新連載 シニア社員を活かすための面談入門 株式会社パーソル総合研究所 組織力強化事業本部 株式会社パーソル総合研究所 組織力強化事業本部 キャリア開発部 小室(こむろ)銘子(めいこ)  長年の職業人生のなかでつちかってきた豊富な経験や知見を持つシニア社員。その武器を活かし、会社の戦力として活躍してもらうために重要となるのが「面談」です。仕事内容や役割、立場が変化していくなかで、シニア社員のやる気を引き出し、活き活きと働いてもらうための面談のポイントについて、人と組織に関するさまざまな調査・研究を行っているパーソル総合研究所が解説します。 第1回 シニアとの面談とは? シニア面談の目的・効果について はじめに  2021(令和3)年4月の改正高年齢者雇用安定法の施行により、シニアの就業率は過去10年間で大幅に上昇しています※。  株式会社パーソル総合研究所が、シニア人材に関して企業がどのような課題を抱えているかを調査した結果、最も頻繁にあげられた課題は「モチベーションの低さ」、「パフォーマンスの低さ」、「マネジメントの困難さ」でした。しかしながら、人手不足の問題が深刻化するなかで、シニア社員が長年つちかってきた経験と知識を活かし、さらに長く活躍してもらうことが、企業とシニア社員本人の双方にとって利益となるでしょう。  そこで、シニア社員の力を最大限に引き出すために、「面談」という機会を活用するポイントを今回から6回シリーズで紹介していきます。 シニア社員との面談とは?  まず、シニア社員との面談には、どのようなものがあるでしょうか。定年前後の時期には、定年前面談や定年後再雇用面談があります。定年後再雇用以降には、契約期間前に行われる契約更新の確認面談もあります。また、シニア社員にかぎらず行われる面談として、目標面談、評価フィードバック面談、キャリア面談、1on1などがあります。会社によって面談のタイミングはさまざまだと思いますが、定年後のシニア社員に対してはあまり面談を実施していないという話も聞かれます。これは、管理職が自分よりも大先輩のシニア社員に対して面談を行うことに遠慮する気持ちや、役割や評価などの方針が明確に決まっていないために避けているケースもあるようです。しかし、次項で紹介するようにシニア社員との面談にはさまざまな効果があるので、有効に活用していただきたいと思います。 シニア社員との面談の目的・効果  次に、「面談」の目的について考えてみましょう。 「面談」とは、互いの気持ちや人柄を知るために行われる会話の機会です。面談の目的は、互いの考えや思いを共有し、認識のずれを修正し、共通の理解を築くことです。シニア社員との面談では、特に定年を機に役割や期待が変わることや、本人の働き方の希望が変わることなどを確認し合うことが重要です。しっかりと意思疎通を図ることで相互理解が深まり、信頼関係が築かれます。シニア社員にとっては、期待される役割が明確になり、モチベーションが高まり、取り組むことが明確化されます。また、キャリア目標や成長のための計画を共有し、支援を受けることができるなどの効果が考えられます。組織側にとっては、パフォーマンスの向上や経験や知識の共有、組織全体の活性化などの効果が期待できます。 躍進して働いている60代の傾向  シニア社員のパフォーマンスについて、「定年後再雇用において躍進している60代にはどのような特徴があるのか」を分析しました。その結果、仕事観・キャリア意識において共通する傾向として、@「社会の役に立つ仕事をしている」、A「今の仕事で成長を実感している」、B「自分のやり方で仕事をしている」、C「組織に影響力を発揮できている」の4点が明らかになりました(図表1)。特に注目すべきは、2番目にあげられた「仕事を通じた成長実感」です。定年後再雇用のシニア社員については、これまでつちかってきた知識やスキルをどのように活かすかや、世代間の知識の継承に焦点があてられがちですが、実際には躍進するための鍵は専門的な能力を発揮≠キることよりも、さらなる成長≠ノあることが示唆されています。  シニア社員との面談では、今後も成長する個人≠ニして、希望や目標を確認し、仕事を通じた成長機会を共有することが有効です。そして、そのやり方については、シニア社員の意向を尊重し、組織への影響を期待しながら伝えることが大切です。 定年前面談の重要性  定年後のさらなる躍進に向けて、定年前面談や定年後再雇用面談は非常に重要です。しかし、最近では定年後再雇用があたり前のようになり、定年前面談が単なる就業継続の希望確認にとどまるケースもあります。調査結果では、図表2に示されているように、「定年後再雇用に備えた事前準備」についてたずねたところ、全体の約4割が「備えとして行っていたことは特にない」と答えていました。前項でも見てきたように定年後も躍進してもらうために、今後のキャリアをどう考えているのか、選択肢はどのようなものがあるのか、会社としてはどのような期待があるのかなどを提示しながら話合いを行うことは非常に重要です。シニア社員の思いをよく聴き、早めに準備行動に移すことは、組織とシニア社員の両方にとって有益な結果となるでしょう。冒頭で紹介した企業の課題「モチベーションの低さ」、「パフォーマンスの低さ」への解決にも有効であると考えられます。 ※ 総務省統計局「労働力調査(基本集計)2022年(令和4年)平均結果」 図表1 60代の躍進行動に影響を与える要因 60代の躍進行動 + 社会貢献・社会的意義 + 仕事による成長実感 + 自己効力感(自分のやり方でできる) + 組織内影響力発揮の見通し 出典:パーソル総合研究所・法政大学大学院石山研究室「ミドル・シニアの躍進実態調査」(2017年) 図表2 定年後再雇用に備えた事前準備 〈仕事の意識転換〉〈家族と話し合い〉〈職場メンバーとの良好な人間関係構築〉→7割がしていない 仕事に対する考え方を変えていた30.3% 定年後の過ごし方について家族と話し合った 29.7% 職場メンバーと、良好な人間関係を築けるよう心掛けていた28.3% 専門性を深める・広げる2割程度 専門性を深めるために努力していた20.3% 仕事のやり方を見直していた19.7% 専門性を広げるために努力していた19.3% 定年後の具体的な業務を計画していた16.3% 定年後の具体的なキャリアプランを計画していた14.3% 人脈を広げるよう努めた13.3% 定年後については極力考えないようにしていた13.3% 社外での活動に取り組んだ10.0% 転職に向けて準備していた9.7% 副収入を得るために副業をしていた6.0% 起業に向けて準備していた3.7% 4割弱が何もしていない 備えとして行っていたことは特にない36.7% 出典:パーソル総合研究所・法政大学大学院 石山研究室「ミドル・シニアの躍進実態調査」(2017年)