜19:00)は法定時間外労働となり、企業Aにおける36協定で定めるところにより行うこととなります。企業Aはその1時間について割増賃金を支払う必要があります。 出典:厚生労働省「副業・兼業の促進に関するガイドライン わかりやすい解説」(2022 年) 図表3 賃金額の合算の具体例 会社A 20万円/月 労働災害 会社B 15万円/月 2社の賃金額計35万円を基に保険給付を算定 出典:厚生労働省「副業・兼業の促進に関するガイドライン わかりやすい解説」(2022年)より抜粋 【P15-18】 解説2 シニア人材の移籍支援の取組みについて 〜「キャリア人材バンク」における取組みについて〜 公益財団法人産業雇用安定センター業務部長 下角(しもかど)圭司(けいじ) 1 はじめに  公益財団法人産業雇用安定センター(以下、「産業雇用安定センター」)では、定年退職される方や雇用延長措置を終了される高年齢者の方が、その経験・能力を活かしてほかの企業でさらに活躍できるよう、「高年齢退職予定者キャリア人材バンク事業」(以下、「キャリア人材バンク」)を運営し、高年齢者と企業とのマッチングを支援しています。本稿では、キャリア人材バンクの概要について紹介します。 2 産業雇用安定センターについて  産業雇用安定センターは、1987(昭和62)年に経済団体・産業団体と国の協力によって設立された公益財団法人です。  1985年のプラザ合意後に円高不況が進行し、輸出型産業を中心に大量の余剰人員が生まれ雇用不安が高まるなかで、企業間の出向・移籍の斡旋(あっせん)により失業を回避し雇用の安定を図るとともに、産業経済の発展に貢献することを目的に設立されました。  以来、厚生労働省、経済・産業団体や連合(労働組合)などとの密接な連携のもと、全国47都道府県の地方事務所の全国ネットワークにより、これまで累計25万人の出向・移籍の成立実績を積み上げてきました(図表1)。 3 キャリア人材バンク事業について  わが国では、少子高齢化の進展により生産年齢人口の減少が見込まれますが、今後もわが国の経済・社会が持続的に成長・発展していくためには、「一億総活躍社会」の実現が重要であり、高年齢者がその能力・経験を活かして活躍することが不可欠です。  このため、産業雇用安定センターでは、出向・移籍支援業務の一環として、高年齢者を支援対象とした「キャリア人材バンク」を2016(平成28)年度から運営し、再就職を希望する60歳以上の「在職者」および「離職後1年までの方」と、高年齢者の採用を希望する企業のそれぞれから求職・求人の申込みを受けて、就職に向けた斡旋を行っています(図表2)。 (1)キャリア人材バンクへの支援登録  再就職を希望する高年齢者、あるいは高年齢者の採用を希望する企業は、居所・所在地の都道府県にある産業雇用安定センター地方事務所※に相談のうえ、キャリア人材バンクへ求職・求人の申込みが可能です。 @求職申込み可能な高年齢者 ・現在在職中の60歳以上の方で雇用期間の満了後に再就職を希望する方  →キャリア・能力・就業希望などの情報を、事業主経由でキャリア人材バンクに登録することができます。 ・現在在職中の60歳以上70歳以下の方で事業主経由での登録を希望しない方、60歳以上70歳以下の離職者の方(離職後1年以内の方にかぎります)  →個人でキャリア人材バンクに登録することができます。 A求人申込み可能な企業  高年齢者の採用を希望し、次のいずれにも該当する企業 ・採用する方が66歳以降も働き続けられること ・採用する方の能力・経験が活かせること ・採用後の雇用期間が1年以上見込まれること (2)キャリア人材バンクの支援  キャリア人材バンクに登録した高年齢者の方には、産業雇用安定センターの担当者が、これまでの職務経験や保有する資格などについてヒアリングしたうえで、希望する職種、賃金、勤務時間などについて打合せを重ねながら求人企業を提案します。  また、求人企業には、希望する人材について、求められる能力、資格、経験などを詳しくヒアリングしたうえで、それらの条件に合った方を紹介します。  キャリア人材バンクでは、企業の人材ニーズと再就職を希望する方の能力・経験を的確に把握したうえで、求人企業と求職者の双方に職種、勤務時間、賃金などについてさまざまな提案を行いながら、面接日程の調整や採否の連絡なども含めてていねいなマッチングを行います。  なお、キャリア人材バンクに自社の従業員の再就職支援を依頼される企業や、個人で支援を希望される方、高年齢者の採用を希望される企業に、登録、相談、紹介などの費用負担はありません。  また、すでにハローワークなどに求職登録されている方、求人登録をされている企業も、キャリア人材バンクを利用することが可能です。 4 キャリア人材バンクにおける取扱いの現状 (1)登録者数、再就職者数の推移  「キャリア人材バンク」の求職登録者数、再就職者数は、高年齢者の就労ニーズの高まりや企業の人手不足感の高まりを背景に年々増加しており、2023(令和5)年度には、登録者数8018人、再就職者数4280人と、いずれも過去最多となりました(図表3)。 (2)登録時の年齢、再就職時の年齢  キャリア人材バンクの登録時・再就職時の年齢は、60歳と65歳に山が見られ、60歳定年、65歳の継続雇用終了時のタイミングで登録・再就職する方が多いことが想定されますが、そのほか、61歳から64歳までの各年齢で比較的まんべんなく登録しています(図表4)。 (3)キャリア人材バンクによる再就職者の受入職種  キャリア人材バンクによる再就職者の受入職種は、「事務的職業」、「販売・営業の職業」、「研究・技術の職業」、「管理的職業」などのいわゆるホワイトカラー系の職種が6割近くとなっています(図表5)。 5 高年齢者のさらなる活躍の促進に向けて  高年齢者雇用安定法の改正により、70歳までの就業機会確保の努力義務が設けられるなかで、高年齢者の就労意欲は今後ますます高まることが予想されます。  一方、高年齢者の働き方に対する考え方はさまざまです。産業雇用安定センターが2023年11月に実施した、求職活動中の60代男女1000人を対象とした調査によれば、50代までの働き方から少しペースを落としつつも、働きやすい仕事や職場で、ある程度しっかりした働き方を希望するなど、高齢者の就業ニーズの一端が明らかになりました(コラム参照)。  また、調査結果では、いわゆる人手不足分野といわれる業種であっても、仕事内容を見直し、業務を細分化してそれぞれ分割した業務ごとに求人することによって高年齢者の応募の可能性が高まり、人手不足の緩和につながる可能性のあることもわかりました。  高年齢者の就業ニーズを理解し、高年齢者が働きやすいような就労環境、雇用条件を柔軟に設定することによって、高齢人材の活躍をうながしていくことがますます必要な時代になっています。 6 おわりに  産業雇用安定センターでは、人手不足に悩む中小企業の人材確保の課題に対して、大手企業でさまざまな経験を積んできた方々がその知識・経験を活かしてさらに中小企業で活躍できるよう、両者の橋渡しに今後さらに積極的に取り組んでいきます。  大手企業で働くみなさんが定年退職、継続雇用の終了を迎える際には、ぜひ、キャリア人材バンクの利用を検討いただき、退職予定のみなさまの企業を通じたご登録をお願いします。また、キャリア人材バンクは個人での登録も受けつけていますので、その周知、利用勧奨につきましても、あわせてお願いいたします。 ※ 地方事務所一覧  https://www.sangyokoyo.or.jp/about/location/index.html#01 コラム 60代シニア層の就業ニーズ調査(結果概要) 1.仕事探しで重視するもの  「仕事内容・職場の働きやすさ」(40%)、「就業場所や通勤時間」(35%)の割合が高く、「給料」(25%)はやや低い 2.希望する就労日数  男性60〜64歳の約半数が「週5日」以上を希望する一方、女性と男性65〜69歳では7割から8割超が「週4日」以下を希望 3.職種別の希望度 ●「行政・公的機関での事務補助(年単位雇用)」(65%)など事務系の職種の希望度が高く、なかでも「事務補助・雑務」、「学校校務支援」などのサポート的な職種の希望度が高い ●人手不足分野の運輸、警備、介護福祉の仕事はシニア層でも希望者は少ないが、「他に仕事がなければ希望したい」とする者などを含めれば一定数いることがわかった ●業務内容を限定または分割することによって希望度が高まる「職種」があり、例えば、福祉施設における業務に関し、「福祉施設の清掃・食器洗浄などの間接業務」は「介助業務」より10ポイント近く希望度が高かった 出典:産業雇用安定センター「60 代シニア層の就業ニーズに関する調査結果」(2023年) https://www.sangyokoyo.or.jp/topics/2023/senior_60ank_20240115.html 図表1 出向・移籍の実績推移 受入・送出情報(人) 成立数(人) 出向成立 移籍成立 送出情報 受入情報 2014年度(平成26年) 8,495 2,361 6,134 2015年度(平成27年) 8,559 2,220 6,339 2016年度(平成28年) 8,181 2,024 6,157 2017年度(平成29年) 8,606 2,073 6,533 2018年度(平成30年) 8,641 1,678 6,963 2019年度(令和元年) 9,417 1,240 8,177 2020年度(令和2年) 11,170 3,061 8,109 2021年度(令和3年) 13,960 5,611 8,349 2022年度(令和4年) 10,060 2,960 7,100 2023年度(令和5年) 10,391 1,813 8,578 資料提供:公益財団法人産業雇用安定センター 図表2 キャリア人材バンク事業概要 登録者情報 自らの能力・経験を生かし66歳以降も働くことを希望する方 事業主経由での登録の場合 事業主様を通じてご登録ください 対象者 60歳以上の在職者の方で雇用契約期間の満了(※)後に再就職を希望する ※定年、継続雇用終了、有期雇用契約期間満了により離職する場合をいいます 個人登録の場合 ご来所の上ご登録ください 対象者 60歳から70歳以下の方で下記のいずれかに該当する方 ・在職者で再就職を希望する ・離職後1年以内の離職者で再就職を希望する 就業希望登録 受入情報提供 応募希望 産業雇用安定センター キャリア人材バンク 再就職の決定 受入情報の登録 就業希望情報の提供 面接 受入情報 高齢者の能力・経験の活用を希望する企業 以下のいずれにも該当する求人情報が対象です @66歳以降も働き続けることが可能なもの A採用者の能力・経験が活かせるもの B採用後の雇用期間が1年以上見込まれるもの 資料提供:公益財団法人産業雇用安定センター 図表3 キャリア人材バンクの登録者、再就職者数の推移 2017年度 再就職者数393人 登録者数1,088人 2018年度 再就職者数1,102人 登録者数2,781人 2019年度 再就職者数1,921人 登録者数3,796人 2020年度 再就職者数2,118人 登録者数4,636人 2021年度 再就職者数2,384人 登録者数4,734人 2022年度 再就職者数2,976人 登録者数5,742人 2023年度 再就職者数4,280人 登録者数8,018人 資料提供:公益財団法人産業雇用安定センター 図表4 キャリア人材バンクの登録時の年齢、再就職時の年齢 【登録時の年齢】 (2023年度) 合計8,018人 60歳 19.9% 61歳 12.7% 62歳 10.5% 63歳 9.3% 64歳 11.1% 65歳 18.3% 66歳以上 18.2% 【再就職時の年齢】 (2023年度) 4,280人 60歳 16.8% 61歳 13.5% 62歳 10.4% 63歳 9.5% 64歳 8.9% 65歳 19.7% 66歳以上 21.1% 資料提供:公益財団法人産業雇用安定センター 図表5 キャリア人材バンクによる受入職種 2023年度 合計4,280人 事務的職業 1,097人 (25.6%) 販売・営業の職業 352人(8.2%) 研究・技術の職業 244人(5.7%) 管理的職業 202人 (4.7%) サービスの職業 663人 (15.5%) 運搬・清掃・包装・選別等の職業 414人(9.7%) 配送・輸送・機械運転の職業 322人(7.5%) 製造・修理・塗装・製図等の職業 289人(6.8%) 警備・保安の職業 184人(4.3%) 福祉・介護の職業 157人(3.7%) その他 356人 (8.3%) 資料提供:公益財団法人産業雇用安定センター 【P19-22】 事例1 IT企業が「ミドル・シニア採用」をスタート 採用はスキルと「オープンマインド」が鍵 株式会社ProVision(プロビジョン)(神奈川県横浜市) ソフトウェア品質検証で事業拡大 先進的で多様性に富んだ社員構成  株式会社ProVisionは2005(平成17)年に北海道札幌市で創業。基盤システムの開発を事業として創業した同社だが、ソフトウェアの品質検証および開発に事業の柱を移し、スマートフォン向けアプリやWEBサイト、ゲームなど、各種ソフトウェア・サービス・プロダクトのテスト、QA(品質保証)、第三者検証により、ソフトウェアの品質にかかわるさまざまな課題解決に向けたサービスを提供している。また、業務改善のDX導入支援のほか、拡張現実(AR)事業など、自社プロダクトの開発・運用を行い、業容を拡大している。2010年に本社を横浜に移転し、札幌開発センター、高崎営業所と合わせて3拠点を構えている。  2019(平成31)年から、働き方改革に関連する法律が順次施行されるなかで、人手不足や長時間労働の問題に改善策を講じる企業や自治体が労務管理のデジタル化を検討すると同時に、生産性向上や業務効率化、品質向上を目ざす世論の後押しもあり業績を伸ばしており、2015年以降、毎年110%強の売上高増加率を維持し中長期的な成長に期待が高まっている。  男性が多いIT業界において、同社社員の男女比率は1対1であり、中国、韓国の出身者をはじめ世界各国のグローバル人材が多く働いている。Jリーグに加盟するプロサッカークラブ「東京ヴェルディ」とコーポレートパートナー契約を締結するなど、プロスポーツを積極的にサポートする一面もあり、アスリート社員、パラアスリート社員、eスポーツ選手の採用も進めてきた。まさに多様な人材が活躍する会社であり、多様性に富む社員たちがお互い助け合って切磋琢磨する職場環境が醸成されている。  また、健康経営○R(★)にも積極的に取り組んでおり、アスリート社員による社員向けフィットネス講座、社内SNSを活用した健康情報の発信、在社時の健康づくりにストレッチポールを設置するなど、従業員の健康増進を目的とした施策や環境整備にも継続的に取り組んでおり、2024(令和6)年3月には、横浜市が認証する「横浜健康経営認証・クラスAA」の認定を取得している。 年齢層の厚みは企業成長に不可欠 ミドル・シニア層の獲得に動く  同社の定年は65歳。およそ1000人いる社員の平均年齢は30歳であり、特に20代が多く若手主体の活気ある会社だ。経営理念は「明るく元気に前向きに、ひたむきに貢献することで、笑顔の花を咲かせます」。業界未経験であっても、チャレンジ意欲が高い若手人材の採用を実施し、継続的に20代を獲得している。  そんな同社だが、2024年1月に、40〜60歳を対象にした「ミドル・シニア採用」を開始した。少子高齢化の影響により、全国的に若年層の獲得がむずかしくなっており、人材確保のために高齢者を積極的に雇用する企業は珍しくなくなってきたが、なぜいま、若手人材に不足のない新進気鋭のIT企業が、ミドル・シニア世代にターゲットを絞った採用に舵を切ったのか。CX部課長の野溝(のみぞ)駿悟(しゅんご)さんに話を聞いた。  「最初からミドル・シニア世代の方を採用したいと考えていたわけではなく、経験豊富な人材や、高度な専門知識を持つスペシャリストの採用を検討していったところ、結果的に『求める人材はミドル・シニア層にあたる』と考え、ミドル・シニア層を採用していこうと方向性が決まりました。当社は若年層が多い会社ですので、求職者に『シニア世代は求められていない』ととらえられてしまっていることは、もともと感じていました。そこで、あえて『ミドル・シニア採用』を前面に打ち出すことにしたのです」と説明する。  今回の「ミドル・シニア採用」は、各事業の部門から「経験者がほしい」という声が上がって大きな流れとなり、経営層でも同様の意見が出て、全社的に機運が高まったことにより実現に至った。創業以来、20代を中心に採用してきたが、経営の中核をになう中心メンバーのほとんどは2010年前後の入社であり、40代を迎えている。IT企業の成長ステージとしてこれまでは問題がなかったことも、今後の成長過程において直面するであろう経営課題を解決し、さらなる成長を推進していくうえでは、経験が不足しているのではないか、と懸念が高まっていたそうだ。  「現在、当社は成長フェーズ(段階)にありますが、その先は未経験。ベンチャー企業の立ち上げ期から成長期に入って行く一連のプロセスより、その後の安定期に入って行くまでを経験されてきたような人材が理想的です」(野溝課長)。  今回の採用は、50〜60代の経験豊富なスペシャリストに参画してもらい、会社の土台を固めると同時に、今後の成長を見すえて始まった取組みということだ。 採用基準は「オープンマインド」 こだわり過ぎない柔軟性を求める  ミドル・シニア採用における募集職種は、QAマネージャーおよびQAコンサルタント、RPAエンジニア、業務改善DXエンジニア、受託開発プロジェクトマネージャー(2024年4月末時点)と幅広い。さまざまな業種・業界からのプロジェクトが増加しており、各分野で開発・テスト業務などの経験を持っている人材の採用を目ざしている。  「単純に『エンジニア』を求めているということであれば、技術領域を見ればよいのですが、必要なのは、“作業をする人”ではなく、人を動かしたり、人を育てたりすることができる、マネジメント力を持った人材。プロジェクトマネジメントだけではなく、事業統括部門のマネジメントができる人材とあわせて、採用活動を行っています。そのほか、バックオフィス管理をになうコーポレート領域においても、専門知識を持つ人材がいれば採用したいと考えています」(野溝課長)  スキル面以外で期待する人物像については、「オープンマインド」がキーとなる。  「会社全体の採用基準として、オープンマインドであるかどうかを非常に大事にしています。さまざまな人の意見を受けとめ、受け入れられる気持ちを持っているかどうかがポイントです。私たちはもともとオープンマインドのメンバーが多く、それが社風にもなっており、大切にしている部分です。ただ、経験を重ねるごとに自身のこだわりが強くなったり、物事を決めつけてしまう傾向があったり、自分の尺度でしか物事をとらえられなかったりすることもあるので、ミドル・シニア採用にあたってその点を注意しています。自分の形に固執しない、若手の意見を受け入れる度量の広さなども期待したいポイントです」(野溝課長) スキルが高いミドル・シニアの能力に合わせ職務内容を見直す  ミドル・シニア採用は書類選考をして面接を行い、内定を出す。事業部長クラスの人材であれば、選考に役員が参加するが、基本的な選考過程は変わらない。各部門が求める人材のニーズに応じて、求人票に記載するスキル要件などを定めているが、期待以上の高いスキルを持つ人材からの応募もあり、採用後に職務内容を調整するケースも発生しているそうだ。求人票とまったく同じ仕事をしてもらうより、その人材がより力を発揮できる業務内容についてすり合わせを行い検討するため、通常の採用よりも、応募者本人や社内の各部門とのコミュニケーションの量が増え、結果的に選考に時間がかかることもあるそうだ。  あらかじめ用意していたポジション以上のスキルを持つ応募者に会うと、「こんなこともできる人材なのか」と期待が湧いてくると野溝課長は話す。また、「経験豊富でマネジメントもできるミドル・シニア人材は、業務内容だけではなく待遇も含めて、求人票の内容から見直しを行うケースが多いです。また、採用すれば既存メンバーの上長にあたるポジションになりますので、そのメンバーとの意見交換など社内調整も行う必要があり、通常の採用活動とは違うむずかしさがあります」という。  なお、ミドル・シニア採用の応募者からは、同社の65歳定年制について「まだこんなに働けるのですね」など好意的な感想が多く聞かれるそうだ。 ITシステムの豊かな経験知見を活かしたいミドル・シニアが入社  今回のミドル・シニア採用により、長年にわたりエンジニアとして活躍し、開発領域の経験がある2人の人材を採用している。2024年1月に入社したAさん(58歳)は、エンジニアとして一般企業で経験を積んだ後、独立して自ら会社を立ち上げ、さまざまな案件を手がけてきたが、最終的には一技術者として自分のキャリアを終えたいとの思いから応募。入社にあたっては、本人と会社で業務内容のすり合わせを行い、本人の意向を尊重したうえで職務内容を決定したそうだ。  「『自ら積んできた経験が活かせる』、『教えがいがあるメンバーが多くておもしろい』といって入社されました。事業部長クラスの能力があるので、本当はマネジメントを任せたいところでしたが、本人の強い希望で技術者としての採用となりました」(野溝課長)  Bさん(60歳)は全国有数の大手企業出身者である。事業部長などの管理職を経て、60歳の定年退職と同時に同社に入社した。  「当社には形を変えながら大きく成長させていきたいフェーズの既存事業があり、この事業について組織課題や事業課題を解決し、やり遂げる気概を持って入社されました」(野溝課長)  まだ入社して日が浅く、彼らがもたらす効果の検証はこれからになるが、豊富な経験を活かした積極的な展開に対する期待は高まる。  なお、現在同社には、創業時代から基盤システムの開発事業の中心的な役割をになってきた50代後半の人材もおり、現在は地方拠点長として活躍している。  「ミドル・シニア採用」と銘打って採用活動をスタートしたことで、当該世代の応募者は以前よりも確実に増加しており、引き続き同世代に向けた求人は続けていく方針だ。最後に野溝課長にミドル・シニア世代の人材への期待をうかがった。  「いまの日本のテクノロジーは、現在50〜60代の方々が中心となって活躍していたころの、おもにメーカーが取り組んで開発していたITシステムによって支えられています。その経験はかけがえのないものです。40代以下の世代にとっては、書籍などから知識として知っていたとしても、実際に体験したことのない、これからも経験することができないものです。テクノロジーは進化しており、技術力は若手も引けを取りません。一方で、まだまだ経験の浅い当社は、ビジネスに根ざした商慣習などに疎いところがあり、ミドル・シニア世代の人材には、そうした慣習を含めて伝授してもらうとともに、目ざすべき組織像を提示していただき、経験に基づいた“ちょうどよい塩梅”の立ち回り方などをアドバイスしていただきたいと思っています。  もちろん、ご自身がつちかってきた経験を発揮し、現役のエンジニアとして現場で活躍したいというミドル・シニア人材の方には、その経験を遺憾なく発揮できる環境を整えています。ご自身が描くキャリアビジョンを実現するための選択肢として、当社を選んでいただけるミドル・シニア人材の方を歓迎します」  同社にはもともと、多様性を受け入れる土壌を持った企業風土がある。そこにいままではいなかったミドル・シニア世代の人材を受け入れるのは、決して高いハードルではないだろう。次の成長段階に向けて、さらに厚みを増した体制でどう挑んでいくのかに注目したい。 ★「健康経営○R」はNPO法人健康経営研究会の登録商標です。 写真のキャプション 株式会社ProVision本社 CX部の野溝駿悟課長 ミドル・シニア採用にて入社したAさん 【P23-26】 事例2 品質保証部門に経験豊富なシニアを採用 データで課題を見える化し品質管理の精度が向上 日野精機株式会社(滋賀県蒲生(がもう)郡) 設計・成形・加工・塗装・組立まですべて自社生産するものづくり企業  1978(昭和53)年7月に創業した日野精機株式会社。スピーカーの部品づくりから事業をスタートし、現在では全国の鉄道踏切に設置されているスピーカーの約80%のシェアを誇っている。創業以来、「発想無限大」をキャッチフレーズに掲げ、スピーカー以外のものづくりにも挑戦を続け、スピーカー製造でつちかった技術を活かした音響機器のほか、産業機器、医療機器などの設計から成形・加工・塗装・組立までを手がけている。製品を構成する部品の大部分を自社内生産が可能な、国内では希有なメーカーだ。2020(令和2)年には、滋賀県野洲(やす)市に精密板金・塗装を主体とした新工場を立ち上げている。  そんな同社では、2019年に内閣府が行っている「プロフェッショナル人材事業」※を通じてシニア人材を採用した。その経緯について安藤(あんどう)泰己(やすき)取締役は次のように話す。  「当社は品質保証部門の管理者の育成ができておらず、品質不良の原因の分析や未然防止の徹底が十分とはいえない状況でした。そこで、大手企業などで品質管理の経験を持ち、その経験を当社で展開するとともに、若手社員の教育・育成をになえる人材を採用すべく、プロフェッショナル人材戦略拠点の提携人材紹介会社である株式会社リクルートキャリアコンサルティングに相談をしました」  会社が抱える課題を解決するため、経験豊富なシニア人材を採用する方針を固める一方で、シニア人材の場合、豊富な知識や経験があっても、若手の指導や育成に消極的で、「聞かれるまで教えない」という傍観者のようなスタンスの人材も少なくないことから、「能動的に自ら率先して動ける人材であることを重視していた」(安藤取締役)という。また、同社の品質保証部門は、女性社員が多い職場であり、年齢や性別に関係なくコミュニケーションがとれるかどうかも、採用のポイントだったそうだ。  そんななかで採用したシニア人材が金武(かねたけ)鶴松(つるまつ)さん(62歳)だ。「『仕事を続けるかぎり最後まで製造業にたずさわっていきたい』という強い思いがあり、非常にまじめで行動力も持ち合わせている、まさに私たちが求めている人物像にピッタリと当てはまる方でした」と、安藤取締役は採用当時の思いをふり返る。 大手機械メーカーを早期退職 地元に戻って再就職活動  金武さんは58歳のとき、当時勤めていた会社が工場を閉鎖することとなり退職を決意したという。その会社は60歳定年で、再雇用制度により希望すれば65歳まで働き続けることもできたが、もともと60歳の定年退職後は赴任先の石川県から地元の滋賀県にUターンして再就職先を探す心づもりがあったこと、役職定年で管理職から降りる予定だったことなどもあり、60歳定年前での退職を決めたそうだ。  金武さんのキャリアは、まさにものづくり一筋≠セ。2回の転職を経験しているが、いずれも電気機器メーカーで、その腕を磨いてきた。  大学卒業後に入社した会社は外資系企業の日本法人。滋賀県に所在する工場でエンジニアとして半導体の製造に従事した。約24年間勤務した後、国内有数の電気機器メーカーに転職。ここでは液晶の製造にたずさわった。その後、液晶ディスプレイメーカーに活躍の場を移し、管理職として約10年間液晶ディスプレイの製造工程において品質管理をになってきた。特に赴任した工場において、国際規格ISO9001取得にあたっては、金武さんが中心的な役割をにないその取得を実現した。金武さんは「この経験は多少なりとも自信になりました」と穏やかな口調で手応えを語ってくれた。  確固たるキャリアを積み上げてきた金武さんだが、再就職活動は決して簡単ではなかったとふり返る。  「58歳で退職し、いったん区切りがついたときは、晴れ晴れした気分で『これから先はなんでもできるぞ』と希望にあふれていました。もともとエンターテインメントが好きだったので『文化ホールのようなところで働くのもよいかな』とか、『医療分野で何か貢献できることはないか』など、いろいろな思いをめぐらせました。ところが、実際に再就職活動を行うにあたって、ハローワークやリクルート(プロフェッショナル人材戦略拠点の提携人材紹介会社)で就職先を探してみると、年齢的な部分で求人の間口が狭いということがわかり、『これはたいへんだぞ』と現実を突きつけられたわけです」  実際に再就職活動を行うなかで、金武さんのような経歴をもってしても、書類選考の段階で断られることもあり、自分より若い年齢の求職者と肩を並べて応募することのむずかしさを実感したという。そんななかで、工場見学ができるという会社がいくつかあり、実際に働く職場を見ておくことは非常に重要と考えていた金武さんは、何社か工場見学を行ったうえで、日野精機に強く興味を持ったそうだ。  「ものづくりにずっとたずさわってきたこともあり、やはりメーカーで働きたいという思いがありました。日野精機の強みの一つに、必要な部品を材料からつくる『ダイキャスト』という工程があり、その機械加工や精密板金加工、組立加工のラインまで持っているのです。『この会社は何でもつくれる』という魅力を感じました。また、面談の際に福田(ふくだ)弘(ひろし)社長から『発想無限大』をキャッチフレーズにしていることを聞き、その考えにも強く惹かれました。会社が求めていた『品質管理』についても、すでにISOも取得しており、その運用も含めて、これまでの経験を活かして貢献できると思いました」  金武さんのものづくり一筋のキャリアと品質管理業務の経験は、まさに同社が求めていた人材であり、「人柄もすばらしい」(安藤取締役)ことから採用が決まり、2019年12月付けで同社品質保証室に着任した。 品質管理と品質保証の責任者として不良数減少を実現  品質保証室の業務は、「品質管理」と「品質保証」の二本の柱からなる。品質管理は、生産した製品について、製品をつくるための材料の受け入れ検査、出荷時の検査など、製造にかかわる検査業務となる。一方の品質保証は、出荷した製品に不具合があった場合の顧客対応やISOの対応が中心となる。  金武さんが入社して一年ほど経ったころ、「ちょっとまずいな」と危機感を覚える事態が起こったという。同社では、社内・社外問わず不良としてあげられた製品をすべて帳票に記載し、その件数を出しているが、2019年の一年間で不良件数が約500件だったのに対し、2020年は770件と、200件ほど急増したのだ。新工場の稼働がその要因の一つと考えられるが、金武さんはそれ以外の大きな要因を感じたそうだ。  「2019年からの3年間は、『品質改善活動』を掲げて取り組んでいたのですが、改善というよりは現状把握にとどまっており、現場任せになっているようにも見えました。そんななかで不良が急増したデータが出たこともあり『非常にまずい』と感じたのです」  不良の急増を受け、同年から金武さんが責任者として品質保証室の室長に就任。責任者となった金武さんは、まず製造現場のそれぞれの工程のどこに弱点があるのかを明らかにしようと考えた。精密板金、機械加工、塗装、ダイキャストなど、各工程における不良の発生要因の洗い出しを行った。  「それぞれの工程において弱点がわかれば、各工程のなかで具体的にどの作業に着目して改善すればよいかがわかるようになります」(金武さん)  すると、2021年は前年から100件減、2022年にはさらに50件減と、不良件数が目に見えて減少した。しかも、当初掲げていた3年間の「品質改善活動」の対象ではなかった製品にも改善活動の幅を広げて取り組んだ結果だそうだ。  安藤取締役は金武さんの仕事ぶりについて、「入社後、社内の不良の発生原因や事象を数年間さかのぼって分析してもらい、それを社内に展開し、不良率の低下に大きく貢献してくれました。また、不良発生時のアクションも早く、取引先にすぐに駆けつけて対応するなど、品質保証担当者の心構えなども含めて、若手社員の見本となるなど、育成にも大きく貢献しています」と話す。  一方で、業務の拡張などにともない、2023年以降は不良発生件数が上昇傾向にあることが課題になっているという。金武さんは今後の対策・方針について次のように話す。  「発生率という意味では2022年の水準を維持できているのですが、業務の拡張などにより発生件数は増加傾向にあります。年間の発生件数を示して改善をうながすだけではなく、例えば月・週ごとなど短い期間でとらえて、『4件↓2件↓0件』と改善状況が目に見えてわかると、作業者も成果を実感しやすいと思います。このようにデータの表し方を工夫して、最終的にはゼロにしたいです」  目標は不良の件数を目に見えて減らし、作業者に起因する不良をなくし、不良ゼロを達成すること。しかし、課題にはさまざまな要素が折り重なっているという。業務拡張だけではなく人の入れ替わりなどが要因となることもあり、そこがむずかしいところだという。教育・育成担当者とも連携しながら、不良ゼロに向けた取組みを推進していく考えだ。 大手企業から中小企業へ転職するうえで大切なこと  これまでの経験を活かし、新たな責任と役割をになっている金武さんだが、転職してきたシニア人材≠ニして、働くうえで気をつけていることや注意していることはあるのだろうか。例えば、大手企業出身のシニア人材が再就職先として中小企業を選び、そこで過去の実績をひけらかしたり、「前の会社はこうだった」などの価値観を押しつけて、周囲から反感を買うといったケースを耳にすることも多い。  「やはりその点には気をつけています。過去は過去のもので、それをそのままいまの会社に持ってきてもまったく役には立たないでしょう。それよりも、いまの現実を、いまいる社員のみなさんに対してデータで示して、どうすればよいかを一緒に考えていくことが重要だと考えて、入社以来仕事に臨んできました」(金武さん)  また、大手企業在籍時は、任される役割がはっきりしており、与えられた目の前の業務に取り組んでいればよかったが、いまはより広い範囲を見ながら仕事をしているという。  「やるべきことがたくさんあるので、たいへんではありますが、いろいろなことが勉強になりますし、それがやりがいでもあります。改善に向けてデータとともに示す私の意見に、会社も耳を傾けてくれますし、さまざまな部署がかかわりながら行うものづくりの現場は、興味深くおもしろいですね」(金武さん) シニア世代の再就職は  小さいころから機械など細かいものが組み合わさったものが好きで、いろいろとものをバラして遊んでいたという金武さん。中学校に上がるとトランジスタラジオを自分で組み立てるなど、そのころから電気機器に興味を持って、ものをつくるおもしろさに魅了され、それがいまも続いているのだそうだ。シニアが再就職をするうえでの心構えについてうかがった。  「一口にシニア≠ニいってもさまざまな方がいて、私のようにものづくりが好きな方もいれば、会社自体の仕組みをつくっていくことが好きだという方、あるいは人を育てることが好きだという方もいるでしょう。やはり最終的には、自分が好きなこと≠目ざすのがよいのではないでしょうか。それがモチベーションを維持して働くうえでの最善の道だと思います。再就職を考えて自分の好きなこと、得意なことをぜひ突きつめてほしいと思います。再就職は本当にご縁だと思います。ただ、何もせずに待っているだけでよいということではなく、自分から積極的に動いて、そのなかで得られたご縁を大切にしていくのが重要だと思います。私は本当にこの会社に入ってよかったなと思っています」(金武さん)  最後に、安藤取締役は「弊社は60歳定年ですが、金武さんは58歳で入社し、現在62歳。立場は再雇用の嘱託社員ですが、定年前の待遇のまま品質保証室室長として活躍しています。本人の体力の許すかぎり勤めていただけたらと思っています」と話し、金武さんの今後の活躍に大きな期待を示した。 ※ 内閣府事業 プロフェッショナル人材事業 https://www.pro-jinzai.go.jp 写真のキャプション 安藤泰己取締役 品質保証室室長の金武鶴松さん